microDC/DC コンバータ

No.0034 (Ver.001)
Technical Information Paper
microDC/DC コンバータ
1.はじめに
スマートフォン、タブレット端末等に代表される携帯機器に搭載される半導体や電子部品は、小型・低背化が求められ
ています。機器に搭載する半導体の低電圧化/大電流化に伴い、シリーズレギュレータより変換効率が良い DC/DC コンバ
ータの採用が進んでいる。
DC/DC コンバータは、通常、電源制御 IC、コイル、コンデンサ、抵抗等の部品で回路構成している。そのため、シリーズ
レギュレータに比べて実装面積が大きくなり基板コスト増加の要因になっています。さらに選定部品や基板レイアウトの良
し悪しによって回路誤動作やノイズ問題を起こしてしまう事が多くあります。このような問題を解決する製品として
microDC/DC コンバータが注目されています。microDC/DC コンバータは部品点数が少ないので基板レイアウトが簡単で、
ノイズも少ないため開発工期の短縮に繋がります。
今回、microDC/DC コンバータ製品を紹介するとともに、より良く使うためのポイントを紹介します。
2. microDC/DC の構造と特徴
TOREX の microDC/DC コンバータ製品は、制御 IC とコイルを一体化した単一出力のスイッチング・レギュレータが中心
となっています。パッケージ構造は、製品仕様、IC、コイル、発熱(放熱性)等を考慮した上で決定しています。そして各々の
パッケージ構造には長所・短所が存在します(表-1)。
表 1 microDC/DC コンバータの構造と特徴
構造番号
TYPE - 1
TYPE - 2
TYPE - 3
構造図
構造説明 ICをコイルで覆ってしまう方法
コイル上にICをスタックする方法
コイルとICを横に並べる方法
特徴
◎ 放射ノイズ
◎ 近傍磁界
△ コスト
◎ 実装面積
○ 大電流
○ 放熱
○
△
◎
○
△
△
○ 放射ノイズ
○ 近傍磁界
○ コスト
△ 実装面積
◎ 大電流
◎ 放熱
製品
XCL101(昇圧)
XCL201/XCL202(降圧)
XCL205/XCL206/XCL207(降圧)
XCL208/XCL209(降圧)
放射ノイズ
近傍磁界
コスト
実装面積
大電流
放熱
XCL211/XCL212(降圧)
XCL213/XCL214(降圧)
2.1 TYPE ‒1 構造
IC のパッケージとコイルを張り合わせる。スイッチング電流経路が短くなり、ノイズが非常に少ない。
2.2 TYPE ‒ 2 構造
コイル上に IC チップを実装し樹脂モールドしている。汎用形状のコイルが使えるため比較的安価に作ることができる。
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2.3 TYPE - 3 構造
コイルと IC チップを隣に並べて樹脂モールドしている。IC やコイルの放熱性が良いため、大電流を流す事ができます。
3 ノイズ考慮した設計
電子機器の性能を十分引き出すためには、ノイズの発生を抑えるように回路設計の段階から、「ノイズを考慮した設計
をしているか否か」が重要になってきます。しかし、電源回路部分はノイズの発生源であるにもかかわらず部品選定は最
後になります。電源回路の設計が悪いと、どんなに高性能な IC や LSI を使っても性能を引き出すことはできなくなってしま
います。TOREX の mcroDC/DC コンバータはノイズを低減するため、
・漏れ磁束が少ないコイルを採用
・microDC/DC 用にコイル特性を調整
・DC/DC 動作の最適化
・電流経路を考慮したピン配置や構造
など、様々な工夫が凝らされています。実際に「ディスクリートで構成した電源回路(XC9236)」と「microDC/DC コンバータ
(XCL206)」ではどのくらいノイズ特性が異なるのか、放射雑音と近傍磁界強度の測定データを使って紹介いたします。
3.1 EMI (Electromagnetic Interference)
「XC9236B18DMR」と「XCL206B183AR」の 2 つの製品の放射雑音を比べたものです(図 1)。
XC9236(黒の波形)は 50M∼300MHz の広範囲でノイズを発生させています。一方、XCL206(黄緑の波形)は非常にノイ
ズレベルが低い事が分かります。このように同じ動作周波数であっても、はっきりとした差が出ています。そのため、
XCL206(microDC/DC コンバータ)は後手に回りがちなノイズ対策を軽減できる製品と言えます。また、XCL206 と同じ構造
の XCL202(Freq=1.2MHz)は動作周波数を低く抑えているため、更に低ノイズ品となっています(P.7 EMI データ参照) 。
試験条件:VIN=3.7V(DC 電源)、VOUT=1.8V、IOUT=200mA(抵抗器:9Ω)
XC9236B18DMR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF
XCL206B183AR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF
Horizontal
70
Vertical
70
XC9236B18DMR
XCL206B183AR
60
50
Level [dBuV/m]
50
Level [dBuV/m]
XC9236B18DMR
XCL206B183DR
60
VCCI Class B(3m)
40
30
VCCI Class B(3m)
40
30
20
20
10
10
0
0
10
100
10
1000
100
1000
Frequency [MHz]
Frequency [MHz]
図 1 XC9236B18DMR vs. XCL206B183AR 放射雑音
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3.2 近傍磁界強度(Near Magnetics Field)
「XC9236B18DMR」と「XCL206B183AR」の 2 つの製品の近傍磁界強度を比べたものです(図.2)。近傍磁界強度は、不要
雑音として放射されるノイズの強度とは必ずしも相関しませんが、実装基板を流れる高周波電流によりノイズ源を特定す
る手段として有効です。
試験条件:VIN=3.7V(DC 電源)、VOUT=1.8V、IOUT=200mA(抵抗器:9Ω)
XC9236B18DMR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF
XCL206B183AR(Freq=3MHz) Cin=4.7uF,CL=10uF
XCL206B183AR
Frequency Range
300MHz - 1000MHz
50MHz - 300MHz
Evaluation Board
XC9236B18DMR
図 2 XC9236B18DMR vs. XCL206B183AR 近傍磁界強度
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XC9236 は、周波数レンジ:50M-300MHz で IC 周辺に輪状に橙色や赤色が現れております。その中でも IC の GND 端子
付近に一番強いノイズが発生していることが確認できます。また、コイルにも黄色の輪状のノイズが確認できます。コイル
は簡易シールド・タイプ(樹脂にフェライト粉末を混ぜたもの)のため、磁束漏れがノイズとして確認されたと考えられます。
一方で、XCL206(microDC/DC コンバータ)は、赤色や橙色がなく、発生ノイズが少ないことが分かります。
4 microDC/DC コンバータを使いこなすために
microDC/DC コンバータは詳しい知識がなくても動作させることができます。基本的な知識を持っているとノイズや回路
部品の発熱を抑えることでき、電子機器の信頼性が上がり製品の評判も良くなります。
4.1 小型・低背
microDC/DC コンバータは、ディスクリート部品で構成した従来の DC/DC コンバータに比べ半分の実装スペースで済む
ため基板コスト低減にも繋がります。また、シリーズレギュレータと同サイズの基板スペースで済みます。
XC9236B18DMR
(DC/DC Converter)
XCL202B181BR
(microDC/DC Converter)
XC6221A182MR
(Series Regulator)
10mm
36mm
18mm2
30mm
30mm
Evaluation Board
18mm2
2
18mm
30mm
30mm
図 3 実装面積比較
4.2 効率と部品温度
シリーズレギュレータと microDC/DC コンバータで
100
XCL202
は電力変換効率に大きな差が出てきます。(図.4)
XCL202・・・87%(@IOUT=100mA)
この効率の差によって、機器のバッテリー駆動時
間に大きな差が出てきます。そして、この時の効率差
80
Efficiency : EFFI [%]
例) XC6221・・・48%(@IOUT=100mA)
XC6221
60
40
20
は損失として IC 自身の熱に変換されます(図 5)。
XC6221(PKG:SOT25) ⇒ 61.3℃(@Ta=23.4℃)
VIN =3.7V
VOUT=1.8V
0
XCL202(PKG:CL2025) ⇒ 36.3℃(@Ta=23.4℃)
0.1
1
10
Output Current : I OUT [mA]
100
図 4 XC6221A182MR vs. XCL202B181BR 電力変換効率
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試験条件:VIN=3.7V、VOUT=1.8V、IOUT=100mA(抵抗器:18Ω)、Ta=23.4℃
XC6221A182MR
(Series Regulator)
XCL202B181BR
(microDC/DC Converter)
IC
IC
Cap.
Cap.
図 5 XC6221A182MR vs. XCL202B181BR 熱特性
4.3 基板レイアウトのポイント
回路図で書くと簡単そうに見える GND 配線ですが、実際にプリント基板でレイアウトするとなると非常に難しいものです。
接続されていれば良い訳ではなく、接続位置や基板レイアウトが悪いとシステム全体の性能を低下させてしまうことになる。
例えば、降圧 DC/DC コンバータは、スイッチ 1(SW1)とスイッチ 2(SW2)を交互にオン/オフさせて、出力電圧が安定するよう
に電流量をコントロールしています。そのときに流れる電流が Current①と Current②になります(図 6 参照)。
そして、図 7.に示す赤色の配線には Current①もしくは Current②のどちらか一方の動作時でしか電流が流れていませ
ん。スイッチ 1(SW1)とスイッチ 2(SW2)が切り替わった時に、瞬時にスイッチング電流の流れが切断されることで配線の L(イ
ンダクタンス)成分によって起電力が発生することになります。
SW1
SW2
L
CL
SW1
SW2
R
CIN
L
CL
R
CIN
Current①
Current②
SW1:ON、SW2:OFF ⇒ Current①
SW1:OFF、SW2:ON ⇒ Current②
図 6. 降圧 DC/DC コンバータの電流経路
図 7. 降圧 DC/DC コンバータのノイズ
では、具体的にどのようにする必要があるのか、回路図で説明いたします。
ノイズを低減させるには、図 7 にある赤色で塗られた部分の配線長を短くする必要があります。IC 内部配線は別として、
入力容量(CIN)を DC/DC コンバータの VIN-GND 端子間の近くに配置し短い配線で接続するようにします(図 8 参照)。特に
GND はシステム全体にノイズを撒き散らしてしまうため注意が必要です。
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次に、実際の XCL206(miroDC/DC コンバータ)の
評価基板を例に説明します。パワーGND(PGND)とア
ナ ロ グ GND(AGND) が あ り ま す 。 そ の 場 合 、 パ ワ ー
GND(PGND)に対して、入力容量(CIN)を短く接続する
ことで起電力が発生する GND パターン部分(赤色)の
面積を非常に小さくすることができます(図 9)。
図 8. 回路図上の CIN 接続位置
TAB と AGND のパターンは表面パターンで接続して
も、接続しなくても問題ない。
TAB と PGND 端子は電流経路が変わるため表面で
接続しない。
PGND のノイズが広がらないように面積を小さく、短
く CIN に接続する。
図 9 XCL206 のプリント基板レイアウト(TOP VIEW/BOTTOM VIEW)
XCL206 評価基板は、ピン配置からすると表面パターンでパワーGND(PGND)、TAB、アナログ GND(AGND)を一直線で
繋げば GND パターンのレイアウトが簡単そうです。しかし、ノイズ面からすると電流経路が変わってしまい CIN の効果が低
下しマイナス効果になりますので注意が必要です。
5 おわりに
最近、国内外のメーカーにおいてウェアラブル機器の開発が活発に行われています。TOREX の microDC/DC コンバー
タ は 、数 年 前より GPS Watch( スポ ーツ・ウォッチ) 、 HMD (Head Mounted Display) 、 パルスオキシメー タ ー(pulse
oximeter)等に多く採用いただいております。ウェアラブル機器は身に付けて使用する時間が長いため「部品発熱による
火傷の問題」や「バッテリー駆動時間」、そして「人体への高周波ノイズの影響」等に注意されて設計されているようです。そ
のため、小型・高効率・低ノイズの特長を有している microDC/DC コンバータを採用するメーカーが増えている理由である
と考えられます。最後に、取得したノイズデータ(放射雑音、近傍磁界強度)を掲載しますので部品選定の一助となれば幸
いです。
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■EMI(Electromagnetic Interference) VIN=3.7V,VOUT=1.8V/IOUT=200mA
VCCI Class B(3m)
Vertical
70
70
60
60
50
Level [dBuV/m]
Level [dBuV/m]
XC9236B18DMR
Horizontal
VCCI Class B(3m)
40
30
20
10
50
VCCI Class B(3m)
40
30
20
10
0
0
10
100
1000
10
100
70
70
60
60
50
VCCI Class B(3m)
40
30
20
10
50
VCCI Class B(3m)
40
30
20
10
0
0
10
100
1000
10
70
60
60
50
Level [dBuV/m]
Level [dBuV/m]
XCL206B183DR
70
VCCI Class B(3m)
30
40
VCCI Class B(3m)
30
20
10
10
0
0
10
100
10
1000
100
1000
Frequency [MHz]
70
70
60
60
50
Level [dBuV/m]
Level [dBuV/m]
XCL202B181BR
Frequency [MHz]
VCCI Class B(3m)
30
50
VCCI Class B(3m)
40
30
20
20
10
10
0
0
10
100
1000
Frequency [MHz]
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1000
50
20
40
100
Frequency [MHz]
Frequency [MHz]
40
1000
Frequency [MHz]
Level [dBuv/m]
Level [dBuv/m]
XCL209B183DR
Frequency [MHz]
10
100
1000
Frequency [MHz]
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microDC/DC コンバータ
■近傍磁界強度(Near Magnetics Field) VIN=3.7V,VOUT=1.8V/IOUT=200mA
Frequency Range
300MHz - 1000MHz
XCL202B181BR
XCL206B183DR
XCL209B183DR
XC9236B18DMR
50MHz - 300MHz
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