非臨床試験

非臨床試験
1. 作用機序
●消化管における糖質の吸収とセイブル
(ミグリトール)
の作用
食物として摂取された炭水化物が体内に吸収され血中へ移行するには、最終的に二糖類水解酵素
(αグルコシダーゼ)
により単糖類にまで消化されることが必要です。
ミグリトールは小腸上部の粘膜上皮細胞の刷子縁に存在する二糖類水解酵素を競合的に阻害すること
により、糖質の消化・吸収を遅延させ、食後血糖の上昇を抑制します。
さらにミグリトールは小腸上部でα-グルコシダーゼ阻害作用を発揮しながら、本剤自体が吸収され小腸
下部へ移行する薬物量が少なくなります。その結果、小腸下部におけるミグリトールのα-グルコシダー
ゼ阻害作用は減弱し、未消化の糖質が徐々に消化・吸収されていきます。
毛細血管
小腸粘膜上皮細胞
小腸内腔
小腸上部
小腸上部
小腸下部
小腸下部
52
大腸
ミグリトール
α-グルコシダーゼ
二糖類
単糖類
α-グルコシダーゼ阻害剤非服用時
小腸上部
食物として摂取された炭水化物はα-アミラーゼ
二糖類
単糖類
やα-グルコシダーゼにより単糖類にまで分解さ
れ、そのほとんどが小腸上部から吸収されます。
その結果、食後の血糖値の推移は、下図のような
急峻なピークを示します。
小腸下部
血糖値
大腸
時間
ミグリトール服用時
❶ ミグリトールは、糖の消化・吸収が盛んな
小腸上部でα-グルコシダーゼを阻害する
ため、食後の急峻な血糖上昇を抑制し、血
糖のピークを低下させます。同時にミグリ
トール自体は小腸上部から吸収されていき
ます。
❷ 小腸下部では、ミグリトールの薬物濃度が
低下するためα-グルコシダーゼ阻害活性
が減弱し、糖質の消化が進み、糖の吸収が
53
起こります。その結果、血糖のピークが後
ろにずれ、なだらかな血糖推移を示します。
ミグリトールは糖質の消化・吸収を遅延させ、
食後の血糖推移をなだらかにします。
❸ 吸収されなかった未消化の糖質が大腸に
到達した場合、腹部膨満・鼓腸・下痢といっ
たα-グルコシダーゼ阻害剤に特徴的な消
化器症状の原因になることがあります。
2. 薬効薬理
(1)
α-グルコシダーゼ阻害作用( in vitro )36、37)
ラット小腸由来の精製α-グルコシダーゼの阻害作用について検討したところ、ミグリトールはα-グルコ
シダーゼを競合的に阻害しました。また、ミグリトールはα-アミラーゼを阻害しませんでした。
●ラット小腸由来の精製α-グルコシダーゼに対する阻害定数
Ki(μmol/L)
スクラーゼ-イソマルターゼ複合体
スクラーゼ
イソマルターゼ
グルコアミラーゼ-マルターゼ複合体
マルターゼ
ミグリトール
アカルボース
ボグリボース
0.087
0.45
0.54
55
0.024
0.27
0.38
0.0057
0.021
Mean、n=3
(Ki:酵素­阻害剤複合体の結合解離定数)
対 象:ラット小腸由来精製α-グルコシダーゼ
方 法:ラット小腸から精製したスクラーゼ-イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性、イソマルターゼ活性及びグルコアミ
ラーゼ-マルターゼ複合体のマルターゼ活性の各種阻害剤による阻害定数、及びミグリトールの阻害様式を求めた。
●ラット小腸刷子縁のα-グルコシダーゼに対する阻害定数
二糖類水解酵素活性
文献
Ki(μmol/L)
ミグリトール
36)
37)
0.10 0.02
0.82 0.10
N.D.
81 5
5.0 0.5
スクラーゼ
イソマルターゼ
グルコアミラーゼ
トレハラーゼ
ラクターゼ
ボグリボース
アカルボース
36)
37)
0.086
0.36
0.21
49
4.85
0.50 0.07
125 11
N.D.
­
­
36)
0.99
46.3
0.009
­
­
0.026 0.003
0.35 0.05
N.D.
­
­
(Ki:酵素­阻害剤複合体の結合解離定数) ­:阻害作用なし N.D.:実施せず
Mean SE、n=3
対 象:ラット小腸刷子縁のα-グルコシダーゼ
方 法:ラットの小腸刷子縁を用いて、スクラーゼ、イソマルターゼ、グルコアミラーゼ、トレハラーゼおよびラクターゼの
各種阻害剤による阻害定数を求めた。
38)
(2)糖質負荷後の血糖上昇に対する作用(ラット)
●投与時期による糖質負荷後血糖上昇に対する作用
(mg・min/dL)
6,000
Mean SE、n=6
**:p<0.01
***:p<0.001
(Dunnett の多重比較検定、
vs 対照群)
5,000
⊿AUC 0-60
54
正常ラットを用いて、糖質負荷後の血糖上昇に対するミグリトールの作用について検討したところ、ミグ
リトールは正常ラットの糖質負荷後の血糖上昇を用量依存的に抑制し、この作用はミグリトールを糖質
と同時に投与した場合に最も強くなりました。
4,000
3,000
2,000
1,000
0
***
糖質負荷30分前投与
糖質負荷同時投与
糖質負荷30分後投与
対照群
**
***
1
3
10 (mg/kg)
ミグリトール群
対 象:SDラット
方 法:絶食させたSDラットにα化でんぷん1g/kgを経口負荷し、ミグリトール
(1、3、10mg/kg)
を糖質負荷の30分前、同
時、及び30分後に投与した。
非臨床試験
38)
(3)各種糖質負荷後の血糖上昇に対する作用(ラット)
異なる種類の糖質を負荷した際の血糖上昇に対するミグリトールの作用について、正常ラットを用いて
検討したところ、グルコースを除く全ての糖質負荷後の血糖上昇を抑制しました。
●各種糖質負荷後血糖上昇に対する作用
[α化でんぷん1g/kg]
[生でんぷん2g/kg]
(mg/dL)
230
(mg/dL)
230
170
170
140
***
***
**
*
***
* ***
**
80
0
30
60
90
負荷後時間
50
120(分)
[スクロース2g/kg]
0
30
60
90
負荷後時間
120(分)
[グルコース2.5g/kg]
(mg/dL)
230
(mg/dL)
230
170
170
血糖値
200
血糖値
200
140
**
***
110
***
***
140
**
110
***
80
50
***
***
110
80
50
**
140
**
***
110
**
血糖値
200
血糖値
200
0
30
80
60
90
120(分)
50
負荷後時間
対照群
ミグリトール 1mg/kg
ミグリトール 3mg/kg
0
30
60
90
120(分)
負荷後時間
Mean SE、n=6
ミグリトール 10mg/kg
*:p<0.05
ミグリトール 100mg/kg
**:p<0.01
***:p<0.001
(Dunnett の多重比較検定、vs 対照群)
対 象:SDラット
方 法:絶食させたSDラットにミグリトール
(1、3、10、100mg/kg)
及び各種糖質
(α化でんぷん1g/kg、生でんぷん2g/kg、
スクロース2g/kg、グルコース2.5g/kg)
を同時に経口投与した。
55
(4)消化管の糖質吸収に対する作用(ラット)38)
スクロース負荷後の血糖値、肝グリコーゲン含量および消化管のスクロース残存量から、ミグリトールが
消化管の糖質吸収に与える影響をラットを用いて検討したところ、10mg/kg以下の投与では、糖質の吸
収量に影響することなくミグリトールの用量に応じて糖質吸収を遅延することが示されました。
●血糖上昇に対する作用
(mg/dL)
群
250
対照群
ミグリトール
200
用量
(経口)
AUC0­6h
(mg・h/dL)
抑制率
3mg/kg
10mg/kg
30mg/kg
845.8
812.9
731.8
634.1
­
3.9
13.5
25.0
(%)
­:測定せず
Mean、n=6
***:p<0.001
(Dunnettの多重比較検定、
vs 対照群)
血糖値
150
*** ***
***
*** ***
***
100
***
***
対照群
ミグリトール3mg/kg
ミグリトール10mg/kg
ミグリトール30mg/kg
50
0
0
1
2
3
4
負荷後時間
5
6
7 (時間)
(一部改変)
●肝グリコーゲン含量に対する作用
(mg/liver)
対照群
ミグリトール3mg/kg
ミグリトール10mg/kg
ミグリトール30mg/kg
140
120
肝グリコーゲン含量
56
Mean、n=6
**:p<0.01
***:p<0.001
(Dunnettの多重比較検定、
vs 対照群)
100
80
60
40
20
0
***
***
**
***
***
0
1
2
3
4
負荷後時間
5
6
(時間)
(一部改変)
非臨床試験
●消化管内スクロース残存量に対する作用
スクロース残存量(mg)
80
60
胃
40
20
***
0
*
**
*
30
小腸
(上部20cm)
*
Mean SE
n=6
*:p<0.05
**:p<0.01
***:p<0.001
(Dunnettの
多重比較検定、
vs 対照群)
20
10
0
小腸
(中央部)
120
90
60
***
***
**
30
***
0
80
60
40
小腸
(下部20cm)
***
***
***
20
***
0
200
***
150
盲腸
***
***
100
***
**
50
0
**
40
大腸
20
***
***
0
300
57
******
***
総量
200
***
***
***
**
100
0
対照群
1
ミグリトール 3mg/kg
3
スクロース負荷後時間
ミグリトール 10mg/kg
6
(時間)
ミグリトール 30mg/kg
(一部改変)
対 象:SDラット
方 法:絶食させたSDラットにミグリトール
(1、3、10、30mg/kg)
をスクロース2.5g/kgと同時に経口投与し、血糖値、
肝グリコーゲン含量および消化管各部位のスクロース残存量を測定した。
(5)
2型糖尿病モデル動物における糖質負荷後の血糖上昇に対する作用
(ラット、スナネズミ)
非肥満及び肥満2型糖尿病モデル動物を用いて、ミグリトールの糖質負荷後の血糖上昇抑制作用を検
討したところ、ミグリトールは糖質負荷後の血糖上昇を用量に依存して抑制しました。
●非肥満2型糖尿病モデル動物の糖質負荷後の血糖上昇に対する作用(ラット)39)
(mg・h/dL)
200
Mean SD、n=8
*:p<0.05
**:p<0.01
(Dunnettの多重比較検定、
vs 対照群)
AUC 0-1h
150
*
**
100
50
0
対照群
1
3
10
(mg/kg)
ミグリトール群
対 象:GKラット
方 法:絶食させたGKラットにミグリトール
(1、3、10mg/kg)
及びスクロース2g/kgを同時に経口投与した。
●肥満2型糖尿病モデル動物の糖質負荷後の血糖上昇に対する作用(スナネズミ)40)
[ミグリトール]
[アカルボース]
(mg/dL)
100
(mg/dL)
100
80
血糖値
58
血糖値
80
60
*
40
20
0
*
30
*
60
*
40
*
*
20
Mean SE、n=6∼10
*:p<0.05(分散分析、vs 対照群)
0
60
90
120
負荷後時間
対照群
ミグリトール 2.5mg/kg
ミグリトール 5mg/kg
ミグリトール 10mg/kg
150(分)
0
Mean SE、n=6∼10
*:p<0.05(分散分析、vs 対照群)
0
30
60
90
120
150(分)
負荷後時間
対照群
アカルボース 2.5mg/kg
アカルボース 5mg/kg
アカルボース 10mg/kg
対 象:糖尿病スナネズミ
方 法:絶食させた糖尿病スナネズミにミグリトール
(2.5、5、10mg/kg)
またはアカルボース
(2.5、5、10mg/kg)
を糖質
(α化したジャガイモでんぷん5g/kg)
と同時に経口投与した。
非臨床試験
3. 一般薬理
41)
試験項目
一般症状及び行動に及ぼす影響
動物
(n)
投与経路
投与量(mg/kg)
試験成績
経口
30、100、300
自発運動に及ぼす影響
(open field法)
ラット(10)
経口
30、100、300
影響なし
麻酔増強作用
(ヘキソバルビタール麻酔)
マウス
(10)
経口
30、100、300
影響なし
マウス
(10)
経口
30、100、300
1 影響なし
2 痙攣誘発閾値の軽度低下
(100及び300mg/kg)
マウス
(10)
経口
30、100、300
影響なし
ラット
(6)
経口
30、100、300
30∼90分に体温の
軽度低下
(300mg/kg)
筋弛緩作用
(懸垂法)
マウス
(10)
経口
30、100、300
影響なし
運動協調性
(回転棒法)
マウス
(10)
経口
30、100、300
影響なし
ラット
(5)
経口
30、100、300
影響なし
一般症状 ・ 中枢神経系
ラット
(6)
痙攣に対する作用
1 最大電撃痙攣
2 ペンチレンテトラゾール痙攣
鎮痛作用
(hot plate法)
体温に及ぼす影響
カタレプシー作用
1例で投与後30及び45分
に流涎、60分以降は消失
(300mg/kg)
自律神経系
呼吸 ・ 循環器系
摘出平滑筋に及ぼす影響(摘出回腸) モルモット
(4) in vitro
影響なし
10­7、10­6、
1 自動運動
10­5、10­4g/mL
2 各収縮薬による収縮
(アセチルコリン、セロトニン、
ヒスタミン、塩化バリウム)
呼吸運動に及ぼす影響
血圧、心拍数、血流量、心収縮力
及び心電図に及ぼす影響
麻酔モルモット 経口
(4∼6)
30、100、300
影響なし
麻酔犬
(6)
十二指腸内
30、100、300
影響なし
ラット
(5)
経口
30、100、300
影響なし
胃粘膜に対する作用
ラット
(20)
経口
30、100、300
影響なし
胃液分泌に対する作用
ラット
(8)
十二指腸内
30、100、300
影響なし
尿量及び尿中電解質に及ぼす影響
ラット
(10)
経口
30、100、300
尿中Na+、Cl­排泄量の軽度
増加
(300mg/kg)
血液学的パラメータに及ぼす影響
ラット
(4∼5) 経口
30、100、300
影響なし
血液凝固系に及ぼす影響
ラット
(4∼5) 経口
30、100、300
影響なし
ラット
(5)
影響なし
消化器系
胃腸管内輸送能
(炭末法)
水 ・ 電解質代謝系及びその他
血小板凝集に及ぼす影響
(コラーゲン誘発)
経口
30、100、300
59
4. 毒性
(1)単回投与毒性試験(ラット、イヌ)42)
動物種
投与経路
概略の致死量
ラット
経口
♂♀:>2,000mg/kg
イヌ
経口
♂♀:>2,000mg/kg
(2)反復投与毒性試験(ラット、イヌ)43)
動物種
ラット
イヌ
投与
期間
投与
経路
13週
経口
100、330、
♂:100mg/kg/日 摂水量 増加、尿中電解質
(Na+、
1,000mg/kg/日 ♀:100mg/kg/日 K+、Cl­)
の排泄 量 減少、尿中電
解質
(Ca2+)
の排泄量増加
52週
経口
250、1,000、
4,000ppm
♂:250ppm
♀:1,000ppm
下痢・軟便、体重増加抑制、血中
コレステロール及びトリグリセリ
ド低値、盲腸拡大
13週
経口
50、150、
450mg/kg/日
♂:50mg/kg/日
♀:50mg/kg/日
軟便・水様便、尿中電解質
(Na+)
の
排泄量減少、血中AST
(GOT)
上昇
52週
経口
20、60、
180mg/kg/日
♂:20mg/kg/日
♀:20mg/kg/日
血中AST
(GOT)
上昇
無毒性量
投与量
主な所見
(3)生殖発生毒性試験(ラット、ウサギ)
44)
1)
妊娠前および妊娠初期投与試験
(ラット)
最高用量の300mg/kg/日の投与で、雄親動物に体重の増加抑制および精巣重量の増加が認められま
したが、軽徴な増加でした。雌親動物、胎児および出生児に対する影響は認められませんでした。
2)
胎児の器官形成期投与試験
(ラット3)、ウサギ2))
60
〈ラット〉
最高用量の450mg/kg/日の投与で胎児体重の低下がみられましたが、発生毒性を示唆する所見は認め
られませんでした。雌親動物、出生児
(F1、F2)
に対する影響は認められませんでした。
〈ウサギ〉
45mg/kg/日の投与で雌親動物に軟便、乏便あるいは無便が認められ、最高用量の200mg/kg/日の投
与では雌 親 動物の体重増 加抑制および摂餌量減少が 認められました。胎児では、最高用量の
200mg/kg/日の投与で体重の低下傾向、骨化遅延、さらに死亡率の増加が認められましたが、催奇形
性を示唆する所見は認められませんでした。
45)
3)
周産期および授乳期投与試験
(ラット)
最高用量の300mg/kg/日の投与で、出生児
(F1)
の死産児数および出生後1週目の死亡児数に増加が
認められました。雌親動物、胎児
(F1)
および出生児
(F2)
の成長・発達および生殖機能への影響は
300mg/kg/日の投与で認められませんでした。
非臨床試験
(4)その他の特殊毒性
46)
1)
抗原性
(マウス、モルモット)
マウスIgE抗体産生試験、モルモット全身性アナフィラキシー試験、及びモルモット細胞親和性抗体産
生試験により検討した結果、ミグリトールに抗原性は認められませんでした。加えて、PHA反応により
IgGおよびIgM抗体の産生も認められませんでした。
47)
2)
遺伝毒性
( in vitro、マウス)
細菌を用いた復帰突然変異試験、染色体異常試験及びマウス小核試験により検討した結果、遺伝毒性
は認められませんでした。また、不定期DNA合成試験、前進性突然変異試験及びマウス優性致死試験
の結果からも遺伝毒性は認められませんでした。
48)
3)
がん原性
(マウス、ラット)
マウスに34、115、382mg/kg/日を雄に、54、164、507mg/kg/日を雌に21ヵ月間、ならびにラットに
7、21、63mg/kg/日を雄に、8、26、72mg/kg/日を雌に2年間混餌投与した結果、がん原性は認められ
ませんでした。
49)
4)
局所刺激性
(ウサギ)
ウサギを用いて皮膚及び眼に対する刺激性・腐蝕性を検討したところ、ミグリトールによる刺激性・腐蝕
性は認められませんでした。
61