プレス発表資料 平成27年2月23日 独立行政法人 防災科学技術研究所 京 都 大 学 株式会社大林組 清水建設株式会社 鉄筋コンクリート造6層建物の崩壊までの挙動を 検証したE-ディフェンス振動台実験の結果について (独)防災科学技術研究所は、京都大学防災研究所、(株)大林組、清水建設(株)と、実大三次元震 動破壊実験施設(E-ディフェンス)を活用した、鉄筋コンクリート(RC)造6層建物の30%縮 小試験体が崩壊するまでの挙動を検証する振動台実験を、2015年1月20~22日に実施しました。 この実験は、京都大学、(株)小堀鐸二研究所、(独)防災科学技術研究所、(株)大林組、清 水建設(株)、鹿島建設(株)、大成建設(株)、(株)竹中工務店が取り組む、文部科学省から の委託研究「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト-都市機能の維持・回復に 関する調査研究-」の一環として実施されたものです。 得られた貴重なデータを基に今後も詳細な検討を継続しますが、現時点で得られた結果の概要は 以下の通りです。詳しくは別記資料をご確認ください。 ① 現行の設計基準に基づく一般的な板状共同住宅を模したRC造建物が、建築基準法で定められ る必要保有水平耐力相当の地震力を受けても構造体はほぼ継続使用状態にとどまることを確 認した。なお、このときの地震動は阪神淡路大震災の神戸海洋気象台の観測波を基に大きさを 55%としたもの(以下、観測波の55%と示す)であった。 ② 当該建物の地震に対する最大限の抵抗力である保有水平耐力に到達以前であれば、前記必要保 有水平耐力相当地震力の1.0~1.3倍の地震力を、複数回受けても耐力劣化は観察されず、崩壊 までには余裕があることを確認した。 ③ さらに大きな地震動として前記観測波の120%を用いた加振により建物の保有水平耐力を確認 した。この保有水平耐力は必要保有水平耐力の約2倍であった。次に、前記観測波の140%の加 振により、1・2階の損傷と変形が著しく進行し、構造的な安全限界状態に達したことを確認し た。最終的には、阪神淡路大震災のJR鷹取駅での観測波の120%の加振により崩壊状態に至った。 ④ 今回の実験により、RC造建物が最終崩壊に至るまでの部材の損傷の進行の仕方や、壁や柱の 破壊と建物全体の安全性の関係を把握するとともに、貴重な各種データを取得した。 ⑤ 同時に実施した“健全度即時評価モニタリングシステム”の検証実験において、各加振の直後 にシステムによる建物の健全度の即時評価を試行し、被災建物の健全度の判断材料となり得る 各種指標を地震直後に速やかに評価できる可能性が示された。 ⑥ 今後の詳細なデータ分析やシミュレーション解析により、より多くの新知見が得られ、今後の 鉄筋コンクリート造建物の設計や地震に対する安全性の評価に役立つ成果が期待される。 1. 実験主体:(独)防災科学技術研究所、京都大学、(株)大林組、清水建設(株) 2. 実験結果:別記資料による 1 3. 本件配布先: 文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、 兵庫県政記者クラブ、三木市政記者クラブ、 大阪科学・大学記者クラブ、京都大学記者クラブ、 国土交通記者会 4. 担当者: 防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター 主任研究員 松森 泰造 京都大学防災研究所 非常勤研究員 林 和宏 大林組技術研究所 副所長 勝俣 英雄 清水建設技術研究所 主任研究員 白石 理人 5. 連 絡 先: 独立行政法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター 研究支援チーム E-mail : [email protected] TEL:0794-85-8211(代表) FAX:0794-85-7994 本件へのご質問に関しては、所属・氏名、質問内容、回答先(Eメールアドレス、F AX番号)等を明記の上、上記連絡先に E-mail にてご連絡ください。 2 別記資料 平成27年2月23日(月) RC造6層建物のE-ディフェンス振動台実験結果 1.研究背景・目的 東北地方太平洋沖地震は、東日本を中心に未曾有の大被害をもたらしました。首都圏 でも、事業や生活の継続が長期間妨げられ、大都市の脆弱性が顕在化しました。その教 訓から、文部科学省は、委託研究「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジ ェクト-都市機能の維持・回復に関する調査研究-」を立ち上げ、その一環として「鉄 筋コンクリート造建物の崩壊余裕度の定量化」と「建物健全度評価のためのモニタリン グシステム開発」を目的に、鉄筋コンクリート(RC)造建物を対象に徐々に破壊を進行 させ最終的には崩壊させる振動台実験を実施しました(図1)。 研究の成果目標は以下のとおりです。 1) 建築基準法で想定される地震動(注1)以上の想定外地震動に対し、建物の余力が どの程度かを検証するため、都市の基盤をなすRC造建物が崩壊するまでの余裕度 を定量化。 2) 被災建物が健全か否かを速やかに判断する方策として、被災後の建物の健全度を即 時モニタリングし、損傷の位置・程度を把握する仕組みを構築。 2.実験内容 都市部に多く存在するRC造中低層~中高層板状共同住宅(注2)を検討対象とし、 現行基準に従って試設計した6階建てRC造建物を 30%に縮小した試験体(平面 4.6m× 5.4m、高さ 6.5m、基礎を含む総重量約 320 トン)(写真1)を製作しました。 この試験体に対して、実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス) (図2)で加 振実験を行いました。地震波は、都市部の直下地震の例として 1995 年兵庫県南部地震(阪 神淡路大震災)の際の観測記録を採用しました。これは、対象建物が比較的短周期の構 造物であり、南海トラフ地震時に想定される長周期地震動より、阪神淡路大震災のよう な直下地震の方が影響が大きいと考えられるためです。なお、地震動は基本的に3方向 入力とし、特に耐震壁の破壊による崩壊を引き起こす方向(主方向)に最も強い揺れが入 力されるように揺れの向きを調整して用いました。さらに、建物を崩壊させる加振にお いては耐震壁が破壊する主方向のみの1方向入力としました(図3)。 加振のスケジュールは、まず始めに、建物の基本特性の把握やコンクリートのひび割 れ状況の確認を行うために入力レベルを小さくして加振しました。続いて、建築基準法 の必要保有水平耐力(注3)に相当する入力レベルから試験体の保有水平耐力(注4) を確認できる入力レベルまで増幅しました。その後、試験体が崩壊に至るまで1方向入 力の加振を繰り返し、最終的に試験体を崩壊させ、どの程度の余力があったかを、実測 データを収集して検証しました。 今回の実験では、徐々に進行する建物の破壊を的確に検知する可能性と有効性を確認 するために、昨年度実施した鉄骨造高層建物を対象とした実験と同様に、2 種類の“健 全度即時評価モニタリングシステム”の検証実験を同時に行いました。この検証実験で は、(1)各層に設置したセンサによる、建物全体系-層レベルの損傷の推定と、(2) 接合部および耐震壁に稠密に設置したセンサによる、部材レベルの損傷の推定の有効性 確認を行いました(図4)。 3 建物の耐力 センサ 損傷個所 崩壊余裕度 ③ ① ② 実験による損傷評価 システムの検証 ④ 損傷可能性 小 大 地震動 強さ 崩壊 損傷無し RC造建物崩壊余裕度の定量化 図1 建物健全度評価のためのモニタリングシステム 実験目的の概要 写真1 試験体概要 (RC造6階建て・縮尺 30%,平面 4.6×5.4m,高さ 6.5m,基礎を含む総重量約 320ton) 図2 振動台実験概要 4 加速度 [gal] South 直交方向 500 400 上下動 0 0 -500 -400 6 9 12 East -800 -1000 3 West North 時間 [sec.] 0 Y-Axis(主方向) 800 主方向 X-Axis(直交方向) 1000 15 -800 -400 0 400 JMA 神戸記録(回転して主方向(試験体壁方向)を大きくする) 1000 加速度 [gal] 500 0 -500 時間 [sec.] -1000 0 3 6 9 12 15 JR 鷹取駅記録(東西成分を用いて主方向(試験体壁方向)に与える) 図3 振動台実験の入力地震動 ■ レベル1システム 建物全体系 - 層レベル 損傷推定 サーボ型加速度計 25台 センサ (75ch: x,y,z) ■ レベル2システム 部材レベル 損傷推定 MEMS※型振動計 158台 センサ (948ch: x,y,z,θx,θy,θz) 分散型計測装置 レベル1システム 計測・解析装置 レベル2システム 計測・解析装置 震動台 ※MEMS(メムス,Micro Electro Mechanical Systems): 微少電気機械素子およびその創製技術 図4 本実験で用いる“健全度即時評価モニタリングシステム” 5 3.実験結果 (1) 結果の概要 加振レベルと実験結果を以下に示します(表1)。 表1 実 験 日 加振 ケース 1/20 #1-3 #1-5 #1-7 #1-9 1/21 #2-1 #2-3 #2-5 1/22 #3-1 #3-3 #3-5 #3-7 #3-9 地震波 倍率 JMA 神戸 10%相当 同 40%相当 同 55%相当 同 70%相当 同 55%相当 同 70%相当 同 100%相当 同 55%相当 同 120%相当 同 140%相当 同 140%相当 JR 鷹取駅 120%相当 実験経過と損傷状況 最大層せん断力 最大層間変形角 1階 [kN] 震度 (注5) (ベースシア係数) 換算 1階 [rad.]※1 (注6)※1 1/12857 140(0.08) 4 1/2500 796(0.42) 6弱 1/882 1212(0.66) 1/629 1342(0.73) 6強 1/756 1029(0.56) 6弱※2 1/536 1342(0.73) 6強 1/149 1975(1.08) 6強 1/201 1373(0.75) 6弱※2 1/37 2160(1.18) 7 1/13 1747(0.95) 7 1/11 1161(0.53) 7 1/6 1506(0.82)※3 7 損傷状況 6強※2 柱主筋の降伏 梁主筋・壁筋の降伏 1階の一部の壁にせん断 破壊の兆候 崩壊(バルコニー先端が 防護フレームに衝突) ※1:最大層間変形角(両妻面での計測値の平均)と最大層せん断力およびベースシア 係数の値は試験体の主方向(壁方向)の値を示します。 ※2:55%相当の地震動は震度6強と震度6弱の境に近い大きさであるため、実験ケー ス毎のわずかな違いで震度換算値が異なっています。 ※3:#3-3~7 にかけて低下した値が#3-9 で大きくなったのは、試験体が防護フレーム に衝突したことの影響と考えられます。 6 (2) 各加振の結果 ここでは主な検討対象である壁方向の結果を示します。 ・1日目(弾性~必要保有水平耐力超) JMA 神戸の 55%相当加振により、必要保有水平耐力(建築基準法で定められる外力)を 上回る耐力に達するとともに、コンクリートのひび割れのほか、1、2階の鉄筋降伏が 確認されました。層間変形角は 1/1000 程度と小さく、継続使用可能な状態だと判断され ます。これを上回る入力レベル(JMA 神戸 70%相当加振)に対しても、試験体の損傷は軽 微なものでした。 なお、事前に有限要素法(FEM)によるコンピュータシミュレーションによって予 測した結果と実験結果が概ね一致していることも確認しました。図5、6には予測結果 の一例も掲載しています。 Story Shear [kN] 2000 R=1/1000 ↓ CB=0.55 1000 R:層間変形角(注5) CB:ベースシア係数(注6) 0 静的解析(FEM) #1-9(70%) #1-7(55%) #1-5(40%) #1-3(10%) -1000 -2000 Story Drift [mm] -1.8 図5 -1.2 -0.6 0.0 0.6 1.2 実験結果(1日目・1階の荷重~変形関係) 写真2 1日目加振終了時の試験体状況 7 1.8 ・2日目(必要保有水平耐力レベルの2回目~1.0G レベル) 1日目と同レベル(55%相当および 70%相当)の地震波で加振しましたが性状に大きな 変化は見られず、必要保有水平耐力レベル(1日目)の加振後も、耐震性能に大きな劣 化が見られないことが分かりました。さらに大きな入力レベル(JMA 神戸 100%相当)で 加振した結果、1階の一部の壁にせん断破壊の兆候が見られましたが、適切な補修を行 なえば継続使用可能な程度の損傷にとどまっていることが確認されました。 なお、FEMによる予測結果は一日目と同様、実験結果と概ね一致していることを確 認しました。また、1階においては壁配置に実験上の特徴を持たせ、実際の建物でよく あるように建築基準法の耐力割り増し規定が適用されない範囲内で片側に寄せていまし たが、この壁配置に起因して建物がややねじれながら揺れる状況が確認されました。 Story Shear [kN] 2000 R=1/200 ↓ 1.0G 静的解析(FEM) CB=0.55 #2-5(100%) #2-3(70%) #2-1(55%) 1000 0 -1000 R:層間変形角(注5) CB:ベースシア係数(注6) -2000 Story Drift [mm] -6.0 -4.5 図6 写真3 -3.0 -1.5 0.0 1.5 3.0 4.5 実験結果(2日目・1階の荷重~変形関係) 2日目加振終了時の試験体状況(右:壁のひび割れ) 8 6.0 ・3日目(保有水平耐力の発揮~崩壊) JMA 神戸 120%相当加振により、試験体の保有水平耐力を確認しました(建物が抵抗で きる最大限の力を把握)。その後、主たる方向(壁方向)にのみ地震動を入力しました。 JMA 神戸 140%相当を2回繰り返した結果、建物の傾斜が徐々に進み「構造的な安全限界 状態(注7)」に達したと判断されましたが、崩壊と判断されるまでには至りませんで した。ここまで損傷した建物性能に、より大きな影響を与えられる地震波として、JR 鷹 取駅記録を用い、120%相当の加振を行った結果、床の沈下や柱の傾斜状況に加えて、バ ルコニーが防護フレームに数回衝突したことなどから、崩壊と判断される状態に至り、 実験を終了しました。 Story Shear [kN] 2000 R=1/20 ↓ 1.0G R=1/10 ↓ R:層間変形角 1000 0 -1000 #3-9(JR鷹取120%) #3-7(JMA神戸140%-2) #3-5(JMA神戸140%-1) #3-3(JMA神戸120%) -2000 Story Drift [mm] -36 図7 0 72 36 108 144 実験結果(3日目・1階の荷重~変形関係) 写真4 実験終了後の試験体状況 9 180 1階耐震壁のせん断破壊 1階独立柱の曲げ破壊 2階耐震壁のせん断破壊 写真5 各部の損傷状況(1) 10 耐震スリットの接触による雑壁や間柱の損傷(2階妻面) 写真5 各部の損傷状況(2) 耐震スリットについて 耐震スリット:窓の大きさや数、建物の全体形状などによりスリットが必要な場合と無い方がよい場 合があり、一概に良し悪しは決められません。今回の試験体の両妻壁はスリット有りとした方が良い ため、スリットを設けています。 図8 スリットが有効な場合の模式図 11 (3) 健全度即時評価モニタリングシステムの結果 各加振の直後に、センサのデータから建物の健全度(損傷状態)の即時評価を試行し、 以下の結果が得られました。 ・レベル1システム(少数センサによる建物全体系-層レベルの損傷推定) 建物内の少数(1、3、R 階)の加速度センサから、建物の代表的な損傷指標である最 大層間変形角を、1 階の一部の壁にせん断破壊の兆候が見られた JMA 神戸 100%相当の加 振までは精度よく推定できたことが確認されました。ただし、損傷が大きく進行した 120%相当の加振以降は推定誤差が大きくなりました。 ・レベル2システム(稠密に設置したセンサによる部材レベルの損傷推定) システムを構成する 158 台の MEMS 型振動センサのうち、柱梁接合部(56 箇所)に設 置したセンサから建物の部位毎の損傷指標(建物各部位の動特性の変化により算出)を 評価し、下層階から順に損傷が進行する様子を捉えることができました。 JMA 神戸 55%(#1-7) 図9 制御室反対側 JMA 神戸 70%(#1-9) JMA 神戸 100%(#2-5) JMA 神戸 120%(#3-3) レベル1システムによる最大層間変形角(主方向)の推定結果 制御室側 制御室反対側 制御室側 制御室反対側 制御室側 制御室反対側 R階 R階 R階 R階 6階 6階 6階 6階 5階 5階 5階 5階 4階 4階 4階 4階 3階 3階 3階 3階 2階 2階 2階 2階 制御室側 Z Y X 小 ← 損傷指標 → 大 JMA 神戸 55%(#1-7)後 小 ← 損傷指標 → 小 大 JMA 神戸 70%(#1-9)後 ← 損傷指標 → 大 JMA 神戸 100%(#2-5)後 小 ← 損傷指標 → 大 JMA 神戸 120%(#3-3)後 ※「制御室側」は図2における手前側、 「制御室反対側」は奥側 図10 レベル2システムにより建物各部位毎に評価された損傷指標 12 (4) まとめ 今後も詳細な検討を継続しますが、現時点で得られた知見は以下の通りです。 ・現行の設計基準に基づく一般的な板状共同住宅を模したRC造建物が、建築基準法 で定められる必要保有水平耐力相当の地震力を受けても、構造体はほぼ継続使用可 能な状態にとどまることが分かりました。なお、このときの地震動は、阪神淡路大 震災の神戸海洋気象台の観測波の 55%相当でした。 ・また、引き続いて行った実験により、当該建物の地震に対する最大限の抵抗力であ る保有水平耐力に到達する前であれば、必要保有水平耐力相当の地震力の 1.0~1.3 倍程度の地震力を複数回受けても、耐力劣化は観察されませんでした。この時点で、 崩壊までには余裕があることが分かりました。 ・さらに大きな地震動として、神戸海洋気象台の観測波の 120%相当の地震を用いた加 振により、建物の保有水平耐力を確認することができました。この時の耐力は、必 要保有水平耐力の約 2 倍でした。 ・さらに、同じく神戸海洋気象台の観測波の 140%相当の地震を用いた加振により、1、 2階の損傷と変形が著しく進行し、構造的な安全限界状態に達しました。 ・最終的には、阪神淡路大震災の JR 鷹取駅での観測波の 120%相当の地震を用いた加 振により、崩壊状態に至りました。 ・今回の実験により、RC造建物が最終崩壊に至るまでの、部材の損傷の進行の仕方 や、壁や柱の破壊と建物全体の安全性の関係を把握することができました。 ・また、有限要素法(FEM)を用いたコンピュータシミュレーションは、少なくと も建物の保有水平耐力に到達する時点まで建物の状況を予測できることを確認しま した。 ・同時に実施した“健全度即時評価モニタリングシステム”の検証実験では、各加振 の直後にシステムによる建物の健全度の即時評価を試行し、被災建物の健全度の判 断材料となり得る各種指標を地震直後に速やかに評価できる可能性が示されました。 ・このように、RC造建物のE-ディフェンスでの崩壊に至るまでの実験により、き わめて多くのデータや新知見を得ることができました。詳細な分析結果は、今後報 告書にとりまとめる予定ですが、詳細なデータ分析やシミュレーション解析により、 より多くの新知見が得られ、今後のRC造建物の設計や地震に対する安全性の評価 に大いに役立てられます。 ・また、モニタリングシステムで得られた最終崩壊に至るまでの貴重なデータを、昨 年度の鉄骨造高層建物の実験データと合わせて詳細に分析し、試験体の実損傷状況 との比較検証やシステムの適用範囲の検討など、実用化を目指した検討を行う予定 です。 ・基礎地盤系や建物-杭-地盤系に関する研究にも取り組んでおり、来年度以降も大規 模実験が予定されており、今回の実験同様、その成果が大いに期待されます。 尚、実験時に収録した動画の一部を にて公開しております。 http://www.toshikino.dpri.kyoto-u.ac.jp/ 13 用語解説 注1:建築基準法で想定される地震動 建築基準法の耐震規定は、今回の実験対象のような一般建物に対しては、建物に必要 な耐力を建物の特性に応じて定めており、直接、設計用地震動を定めてはいません。そ こで、この実験では、建物に地震動を加えますが、上記の必要耐力が建物に発揮される ときの地震動を「建築基準法で想定される地震動」と考えることにしました。 注2:板状共同住宅 建物全体の平面形状が細長い共同住宅で、各階の住戸を廊下に沿って、長辺方向に一 列に並べているものです。各階の平面形状が細長いため、建物全体として見ると板のよ うに見えます。一般に、片側を共用廊下、反対側をバルコニーとします。 注3:必要保有水平耐力 建築基準法で定められる「必要保有水平耐力」で、極めて希に発生する地震により建 物に生じる水平力のことです。建物の架構形式、構造特性、建設地域や地盤の性質など を考慮して算出されます。 注4:建物の保有水平耐力 建物が保有する構造性能のうち、地震に対する最大限の抵抗力のことです。建築基準 法では、一定規模以上などの条件にあてはまる建物に対して、極めて希に発生する地震 に対する設計として、「保有水平耐力」が「必要保有水平耐力」以上であることを確認 することと定められています。 注5:層間変形と層間変形角 ある階の床とその上の階の床の水平変位の差を層間変形と呼び、層間変形を階高で除 したものを層間変形角と呼びます。壁がほとんどない建物(構面)は、保有水平耐力時 の層間変形角が1/100~1/75程度になる場合が多いですが、壁が多い建物(構面)では 1/500~1/200程度であり、壁がほとんどない建物よりずっと小さくなります。 注6:ベースシア係数 建物に作用する水平力の大きさを表す指標のひとつで、建物の1階に作用する水平力 の建物重量(1階以上)に対する比のことです。必要保有水平耐力をこの指標で表すと、 壁が多いRC造建物の場合0.55以上、壁がほとんどないRC造建物の場合0.3以上とする よう定められています。 注7:構造的な安全限界状態 地震応答時の応力および地震終了時の鉛直荷重による応力を安定して維持することが できる限界の状態のことです。つまり、建物に加わる重力や地震力などに抵抗する機能 を持つ部分(構造体)が著しく壊れ、崩壊寸前となり、建物に新たに加わる力に対して 安全であるとはもはや言えなくなった状態のことです。 14
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