3.2.4 経済効果分析を行う上での課題整理及び試算

3.2.4 経済効果分析を行う上での課題整理及び試算
(1) 基本的な考え方
1) 検討の趣旨
気候変動の影響による土地改良施設の適応策の 1 つとして、施設の補修や改修が考えられる。今
後、事業計画上の耐用年数が残っているにも関わらず、気候変動の影響で補修・改修せざるを得な
い施設が出てくるものと考えられる。土地改良事業により施設を整備する場合には、経済効果分析
が重要になってくる。施設整備を検討する排水不良地区等を対象に、下図のような趣旨で経済効果
分析を行うに当っての課題を整理する。
目 的
計画上の耐用年数が残っているが、気候変動の影響
を受け、施設改修する場合の経済効果分析
事業なかりせば
(事業を実施しなかった場合)
事業ありせば
(事業を実施した場合)
施設は現況のまま
施設は補修・改修
(気候変動には対応していない)
(気候変動に対応)
やがて耐用年数が過ぎ機能喪失
図 3-21 検討の概念図
2) 適用する基準等
土地改良事業を取り巻く情勢の変化や政策効果の適切な把握等に対応し、「土地改良事業の費用
対効果分析に関する基本方針の制定について」
(平成 19 年 3 月 28 日)及び「土地改良事業の費用
対効果分析マニュアルの制定について」(平成 19 年 3 月 28 日)が通知された。通常、事業効果算
定に当っては、これらの通知に基づいた「新たな土地改良の効果算定マニュアル」
(平成 19 年 9 月
18 日)(以下、効果算定マニュアル)が用いられている。本検討においても効果算定マニュアルに
基づく。
3) 整備の捉え方
効果算定マニュアルでは、整備を以下の通り分類しそれぞれ効果の捉え方が異なる。
気候変動の影響を受けて排水流量が増加し被害が発生している将来の時点にたって整備を捉え
ると、それを解消するために整備を行うため、ここでは防災整備として整理する。
3-75
・新設整備
:受益地域内の農用地の農業生産性の更なる向上に関する整備
・再建設整備
:受益地域内の農用地の農業生産性の維持に関する整備
・更新整備
:受益地域内の農用地の農業生産性の維持と更なる向上を組み合わせた整備
・防災整備
:災害復旧又は農地の保全のために必要な整備
〔効果算定マニュアルでの記述〕
(出典:「効果算定マニュアル」p.39)
3-76
〔防災整備について〕
防災整備(事業)は、社会・自然条件の変化に伴う要因から必要とされるものである。地球温暖化
の影響による排水量増加は、流域の都市化による排水量増加と同様に捉えることができる。
(出典:「農業農村整備事業計画作成便覧」p.325)
3-77
(2) 対象モデル地区の選定
1) 候補地区の選定
①
選定手順
気候変動の影響を受ける排水不良地区及び土壌侵食地区を対象に、代表的な 1 地区(モデル地区)
において経済分析を行う上での課題を整理するとともに、経済効果を試算する。モデル地区は以下
の手順で、まず候補地区を選定し、候補地区の中からモデル地区を選定する。
モデル地区(30地区程度)
条件
1.事業の種類
2.採択年度
H19年以前
新規採択
H20年以降
新規採択
排水不良地区
土壌侵食地区
H19年以前
新規採択
H20年以降
新規採択
乾燥化地区
候補地区 → 1地区選定
図 3-22 検討対象候補地区の選定フロー
選定の条件としては、1.事業の種類、2.採択年度がある。
1.事業の種類
対象事業地区は、乾燥化地区(畑地かんがい)を除く、排水不良地区(20 地区程度)、土壌侵
食地区(5 地区程度)となる。
2.採択年度
平成 19 年 3 月に「土地改良事業の費用対効果分析に関する基本方針」が通知され、従来の新
規事業を想定した経済効果分析手法から更新事業に対応した手法へ大きく変更になった。この基
本方針に基づいた具体的な算定手法を示した「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(以下、
効果算定マニュアル)が平成 19 年 9 月に発行された。新たな手法にて経済効果分析が行われた
のは、平成 20 年度以降に新規採択された地区である。このため、平成 20 年度以降の新規採択地
区を対象とする。
②
選定結果
上記手順に基づき候補地区を選定した結果は、下表に示す通り、排水不良地区 3 地区、土壌侵食
地区 3 地区である。これらの中から、モデル地区を選定することになる。
3-78
表 3-39 候補地区一覧
番号
地区名
事業名
採択年
1
2
3
3
4
5
D-a
D-o
D-s
S-a
S-b
S-c
経営体育成基盤整備事業(面的集約)
経営体育成基盤整備事業
地域水田農業支援排水対策特別事業
県営農地保全整備事業
県営農地保全整備事業
県営農地保全整備事業(シラス対策)
H21
H22
H20
H21
H20
H21
<参考:モデル地区一覧>
表 3-40 モデル地区一覧
1. 排水不良(湿潤化)地区
番号
地区名
事業名
採択
年度
1
D-a
経営体育成基盤整備事業(面的集積)
H21
2
D-b
経営体育成基盤整備事業
H17
3
D-c
県営かんがい排水事業
H16
4
D-d
県営かんがい排水事業
H12
5
D-e
水田営農活性化排水対策特別事業
H5
6
D-f
県営かんがい排水事業
H6
7
D-g
県営水田営農活性化排水対策特別事業
H6
8
D-h
県営経営体育成基盤整備事業(ほ場整備型)
-
9
D-i
県営土地改良総合整備事業
H7
10
D-j
農村活性化住環境整備事業
H5
11
D-k
県営ほ場整備事業(一般)
H3
12
D-l
県営土地改良事業計画
H12
13
D-m
地域水田農業支援排水対策特別事業
H18
14
D-n
経営体育成基盤整備事業
H16
15
D-o
経営体育成基盤整備事業
H22
16
D-p
県営ほ場整備事業(担い手育成型)
H10
17
D-q
経営体育成整備事業
H16
18
D-r
経営体育成基盤整備事業
H8
19
D-s
地域水田農業支援排水対策特別事業
H20
20
D-t
経営体育成基盤事業
H18
2. 土壌侵食(流出)関連地区
番号
地区名
事業名
採択
年度
1
S-a
県営農地保全整備事業
H21
2
S-b
県営農地保全整備事業
H20
3
S-c
県営農地保全整備事業(シラス対策)
H21
4
S-d
県営水質保全対策事業
H11
5
S-e
県営水質保全対策事業
H8
3-79
2) モデル地区の選定
①
選定手順
候補地区の中から、気候変動の影響、発現する効果項目を踏まえ、下図の通りモデル地区(1
地区)を選定する。
候補地区
条件
1.気候変動の影響
気候変動の影響
有り
気候変動の影響
無し
気候変動の影響
有り
2.効果項目
特殊
一般的
特殊
一般的
3.整備工種
多い
少ない
多い
少ない
4.余裕高
不足しない
不足する
不足しない
不足する
気候変動の影響
無し
1地区選定
図 3-23 検討対象モデル地区の選定フロー
1.気候変動の影響
気候変動の影響を受ける地区は、施設の補修・改修が必要となるため対象となる。気候変動の
影響を受けない地区は、施設の補修・改修が不必要なため対象外となる。
2.効果項目
排水改良において、一般的に計上される効果項目が発現している地区を対象とする。
3.備工種
気候変動の影響を受け排水路の整備を行う事業の経済効果分析を目的とするため、事業におい
て整備される工種が多い場合(排水路のほか、用水路整備、農道整備、区画整理等が含まれる)、
経済効果分析の意味合いが薄れるため、できる限り工種(排水路単独が理想である)が少ない地
区を対象とする。
4.余裕高
余裕高が将来的に不足し、補修・改修が必要な地区を対象とする。
②
選定結果
気候変動、効果項目、整備工種の条件から、候補地区 6 地区について検討し D-s 地区選定する。
3-80
〔気候変動の影響〕
気候変動の影響として、
土地改良施設の計画設計の際に用いられる 1/10 確率年の日雨量を用いて、
候補地区を比較した結果、下表に示す通り、いずれの地区も気候変動の影響を受け将来は日雨量が増
加する。特に、万勝寺脇本地区では将来(2050 年)は現況の 1.6 倍になる。
表 3-41 地区毎の気候変動の影響
1/10確率年日雨量(mm)
番号
事業区分
地区名
現況
近将来
将来
2010年
2030年
2050年
排水不良
129
132
145
1
D-a
(1.00 ) (1.02 ) (1.12 )
97
117
158
2
D-o
(1.00 ) (1.21 ) (1.63 )
123
137
142
2
D-s
(1.00 ) (1.11 ) (1.15 )
土壌侵食
176
210
219
3
S-a
(1.00 ) (1.19 ) (1.24 )
181
202
226
4
S-b
(1.00 ) (1.12 ) (1.25 )
224
237
275
5
S-c
(1.00 ) (1.06 ) (1.23 )
※カッコ内は現況(2010年)を1.00とした場合の割合。
〔効果項目〕
排水改良に関する効果項目では、排水不良では、作物生産効果、維持管理費節減効果が共通の項目
であり、地区によっては営農経費節減効果が発現している。土壌侵食では、作物生産効果、維持管理
費節減効果、災害防止効果(農業関連資産)が共通の項目であり、地区によって営農経費節減効果、
災害防止効果(公共資産)が発現している。各地区ともに概ね同じ効果項目が発現しており、特異な
地区はみられない。
3-81
表 3-42 地区毎の効果項目
排水改良に関する項目
番号
地区名
排水改良以外の項目
営農に
一般交
災害防 農業労 災害防
災害防
都市・農
営農経 維持管
係る走 耕作放
非農用
水源か 景観・環
作物生 品質向
通等経 地籍確 国土造
止効果 働環境 止効果 地域用 止効果
村交流
費節減 理費節
行経費 棄防止
地等創
ん養効 境保全
産効果 上効果
費節減 定効果 成効果
(農業関 改善効 (一般資 水効果 (公共資
促進効
効果 減効果
節減効 効果
設効果
果
効果
効果
連資産)
果
産)
果
産)
果
1
D-a
○
○
○
2
D-o
○
○
○
3
D-s
○
○
4
S-a
○
○
○
5
S-b
○
○
○
6
S-c
○
○
○
○
※ 排水改良以外の項目は、排水路整備以外の工種(農道、区画整理)により発現。
○
○
(出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」p.28)
3-82
○
○
備考
〔整備工種〕
各地区の整備工種をみると、排水不良地区では、大曲地区、万勝寺脇本地区が複数の工種で構成されており、それぞれ 10 工種(内排水路 2 工種)、
7 工種(内排水路 1 工種)
、また施設数もそれぞれ 17 施設、26 施設と多い。一方、比地大地区では、2 工種(内排水路 2 工種)、4 施設と少ない。土
壌侵食地区は、いずれも工種は 1 工種(排水路)であり、施設数も 2~8 施設である。
表 3-43 地区毎の整備工種・施設数
番号
事業区分
工種
地区名
排水路
取水堰
用水路
揚水機場
用水管理
施設
農道
○
○
○
○
○
(3)
(1)
(4)
(3)
(1)
○
○
○
○
○
2
D-o
(1)
(2)
(16)
(3)
(2)
○
3
D-s
(2)
土壌侵食
○
4
S-a
(8)
○
5
S-b
(2)
○
6
S-c
(3)
※表中○は該当を示す。該当の有無は総事業の範囲であり当該事業のほか、関連事業も含む。カッコ内は施設(事業)数。
1
排水不良
排水機場
表 3-44 対策が必要な地区及び水路
D-a
D-o
D-s
S-a
S-b
S-c
暗渠排水
D-a
〔余裕高〕
地区名
合計
整地
水路規模
小流量
中流量
大流量
-
-
-
-
-
-
-
○
○
-
-
-
-
-
-
-
-
-
備考
3-83
○
(1)
整地
○
(1)
農道
○
(1)
区画整理
用水路
○
(1)
排水路
○
(1)
○
(1)
○
(2)
暗渠排水
○
(1)
排水路
その他
計
2
(4)
1
(1)
2
(4)
1
(8)
1
(2)
1
(3)
8
(13)
6
(25)
0
(0)
0
(0)
0
(0)
0
(0)
10
(17)
7
(26)
2
(4)
1
(8)
1
(2)
1
(3)
3-84