修士論文 SPring-8におけるBGOEGG実験のための 荷電粒子検出器の開発 渋川卓也 1月27日 1 目次 BGOEGG実験 インナープラスチックシンチレータの製作 宇宙線による性能評価 Spring-8BGOEGG実験での性能評価 2 BGOEGG実験 BGOEGG p TOF検出器 p photon beam 14 m γ CDC + IPS BGOEGG実験の概念図 素過程 核内吸収の同定 3 • Spring-8 BL31で大立体角・高分解能γ 線電 磁カロリメータBGOEGGを用いて行う • 素過程として γ p → ω p 反応を用い、欠損 質量測定によりω 中間子束縛状態探索を行 う • ω 中間子の束縛エネルギーは30~50 MeVが 理論予測されている[1] • 2.7 GeV光子ビームを用い、γ p → ω p 反応 によりほぼ静止した ω 中間子を生成 • 前方に放出される陽子を前方TOF検出器に より欠損質量分解能 30 MeV/c2 測定 • 同時に、ω 中間子の核内吸収を ω N → N*→ γ pあるいは ω N → γ Δ → γ π 0pの反応で生じる γ 線 と陽子を標的付近でとらえることで同定し バックグラウンドを低減する [1]H. Nagahiro et al, Nucl. Phys. A761 (2005) 92, BGOEGG検出器 H1334 H6524 144° 24° Photon beam BGOEGGの断面図 target 直径 84 cm 長さ85 cm 4 BGOEGGの3D概念図 • 化学式Bi4Ge3O12で表されるBGO単 結晶を用いた無機シンチレータ 1320本からなる電磁カロリメータ • 方位角方向に6°ずつ60分割、極角 方向には6°~4°ずつ22分割 • 卵型にすることで最前方の結晶の 前面が極端に小さくなることを避 けた • 極角アクセプタンスは24°~144°、 方位角アクセプタンス360° • 内部にフレームを持たず、結晶が 積み重なることによって構造を保 つため、アクセプタンス中にDead Regionがない。 • 内側に標的と荷電粒子検出器を設 置する直径230 mmの空間がある。 BGOEGG検出器の性能 エネルギー分解能 各項は電磁シャワーの揺らぎ、シンチレー ション光の量、電気的ノイズを表す stopping power (MeV/mm) 陽子の速度β に対する阻止能 20 14 6 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 • BGO結晶は発光減衰時間が300 nsと 長めである以外は密度7.13 g/cm3、 放射長1.12 cm、モリエール半径2.23 cmなど、ハドロン実験用電磁カロリ メータとして優れた性質を持つ • 100~800 MeVの陽電子ビームを用い てエネルギー分解能の測定が行われ [2]、1 GeVでのエネルギー分解能は 1.31 % ±0.04 % と求められた • 運動エネルギー0.01~3 GeVの陽子が BGO結晶に入射したときの阻止能が 計算された[3] • 陽子がBGO結晶と同じ程度の飛程と なるのは運動エネルギー434 MeV、 π ±では253MeV 1 Velocity β 5 [2]T. Ishikawa, GeV-γ 解析ノート HD No.231B,(2011) [3]T. Ishikawa, GeV-γ 解析ノート HD No.322B,(2013) インナープラスチックシンチレータの要求性能 インナープラスチック シンチレータの3D概念図 23 cm 45 cm インナープラスチック シンチレータの断面図 target 100 mm 40 mm 6 • γ 線検出器BGOEGGの荷電粒子のVETO • ω N → N*→ γ p反応の放出陽子を捉えるこ とを要求する • 質量が ω 中間子と核子の質量の和程度であ る場合、放出陽子の運動量は 600 MeV/c程 度で運動エネルギーは178MeV、β は0.5程度 • BGOEGGのBGO結晶の長さと陽子の飛程が 同程度になるのは陽子の運動エネルギー430 MeV程度のとき • インナープラスチックシンチレータには、 Δ E-E法を用いるために十分なΔ E情報が得 られることが要求される。 • インナープラスチックシンチレータの設置 地点(r = 100 mm)で、1σ 程度の陽子とβ = 1 粒子とのpeak to peak分離を行うため、 σ = 300 psの時間分解能を要求する インナープラスチックシンチレータ 検出器システムの断面図 MPPCの位置の拡大図 CDC 100 mm 7 113 mm • 極角アクセプタンス 22°~144° • 限られたスペースの ため、MPPCを使用 • 重なり領域を持たせ て円筒形に30枚配置 • 内側にCDC、外側に BGOEGGがあるため、 r = 100~113 mm にインナープラス チックシンチレータ を配置 • 1枚の大きさは 長さ453 mm 幅 26 mm 厚さ 5 mm BGOEGG ビーム軸に垂直な断面図 インナープラスチックシンチレータの製作 70 V 47kΩ 4 mm GND 0.1μ F 47kΩ 0.1μ F MPPC 10kΩ Multi-Pixel Photon Counter(MPPC) 453 mm 26 mm signal 0.47μ F 5mm厚プラスチックシンチレータ 読み出し回路の概念図 MPPC Signal HV 460 mm 8 • Multi-Pixel Photon Counter(MPPC) を5個並列につなげてシンチレーショ ン光を検出 • 470 mm の空間に453 mmのプラスチックシンチレータ、MPPC、サポー トを配置 • 極角アクセプタンス22°~144°を実現 インナープラスチックシンチレータの製作 • 重なり領域があるため厚さの余裕は ほぼない • 厚さは最薄4.8 mm 最厚5.2 mmの精度 で加工 • 反射率97.5 %のルイルミラーを使用 • サポートは3Dプリンタで製作し、 r = 100 ~113の範囲内に30枚収め、ジ オメトリの条件を満たした。 CDC 100 mm 113 mm 組み立て後のインナープラス チックシンチレータ BGOEGG ビーム軸に垂直な断面図 9 性能評価項目 • 実験室での宇宙線を用いた測定 • 時間分解能 • 検出効率 • SPring-8 BGOEGG実験でのデータ収集 • アラインメント、BGOEGGとインナープラス チックシンチレータの方位角対応関係 • 時間分解能 • Δ E-E相関による陽子識別 10 宇宙線測定のセットアップ 宇宙線 10 mm 角 トリガーシンチ2 IPS トリガーシンチ1 宇宙線測定セットアップの概念図 インナープラスチックシンチレータは長 さ453 mmで、その中心にトリガーシンチ レータを配置した 11 • 宇宙線を用いて時間分解能、検出効率 の評価を行った • 宇宙線事象は2枚のトリガーシンチ レータのADCで選別 • TDCスタートはトリガーシンチレータ 1のタイミング • 検出効率の評価のために10 mm角シン チレータを配置 counts 宇宙線測定で測定したデータ ADC 0 20 Timing 0 -2000 40 60 2000 Timing vs ADC 0 1000 2000 counts 0 40 80 120 160 Timing 12 3000 ADC 500 1500 2500 ADC TDC • 補正を行う前のTDC分布をガウス分布 でフィッティングしたσ は317 ps • ADC分布はランダウ分布でよくフィッ ティングできる • σ には、閾値を超える時間が波高に依 存している影響が含まれる -2000 0 2000 Timing Slewing Correction Timing vs ADC ADC 500 1500 2500 ADC Timing 0 -2000 2000 500 1500 2500 Timing vs trigger ADC Timing 0 -2000 Timing 0 -2000 2000 2000 Timing vs ADC 500 13 1500 2500 ADC • 各ADC値のbinごとのTDC値の平均を 上式でフィッティングし、得られた ADC依存性を取り除く補正を行った • トリガーシンチレータの波高の影響 も同様に補正 • イタレーティブに補正を行い最終的 に240 psを得た 検出効率の評価 検出効率= インナープラスチックシンチレータが検出したイベント数 トリガーのADC、10 mm角のADC、TDCの条件を満たしたイベント数 10 mm 角 トリガーシンチ2 IPS トリガーシンチ1 10 mm 角 トリガーシンチ2 プロトタイプ トリガーシンチ1 14 • 検出効率の評価には10 mm 角シンチレータを 用いた。 • トリガーのADCがあることに加えた条件は、 10 mm角のTDC値が分布の平均から5σ 以内 であり、ADC値があること • インナープラスチックシンチレータが検出し たことの条件は、ADC値があり、10 mm角シ ンチレータとのタイミング差が分布の平均か ら5σ 以内であること • 検出効率は98.3% • 幾何学的な配置の問題が残っていると考えら れ、40 mm幅プロトタイプでは99.5% • Inefficiencyの原因は今後実機での検討を進め る SPring-8 BGOEGG実験での性能評価 • SPring-8で2013年12月データ収集を開始 • SPring-8 BL31の最大2.4 GeVのγ 線ビームを用いた • 原子核標的はポリエチレンと炭素を交換しながら用いた • トリガー条件はBGOEGGが1モジュール以上または2モジュー ル以上信号を持つこと • データ量103 run、400 M trig、 • 今回性能評価に用いたデータはポリエチレン標的で、ト リガーは2モジュール以上、データ量は13 run、10M trig • SPring-8 BGOEGG実験での性能評価 • アラインメント、BGOEGGとインナープラスチックシンチ レータの方位角対応関係 • 時間分解能 • Δ E-E相関による陽子識別 15 アラインメント マーカー マーカー BGOEGGコーンリングフレーム アラインメントに用いたマーカー • インナープラスチックシンチレータn番目 と、BGOモジュールの方位角番号2n番目の 対応関係が崩れないことが重要 • セオドライトとロボラインを用いてビーム ライン中心軸に対して、r = 100 mmの位置 で2.7 mmの精度を達成 16 BGOEGGとインナープラスチック シンチレータの方位角の対応 BGOEGGとインナープラスチックシンチレータの対応 0 counts 4000 8000 12000 Ips 0 and BGO coincidence BGOEGGとインナー 0 200 400 600 800 1000 bgo number プラスチックシンチレータの 方位角の対応 • コインシデンスイベントのカウント数をBGOモ ジュール番号に対してプロット • 実験データから、60個おきに対応が取れているこ とが確認された • 低いピークは180°反対側のインナープラスチック シンチレータが同時になるイベントによる 17 重なり領域を用いた時間分解能の評価 0 counts 600 200 400 Timing -60 0 Timing 60 重なり領域。BGOEGGで イベント選別を行った • 重なり領域の時間差は時間分解能を反映 • 隣り合う2枚がともにADC値を持ち、重なり領域の後ろのBGOモ ジュールにTDC情報があるイベントで評価 • 細い成分と太い成分を持ち、細い成分をガウス分布でフィッティン グした結果のσ は最小210 ps,最大330 ps • 太い成分は2粒子による信号と考えられる。 18 0 1 2 3 4 Δ E (a.u.) 7 6 5 8 BGOEGGとインナープラスチックシンチレータのエネルギー損失の相関 Δ E-E 0 • • • 19 • 100 200 300 400 500 E (MeV) BGOEGGとインナープラスチックシンチレータのエネルギー損失の相関図か ら、陽子によるものと考えられるΔ E-E相関が見て取れる。 陽子の他にも構造が見られる。 インナープラスチックシンチレータのADCのモジュール依存性は分布のピー クをもとに較正 BGOEGGのADCはπ 0の質量をもとに較正 proton part Δ E (MIP) 8 6 4 Δ E-E 2 300 0 0 2 Δ E (MIP) 8 6 4 フィッティングによるΔ E-E相関の検証 600 900 E (MeV) 600 900 E (MeV) Δ E-E 0 0 2 2 Δ E (MIP) 8 6 4 Δ E (MIP) 8 6 4 proton part 300 20 300 600 900 E (MeV) 300 600 900 E (MeV) • もっとも鮮明な構 造を陽子の質量を 用いたBethe 関数 でフィッティング • 得られたパラメー タでdeuteron, K中 間子、π 中間子の 質量について曲線 を作成。 フィッティングによるΔ E-E相関の検証 Δ E (a.u.) Δ E-E d p π K E (MeV) • deuteron,π 中間子の曲線も分布と大きな矛盾はない。 • 詳細なエネルギー損失の分布を考慮に入れた解析を今後 行う予定 21 まとめと今後の方針 • SPring-8BGOEGG実験のために荷電粒子検出器としてインナープラスチッ クシンチレータを開発し、性能評価を行った • 実験室の宇宙線測定により時間分解能を評価した結果、測定システムの 分解能を含めて244 psであり要求性能の300 psを満たした • 宇宙線の測定から検出効率を98.3 %と評価、これは比較的低いが、今後実 機での検討を行う • 本実験での時間分解能は2枚のタイミング差として最小210 ps 最大330 ps であった • Δ E-E法による陽子識別を行い、陽子の相関からπ 中間子、deuteronの相 関を導くことで、粒子識別と大きな矛盾のない結果を得た • 今後はΔ E-E法のより詳細な解析、粒子の速度を用いた粒子識別を行い、 さらに詳細な性能評価、検出器の詳細解析を行い、ω 中間子の束縛状態 についての研究を進める 22
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