発電コスト評価の方法とその検討課題 -OECD 専門

総合資源エネルギー調査会
発電コスト検証ワーキンググループ(第1回会合)
資料5
発電コスト評価の方法とその検討課題
-OECD専門家会合の観点から-
平成27年2月18日
日本エネルギー経済研究所
松尾 雄司
発電コストの試算方法について
① モデルプラントによる方法
・ 電源ごとに適切な建設単価・燃料費等を想定してモデル計算を実施し、発電コストを評価。
均等化発電原価(Levelized Cost of Electricity : LCOE)の評価手法として世界的に広く用いられている。
・ あくまでも「想定」に基づく試算であり、将来にわたって発電を行う場合のコストを評価することが多い。
・ 技術そのもののパフォーマンスを評価するためには最適。
例:(国内) コスト等検討小委員会(2004)、コスト等検証委員会(2011)、RITE(2011, 2014)など
(海外) MIT(2009)、OECD(2010)、英DECC(2013)、米DOE/EIA(2014)など
② 有価証券報告書による方法
・ 電力会社の有価証券報告書(財務諸表)から、発電にかかったコストを評価。
・ 「実績値」として、過去の一時点での発電コストを評価するもの。
技術そのもの以外の要因(政治的・社会的等)の影響を含む。
・ 多くの限界はあるものの、①の試算を補完する有用な情報が得られる。
例:(国内) 電力中央研究所(1999)、大島(2010)、
日本エネルギー経済研究所(1992, 1995, 2011, 2013)
2
OECDによる発電コスト試算: 概要
・ OECDの専門機関である原子力機関(NEA)及び
国際エネルギー機関(IEA)の共同プロジェクトとして、
発電コスト評価の専門家会合(Expert Group on Projected Costs of Generating Electricity)を実施。
現在の議長はベルギー・ルーヴェンカトリック大学の
William D’haeseleer教授。
・ 世界各国(主にOECD加盟国)からのデータ提供に
基づき、石炭火力発電、天然ガス火力発電、原子
力発電、各種再生可能エネルギー発電等の発電原
価を統一的な条件のもとで試算。各国・各電源のコ
ストの公平な評価を試みたものであり、世界的に広く
引用されている。
・ 1983年から継続的に実施、試算結果は公開文献
として公表。現状の最新版は2010年に出版された
第7版。
・ 現在、第8版の公開に向けた作業を実施中
(2015年5月頃に出版予定)。
(第7版の出版物)
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OECDによる発電コスト試算: 基本的な考え方と前提条件
※ 各種の技術自体のパフォーマンスを評価。→ 社会的、政策的な要因等については別途の考慮とする。
※ 最新の技術による性能を想定。例えば、原子力・風力・太陽光発電設備の稼働年数については
それぞれ60年、25年及び25年と設定。
※ 各電源の稼働年数や設備利用率について、原則として統一的な値を想定。
但し、社会的・政策的要因等を除いても国ごとに異なるものについては、各国からの提出データを使用。
・ 各種費用(プラント建設費、燃料費等)・・・国ごとの人件費や資材価格の相違等を反映
・ 火力発電の効率等・・・それぞれの国における技術自体のパフォーマンスの差
・ 太陽光、風力等の設備利用率・・・当該技術をその国で利用するための制約条件(立地適地制約等)
◎ 前提条件例(2010年試算)
石炭
火力
天然ガス
火力
原子力
水力
風力
太陽光
稼働年数
40年
30年
60年
80年
25年
25年
設備利用率
85%
85%
85%
廃止措置費用
(建設費に対する比)
5%
5%
15%
(国ごとに設定)
5%
5%
5%
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2010年版の試算結果例:各国試算の中央値(割引率5%)
12 米セント/kWh
(41.1)
9.7
10 8.6
8 CO2対策費
2.2
1.1
6.5
6 5.9
0.9 燃料費
4 2.4
1.5 運転維持費
6.1
1.8
2 7.5
0.6
3.4
0.4
1.0
1.7
天然ガス火力
石炭火力
資本費等
0 原子力
陸上風力
太陽光
・ 割引率は5%及び10%と想定。
・ 現在準備中の2015年版では、最近のコスト低減を踏まえて太陽光発電単価が大幅に下方
修正される見込み。また割引率の想定範囲についても、下方に修正。
5
OECD試算での評価範囲
広義の発電コスト
その他の費用負担
発電コスト専門家会合での評価範囲
狭義の発電コスト
(発電事業者による費用負担)
・ CO2対策コスト
・ 研究開発費用
・ 資本コスト
・ 運転維持コスト
・ 系統対策コスト
・ 燃料コスト
・ 核燃料サイクルコスト
(廃棄物処分、再処理等含む)
・ 廃炉コスト 等
・ 導入促進のための費用
(FITのための追加負担等)
・ 事故リスクコスト
・ 気候変動による被害額 等
発電コスト以外の要因
として考慮すべき事項
・ その他の外部コスト
別途評価対象と
する範囲
・ 基本的に「狭義の発電コスト」、即ち電気事業者の費用負担分に相当するものを対象として評価。
それ以外のものに関しては、「コスト」としての定義は必ずしも明確ではない。
・ 例外として、CO2対策コストについては加算されている(2010年試算では30ドル/tCO2)。
・ その他の「広義の発電コスト」(外部コスト・系統対策コスト等)については、別途詳細に評価することを
想定(OECD内外の諸機関等において評価を実施)。
・ 技術以外の要因(社会的・政策的等)によって変動する費用負担は、「発電コスト」の評価の対象外
と位置づけられている。
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発電コストの評価にあたって考慮すべき点 (1)
・ 基本的にはコスト等検証委員会と同様に、モデルプラントの方法を採用することが合理的。
その上で、適宜有価証券報告書等のデータを用いた評価を行うことも有用。
・ 但し以下の通り、幾つかの点において注意が必要。
① 発電コストの概念・区分の整理
※ 「発電コスト」について
・ OECDにおける議論では、発電コストの評価は「狭義の発電コスト」が基本と整理されている。
・ 但し、政策判断上特に重要であり、かつ影響が大きなものについては、発電コストの一部と
することも現実的な選択肢と考えられる。→ CO2対策費用など
※ 「発電コスト」以外の費用負担について
・ より適切な政策判断のために、上記の発電コスト以外の費用負担(国民負担)についても
できるだけ幅広く評価を行うことは重要。
・ その際、全ての電源について偏ることなく、適正な評価を行う姿勢が不可欠。
・ 但しこれらの「費用負担」については、その概念自体が必ずしも明確でない。また、一般的に
これらの費用の評価は幅(不確実性)が非常に大きい。
→ 国際的な議論との関係を明確にするためにも、狭義の「発電コスト」とは異なるものとしての
位置付けが必要となる。
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発電コストの評価にあたって考慮すべき点 (2)
② コスト評価の方法について(評価方法の再検討)
・ 建設費の計算について、プラント建設時に計上する方法とすることが望ましい。(後述)
・ コスト等検証委員会では運転維持費等について、初期投資額に比例するものと想定。
但し実際には、初期投資額よりもむしろ発電出力の規模に依存するものと考えられる。(後述)
・ 実質額/名目額の区別を明確にする必要あり。
③ 各電源の評価について(最新のデータを用いた評価)
・ 再生可能エネルギーについては、特に太陽光発電パネルの製造コストの低減など、最新の状況
を踏まえて評価を行う必要あり。
・ 原子力についても福島事故の被害額や追加的安全対策等、最新の動向を踏まえる必要。
・ 火力発電については、最新技術の動向を踏まえるとともに、化石燃料価格の考え方を整理する
必要あり。
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[参考] 初期投資(プラント建設等)の計算方法について
12
OECD他による
LCOE評価例
(プラント建設)
(稼働)
費用10
8
6
※ プラント稼働前の
建設費用として計上
4
2
年数
0
‐5 ‐4 ‐3 ‐2 ‐1 0
12
1
2
3
4
5
6
7
8
(プラント建設)
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
(稼働)
10
コスト等
検証委員会
費用
8
6
※ プラント稼働後の
減価償却費として計上
4
2
年数
0
‐5 ‐4 ‐3 ‐2 ‐1 0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
・ OECD試算を含む海外の試算例では、初期投資はプラント建設時の費用として評価することが多い。それに対し、
コスト等検証委員会試算では運転開始後の減価償却費として計上。
・ 合計の費用(割引前の実質額)としては変らないが、割引計算によって若干の相違が生じる。
・ 発電コスト評価の国際的な比較の観点からも、OECD試算と同様、初期投資額は運転開始前に計上することが
望ましい。
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[参考] 発電出力と運転維持費との関係(原子力)
発電設備容量と運転維持費
120,000 建設単価と運転維持費
百万円
12 100,000 ※ 一般電気事業者9社の有価証券
報告書(過去10年平均)等より算出
百万円/kW
10 修繕費
80,000 8 修繕費
60,000 6 諸費
40,000 諸費
4 人件費
20,000 人件費
2 0 0 0
5,000
10,000
15,000
発電設備容量, MW
20,000
15
20
25
30
35
建設単価, 万円/kW
・ 原子力発電コストのうち、運転維持費を構成する人件費、修繕費、諸費等は発電設備容量に比例して
増加する傾向が読み取れる。
・ 一方で、建設単価(単位設備容量当りの建設費)が増加しても、運転維持費は増加しない。
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