寒天平板培地を用いたイチゴ炭疽病菌のアゾキシストロビン剤

佐賀県研究成果情報
(作成
平成22年2月)
寒天平板培地を用いたイチゴ炭疽病菌のアゾキシストロビン剤耐性検定法
[要約]イチゴ炭疽病菌( Glomerella cingulata )のアゾキシストロビン剤耐性は、本
剤100ppmとともにサリチルヒドロキサム酸を1000ppmになるよう添加したPDA平板培地
における25℃、4日間培養後の菌糸生育の有無により判別できる。
佐賀県農業試験研究センター
有機環境農業部・病害虫農薬研究担当
部会名
野
菜
専門
連絡先
病害虫
0952-45-2141
[email protected]
対象
イチゴ
[背景・ねらい]
ストロビルリン系薬剤であるアゾキシストロビン剤(商品名:アミスタ−20フロアブ
ル 、以下AZ剤 )は 、イチゴ炭疽病に対する主要剤として使用されている 。しかし 、近年 、
各地で本剤に対する耐性菌の発生が確認されており、効果的な薬剤防除を行うには本耐
性菌の発生状況の把握が必要となっている。本病原菌のAZ剤耐性は、イチゴ苗を用いた
病原菌接種による生物検定およびチトクローム b 遺伝子の変異を検出するPCR-RFLP解析
により判別可能であるが 、コストや時間を要するため多数の菌株の検定は容易ではない 。
そこで、AZ剤の効果を補うサリチルヒドロキサム酸(SHAM)の添加濃度を明らかとし、
安価で簡易な寒天平板希釈法によるAZ剤耐性検定法を確立する。
[成果の内容・特徴]
1.イチゴ炭疽病菌に対するアゾキシストロビン(AZ)剤の最小生育阻止濃度(MIC値)
は、PDA平板培地に糸状菌等の代替呼吸阻害剤であるサリチルヒドロキサム酸(SHAM)
を1000ppmになるよう添加することで測定できる(図1、2 )。
2.SHAM1000ppm添加下におけるAZ剤のMIC値と生物検定およびPCR-RFLP解析の結果には関
係が認められ、MIC>3200ppmの菌株は生物検定による防除価が低く、チトクロームb遺
伝子に変異(G143A)が認められ、耐性菌と判定できる(表1 )。
3.1996∼2004年に佐賀県内各地から採取したイチゴ炭疽病菌(113菌株)に対するSHAM
1000ppm添加下でのAZ剤のMIC値は、0.19∼3.12ppmと>3200ppmの二つのグループに分か
れる(図3 )。
4.SHAM1000ppmとともに、AZ剤の濃度を感受性菌のMIC値よりも高い100ppmになるよう添
加したPDA平板培地に検定菌株の菌そうディスクを置床し、25℃、4日間培養後の菌糸生
育の有無を調べることで、より簡易にAZ剤耐性の判別が可能である。
5.佐賀県では2003年以降本耐性菌が広範囲かつ高率に分布している。
[成果の活用面・留意点]
1.SHAMは常温の水にやや溶けにくいため,50℃程度に温めた培地容量の1/3程度の滅菌
水中に必要量を予め溶解した後,培地に加用する。
2.培養期間が長くなると,感受性菌でも菌糸がわずかに生育する場合があるため,培養
日数は菌糸生育の有無を明確に判定できる4日が最適である。
3.AZ剤以外の他系統薬剤は本耐性菌に対し有効であるため、薬剤防除はこれらを用いた
体系防除を行う。
[具体的データ]
60
菌糸生育長(mm)
SHAM 1000ppm
SHAM 100ppm
SHAM 無添加
45
30
15
96C-1(感受性)
03-2-2(感受性)
03-33-1(耐性)
03-38-3(耐性)
0
0
1
10
100
500
0
1000
1
10
100
500
0
1000
1
10
100
500
1000
アゾキシストロビン(AZ)濃度(ppm)
図1 アゾキシストロビン剤およびSHAM添加PDA平板培地における感受性および耐性イチゴ炭疽病菌の菌糸生育程度
注)菌糸生育長は25℃,4日間培養後に伸長した菌そう直径を計測.供試菌株の感受性は予め生物検定で判定.図中のバーは標準偏差を示す.
表1 イチゴ炭疽病菌に対するAZ剤のMIC値と生物検定
による防除効果およびPCR-RFLP解析による遺伝
子変異の関係
耐性
菌
感受
性菌
耐性
菌
SHAM無添加
AZ剤100ppm
a)
感受
性菌
SHAM1000ppm
+AZ剤100ppm
図2 AZ剤およびSHAM添加PDA平板培地におけるAZ剤
耐性および感受性イチゴ炭疽病菌の菌糸生育
(25℃, 4日間培養後)
AZ剤の
MIC値
20
86∼100
−
>3200
15
0∼ 35
+
菌株
a) SHAM1000ppmとともにアゾキシストロビン剤を0.1∼3200ppm(16
段階)で添加したPDA平板培地における25℃,4日間培養後の菌糸
生育の有無により判定. b) AZ剤100ppm液を散布した品種 さちの
4
5
か の苗(各区3株供試)に分生子懸濁液(約5.0×10 ∼1.0×10 /
ml)を噴霧接種し,25℃で48時間湿室に保った後ビニルハウス内で
管理,接種5∼7日後に上位3複葉に形成された小黒点病斑数から
算出. C)−:遺伝子の変異なし(制限酵素Ita Iを用いたPCR-RFLP
解析でPCR産物の消化なし)、+:遺伝子の変異あり(消化あり).
表2 佐賀県におけるアゾキシストロビン剤耐性
イチゴ炭疽病菌の発生推移
2003年および2004年採取:102菌株
菌 株 数
PCR-RFLP
によるチトク
ロームb 遺伝
子変異の検出
ppm
0.19∼3.12
60
1996年および1997年採取:11菌株
40
年度
20
採取
圃場数
圃場
1996,1997
2003
2004
2005
2006
2007
2008
32
00
>
5
6.2
0
2
3.1
320
6
1.5
100
9
0.1
0
AZ剤のMIC値(ppm)
c)
生物検定に
よるAZ剤の
防除価
b)
供試
菌株数
図3 イチゴ炭疽病菌に対するSHAM添加下でのAZ剤
の最小生育阻止濃度(MIC)値の分布
MIC値はSHAM1000ppmとともにアゾキシストロビン剤
を添加したPDA平板培地における25℃,4日間培養後
の菌糸生育の有無により判定.
10
36
35
32
29
40
6
供試
菌株数
耐性a)
菌率
菌株
14
228
173
179
179
394
42
%
0
55.7
90.8
82.1
88.3
88.3
97.6
a)アゾキシストロビン剤100ppm+SHAM1,000ppm添加PDA平板
培地における25℃、4日間の培養により菌糸生育が認められた
菌株の割合.
[その他]
研究課題名:イチゴ炭疽病の防除対策の確立
予算区分 :国庫(発生予察事業)
研究期間 :2007∼2008年度
研究担当者:稲田稔、古田明子、山口純一郎