2015年問題で加速する

特集
ITエンジニアの不足が深刻化するとされる
「2015年問題」の年に入り、多くの現場
で人不足が顕著になってきた。そんな厳し
い状況でも、開発プロセスを見直して効率
化したり、チームの実力を高めたりするチャ
ンスと捉え、前向きに進むリーダーたちがい
る。プロジェクトを成功に導くリーダーたちの
ワザを紹介する。
(島津 忠承)
特 集
年問題で加速する 人不足時代のリーダー
2015
る
す
速
加
で
題
問
年
2015
20
22
PART 1
人不足はむしろチャンス
32
PART 4
早く育つ仕掛けを用意する
24
PART 2
実録!人不足プロジェクトを乗り切る
36
PART 5
時間ロスの芽を摘み取る
28
PART 3
タスクを“手抜く”
39
PART 6
クラウドソーシングを使いこなす
NIKKEI SYSTEMS 2015.3
特 集
年問題で加速する 人不足時代のリーダー
2015
21
NIKKEI SYSTEMS 2015.3
人不足はむしろチャンス
現有戦力だけでプロジェクト完遂
成功リーダーが凝らす四つの工夫
IT現場の人不足が顕著になってきた。
応援を要請しても集まらず、現有戦力で頑張らざるを得ない。
だがそんな逆境をチャンスに変え、四つの工夫で乗り越えるリーダーもいる。
特 集
年問題で加速する 人不足時代のリーダー
2015
日本郵政グループ、社会保障・税番
氏(マネジャー)は「パートナー企業
業のIT人材の『量』に対する過不足
号(マイナンバー)制度といった大型
に10人の応援を要請しても、最近は2
感に関する調査」も、現場の人不足を
のシステム構築プロジェクトが相次
~ 3人しか集まらないことがほとん
裏付ける。年を追うごとに「大幅に不
ぎ、ITエンジニア不足が深刻になると
ど」と話す。SCSKの湯浅要治氏(金
足」
「やや不足」の割合が高まり、2013
される2015年に入った。既に多くの
融システム第三事業本部 総合金融シ
年度は8割以上に達した(図2)
。2008
IT現場で人不足が顕著になっている。
ステム第三部 リース第一課長)は「大
年のリーマンショック以前の好況時に
現場のリーダーたちも「人が足りない」
規模プロジェクトでJavaの技術者が必
匹敵するという。
と口をそろえる(図1)
。
要になったが、20社に声を掛けてもな
さらにIPAの片岡 晃氏(IT人材育
アビームコンサルティングの矢野智
かなか集まらなかった」と言う。
成本部 イノベーション人材センター
一氏(執行役員 プリンシパル プロセ
リーダーが手を尽くし、なんとか必
センター長)は、
「量だけでなく、質
ス&テクノロジー第1事業部 FMCセク
要な人数を確保できたときも安心でき
の面でも不足が深刻化している」と指
ター)は「以前は構築するシステムの
ない。インテックの森下栄治氏(NSG
摘する。ユーザー企業の間ではWeb系
対象業務を熟知したメンバーを専任担
事業部 PMグループ)らのチームは、
のシステムの開発、または活用のニー
当で加えられたが、
今はそれが難しい」
プロジェクト計画を立てた直後に中核
ズが高まっている。
と打ち明ける。若手のメンバーにじっ
メンバー 2人を別の大型プロジェクト
しかしWeb技術を得意とするITエン
くり経験を積ませるゆとりも無くなっ
の応援に出さざるを得なくなった。代
ジニアは、オンラインゲームなど企業
てきたという。
役として確保できたのは経験が浅い若
情報システム以外の業界との取り合い
チームメンバーの不足を解消しよう
手1人だけ。
「どうやって乗り切るか悩
になっており、なかなか増えない。そ
とパートナー企業に応援を要請して
んだ」
(森下氏)
。
れが質不足につながっているという。
も、それが難しくなっている。パート
ナーも人不足の状況に陥っているから
だ。例えばウルシステムズの前岩浩史
リーマンショック以前の不足感に
情報処理推進機構(IPA)の「IT企
チームは駒不足、パートナーの応援
も頼れない。そんな逆境にIT現場の
リーダーたちは置かれている。
タスクは減らし、育成を仕組み化
業務が分かる人材を
確保できない
10人要請しても
調達できるのは2∼3人
だが、人が足りないチームにもかか
わらず、円滑にプロジェクトを運営す
るリーダーは確かにいる。そうした
リーダーたちに共通するのは、逆境を
20社に声をかけても
なかなか集まらなかった
ITチームのリーダー
大型プロジェクトの応援に
中核メンバーを取られた
1 2015年、人不足に悩む現場の証言
図
業務が分かる人材を確保できない、応援を要請しても集まらないなどの声が上がった
22
NIKKEI SYSTEMS 2015.3
むしろ前向きに捉え、既存の開発プロ
セスを見直して効率化したり、開発生
産性を高める工夫を取り入れてチーム
の実力を高めたりするチャンスに変え
2015年問題で加速する
ていることだ。
IT企業のIT人材の「量」
に対する過不足感
人不足のチームでプロジェクトを成
功させているリーダーは、主に四つの
アプローチを取る。
(1)タスクを “手
抜く”、
(2)早く育つ仕掛けを用意す
る、
(3)時間ロスの芽を摘み取る、
(4)
クラウドソーシングを使いこなす、だ
(図3)
。
(1)のタスクを “手抜く” は、タスク
を人手に見合った量に減らすこと。シ
大幅に不足
2009年度
(回答数621) 5.0
1.7
19.0
0
10
人不足の状況で特に重要だ。メンバー
が限られる以上、ひとたび遅れが発生
してしまうと挽回が難しい。だからこ
そメンバーや利用部門のキーパーソン
といった関係者の行動や発言から、遅
2.8
24.1
1.4
30
40
50
0.4
16.1
63.2
20
1.1
60
70
80
90
100(%)
情報処理推進機構
「IT人材白書」
2010年∼2014年版の調査結果を基に作成
2 8割以上のIT企業が人不足
図
2009年度以降、年を追うごとに不足感が増している。大幅に不足を訴える企業の割合だけでも2割近くに到
達した
(1)
タスクを 手抜く
プロジェクトに
不可欠なタスク
(2)早く育つ仕掛けを用意する
やったほうが
よいタスク
実力
アップ
チームで
できることが
増えた !
やらずに済む方法を
真剣に考えよう
ことを増やすためだ。実力の伸びしろ
(3)の時間ロスの芽を摘み取るは、
不足感
高まる
29.1
59.8
タスクの総量を減らしたら、
(2)の
てる、現場の工夫がある。
1.8
4.4
55.6
2013年度
(回答数790)
考えると、アイデアが浮かんでくる。
が大きい若手のメンバーを短期間で育
10.1
39.2
43.5
2012年度
12.2
(回答数564)
いか」
「簡単なやり方にできないか」と
ローチに注目したい。チームでできる
2.4
13.0
35.7
2011年度
(回答数549) 9.1
これらに対し、
「やらずに済ませられな
早く育つ仕組みを用意するというアプ
無回答
メンバー
メンバー
仕組み
リーダー
(3)時間ロスの芽を摘み取る
大きくなる
前に摘んで
おこう
年問題で加速する 人不足時代のリーダー
2015
よい」というレベル感のタスクがある。
やや過剰である
特 集
発プロセスを見直すと、
「やったほうが
特に過不足はない
43.8
2010年度 5.4
(回答数533)
ステム構築対象のスコープを狭められ
なくても、大いに検討余地がある。開
やや不足
時間ロス
(4)
クラウドソーシングを使いこなす
ネット経由の
新戦力だ
フリーの
ITエンジニアなど
3 普段のルートで人手が集まらないプロジェクトを乗り越えるアプローチ
図
(1)タスクを “手抜く”、
(2)早く育つ仕掛けを用意する、
(3)時間ロスの芽を摘み取る、
(4)クラウドソーシ
ングを使いこなす、の四つがある
れにつながる兆候に気付き、先手を打
つながる。今直面する人不足の状況を
つべきだ。
ルートとは別に、ネット経由で人的リ
ここまでの三つのアプローチを取り
ソースを確保できるわけだ。
入れても、なお人不足を解消し切れな
ネット経由での人的リソースの調達
ルアップのチャンス」と、前向きに捉
い。そんなときに有力な一手として
は、チームが期待するスキルとのミス
えてはどうだろうか。
マッチが起こらないかといった懸念が
四つのアプローチを詳しく見る前
クラウドソーシングは、インターネッ
当然生じる。それでも最近は、工夫を
に、まずは人不足のプロジェクトを立
トを介して業務の発注者と受注者を
凝らし、設計や実装といった中核業務
て直したあるリーダーが、実際に何に
マッチングさせるサービス。ここでい
に活用する事例が増えつつある。
どう取り組んだのか見ていこう。あな
うクラウドとは、
「雲(Cloud)ではな
これら四つのアプローチはいずれ
たのチームも人不足を乗り越えられる
く、
「群衆(Crowd)
」を指す。既存の
も、業務の見直しやチーム力の向上に
というイメージをつかめるはずだ。
(4)のクラウドソーシングがある。
「新しい開発プロセスへの挑戦」
「スキ
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