ISSUE 02 ごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 陸上輸送 ̶ ユニークなカナダ生まれの3輪モーターサイクル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 HEEDSグローバル・ユーザー・カンファレンス開催報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 User Interview 第2回:JFEテクノリサーチ株式会社 CAEセンター様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 鉄鋼業におけるCAEの実績を活かしたベストソリューションを製造業へ幅広く提供 ̶ 実験、 計測の裏付けを持つ高精度の解析を提案するCAEのプロフェッショナル STAR-CCM+ v10.02新機能紹介 ̶ 複合領域設計探査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 User Story:ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社様・・・・・・・・・ 13 知られざる空力開発 ̶ 2009年規定終盤の進化を追う “メリハリを利かせた空力” Interview: 形状パラメータ化による設計探査の旅への誘い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 STAR-CD/es-iceの燃焼計算に関わる様々なコツ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 化学プロセス ̶ 多層ポリエステルフィルム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 カスタマーポータル ̶ The Steve Portal・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 インフォメーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 JAPAN EDITION Contents ごあいさつ CD-adapcoでは、2015年3月1日よりSTAR-CCM+、STAR-CDをはじめとしたすべてのCD-adapco社 製品の日本国内への直接販売を開始いたしました。これを機に、世界トップレベルのエンジニア リングサービスを提供するグローバル企業であるCD-adapcoのアドバンテージを活かし、 ダイレクト なサポートやタイムリーな製品アップデートを通じて、日本のお客様のさらなる製品価値の向上や 設計業務の効率化のご支援を一層強固なものにしたいと考えています。 また、日本におけるビジネスをさらに加速するため、 この4月に名古屋オフィスを開設する運びと なりました。CD-adapco製品を長くお使い頂いているユーザー様が多い中部地区の中心である 名古屋にオフィスを設けることは、当社の長年の目標でもありました。名古屋オフィスは中部地区の 営業・技術の拠点として、またワークショップやトレーニングなどお客様のスキルアップの場として、 順次規模を拡大していく予定です。 さらに、 日本オフィスとして3回目となるユーザーカンファレンス、STAR Japanese Conference 2015 を6月に開催いたしますが、本号がその記念号となり、大変嬉しく思っています。今回のカンファレンス は約50社様を超えるユーザー様よりご発表頂き過去最大規模のものとなります。自動車、重工業、 化学プロセス、電気電子等、様々な産業へ広がりを見せるCD-adapcoのソリューションを一挙に体感 できる貴重な機会となりますので、是非ご参加をお願いいたします。 本号では、CD-adapcoが提唱している “ Multidisciplinary Design eXploration(MDX)” 、複合領域 設計最適化について、単なるコンセプトを超えて実際の設計へいかに適用するかを全体のテーマと しています。 これまで不可能だった複数要素による解析のワンストップ・シミュレーションが可能と なりつつあります。 これまで見えなかった部分の現象が明らかになり、 よりリアルな解析結果を得る ことができ、シミュレーションの一歩先の世界を実感頂けると確信しています。 では、 「Dynamics Japan Edition ISSUE 02」をお楽しみください。 2015年4月 株式会社 CD-adapco 代表取締役 羽部 篤 名古屋オフィス開設のお知らせ CD-adapco では、 日本で 3 番目となる名古屋オフィスを、2015 年 4 月に開設予定で す。名古屋のビジネス街の中心地である丸の内地区に位置し、名古屋駅からも名古 屋市営地下鉄桜通線で最寄駅の久屋大通駅まで約 5 分と交通至便の立地です。 ワークショップやトレーニングを中部地区のお客様に受けていただけるようトレー ニングルームも設置しております。お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。 ■ 名古屋オフィス アクセス 名古屋市営地下鉄桜通線 「久屋大通」駅より徒歩4分 (名古屋市中区丸の内3-17-13 いちご丸の内ビル8F) 1 dynamics iSSUE 02 名古屋オフィスのエントランスイメージ 1 Overseas User Cases 1 陸上輸送 ̶ ユニークなカナダ生まれの3輪モーターサイクル DAVID LAROCHE Bombardier Recreational Products PRASHANTH SHANKARA CD-adapco™ Can-Am® Spyder® ST ̶ ユニークなカナダ生まれの3輪モーターサイクル はじめに (以下、BRP社)がクラフトマンシップの新 長距離走行でも疲れない快適さを併せ持 たな限界にチャレンジし、細部にまでこだ つ、ツーリングバージョンの Spyder RTが Can-Am Spyderロードスターの誕生は わって作り上げ たCan-Am Spyderは、そ リリースされました。2013年には、 Spyder 画期的な出来事でした。オープンエアと の優れた性能で、一秒たりともライダーを RSをさらに進化させたスポーツツーリン いうバイクならではの特長と従来のロー 退屈させません。 グ向けの特長と改善された熱的快適性を ドスターのさまざまな長所を組み合わせ た、まったく新しいタイプのパワフルなス ポーツカーをもたらしたからです。 備えたSpyder STがリリースされました。 SPYDER ST プロジェクト 大容量の収納スペース、ウインドプロテク ション、タイトなコーナリングにも長距離 ユニークな3輪構造は、 停まっているとき 2007年にリリースされた初期バージョン 走行にも適した人間工学的デザインを兼 も走っているときも抜 群な安定 感で、 パ の Can-Am Spyder RSは、 スポーツドライ ね備えたSpyder STは、スタイリッシュか フォーマンスと安心感を絶妙なバランスでも ビング愛好者に刺激的なライディング経 つスポーティーなフォルムで、ちょっとした たらします。この魅力的なロードスターは、 気 験をもたらすスポーツバージョンの製品で 買い物にも、 休日の午後のハイウェイツー 軽にオープンエアの爽快感を楽しみたい多く した。2010年には、 RSのパフォーマンスと リングにもぴったりです。 のライダーに好感をもって迎えられています。 ライダーにとっての快適さを考慮した人間 工学的デザインは、 バイクの上の身体をしっ かりと捉え、 あらゆるライディングを容易に します。またがって乗るタイプのシートは人 の身体とバイクの高い一体感を生み出しま す。山間部の峠道でも、 通勤でも、 ツーリン グでも、 ライダーの心を躍らせるダイナミッ クな動作と安心感を同時に実現します。 Bombardier Recreational Products社 図1 Can-Am Spyder STロードスターの初期デザイン dynamics iSSUE 02 2 Overseas User Cases 1 1 陸上輸送 ̶ ユニークなカナダ生まれの3輪モーターサイクル Spyder STの車両全体は、 エンジニアリン 過程に限定したシミュレーションはもは 図2は、STAR-CCM+で 最 適 化 さ れ た2 グシミュレーションを活用したバーチャル や最重要点ではなくなっています。最新 つのデザインのコンポーネントを黄色で示 製品開発によって設計されました。BRP社 のシミュレーションツールなら、システム しています。デザインA、Bの3D CADモデ のエンジニアリングチームは、 プロジェクト 全体のパフォーマンスや複数のサブシス ルを STAR-CCM+にインポートし、モデル 立ち上げ当初から車両設計スタジオと連携 テムの相互作用の評 価といった複 雑な の周囲 に仮 想 的 な風 洞を構 築します。 して車両開発を行っています。設計フェー 設 計 課 題 にも対 応 で きま す。Spyder 次に、STAR-CCM+でヘキサのトリムメッ ズ で 最 も重 要な役 割 を果 たしたのは、 STの開発にあたって、BRP社は当初から シュを使用して領域全体を離散化します。 CD-adapco™の多目的マルチフィジックス STAR-CCM+を 利 用し、空 気 力 学、ア ン モデルには、Spyder、アンダーフードのコン CAEツール、 STAR-CCM+®です。このツール ダーフードの冷却、熱的快適性などさまざ ポーネント、回転するホイール、 ムービング は、 精度が高く効率的な数値シミュレー まなデザインおよびシステムのシミュレー ベルト、ラジエーター、オイルクーラー、マ ションを簡単な操作性と共に提供します。 ションを実 施しました。STAR-CCM+の フラーの発熱が含まれています。離散化 高度なマルチフィジックス機能なら、相互 された領域は、2,000万要素のヘキサのト に関連性のある現象すべてをまとめてシ リムメッシュで構成されています(図3)。 システムのシミュレーション ミュレーションすることができます。こ ここ数年でシミュレーションの世界は大 のため、初期段階から各現象の相互作用 きく進歩し、特定のコンポーネントや物理 を把握し、それに基づいて Spyderロード 図2 スターのデザインを決定することが可能 数値解析における最初の重要な評価点 になるのです。 は、ライダーに対 するウインドプロテク Spyder RSの旧バージョンに基づいて、 ションです。シミュレーションと改良の繰 アッパーフェアリング、ヘッドランプ、ミ り返しにより、デザインは最適化され、 ラ ラーの 形 状、フェンダーの異 なる2つの イダーの頭部、 手、膝という3つの主要エリ Spyder ST初 期デザインが開 発され、比 アのウインドプロテクションが改善されま 較されました(図1)。これらはRSモデル した。図4は、オリジナルのクレイモデル に比べて収納力が高く、シートポジション と STAR-CCM+で最 適化されたデザイン もよりリラックスできるように改善され の比較です。赤はライダーが不快と感じ ています。まず、スタイリングスタジオ るエリア、 青は比較的快適なエリアを表し で2つのデザインのクレイモデルを製作 ています。最適化されたデザインでは、不 し、3Dレーザースキャニング技 術により 快と感じるエリアが大幅に縮小していま 3D CADモ デ ル を 作 成 し ま す。続 いて す。最適化されたデザインの走行テスト STAR-CCM+で シミュレ ーションを実 施 の結果から、 STAR-CCM+の精度とメイン し、その結果に基づいて初期デザインを の設計ツールにふさわしいことが実証さ 最適化し、設計スタジオに引き渡します。 れました。STAR-CCM+の解 析 結果を裏 プロトタイプの作成と実験を行う前にデ 付けるように、ライダーにとってのウインド ザインおよびエンジニアリング上の要件 プロテクションが改善されたというトラッ が満たされるまでこの一連のプロセスを ク検証テスト結果が出ています。最終デ 繰り返す数値シミュレーションこそ、その ザインのウインドシールドはバフェッティン 真価を発揮する作業となります。 グが最小限に抑えられているだけでなく、 Can-Am Spyder ST: 最適化されたコンポーネント (黄色) 図3 3 ウインドプロテクション dynamics iSSUE 02 STモデル ライダーとアンダーフードを含むヘキサのトリムメッシュ 最適化前 最適化後 図4 最適化モデルとのウインドプロテクションの比較 図5 オリジナル(上) と最適化後(下)のフロントフェンダー付近の流れの比較 Spyder ST 図6 Spyder RS BRP社のCan-Am Spyder RSモデルとSTモデルの熱的快適性の比較 BRP社は、 システム全体をシミュレーションするという方針で、最先端の数値シミュレーションを利用し、 最小限のテストでワールドクラスの製品を設計することに成功しました。 ウインドシールドの上から前方がよく見 完全なデータベースが作成されました。 図5は、 以前のフェンダーと新しいフェン えるようになっています。 これらのデータの解析結果によると、フロ ダーの比較です。新しいフェンダーのほう ントフェンダーの抵抗が大きくなっていま が空気の流れがよりスムーズで乱れがな す。この新しい情報に基づいて、BRP社は、 く、抵抗がより小さくなります。 空気力学的性能 タイヤ周囲のフローを改善し抵抗を小さく フロントフェンダーには、 空気力学的に する新しいフロントフェンダーを設計しま 見て 重 要 な 変 更 が 加 えられています。 した。シミュレーションによると、 新しい Can-Am Spyderロードスターのフロント フロントフェンダーは抵抗が3%から5%削 BRP社では、STAR-CCM+を利用して、ウ フェンダーのデザインは、2008年に発表さ 減されているため(モデルによって異な インドプロテクションと空力的な改良を れた最初の Spyderから変わっていません。 る)、車両の燃費を抑えることができます。 加えただけでなく、ライダーの熱的快適性 数値シミュレーションから、 ロードスター STAR-CCM+の解析結果の正しさは、 新しい も改善しています。Can-Am Spyder RSモ Spyderの個々のコンポーネントの抵抗の フェンダーの風洞実験で確認されました。 デルの購入者から、ラジエーターから排出 熱的快適性 dynamics iSSUE 02 4 Overseas User Cases 1 1 図7 陸上輸送 ̶ ユニークなカナダ生まれの3輪モーターサイクル STAR-CCM+と風洞実験による各プローブ点の圧力係数の 比較(右の表) 、車両上の黄色の点は圧力プローブの位置 表1 Can-Am Spyder各モデルの抵抗に関する STAR-CCM+と風洞実験の結果の比較 Spyder STの開発にあたって、BRP社は当初から STAR-CCM+を利用し、空気力学、 アンダーフードの冷却、 熱的快適性などさまざまなデザインおよびシステムのシミュレーションを実施しました。 される高温の風がライダーの右足に当たっ 表1からわかるように、STAR-CCM+はシ BRP社は、システム全体をシミュレーショ て熱くなるというフィードバックが寄せられ ミュレーションのガイドとなる実験デー ン するという方 針で、最 先 端 の 数 値 シ ていました。Spyder STのエンジニアチーム タがなくても、すべてのモデルの抵抗を ミュレーションを利用し、最小限のテスト は、 この問題を軽減すべくライダーの快適 適切に予測できています。この結果より、 でワールドクラスの製品を設計すること 性の改善を試みました。まず、 右足の問題 Spyder STの 抵 抗 率 はSpyder RSおよび に成功しました。最終製品として誕生し 箇所を特定するためにSTAR-CCM+ を使用 RTの抵抗率の中間であり、 最初のデザイン たのが、すべての人にオープンロードを走 してSpyder RSのシミュレーションを行いま 要件を満たしていることを示しています。 る感動を届けるスポーツツーリングバー ジョン の Can-Am Spyderで す。ひとつ した。図6 (右) に示すようにライダーの右 足の赤いエリアに高温の風が当たっていま す。さらに、 ライダーの左膝のあたりにも 結論 だけ確かなことがあります。このロード スターで走っているとき、だれかがあなた 高温になっている箇所があることが解析で Can-Am Spyder STロードスターの設 に手を振ったり笑いかけたりしたら、それ わかりました。そこで、 ラジエーターの冷 計で は、STAR-CCM+の み 使 用して空 力 は Spyderの魅力にひきつけられたから 却能力を保持しながら、 ライダーの膝と足 的な検討を行い、以下すべてのデザイン に違いありません。 の温度を下げるために車体パネルを調整し 要件を満たすことに成功しました。 ました。図6 (左) の新しいデザインでは、 ラ ・ ウインドプロテクションの向上と ※本記事はCD-adapcoのグローバルニュース バフェッティングの抑制 レター 『Dynamics issue37』からの抜粋です。 り、 青いエリア (低温) が大きくなっていま ・ RS と RT の中間となる抵抗 【訳 : CD-adapco プリセールス 久保 謙治】 す。これは、 ライダーにとって快適な温度 ・ ライダーの温度環境の改善 イダーの脚の赤いエリア (高温) が小さくな 環境になったことを示しています。 雪上を走る装甲車両の発明者J.-Armand Bombardierによって創業された BRP社の最初の名 風洞実験 称 は、L'Auto-Neige Bombardier Limitéeで し た。そして1967年 にBombardier Limitedに 社名が改められました。2003年12月に、会社のレクリエーション製品部門がBombardierグ オタワのカナダ国立研究評議会 (CNRC) ループの一員であるBain CapitalとCaisse de dépôt et placement du Québecに売却され、 で、9メ ートル 四 方 の 風 洞 を 使 用 し、 Bombardier Recreational Products Inc. に名称変更されました。2013年、BRP社はトロント STAR-CCM+に基づいた最終デザインのパ 証券取引所に上場して株式を公開しました(TSX:DOO)。 カナダのケベック州ヴァルクールに本社を構えるBRP社は、パワースポーツ車両と推進シス フォーマンステストが実 施されました。 テムの設計、開発、製造、流通、マーケティングを手掛けるグローバル・リーダーです。代表的な 比較のため、 これまでのすべての Can-Am 製品として、Ski-Doo®、Lynx®などのスノーモービル、Sea-Doo®水上バイク、Can-Amオール Spyderモデルの抵抗が測定されました。 テライン & サイドバイサイドビークル、Can-Am Spyderロードスター、Evinrude®船 外 機、 さら に、Spyder STの20箇 所 で 圧 力 が 測 定 さ れ まし た。図7 に 示 すよう に、 STAR-CCM+と風洞実験の圧力係数の傾向 がよく捉えられていることがわかります。 5 dynamics iSSUE 02 カート、バイク、レクリエーション用軽航空機向けのRotax®エンジン、ボート用船内推進シス テムなどがあります。BRP社は専用パーツ、アクセサリ、衣料品事業で自社の製品ラインを サポートしています。世界105か国の年間売上 総 額は30億カナダドル以 上、世界におよそ 7,100 名の従業員がいます。 2 Report カンファレンス レポート HEEDSグローバル・ユーザー・カンファレンス 設計探査ツールHEEDSのグローバル・ユーザー・カンファレンス (OPTIMIZE THIS! 2014)が2014年10月に 開催されました。会場は、HEEDSの開発元Red Cedar Technology社(RCT社) も本社を構える米国ミシガン州 デトロイトにあるヘンリー・フォード博物館。大量生産の父(the father of mass production) と呼ばれた偉大なる 改革者の功績を偲ばせる多くの展示品に囲まれるなか、HEEDSのカンファレンスは盛況のうちに終了しました。 パネルディスカッション ヘンリーフォード博物館 講演風景 懇親会風景 「この一年でHEEDSのユーザー数が3倍になりました。」設 ミシガン州立大学Deb教授 : 世界で最も有名なアルゴリズム 計探査の新たなうねりの到来を示唆するRCT社長Bob Ryan NSGA-Ⅱの生みの親であり、多目的探査の権威でもあるDeb のコメントでカンファレンスは幕を上げました。HEEDSは北 教授から、NSGA-Ⅲと呼ばれる最新のアルゴリズムについて 米を中心にすでに大きな実績を上げていますが、HEEDSが提 の講演がありました。NSGA-Ⅲは4目的以上の多目的探査に 案する新しい設計探査のアプローチのポテンシャルとその未 革命をもたらすと注目されており、世界に先駆けてHEEDSの 来やお客様の期待の大きさを感じます。 最新バージョンに搭載されました。更に、昨年からRCT社の カンファレンスではユーザー様からの事例発表やHEEDSの 正 式 なアドバイザーになられ たDeb教 授 のアドバイスのも トレーニングだけでなく、RCT社のオフィスツアー、設計探査 と、HEEDSの心臓部分でもあるハイブリッド・自己学習型アル の未来を語るパネルディスカッション、ライブバンド付きディ ゴリズムSHERPAへNSGA-Ⅲを組込む作業が着々と進められ ナーなど、ユーザー様同士の交流を深めていただく企画も盛 ています(2015年夏のバージョンでリリースされる予定)。 りだくさんでした。全ての発表、企画がとても印象深いもの でしたが、紙面の限りもありますので、そのいくつかを本コラ EDAG社 : 世界的なエンジニアリング会社、EDAG社より自動 ムで紹介させていただきます。 車の衝突、NVH、製造コストなどを考慮した大規模最適化の 事例が報告されました。設計変数の数はHEEDS史上最大級 GEオイル&ガス社 : マルチフィジックスシミュレ ーショング の484!HEEDS独自のDesign injection機能(設計者のアイデ ループのマネージャー Marotta博士より、熱交換機の最適化 アをSHERPAに挿入する機能)を駆使し、200回の計算でコス 事例の紹介がありました。GEではシステムズ・エンジニアリ トダウン、軽量化で大きな改善が得られています。 ングの導入が進められており、 「その成功には効率的な設計 探査技術の活用が欠かせない」などのMarotta博士の発言に 【文責 : CD-adapco プリセールス 松村泰起】 は筆者も共感するところが多くありました。 Trek Bicycle社 : 世界的な自転車メーカー、 OPTIMIZE THIS! 2014の詳細 トレック・バイシクル社の構造解析担当Maas カンファレンスでの講演内容や資料につきましては、RCT社のホームページ 氏、流体解析担当Suzuki氏からHEEDSを使っ http://www.redcedartech.com/community/heeds_user_conference_2014 た 事 例 が 紹 介されました。驚くべきはその もしくは、弊社までお問い合わせください。 適用対象の広さと多さ。フレーム(構造)、ホ イールリム(構造・空力)、 レースの編隊(空力 また、HEEDS、Optimate+の無料体験セミナーを定期的に開催しております。 特性)など短期間に様々なアプリケーション http://www.cd-adapco.com/ja/workshops で成果を上げられています。 dynamics iSSUE 02 6 3 User Interview File:02 第2回 JFEテクノリサーチ株式会社CAEセンター様 ∼ ものづくりのベストパートナー ∼ 鉄鋼業におけるCAEの実績を活かした ベストソリューションを製造業へ幅広く提供 ̶ 実験、 計測の裏付けを持つ高精度の解析を提案する CAEのプロフェッショナル 今回は神奈川県川崎市の京浜地区にあるJFEテクノリサーチ株式会社ソリューション本部(川崎)のCAE センター様をご紹介します。CAEセンター様では経験豊富なスタッフの皆様が、日々さまざまな技術的課題に 対し、数値解析とそれを活かしたエンジニアリング分野のコンサルティングまで実施されています。今回は 蛭田様、岩崎様、佐藤様に流体解析(CFD)業務を中心にお話を伺いました。 編集部 : 本日はお忙しい中、お時間を頂戴しまして、誠にあり がとうございます。まずは、JFEグループ内での御社の役割や 位置付けを教えていただけますでしょうか? 単相流から混相流まで さまざまなCFD問題に対応 蛭田様 : JFEグループはJFEホールディングスのもとに、JFEス 編集部:皆様のご担当に関して教えていただけますでしょうか? チールやJFEエンジニアリングなどがあり、当社はJFEスチー 岩崎様 : CFD関連の内容として、化学反応・燃焼・爆発などを ル のグル ープ 会 社という位 置 付 けになります。JFEテクノリ 含む熱流体プロセスの課題解決のためのソリューション提供 サーチは2004年に設立された比較的若い会社です。 を担当しています。それ以外に、基礎研究から実機化までの JFEグループ内において、当社のCAEセンターは流体解析や構 支援や自発的な研究開発なども行っています。 造解析といった業務を受け持ち、現在は製鉄プラントや環境エ 佐藤様 : 私はCFDの技術スタッフとして熱流体、伝熱、粒子が ンジニアリングのみならず積極的にグループ外のお客様、特に 絡む混相流の解析などを主に担当しています。 自動車、機械、電機、電子部品、建設・土木、研究機関といったさ まざまな業界からの受託解析や解析をベースにした課題解決 (ソリューション)の提供とコンサルティングを実施しています。 編集部 : 次に、 ご部署でのCFD(CAE)の役割や解析テーマな どについてお聞かせください。 蛭田様: 基本的にお客様の案件ベースのため全般となりますが 当社の強みは2点あります。 1. 解析だけではなく、長年鉄鋼業界で培ってきた経験を活かし 構造、 流体、 連成解析に関する受託を中心に活動しています。こ れとは別にCAEセンターで新規分野への適応のための解析手法 てのソリューションのご提案が可能 2. ソリューション本部(川崎)には、当CAEセンターだけでなく、 の開発や、 例えば流体解析でも一つの現象だけではなくマルチ 計測・可視化解析センター、構造性能部、材料機能評価部、 フィジックスといった複雑な現象に向けた研究開発に取組んでい 設備・プロセス技術部などの実験や分析の専門部署もあり、 ます。当社にはツールを作成する部門もあるのですが、 商用の汎 実験とセットでのご提案が可能 用ソルバーを使用して適応分野を広げていこうとしています。 単に受託解析を希望されるお客様もおられますが、 多くは解析結 岩崎様 : CD-adapcoとの連携は、 こういった研究開発要素の 果の解釈、 設計改善の指針、 コンサルティングを希望されます。 あるモデル構築や機能拡張が多くなりますね。 JFEテクノリサーチ株式会社 ソリ ソ ューション本部(川崎) 崎)CAEセンター センタ CAEセンター長 (理事) 主査 (部長) 蛭田 敏樹 岩崎 克博 7 様 主査 (副部長) 様 佐藤 宣寿 様 佐 藤 様 : CAEセンターで の 解 析テーマ は 様々で す。CFDの 分野としては、単相流はもちろん混相流、燃焼流まで幅広く対 解析を指定された条件や仮定に基づいて実施する場合には、 「解析した結果の妥当性はどうか?」 という評価を受けること 応しています。 も想定しつつ、若手と意見交換しながら進めています。私自 編集部: 我々も今後一層、新機能や計算速度、使い勝手の向上 身は、実験解析や設備の設計製作等にも携わっていましたの といった部分を強化していくとともに、皆様の研究開発をバッ で、経験した分野であれば、実際にはこうなるはず、 という現 クアップするため、技術サポートをより充実させていきます。 象論的なこともわかります。モデル構築に当たっては、解析 対象の技術コンセプトを反映した妥当な結果を得るにはどう 解析結果の解釈および評価、 それが重要 するか?解析結果をいかに評価するか?どうお客様に説明す るか?ということについて、若手と意思疎通を図っていく必要 編集部 : 解析はどういった体制・人数で実施されているので があると感じています。特にCFDでは実際の物理現象や化学 しょうか? 反応過程などを完全に模擬することはできないことが多いの 蛭田様: 当社のソリューション本部(川崎)の下にCAEセンター で、仮定や想定の方法と解析結果の解釈や評価には気をつ があります。CAEセンターの人員は川崎、千葉、倉敷と福山の4 けています。 地区で45名程度です。全員がCAE関係に従事していて、その 佐藤様 : 私は情報の共有のほか、メンバー間での問題意識 中で流体解析に携わる人員は10名程度です。各地区には、そ の共有が大事だと思っています。 れぞれ業務に特色があり、CFDは川崎と倉敷で行っています。 岩崎様 : 若手には、お客様が何を知りたがっているのか、望 佐藤様 : 当センターは、QMS( 品質マネジメントシステム) と んでいるのか? を意識するように伝えています。 してISO9001を取 得しています。解 析 実 施 にあたっては、受 蛭 田 様 : お 客 様 から解 析 案 件 を い た だ い た 際 に、 メン 託解析案件ごとに実施責任者をおき、仕様通りの解析が正し バーは解析して、報告書を作成します。私の立場としては、 く実行されたことをチェックする体制を取っています。通常 メンバーが書いた報告書を最終確認します。その際に、 は、技術スタッフ1名が実施責任者となり、若手メンバー 1∼2 これが一番重要な点ですが、お客様の望む結果から外れ 名とで解析を進めることが多いです。解析ソフトを使って作 ている場合など、今後解析の品質を上げるためにどうす 業 するの は 若 手メンバ ー が 中 心で す が、解 析 内 容 によって ればいいのか?と考えることがあります。また、報告書に は、技術スタッフも解析ソフトを操作し、カスタマイズやテス は考察も必要なのですが、やはり数値解析だけで考察を ト計算を行います。 するというのが、非常に難しい問題です。 自社で育成するCAEのプロフェッショナル 編集部 : CAE/CFDにおける人材教育などで力を入れている 点などございますか? 蛭田様 : 当社では技術専門部会が設置され、その中で人材 閉塞 育成を実施しています。 岩崎様 : 学位取得や技術者のポテンシャルアップにつなが 空気 る資格の取得も奨励されています。当社の技術力をアピー 粉体 付着 ルする場として、学協会での発表も奨励されています。 蛭田様 : 社会人ドクターなどの学位取得のため、業務時間内 図1:STAR-CCM+による粉体輸送配管における粉体挙動解析 での通学、入学金の補助など会社としてバックアップをしてい ます。また、学会で発表するよう奨励しています。 編集部:また、解析をチームで行う際に気をつけている点や各 佐藤様 : 若手には機械学会が認定する計算力学技術者の資 拠点間での情報共有方法などあれば教えていただけますか? 拠点間で 格取得が奨励されています。現象の理解と解析技術をバラ 岩崎様 : いわゆる報連相(報告・連絡・相談)を密にすること ンス良く強化することが重要と考えています。 と、秘密保持には特に気を付けています。若手のOJTによる 秘密 蛭田様 : 学位取得や計算力学検定の1、2級の取得など、マイ ポテンシャルアップや技術伝承が同時に図れることが望まし ポテンシ ルストーンを作って実施しています。 いですね。意思の疎通を密に取らないと、 すれ違いができて、 いですね 最初の1年間は教育期間ということになります。その後の3年 取り返しがつかないことになりかねません。 取り返し 間は上司・先輩についてのOJT期間、その後自己研修・自己研鑽 dynamics iSSUE 02 8 User Interview File:02 3 第2回:JFEテクノリサーチ株式会社 CAEセンター様 ということで、係長までにはこういう資格が必要など細かく決 蛭田様 : お客様のところで、解析だけでなく、課題やトラブル まっています。 などが発生した場合、あるいは研究開発をしたいというとき また、当社は製鉄所に隣接しておりますし、いろいろな部会の などは、やはり実験と解析というのはセットとなります。例え 中で材料を取り扱ったり、分析をしたりする部会もありますの ば、引張試験など簡単な例で言いますと、材料の特性を測り、 で、その 中で 情 報 共 有し、議 論をすることが 可 能で す。そう それを解析で合わせたいというご要望などに対し、 ご提案・ソ いった意味で、人材育成のため環境が整っているのだと思い リューションをご提供します。 ます。 編集部 : 実験と解析と両側からご提案されているわけですね。 編集部 : 弊社では、STAR-CCM+の各機能を深堀した無償の 岩崎様 : 計測を専門としている部門がございますので、特に ワークショップを実施しており、大変ご好評いただいておりま CFD関連で申しますと、温度、流速、ガス成分などもろもろ実 す。今後、STAR-CCM+の教育という部分ではぜひ、 ご活用い 測することができます。それをCFDの結果と突合せ、妥当性 ただければと思います。 を検証し、 より結果を向上させることが可能となります。 計算精度の向上 ̶ 計測部門と連携し検証 CFDを超えた拡張性に期待 編集部 : さまざまな解析を行われていると思いますが、計算 編集部 : CD-adapco製品/機能についての感想を教えてく 結果の精度検証、結果精度の向上への実験とのコリレーション ださい。 方法などをお聞かせください。 岩崎様 : STAR-CCM+は形状・メッシュ・モデル・解析・ポスト 岩 崎 様 : 課 題 に 応じて、実 験 や 従 来 の 知 見・文 献 値 に 基 づ 処理が、簡単な操作で一気通貫に使える点で使いやすいソフ き、カスタマイズしています。空力解析のみであれば、±3% トです。CFDソフトでありながら、線形応力解析結果まで出力 が目標ですが、化学反応・混相流などを含むモデルの場合、 できる機能があって、材料選択の評価にも活用できるので素 解析精度が1桁前後大きくなってしまうのが悩みです。 晴らしいです。非線形弾塑性解析には構造解析ソルバーと 蛭田様 : ±3%が目標ですが、ある程度経験を積んだスタッ の連成が必要ですが、今後のFEM機能追加によるFSI解析領 フであれば、結果を見ればそれが妥当かどうか判断できます。 域 拡 大 に は 大 い に 期 待した いと思っています。また、計 算 岩崎様: お客様によっては、実験と解析の両方をご依頼いた の水準数を増やしたい場合などにOptimateを今後使用した だく場合もあります。実際はなかなか大変で、実験値がありま いと思っています。最適化はその次のステップですね。また、 すので、今度は解析の合わせこみが必要になります。特に複 雑な解析になればなるほど、実験値の解釈と解析結果との突 合せが重要になります。また、実験値をお客様からご提示い RANS ただく場合もあり、 こういう結果があるから、 こういうモデルに カスタマイズして欲しいというご依頼を受ける場合もあります。 風向 漏洩箇所 LES 風向 充填率 固相率 鋳込み中 充填率 固相率 鋳込み後の凝固過程 図2:STAR-CCM+による鋳造部品の湯流れ・凝固解析 9 dynamics iSSUE 02 漏洩箇所 図3:STAR-CCM+による水素漏洩拡散挙動 DARSはGUIが 優 れており、主 要 反 応 経路を選び出す際に確認しつつでき るので、CHEMKIN(Reaction Design 社 製) より使 い や す い 印 象 を 受 けて います。STAR-CDは衝撃波面の解析 機能が充実しており、汎用コードなが ら衝撃波解析などに適用できました。 佐 藤 様:STAR-CCM+はメッシング 機 能が大変優れていると感じています。 多 少 複 雑 な 形 状 で も簡 単 な 操 作 で メッシュが切れますので、 プロトタイ プを素早く計算でき、モデルのイメー ジ 共 有 や 問 題 把 握 に 役 立って い ま す。また、複 数 の 物 理 モデ ル を 簡 単 に組み合わせられることや、 フィール ド関数やスクリプトによるカスタマイ ズがしやすいところも良いですね。 図4:解析担当の加藤 丈侍様(写真中央) と岩崎様(写真左)、佐藤様(写真右) 編 集 部 : 現 在、解 析 を 行 わ れる上 でメッシング、設 定、ソル 検 討・評 価で す。凝 固 解 析 などで 冷 却 速 度 や、第2相 の 分 散 バー精度や並列化のスケーラビリティ、結果の精度など、CFD 強 化 材 分 布 を 出 力 し、材 料 物 性 に 反 映 さ せ た い で す。 で困っている点はございますか? STAR-CCM+に戻して線形応力を解析して応力集中部分を評 佐藤様 : 困っているという程ではないのですが、CFDの解析 価できれば形状やプロセス適正化が可能でしょう。 規模は2次元から3次元へ、メッシュ数の増加、定常から非定 佐藤様 : DEM、FSI、大規模計算、最適化などを取り入れた解 常解析へなどと年々増大していますので、解析データの管理 析 提 案 や サ ービスに つ いて検 討しています。その た め に、 が大変になってきていると感じています。 STAR-CCM+の先進的な機能やカスタマイズ機能を活用して いきたいと考えています。カスタマイズ性が高いので、今ま 編集部 : CD-adapcoの製品や技術サポートに望まれること でにないような複合的な解析を提案できたらいいなと考えて はありますか? います。 佐藤様 : 技術サポートには多くの問合せをさせていただい 蛭田様 : 今後期待しているのは医療関連です。現在、力をい ていますが、いつも丁寧に対応していただき、大変感謝してい れているのはインプラントの構造解析関係です。流体系の医 ます。もし可能であれば、今後当社の新しい解析サービスの 療というのは、未知の領域ですが、今後開拓していきたい分 ための技術開発をサポートしていただけると嬉しいです。 野ですね。 メールや電話だとなかなか伝わらない部分があったりして、 その問い合わせのための簡易モデルや資料作成に時間をと られてしまう場合もあります。そのようなときに、サポートの 方と直接お会いする機会があると助かります。 最後に 編 集 部 : JFEグル ープ以外 の 案 件も多 いとのことで、製 鉄 業 蛭田様 : 我々のようなユーザーの立場からするとサポートに 界で培ったCAEの実績を他分野の解析に活かされているとい 対して、 しっかりと迅速に対応してくれないと困るといったこ うお話が新鮮でした。また、CAEに対して独自のアプローチ とがあります。それをしていただいて感謝しております。 で積極的に取り組まれている姿勢が印象的でした。今後は 編集部 : お褒めの言葉をいただき、ありがとうございます。 CFDの枠を超え、構造解析との連成や新しい医療分野などへ 意欲的に取組みたいとのことで、CD-adapcoではグローバル 編集部 : 今後、御社で実施していきたい解析テーマを教えて のリソースを活用し、全力でサポートさせていただきたいと ください。また、今後、導入して欲しい機能やサービスなどは 思います。 ございますか? 岩崎様 : STAR-CCM+単独での(簡易)材料製造過程適正化 【文責 : CD-adapcoマーケティング 舛重国規、髙橋由香】 dynamics iSSUE 02 10 4 Technical Lecture 1 STAR-CCM+ v10.02 新機能紹介 複合領域設計探査 :Multidisciplinary Design eXploration(MDX)に向けて 2015年2月25日にリリースされたSTAR-CCM+ v10.02ではモデリング能力、結果評価能力、生産性の向上のため の機能拡張がなされています。 メッシング関連 パーツベースメッシング(以下PBMと記載)がv8.02から導入 され、STAR-CCM+のモデル化から結果処理までの一連のパイ プラインが強化されていましたが、一部のメッシャーがPBMで 利用できない状態でした。 特に薄い領域にメッシュを生成するシンメッシャーは要望の多 い機能でしたが、v10.02よりPBMでシンメッシャーが利用可能 になりました。(図1) 図2:液膜とVOFの相互作用 加えてVOFとラグランジェ混相流の相互作用では、 ラグラン ジェ粒子がVOF相に衝突することによる質量移動が考慮される ようになっています。(図3) ※VOF相から液滴への変化は未対応 図1:PBMによるシンメッシャー VOFとDOM輻射モデルの併用は、かねてからVOFにおいて 輻射の考慮ができないという問題を解決します。ただしVOF VOFと他の物理モデルの相互作用 の界面は壁面ではないので、DOMモデルで定義される吸収係 数により輻射エネルギーを授受します。 既存の混相流モデル同士の相互作用の強化や制限事項が 解除されました。 ・ VOFと液膜の相互作用 ・ VOFとラグランジェ混相流モデルの相互作用 ・ VOFとDOM輻射モデルの併用 VOFと液膜モデルの相互作用では、 スロッシングや塗装工程 における膜厚等の評価を行うことが想定されます。 液膜厚さがメッシュ厚さを超えた際にVOF相へ変化し、VOF 体積分率がメッシュ解像度を下回った際に、液膜相へ変化する ような仕様になっています。 この相互作用により、膜厚のような薄い領域をVOFで解像す る必要がなくなるため、 これまでより粗いメッシュでも正確に厚 みの評価が可能になります。(図2) 11 dynamics iSSUE 02 図3:VOFとラグランジェ混相流の相互作用 オイラー混相流における Large Scale Interfaceモデル これまでのオイラー混相流は気相が分散相、液相が連続相と いうように必ず、 どちらかが粒子の仮定を持ち、抗力等の相互 作用により、相間の運動量や熱移動を考慮していました。 今回実装されたLarge Scale Interfaceモデルでは、気液界面周 辺の現象を捉えるため、気相、液相を体積分率に応じて相互に 分散相と見なし、それぞれの相互作用を定義でき、 さらにVOF のように気液界面はそれに応じた抗力を定義することで界面 図5:Large Scale Interfaceの相互作用設定 の考慮もできるようになりました。(図4) Blower ファンモデル 界面は界面の 相互作用 液相が分散相のときの 相互作用 気相が分散相の ときの相互作用 ファンのP-Q(圧力-流量)特性を用いたファンインターフェー スは従来から軸流ファン風量予測に使われてきました。今回 Blowerファンモデルが導入され、電子機器やHVACにおけるモ デル化の幅が広がりました。(図6) 液滴として取り扱う 気泡として取り扱う 図6:Blowerファンモデル 図4:Large Scale Interfaceモデルのイメージ 設定方法としては、相の相互作用モデルの中から 「ラージス その他の拡張 ケール界面の相の相互作用」を選択します。(図5) STAR-View+の 拡 張 で は、 シ ーン の 画 像 保 存と同 様 に ここで設定すべき項目はどの体積分率から分散相と見なして STAR-View+に自動保存が可能で、その保存されたシーン群か 相互作用を与えるか、液相が分散相、気相が分散相、界面のそ らアニメーションを作成できます。 れぞれの状態における抗力モデルと、長さスケール(粒子径)、 レポート処理では、取得したい面の入力をパーツとすること 面密度です。 で、従来の領域を入力したものと比べて、大きく処理速度が改 この機能は気液界面の表現が可能であるため、VOFモデル 善されています。 と混同してしまいがちですが、VOFモデルは界面捕捉の差分ス キームや表面張力の取扱いが発達しており、やはり界面に重 点を置くような解析ではVOFモデルに強みがあります。対して オイラー混相流を使う意味としては、完全に相を別に解くため、 おわりに STAR-CCM+のこれからのコンセプトとして、複合領域設計探 界面付近の熱移動や温度の正確性を求めたい場合には、オイ 査(MDX)が掲げられています。これは今後もお客様の製品設 ラー混相流で定義できる相互作用が重要になります。 計、 シミュレーションの現場においてSTAR-CCM+がこれまで以 このLarge Scale Interfaceモデルにおける表面張力、 熱伝達モ 上にキーになることを目標としているものです。 デルの考慮は今後の開発項目となっていますが、 この機能の発 展により様々な流動様式に対応できるモデル化が期待されます。 【文責 :CD-adapco ポストセールス 佐藤 誠】 dynamics iSSUE 02 12 5 User Story ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社様 知られざる空力開発 ̶ 2009年規定終盤の進化を追う From“Motor Fan Illustrated Special Edition” モータージャーナリスト : 世良 耕太 氏 現行レギュレーションでの戦いは2013年で終了 する。2014年からはDTM(ドイツツーリングカー選 手権) とマシンレギュレーションを共通化したマシン が新たに開発される。 ここで、現行レギュレーションで の日産GT-Rの空力開 発の変遷を振り返る。 2011年第8戦もてぎ。日産/ニスモ(ニッサン・モータース だったという。第2戦富士ではドラッグ低減に効果のある新 ポーツ・インターナショナル)勢はチャンピオンシップをリード しい「顔」を投入した。この頃には風洞と実車テストの相関も してシリーズ随一のハイダウンフォースサーキットを迎えてい 改善の兆しが見えていたという。 た。チャンピオン争 い は46号 車 か23号 車 のNISMO GT-Rに 富士に投入したロードラッグのフロントマスクはコーナー 絞られていた。それまで、ニスモが仕立てた最適な空力パッ が切り立っているのが特徴だ。 ケージをすべてのチームがそのまま受け入れて走らせるのが 「STAR-CCM+の計算結果より、 ここを壁のように高くすること 慣例となっていた。だが、日産/ニスモ勢としてはチャンピオ でドラッグが減るのはわかっていましたので、3 ヵ月ほど風洞 ン獲得が確定していたので、空力に関しては「推奨」 という形 で実験を繰り返しては最適形状を探しました。壁の形状が内 にし、チーム側の判断に任せた。 側 に入り込 む か、外 側 に出て行くかでも性 能 に影 響します。 46号車は富士スピードウェイで使うロードラッグ仕様のリ 内側に行くほどダウンフォースが出て、外側に行くほどドラッ ヤウィングを選び、 これを立てて使った。追い抜かれないよう グは減る。感度が高いので最適形状を探すのに苦労しまし 最高速を重視したのだ。空力エンジニア側の推奨もロード たが、時間をかけただけあって、結果に結びつきました」 ラッグ仕様だった。一方、23号車はセオリーどおり、ハイダウ ンフォース仕様のリヤウィングを選んだ。 ポールポジションからスタートした46号車は、急速に追い 上 げ て き た23号 車 にトップ の 座 を 明 け 渡 す が、 レクサ ス SC430や ホンダHSV-010の 追 撃 は 振り切って2位でフィニッ シュ。46号車(ベストラップを記録)がタイトルを奪った。 「チャンピオンになったのだから、46号車が選んだ仕様は正 解 だった」 と、空 力 開 発 責 任 者 の 山 本 義 隆 氏(ニスモ開 発 部 第一開発グループ チーフエアロダイナミシスト)は振り返る。 山 本 氏 が ニスモに再 合 流した の は2011年 の7月だった。そ 図1:切り立ったフロントマスクとSTAR-CCM+解析結果 れまでは外野としてGT-Rを眺め、気になっていた部分があっ た。2012年仕様の空力開発を行なうにあたっては、効果のあ 見た目が奇抜なこともあって賛否両論だったというが、第6 りそうな領域から順番に手を付けていくことにした。 戦富士を終える頃には認知されたという。第3戦セパンでは、 リードタイムの関係で一気にすべてのGT-Rに最新のアイテ ほぼ全車が2012年のハイダウンフォース仕様をまとうことに ムを投入するわけにはいかず、徐々に投入していった。風洞 なった。このハイダウンフォース仕様が基本で、富士のみロー と実車テストの結果がリンクしなかったことも投入遅れの理由 ドラッグ仕様に切り替えて走ることになる。 13 dynamics iSSUE 02 ハイ/ローの違いを問わずベースとして変更したのは、フ リヤフェンダーの 絞り込 みも大きな 変 更 点 だ。2012年 仕 ロントフェンダーにルーバーを設けたことだ。この処理を最 様 は 真っ直ぐ後ろまで 伸 ばしてい た が、2013年 仕 様 はリヤ 適化するとドラッグが減り、ダウンフォースが増える。また、 ミ ウィング幅と同じ1900mmまで絞り込んでいる。これもドラッ ラー の 形 状も変えた。リヤビューミラーそ れ自体でダウン グ低減が狙いで「結構減っている」 と山本氏は言う。 フォ ー ス を 発 生 さ せ る コ ン セ プト で 設 計 を し た の だ。 「左 右 で100mm絞ったことに なりま す が、150mmだったり 250km/h時に200N(約20kg)のダウンフォースを発生すると 50mmだったりいろいろ試した末、最も良かった100mmを採 いうから、なかなかパワフルなアイテムである。 用しました」 2012年モデルではフロントを中心に手を入れたので、2013 リヤのホイールフィンは「ブレーキの冷却性能が向上する」 年モデルではリヤに手を加えた。 というのが建前だ。裏読みすれば、冷却風の抜けがいい。抜 「2012年の鈴鹿だったと思いますが、本山選手から、 『ピーキー けがいいからインテークの開口部を小さくできる。開口部が ながらもフロントのダウンフォースがあるのはいい。でも、 リ 小さいとドラッグが減る、 という論法になりそうだ。 ヤがちょっと不安定』 というフィードバックをもらっていました。 第5戦鈴鹿ではユニークなトライをした。ミラーはすでに それが空力のせいかどうかはわかりませんでしたが、 ともかく それ自体でダウンフォースを発生する形状になっていたが、 13年はリヤを重点的にやろうと決め、取り組みました」 カバーを取り替えてダウンフォース量を調整できるようにし た。第1ドライバーがアンダーステアを訴えたとすると、第2ド ライバーに交替する際にミラーのカバーをハイダウンフォー ス仕様に付け替えて解消するといった使い方を想定した。ハ イ/ミッド/ロー 3種類のミラーカバーを用意したというが、 実践するチームは現れなかった。第5戦より前の段階でミラー とフェンダーを一体化したデザインにアップデートしていた が、その仕様のバランスが良く、交換の必要性に迫られなかっ たのが実状のようだ。 図2:フロントフェンダールーバー(左) 、 シャークティース (右) 目を引くのは「シャークティース」 と呼ぶリヤウィング翼端板 の波形処理だ。リヤウィング後端にも同様の処理が施してあ る。シャークティース はドラッグ 低 減 に 効 果 が あることが STAR-CCM+の解析結果により確認できた。ストレートを走っ ている際にも効果を発揮するが、真価が現れるのはステアし たり、 ヨー が 発 生したりした 際 に 風を斜 め に 受 けるときだ。 風洞試験をする際には、直進状態だけではなく複数の姿勢で 数値を計測するが、シャークティースは姿勢を変化させた状 図4:フロントフェンダーとミラーを一体化 況での評価が高かったという。「いかにも何かありそう」な見 た目のインパクトも採用を後押しした。 第7戦オートポリスで はフロントバ ンパ ーとフロントアン ダーパネルのデザインを変更した。本来は第8戦もてぎ用に 開発したアイテムだというが、チャンピオンシップを考えた際 落とせない一戦だったこともあり、前倒しで投入したという。 ブレーキングでノーズダイブした際のリヤの挙動が不安定 だというフィードバックがあり、それに対処したのが新しいフ ロントアンダーパネルだ。空気の取り入れ口を大きくしつつ、 前後の圧縮比を調整したことで、 リヤが不安定になる挙動を 緩和している。床下に取り込む空気量が増えたので、結果的 にリヤのダウンフォースも増えたという。2006年のフェアレ 図3:リヤフェンダー(左)、 リアホイールフィン (右) ディ Zが採用していたコンセプトを移植した格好だそう。 dynamics iSSUE 02 14 5 User Story ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社様 フロントバ ンパ ー は 本 来、DTMとの 共 通 規 則 に 移 行 する 2014年のGT-Rに採用するつもりで開発していた形状である。 圧力係数 コンター 性能が向上するので、急遽、移植を決めた。 基本的にはドラッグをキープしてダウンフォースを上げて いく (とL/Dは向上する)開発ではあったが、最高速はレクサス 勢が上だったので、 「ドラッグも減らしたかったのがこの2年 の開発」だったという。一方で、HSVはコーナーを重視した方 向だったため、 「 ハイダウンフォースのコースではL/Dよりダウ ンフォース」の開発だったという。ミラーとフェンダーを一体 化したデザインがその代表例だ。 摩擦係数 コンター 【本記事は、 モーターファン別冊 Motor Fan Illustrated 特別編集 「モーター 図5:STAR-CCM+による2013年低ドラッグ仕様の解析結果 スポーツのテクノロジー 2013-2014」掲載記事の改訂版です。 】 幻のリヤフェンダーターニングベーン リヤウィングの効率を高めるのが狙い 「リヤフェンダーのデザインは自由」 としたレギュレーションを確認したうえで、 リヤフェンダーに翼断面を持つパーツを装着 した。2012年第2戦富士のことである。翼断面とはいえ、 リヤウィングとは上下逆の断面を持ち、 ダウンフォースではなくリ フトを発生させる。F1ではスタンダードとなっている取り組みで、車両の前後センター付近で局所的にリフトが発生しても、 空気の流れを変えることによって結果的にリヤの性能が上がり、全体の性能にとってはプラスになる。リヤフェンダーターニ ングベーンはそれ自体でダウンフォースを発生するデバイスではないので、ニスモの解釈としては合法だったが、ルール統 轄側(GTA)の解釈はそうではなく、NGとされた。「翼は1枚」 という規則はあるが、GTAはリヤフェンダーターニングベーンを 「2枚目の翼」 と判断したからだった。ゆえに公開車検で10分程度装着されただけでお蔵入りとなり、幻のアイテムとなった。 F1マシンのコクピットまわりに見られるフィンと狙いは 同じ。フェンダー前方のホイールアーチリップで跳ね 上げられた気流によるリヤフェンダーとトランクリッド 上面の剥離を緩和し、ドラッグ低減とリヤウィングの 効率向上を狙った。「見た目をF1チックに持っていく 狙いもあった」と山本氏。局所的にリフト(もドラッグ も)は発 生するが、結果的に全体の性能が上がれば オーケーという判断。 図6:リヤフェンダーターニングベーンの形状および位置 図7:リヤフェンダーターニングベーンの有無による流れの変化(左図:有り、右図:無し) 15 dynamics iSSUE 02 User Story - Interview “メリハリを利かせた空力” 流れのメカニズムを理解し、創意工夫により 個性的な低ドラッグカーを実現 ̶ ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 開発部 : 山本 義隆 様 本日はGT-Rエンスージアストの聖地、横浜は鶴見のニッサン ・モータースポーツ・インターナショナル株式会社様(以下、 NISMO様)にお邪魔し、NISMO GT-Rの空力開発の責任者 である山本 義隆様にお話をお伺いしました。また、NISMO チームは2014年のシリーズチャンピオンを獲得しました。 利用して性能を上げる、それにはCFDがないとできません。 空力開発時における風洞実験とCFDの狭間で 編集部: GT-Rの空力開発におけるCFDの貢献や実験とのコ 風洞でも計測はできますが、可視化が必要であり、車全体は 難しく、CFDは全体を見ることができ有効です。逆に弱点は 前方にある部品のウェイクを受ける部分の評価。例えばタ リレーション方法などに関してお聞かせください。 イヤのウェイクの評価はまだ難しいと感じています。ウェイ 山本様:CFDは風洞実験に持っていくためのパーツの選別 クだけでなく、Rr.ディフューザなどの逆圧力勾配のところと という位置づけで、実際は風洞のウェイトがまだ高いです。 かもまだ100%ではないと。そこができれば風洞は要らなく ただし、CFDはメカニズムを知る、例えば、 ここに小さなパー なる時が来ると思います。 ツを付けた際に、後ろ側にどういう影響があるのか、 これは風 洞で見ていても分からない。どこに効果があって、 ダウン フォースを得ることができたのかは、風洞実験だけでは分か りづらいので、 メカニズムを知るという意味では不可欠です。 GTカーも年々複雑になり、細かいデバイスも増え、経験だけ では対応が難しくなっており、 そこでCFDが必要になります。 CFDからのインスピレーション 編集部:記事内の切り立ったフェンダー(13ページ参照) を 思いつかれた理由をお聞かせください。 山本様 : CFDによりフェンダー部分の圧力が低くなっていて (図2)、それがある理由でドラッグに効いていることが分かっ 図2:抵抗を減らすフロントマスク 2015年 NISMO GT-Rを開発中 編集部: 2015年の車両開発に向けての苦労話などをお聞 かせください。 ていました。レギュレーション内でその面積を広げるため 山本様 : 2014年はDTM(ドイツツーリングカー選手権) と統 には、縦に広げるしかなく、それでやってみたら、予定通り良 合されたレギュレーションが初めてだったため、色々な規定 い結果を得ることができました。以前は形状を丸くして抵抗 のどこがGTカーにとって有利/不利なのかがわかりませんで を無くそうとしましたが、流線型でなくても抵抗を減らすこと した。今では、その辺りがだいたいわかってきて、エクステリ ができることがわかりました。そういう メリハリを効かせた ア上側はほぼノウハウが一定で、 レギュレーションによる違 空力 を2014年モデルは使っています。圧力の違いをうまく いはありませんでした。そのため、今後はフロアー回りとか ダクト、エンジンルーム内など熱を含めた流れをCFDで見た 図1:NISMO開発部 チーフエアロダイナミシスト 山本 義隆様と2014年NISMO GT-R いと思っています。もちろん空力は今まで同様CFDを参考 にしながらボルテックスジェネレータなどの上流側のパーツ が、下流側にどう影響するか? どういうメカニズムでダウン フォースが増え、 ドラッグが減るのか? などをチェックしな がら開発したいと思っています。 【文責 :CD-adapco マーケティング 舛重国規、髙橋由香】 dynamics iSSUE 02 16 6 STAR-CCM+ Tips 適用事例 STAR-CCM+ 機能紹介、 形状パラメータ化による設計探査の旅への誘い 今回より 『STAR-CCM+ Tips』 と題してSTAR-CCM+で、 ぜひ活用して頂きたい有用な機能やノウハウなどをピック アップして紹介します。今回は、第1回目として3D-CADを用いてパラメトリックに形状を変更する方法とその適用 事例を紹介します。 3D-CADモデラーの概要 3D-CADモデラーは、STAR-CCM+に内蔵されたジオメトリ 2Dスケッチ以外では、形状の押出しやボディの平行移動な どを実 行する際に各寸 法 入 力欄の[ ? ]マークから作成でき ます。(図2) モデリングツールで、CADとCAEのギャップを埋 める履 歴 型 (ヒストリー)CADです。1から形状作成を行うだけでなく、既 存のCAD形状を読み込んで解析対象となる流体領域の抽出 や不要な詳細形状の簡略化など、解析に必要な形状を準備す るための機能が用意されています。 3D-CADモデラーの大きな特長の一つとして、パラメータを 使った寸法制御が挙げられます。STAR-CCM+ではこれを「デ ザインパラメータ」 と呼んでいます。デザインパラメータでは、 単純な数値寸法以外にも数式として他の寸法を参照すること ができるため、他の(複数の)寸法に依存させた形状の定義が できます。また、履 歴 型 のCADで すので、後 から形 状 寸 法を 変更することも容易です。例えば形状に対する感度解析の実 図2:押し出し形状のデザインパラメータの作成 施、さらにはSTAR-CCM+の最適化アドオンモジュールである Optimate+(追加ライセンスが必要) と組み合わせ、設計変数 これらの方法は、選択したスケッチなどのオブジェクトに対 として利用できます。これにより、製品の性能向上や省エネ してデザインパラメータを作成しますが、あらかじめデザイン 化を目的とした設計探査が容易になります。 パラメータを作成しておき、それを割り当てるといった間接的 なデザインパラメータを作成することも可能です。これは、 デザインパラメータの作成 3D-CADの設定ツリーのデザインパラメータを右クリックして 作成します。(図3) デ ザイン パラメータは、寸 法 定 義 や パターンコピー など 3D-CADモデラー内の様々な場面で作成することができます。 2Dスケッチでは、描画したラインを右クリックしてアクセスで きる寸法設定画面で「パラメータを公開する」のチェックボッ クスを有効にすれば作成されます。(図1) 図3:間接的なデザインパラメータの作成 デザインパラメータを作成する場合、寸法として入力する数 値の後ろには単位系を指定します。ここではメートル(m)やミ 図1:2Dスケッチのデザインパラメータの作成 17 dynamics iSSUE 02 リメートル(mm)、 ラジアン(rad)、度数(deg)など、 デフォルト であるSI単位系からお好みの単位系へ変更することが可能です。 状況は、 スケッチ図面上に表示されるアイコンで確認できます。 また、定義済みのデザインパラメータを他の寸法で引用する この拘束設定の有用な機能として、作図線があります。作 ことも可能です。寸法の入力テキストボックスで数値を入力す 図線はスケッチで形状として認識されないラインで、例えば る代わりに、デザインパラメータ名の冒頭に「$」マークを付け 描画したオブジェクトの中心軸を基準として長さや角度など て変数名を指定すれば定義済みの値が参照されます。(図4) を設定したい場合に使用します。作図線は、スケッチ図面で その際、四則演算だけでなく、三角関数、さらには条件分岐 描画したラインを右クリックし、 「 作図線に設定」すれば変換 を用いて制御することも可能です。 され、表示が実線から一点鎖線に変化します。 適用事例 3D-CADのパラメータ機能を用いた事例として、Optimate+ を利用したファンの最適化事例を紹介します。図5(左)に示 すダクトファンの形状をベースラインとし、性能改善を目的に ①駆動電力の最小化と②流量の最大化をターゲットとした最 適化計算を実施しました。翼形状の変更には、図5( 右)に示 す翼 長 方 向 に3つ のスケッチ面を設 けて、ねじれ 角とコード 長、キャンバー角、軸方向および垂直方向の位置を各面で可 変となるように2Dスケッチで計15個のデザインパラメータを 作成しました。この3つのスケッチをロフトによりつないで三 次 元 化した 形 状 を「円 形 パターン」機 能 で 翼 枚 数 分 だ けコ ピーします。また翼の枚数も3D形状のデザインパラメータと して設定し、 これらを形状に対する設計変数として設計探査 を実施しました。 図4:デザインパラメータの参照 計算過程では、図6( 左、中)に示すような様々なファン形状 による計算が行われ、結果としてベースラインと同じ流量で デザインパラメータの作成 駆動電力を55%低減できる最適化された図6( 右)に示すデザ インを得ることができました。 2次元スケッチでデザインパラメータを作成する際に重要と なるのが、その値の変更に応じて形状が意図した形に変形す るよう、 ラインやポイントなどのオブジェクトに対して拘束条件 を設定することです。拘束条件は、オブジェクトを右クリックし て与えることが可能です。その際に単一のオブジェクトを選択 した場合は固定拘束と水平/垂直方向の拘束、複数のオブジェ クトを同 時 選 択した 場 合 はさらに平 行、等 長、角 度 など選 択 対象に合わせた拘束を与えることができます。設定後の拘束 図6:計算過程で作成されたファン形状(左、中)と最適化されたデザイン(右) まとめ 一見設定が難しそうに思える形状最適化問題も、3D-CAD の基本的な機能を用いれば比較的簡単に定義することがで きます。STAR-CCM+の統合化されたAll-in-one環境を用い て製品の性能向上や省エネ化などを目的とした設計探査に 是非チャレンジしてみてください。 図5:ベースラインのファン形状(左) とスケッチ面位置(右) 【文責 : CD-adapco プリセールス 久保 謙治】 dynamics iSSUE 02 18 7 Technical Lecture 2 STAR-CD/es-ice Tips STAR-CD/es-iceの燃焼計算に関わる様々なコツ ここでは、STAR-CD/es-iceの幾つかのTipsについて紹介します。 ECFM-CLEH: Sootのポスト処理 定義します。そうすると、その空間を占めるモル数は図2(b) のように定義できます。 筒内の積分量としてのSootのポスト処理に関して考えます。 ECFM-CLEHではSootの計算にSection法が採用されています。 この方法では、Sootの粒径毎に輸送方程式を解くため、結果と して粒径分布を取得することができますが、Section以外にも幾 (a)質量分率 Y1 Y2 Yn (b)モル分率 Y1 M1 Y2 M2 Yn Mn つかの関連するスカラーが定義されます。v4.22ではSoot密度 [kg/m3]がMSOOTという名前で49番に定義されます。 筒内の積分量は、タイムステップ毎に.infoファイルに多数 出力されます。ここでは、時刻[sec]、筒内体積[m 3]、MSOOT [kg/m 3]の 体 積 平 均をLinuxのawkコマンドで 一 時 的 なファ 図2:スカラーの定義 イルに出力し、pasteコマンドでsoot.datというファイルを出 力する例を示します(STAR-CD v4.22に対応)。 rm soot.dat awk '/Time step =/ {print $8}' < star.info > cang.dat awk '/Mass Volume TKE/ {getline ; print $2}' < star.info > volumes.dat awk '/SC043vav SC044vav/ {getline ; print $7}' < star.info > 49.dat paste cang.dat 49.dat volumes.dat > soot.dat それゆえ、成分 i のモル分率 n i は、 Yi ni = / Mi n m= 1 Ym Mm から求めることができます。ここで、M m は成分 m の分子量、 nは アクティブスカラーの個数です。この式から、 モル分率を求める場 図1:筒内Soot量取得のコマンド例 合には、 全てのアクティブスカラーの質量分率と分子量が必要と なり、 プログラムを組む場合にはループを回す必要が出てきます。 この 後、筒 内 体 積とMSOOTを掛 けることで 筒 内Soot量 の 筒内計算では、筒内圧が高くない場合には、密度ρに理想 時系列データを取得することができます。ここで、MSOOTの 気体の状態方程式を採用します。具体的には、 平均値には必ず体積平均を使用してください。その理由とし ては、MSOOTの体積平均の定義 1 MSOOT ≡ V n P ρ= / R0 T n m= 1 Vi MSOOTi i を変形することで、筒内の全Soot量[kg] として表されます。ここで、R 0 は普遍ガス定数、T は絶対温 度、P は絶対圧力です。上記の2式から質量分率と分子量の 比の総和を消去すると、 n Vi MSOOTi = V・MSOOT Ym Mm ni = ρ i Yi R 0 T Mi P を定義することができるからです。ここで、V は筒内の体積、 となるので、ループを回さずに計算セルの質量分率と他の状 V i はセル i の体積、n は筒内のセルの個数です。 態量から体積分率を求めることができます。 質量分率から体積分率への変換 低位発熱量の調整 STAR-CDで輸送方程式として解いているスカラーは質量分 筒内計算をする場合には、比熱のオプションとして温度の 率として定義されています。しかしながら、pro-STARのポス 多項式を採用します。ECFM-3ZやECFM-CLEHでは、対象とす ト処理やSTAR-CDのユーザーサブルーチン上で体積分率(モ る総括反応で使用されるスカラーやその物性は自動的に定義 ル分率)を取得したい場合が時々あります。 されますが、比熱はchemkinデータベースから定義されます。 ある空間を占める混合ガスの質量(分率)を図2(a)のように 燃焼により反応物から生成物が生成された場合には、 それぞれ 19 dynamics iSSUE 02 のスカラーで定義されているエンタルピーにより発熱量が自動 5 hf0 Tr e f 的に与えられます。このとき、実際に対象としている燃料の低 位発熱量とSTAR-CDで定義したエンタルピーから求められる ai = R0 Tr e f i =1 i + a6 i 発熱量に差が生じる可能性があります。STAR-CD v4.22から ここで、多 項 式 の 係 数 a 1 から a 5 は 図4の C 1 から C 5 に 相 当 es-iceのStar Controlsで低位発熱量を指定することができるよう し、a 6 は同図のEnthalpyに相当します。反応物、生成物から になりました(図3参照)。また、 これにより、対象燃料の比熱の 定義される低位発熱量[J/kg]は、 多項式設定のEnthalpyが自動的に調整されます(図4参照)。 LHV Tr e f = 1 MF h 0f r e a c t a n t s Tr e f - h 0f p r o d u c t s Tr e f であり、対象としている総括反応を、 Cx Hy + x + y y O2 → xCO2 + H2 O 4 2 とすれば、1モルの燃料消費に対して、 LHV Tr e f = 1 MF h 0fFuel Tr e f + x + - x h f0CO 2 Tr e f - y 0 T h 4 f O2 ref y 0 T h 2 f H 2O r e f となります。ここで、M F は燃料の分子量[kg/mol]です。こ の 式 から、目 標となるLHV( T ref )を 指 定して、燃 料 の a 6 を 求めることができます。図4の例では、温度レンジが二つあり ますが、具体的には、まず始めにレンジ1の a 6 を求めてから、 0 hfFuel 図3:Star Controls(es-ice) r ange 1 R0 Tr e f 2 = 0 hfFuel r ange2 Tr e f 2 R0 なる拘 束 条 件 により、 レンジ2の a 6 を求 めることで 対 応しま す。ここで、T ref 2 はレンジ1と2の境界温度です。 この係数を計算する方法が弊社カスタマーポータルの記事番 号21175“燃料の低位発熱量をpro-STARに反映する方法” として、 a6 計算用のExcelファイルと説明書が添付されています(図5参照)。 G4-G5にレンジ1の温度、G6-G10に列に多項式の係数、 Ⅰ列 には、 レンジ2の 値を入 力します。G12-G14には 予 め 計 算し たO 2 、CO 2 、H 2 Oのエンタルピーを入力し、B5に狙いの低位 発熱量[kJ/kg]を指定してください。 図4:比熱の多項式設定(pro-STAR) これらの調整がどのように実施されているかについて予め 知っていれば、v4.22以前のバージョンや独自の燃料の多項 式へも対応することができるため、以降で簡単に説明します。 あるスカラー の 基 準 温 度 T ref で の エンタル ピー[J/mol] (図4のEnthalpyではありません)は、 図5:a6 計算のためのExcelシート 【文責 :CD-adapco ICEチーム 菅 裕二】 dynamics iSSUE 02 20 8 Overseas User Cases 2 化学プロセス ̶ 多層ポリエステルフィルム シミュレーションによる 多層ポリエステルフィルムの 層制御の向上 JAMES CHAMPION、KIERAN LOONEY DUPONT TEIJIN FILMES U.K. LIMITED MARK SIMMONS バーミンガム大学ケミカルエンジニアリング学部 はじめに を行うリーディングカンパニーとして、ポ リエステルフィルム製品とそのプロセス ポリエステルフィルム製造 本、回路基板、 ソーラーパネル、生鮮食 革 新 に 継 続 的 に 取り組 ん で い ま す。 一般に、ポリエステルフィルムは、ポリ 品、冷 凍 食 品、自動 車 運 転 免 許 ― これ この 記 事で は、DTF社 が 実 施した、生 マーを冷却ドラムの上に押し出した後、 らに共通するものは何でしょうか。それ 産プラントでただちに応用可能な多層 延伸プロセスで引き伸ばす、押出しプロ は私たちの日常にすっかり溶け込み、そ フィルム(MLF)の 層 構 造と層 制 御 の 数 セスで製造されます。その後、 フィルム の存在を意識することすらありません。 値シミュレ ーション の 内 容 を 紹 介しま に高温環境で圧力を与え結晶化させる 答えはポリエステルフィルム、20世紀の す。DTF社 は バ ーミンガ ム 大 学 ケミカ ことによって最終成形し、分子配向を決 発明品の中で最も用途が広く便利な製 ルエンジニアリング学部と提携し、数値 定します。DTF社の製品ポートフォリオ 品です。ポリエステルフィルムは、太陽 シミュレーションを通してMLFを製造す の主要部分を占めるのは、ポリエステル 光発電から包装、建材、ヘルスケア、画像 る共押出しプロセスについての理解を ベースのMLFです。MLFは複数のポリエ 処理、電子機器に至るさまざまな用途で 深めました。MLFは、複数のポリマー溶 ステルを溶融し (ポリマー液の温度が結 利用されています。DuPont Teijin Films 融樹脂層が、i)エンドフィードダイに連 晶化温度を超えた状態)、共押出しプロ (DTF)社は、ナイロンとポリエステルフィ 結され たインジェクターブロック、また セスで接着することによって形成されま ルムの発見に至る1920∼1930年代の画 は ii)マル チ マ ニ ホ ー ルドダイ(MMD) す。MLFに は 反 射フィル ム、デ ータスト 期的な研究に始まり、長年にわたってこ で初めて接触したときに形成されます。 レージ、カード、太陽電池など、様々な用 の多面的な製品の普及役を担ってきま この 研 究 は、その 幅 広 い 影 響と産 業 へ 途があります。DTF社では、複数のポリ した。今日DTF社は、PET( ポリエチレン の利益を評価した、英国の工学・物理科 マー樹脂層をダイに連結されたインジェ テレフタレート) フィルムおよび PEN(ポ 学研究評議会(EPSRC)から支援を受け クターブロックまたはマルチマニホール リエチレンナフタレート) フィルムの製造 ています。 ドダイ(MMD)で 接 着して、単 一 のMLF 21 dynamics iSSUE 02 構造を形成しています。インジェクター ブロックの場合、ポリマーはダイ内で拡 幅する前に合流し、MMDの場合、拡幅し た後に合流します。 図1に、DTF社で 製 造している一 般 的 なMLFの 構 造 を 示 し ま す。A、B、Cは MLFを構 成 するポリマ ー 層で す。MLF の 処 理 の 鍵を握るの は、 ダイで の 拡 幅 で す。その 後、フィル ムは 冷 却され、縦 図1 横に延伸されて、最終的なポリエステル 一般的な MLFの構造 フィルムとなります。MLFの一般的な厚 み は3∼250µm、長 さ は お よ そ300∼ 計算ツールの評価が行われ、最終的に 9,000mm です。 弊 社CD-adapcoのSTAR-CCM+がシミュ 一 般 的 な 製 造プロセスで は、流 通 の レーションプラットフォームとして選択 前に端がトリミングされます。副層はよ されました。 り薄いため、通常、 トリミングコストが高 まず、インジェクターブロックとエンド くなります。また、副 層 はトリミングク フィードダイによる共押出しプロセスの リップを汚染するため、修理コストが高 オイラー混相流(EMP)計算が実施され くなる可能性があります。このため、両 ました。STAR-CCM+のVolume of Fluid 端に主層のみの部分をつくるほうが好 (VOF)機能により、異種ポリマー樹脂間 ましいとされています(業界の専門用語 の接触界面のモデリングと追跡が行わ で「クリアエッジ」 と呼びます)。溶融樹 れました。EMPモデルでは、2相以上の 脂層の厚みと溶融樹脂フローのプロパ シームレスな計算が可能です。フロー ティが異なる場合、個々の溶融樹脂層の は層流であり、非圧縮性のニュートン流 幅と厚み、およびエッジを制御すること 体であるものと仮定します。最初は2種 は困難になります。重要なのは適切な 類の樹脂は同じ性質であるという設定 層制御により、製品の性能を向上させ、 で計算しましたが、後から副樹脂の粘性 コストのかかる実験を減らすことです。 を高くした 計 算を行 いました。領 域 は STAR-CCM+でヘキサのトリムメッシュ CFDモデリング ̶ エンドフィードダイ を使用して離散化されています。総メッ シュ数は、インジェクターブロックが150 図2 DTF 社の一般的な共押出し構造: インジェクターブロックと エンドフィードダイ (上)、 マルチマニホールドダイ (下) 図3 インジェクターブロックと エンドフィードダイのメッシュ 万セル、エンドフィードダイが 1,450万セ 図2は、DTF社が使用する 2 つの共押 ルとなっています。2つ の 樹 脂 は、温 度 出し構 造で す。最 初 の 方 法で は、複 数 285℃、密 度1,250kg/m3、粘 度170Pa-s、 のポリマー溶融樹脂がインジェクターブ 熱伝導率0.2W/m/Kで初期化されます。 ロックに注入された後、合わさった溶融 主 樹 脂 で あ る 樹 脂1の 質 量 流 量 は 樹脂構造がテーパー型の押出し口から 80kg/h、副 樹 脂である樹 脂2 の 質 量 流 均一に押し出され、均一な最終フィルム 量は20kg/hで、それぞれの体積分率は 構造が形成されます。MMDでは、主層 80%と20%となりま す。す べ て の 計 算 がメインブロックに注入され、副層がサ は、32GB の メ モ リ を 搭 載 し た Dell イドチャネルから注入されることにより、 Precisionワークステーションで 実 行さ テーパーダイから合流した溶融樹脂が れました。 押し出されます。ここで、DTF社 が 使 用 図4は、インジェクターブロックとエン する2つの共押出しプロセスを数値計算 ドフィードダイの 各 部 に お ける樹 脂 の で比較した研究を紹介します。複数 の 体 積 分 率を表しています。押 出し口で dynamics iSSUE 02 22 8 Overseas User Cases 2 化学プロセス ̶ 多層ポリエステルフィルム 合流したこの樹脂構造はタイプABAで、 中 央 に 樹 脂1(赤)、そ の 両 側 に 樹 脂2 (青)があります。この 図 から、インジェ クターブロックとエンドフィードダイの 両 方 で 樹 脂 が 滑らか に 接 合し、ABA構 造が保持されていることがわかります。 インジェクターブロックの形状は非対称 図4 各断面における体積分率:インジェクターブロック (左) 、 エンドフィードダイ (右) 図5 インジェクターブロックとエンドフィードダイの押出し口の体積分率 図6 粘度比 1:1 の場合(左) と粘度比が増加した場合(右)の押出し口における流量 で、樹 脂2はまず 左 側 から注 入され、次 に 右 側 から注 入されます。2番 目 の 図 は、エンドフィードダイの押出し口の体 積分率を示しています。シミュレーショ ンでは、0mm側の端は、上側にも下側に も樹脂2の層があり、 クリアエッジになっ ていません。しかし、実験ではクリアエッ ジが形成されることが確認され、計算と は異なる結果となりました。計算でクリ アエッジが見られなかったのは、 ダイ内 の水平フローから垂直フローへの遷移 領域を、細かいメッシュで適切に解像し なかったためだと思われます。計算で は、410mm側 の 端で 上 側 の 樹 脂2の 層 が下側の樹脂2の層より広がっています (図5)。エンドフィードダイの押出し口 で、最終的に均一の厚さになります。押 出し口の各部での流量を示した図を見 ると、各部の流量の差は非常に小さいこ とが わ かりま す。これ は、幅 広 な テ ー パーによって最終の厚みが均一になる ことを示しています(図6)。 ホ ー ルド ダ イ(MMD)で も シミュレ ー わかります。MMDのフローはより対称 副樹脂層の粘度を主樹脂層の粘度の2 ションを行い、最終的な層構造と厚みを 性があり、両側に同じ幅のクリアエッジ 倍から5倍にした場合のシミュレーション 比較しました。メッシュは、1,200万セル があります。 も実施しました。押出し口の各部におけ の ヘ キ サ のトリム メッシュで 生 成し、 した がって、フィル ム終 端で 樹 脂2の る流量を3種類の粘度について示した図 テーパー型の押出し口にかけて十分な 副 層 が 均 一 に なっている点と、押 出し (図6)から、副 樹 脂 層 の 粘 度 が 高くなる 細 分 化 が 行 わ れました。解 析 条 件 は、 口 の 両 側 にクリアエッジが 存 在 する点 につれ、流量の均一性が小さくなり、樹脂 インジェクターブロックとエンドフィード から、MMDの処理の方が優れていると 層の最終的な厚みが不均一になることが ダイの場合と同じです。MMD内の各部 いえます。 わかります。表1は、エンドフィードダイ の体積分率を示すコンター図から、樹脂 の 410mm側における各粘度に対するク 層 同 士 が 滑らか に 接 触し、ABA構 造 を リアエッジ幅と流量の差を示しています。 形成していることがわかります。流れ場 の速度ベクトルは、樹脂2が注入される マルチマニホールドダイ (MMD) のCFDモデリング と、樹脂1の変形が起こることを示してい ます。押出し口の体積分率の図で、2種 類の樹脂が合わさった最終的なフィル インジェクターブロックとエンドフィー ムの構造を確認でき、エンドフィードダイ ドダイのモデリングと同様に、 マルチマニ と比べて均一度が高くなっていることが 23 dynamics iSSUE 02 表1 押出し口の流量差 図7 マルチマニホールドダイ (MMD)のメッシュ 副 層 の 粘 度を、主 層 の2倍、3倍、5倍、 10倍に変更した場合の計算を行いまし た。押出し口の端から端までを見ると、 中心部分ではグラフが直線で、一体化し た樹脂構造の中心部分は均一な厚みに なっていることがわ かります。一 方、両 端では、粘度の低い主樹脂層のみが存 在するため、 グラフに大きなピークが見 られます。副層の粘度を高くすると、流 図8 各部の体積分率(上) 、MMDの押出し口の体積分率(下) 図9 粘度比 1:1 の場合 (左) と粘度比が増加した場合 (右) の押出し口における流量- MMD 量の差が縮小することから、副層の粘度 が高い構造では MMD のほうが優れて おり、計算上は効率的であるといえます。 結論 エンドフィードダイに 連 結した イン ジェクターブロックと、マルチマ ニ ホー ルドダイ (MMD)の両方で多層ポリエス テルフィル ムの 形 成 の 数 値シミュレ ー ションを行った結果、 よりクリアなエッジ ができる MMD の方が製造に適してい ることが わ かりまし た。さら に、MMD で はより均 一で 薄 いフィル ムを生 産で き、粘度が高い樹脂を使用した場合でも 滑らかな界面となります。このように、 数 値シミュレ ーションでその 解 析 対 象 を実機スケールの形状モデルに拡張す 数値シミュレーションを通して、 ポリエステルフィルムの共押出しプロセスと、 よりクリアなエッジの生成方法に対する理解が深まります。 処理が容易になり、 クリアエッジの効果で 処理コストも低くなるでしょう。 れば、ポリエステルフィルムの共押出し プロセスと、 よりクリアなエッジの 生 成 MLF 形成で副層の粘度を小さくした場 方 法 に対 する理 解をさらに深 めること 合の影響もわかります。処理が容易に ができ、非 常 に 有 益となります。また、 なり、 クリアエッジの 効 果で 処 理コスト 計 算 に よりポリエ ス テ ル を 使 用し た も低くなるでしょう。 ※本記事はCD-adapcoのグローバルニュースレター 『Dynamics issue35』 からの抜粋です。 【訳 : CD-adapco プリセールス 久保 謙治】 表2 押出し口の流量差 ‒ MMD dynamics iSSUE 02 24 9 カスタマーポータル The Steve Portal CD-adapcoの技術サポートを24時間いつでもどこでも!! ユーザーの皆様は、STAR-CCM+やSTAR-CD/es-iceなどで解析を行っているときに、 ちょっとした質問が生じた 際、 お客様のサポート担当にお電話やE-mailによりお問い合わせいただいていると思います。たとえば、 サポート 受付時間終了後や急な案件で休日に業務をせざるを得ず、使用方法などがわからないといった問題が生じたら?! さて、 どうしますか?ここで、 カスタマーポータル-The Steve Portal-の出番です。 はじめに マイケース ̶ サポートの投稿/管理 CD-adapcoはお客様のシミュレーションを成功へと導くため カスタマーポータルの『マイケース』ページから技術サポート に、極めて品質の高い技術サポートをご提供しています。すべ を投稿することができます。マイケースを利用することのメリッ てのお客様に対して、お客様を理解し、責任を持って業務にあ トは、技術サポートの内容がE-mailに埋もれてしまうことなく、 たる専属のサポートエンジニア制を導入しております。しかし、 一元管理することができる点です。さらに、 この内容を上司や お客様とCD-adapcoの関係をより密にするために、弊社では、 グループメンバー間と共有することができます。また、 メールで 製品のFAQやモジュールダウンロードページ、技術資料などを は添付することのできない、大容量データの送付が可能です。 含 む、お 客 様 限 定 サイトである 『カスタマーポータル ̶ The Steve Portal ̶(http://steve.cd-adapco.com)』をご提供して います。これにより、お客様はCD-adapcoの高品質のサポート を24時間、いつでもどこでもご利用いただくことが可能です。 カスタマーポータルの主要機能 カスタマーポータルには、次のような機能があります。 図2:マイケースのサポートケース ※グループ共有機能のご利用に関しては、 弊社営業、 もしくは サポート担当までご連絡ください。 ナレッジベース ̶ CD-adapcoのFAQ ナレッジベースでは、現在約1500件のSTAR-CCM+やSTAR-CD /es-ice、 ライセンス/システム関連のFAQが閲覧可能です。本 FAQは、 日本国内のエンジニアのみならず、世界34のオフィス 図1:カスタマーポータル ホーム画面 のエンジニアにより作成され、CD-adapcoの英知を集結したも のとなります。simファイルやJavaマクロ、STAR-CDのユーザー ・ マイケース:サポートの投稿/管理 サブルーチンなど、多くのサンプルデータが添付されています。 ・ナレッジベース: STAR-CCM+などのFAQ また、FAQをpdf変換し手元に溜めていただくこともでき、お気 ・ モジュールダウンロード:製品ダウンロード に入り機能により、更新情報を得ることも可能です。検索は語 ・ドキュメント:STAR-CCM+日本語版ユーザーガイドと 彙/製品/カテゴリ分類により可能であり、AND/OR検索方法 チュートリアル などのヒントに関しては、図3の検索語彙入力フィールド左の ・ライセンス:Power on Demandライセンス管理 マークのアイコンをクリックして確認することができます。 ・リソース:技術資料ダウンロード、製品情報ページなど また、最 新 のFAQアップデート情 報を毎月のメール ニュース ここでは、紙面の都合上、主要な機能のみご紹介します。 25 dynamics iSSUE 02 『サポート通信』 でお届けしています。 ■ 公開ページ このページでは、 STAR Japanese Conferenceを含むCD-adapco のカンファレンスでの講演資料のダウンロードやDynamics Japan Editionを含むCD-adapcoのマガジンのダウンロードな どを行うことが可能です。この他にワークショップ情報やアニ メーションなどをご覧いただくことができます。検索フィール ドで“Type”や“Conference”などで検索条件を指定してさまざ ま資料をご確認ください。 図3:ナレッジベースのカテゴリ分類 モジュールダウンロード STAR-CCM+やSTAR-CDなどCD-adapco製品の最新バージョ ンはもちろん、FLEXlmなどのモジュールをダウンロードするこ とができます。この他に各チュートリアルやSTAR-CCM+の基 図6:リソース 公開ページ 礎検証データ (Verification Suite)をダウンロードすることがで きます。Verification SuiteにはSTAR-CCM+の品質保証のため の約70個のテストケースが含まれており、モデル概要、境界/ ■ STAR-CCM+ 製品ページ 初期条件、使用した物理モデルや計算結果との実験値/文献 本製品ページでは、STAR-CCM+の最新バージョンの製品情 値との比較結果が記載されています。お客様自身で同じモデ 報や“オンラインドキュメントを開くあるいはpdfのダウンロー ルを使用し、検証することも可能です。 ド” (図7の赤枠)から、 日本語版ユーザーガイド、チュートリアル のpdfのダウンロードを行うことができます。 検証データ概要 図4:モジュールダウンロードページとVerification data 図7:リソース STAR-CCM+製品ページ リソース リソースでは、 さまざまな資料やSTAR-CCM+の日本語ユー 最後に ザーガイドのPDFファイルのダウンロードが可能です。主要な 今回は、 カスタマーポータルの一部の機能のご紹介のみと ページをご紹介します。 なってしまいましたが、 カスタマーポータルはお客様にとって、 弊社製品をより良くご利用いただくためのサービスとして、 ご 提供させていただいております。このため、随時開発/改善を 実施しております。ぜひ、 ご活用頂き、 ご意見やご要望等をどう ぞお気軽に弊社営業、サポート担当や私にご連絡くださいます ようお願いいたします。 ご利用方法 カスタマーポータルのご利用に際しては、ユーザーアカウントの発行が 必要となります。弊社営業もしくは、 サポート担当まで、 ご連絡ください。 図5:リソース 【株式会社CD-adapco カスタマー・ポータル担当 舛重 国規】 dynamics iSSUE 02 26 Information CD-adapco Technical Event ̶ 技術イベント ̶ CD-adapco テクニカルワークショップ (無償) STAR-CCM+のアプリケーション特化型、機能特化型ハンズオン講習会であり、STAR-CCM+の機能をより深くご習得いただけます。 コース例 CFD 基礎、 3D-CAD モデラー、 メッシュ作成、乱流モデリング、 伝熱、VOF、DEM、 ラグランジェ混相流、 オイラー混相流など *日程、 開催会場は各コースによって異なります。 詳細は WEB ページやご案内メールにてご確認ください。 CD-adapco ウェビナー (無償) インターネット上で実施されるウェブセミナー“エンジニアリング・ウェビナー”を開催しております。執務デスクからの聴講が 可能であり、出張が不要です。最新のSTAR-CCM+テクノロジーや業界のトレンドをぜひご確認ください。 ・ STAR-CCM+ リリースウェビナー (ライブ):新機能・機能強化部分に特化しご説明 ・ 録画ウェビナー:WEB から視聴可能です。STAR-CCM+ を使用した業界の最新動向をご紹介 車両、 IC エンジン、 バッテリー、化学プロセス、電子機器、 音響、回転機器など 例 CD-adapco Technical Support ̶ 技術サポート ̶ カスタマーポータル ̶ The Steve Portal ̶ CD-adapco のユーザーフォーラム CD-adapcoのサポートを24時間 いつでも、 どこでも! IdeaStorm ・お客様のアイデアを直接STAR-CCM+の ソフトウェア開発へ アイデアをご投稿/ ・お客様の英知を集約 ご投票ください! MacroHut ・Javaマクロをお使いのお客様向けの ユーザーフォーラム ・世界中のお客様とマクロの情報交換が可能 CD-adapco お客様専用サイト * IdeaStorm、MacroHutとも STAR-CCM+ およびカスタマーポータルから ログイン可能です。 http://steve.cd-adapco.com CD-adapcoトレーニング (有償) お客様の解析業務の早期立ち上げ支援のための、 ソフトウェアの初期トレーニングや機能に特化した中級トレーニング、 お客様のアプリケーションに特化したカスタマイズトレーニングと幅広くご提供しております。 コース例 STAR-CCM+ 初心者向け、STAR-CCM+ 中上級者向け、 Java を用いた自動化処理など *日程、 開催会場などに関しては WEB ページにてご確認ください。 CD-adapco Engineering Service ̶ エンジニアリングサービス ̶ CD-adapco では、 ソフトウェア開発元である強みを基に通常の受託解析はもちろん、 コード開発や新しい解析技術の開発、 カスタマイズなども実施しております。 CD-adapco のエンジニアリングサービスをご利用いただくことで、解析業務の早期立ち上げを可能とします。 STAR Japanese Conference 2015 約50社様を超えるユーザー講演! CD-adapco では日本のユーザー様へ向けたユーザー会「STAR Japanese Conference 2015」 を 下記日程・場所で開催を予定しています。皆様のご参加を心よりお待ちしております。 【 STAR Japanese Conference 2015 開催概要 】 日程 火 2015年 6月 2日 3日 水 詳 細 ・ 会 場:横浜ロイヤルパークホテル ・ 参加費:無料(事前登録制) http://www.star-japanese-conference.com/ 前回の会場風景 CD-adapco は、様々な流れ・熱・応力解析などのエンジニアリングシミュレーションを提供するグローバルリーディングプロバイダーです。 株式会社 CD-adapco 横 浜 オフィス 〒222-0033 横浜市港北区新横浜2-3-12 新横浜スクエアビル16F Tel:045-475-3285 大 阪 オフィス 〒532-0003 大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル9F Tel:06-4807-7840 名古屋 オフィス 〒460-0002 名古屋市中区丸の内3-17-13 いちご丸の内ビル8F Tel:052-228-6901 E-mail:[email protected] http://www.cd-adapco.com/ja Dynamics Japan Edition ISSUE02 発 行 元 :株式会社 CD-adapco ※本誌に掲載されたすべての内容は、株式会社CD-adapcoの許可なく転載・複写することはできません。 2015 年 4 月発行 デザイン :Santana Art Works ※本誌記載の製品名は各社の商標または登録商標です。 ©2015 CD-adapco
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