第1部の講演録はこちら

商品開発・マーケティングセミナー(2 回シリーズ)
第 1 弾「超成熟市場での価値創造の新たなマーケティング」
第1部
概要説明
講師
HHP有限責任事業組合代表
中国・西安交通大学管理学院客員教授
同志社大学大学院ビジネス研究科アカデミック・アドバイザー
林 廣茂氏
真の意味でのグローバル展開を実践する味の素
今回のテーマの第一弾は、味の素(株)のケースです。味の素(株)は日本
最大の総合食品メーカーであると同時に、日本で最もグローバル展開を
している食品企業です。北米、アジア、南米、ヨーロッパの各国におい
て、それぞれの食文化特有の保守的な食品に対する概念や食生活そのも
のに食い込んでいますが、日本に同社以外でそのような食品企業はあり
ません。しかも日本にあるものを持っていくのではなく、各国の食生活
に合う商品をゼロから開発しています。そういう意味では、類稀な、真
の意味でのグローバル展開をしている企業と言えるでしょう。
2013 年 3 月期の決算公表資料にあるデータによれば、味の素は年商
9,900 億円で、うち 48%が海外です。利益も、海外が全体の 47%を占
めています。ちなみにアジアでの売上は海外全体の約 8 割にあたる
2,310 億円。アジアでこれだけの食品を売り上げている日本企業はほか
にありません。特にタイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンではど
の店にも味の素商品がずらりと並んでいますし、トップシェアを維持し
ている分野もいくつかあるほどで、圧倒的なプレゼンスを持っています。
海外での売上構成比を見ると、グルタミン酸ナトリウム(MSG)を主
成分とするうま味調味料「味の素」が全体の 4 割を占め、この分野では
世界シェア 20%を誇ります。世界で MSG のうま味調味料の消費量が最
も多いのが中国で、全体の半分を占めていますが、その中国はもちろん、
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東南アジア全体でも、MSG を使っていない料理を探すほうが難しいで
しょう。ニューヨークでも MSG を使わない中華料理店はなく、うま味
調味料が、世界的に重要なものであることがわかります。その分野にお
いて世界で 20%、中国を除けば 40%超ものシェアを持つのが、味の素
という会社なのです。
味の素冷凍食品が推進するアメリカモデル
少子高齢化により停滞する国内市場において同社は今、従来商品のグ
レードアップやバリエーションの多様化といったマーケティング戦略を
もって家庭への浸透を図り、消費量ではなく消費額を増やす、いわゆる
質的な伸びを実現しています。一方、海外展開においては、地域や国に
応じてビジネスモデルを変えています。タイを中心とした東南アジアモ
デル、ブラジルを軸にした中南米モデル、アメリカを中心とするアメリ
カモデルの 3 つがありますが、これらに共通するポイントは、日本で基
本技術の開発を行うということ。ベーシックな技術は日本で開発し、そ
の技術を各国の食生活の実情に合わせて応用しているのです。先述の通
り、海外で展開する個々の商品については、各国の食生活に学び、各国
の家庭で食べる料理に役立つ商品を新たに開発するという方針を貫いて
います。
今回の主題となるのは、アメリカという超成熟市場における味の素の
商品開発、すなわち、味の素冷凍食品が推し進めるアメリカモデルです。
味の素は 1917 年以降、何度かアメリカ進出を試みてはいるものの、失
敗に終わっています。時代を経て 2000 年、第 2 部でお話いただく吉峯
英虎氏が味の素冷凍食品の社長に就任し、現地に乗り込みました。冷凍
食品化した日本食を、アメリカのメインストリーム、つまりアメリカ人
の食生活の中に定着させるという画期的なマーケティングを展開してベ
ースを創られたのです。そして 2014 年 11 月、次なるステップの足掛か
りとして、アジア系の冷凍食品の製造・販売で全米トップのウィンザ
ー・クオリティ・ホールディングスを買収しました。今後は日本食を中
心としながら中国、タイ、韓国、ベトナムなどの食品を冷凍食品化し、
アメリカ人のアジアンセグメントの中でご活躍されるのではと期待して
います。
同社のビジネス・マーケティングの展開は、実はとても日本人的です。
日本文化は“守破離”で進化してきたと言われますが、企業も然り。守
破離のアップスパイラルな持続が止まると企業は弱ってしまいます。そ
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のあたりのことも、吉峯氏のお話から感じていただければと思います。
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