Vol.12-1 LiDCOrapid / PulseCO™ アルゴリズム(パルスパワーアナリシス) LiDCOrapid 心拍出量モニタシステムは、高リスク外科患者における周術期血行動態変化の早期モニタや、患者個別に最適な輸液管理を行う ためのモニタとして開発されました。動脈系の血管容量を動脈圧の関数に変換して、拍動毎の変化をリアルタイムで解析し、ノン・キャリブレーション で心拍出量(CO)を連続的に算出します。 表示パラメータ 各社の生体情報モニタの観血血圧アンプに接続された LiDCOrapid 心拍出量センサキットにより末梢動脈圧を測定し、生体情報モニタから LiDCOrapid 心拍出 量モニタに動脈圧信号をアナログ出力して解析を行います。LiDCOrapid 心拍出量モニタは以下のパラメータを選択的に表示することが可能です。 ① 動脈圧(Sys / MAP / Dia) ② 心拍数(HR) ③ 心拍変動(HRV) ④ 1回拍出量(SV) ⑥ 心拍出量(CO) ⑤ 1回拍出量係数(SVI) ⑦ 心係数(CI) ⑧ 体血管抵抗(SVR) ⑨ 体血管抵抗係数(SVRI) また、動的な前負荷レスポンスとして ⑩ 1回拍出量変動(SVV) ⑪ 脈圧変動(PPV) を表示します。 PulseCO™アルゴリズム : 心拍出量測定の原理 LiDCOrapid 心拍出量モニタに搭載された PulseCO™アルゴリズムは、以下のステップで動脈圧波形から連続的に心拍出量(CO)を算出します。 Step1)血管コンプライアンスを考慮して動脈圧波形(mmHg)から動脈血液量波形(mL)へ変換 Step2)動脈血液量波形の自己相関処理 Step3)ノモグラム(計算図表)により校正係数を決定し補正後の心拍出量を表示 アルゴリズムの全体像は下記(図1)を参照してください。 《Step1》 まず生体情報モニタから 100Hz(100 回/秒)でサンプリングされた動脈圧波形(mmHg)は、ΔV/Δbp(mL)=CF x 250mL x(1- e-k*p) の式を用いて血液 容量波形に変換されます。この変換式中の CF は患者固有の情報(身長、体重、年齢)により変化する校正係数です。250mL は公表されている解剖学的デー タ※1)から導かれた一般的な成人の動脈系の公称最大充満容量で、括弧内は血管コンプライアンスを表わし、k は動脈圧を動脈容積に変換する指数関数※2)で、p は入力された動脈圧です。LiDCOrapid 心拍出量モニタを起動すると、初期公称値 250mL で CF=1.0 となります。(図2)この換算式を用いて動脈圧から連 続した血液量波形に変換すると(図3)となります。 《Step2》 次に、動脈血液量波形に自己相関という数学的な信号処理を行い、心周期ごとの波形を求めて心拍数(HR)を算出します。 《自己相関式:(動脈血液量―平均動脈血液量)2》 (自己相関とは SV と HR を求めるために、データをそれ自体と比較する又は関連付けることによってデー タを評価する数学的な手法です。)そして、補正前の一回拍出量(SV)は自己相関結果に二乗平均平方根(RMS)の式を適用します。それによって、自己相関 された容積波形の RMS 値が mL の単位で求められます。(図4) 容積への変換により平滑化された波形によってそれ以降の解析が行われ、血圧波形の形状変化による変動が解消されます。この RMS 容積(又は1回拍出量) は、入力関数(すなわち収縮期に大動脈に追加/排出される血液量)に比例します。この RMS は、変化する特性の大きさ(この場合は、血液量変換して自己 相関した容積 mL 波形)の統計的な尺度です。心拍出量(CO)は心拍数(HR)と一回拍出量(SV)の積で算出されます。 《Step3》 しかし、この時点で得られた心拍出量(CO)は未補正なので、ノモグラム(計算図表)を用いて、患者毎の大動脈容積に基づいた固有の換算係数(CF)を算出 して補正後の心拍出量(CO)を表示します。このノモグラムから得られる CF は海外でこれまでに販売されてきた LiDCO 社の別機種(LiDCOplus モニタや PulseCO モニタ:PulseCO™アルゴリズムで得られた値を塩化リチウム等で校正するタイプ)により得られた臨床データをベースとして、これに患者固有の情報(年 齢、身長、体重)に関するファクターを変数として得て決定されます。尚、このノモグラムの詳細な算出法は、LiDCO 社から公表されていません。また、ノモグラムにより ノン・キャリブレーションで測定しますが、他法により実測した心拍出量値を用いて校正を行うことも可能です。 CF と Vmax の関係 ▶ Vmax は動脈樹の最大飽和ないし負荷容積で、すなわち全動脈容積から無負荷動脈容積を引いたものです。 ▶ Vmax は、体格(体の大きさ)と関係があり、体が大きい人ほど動脈容積が大きくなります。しかしながら、大動脈のコンプライアンス(弾性)が高齢の患者 では低下することが知られています。すなわち、Vmax は、年齢の増加とともに減少します。※2) その結果、CF と Vmax の算定には、体格と年齢の補正が必 要とされます。 ▶ CF は臨床的に 0.3(Vmax=75mls) ~ 1.5(Vmax=375mls)の範囲にあります。高齢になる程、CF/Vmax は減少し、体が大きい程、CF/Vmax は増 加します。 この CF/Vmax は短期間(日/週単位)では変化しません。 ▶ 患者固有の CF/Vmax を算定する為には、患者固有の変数(体格と年齢)で、起動時の CF/Vmax を調整します。ノモグラム(計算図表)は、入力さ れたデータに最も良く当てはまるように身長/体重と年齢の独立変数の組合せに基づいた多変数の回帰方程式です。 CF/ Vmax の算定精度 ノモグラム上で決定された CF を 28 人の外科手術および ICU 患者でリチウム希釈法によって求めた CF と比較しました。(図 5)両者の相関は、R2=0.89 と非常 に良好です。Bland Altman 解析(図 6)では、Bias が 0.66%で、95%の信頼限界は 13.62%と非常に僅かな差を示しています。これは Critchley と Critchley が提唱した臨床的に許容できる±30%の精度範囲内にあります。※3) 図5.リチウム希釈法とノモグラム法による CF の相関 図6.リチウム希釈法とノモグラム法によるCFの Bland-Altman 解析 Summary Nomogram Error Bias = 0.66% Stdev of error : -6.81% 95% Confidence limits ±13.62% y=0.9254 x +0.0688 R2 =0.89088 PulseCO™アルゴリズムの正確度に関する臨床バリデーション ANAESTHESIA INTERNATIONAL 2008 Vol.2#1 コントロール値との差 評価内容 術中の ICO との比較 研究筆者&コントロール方法 一致の限界(LoA) No. of No. of Bias Precision 95% c.l. Lower Upper patient Observation L/min L/min L/min (%) L/min L/min (a) Cotd. Intra op cardiac 27 199 -0.17 0.69 1.38 (28.6) -1.55 1.20 (b) Literature survey of PulseCO Published data 88 301 -0.02 0.65 1.30 (25.7) -1.28 1.32 20 149 -0.03 0.65 1.30 (29.0) -1.33 1.26 23 151 0.29 1.09 2.17 (16.8) -1.87 2.46 20 73 0.19 0.14 0.28 (8.5) -0.09 0.47 Wide et al. 2007 オフ・ポンプ心臓外科術中での Missant et al. 2007 ICO との比較 Cotd intra op.off-pump 肝移植後 48 時間での Costa et al. 2007 ICO との比較 Cotd – post op 48hrs Hyperdynamic liver transplant 小児患者での ICO との Kim et al. 2006 CI 比較 Cotd in children *Note results CI not CO Smith et al. 2005 リチウム希釈法との比較 (a) Lithium dilution comp. MICU(24hr) 12 69 -0.01 0.67 1.33 (22.9) -1.34 1.32 PiCCO との比較 (b) PiCCO vs PulseCO 24 hourly comparisons 12 276 0.06 0.79 1.57 (26.9) 1.63 1.51 21 83 -0.01 0.82 1.64 (27.0) -1.65 1.63 20 80 0.1 0.6 1.2 (21.8) -1.1 1.3 ICU におけるリチウム希釈法と Pittman et al. 2005 の比較 Lithium dilution comp. ICU 24 hourly comparisons 心臓外科術後8時間 Hamilton et al. 2002 の評価 Post cardiac surg.(8hrs) PulseCO™アルゴリズムの特徴・利点 アルゴリズムの特徴・利点 LiDCOrapid/PulseCO™アルゴリズムは、末梢動脈圧波形を血管コンプライアンスの補正を組み入れて動脈系血液容量波形に変換し、血圧波形の性状解析に 依存しない『パルス・パワー(拍動毎のネットパワー)』を用いて解析します。Wilde らによる検証では、0.5mL/min 以上の心拍出量変化の 88%が PulseCO™ア ルゴリズムで検出されることが実証されています。※4 このアルゴリズムにより LiDCOrapid システムには以下の臨床上の利点があります。 1) ハイパーダイナミック状態及び血管作動薬投与後など血管抵抗が急激に変化する状態でも一定のトレンドの追従性を維持します。※5), ※6) 脈圧および血圧波形解析アルゴリズムでは、血管作動薬による悪影響、特に測定精度の低下につながる血管緊張の影響を受けると考えられますが、血圧波 形ではなく出力に基づく PulseCO™アルゴリズムでは、理論上生理学的な範囲で血管抵抗の変化による影響を受け難いため、血管緊張の変化による CO 変 化を捕える事が可能です。※7)※8) 2) 拍動毎にリアルタイムで解析を行うので投薬や輸液チャレンジなどイベント後の血行動態変化の早期モニタが可能です。 3) PulseCO™アルゴリズムは収縮期圧の部分だけでなく、動脈圧波形全体を解析することから血圧測定ラインのダンピングの影響を受け難く※9) 、血圧波形の形 状変化(共振やいわゆる鈍った波形)による影響を受けませんので LiDCOrapid 心拍出量センサキットには閉鎖採血システム付きの測定ラインもご用意してい ます。 4) 心房細動(AF)時でもトレンドの正確性を維持します。 測定値の誤差要因 次の症例では測定精度に大きく影響がでます。 ① 大動脈弁閉鎖不全症の患者 ② 大動脈内バルーンパンピング施術中 ③ 末梢動脈が高度に衰弱した患者 ④ カテーテル内での血栓やキンク又は気泡混入によって、極端に制動不足または過剰減衰の動脈圧モニタリング・ラインが使用された場合 ⑤ 重篤な不整脈がある場合。また、体外循環離脱後等、低体温患者の場合には測定精度が落ちる場合があります。 また、1回拍出量変動(SVV)と脈圧変動(PPV)は、完全陽圧換気下で非開胸、不整脈が無い場合にのみ成人の輸液反応性の指標として評価が可 能です。 《 参照文献 》 ※1)Volume elasticity characteristics of the human aorta and prediction of the stroke volume from the pressure pulse Remington JW, Noback CR, Hamilton WF, Gold JJ. Am J Physiology (1948)153: 298-308 ※2)The pressure dependent dynamic elasticity of Langewouters GJ, Wesselling KH and Goedhard WA, 35 thoracic and 16 abdominal human aortas in vitro described by a five component model Journal of Biomechanics Volume 18, Issue 8, (1985) Pages 613-620 ※3)A meta-analysis of studies using bias and precision statistics to compare cardiac output measurement techniques Critchley LAH and Critchley JAJH ※4) J Clin Monit Comp (1999) 15: 85-91 An evaluation of cardiac output by five arterial pulse contour techniques during cardiac surgery Wilde RBP, Schreuder JJ, van den Berg PCM, Jansen JRC. Anaesthesia (2007) ; 62: 760-768 ※5) Continuous and intermittent cardiac output measurements in hyperdynamic conditions: pulmonary artery catheter versus lithium dilution technique Costa MG, Della Rocca G, Chiarandini P, Mattelig S, Pompei L, Barriga MS, Reynolds T, Cecconi M, Pietropaoli P (2007) Intensive Care Medicine DOI 10.1007/s00134-007-0878-6 ※6) Hemodynamic Effects of Ephedrine, Phenylephrine, and the Coadministration of Phenylephrine with Oxytocin during Spinal Anesthesia for Elective Cesarean Delivery Robert A. Dyer, et al. Anesthesiology 2009; 111:753–65 ※7) Use of lithium dilution and pulse contour analysis cardiac output determination in anaesthetized horses: a clinical evaluation Hallowell G, Corley K. Vet Anaesth Analg (2005); 32: 201-211 ※8) A Simple volume related model of arterial blood pressure generation Christopher B. Wolff et al , (2008) Adv Exp Med Biol., 614:109-117. ※9) Continuous cardiac output monitoring with pulse contour analysis : A comparison with lithium indicator dilution cardiac output measurement James Pittman et al, Critical Care Med (2005) Vol.33, No.9
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