® 2015 年 3月号 医療の最新情報をピンポイントで伝える 介護報酬改定の 医療機関への 影響 そのポイントを 読み解く POINT 2 2015 年度介護報酬改定が、社会保障審議会から塩崎 恭久厚生労働相に答申されました。全体の改定率はマイ ナス2.27%。1万 2000 円相当の介護職員処遇改善加算 が手当てされる一方で、サービスの種類を問わず、基本 報酬が軒並み大幅に減額されています。14 年度の診療 報酬改定や、同じく昨年に成立した医療介護総合確保推 進法では、 「在宅へ」という流れで医介連携が強調されて いるなか、病院にとっての「連携先」である介護事業者に どのような影響を与える介護報酬改定なのでしょうか。 1 2015 年度介護報酬改定の概要 高く設定されており、基本報酬の減額 分の一定程度は補えるものと見られます (表1) 。 015 年度介護報酬改定の基本方 こうした数字通り、③のサービス評 また、全体的に減額されたものが多 針は、大きく、①中重度の要介護 価の適正化については、ほぼすべて いなかで、処遇改善以外にもプラス評 者や認知症高齢者への対応の更なる のサービスで、基本報酬が大きく減額 価となったもの、あるいは新設された 強化、②介護人材確保対策の推進、 されました。介護老人福祉施設(特別 加算もいくつかあります。中重度の要 ③サービス評価の適正化と効率的な 養護老人ホーム)では、概ね 6%弱の 介護者や認知症への対応、質の高い サービス提供体制の構築――の三本 減額となっています。一方で、別枠と 訪問リハビリテーションに関する加算等 柱です。改定率は、▲ 2.27% (在宅分 された介護職員処遇改善加算は、新 です。 ▲ 1.42%、施設分▲ 0.85%) 。ただし たに最上位のランクを設け、 「介護職 こうした傾向を見ていくと、介護事業 このなかに、②の目玉である介護職員 員処遇改善加算(Ⅰ) 」 としました。従来 者は、従来のままでは経営が厳しくなっ 処 遇 改 善 加 算 の 拡 充 分とし て+ の加算 (Ⅰ) ~ (Ⅲ) は、加算 (Ⅱ) ~ (Ⅳ) に ていくことは確かでしょう。 「生き残り」の 1.65%、認知症・中重度者対応の評 相当することになります。最上位の加算 ためには、中重度者や認知症の介護、 価分で+0.56%が含まれるため、実質 (Ⅰ) は、 現行の加算 (Ⅰ) の 2 倍程度の 2.0 あるいは在宅での生活をできるだけ維 的なマイナス幅は 4.48%に上ると考える ~ 8.6%とされました。また、新たな加算 持する機能に注力する、などの方向 こともできます。 POINT (Ⅱ)でも現行の加算(Ⅰ) より基本的には 2 特養は中重度、老健は在宅復帰にシフト 基 本方針①の中重度・認知症対 ています。 性が考えられます。 支援加算、▽在宅・入所相互利用加 算――がそれぞれ評価され、中重度 支援体制と併せ、看取り期の対応や 在宅との連携にも報酬による誘導が 応についてはさらに、▽中重 特養では、昨年の介護保険法改正 度の要介護者等を支援するための重 により、入所者は原則として要介護 恐らく多くの特養では、経営的な 点的な対応、▽活動と参加に焦点を 度 3 以上とされました。今次改定で 意味で、入所者の受け入れを中重度 当てたリハビリテーションの推進、 も、基本報酬の減額幅は要介護度が 者と認知症にシフトしていくものと ▽看取り期における対応の充実、▽ 低いほど大きく、重度者の受け入れ 考えていいでしょう。ですから病院 口腔・栄養管理に係る取り組みの充 に傾斜配分された格好です。また、 としては、入院受け入れと退院先の 実――の 4 項目が、具体的に示され ▽看取り介護加算、▽日常生活継続 両面で、そうした特養の環境を踏ま 1 なされていることがわかります。 ® えた対応が必要になるでしょう。ま た特に中小病院においては、看取り や訪問診療、訪問看護など、特養と の接点が増えることが想定されま す。あらためて、こうした状況を踏 まえた連携関係の構築が必要になる かもしれません。 一方介護老人保健施設でも、特養 と同様に基本報酬は減額されていま す。しかし、 「在宅復帰支援機能の さらなる強化」が掲げられており、 通常型ではマイナス 3%程度なのに 対し、在宅強化型はマイナス1.6%程 度と差がつけられています。また、 在宅復帰・在宅療養支援機能加算が 1日 21 単位から 27 単位に上がってい ます。インセンティブとして、老健 の在宅復帰支援機能を強化する方向 加算(Ⅰ) 棟 7 対 1 入院基本料の施設基準に「自 宅等退院患者割合 75%以上」が新設 されましたが、老健では在宅強化型 か同加算を算定している施設のみが 4.8% 4.0% (介護予防)訪問入浴介護 3.4% 1.9% 1.8% (介護予防)通所介護 4.0% 2.2% 1.9% (介護予防)通所リハビリテーション 3.4% 1.9% 1.7% (介護予防)短期入所生活介護 5.9% 3.3% 2.5% (介護予防)短期入所療養介護(老健) 2.7% 1.5% 1.5% (介護予防)短期入所療養介護(病院等) 2.0% 1.1% 1.1% (介護予防)特定施設入居者生活介護 6.1% 3.4% 3.0% 介護老人福祉施設 5.9% 3.3% 2.5% 介護老人保健施設 2.7% 1.5% 1.5% 介護療養型医療施設 2.0% 1.1% 1.1% 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 8.6% 4.8% 4.0% 夜間対応型訪問介護 (介護予防)認知症対応型通所介護 化型や加算を取るよう働きかけてい くことも視野に入れておくといいで しょう。 4.0% 2.9% 7.6% 4.2% 4.2% 8.3% 4.6% 3.9% 地域密着型特定施設入居者生活介護 6.1% 3.4% 3.0% 地域密着型介護老人福祉施設 5.9% 3.3% 2.5% 複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護) 7.6% 4.2% 4.2% ※(Ⅲ)は(Ⅱ)の90%、 (Ⅳ)は(Ⅱ)の80%を算定 ※(介護予防)訪問看護、 (介護予防)訪問リハビリテーション、 (介護予防)居宅療養管理指導、 (介護予防)福祉用具貸与、 特定(介護予 防)福祉用具販売、 居宅介護支援、 介護予防支援については加算算定対象外 ※算定要件等 次に掲げる基準のいずれにも適合すること。 ①介護職員の賃金(退職手当を除く)の改善に要する費用の見込額が介護職員処遇改善加算の算定見込額を上回る賃金改善 に関する計画を策定し、 当該計画に基づき適切な措置を講じていること ②指定事業所において、①の賃金改善に関する計画、当該計画の実施期間や実施方法その他の介護職員の処遇改善の計画等 を記載した介護職員処遇改善計画書を作成して全介護職員に周知し、都道府県知事(指定市・中核市は市町)に届け出ている こと ③介護職員処遇改善加算の算定額に相当する賃金改善を実施すること ④事業年度ごとに介護職員の処遇改善に関する実績を都道府県知事に報告すること ⑤算定日が属する月の前 12カ月間に、 労働基準法その他の労働に関する法令に違反し、 罰金以上の刑に処せられていないこと ⑥当該指定事業所において、 労働保険料の納付が適正に行われていること ⑦次に掲げる基準のいずれにも適合すること。 ( 1 )介護職員の任用の際、 職責や職務内容等の要件(賃金に関するものを含む) を定めていること ( 2( ) 1 )の要件について書面を作成し、 全介護職員に周知していること ( 3 )介護職員の資質の向上の支援に関する計画を策定し、 当該計画に係る研修の実施または研修の機会を確保していること ( 4( ) 3 )について、 全介護職員に周知していること ⑧ 2015 年4月から②の届出の日の属する月の前月までに実施した介護職員の処遇改善の内容(賃金改善に関するものを除く)お よび当該介護職員の処遇改善に要した費用を全職員に周知していること 次に掲げる基準のいずれにも適合すること ①加算(Ⅰ)①から⑥までに掲げる基準に適合すること ②次に掲げる基準のいずれかに適合すること ( 1 )次に掲げる要件のすべてに適合すること a. 介護職員の任用の際に職責や職務内容等の要件(賃金に関するものを含む) を定めていること b.aの要件について書面を作成し、 全介護職員に周知していること ( 2 )次に掲げる要件のすべてに適合すること a. 介護職員の資質の向上の支援に関する計画を策定し、 当該計画に係る研修の実施または研修の機会を確保していること b.aについて、 全介護職員に周知していること ③ 2008 年 10月から (1)②の届出の日の属する月の前月までに実施した介護職員の処遇改善の内容(賃金改善に関するものを除 く)や当該介護職員の処遇改善に要した費用を全職員に周知していること まとめ 訪 4.8% 3.8% (介護予防)小規模多機能型居宅介護 ●介護職員処遇改善加算(Ⅱ) 環境によっては、老健施設に在宅強 8.6% 6.8% (介護予防)認知症対応型共同生活介護 の急性期病院にとって、 「退院先」と ていくものと考えられます。地域の 旧加算(Ⅰ) 8.6% 「自宅等」に含まれます。特に「7 対 1」 しての老健の位置づけは大きくなっ 加算(Ⅱ) (介護予防)訪問介護 ●介護職員処遇改善加算(Ⅰ) 2014 年度診療報酬改定で、一般病 3月号 表 1 介護職員処遇改善加算のサービス別加算率 性が明確で、今後もこの方向性は継 続するものと考えられます。 2015 年 養管理の充実――といます。 医療機関として考えなければなら 問系、通所系のサービスでも、 かで盛んに使われた「ほぼ在宅、と ないのは、こうした仕組みのなかで 認知症対応や中重度者の受け きどき入院」という考え方を、介護 どのようにかかわっていくのかとい 入れなどに対しての評価がされてい 報酬のなかでもインセンティブとし うことです。それがすなわち、地域 ます。厚労省としては、要介護度が て取り入れていると言うことができ 包括ケアシステム構築に参画すると 高くなってもこうした資源を利用し るでしょう。それを支えるために、 いうことになるはずです。15 年度介 て在宅で暮らし続ける高齢者が増え 介護事業者が取り組むべき具体的な 護報酬改定は、まさにそうしたメッ ることを狙っていると考えられま 施策が、▽中重度対応、▽リハビリ セージを発しているのではないで す。14 年度診療報酬改定の議論のな の推進、▽看取り対応、▽口腔・栄 しょうか。 2 ® 解説版 2015 年 3月号 介護療養で「機能強化型」新設の意味 介護療養型医療施設(介護療養病 表 2 療養病床を有する病院における介護療養施設サービスの単位数 療養機能強化型 A(多床室) 床)は 2018 年 3 月末で廃止される方 針に変化はありません。しかし今次 改定では、医療ニーズの高い高齢者 あるいは認知症で身体合併症のある 高齢者への対応など、介護療養病床 が担う機能を強化するとして、新た に「療養機能強化型 A」 「療養機能強 化型 B」が新設されました。報酬単 位と要件は表2に示します。 3 年間に限定された報酬となりま すが、皮肉な言い方をすれば、介護 そして創設に際しては、「療養機 −2.5% 873 −2.5% 要介護度 3 1,130 要介護度 3 1,102 −2.5% 要介護度 4 1,230 要介護度 4 1,199 −2.5% 要介護度 5 1,320 要介護度 5 1,287 −2.5% 要介護度 1 745 −5.2% 要介護度 2 848 −5.3% 要介護度 3 1,071 −5.2% 要介護度 4 1,166 −5.2% 要介護度 5 1,251 −5.2% ※いずれも看護 6:1、 介護 4:1 ※算定要件等 その他(多床室) ①次のいずれにも適合すること ( 1 )算定日が属する月の前 3月間における入院患者等のうち、重篤な身体疾患を有する者及び身体合併症を有する認知症高齢 者の占める割合が 100 分の50 以上であること ( 2 )算定日が属する月の前 3月間における入院患者等のうち、喀痰(かくたん)吸引、経管栄養、インスリン注射が実施された者の 占める割合が 100 分の50 以上であること ②算定日が属する月の前 3月間における入院患者等のうち、次のいずれにも適合する者の占める割合が 100 分の10 以上であること ( 1 )医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した者であること ( 2 )入院患者又はその家族等の同意を得て、 入院患者のターミナルケアに係る計画が作成されていること ( 3 )医師、看護師、介護職員等が共同して、入院患者の状態または家族の求め等に応じ随時、本人またはその家族への説明を行 い、 同意を得てターミナルケアが行われていること ③生活機能を維持改善するリハビリテーションを行っていること ④地域に貢献する活動を行っていること ※人員配置基準は略 ①次のいずれにも適合すること ( 1 )算定日が属する月の前 3月間における入院患者等のうち、重篤な身体疾患を有する者および身体合併症を有する認知症高 齢者の占める割合が 100 分の50 以上であること (療養病床を有する診療所の場合は100 分の40 以上) ( 2 )算定日が属する月の前 3月間における入院患者等のうち、喀痰吸引、経管栄養、またはインスリン注射が実施された者の占め る割合が 100 分の30 以上であること (療養病床を有する診療所の場合は100 分の20 以上) ②算定日が属する月の前 3月間における入院患者等のうち、 次のいずれにも適合する者の占める割合が 100 分の5 以上であること ( 1 )医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した者であること ( 2 )入院患者またはその家族等の同意を得て、 入院患者のターミナルケアに係る計画が作成されていること ( 3 )医師、看護師、介護職員等が共同して、入院患者の状態または家族の求め等に応じ随時、本人またはその家族への説明を行 い、 同意を得てターミナルケアが行われていること ③生活機能を維持改善するリハビリテーションを行っていること ④地域に貢献する活動を行っていること ※人員配置基準は省略 処遇改善は「加算」の形で継続 今次改定では、介護職員処遇改善 −1.0% 766 療養機能強化型B が必須だと思われます。 1,307 要介護度 2 老健などに転換させられる可能性が の 「療養機能強化型」を算定すること −1.0% 要介護度 5 要介護度 1 いうことが考えられます。通常型は いきたいと考えるならば、今からこ 1,218 895 がこの新カテゴリーに移行できると 介護療養機能をこの先も発揮して −1.0% 要介護度 4 要介護度 2 能強化型」を取っているところだけ 高いでしょう。 1,119 療養機能強化型 B(多床室) 療養機能強化型A です。 −1.0% 要介護度 3 786 しょうか。ただしそれが医療機関と してかどうかは、現時点では不透明 −1.0% 886 要介護度 1 えることもできます。恐らく、廃止 ゴリーが創設されるのではないで 778 要介護度 2 2012 年度改定(多床室) 療養病床廃止時を見据えたものと考 後に介護療養機能を持つ新たなカテ 要介護度 1 外となっています。 会介護給付費分科会の議論のなかで は、介護報酬上の「加算」という形で いいのか、疑問を呈する意見もあり 加算が月1 万 2000 円程度を目安とし 介護保険事業者にとって、人材確 ました。また、介護報酬は事業者に て拡充されました。しかし、この加 保が難しいのは介護職だけではあり 対して支払われるため、マイナス改 算の対象は介護職員であり、ケアマ ません。看護職の確保にも困難を極 定のなかでは実効性に乏しいのでは ネジャーや看護師は対象外となって めています。一方病院などでは、加 ないか、ということも言われていま います。さらに、介護保険の報酬に 算を得ている介護保険施設と、介護 す。公平性と実効性を担保するため 加算されるため、医療療養型をはじ 職の獲得競争をしなければならない にも、次期改定までに介護職員の処 めとする医療機関で介護や「看護補 という状況になっています。 遇改善に対する支援のあり方は、再 助」業務に従事する介護職員も対象 3 15 年度改定に向けた社会保障審議 検討されるのではないでしょうか。 はテルモ株式会社の商標です。TERUNET、テルネットはテルモ株式会社の登録商標です。Ⓒテルモ株式会社 2015 年 3 月 14M I030 はテルモ株式会社の商標です。Terumo Medical Pranex、 テルモメディカルプラネックスはテルモ株式会社の登録商標です。 © テルモ株式会社 2015 年 1 月 4
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