胃X線造影検査の今を知る

首都圏支社第 6 回東芝 DR ユーザーズセミナー
胃X線造影検査の今を知る
東芝メディカルシステムズ(株)主催の首都圏支社第 6 回東芝 DR ユーザーズセミナーが 2014 年
3 月 8 日(土),東芝ビルディング(東京都港区)にて開催された。医療法人社団進興会 オーバル
コート検診クリニック院長の馬場保昌氏を座長に,東京都がん検診センターの小田丈二氏と入
口陽介氏,慶應義塾大学病院予防医療センターの杉野吉則氏の 3 名が講演を行った。
講演
座長:馬場保昌 氏
1969年 久留米大学医学部卒,同年
第二内科入局。71 年 癌研究会癌研
究所病理研修。75 年 癌研究会附
属病院内科医員,95 年 同総合健診
センター所長。2001 年 早期胃癌
検診協会中央診療所所長。2011 年
安房地域医療センター消化管診断
科部長。2014 年∼進興会オーバル
コート健診クリニック院長。
基準撮影法について
─ 胃 X 線検診の現状と弱点克服を目指して
Seminar Report
小田 丈二
胃
東京都がん検診センター消化器内科
X 線検診は,画像評価,画質管理
ずる)
,さらに DR 検診になったことによ
描出能について分析した。旧撮影法の
を容易にし,全国規模での検診精
る有用性の変化について,当施設の検
描出率は全体で 83 . 3%(100 / 120)であ
度の向上を図ることを目的とした基準撮
診データから成績の比較検討を行った。
り,部位別に見ると前壁(68 . 2%)
,大
影法の普及で画像精度が高まることにより,
1)撮影法別の集団検診成績の比較
彎(75 . 0%)
,前庭部(77 . 8%)
,体上・
胃癌の死亡率減少への寄与が期待される。
旧撮影法,新・撮影法,DR 検診と
穹窿部(72 . 2%)の描出率が低く,見落
本講演では,基準撮影法を中心に,胃X 線
時代が下るほど要精検率は低下し,最
としやすい弱点と考えられる。早期癌も
検診の現状と問題点について述べる。
近では 6 ∼ 7%まで低下している。精検
同様の結果であった。進行癌 30 例のう
受診率は徐々に上がっているものの,最
ち,体中・下部(小彎)と体上・穹窿
基準撮影法とは
近でも 45 ∼ 50%程度と低いことが問題
部(後壁)にある癌を描出できなかった
基準撮影法のコンセプトは,手技が簡
となっている。胃癌発見率は上昇し,
症例があることは,大きな問題である。
一方,新・撮影法では,全体で 88 . 0%
便なこと,診断に必要な最低限の画像
陽 性 反 応適中度は D R 検 診 時 代では
が備わっていること,画像の精度管理
2 . 56%まで上がっている。
(110 / 125)の描出率であるが,前壁
の基盤となりうること,そして,一定の
当施設では読影における拾い上げで,
(80 . 0%)と前庭部(72 . 2%)の描出率
A 1(癌が確実)
,A 2(癌が疑われる)
,B
が低く,弱点と認識する必要がある。新・
( 良 性も含めた病 変の存 在が確 実 )
,
撮影法で胃上部が 1 枚追加されたことで,
行う胃部二重造影 8 体位,8 曝射の「基
C(何らかの病変が疑われる)のランク付
胃上部描出率は 100%という結果となり,
準撮影法 1」と,任意型検診として行う
けを行っている。このランク別に陽性反
基準撮影法が有効であると言える。
胃部二重造影 10 体位に食道と圧迫撮影
応適中度を見ると,A ランクでは旧撮影
を加えた 16 曝射の「基準撮影法 2」の
法で 9 . 32%,新・撮影法で 10 . 56%,
● 被ばく,体型,胃形,高齢者への
対応
成果が期待できることである。
基準撮影法には,対策型検診として
2 種類がある。
DR 検診で 24 . 29%となり,DR 検診に変
検診では,基本的に健康な受診者が
基準撮影法 1 は二重造影主体の撮影
わってから格段に上昇していることがわ
対象となるため,被ばくには注意を払わ
法であり,胃の後壁から前壁,胃上部へ
かる(精検受診者のみで算出)
。陽性反
なければならない。また,受診者の体型
と撮影する流れで体位変換を行う。一方,
応適中度は全ランクで見ても,旧撮影法
や胃形もさまざまであり,高齢の受診者
基準撮影法 2 の撮影の流れは,基準撮
2 . 9%,新・撮影法 4 . 5%,DR 検診 5 . 5%
も増えていることから,安全な検査実施
影法 1 と同様に後壁から前壁,上部への
と上昇している。これは,モニタ診断と
に配慮する必要がある。日本消化器が
順番となる。
なり読影しやすくなったということもあ
ん検診学会関東甲信越地方支部では,
るが,それ以上に,基準撮影法になっ
冊子『胃 X 線検診安全基準』を作成し
●基準撮影法の有用性
たことで,良悪性鑑別や質的診断ができ
ているので参考にしていただき,安全管
るようになったことが大きいと考えられる。
理に努めていただきたい。
胃の集団検診 X 線撮影法が,旧撮影
2)部位別の描出能分析
● 読影基準(認定制度)
法から新・撮影法(基準撮影法 1 に準
旧撮影法と新・撮影法での部位別の
胃 X 線検診の精度向上のため,現在,
胃 X 線検診の問題点
2 INNERVISION (29・7) 2014
Seminar Report
読影基準の統一化
や読影医の認定医
制度の検討が進め
られている。われわ
れは,読影基準に
ついて検討し,試
案を作成した。
1)当施設における
胃癌症例の検討
図 1 伸展不良を伴う胃変形
図 2 腫瘤陰影(検診時)
図 3 透亮像(検診時)
基準撮影法にて
実際に拾い上げられた胃癌症例を対象に,
質的診断能(良悪性判定)と拾い上げ
所見について検討を行った。
ランク A 1 または A 2 で要精検となり
受診した 3 7 2 名の陽性反 応適中度は
28 . 2%で,A 1 は 74 . 7%(68 / 91)
,A 2
は 13 . 2%(37 / 281)であった。また,
図 4 70 歳,男性,基準撮影法
発見された癌の内訳は,進行癌,SM 癌,
図 5 図 4 の追加撮影
M 癌がそれぞれ,A 1 で 37 例,20 例,
11 例,A 2 で 6 例,8 例,23 例となり,
実に行えるようになっていると言える(図
向上している。基準撮影法でも描出しに
当然ながら A 1 の方が進行している病変
2)
。ただし,隆起性病変では透亮像だ
くい病変があっても,技師が透視観察で
が多い結果となった。ただ,ランク B,
けでの拾い上げは質的診断が難しい傾向
所見に気づき,所見をねらって追加撮影
C においても,発見率は低いものの進行
にあり,読影能が問われる(図 3)。また,
を行うことが非常に大切である。
癌も含まれることから,所見を確実に描
陥凹性病変では,粘膜異常による拾い
同所チェックにおける A ランク拾い上
出することは重要である。
上げ所見の陽性反応適中度が低く,しっ
げ率を比較したところ,医師・技師とも
当施設での拾い上げ所見としては,辺
かりと読影して良悪性判定を行う必要
に,旧撮影法から新・撮影法になるこ
縁所見(陰影欠損,彎入,伸展不良,
がある。
とで成績は向上しているが,早期癌にお
辺縁不整,変形など)と粘膜所見(腫
2)読影基準の試案
いては医師と技師のチェック率に差があっ
瘤陰影,バリウム陰影斑,透亮像,粘
われわれは読影基準の試案として,
た。良悪性の判定までには技師の読影
膜異常,ひだ集中など)がある。それぞ
0(判定不能)∼ 5(ほぼ悪性確実)のカ
能は及んでいないものの,異常に気づく
れについて,新・旧撮影法における拾い
テゴリー分類とそれぞれの管理区分を作
目というのは医師とあまり変わらないため,
上げ所見を比較した。
成し,さらに,X 線所見(読影所見の種
異常に気づいた時にどのように追加撮影
まず,辺縁所見により拾い上げている
類,所見の性状)のカテゴリー付けを行
すると質的診断につなげられるかという
割合は,旧撮影法で 29 . 37%,新・撮
うマニュアルを作成した。読影は経験に
ことを考えながら診断レベルの向上に努
影法で 17 . 06%,DR 検診で 7 . 18%と減
基づく部分も多いため,マニュアルは経
め,撮影業務にあたっていただきたい(図
少している。旧撮影法での陽性反応適
験の浅い読影者用であり,活用法は今
4,5)
。
中度は 1 . 09%と低く,そもそも胃の変
後の課題である。
形所見が癌発見にはつながりにくいと言
病変が辺縁にある場合や病変の一部
えるが,DR 検診では 4 . 19%まで上昇し
描出,画質不良など,質的診断が困難
ていることから,変形所見で拾い上げる
な症例も存在することから,これらに対
ような病変も確実にあり,それが質的診
断につながってきていると言えるだろう
(図 1)
。
応した読影基準の構築が必要である。
●読影医の不足
馬場座長のコメント
病変の撮影については透視下で病変の存在
に気づき,肉眼的所見を正確に描出するこ
とが大切である。透視の画像は重要であり,
デジタルが有効であることを補足したい。
深刻な読影医不足を補うためには,診
粘膜所見による拾い上げの割合は辺
療放射線技師(以下,技師)による撮影
縁所見の割合と逆転し,DR 検診になっ
中の読影補助が重要になると考える。当
てからは 92 . 82%と,ほとんどが粘膜所
施設の旧撮影法での発見胃癌(133 例)
見でチェックするという読影に変わって
と新・撮影法での発見胃癌(155 例)に
きている。陽性反応適中度も,旧撮影
ついて,医師と技師の同所チェック率を
法の 1 . 24%から DR 検診では 3 . 75%と
検討したところ,新・撮影法になってか
約 3 倍に上昇しており,所見の判定が確
ら,SM 癌に対する技師のチェック率が
小田 丈二
oda johji
1993 年 熊本大学医学部卒業。同
年 同大附属病院第二内科入局。
関連病院勤務を経て,2000 年 多摩がん検診センター消化器科。
2009 年 東京都多摩がん検診セン
ター(名称変更)消化器内科医長。
2010 年∼東京都がん検診センター
(名称変更)消化器内科医長。
INNERVISION (29・7) 2014 3
ピロリ感染を考慮した胃 X 線検査
講演
Seminar Report
入口 陽介
ピ
ロリ感染を考慮した胃 X 線検査を
東京都がん検診センター消化器科
リスク分類では C 群となる。背景粘膜を
赤調の領域があり,前庭部の小彎後壁
観察するにあたっては,胃炎のところだ
に癌があることがわかる。X 線画像(図
けでなく,広い範囲を見ていく必要がある。
5 b)では,辺縁隆起を伴う不整形のバ
ける陥凹型・隆起型と背景粘膜との関係
同じく症例 2 は,50 歳代の女性の鳥
リウム斑として,明瞭に描出されている。
について,症例を提示し解説する。さらに,
肌胃炎である(図 2)。切除標本(図 2 a)
さらに,インジゴカルミン法(図 5 c)では,
ABC リスク分類の経験から得た知見を説
では,前庭部に顆粒状の背景粘膜が見ら
高度萎縮のある背景粘膜の中に分化型
明し,最後に胃 X 線検診の精度向上に向
れる。このような粘膜の場合,胃体部にも
癌が認められた。
テーマに,背景粘膜の質的構成から,
組織型・肉眼型の関連性,分化型癌にお
強い炎症が見られることが多く,X線画像
症例 6 は,胃全摘術を行った症例で
(図 2 b)では胃体前壁に襞の集中を伴
ある(図 6)。本症例は 15 年前にピロリ
う深いバリウムの溜まりがあり,Linitis
除菌を行っており,実際には 8 個の癌が
plastica-type 型胃癌と診断された。
見つかっている。新鮮切除標本(図 6 a)
ピロリ感染すると,正常粘膜は炎症を
症例 3 は,胃体部に炎症が起きており,
を伸ばすと発赤があり,Ⅱc の癌が 2 つ
起こし萎縮して,腸上皮化生粘膜へと変
顆粒状の背景粘膜を呈していた胃炎で
ある。X 線画像(図 6 b)では胃体中部前
化する。X 線検査は,
“面”として萎縮や
ある(図 3)。X 線画像(図 3 b)では,粘
壁に顆粒状の粘膜形成が認められるが,
けて,診療放射線技師が担うべき役割な
どを述べる。
背景粘膜の質的構成
腸上皮化生粘膜などの全体を観察でき
液が多く,顆粒状の変化を認める。内
内視鏡(図 6 c)では病変を拾いにくい症
るため,複数の画像を観察しなくてはな
視鏡(図 3 c)でも襞の集中・中断を認め,
例であった。萎縮が進んだ状態でピロリ
らない内視鏡に比べて有利である。
未分化型印環細胞癌と診断された。炎
除菌を行うと病変の発見が難しくなるこ
ピロリ感染した初期の患者の場合,鳥
症が胃体部に及んでいる場合,癌ができ
とがある。また,自然除菌の場合も同様
に,病変の拾い上げが困難になる。
肌胃炎(リンパ性濾胞性胃炎)といった
やすいので,襞の走行異常や集中,中断
炎症が見られる。これが未分化型癌が発
などを参考に,襞の中の病変を拾い上げ
生する背景となっており,前庭部を中心
ていくことが重要である。
に顆粒状の背景粘膜が見られる。一方,
症例4は,半固定標本で褪色した顆粒
当センターでは,ピロリ除菌者を除く
血管透見性のある境界が明瞭な萎縮が
状の背景粘膜が認められるが,症例 3 に
発見胃癌 571 例を対象として,Hp 抗体
見られる場合,または内視鏡で発赤と褪
比べて襞も少なく萎縮が進んでいる(図4)
。
検査と,ペプシノゲン法によるABCリス
色の箇所が斑状を呈しているものは,分
背臥位の第一斜位のX 線画像(図 4 b)で
ク分類を行った。日本胃がん予知・診断・
化型癌が発生しやすいとされている。
も襞の異常が見られ,顆粒状の背景粘膜
治療研究機構の ABC 分類での胃がんリ
症例 1 は 20 歳代の女性で,内視鏡で
が認められた。内視鏡(図 4 c)では,粘
スク分類では,A群からD群になるに従っ
鳥肌胃炎が見られた胃体部の未分化型
膜の境界が異なる色調で描出されており,
て,リスクが高くなるとされている。この
癌である(図 1)。切除標本(図 1 a)を見
未分化型癌であることがわかる。
分類では,A 群を管理対象から除外し,
ると,萎縮も少なくきれいに見えるが,
症例 5 は,78 歳,男性で,深達度が
二次精検を B 群は 3 年に 1 回,C 群は
体下部から前庭部にかけて顆粒状の背
M の高分化型管状腺癌である(図 5)。
2 年に 1 回としている。これが適切かどう
景粘膜が認められた。Hp 抗体検査,ペ
内視鏡(図 5 a)では斑状の褪色があり,
かを当センターの分類結果から検討した。
プシノゲン検査ともに陽性であり,ABC
腸上皮化生粘膜を伴っている。淡い発
571 例中 Hp 抗体検査とペプシノゲン
a
b
c
a
ABC リスク分類から学んだこと
b
c
胃体中下部
図 1 症例 1:鳥肌胃炎(未分化型印環細胞癌)
4 INNERVISION (29・7) 2014
図 2 症例 2:鳥肌胃炎(Linitis plastica-type 型胃癌)
Seminar Report
a
b
c
a
新鮮切除標本
b
c
半固定標本
図 3 症例 3:未分化型印環細胞癌
a
図 4 症例 4:未分化型印環細胞癌
b
c
a
b
c
病変
1
病変
2
図 5 症例 5:高分化型管状腺癌
図 6 症例 6:中分化型管状腺癌と未分化型腺癌
B群
27.8%
B群
精度の高い検診
C群は高リスク
A群
読影基準
何故?
A群は0%でない
11.6%
読影の補助
C群
53.1%
A群
11.6%
基準撮影法
D群
7.5%
追加撮影
透視観察
2008.1~2012.12
C群
D群
撮影装置
バリウム
読影装置
図7 発見胃癌571例の各群の割合(HP保菌者を除く) 図 8 胃 X 線検診精度向上へのシナリオ
法とも陽性だった C 群は 53 . 1%を占め,
隆起型では C,D 群の割合が高くなって
読影の補助の役割が重要である。
「新・
高リスク群であった(図 7)。一方,両検
いる。A 群も隆起型が 16 . 7%とやや高
胃 X 線撮影法ガイドライン」の基準撮影
査とも陰性の A 群は 11 . 6%となってお
い傾向にあるが,これはピロリ除菌や自
法に加え,診療放射線技師が透視観察・
り,超低リスクとまでは言えない結果で
然 除 菌によ っ て,D 群だ っ たものが
追加撮影を行うことで画像精度だけでな
あった。A 群 66 例の萎縮度を X 線画像
A 群になるといった要因が考えられる。
く,読影精度の向上が得られ,精度の
と内視鏡像を用いて見たところ,高萎縮
以上のことから ABC リスク分類は,
高い検診につながる(図 8)。
が 62 . 1%を占めていた。A 群のうち,
胃がんの高リスク群の判定には有用であ
まったく萎縮がないと判断できたのは
るが,超低リスクと考えられる A 群の中
馬場座長のコメント
6 例(1 . 2%)しかなかった。現在の採血
には自然除菌された既感染例や偽陰性
ピロリ感染を考慮した胃 X 線検査について,
検診背景粘膜の質的構成,ABC リスク分
類の観点から講演していただいた。背景粘
膜の質的構成,萎縮の状態を X 線や内視
鏡検査で見ることで,癌の組織型や肉眼型
を想定することができ,今後の検診の方向
性が見えてくる。
検査では,超低リスクと考えられる“真
例が含まれており,A 群の判定を複雑に
の A 群”を正確に診断するのは困難であ
している。また,ABC 分類でハイリスク
ることが判明した。
群となっても,継続して内視鏡検査を
また,深達度を見た場合,C 群と D 群
受け続ける受診者が少ないことも課題で
は,M と SM の早期癌率が 80%を超え
ある。今後は,A 群に対して X 線や内
ており,それと比較して A,B 群は低率
視鏡検査を組み合わせ,粘膜面の性状,
であった。これは,C,D 群では萎縮が
襞の形,襞の分布からピロリ未感染胃を
進み,隆起型の分化型癌が含まれている
正確に診断することが必要である。
からである。さらに,組織型を見た場合,
全体的に分化型癌が多いものの,B 群で
胃X線検診精度向上へのシナリオ
は未分化型癌の割合がほかに比べて高
胃 X 線検診の精度向上には,検査を
率であった。肉眼型は陥凹型が多いが,
担当する診療放射線技師の撮影技術と
入口 陽介
Iriguchi Yosuke
1990 年 熊本大学医学部卒業(医
学博士)
。同年 第 2 内科入局。関連
病院勤務後,96 年 昭和大学藤が丘
病院,97 年 多摩がん検診センター。
2010 年,東京都がん検診センター
に名称変更。現在,消化器内科部長。
INNERVISION (29・7) 2014 5
胃 X 線造影検査の現状と今後の展開
講演
Seminar Report
杉野 吉則
胃
X 線造影検査において良好な画像を
慶應義塾大学病院予防医療センター
書かれており,これに気づいたことが,
どが挙げられる。アナログ装置でこれら
得るためには,X 線撮影装置はもと
現在日本で行われている右回り 3 回転で
の解決をめざして取り組んだが,デジタ
より,造影剤,検査法のすべてが優れてい
始まる基準撮影法につながった。検査
ル化でも同様の問題に取り組んだ。
る必要がある。本講演では,良好な画像
法はきわめて重要であり,回転や体位変
検出器に関しては,コンベンショナル
を得るための装置,造影剤の改良や,実
換,圧迫を適切に行うことで,胃粘液が
(conventional film-screen system:
際の検査における撮影のポイントについて,
きれいに除去され,バリウムが十分に付
CFSS)から DR,そして FPD ヘ,FPD
装置開発の歴史的な流れも踏まえて述べる。
着し,胃粘膜の微細な所見が明瞭に描
になって直接変換方式から間接変換方
X線撮影装置,造影剤,検査法の改良
式へと変化している。最初は 100 万画素
出可能となる。
一方,X 線撮影装置はアナログでの高
(以下,1 M)の I.I.-DR からデジタル化が
X 線撮影装置,造影剤,検査法の改
精細化が図られてきたが,1980 年代に
始まったが,解像度はCFSS の方が圧倒
良は,すべてが連動して行われてきた。
CR,90 年代に DR,2000 年頃には FPD
的に優れていた。その後,400 万画素(以
直接 X 線撮影(アナログ)装置の時代に,
が登場し,筆者も DR 開発当初から東
下,4 M)のDR(4 M-DR)が登場したこ
高圧撮影やグリッド比を高くすると造影
芝社と共同で装置の開発に取り組んで
とで,ついに CFSS を凌駕するに至った
効果が落ちることから,高濃度造影剤を
きた。さらに,最近では C アーム型の装
が,その 1 ∼ 2 年後に FPD が登場した。
導入し開発した。その過程で,高濃度
置へと進化している。
造影剤には胃粘液を除去する作用があ
ることがわかり,それを効果的に行うた
めには撮影時に交互に体位変換するの
4 M-DR と FPD の画像を比較してみると,
空間分解能は 4 M-DR の方が優れている
X 線撮影装置について
●デジタル化と FPD の登場
が,早期胃癌の微細な所見は FPD の方
がシャープに描出されている(図 1,2)。
ではなく,身体を回転させなければなら
X 線写真を撮影する際にはさまざまな
また,CR は高精細画像が得られる特長
ないことがわかった。当時,欧米では,
ボケが生じるが,その原因として,管球
があり,DR は I.I.-TV 系を用いるため動
高濃度造影剤が開発され,報告された
焦点・被写体とフィルムの距離,グリッド,
画撮影や,取り込んだ画像をリアルタイ
文献ではすでに「必ず 3 回転させる」と
撮影時間,フィルムと増感紙の密着な
ムに表示可能なほか,線量が低減できる
などの特長がある。そして,FPD はその
I.I. 視野
両方を兼ね備えている点が評価できる。
12インチ 9インチ 7インチ
CFSS *
5.0
5.0
5.0
**
1M-DR(DDX1000)
2.2
3.1
3.7
**
4 M-DR(ADR 2000)
3.4
4.3
5.0
FPD
4.6
4.6
4.6
● Cアーム式寝台装置の有用性
X 線撮影装置の改良では,画質や安
全性の向上は図られてきたものの,操作
性や寝台については 1950 年代頃からほ
単位は lp/mm
管球焦点 0 . 6 mm 密着撮影
**
管球焦点 0 . 4 mm(ADR),0 . 3 mm(DDX)で
密着撮影
とんど変化していなかった。そこで,当
* 図 1 さまざまな検出器における空間分解能
DR
FPD
図 2 4 M-DR と FPD の比較
早期胃癌,0 -Ⅱ c,M,35 mm(2002 年)
MALT lymphoma(superficial type)
FPD 搭載 Ultimax
院では 2002 年に FPD を搭載した C アー
ム式寝台装置を導入した。C アームでは
オーバーチューブとアンダーチューブを
切り替えられるほか,さまざまな角度に
管球を振ることができる(図 3)。従来も
斜入角撮影という方法が行われてきたが,
CRANIAL
その場合は管球だけを振るため X 線が
CAUDAL
フィルム面に対して斜めから入るのに対
HOME Position
(under-table tube)
通常の
管球位置
CRA 20°
RAO LAO
の画像 2)
図 3 多方向撮影が可能なCアーム式寝台装置 1) 図 4 C アームによる斜入角 20°
6 INNERVISION (29・7) 2014
し,C アームによる多方向撮影では検出
器が常に管球と直交する方向にあるので,
それだけ画質を損なうことなく撮影でき
ることになる。実際に撮影を行ってみる
Seminar Report
通常の
管球位置
通常の
管球位置
RAO 21°
CAU 14°
通常の管球位置
図 5 小彎前壁寄りの早期胃癌 1)
図 6 小彎後壁寄りの早期胃癌 1)
〔U Ant-Less,0-Ⅰ+Ⅱc,25mm,
T1(SM2)〕
〔M Post,0 -Ⅱ c,17 mm,T 1(M)
〕
と,斜入角 20°
程度までは空間分解能の
低下はほとんど見られない(図 4)。本装
てみると,全画像の 54 . 8%で斜入撮影
を行っており,C アームは非常に便利な
高輝度
反射膜
撮影の有用性を検討したところ,大彎や
前壁で特に有効だった。
●症例提示
図 5 は,小彎前壁寄りのⅠ+Ⅱ c 型の
早期胃癌だが,C アームの管球を振るこ
柱状結晶の比較
約 600μm
フォトダイオード/TFTアレイ基板
1画素
(143μm)
Csl の微細ファイバー構造(ライトガイド)
( D)
ものであると実感した。また,早期胃癌
161病変について,病変の部位と多方向
(%)70
高解像度微細ファイバー構造
CsI:Tl シンチレータ膜
X-ray
( B)
CsI 柱状結晶
変換効率
(A)信号光
(B)散乱光
(C)消滅
* 自己吸収
x C)
(D)無効光
( A)
図 8 CsI 柱状結晶構造の改良
CsI 柱状結晶の改良で検出量子効率(Detective
Quantum Efficiency)を改善すると共に光散乱
を押さえ込むことで空間分解能も向上
分解能
置導入後に施行した約 500 例を分析し
RAO 25°
図 7 幽門部の小彎寄りの早期胃癌 1)
〔L Less,0 Ⅱ -c,15 mm,T 1(SM 2)
〕
(CTF)
(at 20lp/cm)
通常の
管球位置
高性能
60
高精細 CsI 膜
50
40
30
従来 CsI 膜
20
10
0
低性能
50 55 60 65 70 75 80 85 90
DQE
(%)
図 9 従来 CsI 膜と高精細 CsI 膜の比較
DQE と分解能(CTF)との関係
とで噴門との距離が良く把握できる。
る。一方,間接変換方式は,空間分解
同等であるとの結果であった。バーガー
図6 は,小彎後壁寄りのⅡc型の早期胃
能が直接変換方式より劣るが,SNR が
ファントムでは,SNR の高い間接変換
癌だが,二重造影の際,小彎寄りの病変
高く低線量の透視画像に優れる,環境
方式の方がコントラスト分解能に優れて
は椎体と重なってしまうことがある。しかし,
制限が少ない,製造に特殊技術が必要
いた。最新の間接変換方式 FPD は,直
Cアームの管球を振って椎体の陰影から外
だが量産化は可能というメリットがある。
接変換方式 FPD と同等レベルの画像が
れるように撮ることで,病変が明瞭に描出
東芝社は当初,直接変換方式 FPD を開
得られると考えられ,X 線撮影装置の新
できるため,きわめて有用である。
発していたが,近年,新たに開発した間
たな方向性が見えてきたと思われる。
そのほかの症例においても,管球を振
接変換方式 FPD 1314 では,CsI 柱状結
ることにより,陥凹部にバリウムをうま
晶の改良により検出量子効率(DQE)
く溜めた状態で撮影できる(図 7)など,
を改善するとともに光散乱を押さえ込む
特に術前検査においてはきわめて有用で
ことで,空間分解能の向上が図られた(図
ある。また,スクリーニングにおいても,
8,9)
。FPD 1314 は,キャリブレーショ
ちょっとした動きであれば口頭で患者に
ン時に X 線照射不要,室温は通常環境,
伝えるよりも,左右に管球を振るだけで
起動時と検査終了時のオートキャリブ
容易に最適な位置での撮影が可能となる。
レーション機能搭載,使用時以外は通
その後の FPD の進歩
●直接変換方式と間接変換方式
電不要という特長を備え,安定度が高
く管理しやすい FPD となっている。ファ
ントムを用いて直接変換方式と新開発
FPD には,アモルファスセレン(a-Se)
の間接変換方式 FPD の画像を比較した
にて X 線素子を直接電荷に変換する直
ところ, 空 間 分 解 能 はほぼ 同 等 で,
接変換方式と,ヨウ化セシウム(CsI)
SNR,コントラスト分解能は間接変換
などのシンチレータにより X 線を光に変
方式の方が優れていた。
換してからフォトダイオードで電荷に変
換する間接変換方式がある。直接変換
方式は空間分解能に優れるが,SNR が
まとめ
最新の間接変換方式 FPD は,解像力
低く低線量の透視画像で劣る,空調な
チャートの単体撮影では直接変換方式
どの環境制限が多い,製造工程管理が
の限界解像度がわずかに優れているもの
難しく量産化に向かないなどの課題があ
の,散乱線の影響を加味した評価では
●参考文献(画像引用転載)
1)杉野吉則・他:新しい画像検査・診断法と
今後の展開 ─胃 X 線検査における平面検出器
(FPD)を搭載した C アーム式装置の有用性 . 胃
と腸 , 39(12), 1572 ∼ 1582, 2004.
2)杉野吉則・他:早期胃癌 X 線診断における装置・
造影剤および検査法の進歩. 胃と腸, 38(1),11 ∼
20, 2003.
馬場座長のコメント
装置を中心とした画像精度,装置開発の
歴史,造影剤,C アーム搭載装置について,
さまざまな方向からお話ししていただいた。
特に,FPD の開発の方向性は間接変換方
式に変わってきており,その画像は直接変
換方式と同等であるとの報告であった。
杉野 吉則
sugino yoshinori
1975 年 慶應義塾大学医学部卒。
同大学病院放射線診断部に入局し,
放射線診断学,特に消化管の X 線
診断・内視鏡診断・病理診断を研
修。平塚市民病院放射線科医長 , ド
イツ・ベルリン自由大学留学,慶
應義塾大学専任講師(医学部放射
線科学)
,准教授を経て,2012 年
8 月より慶應義塾大学病院予防医
療センター長。
INNERVISION (29・7) 2014 7