視覚障害治療のための 可視光に感受波長を持つ 光活性化陽イオンチャネルタンパク質 岩手大学 工学部 応用化学・生命工学科 教授 冨田 浩 史 特任准教授 菅野 江里子 1 失明を来す疾患とその要因 視覚・・・・外界からの情報の80% 米国基準 良い方の視力0.1以上0.5未満 良い方の視力0.1以下 :ロービジョン :失明 本邦の視覚障害者の数: 約164万人 2030年には200万人に!! (2009年:日本眼科医会資料) 視覚障害者 一旦、失明に至ると、視 機能を回復させる治療法 は無い 視覚障害がもたらす社会損失額 失明者数は18.8万人 8.8兆円 2 網膜の構造と疾患 脳へ 神経節細胞 (ON, OFF, ON-OFF) 内顆粒層 (アマクリン、双極、 水平、ミューラー細胞) 光受容細胞 (視細胞:桿体、錐体) 失明を来たす疾患 (日本) 1. 緑内障 2. 糖尿病網膜症 3. 網膜色素変性症 4. 加齢黄斑変性症 神経節細胞、視神経 進行により異なる 視細胞(桿体) 第一位 視細胞(錐体) 3 網膜色素変性症 厚生省特定疾患 頻度: 1/4000~8000人 原因: 視細胞、網膜色素上皮細胞などの 光受容に関係する遺伝子の変異 脳(視覚野) 映像、光 外側膝状体 原因遺伝子: 135 有効な治療法はない Point !! 視細胞が完全に消失して も他の神経細胞は残存 視神経 入 力 脳に情報を送る 神経節細胞 視細胞の情報を受け 取り、神経節細胞に その情報を伝達 変性 光を受け取る 唯一の細胞 残存する神経細 胞を利用して視 覚情報を伝達 光受容細胞を 作り出し移植 ・人工網膜 ・遺伝子治療 ・幹細胞移植 (iPS細胞) 視細胞 4 Embryonic Stem Cells 幹細胞 ・移植後、生来の シナプスが再構成 されるか不明 ・拒絶反応 iPS細胞・・・自身の 細胞から作るため、拒 絶反応は回避できる。 しかし、同一の遺伝子 変異を持つため、利用 できない。視細胞に分 化させる前に変異を修 復し、視細胞を作る研 究が進められている。 Nakano T, Sasai Y,et al., Cell Stem Cell, 2012 Osakada F, Takahashi M, et al, Nature Biotec.2008 5 チャネルロドプシン-2(ChR2) 池や沼に住む走光性の緑藻類 葉緑体を持ち、光合成によりエネルギーを作る クラミドモナス 鞭 毛 眼 点 葉緑 体 眼点で光を受容し、鞭毛運動により移動する 眼点に存在する光受容タンパク質 チャネルロドプシン-2 光受容体 + 陽イオン選択的チャネル 5-10 m light 神経細胞へ遺伝子導入 Na+ Nagel G. et al. PNAS. 2003 透過性 ↑ EC 1つの遺伝子を導 入することで光受 容能を与えること ができる membrane IC 脱分極 神経節細胞 脳へ 視覚情報伝達 + 光受容能 二次ニューロン 変性 活動電位発生 6 従来技術とその問題点 (1/2) 緑藻類クラミドモナスの光活性化陽イオン チャネルチャネルロドプシン-2(ChR2) 神経細胞へ遺伝子導入 light Na+ 透過性 ↑ EC membrane IC 活動電位発生 ChR2遺伝子を神経細胞に 導入し発現させることで、 神経細胞に光受容能を与 えることができる。 脱分極 7 従来技術とその問題点 (2/2) ChR2遺伝子導入 二次ニューロン 残存する網膜 神経細胞に ChR2遺伝子を 導入し光受容 能を賦与 Arrenberg AB, et al, Science. 2010 変性 失明 Tomita H, et al, IOVS, 2007 問題点:ChR2の感受波長が 青色に限定される 可視光に感受波長を持つ光活性化陽イ オンチャネルタンパク質を開発 Osawa S, et al, PLOS ONE, 2013 8 遺伝子導入用ベクターの選択 AAV-ChR2V アデノ随伴ウイルスベクター 遺伝子治療用ベクターとして実績豊富 2型は、神経節細胞に高親和性 CAG ChR2 (1-315AA) Venus 硝子体内投与 5 μl (1012~1013 particles / ml) 視機能評価 遺伝盲ラット 電気生理学的評価(VEP) Visually Evoked Potential 導入効率評価 行動解析 光 刺 激 光刺激に伴う視覚野の 電位変化 回転する縞模様 に対するラット の追従行動 9 神経節細胞への 遺伝子導入効率 青色蛍光(神経節細胞) 緑色蛍光(ChR2V) 両方で標識された細胞数を計測 Merged The number of cells (cells / mm2) 全神経節細胞数の27.7±9.4 % ヒト:100万個の神経節細胞 2000 眼内へウイルスベクターを1回注入する と約28万個の細胞が光受容細胞になる 1500 1000 500 0 Ganglion cells Double labeled cells 人工網膜 ・16画素 (Max:1000画素) ・4-5cells/1電極 ・擬似光覚 ・手術時間3-4時間 ChR2遺伝子治療 ・28万画素 ・個々が光受容細胞 ・細胞の興奮 ・10分程度 10 視覚誘発電位 正常ラット 50 μV 入力 ChR2 神経節細胞層 (GCL) 内顆粒層 視細胞層 (光受容細胞) 視覚野 30 ms P1 遺伝盲ラット 外側膝状体 視神経 遺伝子導入後 by-pass (20-25ms) 光反応が回復!! 潜時短縮 Tomita H., et al., IOVS, 2007 神経節細胞が直接、 光に応答 11 行動解析 Tomita H., et al., Exp. Eye Res.2010 首振り回数 30 rdy/rdy rdy/rdy - ChR2V +/+ 25 20 15 10 角速度 40 RCS (+/+) RCS (rdy/rdy)-ChR2V 15 R2= 0.6339 R2= 0.7415 30 angle speed 35 angle displacement (degree) The number of movement 40 角度変位量 10 2 R = 0.3166 5 R2= 0.2322 20 10 RCS (+/+) RCS (rdy/rdy)-ChR2V 5 0 0.5 2.0 4.0 rpm control 8.0 0 0 2 4 6 rpm 8 10 0 0 2 4 6 8 10 rpm AAV-ChR2V 青-黒の縞模様を 弁別できる 12 遺伝子改変動物の作製 神経節細胞にChR2が発現 Thy-Iプロモーターの下流にChR2Vを導入 ln 1 ln 4 ln 5 ln 7 ln 4 Tomita H., et al, 2009, PLoS ONE 13 オプトモーターを用いた視機能検査 ・各空間周波数 ・コントラスト 感度測定 Top View Display platform Display Display Display mirror blue black sine wave 14 遺伝子改変動物の視覚特性 TGラット (視細胞無) Contrast Sensitivity コントラスト 100 悪い 良い 縞模様少ない ** ** ChR2V+/LD - ChR2V+/- TGラット (視細胞有) 10 1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Spatial Frequency (c/d) 0.6 縞模様多い 15 ChR2によって得られる視覚 light light light 16 臨床応用に向けた取り組み 免疫反応 no severe immune titration of AAV2 response antibody titration of ChR2 antibody T-cell ratio Sugano E, et al Gene Therapy, 2010 17 遺伝子導入後の視覚誘発電位の変化 Normal 50 μV 30 ms P1 RCS rat (Genetically blind rat) before after ChR2 transfer 視覚誘発電位の回復 Sugano E, Gene Therapy, 2010 18 ChR2の波長感受性 1 .2 R C S -C h R 2 V r e la t iv e s e n s it iv it y ( % ) n o n - d y s t r o p h ic R C S 1 .0 0 .8 0 .6 0 .4 0 .2 0 .0 350 400 450 500 550 600 650 w a v e le n g th ( n m ) Tomita H, Exp Eye Res, 2010 19 新規チャネルロドプシンの開発 120 ClChR2 VChR2 ClChR2 ボルボックスChR1の発見 Zhang F., et al. Nat. Neurosci., 2008 ( V) amplitude m 100 80 60 VChR1 40 20 0 0.001 0.01 0.1 1 10 blue LED ( mw / 2cm ) 培養し、volChR1 cDNAをクローニン Volvox carteri グ クラミドモナスChR2 ボルボックスChR1 20 VChR1 anti-β-actin control クラミドモナス由来チャネルロドプシン-1 (ChR1) N末23個のアミノ酸 → 細胞外への輸送シグナル anti-GFP mVChR1 原因:細胞膜への発現効率 whole cell lysates membrane fraction anti-GFP a b c VChR1 改変型VChR1 mVChR1 VChR1 control anti-cadherin mVChR1:多波長感受性 国内:登録済み 米国:登録済み PCT/JP2010/063786 JST支援 21 視覚誘発電位測定 行動解析 ChR2V mVChR1 1.0 c y c le s p e r d e g r e e 0 .4 0 .3 0 .2 0 .1 0.0 400 450 500 550 600 650 ac k ck re d- bl la -b ye llo w nee 0.5 gr ue -b bl la ac k ck 0 .0 bl relative sensitivities ( to 468 nm) 1.5 0 .5 700 nm Tomita H et al, Mol Therapy, 2014 22 安全性評価(遺伝盲ラット:non-GLP) ChR2(青型) → 免疫学的、組織学的に重篤な副作用所見無し mVChR1では? 網膜変性症ラット (遺伝子導入後10ヶ月) ・血液一般、生化学検査(WBC, RBC, GOT, ALT, etc) → 無 RBC WBC 80 50 40 30 20 90 800 700 600 300 ALT (IU/L) 60 AST (IU/L) 70 200 Venus 70 60 50 0 400 PBS 80 100 500 10 0 ALT 100 400 Number x 10E4 / ul Number X10E2/ ul GOT 900 PBS YR Venus YR PBS Venus YR 40 PBS Venus YR Injection normal:4500-6030 ・抗体価測定 ・組織学的評価 200000 anti YR peptide (pg/ml) 2000 PBS Venus mVChR1 1500 1000 500 0 0 0.5 2 4 6 10 antibody Months after injection 20m 23 試験物(AAV-mVChR1)の規格 tria l s a m p le a m p lit u d e ( V ) L a b o r a tr y m a d e 150 100 50 約5倍 約5倍 0 B lu e G re e n s tim u lu s c o lo r 試作品: 1 × 品質検査項目(225cm2 flask 120本から製造) ・力価(qPCR・ゲノムコピー数) ・純度確認試験(SDS-PAGE・銀染色) ・無菌試験(培養法) ・マイコプラズマ否定試験 ・エンドトキシン試験 ・mVChR1の塩基配列確認 1011 vg/ml 安定性試験 ・mVChR1抗体作製 Marker 試作品 本製造 大学内製造品 200 試作品: 5 × 1011 vg/ml 必要 高濃度AAVの生産法検討へ 24 安全性試験(マーモセット:non-GLP) 右:無処置 左:投与 (n=3) 1.無処置群 2.PBS投与群 3.低用量群 (1×1011 vg/ml) 4.高用量群 (5×1011 vg/ml) 検査項目 ・一般状態観察 ・血液検査(一般、生化学) ・眼底検査 ・電気生理学的検査 (網膜電図、視覚誘発電位) ・排泄物中のウイルス濃度 b /a c o n tr o l 10 Low 8 H ig h 6 4 2 o h H ig w o L B P n tr o S l 0 c a m p lit u d e ( b /a ) PBS 25 実用化に向けた課題 GLP試験予定 失明者の視覚を再建するため の治療薬として共同開発 ・ラットを用いた単回投与毒性試験(GLP) 期間: 3か月 動物:雌雄SDラット ・ウサギを用いた単回投与毒性試験(GLP) 期間: 3か月 動物:雌雄ウサギ ・マウスを用いた造腫瘍試験 期間:3か月 動物:雌雄SCIDマウス(1群12匹×3群; 2用量+対照群) ・安全性薬理試験 中枢、心血管系および呼吸器に対する作用 期間:24時間 動物:雄イヌ(マーモセット)(1群1匹×3群; 2用量+対照群) 26 謝 辞 日本網膜色素変性症協会 成田アニマルサイエンス研究所 東北大学病院臨床研究推進センター 宮城県眼科医会 文部科学省科学研究費補助金 萩森一郎先生 (基盤B, C, 若手研究B, 萌芽研究) (独)医薬基盤研究所 (H22~26) 文部科学省橋渡し研究加速ネットワーク(H26~28) 27 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 • 出願番号 • 出願人 • 発明者 :手続き中 :手続き中 :国立大学法人岩手大学 :冨田浩史、菅野江里子 ※特許出願から1.5年未満の未公開特許情報を含んだ説明会ですので、情報の取 り扱いに十分ご注意下さい。公開する情報の範囲につきましては、特許出願人(知 財本部、TLO等)とご相談ください。 28 お問い合わせ先 岩手大学 研究推進機構 プロジェクト推進部門 知財Gr. 副機構長・教授 対馬正秋 TEL 019-621-6494 FAX 019-604-5036 e-mail [email protected] 29
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