外洋棲ウミアメンボ類の低温耐性についての個体群間比較 〇原田哲夫・馬本典交・古木隆寛・中城満・関本岳朗(高知大・院・環境生理) 片桐千仭(東京電気大)・Vladimir Koštál (Czech Academy of Sciences) 太平洋上に生息する 3 種の外洋棲ウミアメンボ(ツヤウミアメンボ [ツヤ]: Halobates micans; セ ンタウミアメンボ [センタ]: H. germanus; コガタウミアメンボ [コガタ]:H. sericeus) のうち、コガ タは北緯 40 度や南緯 38 度の高緯度海域にまで広がり、センタは北緯 20 度や南緯 20 度の緯度範囲の 陸域に近い外洋に主に生息し、ツヤは赤道を中心に南北 15 度の緯度範囲に 3 大洋全てに生息する (Andersen & Cheng, 2004)。広い緯度に分布するコガタは他の 2 種より高温側への温度変化に強い (Harada et al., 2011)。また陸水の影響を受けるためか、センタは低塩分耐性が高い(Sekimoto et al., unpublished)。本研究では、海洋地球研究船「みらい」(MR13-03, 2013 年 6 月, 採集点: 24ºN, 138ºE; MR14-06-Leg 2, 2014 年 12 月-2015 年 1 月, 採集点: 5ºN-5ºS, 156ºE) 及び学術研究船「白鳳丸」(KH-14-02, 2014 年 6 月, 採集点: 25ºN, 160ºE) による航海で採取した外洋棲ウミアメンボ 3 種の低温耐性能を個体 群間で比較した。低温耐性能は低温麻痺実験(低温恒温水槽使用)によって測定された。生息場所海 面水温(約 30℃)から、15 分毎に 1℃ずつ水温を下げ、低温麻痺(体幹が水面に接着するか、水面上 での姿勢保持が崩れた状態)を起こした時点で水槽から引き揚げ、続いて過冷却点をデジタル温度計 と冷凍庫(-35℃)を使用して測定した。 東経 138 度のコガタ個体群 (低温麻痺温度: 17.5 ± 1.9℃ (49) [Mean ± SD (n)]) は、ほぼ同季節同緯度 で東経 160 度のコガタ個体群 (19.0 ± 3.4℃ (79) [Mean ± SD])より、有意に低温耐性能が高く(p=0.018)、 低温麻痺実験直後に測定した過冷却点[東経 138 度: -14.8 ± 2.8 ℃ (49); 東経 160 度: -14.0 ± 2.5 (78) ]も低 い傾向にあった (p = 0.146)。 同時期同緯度での、上記のような経度による差は、東経 138 度の個体群 が海流(黒潮)に近いことと関係している可能性がある。 5ºN-5ºS のセンタとツヤの個体群 (センタ:低温麻痺温度 11.7 ± 3.3℃ [54] [Mean ± SD]; ツヤ:14.3 ± 4.3℃ [8]) は、12ºN の両種個体群 (センタ:17.9 ± 1.8℃ [35]; ツヤ:19.8 ± 1.7℃ [19];) より、はるかに 低温耐性能が高かった(p<0.001)。5ºN-5ºS 個体群が非常に高い低温耐性を示した理由は不明であるが、 より島嶼部に近く、陸水の影響を受け易いことや 12 月-1 月の 5ºN-5ºS 海域で見られる活発な雲の発生 と関係があるのかもしれない。
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