③ トラフグ資源 ~カラスフグの二の舞は防げるか?~ 山口県水産研究センター内海研究部 海洋資源グループ 天野千絵 はじめに 山口県周辺海域でとれる「天然トラフグ」は、ふぐ類の頂点にある最高級魚であり、 漁業者にとっては一番稼げる、魅力あるフグである。 ところで、かつて遠洋ふぐ延縄の主要対象魚種であったカラスは、下関唐戸魚市場 ㈱の取扱量が最盛期の 1967 年度には 4,000 トラフグ(外海+内海) 3,603 トンもあったが、1970~1980 カラス 年代乱獲により激減、1996 年度以降 3,000 は 10 トン未満で推移、2014(H26)年 2,000 度 2.7 トン(最盛期の 0.07%)と全く 回復していない。これを受け 2014 年 11 月、国際自然保護連合(IUCN)は カラスを「絶滅危惧ⅠA 類」に指定し た。 取扱量(トン) 1 1,000 0 1965 1975 1985 1995 2005 2015 年度 図:下関唐戸魚市場㈱におけるトラフグとカラスの取扱量(1967~2013 年度) 一方、トラフグも同市場の取扱量が最盛期 1987(S62)年度 1,891 トンから 2012(H24) 年度に統計史上最低の 109 トン(最盛期の 5.7%)まで落ち込んだ。毎年(独)水産 総合研究センターが行う資源評価において 14 年連続して「低位・減少傾向」であり、 現状のままではトラフグがカラスの二の舞となりそうである。本県にとって天然トラ フグを失うことは、単に漁業者の水揚げ損失だけでなく、ふぐ類関連産業(流通・加 工・観光など)すべての利益を失いかねない。 2 調査研究とその成果 山口県では長年トラフグ資源回復のため、以下の様々な調査・研究を独自に、また 他県等と連携しながら、種々行ってきた。 (1)資源評価情報の提供:春来遊回帰する産卵親魚、夏発生する稚魚、秋加入 する 0 才魚、冬の成魚など、周年の漁獲物の大きさや発生量の把握。 (2)種苗放流効果の向上:天然稚魚が分布する適地へ、適サイズ(全長 7 ㎝以上) で、尾鰭欠損のない健康な種苗の放流により、放流効果の向上を図る。 (3)資源管理方策の提言:資源の維持・回復のためにはふぐ延縄は元より、小型底 びき網、小型定置網、釣りなど、様々な漁法で同時に管理することが効果的。 3 トラフグ資源の今後 山口県ではここ 2 年、瀬戸内海西部海域(埴生、厚狭)の調査で天然稚魚がほと んど発生していないことから、事態はかなり切迫していると考えられる。 トラフグ資源がカラスの二の舞とならないように、日本海・瀬戸内海の多くの漁 業者の理解を得ながら、よりよい種苗放流と迅速な資源管理を進めていきたい。 -5-
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