ラットACL損傷モデル急性期における核因子kB(NF

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)13 : 00∼13 : 50 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!人体構造・機能情報学 4】
0949
ラット ACL 損傷モデル急性期における核因子 kB(NF!
kB)の動態
腫瘍壊死因子(TNF!α)の発現と比較して
森下
佑里1),金村
尚彦1),国分
貴徳1),中島
彩1),吉野
晃平1),村田
健児2),高柳
清美1)
1)
埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科,
埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科リハビリテーション学専修
2)
key words 膝前十字靱帯・NF−kB・靱帯再生
【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下,ACL)は,これまで再生能力が乏しいとされてきた。しかし,我々は先行研究におい
て関節包外関節制動により ACL が再生することを報告した。核因子 kB(以下,NF"
kB)は転写因子の 1 種であり,免疫系や細
胞の生体防御機構など様々な生体反応に関与する。ACL 再生を促進する潜在的なターゲットである可能性も示唆され,近年注目
を集め始めている。しかし,実際に ACL 再生における NF"
kB の動態については明らかにされていない。本研究では,ラット
ACL 損傷モデル急性期における NF"
kB の動態を TNF"
α と比較して明らかにすることを目的とした。
【方法】Wistar 系雄性ラット 23 匹(16 週齢,制動群 13 匹,cut 群 5 匹,sham 群 5 匹)を対象とした。制動群 13 匹は,術後 1
日群 4 匹,3 日群 4 匹,7 日群 5 匹とした。Cut 群!
sham 群の各 5 匹は全て術後 7 日群とした。ラットの右後肢を対象とし,制
動群は外科的に ACL を完全に切断後,脛骨に骨孔を作成し,脛骨の前方引き出しを制動した。Cut 群は外科的に ACL を完全に
切断後,徒手的に脛骨の前方引き出しを行い,断裂の確認を行った。Sham 群は,ACL は切断せず脛骨への骨孔の作成や,関節
包の切開を行った。各実験期間終了後,ACL を採取し,採取した ACL から total RNA の抽出を行った後,cDNA を合成した。
合成した cDNA を鋳型とし,NF"
kB と TNF"
α のプライマーを使用し,real time PCR 法にて mRNA 発現量を解析した。発現
量の解析には,ΔΔCt 法を用いた。実験 1 として術後 7 日目の Sham 群・Cut 群・制動群における発現量の比較を,実験 2 として
制動群において術後 1,3,7 日目の発現量の経時的変化を比較した。統計手法は,一元!
二元配置分散分析を用い,下位検定に
は Bonferroni 法による多重比較を用いた。有意水準は 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は,大学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】
実験 1 : ΔΔCt 法で算出した NF"
kB および TNF"
α mRNA 発現量は,NF"
kB の sham 群の発現量を 1 とすると,cut 群で
0.69 倍,制動群で 0.98 倍,TNF"
α の sham 群で 0.12 倍,cut 群で 0.09 倍,制動群で 0.11 倍であった。各群!
各プライマーの間に
有意な差は認められなかったが,いずれの群においても NF"
kB に対して TNF"
α は mRNA 発現量が少ない傾向を示した。ま
た,NF"
kB のみに着目すると,sham 群!
制動群に対し cut 群の発現量が少ない傾向を示した。実験 2 : ΔΔCt 法で算出した NF"
kB mRNA 発現量は,術後 1 日群の発現量を 1 とすると,術後 3 日群で 0.83 倍,術後 7 日群で 1.40 倍で,術後 7 日群は術後 3
日群と比較して有意に発現量が増加した(p<0.05)
。また,TNF"
α mRNA 発現量は,術後 1 日群の発現量を 1 とすると,術後
3 日群で 0.73 倍,術後 7 日群で 0.15 倍で,術後 7 日群は術後 1 日群及び術後 3 日群と比較して有意に減少した(p<0.01)
。関節
制動を行うことで,NF"
kB は時間経過とともに有意に増加していくのに対し,TNF"
α は有意に減少していた。
【考察】本研究では,実験 1 として術後 7 日目の sham 群,cut 群,制動群における各 mRNA 発現量を比較した。統計的に有意
な差は認められなかったものの,NF"
kB に対し,TNF"
α の発現量は少なかった。TNF"
α は,急性炎症反応時に作用する。そ
kB について,NF"
kB の Sham 群!
制動群
のため,術後 7 日時点では急性期を脱していた可能性があると考えられる。また,NF"
に対し,cut 群の発現量は少ない傾向が見られた。cut 群は ACL が徐々に退行していくことが知られている。そのため,cut
群で最も発現量が低いということは,NF"
kB はアポトーシスへ進行させる因子ではないと考えられる。実験 2 として,制動群
において術後 1,3,7 日目での発現量の経時的変化を比較した。その結果,関節制動を行うことで,NF"
kB は時間経過ととも
に有意に増加していくのに対し,TNF"
α は有意に減少していく様子がみられた。TNF"
α によるアポトーシス誘導は NF"
kB
の活性化により抑制されるとの報告もあり,今回の結果から NF"
kB が TNF"
α の働きを抑制し,アポトーシス抑制をしている,
つまり NF"
kB は間接的に ACL 再生に関与していると示唆された。今後は,ACL 再生における NF"
kB の動態をより明らかにす
るために,術後 1,3 日の sham 群!
cut 群を作成し,急性期の群間変化をみること,直接 ACL の再生に関与する,また ACL
の退行に関与する NF"
kB の標的遺伝子を探し,各因子と NF"
kB の関連を調べることが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】ラット ACL 損傷モデル急性期において,NF"
kB はアポトーシス抑制をすることで間接的に
ACL の再生に関与していることが示唆された。今後 NF"
kB の標的遺伝子とともに経時的変化を比較・検討することにより,
ACL 再生メカニズムにおける急性期の NF"
kB の関与及び関節制動を行うことによる運動療法の効果を明らかにできる可能性
がある。