Summary Report from Journal of Infection and Chemotherapy 日本人の重症・難治性呼吸器感染症患者における メロペネム3g/日の有効性と安全性 Efficacy and safety of meropenem (3g daily) in Japanese patients with refractory respiratory infections Toshinori Kawanami a, Hiroshi Mukae a, Shingo Noguchi a, Kei Yamasaki a, Kentarou Akata a, Hiroshi Ishimoto a, Kana Matsumoto b , Kunihiko Morita b, Kazuhiro Yatera a a Department of Respiratory Medicine, University of Occupational and Environmental Health, Japan b Department of Clinical Pharmaceutics, Doshisha Women's College of Liberal Arts, Japan J Infect Chemother. Vol. 20 No.12, 2014 : 768-773 監修・コメント 迎 寛 先生 産業医科大学 医学部 呼吸器内科学 教授 日本人の重症・難治性呼吸器感染症患者におけるメロペネム3g/日の有効性と安全性 Efficacy and safety of meropenem (3g daily) in Japanese patients with refractory respiratory infections はじめに 結 果 肺炎は、日本において死因の第3位を占めており、極 めて重要な感染症である。メロペネム (MEPM)は、グラ ム陽性菌、陰性菌および嫌気性菌に対して強い抗菌力と 幅広い抗菌スペクトルを有するカルバペネム系抗菌薬で ある。 日 本 の 肺 炎 治 療 の ガイドライン で は、カルバ ペ ネ ム 系 抗 菌 薬 は 中 等 度~超 重 症 の市 中 肺 炎 (CAP; 1) community-acquired pneumonia)、耐性リスクのある 菌が感染に関与していることが想定される医療・介護 関連肺炎 (NHCAP;nursing and healthcare-associated 2) pneumonia) 、人口呼 吸 器 関 連 肺炎 (VAP;ventilatorassociated pneumonia)を含む中等度~重症の医療ケア 3) 関連肺炎 (HAP;hospital-acquired pneumonia) に対し 治療薬の一つとして推奨されている。また海外のガイド ライン、例えば米国胸部疾患学会 (ATS)/米国感染症学会 (IDSA)のHAPのガイドラインでもMEPMによる治療が記 載されており、その投与量は3g (1g×3回)/日で推奨され ている 4)。 日本におけるMEPM の1日最大投与量はこれまでは 2g/日が上限であり、当時は臨床効果の達成に十分な投 与を保健上実施できない場合があった。しかし、2011年 3月に日本でもようやく3g/日投与が認められた。そこで 本試験では日本人を対象に、重症・難治性肺炎患者に 対する、MEPM3g/日投与の臨床的有用性と安全性に関 して検討を行った。 本試験には合計 53 例を登録したが、5 例 (肺真菌症 2 例、肺癌による発熱3例)は登録後に細菌感染症では ないことが判明したため除外した。対象とした48例の平 均年齢は70.5±11.7歳、男性 37例/女性11例で、疾患は CAPが17例、NHCAPが15例、HAPが9 例、胸 膜 内 感 染 症が7例であった。合併症は悪性疾患が15例 (31.3%)、 呼吸器疾患が13例 (27.1%)、脳血管疾患が4例 (8.3%)、 心疾患と糖尿病が各2例 (4.2%)、腎疾患が1例 (2.1%)で あった。抗菌薬による前治療は、MEPM 2g/日以下が15 例 (31.3%)、MEPM 以外の抗菌薬が11例 (22.9%)であっ た。また、平均WBC数 は11,103±5,942/mm3 で、平均 CRPは18.0±9.5mg/dLであった (表1)。 対象および方法 2011年 7月~2013 年 6月にかけ産業医科大学および 関連病院において、CAP、NHCAP、HAP、膿胸などの下 気道感染症の入院患者を前向きに登録した。肺炎の定 義は 、以下の3 つの基 準すべてを満たす場 合とした。 ①臨床症状 (発熱、咳嗽、化膿性喀痰、湿性ラ音、胸痛、 呼吸困難、呼吸促迫)のうち、少なくとも一つを認める、 ②胸部X線所見あるいはCT で新たな浸潤を認める、③ 炎症の徴候 (白血球[WBC]数>10,000/mm3 あるいは <4,500/mm3、C 反応性蛋白[CRP]の上昇、37℃以上の 発熱)のうち、少なくとも一つを認める。 MEPMは1回1gを1日3回、約1時間かけて8 時間毎に 点滴静注し14日間継続した。MEPM投与期間中、他の抗 菌薬の使用は認めなかった。 主要評価項目は治療終了時の奏効とし、日本化学療 法学会の判定基準に基づき、臨床症状・臨床検査値・胸 部X線所見により評価した 5)。 表1:患者の背景因子と臨床的特徴 患者数 年齢,平均±SD(歳) 性別, 男性/女性 体重,平均±SD(kg) 基礎疾患 n(%) なし 悪性疾患 (肺:11,食道:3, 胃:1,複数:1 (肺,食道,喉頭) 呼吸器疾患 脳血管疾患 心疾患 肝疾患 腎疾患 糖尿病 抗菌薬による治療歴 MEPM≦2g/day 他の抗菌薬(MEPM以外) 臨床所見 WBC(/mm3) CRP(mg/dL) CAP n(%) 中等症 重症 超重症 NHCAP n(%) 中等症 重症 超重症 HAP n(%) 中等症 重症 胸膜内感染症 n(%) n=48 70.5 ± 11.7 37/11 52.9 ± 12.7 15(31.3) 15(31.3) 13(27.1) 4(8.3) 2(4.2) 0(0.0) 1(2.1) 2(4.2) 22(45.8) 15(31.3) 11(22.9) 11,103 ± 5,942 18.0 ± 9.5 17(35.4) 11 3 3 15(31.3) 10 2 3 9(18.8) 8 1 7(14.6) Kawanami T, et al. J Infect Chemother; Vol. 20 No.12, 2014 : 768-773 より和訳 川波 敏則a,迎 寛a,野口 真吾a,山崎 啓a,赤田 憲太朗a,石本 裕士a,松元 加奈b,森田 邦彦b,矢寺 和博a a 産業医科大学 呼吸器内科学, b 同志社女子大学 臨床薬剤学研究室 MEPM 3g/日で治療を実施した全患者での奏効率は 90.9% (40/44 例 )で、CAP が94.1% (16/17例 )、NHCAP が91.7% (11/12 例)、HAP が87.5% (7/8 例)、胸膜内感染 症 が85.7% (6/7例 )であった (表 2)。CAPとNHCAP の 各3 例、合計 6 例は超重症例であったが、いずれも奏効 が得られた。 効果不十分のためにMEPMを2g/日以下での治療から 3g/日に増量した症例は15例で、その内訳はCAPが7例、 NHCAPが3例、HAPが2例、胸膜内感染症が3例であった。 増量例における奏効率は84.6%であった。 喀痰あるいは気管支肺胞洗浄液の培養検査により、 48例中22例で起炎菌が同定された。主要な起炎菌は、 Pseudomonas aeruginosa/Klebsiella pneumoniae が 各 4例、Streptococcus sp. が 3 例、Streptococcus pneumoniae/ Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus( MSSA)/ Haemophilus influenzae が 各 2 例、 Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA) / Staphylococcus sp. /Escherichia coli/S. pneumoniae+H. 表 2:難治性肺炎患者に対するMEPM 3g/日の有効性 合 計 CAP HAP 中等症 重症 超重症 中等症 重症 胸膜内感染症 16/17(94.1) 11/11(100) 2/3(66.7) 3/3(100) 11/12(91.7) 6/7(85.7) 2/2(100) 3/3(100) 7/8(87.5) 6/7(85.7) 1/1(100) 6/7(85.7) (μg/mL) 60 MEPM血中濃度 NHCAP 中等症 重症 超重症 40/44(90.9) influenzae/ MSSA+P. aeruginosa が各1例であった。 有害事象は48例中17例に発現し、AST/ALT上昇が10例 (20.8%)、血清クレアチニン値上昇2例 (4.2%)、好中球 減少症3例 (6.3%)、薬剤性肺炎/血小板減少症/発疹/ 下 痢が各1例 (2.1%)であった。なお、ほとんどの有害事象 は軽度~中等度 (Grade 1/2)で、Grade 3 は血小板減少 症の1例のみであった。このうち、4例が有害事象により MEPMを中止した (表3)が、すべての臨床検査値異常は MEPMの中止あるいは変更により、速やかに改善した。 MEPM 3g/日 (1回1g)を投与した13例の平均血中濃 度は、投与前1.9±2.5μg/mL、1時間後 44.9±12.0μg/ mL 、4 時 間 後5.7±5.2μg/mLであった。一方、MEPM 3g/日 (1回1g)と1.5g/日 (1回 0.5g)の両方の血中濃度を 測定した1例の投与1時間後の血中濃度は、1回1gでは 41.0μg/mL、1回 0.5gでは15.2μg/mLで、1回1g投与後 の明らかな血中濃度の上昇が確認された (図)。 Pharmacokinetics( PK)/ Pharmacodynamics( PD) 解 析 で は 、MEPM 3g/ 日 (1回 1g)投 与 後 に %time above MIC ( %TAM)/24 時間が50%を超えていたのは、 MIC 4μg/mL に対して12/13 例(92%)、MIC 8μg/mL に対して9/13 例(69%)であった (表 4)。 3g/日(n=13) 1.5g/日(n=1) 50 40 30 20 10 0 投与前 1.9±2.5μg/mL *4 例はMEPM 有効性の評価不能。 1時間後 44.9±12.0μg/mL 4時間後 5.7±5.2μg/mL Kawanami T, et al. J Infect Chemother; Vol. 20 No.12, 2014 : 768-773 より和訳 Kawanami T, et al. J Infect Chemother; Vol. 20 No.12, 2014 : 768-773 より和訳 図:MEPM (1.5g/日、3g/日)投与前後の血中濃度 表 3:MEPM 3g/日投与患者で認められた有害事象 有害事象 AST/ALT 上昇 血清クレアチニン値上昇 好中球減少症 薬剤性肺炎 血小板減少症 発疹 下痢 合計 n=48 (%) CTCAE* グレード (1/2/3/4) 10 2 3 1 1 1 1 17 20.8 4.2 6.3 2.1 2.1 2.1 2.1 7/3/0/0 1/1/0/0 2/1/0/0 1/0/0/0 0/0/1/0 1/0/0/0 0/1/0/0 *CTCAE:有害事象共通用語基準version4。4 例はMEPMの中止を要した (好中球減少2例、発疹、薬剤性肺炎各1例)。 Kawanami T, et al. J Infect Chemother; Vol. 20 No.12, 2014 : 768-773 より和訳 Summary Report from Journal of Infection and Chemotherapy 表 4:各種 MIC値に対する% TAM の予測値 MIC %TAM(症例 1 〜 13) 症例 -10* (μg/mL) 症例 -1 症例 -2 症例 -3 症例 -4 症例 -5 症例 -6 症例 -7 症例 -8 1 93.8 100 100 100 62.2 100 62.4 91.3 100 100.0 62.0 100.0 62.3 62.3 2 72.9 94.1 60.3 91.4 62.1 62.1 93.1 89.4 59.3 100.0 62.0 61.8 4 44.9 75.4 100.0 77.4 55.2 74.2 59.9 59.2 73.5 62.9 50.1 100.0 58.6 60.8 8 39.8 57.5 74.3 58.8 45.0 47.3 52.9 53.3 58.7 55.1 31.7 100.0 51.7 49.4 16 29.5 46.1 43.9 48.7 24.7 38.1 39.1 41.5 50.0 41.7 0.0 68.7 38.0 26.2 100.0 100.0 症例 -9 (3g/d)(1.5g/d) 症例 -11 症例 -12 症例 -13 *同一患者において、0.5gもしくは1g MEPM 静注後、血中濃度を測定した (症例-10)。 Kawanami T, et al. J Infect Chemother; Vol. 20 No.12, 2014 : 768-773 より和訳 考 察 日本人の重 症・難 治 性 肺 炎 患 者あるい は 胸 膜 内 感 染 症 患者に対して、MEPM 3g/ 日による奏 効率は 90.9%、効果不十分のためにMEPM を2g 以下/ 日から 3g/日に増量した患者の奏効率も84.6%と良好であっ た。MEPM 3g/ 日 (1回1g)では 、投与1時間後に平均 44.9 ±12.0μg/ mL と治療に必要とされる十分な血中 濃度が達成されたことが 、良好な臨床効果につながっ たと考えられる。 カムバペネム系抗菌薬が静菌作用を得るには%TAM が30%以上必要であり、殺菌作用を示すには%TAMが 50%以上必要であるとされている6)。今回の試験では、 MEPM 3g/日 (1回1g)投与後%TAMが50%を超えていた のは、MIC 4μg/mLの菌に対して12/13例 (92%)とほと んどであり、このことも良好な臨床効果につながったと考 えられる。 今後さらに、重 症・難 治 性呼 吸 器 感 染 症を含め、 MEPM 3g/日の投与が必要とされる患者を明確にし、臨 床効果と血中濃度の関連を明らかにするための臨床試 験の実施が待たれる。 ●参考文献 1)日本呼吸器学会 呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺 炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会、東京、2007 2)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会、 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会、東京、2011 3)日本呼吸器学会 呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人院内肺 炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会、東京、2008 Dr's Comment 4)Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society. Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 388-416. 5)Saito A, et al. J Infect Chemother 1999; 5: 110-23. 6)Kuti JL, et al. J Clin Pharmacol 2003; 43: 1116-23. 産業医科大学 医学部 呼吸器内科学 教授 迎 寛 今 回 我々は 、ドラッグラグ が 完 全 に解 消され 世 界 基 準で 投 与 可 能となった MEPM (メロペン ®:大日本住友製薬(株))に着目し、日本人での3g /日治療の有用性に関して 肺炎患者で検討を行った。結果、これまでは2g / 日までしか投与ができず治療方針を 変えざるを得ないケースが散見されたが、増量可能となり患者が快方に向かうケースを 経験した。また、当初から3g /日投与が必要と判断される症例でも高い有用性が確認さ れた。MEPM の3g /日投与は救命率の向上に寄与する武器であり、我々医師にとっても 治療選択肢が増えたといえる。しかしMEPM の高用量投与がすべての患者に必要と いうわけではない。患者の状態を見極め適正使用を実施いただくことでこの薬剤が 感染症患者の救命率向上に寄与することを願いたい。 MPM-539-0-1412/14A754 [2014 年12月作成]SZH 05 ERM
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