亀山 敬宏

消費水分量に着目した高炉セメントの水和反応解明に関する一検討
かめやま
たかひろ
建設工学
専攻
ME13019
亀山
建設複合材料
研究
指導教員
伊代田岳史
1.
はじめに
高炉セメントは 2 つの結合材(普通ポルトランドセメ
ントおよび高炉スラグ微粉末)が同時に水と反応を起こ
すことから,水和反応を解明するためには水がどのよう
な割合でそれぞれの結合材の水和反応に使われている
敬宏
表-1 セメント種類
結合材
供試体
名称
OPC
備考
BFS
N
100
-
普通ポルトランドセメント
B20
B45
B70
80
55
30
20
45
70
高炉セメントA種
高炉セメントB種
高炉セメントC種
B85
15
85
規格外品
かを知ることが重要であると考えた.これまでの研究で
表-2 定量対象としたピーク
は高炉セメント硬化体全体の結合水のみを評価してい
鉱物
C3S
C2S
C3A
C4AF
α-Al2O3
定量範囲 51.4-52.2 40.8-42.0 33.1-33.5 11.0-12.3 52.2-52.9
使用ピーク 51.6,51.9 41.0,41.6
33.2
12.2
52.2
る.そのため,それぞれの結合材が使用している水を評
18.0
価することがさらなる水和反応の解明に重要であると
N
B70-55%
16.0
考えられるが,このような知見はほとんど見当たらない.
ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末の使用した
水(以後,消費水分)を分離することを試みた.さらに
結合水率(%)
そこで本研究では,高炉セメントの水和反応中での普通
12.0
この差分がBFS由来の
10.0
消費水分量
8.0
6.0
y = 0.0557x + 0.133
4.0
経時的にこの消費水分量を把握することで,2 つの結合
2.0
材間での水の消費バランスやそのスピードを比較する
0.0
0
20
40
60
80
100
セメント4鉱物の反応率の合計(%)
ことを目的とした.そこで本研究では,消費水分量に着
目し,高炉セメントの水和反応の解明を試みた.
2.
BFS
14.0
図-1 分離方法の一例
実験方法
2.1 セメント種類および試料処理方法
2.3 セメント 4 鉱物の反応率の算出
試製したセメント種類を表-1 に示し,そのセメント
粉末 X 線回折の測定は,水和停止を行った試料に内
を用いたペーストの水結合材比は 35,55%とした.供
部標準物質としてコランダム(α-Al2O3)を内割り 10%
試体は薄手の円盤型のシャーレに打設し,その後ガラス
添加して行った.定量に関しては,表-2 に示すピーク
板で封緘した.翌日に脱型せずにラップ等による封緘を
を使用した.また,セメント 4 鉱物の反応率の合計(以
行い,材齢まで養生を行った.材齢は 4,8,12,16 時
下,セメントの反応率と示す)の算出には,
(1)式より
間および 1,2,3,5,7,14,21,28 日とした.所定材
算出した.
齢でシャーレから脱型し,ハンマーで粗粉砕し,多量の
セメント 4 鉱物の反応率の合計(%)=
アセトンに入れ水和停止し,真空乾燥を行い,メノー乳
鉢を用いて微粉砕し,試料とした.
水和試料中のセメント 4 鉱物の積分強度の合計
未水和セメント中のセメント 4 鉱物の積分強度の合計
2.2 結合水量の算出
示差熱重量分析試験により,各材齢における水酸化カ
× 100
(1)
2.4 消費水分量の分離方法
ルシウム(CH)および結合水量(Ig.loss)の測定を行
本研究ではセメント種類が異なっても N のセメント
った.生成量は DTA 曲線の変曲点から TG 曲線の重量
の反応率と結合水量の関係が一様であると仮定した.こ
変化量を用いて算出した.併せて,105~1000℃の減量
の仮定より,結合水量を高炉セメント中の普通ポルトラ
値から結合水量を算出した.
ンドセメント含有率で除すことで,
高炉セメント中の N
の結合水量を仮定することが可能である.これより以下
のように消費水分量の分離を行った.置換率ごとに N
16.0
12.0
セメント中での N のセメントの反応率と結合水量の関
が,各材齢での B70 中の N のセメントの反応率が求ま
10.0
消費水分量(%)
係式とすることが可能である.図-1 に B70 の例を示す
B20-55%
14.0
の量に換算し,そこから近似式が得られる.これは高炉
っていることから,関係式よりその材齢での N 由来の
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
結合水量が求まる.また B70 の全体の結合水量との差
分より BFS 由来の結合水量も求まると考えた.
(2.0)
BFS
(4.0)
N
(6.0)
0
100
200
300
3.実験結果および考察
2.4 で行った分離方法で得られた各配合の N と BFS
16.0
B20-35%
消費水分量(%)
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
が増え,B70 では N よりも消費水分量が多くなる結果
となった.B20 関しては,初期に水を消費しその後はあ
(2.0)
BFS
(4.0)
N
(6.0)
0
100
200
300
16.0
消費水分量(%)
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
(2.0)
N および BFS の反応が停滞し水を消費していない可能
BFS
N
(4.0)
性があると考えられる.一方で,高水結合材比の場合で
(6.0)
0
100
200
300
16.0
応できる水が少ないため,反応が停滞している可
能性があると考えられる.
700
800
B70-35%
12.0
BFS の置換率の増加に伴い,消費水分量も増加す
と考えられる.一方,低水結合材比の場合は,反
600
14.0
本研究から得られた結果を以下に示す.
るため,N,BFS ともに共存して反応できている
500
図-4 N と BFS の消費水分量(W/B55%-B70)
4.まとめ
高水結合材比の場合,反応できる水が多く存在す
400
材齢(h)
は消費可能な水が多く存在しているため,N,BFS の両
2)
800
10.0
これは低水結合材比であるため結合できる水が少なく,
10.0
消費水分量(%)
比べ,BFS の方が多くなるという結果が得られた.
700
12.0
BFS の消費水分量も増えている.しかし,B70 に関して
る傾向にあり,高置換の場合は N の消費水分量に
600
B70-55%
14.0
いては,高水結合材比と同様に置換率の増加に伴い,
1)
500
図-3 N と BFS の消費水分量(W/B35%-B20)
水を消費し続けていることがわかる.低水結合材比にお
方が共存して反応できているのではないかと考えた.
400
材齢(h)
まり水を消費していない.これは B45 においても同様
初期に水を消費しその後はあまり水を消費していない.
800
10.0
いては BFS の置換率の増加に伴い,BFS の消費水分量
は高水結合材比の時とは異なり B20 同様な傾向を示し,
700
12.0
定を用いて算出したためこのような結果となったと推
な結果が得られた.一方,B70 に関しては長期にわたり
600
14.0
では推定値がマイナスとなっているが,これは前述の仮
水分を消費していないと考えた.まず高水結合材比にお
500
図-2 N と BFS の消費水分量(W/B55%-B20)
の消費水分量の結果の一例を図-2,3,4,5 に示す.B20
測される.本検討においては,マイナスの場合 BFS は
400
材齢(h)
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
(2.0)
BFS
(4.0)
N
(6.0)
0
100
200
300
400
500
600
700
800
材齢(h)
図-5 N と BFS の消費水分量(W/B55%-B70)