不安障害∼パニック障害と社交不安障害

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2015
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2015 March
不安障害
∼パニック障害と社交不安障害
不安障害とは
誰でも不安になることはありますが、
その不安が頻繁に
生じたり、
強すぎたり、
長く続いたりして、
日常生活に支障
をきたすような場合を
「不安障害」
と呼んでいます1)。
不安障害にはいろいろあります
不安障害には、
「パニック障害」
「社交不安障害」
「強迫性
障害」
「外傷後ストレス障害」
「全般性不安障害」
などいろい
ろなタイプがあります2、3)。
パニック障害
突然、激しい動悸、息苦しさ、めまいなどを
伴った強い不安に襲われる(パニック発
作)。検査しても異常はなく、また発作が起
きたらどうしようと不安になり、
日常生活に
支障をきたす。
社交(社会)
不安障害
人前(人前で何かをする、1対1で接するな
ど)
で強い不安や緊張を感じてしまい、
人前
を避けてしまう。
強迫性障害
バカバカしい、
無意味だと思っていても、
そ
の考えが、
意志に反して繰り返し頭に浮かん
できて、
止めようと思っても止められない。
戸締りを何度も確認する、必要以上に手を
洗うなど。
外傷後
ストレス障害
生命に関わるような出来事を体験した後、
その光景を何度も繰り返し思い出す、
悪夢にう
なされる、
不安・緊張の強い状態が続くなど。
全般性
不安障害
特定の状況に限定されない、
理由の定まら
ない、
漠然とした不安が長期間続き、
落ち着
きがなくなるなどの心の症状と、疲れやす
い、
頭痛などの体の症状が起こる。
今回は、
これらの不安障害のうち代表的なものである
「パ
ニック障害」
と
「社交不安障害」
についてご紹介いたします。
パニック障害の症状 2、4)
パニック障害は決して珍しい病気ではありません。
一生
の間にパニック障害になる人は100人に1∼2人といわれま
す3)。
パニック障害は、
特別な理由もないのに突然以下の
ような症状
(パニック発作)
が起こることから始まります。
パニック発作の症状
汗をかく
胸がドキドキする
体や手足が震える 吐き気がする
めまい
息切れ、
息苦しい、
息が詰まる 胸が痛い
感覚が麻痺する
呼吸が早くなる
など
これらの症状は、
一つだけではなく複数起こることが多
いですが、
ある一定の時間
(多くの場合数十分以内)
が経つ
と自然に治まります。
症状はたいへん激しいものですが、
身体の検査をしても
悪いところは見つかりません。
この症状は何度も繰り返され
ることも多く、
「また、
あの症状が起こったらどうしよう」
とい
う不安が患者さんをさらに苦しめます。
この不安が強くなる
と、
一人で出掛けられなくなるなど、
日常生活に大きな支障
をきたすようになります。
2015 年 3 月号
社交不安障害の症状2、5)
社会不安障害は、
他人との 付き合いの中で不安や恐怖
を過大に感じてしまい、
体や声の震え、
赤面、
発汗といった
体の症状も伴う病気です。
誰でも、
他人が自分をどう見ているのか気になったり、
失
敗したらどうしようなどと不安になるものですが、
この病気
の場合は、
それを恐れるあまりに人前に出られなくなった
薬による治療
これらの病気は、
単に心の問題だけではなく、
脳内の情
報のやりとりを担う
「神経伝達物質」
のバランスの乱れや働
きの異常が関係していると考えられています。
そこで、
薬による治療は、
この神経伝達物質のバランスや
働きをコントロールする薬である
「抗うつ薬
(憂鬱な気分を和
らげる薬)
」
や
「抗不安薬
(不安を和らげる薬)
」
が使われます。
どのように薬が効くか
り、
家に引きこもったりしてしまう場合さえもあります。
過大な不安を感じやすい状況 2)
大勢の人前で話す、
パーティーなど人前に出る、
数人で会話する、
面接を受ける、
挨拶をする、
電話の対応をする、
お茶を出す、
字を書く など
抗うつ薬
過大な不安によって出る体の症状 2)
体や声の震え、
顔が赤くなる・硬直する、
汗をかく、
声が出ない、食事が喉を通らない、胸がドキドキする、
吐き気、
お腹の不快感、
口が乾く、
息が苦しくなる、
トイレに行きたくなる、
頭が真っ白になる、
めまい など
パニック障害、社交不安障害の治療
パニック障害や社交不安障害の治療は、
薬による治療
法や、
認知療法、
行動療法などの薬によらない治療法があ
り、
これらを組み合わせて行われます3)。
薬によらない治療法の例
認知療法
行動療法
なぜ不安を感じてしまうのかを知り、自分の偏っ
たこだわりや思い込みを、今までとは違った視点
に立って解釈して、
考え方を変えていこうとする治
療法。
例えば、
パニック障害なら
「症状は時間が経
てば自然に治まる」
などと自分に言い聞かせて、
考え方を変えていくなど。
不安になりそうな状況や、
これまで避けていた状
況を少しずつ体験していくことで、
徐々に自信を
つけていく治療法。
抗不安薬
主な薬の名前
気分に関わる「セロトニ
ン」
という神経伝達物質
の脳内濃度を高めるこ
とで、
神経の伝達がよく
なり、
気分が楽になる。
パキシル、
ジェイゾロフト、
ルボックス、
デプロメール など
意欲を高める「ノルアド
レナリン」や、気分を楽
にする
「セロトニン」
とい
う神経伝達物質の脳内
での量を増やして、
神経
の働きを改善する。
トリプタノール、
トフラニール、
アナフラニール など
脳の神経を静めて、
不安
や緊張感をやわらげた
り、
予防したりする。
コンスタン、
セルシン、
ワイパックス、
メイラックス、
レキソタン、
デパス、
リボトリール など
抗うつ薬は、
十分な効果が得られるまで時間がかかることが
あり、
薬の量も徐々に調節していきます。
一方、
抗不安薬は比較的早く効果が得られるので、
予防に使っ
たり、抗うつ薬の効果が十分に得られるまでの補助として
使ったりすることもあります。
薬は、
症状が良くなってもすぐに中止せずに、
徐々に減らして
いくことが多いです。
これは、
症状の再発防止と、
薬を急に止
めることで現れる思わぬ症状
(断薬症状)
を防止するためです。
薬の飲み方や飲む量は医師の指示を守りましょう。
【参考文献】
1)
MSD:メルクマニュアル医学百科家庭版 「不安障害の基礎知識」 http://merckmanuals.jp/home/index.html 2)
グラクソスミスクライン:Utsu.jp その他の不安の病気 http://utsu.jp/anxiety/index.html
3)
厚生労働省:みんなのメンタルヘルス総合サイト パニック障害・不安障害 http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html 4)小川聡ほか:今日のcommon disease 診療ガイドライン
(医学書院)パニック障害
5)
グラクソスミスクライン:社交不安障害情報サイト http://utsu.jp/sad/index.html