貞明皇后研究助成 研究成果報告書 カイコ品種の殺虫性毒素タンパク質に対する感受性調査 および抵抗性系統の選抜 研 究 代 表者 宮 本 研 究 期 間 平成 25 年度 和 久 独立行政法人農業生物資源研究所 助 成 額 上級研究員 1,200,000 円 【研究目的】 昆虫病原細菌 Bacillus thuringiensis(Bt 菌)由来の殺虫剤である BT 剤は野菜類などの害 虫防除に使用されるが、カイコにも殺虫作用を示すため、桑園では使われていない。しかし、 近隣の畑に散布された BT 剤のドリフトにより汚染された桑葉によるカイコの被害が懸念され る。さらに、最近は、Bt 菌の殺虫作用の本体である各種殺虫性毒素タンパク質(Cry 毒素)の 遺伝子を組込んで耐虫性になった「Bt トウモロコシ」などの海外での作付が増加し、米国など から日本に輸入されるトウモロコシ澱粉には Cry 毒素が含まれている可能性が考えられ、それ を原料とした人工飼料を食べるカイコの健康への悪影響も懸念されている。一方、申請者らの 研究で、カイコの持っている Cry 毒素の一種の Cry1Ab 毒素抵抗性遺伝子の一端がわかってきた。 そこで、BT 剤や Bt 組換え作物由来の成分を含んだ人工飼料の影響を受けないカイコ実用品種 作出のために、様々な Cry 毒素に対してカイコの持っている抵抗性遺伝子の探索を行う。 【研究方法】 農業生物資源研究所で保存しているカイコ品種の 6 種類の Cry 毒素に対する感受性を調査した。 ① Cry 毒素の調製 Cry 毒素(Cry1Aa, Cry1C, Cry1Da, Cry9Aa, Cry9Da)については、それぞれの毒素遺伝子 を組み込んで発現させた大腸菌を遠心して回収後、菌体を超音波処理して破砕した。それを 遠心洗浄して滅菌蒸留水に懸濁して毒素懸濁液を調製した。Cry2Aa 毒素については、この毒 素のみを発現する Bt 菌を培養し、芽胞を形成したところで、遠心して集菌し、0.5%過酸化水 素水で殺菌した。その後、培養物を超音波処理して、残っている栄養型細胞を破砕し、遠心 洗浄して滅菌蒸留水に懸濁して毒素懸濁液を調製した。次に各毒素懸濁液の総タンパク質量 をローリー法で測定した。各毒素懸濁液は分注して-20℃に保存した。 ② 供試カイコ品種 地域型品種:155 品種(日本種 61、中国種 48、欧州種 27、熱帯種 3、眠性種 16) 、突然変 異:13 品種の合計 168 品種の孵化幼虫を供試した。 ③ 物検定の方法 各毒素とも展着剤を含む滅菌水で所定濃度に希釈後、さらに 10 倍階段希釈した。それぞ れの希釈液(1倍区、10 倍希釈区、100 倍希釈区)に桑葉ディスク(直径 20mm)を浸漬して 風乾した。 次に、 直径 9cm のプラスチックシャーレに直径 7cm の濾紙を入れ、その濾紙に 0.5ml の蒸留水を滴下後、各濃度区ごとに、風乾した桑葉ディスク 3 枚を乗せ、各ディスクに孵化 幼虫を 5 頭ずつ乗せて(合計 15 頭/濃度区)蓋をし、25℃で飼育した。2 日後、無処理の桑 葉を加えて飼育し、さらに 2 日経過後に死虫数を調査した。 【研究成果】 Bt 毒素のうち、まだ抵抗性遺伝子について不明な点が多い 6 種類の毒素(Cry1Aa, Cry1C, Cry1Da, Cry2Aa, Cry9Aa, Cry9Da)を用いて、カイコの地域型品種 155 種(日本種 61、中国種 48、欧州種 27、熱帯種 3、眠性種 16)と突然変異種 13 種、合計 168 品種の感受性を調査した。 その結果、Cry9Da 毒素に対して強い抵抗性を示す品種が 1 品種(日本種)見つかった。また、 Cry2Aa に比較的強い抵抗性を示す品種が 2 品種(いずれも日本種)見つかった。他の毒素につ いては極端に強い品種はいなかったが、選抜により抵抗性系統を作出可能な品種が数種あった。 次に、カイコ品種の各毒素への感受性について、6 種類の毒素添食区それぞれより死亡率の 変異が大きかった濃度のデータを相互に比較して、毒素間の関連性の有無(交差抵抗性)を調 べた。供試した品種のうち、ランダムに選んだ 48 品種の死亡率のデータを、二種類の毒素間で 比較した結果を図 1 に示した。ケンドールの順位相関係数を求めたところ Cry1Aa と Cry9Aa 間 で弱い相関が見られが、他の組み合わせでは有意な関連は認められなかった。なお、どちらも ハスモンヨトウに殺虫効果を示す Cry1C と Cry1Da 間で、ある程度相関があるような結果も得ら れた。 図1.カイコの 6 種類の Cry 毒素感受性に関する関連性調査。カイコ 48 品種の各毒素感受性の 相関関係を 2 種類の毒素の組み合わせで調査した。縦軸と横軸はそれそれの毒素による死亡率 を示す。各プロットは系統を示す。Cry1Aa と Cry9Aa 間で相関が見られた(ノンパラメトリク 検定 Kendall のτ=0.36>0.29(1%水準)) 。 【主な発表論文・著書等】 宮本和久 1)・Mohammad S. Polan2)・遠藤 悠 4)・和田早苗 1)・浅野眞一郎 3)・蜷木 理 2)・佐藤 令一 4)(1)生物研、2)農工大農、3)北大院農、4)農工大院BASE)カイコ系統のBt毒素 6 種類に対す る感受性調査.平成 26 年度蚕糸・昆虫機能利用学術講演会(H26 年 3 月 10 日講演予定)
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