学生発表会 子どもたちの進路形成とその階層性に関する一考察 ―「塾」の意味についての多角的検討から― 教育デザインコース 臨床教育領域 峯村 恒平 1. はじめに 3. 分析結果と考察 教育社会学の文脈では、「どのような階層の子どもが まずは、①について検討するため、そもそも上位校と 学力を獲得していくのか」という議論が、一つの潮流と 下位校で塾に通う生徒に差があるかを検討した。その結 なっている。その研究成果として、親の学歴や親の経済 果、表1に示すとおり、大きな差があることが明らかに 状況と、子どもの学力や地位達成に一定の関係があるこ なり、χ2検定の結果、p<.01 水準で有意であった。 とは多数の論文が示している通りである。しかし、どの 表1:上位校と下位校とでの塾通い者数の差 ような階層の子どもが「どのように」学力を獲得してい くのか、といった過程に関する研究は進んでおらず、塾 や親の教育投資などとの量的な相関関係を示すにとどま るものが多い。本研究では、有海拓巳 (2011) の都市部 と地方部の進学校の高校生を対象にした調査より得られ た「都市部の進学校の高校生は『地位達成志向』と学習 上位校 下位校 合 計 塾通い 非塾通い 計 274 175 449 61.0% 39.0% 100.0% 68 726 794 8.6% 91.4% 100.0% 342 901 1243 時間に統計的に有意な関係がある」という知見と、「塾 さらに、塾通いかそうでないかで、地位達成傾向に や大学等の教育機会が多くあること」がインセンティブ 差があるかt検定を行ったところ、有意差が見られた につながっているという考察に基づき、有海が明らかに (t=4.70、df=1211、p<.01) 。しかし、上位校と下位校 していない、①都市部の高校生の中で、地位達成傾向が とで塾通いの人数に大きな差があり、これは学校間の差 強いのは塾に通う子どもなのかについてと、②塾と勉強 か、塾通いの差なのかはっきりしない。そこで、上位校 行動にどのような関係があるか検討をする、ということ 内で塾通いかで地位達成傾向に差があるかt検定を行っ を目的とし、調査分析を行った。 たところ有意差が見られ (t=1.86、df=435、p<.10) たが、 下位校では有意差が無かった。このことから、塾と地位 2. 調査方法 神奈川県内のいわゆる進学校 2 校の生徒から計 447 達成傾向に関係があるのは上位校の生徒間のみといえ る。 人と、いわゆる下位校 2 校の生徒から計 796 人、計 さらに、O 君からの聞き取りでは、塾では勉強だけで 1243 人を対象に、調査票調査を行った。質問は多岐に はなく、進路の相談場所としても有効に活用していると わたるが、その中から、塾通いかどうかと、地位達成傾 いう話を聞くことができた。 向を分析に用いた。地位達成傾向は有海 (2011) を参考 これらのことから、上位校の生徒は塾を進路相談の場 に、職業選びの際「社会的な地位が高い職業・就職先で 所として活用する中で、どのような地位達成を目指すか あること」と「高い収入が得られる職業・就職先である を強化し、勉強へのインセンティブとしている過程が存 こと」を「全く重視しない」から、「とても重視する」 在する可能性が示唆された。 の5件法で聞き、2項目を平均した値を分析では用いた (α= .72)。 4. 当日の成果と今後の課題 さらに、中堅私立学校E校の上位コースに所属し、か 発表当日は、進学志向との関連なども示したが、それ つ塾に通っている生徒 O 氏からの聞き取りも行い、考 らも含め分析方法へのご指摘と、今後への貴重な示唆を 察の折に参考にした。 頂いた。学校間の差についてはさらに検討していきたい。 教育デザイン研究 第6号(2015年1月) 75
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