SS口頭発表1

セミの羽化に関係する環境要因~気象条件から探る~
茨城県立並木中等教育学校
湯本景将 (6 年)
担当教員 八畑謙介
1.研究の背景
僕は,
2004 年からセミについて研究を続けている。 2007 年からの 7 年間の抜け殻調査で,
抜け殻が多く見つかる日や少ししか見つからない日があることに気がつき,セミの発生数に影響
を与えている要因は何なのかと疑問を持った。本研究では,セミの発生数に影響を与えている要
因を何らかの気象条件と仮定して研究を行った。
2.目的
どのような気象条件のときに,抜け殻の発生数が多くなるのかを明らかにする。
3.研究方法
2007 年から 2013 年の 7 月 1 日から 8 月 10 日までの
41 日間,毎朝 4 時 30 分に松見
公園に行き,アブラゼミ,ミンミンゼミ,ニイニイゼミの抜け殻の採集を行い,データを集めた。
集めたデータを y= (「当日の抜け殻数」―「前日の抜け殻数」) /「抜け殻の総数」で表し,個
体ごとのばらつきを排除するために,複数種で同じ傾向を示すかどうかを調べた。複数種で同じ
傾向を示した日について,気象庁茨城県つくば市館野の気温(日最高気温,日平均気温,日最低気
温),日降水量合計,日照時間,平均湿度の気象データと比較し,各気象条件との関係を探した。
4.研究結果
(1) 複数種で同じ傾向を示すかどうか
アブラゼミとミンミンゼミは,同じ傾向が見られ,ニイニイゼミは日和見的に変化していた。
のべ調査日数 287 日で,抜け殻が見つかった日数 184 日中 16 回で複数種の同調的大発生が
見られ, 3 種類のセミに共通した大発生が 1 回起こると,その後数日,減少と増加を繰り返
す傾向があったので,気象条件との関係の探索は初回の大発生 (11 回) のみを対象とした。
(2) 各気象条件との比較
日降水量合計,日照時間,平均湿度との関係はなく,気温との関係が大きいことが分かった。
アブラゼミ,ミンミンゼミは,最高気温が 28℃以上で,前々日か前日との気温差が平均値 4.4℃,
中央値 4.3℃,最大差 8.9℃,最小差 1.7℃のときに発生数が多くなる傾向にあった。同様の条
件の日 は 21 日あり,このうち,同調的な大発生が見られた日は 5 日(23%),変動は小さ
いが同調的な増加が見られた日が 6 日(28%)あり, 2 種で異なる傾向を示した日は 7 日
(33%), 2 種とも減少した日は 2 日(9%)あった。
5.考察
複数種で共通した点について注目したことで,アブラゼミとミンミンゼミの発生数に影響する気
象条件が気温であるということがはっきりした。研究結果より,アブラゼミとミンミンゼミは,
同じ要因の影響を受けていると考えられる。他の要因の影響についても今後検討していきたい。
また,ニイニイゼミは,他の 2 種類とは異なった要因の影響を受けていると考えられる。今回の
気象データは日平均なので,時間ごとの変化を追うことで,どの時間帯に何が起こったかがはっ
きりするため関係が見られる可能性がある。
SS口頭発表-1
ミノの位置からミノガの越冬戦略を探る
二松学舎大学附属柏高校
田村 北斗(2年)戒能 洋一先生
◆研究の背景
ミノガ科 (学名: Psychidae) は, 全世界で約 1000 種, 日本国内
に約 50 種が生息しているガの1種である (杉本 2009) 。ミノガ
科の幼虫 (以下ミノムシ) は様々な樹種の葉, 茎, 樹皮, 枝, 地衣
類などを食す。また, これらと自らが吐き出す糸を用いて, ミノガ
科の最大の特徴であるミノを作ることが広く知られている (図
1) 。このミノは自然環境や天敵から身を守るために作ると考えら
図1. オオミノガのミノ
れており, 在来種の多くの種は越冬時にもミノの中で過ごすことが知られている (三枝 1979) 。
これまでミノガ科のミノの形態に関する先行研究はなされているが, その生態については未だ
に不明な点が多い。その一つに, 越冬時のミノの固定位置の特異性が挙げられる。そこで本研究
では, 越冬時に樹上にミノを固定する場合の多い在来種のミノガ科 4 種を対象に, 樹上における
ミノの固定位置などを調査し, 各種の越冬時の生存戦略について探ることを目的とした。
◆材料と方法
オオミノガ, チャミノガ, クロツヤミノガ, ニトベミノガの 4 種を調査対象とした。調査は千葉
県野田市内の公園と民家の 4 カ所で, 計 17 本の樹木を対象に行った。発見したミノについて, ミ
ノガの種類, ミノがついていた樹種, 樹高, 地面からミノまでの高さ, ミノがついている枝の長さ,
幹からミノまでの距離, ミノの全長, ミノの固定面の長さ, 幹に対するミノの方角を測定した。
◆結果
今回の調査で 4 種計 300 個体のデータを得た。多くのデータ
*
N=269
N=13
を得られたオオミノガとチャミノガを比較すると, オオミノガ
と比べてチャミノガが枝の先端側にミノを固定していた (図
2) 。また, ミノの固定面については, チャミノガに比べてオオ
ミノガが大きかった。
結果より, ミノガ科の越冬時の固定位置, 固定方法に種間で
図2. 樹上における木の幹からミノまでの距離
(p<0.05, t-test)
差があることが明らかになった。
◆考察
ミノの固定位置は風による物理的な影響と天敵の存在が関係しているのではないかと考えられ
る。枝先は風によって大きく揺れやすいことや,枝自体が細いことによる強度の弱さから特にミ
ノが大きい場合に落下する危険が大きくなると考えられる。一方で, ミノガ類の重要な天敵の一
つは鳥類である (Moore and Hanks, 2000) 。枝の先端に近い場所は鳥類が止まることが出来ない
ので, 捕食されにくい。このことから, ミノの大きなオオミノガが枝の内側に, ミノの小さなチャ
ミノガは枝の先端近くにミノを固定している可能性が考えられる。
この仮説を検証するために, オオミノガとチャミノガのミノの固定強度, 重量, 全長, 幅を計測
し, それらの平均値から模型を製作し, 物理的な影響と固定位置に関する実験を行いたい。
SS口頭発表-2
ミネラルが鍵?~溶質の組み合わせと氷の融解時間~
清真学園高等学校 2 年
中薗
1
翔
研究動機
中学 3 年生から行っている継続研究の 3 年次である。私は昨年度の研究で,水溶液で作
成した氷の融解時間は,溶液の濃度の他にも溶質の種類が関係しているのではないかと結
論づけた。今年度はその結果を踏まえて,「溶質の組み合わせ」に焦点をおいて研究を進め
た。
2
目的
2 種類の溶質を用いた水溶液を氷にして,その融解時間と溶質の組み合わせに関係性があ
るかどうか調べる。
3
実験方法
NaCl,MgCl2,KCl,CaCl2,の 4 つの薬品の中から 2 つ選び,純水に溶かす質量を一定量
5mg にする方を薬品 A, 5mg,10mg,15mg,20mg,と溶かす質量を変える方を薬品 B
とする。この薬品を用いて,溶けている薬品 A の質量と薬品 B の質量の比がそれぞれ 1:1,
1:2,1:3,1:4 の水溶液を 100mL ずつ作製し,20mL ずつ凍らせる。完全に凍らせた氷を,
水を張ったバットに入っている 4 つカップの中に 1 種類ずつ入れて蓋をし,さらにバット
にラップをかける。この状態で氷を観察し溶けるまでにかかった時間を計測し,1 つのバッ
トを 1 セットとし,その中で融解時間が長かった順にランキングをつける。1 通りの組み合
わせにつき 5 セットを 2 回,計 10 セット行った。
4
結果と考察
7 種類の組み合わせで実験を行った。
表:融解時間の長さのランキング 1 位の回数
薬品A
MgCl2
NaCl
KCl
KCl
KCl
CaCl2
MgCl2
(回)
薬品B
CaCl2
CaCl2
MgCl2
NaCl
CaCl2
KCl
NaCl
Aの質量/溶質全体の質量
1/2
1/3
1/4
1/5
1
2
3
4
3
2
1
4
4
4
1
2
4
0
1
5
2
2
2
4
2
3
2
3
1
3
1
5
最長融解時間の回数の傾向は
・B の質量が増えるほど回数が多くなる
(表中■)
・1/4 までは下降するが 1/5 で回数が多く
なる(表中■)
・1/2,1/4 は少なく,1/3,1/5 は多い(表
中■)の 3 つのグループに分類された。
最初のグループには A,B どちらも二価の陽イオンを含む溶質の組み合わせ,
2 番目のグループでは薬品 A に一価の陽イオンを含む溶質を使った組み合わせ,
3 番目のグループは薬品 A に二価の陽イオンを含む溶質,薬品 B に一価の陽イオンを含む
溶質を使用した組み合わせが該当した。
実験から,氷の融解時間と溶質の質量比の関係性が溶質の陽イオンの価数で分類するこ
とができた。この実験結果から,最初の予想通り,溶質の組み合わせが氷の融解時間に影
響を与えると考えることができる。
SS口頭発表-3
トンボ目均翅亜目の翅の畳み方について
長野県青木中学校
発表者
坂井 美藍(1年生)担当教員
町田 龍一郎 先生
1.背景
私は家の周辺に生息するトンボの観察を続けている。
「日本産トンボ幼虫・成虫―検索図説」
(石
田ら、1988)には、均翅亜目は「静止(休止)のとき、翅を背面に畳むものが多いが、‥‥翅を
八の字に開くものもある」とある。しかし、これらだけではなく、
「腹部側面の左右のどちらかに
翅 4 枚を揃えて畳む」(オツネントンボ)や、「腹部側面に左前後翅と右前後翅を左右に分けて畳
む」
(モートンイトトンボ)のを観察したことがある。そこで、均翅亜目の翅の畳み方について興
味を持ち、種群ごとでの違いなども含めて詳しく調べてみることにした。
2.方法
均翅亜目の色々なトンボについて、草の葉などに静止した時(求愛行動、交尾、産卵、羽化直
後等の特別な状態を除く)の翅の揃え方、畳み方の違いを調べた。日本産の均翅亜目全 58 種の内、
私のフィールドに生息する 9 種については、過去の写真をもとにデータを集めた。成虫の出現期
間の長いオツネントンボは 40 個体を飼育観察した。その他の種については、トンボ関連の書籍、
知人のトンボ研究者提供の写真、インターネットの検索サイトの画像などからデータを得た。
3.結果
静止時の均翅亜目の翅の状態には、腹部に沿わせず上部に左右前後の翅を揃えるもの「上型」、
腹部側面の左右どちらかに翅を揃えるもの「片型」、腹部側面の左右に翅を分けるもの「分型」の
3 種の畳み方と、腹部に沿わせず八の字に開くもの「開型」があることがわかった。これらを「日
本のトンボ(文一総合出版)」にある最新の分子系統を参考に比較した。その結果、科によって畳
み方に違いのあることが分かった。ヤマイトトンボ科は「開型」、ハナダカトンボ科は「上型」、
ミナミカワトンボ科は「上型」、モノサシトンボ科は「上型」か「分型」、イトトンボ科は主に「分
型」(ホソミイトトンボ他 3 種が「上型」)であることが分かった。そして、アオイトトンボ科は
種によって「片型」、「上型」、「開型」と異なること、カワトンボ科には腹部の角度によって「上
型」になったり「分型」になるものと、「上型」だけのものがあることが分かった。
4.考察
科によって畳み方にある程度の規則性があり、系統樹とよく対応している。
「片型」類例が少な
く、確実なのはオツネントンボとホソミオツネントンボの 2 種のみである。この 2 種のトンボは
成虫で越冬する特徴がある。越冬するのに狭い場所に入り込むため、からだをコンパクトにして
おく必要があり、翅を片側に小さく畳むのではないかと考えた。
5.今後の課題
均翅亜目 58 種について翅の畳み方について調べた。ハグロトンボなど確認・比較した写真や画
像は 1,000 枚に及んだが、オガサワライトトンボなど情報量が少なかった種についてはさらにデ
ータを集めなければならない。また、ホソミイトトンボもオツネントンボ同様、成虫で越冬する
トンボであり、私の考察が正しければ「片型」ではないかと推測される。最近、私のフィールド
に近い長野県佐久地方でこの種の生息が確認されたので、現地で調査を行いたい。
SS口頭発表-4