質問タイプと映像の撮り方が子どもの証言の評価に及ぼす影響 仲真紀子 (北海道大学大学院文学研究科) 司法面接,目撃証言,信用性評価 Effects of question type and camera perspective on evaluation of child testimony Makiko NAKA (Hokkaido University, Graduate School of Letters) Forensic interview, Eyewitness testimony, Credibility judgment 目撃者や被害者となった子どもから,事件や出来事につい て証拠的価値の高い情報を収集することを目指す面接法を 司法面接(forensic interview)という。司法面接は録画さ れ,司法・福祉的な判断に用いられることが期待される。 この録画という媒体で示される子どもへの面接は,どのよ うに評価されるのだろうか。本研究では,録画における面 接の方法と記録の方法が,子どもの証言(以下,供述とす る)の評価に及ぼす効果を検討する。 第一の面接の方法に関しては,質問タイプを変数とする。 司法面接ではオープン質問(OQ:「何があったか話して下 さい」や「そして」 「それで」)を用い,クローズド質問(CQ: はい,いいえで答える質問や選択式の質問)の使用を控え ることが推奨されている。OQ は自由報告(自発的な語り) が得られやすいのに対し,CQ では短い答えになりがちだか らである。また,CQ に含まれる情報が事後情報として機能 する可能性もあり,諸研究において,OQ の方が正確な情報 を引き出すことが知られている。録画を見る人は,OQ を主 体とする面接と CQ を主体とする面接を区別し,前者で得 られた情報をより信用性が高いと判断するだろうか。 第二の録画の方法に関しては,誰をどのように録画する か/しないかという映像の撮り方(camera perspective)を 問題にする。司法面接では,面接者と子どもの両方を録画 することが多い。しかし,Lassiter らは,被疑者取調べの 録画に関し,被疑者のみが写っている場合の方が,被疑者 と面接者が写っている場合よりも被疑者の供述の任意性が 高く判断されることを示している(この場合,被疑者にと っては不利になる可能性がある)。被面接者を重点的に録画 するか,面接者と被面接者の両方を録画するかは,子ども の報告の信用性や自発性の判断に影響を及ぼすだろうか。 本研究ではこれら二つの問題に焦点を当て,質問のタイ プおよび映像の撮り方が,子どもの供述に関する評価にど のような影響を及ぼすのか/及ぼさないのかを検討した。 方法 計画:2(質問タイプ:OQ,CQ)×3(映像の撮り方:子 どもを中心に写した「近景」,子どもと面接者を写した「遠 景」,「録音のみ」)の独立 2 要因計画である。 参加者:92 人の参加者を,14−16 人ずつ 6 条件に割り当て た。 材料:「おじさんがさっちゃん(妹)のおなかを蹴った」と いう内容を,幼児が OQ に対し報告する面接(「それで」−− 「えいって蹴った」等)と,CQ に対し答えるかたちで報告 する面接(「えいって蹴ったの」−−「うん」等)を準備した。 それぞれの面接を近景,遠景,音声のみで記録し,6 種類の 刺激を作成した。各刺激は 1 分程度であった。 手続き:参加者に事件の概要(2 歳のさっちゃんは腹腔内 出血のため救急病院に搬送されたが,緊急手術により一命 をとりとめた。姉の 5 歳児が事件に関し供述した)を示し, 条件に応じた刺激を提示した。その後,調査表により以下 の質問への回答を求めた。質問は,①供述の自由再生,② 面接の評価(信頼性,自発性,説得力,面接の適切性,感 情を動かされたか,面接者の発話か子どもの発話かで混乱 が生じたか,子どもの証言能力),③語られた情報(蹴る, 泣く,意識を失う等)はどの程度事実を反映していると思 うか,④「おじさん」が有罪となる可能性,⑤有罪か無罪 かの判断,⑥量刑,および⑦子どもは一般に何歳くらいか ら証言できると思うか,であった。②—④については「大変 異なる(1)〜(7)大変そう」の 7 件法で回答を求めた。 結果 ここでは以上の質問への回答のうち,②—⑦について報告す る。結果は 2(質問タイプ)×3(映像の撮り方)の分散分 析を行い,多重比較には HSD 検定を用いた。その結果,② 面接の評価については,②の混乱をのぞき質問タイプの効 果のみが有意であった。すなわち,OQ による面接の方が, 子どもの供述の信頼性,自発性,説得力は高く,面接は適 切に行われており,感情を動かされたと評価された。また, 子どもの証言能力は高いとされた(レンジは OQ:4.12−5.76, CQ:2.08−4.08)。③供述が事実を反映している度合いにつ いても,OQ で得られた情報の方が,度合いが高いと評定さ れた(OQ:5.68,CQ:4.93)。④有罪の可能性については, OQ 条件の方が「おじさん」は有罪となる可能性が高いと判 断され(OQ:5.80,CQ:5.00),⑤有罪判断は OQ 条件 で多かった(OQ:91%,CQ:66%)。ただし,⑥有罪にし た人にのみ尋ねた量刑については,いずれの条件も約 6 年 であり,差は見られなかった。なお,以上のどの変数にお いても映像の撮り方の効果は見られなかった。しかし,⑦ 子どもは一般に何歳くらいから証言できると思うかについ ては,質問タイプ(OQ:7.81 歳,CQ:10.27 歳)と映像 の撮り方の効果が見られた(近景:7.55 歳,遠景:10.06 歳,録音のみ:9.42 歳)。 考察 以上の結果は,面接法に関する知識のない参加者であっ ても,OQ を主体とする面接と CQ を主体とする面接とを区 別し,前者における子どもの供述をより信頼できると判断 することを示している。また,OQ を主体とする面接におい て,有罪判断が多かった。OQ の面接も CQ の面接も,書面 の調書にまとめてしまえば,同等の内容になってしまう可 能性もある。しかし,実際にどのようなやりとりがなされ たかが示されれば,それは信用性の判断に影響を及ぼすと いえるだろう。なお,事件に関する具体的判断では,映像 の撮り方の効果は見られなかった。どのように写されるか よりも,子どもがどのように話すかに焦点が当てられたも のと思われる。 謝辞:本研究は JST「子どもを犯罪から守る司法面接の開 発と訓練」ならびに新学術領域「法と人間科学」 「子どもの 司法面接:面接法の改善その評価」の支援を受けた。支援 室員,大学院生,お子様に深く感謝申し上げる。
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