農山漁村の多面的機能に関する整理

3.農山漁村の多面的機能に関する整理
「2.農山漁村の多面的機能の定量的な調査・分析」では、日本学術会議における答申以外も含めて
考えられる新たな多面的機能の定量的な分析、及び、それを具体的に表す事例収集を行った。
この結果、及び委員会における各委員から寄せられた意見を踏まえ、日本学術会議における答申を含
め、農山漁村の有する多面的機能について、以下に整理する。
(1)日本学術会議における答申以外で考えられる新たな多面的機能の仮説に関する検証方法
①農山漁村の有する多面的機能の有効性の検証方法
本調査にあっては、日本学術会議における答申以外で考えられる、例えば、調査名にもあるように、
農山漁村の人材の育成面や、都市等への人材輩出面といった新たな多面的機能を仮説として抽出し、
その有効性を、定量的、定性的な分析を踏まえ、検証することにある。
以下に、「2.農山漁村の多面的機能の定量的な調査・分析」で調査・分析した結果を踏まえ、新
たな多面的機能としての有効性を分析するとともに、これを踏まえ、第 4 章につながる農山漁村の有
する多面的機能を国民に周知すべき内容についても考察する。
②農山漁村の有する多面的機能の国民への周知の方法
本調査では、日本学術会議における答申を含めて、農山漁村の有する多面的機能について、
(1)
∼(15)の機能に整理した。しかし、これら多面的機能の国民への周知にあっては、例えば、
「人
材輩出(労働力)」という表現にあっては違和感がある。
「農山漁村では・・・な人が多い」
「農山漁村
に来れば、・・・になります」といった、具体的なイメージが湧きやすい表現の方が望ましい。
また、本調査では、農山漁村の定義について、農業地域類型区分で定量的な分析等を行っている。
しかし、農業地域類型区分では、特に漁村の機能について表現しにくい。本調査で抽出した農山漁
村の有する多面的機能にあっては、漁村地域にのみに該当する内容も含まれることから、農村、山
村、漁村と分けた機能を示すことも必要である。
さらには、定量的でない、「空気が美味しい」といった精神的・文化的価値についてや、詳細の
分析のみでなく、「海岸線・・・㎞に漁村が・・・個ある」といった数値的な情報を示す方が、国民(都
市住民)は分かりやすい。
57
(2)農山漁村の多面的機能に関する整理
機能(大項目) 機能(小項目)
分析結果
国民に周知すべき内容
間伐を行うことによる水源涵養
間伐を行うといった行為が、防
う公共財産に
機能向上が、土砂崩壊等の山地
災機能や森林の有する公益的機
関する機能
災害の減少につながることが、
能の向上につながっていること
研究成果によって明らかになっ
を周知することが有効である。
(1)環境とい
1)防災機能
ている。
2)森林の公益
間伐を行うことによる森林バイ
的機能の向上
オマス成長量の増加や生物多様
性との関連が、研究成果によっ
て明らかになっている。
3)気温上昇緩
水田の存在が、周辺市街地の気
水田を維持するとする行為が、
和機能
温上昇の抑制につながっている
周辺市街地の気温上昇の抑制に
ことが、研究成果によって明ら
つながっていることを周知する
かになっている。
ことが有効である。
4)水路網によ
水路網による農地への安定的な
水路網による農地への安定的な
る農地への安定
水供給が、国民の食生活と直結
水供給が、国民の食生活と直結
的な水供給
していることが、研究成果によ
していること、及び、壮大な水
って明らかになっている。
路網が構築されていることを周
知することが有効である。
(2)保健・レ
1)二地域居住
都市住民の農山漁村地域への二
各種アンケート結果を用いて、
クリエーショ
や農山漁村への
地域居住者定住の願望の高さ
農山漁村地域や農業等の体験の
ン機能
定住ニーズの高
が、アンケート調査から明らか
都市住民への効果を周知するこ
まり
になっている。
とが有効である。
2)農業体験に
都市住民が農業体験を行うこと
よる効果
によって、考え方や生活への
様々な変化が見られることが、
アンケート調査から明らかにな
っている。
(3)生物多様性保全機能
(4)文化機能(教育機能)
生物多様性と食料・農業・農村
生物と農山漁村との関連性を、
の関係が、研究成果によって明
身近な例や図等を使って周知す
らかになっている。
ることが有効である。
自然体験が、児童(子ども)の
自然体験が、どのような効果を
教育(コミュニケーション能力、 及ぼすのかを具体的に提示、ま
規範意識、創造力、人間性)に
た、具体の取組事例を示すこと
つながることが、アンケート調
が有効である。
査から明らかになっている。
58
機能(大項目) 機能(小項目)
(5)豊かな自然環境形成機能
分析結果
国民に周知すべき内容
森林・藻場・干潟・河川・湖沼
農山漁村があることで、おいし
といった農山漁村地域が有する
い水や空気が提供できていると
自然環境が保たれていること
いう関連性を示すことが有効で
が、水や空気のおいしさにつな
ある。
がるといったことが科学的に検
証されている。
(6)海の安
1)漁村・漁業
海の安全性の確保に向けて、漁
日本の海岸線の延長が非常に長
全・安心の提供
者による巨大な
業者が多くの役割を担っている
いこと、その海岸線を漁村、漁
安心・監視ネッ
ことが、統計的に明らかになっ
船、漁業者が守っていること自
トワーク
ている。
体を周知することが有効であ
る。
(7)排他的経
1)国境、領土
離島の役割、とりわけ有人離島
我が国の経済水域、大陸棚とい
済水域、国境を
や領海、経済水
の役割に着目して、その離島住
った情報そのものを国民に周知
守る機能
域、大陸棚の確
民が国境監視を行っていること
することが有効である。
保
が、統計的に明らかになってい
2)離島住民に
る。
よる国境監視
(8)人口・人
1)都市の農山
農山漁村から都市へ人口移動が
人口・人材育成面で、農山漁村
材育成面での
漁村の人口移動
なされている傾向は見ることが
が貢献しているとは言いがた
貢献機能
傾向
できるが、農山漁村地域が優良
い。
2)都市圏にお
な人材を育成しているというこ
⇒農山漁村の有する多面的機能
ける地方出身者
と、安価な養育費で人材育成を
の経済的貢献
行っているとは言いがたい。
3)出身地別東
東大合格者が有能な人材と仮定
京大学合格者数
しても、農山漁村がこれら人材
とは言い切れない。
を多く輩出しているとは、経年
的にも見られない。
4)社長の輩出
社長が有能な人材と仮定して
数・輩出率
も、輩出率では四国・北陸とい
った地方が高いものの、これら
人材を都市に輩出しているとは
言いがたい。
(9)雇用調整・就業の場の提供
林業や農業を中心に、都市部の
どれくらいの人が転職して林業
機能
若い世代を中心に、転職して、
などに従事しているかを、具体
農山漁村地域に定住するといっ
的な数値などを用いて表すこと
た傾向が、見られる。
が有効である。
59
機能(大項目) 機能(小項目)
分析結果
国民に周知すべき内容
(10)人口維持
1)市町村別合
南日本の離島地域では出生率が
離島で高いということ、また、
機能
計特殊出生率
高いということがいうことがで
事例を挙げて高い出生率の背景
2)高い出生率
きるが、農山漁村全般で高いと
を述べることは有効である。
の背景
いうことはいえない。
(11)健康増進
1)高齢者 1 人
農山漁村地域の高齢者 1 人当り
農山漁村が有する健康増進機能
機能
当りの医療費
の医療費が低いことは、統計的
については、定量的データや事
に明らかになっている。
例を用いて周知することが有効
2)森林、農業
森林セラピーや園芸療法など、
である。
による癒しの効
医学的に、森林、農業が健康増
果
進に効果的であることが立証さ
れている。
(12)起業・男
1)農山漁村の
近年、農山漁村では、直売所や
事例を中心に、農山漁村が起業
女共同参画
資源を活用した
新たなビジネスの創出などが盛
しやすい環境にあること、その
ビジネスの創出
んに行われてことが、事例から
起業にあっては、UIJ ターン者
明らかになっている。
が多く関わっていることを周知
2)UIJ ターン
特に、従来から農山漁村にいる
することが有効である。
者によるビジネ
人ではなく、都市住民もしくは
ス創出
都市からの U ターンをしてきた
人材が、ビジネス創出に大きく
寄与していることが、事例から
明らかになっている。
(13)日本の魅
1)訪日外国人
訪日外国人観光客の増加してい
実態としては、外国人が農山漁
力を構成する
観光客の増加
ることは明らかであるが、農山
村地域に来訪している、期待し
漁村地域に来訪しているかは不
ているとは言いがたいが、今後
明である。
のポテンシャルとしてはあると
2)外国人観光
外国人観光客が訪日に対して期
考えられるため、ポテンシャル
客の日本への期
待している「食事」「温泉」「自
を有しているということを周知
待
然景観」などに事項ついて、農
することが有効である。
機能
山漁村が有しているであろうと
いうことが推察できる。
(14)自然から
1)自然エネル
農山漁村地域それぞれにおい
どのような自然エネルギーがい
エネルギー・有
ギー生産機能
て、エネルギーの種別は異なる
かなる農山漁村地域で、利用可
効な成分を生
ものの、自然エネルギーの利用
能かについて、周知することが
産する機能
可能性が高いことが、各種研究
有効である。
成果によって明らかになってい
る。
60
機能(大項目) 機能(小項目)
分析結果
国民に周知すべき内容
2)農作物由来
農山漁村地域で収穫された農林
農作物由来の新素材生成につい
の新素材生成機
水産物の機能を活用して、新た
て事例を
能
な素材生成につながっているこ
とが、事例から明らかになって
いる。
(15)郷土愛を
1)郷土愛を育
日本人が誇りと思うもの(「美し
育む機能
む機能(アイデ
い自然」「長い歴史と伝統」「す
ンティティの形
ぐれた文化や遺産」)の多くが、
成機能)
農山漁村地域に継承されている
のではないかと推察はできる。
2)平成百景に
様々な機関が、「○○百景」など
農山漁村で生業が営まれるこ
見る農山漁村の
を選定している中に、農山漁村
と、また、人の手が加えられる
風景
が有する風景が多く含まれてい
ことによって、自然景観や文化
ることが、事例などから明らか
的景観が守られていることを示
になっている。
すことが有効である。
3)民俗文化財
生業や暮らしとかかわりの深い
いかなる地域で、いかなる無形
の所在地
無形文化財が農山漁村地域に多
文化財、郷土料理が残っている
く残っていることが、明らかに
かについて、定量的データを用
なっている。
いて示すことが有効である。
4)農山漁村の
我が国の食文化の基礎となる郷
郷土料理
土料理の多くが、農山漁村地域
に数多く残っていることが、事
例などから明らかになってい
る。
61
■本調査で整理する農山漁村が有する多面的機能の抽出と収集データ・事例等
農山漁村の多面的機能
農山漁村の多面的機能
(既存の表現)
(本調査で新たに表記する表現)
現況データ
収集データ
(効果を示す調査結果、分析結果)
効果を具体的に表す事例
適用
・農山漁村の本来的機能で
1:食料の安全・安定的供給、
−
−
−
−
あるため、多面的機能か
らは削除
1.間伐林や田んぼが、自然災害から
私たちのくらしを守ります
・森林、棚田の保水力
農・山
2.人の手を加えることで、森林のも
2:環境という公共財産に貢献
する機能
国土を潤しています
4.水田は自然のクーラーとして機能
し、気候を緩和します。
農・山・漁
3・7:地域社会を形成・維持
する機能、保健・レクリエーシ
ョン機能
農・山
4:生物多様性保全機能
5・6:地球環境保全機能、快
適環境保全機能
−
・間伐による森林バイオマス成長量の推移
つ公益的機能が向上します
3.農民が築いた水路ネットワークが
−
・田んぼ面積
−
・間伐による生物多様性向上の効果
・水路の総延長
・農村資源管理の 20 年後(福与先生資料)
−
・水田地帯と市街地の気 ・東北農政局 農村計画部資源課「農業が有する
温変化
−
−
−
多面的機能に関する調査」
・農村地域への二地域居住及び定住願望(内閣
5.訪れる人を癒し、成長する場を提
供します
−
府調査)
−
・農業体験農園の取組実態と評価に関する調査
−
(東京都農業会議)
6.生物の多様な成長を育む環境を形
成しています
○地球環境を保全します
−
・生物多様性と食糧・農業・農村の関係(農林
水産省作成資料)
−
・NPO農と自然の研究所(福岡県二
−
丈町)
−
−
−
・自然体験が多いと正義感・道徳観のある子ど
農・山・漁
もが多い(H17 独立法人国立青少年教育振興
8:文化機能(教育機能)
7.子どもたちの健全な育成を促進し
ます
機構「青少年の自然体験活動等に関する実態
−
調査」)
・自然に触れる体験をした後、勉強に対してや
・森のようちえん まるたんぼう(鳥取
−
県智頭町)
る気がでる子どもが増える(H14 文部科学省
委託研究「学習に関する調査研究」
)
山
・農山漁村の本来的機能で
9:物質生産機能
−
−
−
−
あるため、多面的機能か
らは削除
漁
・農山漁村の本来的機能で
10:水産物の安全・安定的供給
−
−
−
−
あるため、多面的機能か
らは削除
62
農・山・
漁
11:豊かな自然環境の形成
漁
12:海の安全・安心の提供
16:排他的経済水域、国境を守
る機能
8.豊かな自然環境がおいしい水や空
−
気を作ります。
−
海域の監視を行っています。
が守っています。
−
−
−
・12:海の安全・安心の提供、
・海難事故における救助実績(海上保安統計年
9.漁村・漁業者が海の安全を守り、
10.日本の領土の多くを、離島の住民
−
報)・・・海上保安庁よりも漁業者の救助実績が
16:排他的経済水域、国境
多い
・海岸線延長、漁村集落
−
数、漁船数
・国境監視の実態(長野委員長からの
資料提供)
13-1:人口・人材育成面的貢献
機能(人材の輩出)
−
13-2:人口・人材育成面的貢献
・都市と農山漁村の人口
移動傾向
供
13-4:人口維持機能(出生率な
ど)
13-5:健康増進機能
11.農山漁村が自然志向の若者の職場
−
・出身地別東京大学合格者数
として機能しています。
・新規林業就業者数の推
機能としては違和感があ
る
−
移(林野庁資料)
12.農山漁村は子どもを生みやすい、 ・出生率上位 20 位の市町
育てやすい環境にあります。
−
村
13.いつまでも健康に暮らし続けられ
・老人 1 人当りの医療費(都市部と比べて医療
費が安い)
る環境です。
農・山・漁
13-6:起業、男女共同参画
14.新しいビジネスの機会を創出しま
−
−
・子どもに関する海外からの評価
・森林セラピー
−
・はっぱビジネス(徳島県上勝町)
−
数)
・JA沢田(群馬県中之条町)
・UIJ ターン者によるビジネスの事例
・中国地域の中山間地域
す。
−
−
・園芸療法
・農産物直売所(セブン
イレブンよりも多い
まとめて整理。
・農山漁村の有する多面的
・都市圏における地方出身者の経済的貢献
機能(労働力の輩出)
13-3:雇用調整・就業の場の提
を守る機能については、
・社長の輩出数・輩出率
てあげるのは難しい(家
族協定の事例を挙げるの
は可)
地域産業担
い手たちの挑戦
・農林水産省
・男女共同参画を機能とし
山村振興事例集
−
・ソーシャルビジネス 55 選
14:日本の魅力を構成する機能
15.国内外から多くの人を惹きつける
資源を有しています。
16.持続可能な暮らしの実現します
−
−
15:自然からのエネルギー・有
効な成分を生産する機能
17.美容・健康など生活を豊かにする
製品を生み出します。
17:郷土愛を育む機能
18.日本の魅力を形成し、日本人の郷
土愛を育みます
・外国人観光客の日本への期待(JNTO訪日
−
外客訪問地調査 2009)
・地域区分別の熱量及び発熱量(木質、農業、
畜産)
・万博記念公園「森の足湯」
・栃木植物園大柿花山(栃木県都賀町)
−
・ライスパワープロジェクト
−
−
−
・大豆油インキ
・なまこ石鹸、くろなまこシャンプー
・「日本の誇り」に関する国民意識
−
・農山漁村の郷土料理
・民俗文化財が多く所在
63
−
−
64
65
66
67
68
69
70
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73
74
75
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