リサーチ TODAY 2015 年 2 月 13 日 原油安・円安の具体的波及効果?実質 GDP1%強押上げ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 足元の原油安・円安は日本経済にプラスの影響を与えるのは確かだが、実際にどのような波及経路で、 どの程度のプラス効果が及ぶかを計量的に整理する必要がある。みずほ総合研究所は、円安と原油安の 及ぼす影響に関するリポートを発表している1。下記の図表は、原油安・円安が日本経済に与える影響の全 体像を、主要な波及経路に沿って整理したものである。ドバイ原油価格が約46ドル/バレル、為替相場が約 118円/ドルと、今年1月の平均的水準で今後も持続すると仮定すると、2014年夏場からの変化率で約55% の原油安・約15%の円安となる。これらの水準が続いた場合の効果を波及経路ごとに試算している。 ■図表:原油安(約55%)・円安(約15%)による日本経済への主要な影響 原油安 円 安 (約55%) (約15%) 輸入コスト減 輸入コスト増 (約11兆円) (約7兆円) 円換算後の 輸出収益改善 現地販売価格引下げ (足元引き下げ幅は低下) (4兆円強) 輸入コスト:ネット約3兆円減少 第1次所得収支 改善(2兆円強) エネルギー価格 中心に下落 企業収益改善 (14兆円強) 家計の負担減 (約0.2兆円) 雇用者報酬増 (2兆円強) 生産波及効果 (約3兆円) 実質個人消費増加 実質設備投資増加 輸出数量増加 (0.9兆円) (4.3兆円) (1.6兆円) 実質GDP:6.5兆円増加(約+1.2%、2015年度成長率は+1.0%押し上げ) (注)1.図中の数値は 2015 年度の水準押し上げ効果。原油価格が約 46 ドル/バレル(約 55%下落)、為替相場が 約 118 円/ドル(約 15%円安)で一定となった場合の影響を計算。過去の平均的な家計・企業行動を基に 計算しているため、試算結果は相当の幅を持ってみる必要がある。 2.図中の矢印はすべての波及経路を網羅しているわけではない。 (資料)内閣府、財務省などよりみずほ総合研究所作成 1 リサーチTODAY 2015 年 2 月 13 日 約55%の原油安によって、日本の輸入コストは原油・LNGを中心に約11兆円削減される計算になる。原 油安による輸入コスト削減効果の一部は円安によって相殺されるが、それでも差引3兆円程度のコスト削減 が見込まれる。円安による輸出採算の改善や第一次所得収支の押上げ効果も含めると、企業収支の改善 幅は合計で14兆円強に上り、それが設備投資の拡大や賃金上昇を通じた個人消費の拡大につながること でGDPは6兆円強増加する計算になる。 ここで、原油安・円安がもたらす最終的な経済効果として実質GDPの押上げ幅を試算したのが下記の図 表である。先の前提で原油安・円安が続いた場合、起点となる2014年夏場水準から原油価格と為替相場 が変わらなかった場合に比べ、2015年度の実質GDP水準は約1.2%(約6.5兆円)押し上げられる計算とな る。このうち0.2%Pt分は2014年度中にも顕現化が見込まれるため、2015年度の実質成長率は約1%押し 上げられる。以上の試算結果を需要項目別の成長率への寄与度でみると、設備投資を通じた影響が2015 年度に+0.7%Ptと大きいことが分かる。 ■図表:原油安(約55%)・円安(約15%)による実質成長率の押上げ効果試算 (前年比、%) 1.2 1.0 その他 1.0 GDP 0.8 設備投資 0.6 0.6 0.4 0.4 家計(消費+住宅) 0.2 0.2 0.2 0.1 0.0 外需 -0.2 -0.4 2014年度 2015年度 原油安+円安 2014年度 2015年度 2014年度 原油安効果のみ 2015年度 円安効果のみ (注)原油価格が約 46 ドル/バレル(約 55%下落)、為替相場が約 118 円/ドル(約 15%円安)で一定となった場合の 影響を計算。みずほ総研マクロモデルによる試算結果。過去の平均的な家計・企業行動を前提に計算しているため、 試算結果は相当の幅を持ってみる必要がある。 (資料)内閣府「国民経済計算」などよりみずほ総合研究所作成 一方、原油安・円安は企業収益にも大きい影響を与える。先の前提で、企業の経常利益は2割強(約14 兆円)押し上げられる。特に中小企業では、原油安によって円安の約3倍の利益押し上げ効果が見込まれ る。中小企業にとっては、円安の恩恵はあまり大きくないが、原油安によって大きな恩恵が及ぶ。また、貿 易収支の赤字幅は足元10兆円強あるが、原油安・円安のもたらす約6兆円の改善効果は貿易赤字を半減 させる。円安には円建てで見た第一次所得の受け取りを増加(約2兆円強)させる効果もあるため、経常収 支は約8兆円押し上げられる。 原油安は、一部のエネルギー関連企業に直接的にマイナスの影響を及ぼすこと、先行きの不確実性を 増すことでマイナスの影響を与える面を持つものの、マクロ的には以上の試算に示されるように大きなプラ ス効果が及ぶことを改めて認識する必要がある。 1 「原油安・円安の波及効果の整理」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 1 月 29 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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