産婦人科教室抄読会 平成27年2月23日 NAME TITLE 高橋可菜子 妊娠ごく初期の血清hCG値と妊娠高血圧腎症 BACK GROUND 1. 妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE)は妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension: PIH) の一病型であり、全妊娠の約3 %に認められる。(①) 2. PIHのリスク因子として、35 歳以上、初産、喫煙している妊婦、腎疾患合併、甲状腺疾患合併、本 態性高血圧合併、糖尿病合併および多胎妊娠が挙げられる。単胎妊娠におけるPEのリスク因子 は、35 歳以上、初産、糖尿病合併および腎疾患合併である。(②③) 3. PEは胎盤機能不全、胎児機能不全、fetal growth restriction、子宮内胎児死亡、早産、常位胎盤早 期剥離、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝、子癇、DIC、急性腎不全などの母児生命を危うくする重 篤な合併症を併発しやすく、原則として入院管理が必要である。(④) 4. PIHの発症病態は未だ完全には解明されておらず、現在PIHを予知する決定的な方法もない。 5. 提唱されている仮説の一つとして“2 step theory”がある。(⑤⑥) 6. 妊娠が成立するとtrophoblastからヒト絨毛ゴナドトロピン(human chorionic gonadotrophin: hCG) が分泌される。trophoblastの増殖障害や侵入障害があると母体の血中hCGは低値を示す。胎盤形 成不全がPEの原因であれば、PEの妊婦の血清hCGは低値になる可能性がある。(⑦) 7. hCGとPEとの関連に関する研究は後方視的検討がほとんどであった。(⑧) SUMMARY 1. 1996 年から2010 年にオスロ大学病院でIVF-ET後に妊娠した単胎妊娠患者2,045 名を対象とし、 prospective cohort studyを行った。(⑨⑩) 2. ET後12日目に血清hCG値を測定し(ロシュ社、Elecsys)、その後のPE発症(全PE発症および軽症・重 症PE)との関連を検討した。 3. 血清hCG値はPE発症率と量依存性に逆相関した。血清hCG ≧150 IU/lの妊婦と比べ、血清hCG < 50 IU/lの妊婦ではPE発症率が2 倍であった。重症度別の検討では、血清hCG ≧150 IU/lの妊婦と 比べ、血清hCG <50 IU/lの妊婦では重症PE発症率が4 倍であった。軽症PEでは有意な関係は認 めなかった。(⑪) CONCLUSION 1. 今回の結果は胎盤の形成不全がPE発症に関連するという仮説のprospectiveな証明となっている。 2. IVF-ET後妊婦の管理において、初期の血清hCG低値が重症PE発症の予測に利用できる可能性も あると考えられる。 REFERENCE 1. 妊娠高血圧症候群管理ガイドライン2009 ① 2. 周産期医学 Vol. 44 No. 11 2014-11 ②⑤⑥ 3. J. Obstet. Gynaecol. Res. Vol. 39, No. 2: 2013 ③④ 4. Lancet 2005; 365: 785-99 ④ 5. 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2014 ④ 6. Am J Obstet Gynecol. 2011; 204(3): 193-201 ⑥ 7. Williams OBSTETRICS 24TH edition ⑦ 8. Placeta, 2013 Nov, 34(11): 1059-65 9. Hum Reprod. 2014 Jun; 29(6): 1153-60 ⑨⑩⑪ ① 妊娠高血圧症候群 (pregnancy induced hypertension: PIH) <定義> 妊娠20 週以降、分娩後12 週まで高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿 を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるも のではないもの <病型分類> ① 妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE) 妊娠20 週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿を伴うもので分娩後12週 までに正常に復するもの ② 妊娠高血圧(gestational hypertension: GH) 妊娠20 週以降に初めて高血圧が発症し、分娩後12週までに正常に復するもの ③ 加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia) (1) 高血圧症が妊娠前あるいは妊娠20 週までに存在し妊娠20 週以降 蛋白尿を伴うもの (2) 高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20 週までに存在し、妊娠20 週以降、 いずれか、または両症状が増悪するもの (3) 蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20 週までに存在し、 妊娠20 週以降に高血圧が発症するもの ④ 子癇(eclampsia) 妊娠20 週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定さ れるもの <重症度> 収縮期血圧: 140 mmHg 以上 拡張期血圧: 90 mmHg 以上 蛋白尿: 300 mg/day 以上 軽症 収縮期血圧: 160 mmHg 以上 拡張期血圧: 110 mmHg 以上 蛋白尿: 2 g/day 以上 重症 ② PIHのリスク因子 35 歳以上、初産、多胎妊娠、喫煙している妊婦、糖尿病合併、本 体性高血圧合併、腎疾患合併、甲状腺疾患合併は PIHのリスク因子 ③ 単胎妊娠におけるPEのリスク因子 日本の24,192 人の単胎妊娠女性について検討 35 歳以上、初産、糖尿病合併、腎疾患合併はPEのリスク因子 ④ PEの周産期予後・合併症 NBP: normal blood pressure NBP vs GH NBP vs PE GH vs PE 常位胎盤早期剥離 HELLP症候群 肺水腫 急性腎不全 早産 FGR 周産期死亡 PEは胎盤機能不全、胎児機能不全、fetal growth restriction、子宮内胎児死亡、 早産、常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝、子癇、DIC、急性 腎不全などの母児生命を危うくする重篤な合併症を併発しやすく、原則として 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2014 入院管理が必要である。 ⑤ 2 step theory ⑥ 胎盤の形成不全 トロホブラストが脱落膜に 侵入 トロホブラストの浅い侵入 “shallow invasion” ラセン動脈の血管平滑筋 がトロホブラストに 置き換えられる 血管の拡張が不十分 絨毛間腔に十分な血液 が流入しない 血管は収縮性を失い 拡張 胎盤形成不全 ⑦ ヒト絨毛ゴナドトロピン (human chorionic gonadotrophin: hCG) ・ trophoblastから分泌される ・ 機能:妊娠黄体を刺激→progesterone分泌を維持 胎児副腎を刺激してdehydroepiandrosteroneの産生を促す 胎児精巣のLeidig細胞を刺激してtesrsterone分泌を促す trophoblastの分化を促す trophoblastの侵入を促す 胎盤の形成不全があると血清hCGは低値に ➡ PE(PIH)の原因が胎盤形成不全であれば血清hCGは低値に? ⑧ 2008 年から2010 年にクオピオ大学病院でDown症候群スクリーニングのために 妊娠8-13 週で血液検査を受けた12,615 名の妊婦について検討 P< 0.05 P< 0.05 妊娠8~13 週での血清hyperglycosylated hCG(hCG-h)値はコントロール群に比べて PE、Early-onset PE群では有意に低値であった hCGとPEとの関連に関する研究は後方視的検討がほとんどであった ⑨ 対象: 1996 年から2010 年にオスロ大学病院でIVF-ET後に妊娠した単胎妊娠患者2,045 名 20 週以上妊娠を継続した3,422 名 429 名 hCG測定せず 588 名 多胎妊娠 2,045 名について検討 方法: ET後12 日目に血清hCG値を測定(ロシュ社、Elecsys) その後のPE発症(全PE発症および軽症・重症PE)との関連を検討 ⑩ 患者特性 2.0 % 4.4 % ・ 分娩時の母体年齢は、PE群(重症・軽症)と非PE群とで有意差なし ・ 妊娠前の母体BMIは、非PE群に比べてPE群で有意に高値 ・ PE群では早産が17 例 ⑪ 結果 ・ 血清hCG値はPE発症率と量依存性に逆相関 ・ 血清hCG ≧150 IU/lの妊婦と比べ、血清hCG <50 IU/lの妊婦ではPE発症率が2 倍 ・ 重症度別の検討 血清hCG ≧150 IU/lの妊婦と比べ、血清hCG <50 IU/lの妊婦では重症PE発症率が4 倍 軽症PEでは有意な関係は認めず 1. 今回の結果は胎盤の形成不全がPE発症に関連するという仮説の prospectiveな証明となっている 2. IVF-ET後妊婦の管理において、初期の血清hCG低値が重症PE発症の 予測に利用できる可能性もあると考えられる
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