イオントラップ型 GC-CI-MSMS による微量有機成分測定の検討

イ オ ン ト ラ ッ プ 型 GC-CI-MSMS に よ る 微 量 有 機 成 分 測 定 の 検 討
株式会社
環境アシスト
中埜
洋司
【はじめに】
近 年 RoHS 指 令 に よ る PBB s 及 び PBDE s の 規 制 、 米 国 消 費 者 製 品 安 全 改 善 法
( CPSSIA) に 関 連 す る フ タ ル 酸 エ ス テ ル 類 の 規 制 、 REACH に よ る SVHC( 高 懸 念 物 質 )
に関する規制等、工業製品中の有機化合物の規制がクローズアップされています。
環 境 ア シ ス ト で は EU 圏 で 健 康 被 害 を も た ら し 、 2009 年 5 月 よ り EU に お い て 規 制 が 開
始 さ れ た DMF( フ マ ル 酸 ジ メ チ ル ) の GC-MS に よ る 測 定 方 法 に 付 い て 検 討 を 行 い ま し た
のでご報告いたします。
DMF は 革 製 品 及 び 家 具 等 の 防 カ ビ 剤 と し て 使 用 さ れ て お り ま し た が 高 ア レ ル ギ ー 性 物
質 で あ る と い う こ と か ら 現 在 で は EU を は じ め 、 各 国 で 規 制 が 行 わ れ て い ま す 。
EU に お い て は 0.1mg/ kg と い う 規 制 値 が 設 定 さ れ て い る こ と か ら 基 準 値 の 1/ 10 の 濃
度 で あ る 製 品 濃 度 0.01mg/ kg の 定 量 下 限 を 目 標 に 検 討 を 行 い
ました。
分析フローを図-1 に示します。
測 定 対 象 物 で あ る DMF は 非 常 に 強 力 な ア レ ル ギ ー 物 質 で あ
るため、安全を考慮してロータリーエバポレーターや窒素パー
ジによる濃縮操作を極力避けた前処理の検討を行いました。
そ の 結 果 抽 出 液 の DMF 濃 度 は 1ppb 以 下 を 確 保 す る 必 要 が 有
りました。
【 EI-MS に よ る 検 討 】
イ オ ン ト ラ ッ プ GC-MS に よ る EI-MS モ ー ド で の ク ロ マ ト を 示 し ま す 。
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EI-MS ク ロ マ ト グ ラ ム
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DMF10ppb の ピ ー ク は 図 - 2 に 示 す と お り S/N 比 か ら 考 え て も 検 出 限 界 に 近 い ピ ー ク
で あ り 、 EI-MS モ ー ド で の 定 量 下 限 を 確 保 す る 事 は 困 難 で あ る と 考 え ら れ ま し た 。
【 EI-MSMS に よ る 検 討 】
SN 比 の 向 上 を 期 待 し て MSMS モ ー ド で の 測 定 を 検 討 し ま し た 。
図 - 3 に MSMS モ ー ド で の マ ス ク ロ マ ト グ ラ ム と DMF の MSMS 測 定 時 の ス ペ ク ト ラ ム
を示します。
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EI-MSMS モ ー ド 測 定 ク ロ マ ト グ ラ ム
DMF
MSMS モ ー ド 測 定 に よ っ て 若 干 SN 比 の 改 善 は 認 め ら れ ま し た が 、 10ppb の SN 比 は 49
と 1ppb の 定 量 下 限 を 満 足 で き る 結 果 で は あ り ま せ ん で し た 。
【イオン化法の検討】
イオン化の違いによる感度の差異に付いて検討を行いました。
CI( 化 学 イ オ ン 化 )に よ る イ オ ン 化 は 分 子 イ オ ン に プ ロ ト ン が 付 加 し た m+1 の イ オ ン が
主 に 生 成 さ れ 、フ ラ グ メ ン テ ー シ ョ ン が 起 こ り に く い こ と か ら MSMS 測 定 で は プ リ カ ー サ
イオン量の増加が期待され感度的に有利に働くと考えました。
図 - 4 に 100ppb の DMF を EI( 電 子 イ オ ン 化 ) 及 び CI で 行 っ た ク ロ マ ト グ ラ ム と ス ペ
クトラムを示します。
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EI 及 び CI ク ロ マ ト グ ラ ム
2011 年 群馬県分析研究会 会報 第 37 号 別刷
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EI の 場 合 は DMF か ら -O-CH3 が 開 裂 し た と 考 え ら れ る
m/z=113 及 び -CO- O-CH3 が 開 裂 し た と 考 え ら れ る m/z =85 が
フ ラ グ メ ン ト イ オ ン と し て 観 測 さ れ て い る の に 対 し て CI で
は m+1 で あ る m/z= 145 が 大 量 に 生 成 さ れ て い る こ と が 確 認
されフラグメンテーションは殆ど起こっていないことが確認
図 ‐ 5 DMF 構 造 式
できました。
以 上 の 点 か ら m/z =145 を プ リ カ ー サ イ オ ン と し て CI-MSMS の 検 討 を 行 う こ と と し ま し
た。
【 CI-MSMS モ ー ド で の 測 定 】
図 - 6 に CI-MSMS に よ り 測 定 し た DMF の ク ロ マ ト グ ラ ム を 示 し ま す 。
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CI MSMS に よ る DMF 測 定 ク ロ マ ト グ ラ ム
EI-MSMS 測 定 時 に お け る DMF 10ppb の SN 比 が 49 で あ っ た の に 対 し て CI-MSMS 測 定
時 に お け る DMF 1ppb の SN 比 は 80 と 感 度 が 向 上 し 、十 分 測 定 で き る レ ベ ル に あ る こ と が
確認できました。
ま た 1~ 50ppb の 範 囲 に お け る 検 量 線 の 直 線 性 に 付 い て も R2=0.999 以 上 を 確 保 す る こ と
が出来定量性に付いても十分なレベルにあると考えられました。
ま た 実 サ ン プ ル に お け る 添 加 回 収 試 験 に お い て も 95% 以 上 と 良 好 な DMF の 回 収 が 認 め
られました。
【まとめ】
GC-MSMS 測 定 の 主 流 は EI 測 定 で す が 、 CI 測 定 と MSMS の 組 み 合 わ せ に は 様 々 な 可 能
性が有ると考えられます。
EI-MSMS 測 定 の イ オ ン 化 に よ っ て プ リ カ ー サ イ オ ン が い く つ か の パ タ ー ン に 開 裂 す る
ため、ターゲットとなるプリカーサイオンの発生量は元の化合物量と比較すると減少する
と考えられます。
し か し CI-MSMS 測 定 の 場 合 に は フ ラ グ メ ン テ ー シ ョ ン は ほ と ん ど 起 こ ら ず m+1 の イ オ
2011 年 群馬県分析研究会 会報 第 37 号 別刷
ン が 100 % 近 く 発 生 し そ の イ オ ン を プ リ カ ー サ イ オ ン と し て 利 用 で き る た め 感 度 的 に
CI-MSMS 測 定 が 有 利 で あ る と 考 え ら れ ま す 。
ま た EI-MSMS で は イ オ ン 源 に 導 入 し イ オ ン 化 し タ ー ゲ ッ ト と な る プ リ カ ー サ イ オ ン を
再 度 フ ラ グ メ ン テ ー シ ョ ン さ せ て プ ロ ダ ク ト イ オ ン を 得 る た め 、 測 定 す る 化 合 物 が DMF
の 様 に 分 子 量 が 小 さ い 場 合 の MSMS 測 定 は プ リ カ ー サ イ オ ン の 分 子 量 が 小 さ く な り す ぎ
て う ま く 測 定 で き な く な る 可 能 性 が あ り ま す 、 し か し CI-MSMS 測 定 の 場 合 プ リ カ ー サ イ
オ ン は m+ 1 と な り 、 結 果 的 に プ ロ ダ ク ト イ オ ン の 分 子 量 が 大 き く な る た め 測 定 に 有 利 に
働く可能性が高いと考えられます。
ま た イ オ ン ト ラ ッ プ MS 測 定 の 特 徴 で あ る MS n 測 定 時 に も CI-MSMS モ ー ド に よ る m+1
を プ リ カ ー サ イ オ ン と す る 事 に よ っ て MS n の 回 数 を 増 や す こ と が 期 待 で き る た め 、 高 マ
トリックスサンプル中の微量成分測定時に質量数分離出来る可能性が高くなると考えられ
ます。
最 後 に 、 今 回 の CI-MSMS 測 定 条 件 を 以 下 に 示 し ま す 。
測定機器:バリアン社製
450GC 240MS
カ ラ ム : InertCap WAX カ ラ ム 長 30m カ ラ ム 内 径 0.32mm 膜 厚 0.5μ m
昇 温 条 件 : 45℃ 2.5 分 保 持 → 40℃ / 分 → 250℃ 5 分 保 持
キ ャ リ ア ガ ス : He 1.5ml/ 分 流 量 一 定 モ ー ド
注入方法:パルスドスプリットレス注入
注 入 口 温 度 : 250℃
MS 条 件 : MSMS 測 定
Precursor Ion m/z =145
Product ion m/z =113
Emission Current 10μ Amps
GC イ ン タ ー フ ェ ー ス 温 度 : 250℃
ト ラ ッ プ 温 度 : 220℃
マ ニ フ ォ ー ル ド 温 度 : 45℃
イ オ ン 化 方 式 : 内 部 イ オ ン 化 液 体 CI( メ タ ノ ー ル )
以
2011 年 群馬県分析研究会 会報 第 37 号 別刷
上