2015 年 1 月号

ALTERNATIVE INVESTMENT MANAGEMENT ASSOCIATION
Japan Chapter
Website: http://www.aima-japan.org
2015 年 1 月号
今月は AIMA ジャーナル 2014 年第 3 四半期
号から国際金融センターの金融グローバル化
における役割とオルタナティブ UCITS ファンド
に関する記事をご紹介します。
国際金融センターの動向1
By Geoff Cook, Jersey Finance
< 注 > 国 際 金 融 セ ン タ ー ( International
 IFCs are adapting with a global
Financial Centers、以下「IFCs」)とは、世界
dynamic (国際金融センターの動向)
の主要金融機関がオフィスを構え、グローバ
 Alternative UCITS – A hedge fund
alternative
for
European
investors? (オルタナティブ UCITS
はヘッジファンドの代わりとなるか?)
ル資本市場において重要な役割を果たす国
際都市のことである。 最近、特別経済地区ま
たはフリーゾーンとして金融ビジネスを奨励
するドバイ国際金融センター等の台頭が注目
されている。
内容の詳細につきましては AIMA Journal 原文
をご覧ください。
一部の予想に反し、IFCs はオルタナティブ投資
http://www.aima.org/en/document-
ファンドマネジャー指令(AIFMD)の導入を新た
summary/index.cfm/docid/3508C9AA-D198-
なビジネスチャンスとして歓迎し、積極的に対応
4A06-A3F2A062D8E79B54
している。 実際、ジャージーを含む IFCs では、
英国・欧州資産をターゲットとするオルタナティ
ブ投資ファンドの組成が増えている。 さらに、欧
州圏外の投資家を狙うマネジャーもファンド組
成に IFCs を利用している。
今後、規制に対する適切な対応と専門知識の
結集を証明できれば、IFCs はファンド組成、サ
ービスの世界的中心地として地位を確立できる
はずである。
1 この記事は AIMA Journal 2014 年第 3 四半期号に掲載
された”IFCs are adapting with a global dynamic” (By Geoff
Cook, Chief Executive, Jersey Finance)の抄訳です。
<欧州へのアクセス>
やサービスプロバイダーのネットワークを有す
EU 圏外(=第三国)マネジャーは、私募方式が
る IFCs には絶好のチャンスである。 オルタナ
利用可能な IFCs を通して、AIFMD のパスポー
ティブ投資を専門とする IFCs では、取締役とな
ト要件と EU 加盟国の条件を満たすことにより
る有能な人材が豊富であることもマネジャーに
EU 市場へのアクセスを確保できる。 2014 年 7
は魅力的である。
月のジャージー金融サービス委員会統計によ
れば、ジャージーに籍を置く 160 以上のファンド
2015 年 7 月に EU 加盟国以外のマネジャーも
が AIFMD の下で EU 市場に向けた販売を行う
AIFMD パスポート利用が可能となれば、ジャー
私募ファンドとして登録されている。
ジー等 AIFMD コンプライアントの IFCs を利用
することで EU 内への商品販売を行うことがマ
私募方式を利用した欧州市場向ファンドの販売
ネジャーの選択肢に加わる。
はオンショア方式と比較して時間の節約にもな
る。 BNY Mellon and FTI Consulting による欧
<グローバルな視点から>
州、米国、アジアのマネジャーに関する調査では、
欧州圏外からのビジネスチャンスも見逃せない。
許可申請を行ったマネジャーの 5 分の 2 が加
インドや中国は近い将来、世界最大の経済とな
盟国当局からオルタナティブ投資ファンドに対
ると予想され、近年経済が急成長しているトップ
する AIFMD 許可を受けられずにいると回答し
10 カ国のうち 7 カ国はアフリカにある。
ている。
国境を越えた金融活動が活発になれば、法が
AIFMD はまだ導入から日が浅いため不明確な
整備され、一般のビジネス常識が通じ、ファンド
ところも多い。 マネジャーの一部は、柔軟な
組成に熟練し、時差についても便利で、私有財
IFCs 私募方式を利用して、煩雑な AIFMD 要件
産権が保護された市場への需要は大きい。 こ
を満たすことなく欧州市場へのアクセスを行い
れら条件を整えた IFCs は格好のポジションに
ながら今後の展開を静観している。 特に、英国
いると言える。
は 2018 年まで私募方式を引き続き認めるとし
ているため、英国投資家を対象とするマネジャ
規制環境に適切に対応し、オルタナティブ資産
ーは英国と近い関係にある IFCs を安心して利
クラスに対する知識が豊富である IFCs は、柔
用できる。
軟性、専門知識、および明解であることを求める
ファンドマネジャーに魅力的な活動の場を提供
長期的に見ると、マネジャーは今後、AIFMD 遵
する。 今後、IFCs が欧州および世界の金融活
守を望む投資家のためのオンショア方式(=
動の中心的役割を果たすことは間違いないで
AIFMD 要件すべてを満たすことが求められる)
あろう。
と、柔軟で費用効率のよいファンドを求める投資
家のためのオフショア方式を並立させることが
一般的になると予想される。
オルタナティブ UCITS は
<実体とガバナンス>
AIFMD の煩雑な要件を満たすためにオンショ
アマネジャーもアドミニストレーションやガバナ
ンス関連の実務をアウトソースするケースが増
えると思われる。 熟練したアドミニストレーター
2 この記事は AIMA Journal 2014 年第 3 四半期号に掲載
された”Alternative UCITS – A hedge fund alternative for
ヘッジファンドの代わりとなるか?2
By Michael Busack and Jan Tille, Absolut
Research GmbH
< 注 > UCITS ( Undertakings
for
European investors?” (By Michael Busack, Managing
Partner, and Jan Tille, Research, Absolut Research
GmbH)の抄訳です。
Collective Investment in Transferable
でのオルタナティブファンド運用が可能になった。
Securities)ファンドとは、欧州個人投資家
しかし、投資家やマネジャーは 2008 年の金融
の保護を目的として定められた UCITS 指
危機やマドフ詐欺事件まではオルタナティブ
令に準拠するファンドのこと。 UCITS ファ
UCITS にあまり興味を示さなかった。 金融危
ンドには、投資可能な範囲や透明性に厳し
機を経て、オルタナティブ UCITS 市場は大きく
い基準が設けられている反面、一加盟国で
成長し、ファンド数、運用総資産が共に大きく膨
認可を受ければ、他の加盟国でも販売が
らんだ。 運用資産総額は 2008 年末に 340 億
可能になるメリットがある。
ユーロであったが 2014 年 6 月末には 2,190 億
ユーロとなった。 ファンド数に関しては、一旦
オルタナティブ UCITS ファンドは、UCITS 指令
376 ファンドから 1,005 ファンド(2011 年)に増
の厳しい規制の下でヘッジファンド的戦略を採
加したが、その後の市場統合により現在は 900
用するため、非対称的リターンを求めるが投資
弱となっている。 また、900 ファンドのうち大手
に厳しい制約を受ける投資家に適している。
ファンド 10 社が投資資産全体の 34%を運用し
また、投資家ベースを拡大したいと考えるマネ
ている。
ジャーにとっても魅力的な市場と言える。 オル
タナティブ UCITS ファンドの発展がヘッジファン
UCITS には流動性規則や適格資産要件があ
ドを時代遅れな無用物にすることは無いが、オ
るため、すべてのオフショア戦略がオルタナティ
フショアファンドへの投資を好まない(またはオ
ブ UCITS ファンドに適しているわけではない。
フショア投資ができない)投資家がヘッジファン
流動性の高い、株式関連戦略(ロングショート、
ド的投資を行いたい場合のオプションとして有
マーケットニュートラル、マージャーアービトラー
効であるため、今後の発展が期待される。
ジ)、マネージド・フューチャーズ、グローバルマ
クロ等が中心である。 特に株式関連戦略は全
金融危機以降のドイツでは、一般投資家が流動
体の 43%を占めている。
性に富むオルタナティブ商品を求める場合、オ
ルタナティブ UCITS への投資が唯一の手段と
オルタナティブ UCITS ファンドの 70%が欧州フ
なっている。
ァンドの中心拠点であるルクセンブルグとアイ
ルランドに籍を置く。 65%のファンドが大半の
現在のオルタナティブ UCITS 市場規模は米国
機関投資家が求める 3 年以上の実績を持ち、
のリテールオルタナティブ市場より大きい。
30%は 5 年以上の実績を有する。
我々のデータベースでは 876 のオルタナティブ
UCITS ファンド(790 のシングルファンドと 86 の
<オルタナティブ UCITS ファンドのパフォーマ
ファンド・オブ・ファンズ)を追跡調査しており、そ
ンス――市場との比較>
の運用総資産額は 2200 億ユーロ近い。 欧州
多くのファンドが金融危機以降に発足している
におけるオルタナティブ UCITS 人気の理由は、
ため、オルタナティブ UCITS ファンドが市場低
AIFMD 等によりオフショアファンドへの投資が
迷期を乗り越えられるか不安に思うかもしれな
制限されること、及び、ヘッジファンドに対する悪
い 。 しか し、 米 国 債 の 格 付 け が 下 げら れ た
評や偏見によると考えられる。 また、マネジャ
2011 年に欧米の株式市場が大きく下落した際
ー側からしても、欧州では米国より流動性要件
もオルタナティブ UCITS ファンドの下落は限定
が緩いことや 2%/20%報酬体系が認められる
的であった。 2011 年 4 月から 8 月までの期間
などの利点がある。
に EuroStoxx50 パフォーマンス指標は 26%近
く下落したが、同時期の欧州株式ロングショート
<オルタナティブ UCITS 市場の発展>
戦略を採用するオルタナティブ UCITS ファンド
2004 年の UCITS III 施行により UCITS 枠内
の下落は 7.4%に止まった。 つまり、オルタナテ
ィブ UCITS ファンドは市場低迷期に最も必要と
される資産保全に成功したと言える。
<オルタナティブ UCITS ファンドのパフォーマ
ンス――ヘッジファンドの比較>
下グラフは過去 36 ヶ月間の AR UCITS オル
タナティブエクイティ指標と HFRX エクイティヘッ
ジ指標を比較したものである。 両指標とも同様
な動きをしているが、オルタナティブ UCITS ファ
ンドのリターンが若干大きかったことが分かる。
2008 年初からの長期分析においても似た結果
が得られた。
しかし、同時期の比較において、イベントドリブン
戦略等のヘッジファンドはオルタナティブ
UCITS ファンドより優れたパフォーマンス結果
を示した。 また、時期によりパフォーマンスの優
劣が変わるものもあった。 相対バリューアービ
トラージヘッジファンド戦略は 2009 年から 2011
年の信用スプレッド拡大により好成績を上げ、
債券戦略を採用するオルタナティブ UCITS ファ
ンドのパフォーマンスを上回ったが、その後、成
績は逆転した。