久留米大学FD・SD研修会講演 2015.2.27 (金) 社会に繋がる学びとしての アクティブラーニング 溝上 慎一 (京都大学高等教育研究開発推進センター/教育学研究科) http://smizok.net/ E-mail [email protected] 今日のスライドは溝上HPにアップしていますので、欲しい方はダウンロードしてください 61(80) 1 本講演の依頼 久留米大学教育・学習支援センター長の濵崎です。 久留米大学では教育・学習支援センターが主催してFD/SD研修会を 行っています。 私は2013年からセンター長を務めていますが、外部評価等による指摘 もあり、特に共通教育における教育改革を図っているところです。 2014年度から「久留米・筑後体験演習」を開講し、1年生を対象に 地域のいろいろな機関・団体での体験学習と学内における初年次教育 を組み合わせてアクティブラーニングとして新しい取り組みを始めたとこ ろです。 しかし、「アクティブラーニング」そのものの本質について理解していると は言い難く、学生の質の変化や社会の動き、文科省の方針との関連も 含めて理解を深め、他の教員とともによりよい教育へと展開できればと 思っています。 3 2 ビデオクリップ 盛岡第三高校(1年生、世界史)(6min.) 盛岡第三高等学校(3年生、化学)(2min.) 山梨大学工学部専門科目(5min.) 20 3 アメリカの一般的な授業形式(講義+演習) 講義+講義 演習 Seminar Tutorial 一般的には、週3回(1h×3)、3単位 3 4 Today’s Contents ①トランジションと変わる社会 ②アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 1 5 Contents ①トランジションと変わる社会 ②アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 * 6 トランジションの歴史的背景 ・歴史的に見れば今日の多くの先進国では、19世紀末から20世 紀初頭にかけて、社会が工業化・近代化され、国民国家の形成 のもとに学校教育もまた近代化されていった。 ・以降、学校教育を経て仕事(社会)へ移行するという人びとの ライフコース、とくに義務教育修了後の(後期)中等教育・高等教 育を受けて就職していくという「学校から仕事へのトランジション (school‐to‐work transition)」の経験は、はじめは支配階級や中 産階級の子弟より、徐々にその他さまざまな立場の人びとへと 拡がり一般化してきた(溝上, 2010; Neumark, 2007)。 3 7 Reference: 溝上慎一・松下佳代 (編) (2014). 高校・大学から仕事へのトランジション-変容する能力・アイデンティティ 高校/大学短大の進学率 (%) 95% 100 高校 80 58% 94% (1978) 60 40 大学・短大 50% (2004) 39% (1976) 20 10% 0 1960 1964 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 エリート 図 18歳人口と高校/大学・短大進学率 『文部科学白書』 2 8 変わる社会・進むライフコースの個人化 説明①:近代論的アプローチ 説明②:適応論的アプローチ 日本の場合 1990年代以降 構造化 自然・伝統からの脱却 適 外的適応 内的適応 外的適応 内的適応 環境 環境 個人 個人 アウトサイドイン インサイドアウト 再帰的 再構造化 (近代)学校教育 ライフコースの 個人化 出自からの脱却 (親の社会的身分、土地、 財産など) 7 ・職業 ・居住地 ・配偶者 の選択と自由 応 ライフコースの 個人化の増大 構造に対するエージェンシー の重要性 9 Reference: 溝上慎一 (2004). 現代大学生論-ユニバーシティ・ブルーの風に揺れる- NHKブックス 溝上慎一 (2010). 現代青年期の心理学-適応から自己形成の時代へ- 有斐閣選書 溝上慎一・松下佳代 (編) (2014). 高校・大学から仕事へのトランジション-変容する能力・アイデンティティ 3と教育- ナカニシヤ出版 9 学校卒業後の多様なキャリアパス 正社員定着 正社員→正社員 正社員→失業・無業 正社員→非典型→正社員 正社員→非典型 正社員→自営・家業 正社員→非典型→失業・無業 非典型→正社員 男性 31.6 10.8 6.4 3.3 0.2 10.6 12.3 1.0 女性 26.4 8.2 0.6 5.9 16.2 1.1 0.8 8.9 (小杉,2010より作成) 2 小杉礼子 (2010). 若者と初期キャリア-「非典型」からの出発のために- 勁草書房 10 エージェンシー(行為主体性)の対象 ◆ 対人生 将来の見通し キャリアデザイン 学校 対課題 対他者 行為主体 (Agent) 3 家族 友人 親密圏 地域 社会 公共圏 11 Reference 中原淳・溝上慎一編 (2014). 活躍する組織人の探究-大学から企業へのトランジション- 東 京大学出版会 親密圏/公共圏コミュニケーション 公共圏 共通する問題への関心によって 成り立つ関係領域 Ex. クラスメート、ゼミ・研究室仲 間、教員-学生、職場の同僚、 ビジネスのネットワークなど 親密圏 専門圏 4 具体的な他者への生・生命への配 慮・関心によって成り立つ人格的な 関係領域 Ex. 家族、友人、恋人など ・公共圏コミュニケーションは、友だちとの雑談・おしゃべり、情報・知識の収集・分析、思 考などを伴わないクラブ・サークル、アルバイトではなかなか身に付かない ・課題ベースの学習、他者との協同学習(アクティブラーニング型授業)に参加することな どで磨く 12 Reference ・溝上慎一 (2014). 自己-他者の構図から見た越境の説明-アクティブラーニングの潮流に位置づけて- 富田英司・田島充士 (編) 大学教育-越境の説明をはぐくむ心理学- ナカニシヤ出版 pp.221‐230 ・三上剛史 (2013). 社会学的ディアボリズム-リスク社会の個人- 学文社 Contents ①トランジションと変わる社会 ②アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 * 13 アクティブラーニングとは(定義) ・一方向的な知識伝達型講義を聴くとい う(受動的)学習を乗り越える意味での、 あらゆる能動的な学習のこと。能動的な 学習には、書く・話す・発表する等の活動 への関与と、そこで生じる認知プロセス の外化を伴う。 ・知識習得を目指す伝統的な教授学習 観の転換を目指す文脈で用いられ、そ の授業においては「アクティブラーニング 型授業」等として使用されるべきである。 累積的・階層的 複雑なもの 単純なもの 創造する ↑ 評価する ↑ 分析する ↑ 応用する ↑ 理解する ↑ 記憶する メタ認知的知識 ↑ 手続き的知識 ↑ 概念的知識 ↑ 事実的知識 改訂版タキソノミー(認知領域) *Anderson & Sosnik(1994), Anderson & Krathwohl (2013) ◆認知プロセスとは 「知覚・記憶・言語、思考といった心的表象としての情報処理プロセス」 (論理的 / 批判的 / 創造的思考、推論、判断、意思決定、問題解決など) 5 Reference: 溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東信堂 14 アクティブラーニングの二つの構図と移行 (A) 教員から学生への一方向的 な知識伝達型講義 2 受動的 能動的 双方向型講義 ・コメントシート ・ミニッツペーパー ・小テスト ・授業評価アンケート 1980年代の米国 1990年代の日本 ・高等教育の大衆化 ・学生の多様化 ポジショニング 3 15 (B) 1990年代の米国 2000年代後半の日本 教員から学生への一方向的 な知識伝達型講義 2 受動的 能動的 双方向型講義 ・コメントシート ・ミニッツペーパー ・小テスト ・授業評価アンケート アクティブラーニング(型授業) ・ディスカッション / プレゼンテーション ・調べ学習 / 体験学習 ・フィールドワーク ・協同学習 ・協調学習 ポジショニング ・ LTD(Learning Through Discussion) ・PBL(Problem-Based Learning) ・PBL(Project-Based Learning) ・TBL(チーム基盤型学習) ・ピアインストラクション 学生の学びと成長 Student Learning and Development Specific Tasks General Tasks ・幅広い知識(教養)の習得・活用 ・汎用的技能・態度(能力)の育成 2 ・専門知識の習得・活用 ・患者の良きパートナーとしての医者の育成 ・社会の中で活躍する女性を育てる ・地域の若者育成 16 大学での教育と学生の学び-アクティブラーニング- Interactive Between Students 2 Interactive Between Students and Teacher 17 他者(Between Students)の拡張 他大学との合同ゼミ 3 英語講義・異文化学習 18 空間(教室内・教室外)の拡張 反転授業 (the flipped classroom / the inverted classroom) 従来教室の中(授業学習)でおこなわれていたことを外(授業外学習)にして、入れ替 える教授学習の様式のこと。授業では、その授業外学習で学んだことをもとに、知識 の確認や定着、活用、さらには協同学習など、アクティブラーニングをおこなう。 (Lage, Platt & Treglia, 2000) 2 19 世界は学習パラダイム。日本は深刻なレヴェルで遅れている MIT(マサーチュセッツ工科大学)の物理学の授業 クエスト大学カナダでの生物学の授業 講義とアクティブラーニングは常にセット 3 20 ご清聴有り難うございました Contents ①トランジションと変わる社会 ②アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 * 21 興味があればお読みください 溝上慎一・松下佳代(編) (2014). 高校・大学から仕事へ のトランジション-変容する能力・アイデンティティと教育 - ナカニシヤ出版 この10年、世界的に喫緊の課題となっている学校から仕事へのトラン ジションを、国際的に定義し・国際的な近年の動向を概説したもの(溝 上慎一)。ほか「大学から仕事へのトランジションにおける<新しい能 力>」(松下佳代)、「<移行>支援としてのキャリア教育」(児美川孝 一郎)、「アイデンティティ資本モデル-後期近代への機能的適応」 (ジェームズ・コテ)、「後期近代における<学校から仕事への移行> とアイデンティティ-「媒介的コミュニティ」の課題」(乾彰夫・児島功 和)ほか。 溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラ ダイムの転換 東信堂 アクティブラーニングを理論的・実践的に包括的に概説した著書。 第1章:アクティブラーニングとは 第2章:なぜアクティブラーニングか (教えるから学ぶへ、情報・知識リテラシー) 第3章:さまざまなアク ティブラーニング型授業(ピアインストラクション、LTD話し合い学習法、 PBLなど) 第4章:アクティブラーニング型授業の質を高めるための 工夫(ディープ・アクティブラーニング、授業外学習、逆向き設計、反転 授業) 第5章 揺れる教授学習観(ラーニングピラミッドの功罪など) 講師プロフィール http://smizok.net/ 1970年1月生まれ。大阪府立茨木高校卒業。神戸 大学教育学部卒業、1996年京都大学高等教育教 授システム開発センター助手、2000年講師、2003 年京都大学高等教育研究開発推進センター准教 授。2014年より教授(現在に至る)。大学院教育学 研究科兼任。京都大学博士(教育学)。 日本青年心理学会常任理事、大学教育学会常任理事、『青年心理学研究』編集委 員、『大学教育学会誌』編集委員、“Journal of Adolescence”Editorial Board委員、 “International Conference on the Dialogical Self”Scientific Committee委員。公益財 団法人電通育英会大学生調査アドバイザー、大阪府立大学高等教育開発センター IR顧問ほか、高校のSSH運営指導委員など。日本青年心理学会学会賞受賞。 専門は、青年心理学(現代青年期、自己・アイデンティティ形成、自己の分権化)と高 等教育(大学生の学びと成長、アクティブラーニング、学校から仕事へのトランジショ ンなど)。著書に『自己形成の心理学-他者の森をかけ抜けて自己になる』(2008世 界思想社、単著)、『現代青年期の心理学-適応から自己形成の時代へ-』(2010 有斐閣選書、単著)、『大学生の学び・入門-大学での勉強は役に立つ!-』(2006 有斐閣アルマ、単著)、『高校・大学から仕事へのトランジション-変容する能力・アイ デンティティと教育-』(2014ナカニシヤ出版、編著)、『活躍する組織人の探究-大 学から企業へのトランジション-』(2014東京大学出版会、編著)、『アクティブラーニ ングと教授学習パラダイムの転換』(2014東信堂、単著)など多数。
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