oral contraceptives: OC

産婦人科教室抄読会
平成 26 年 2 月 3 日
NAME
山谷日鶴
TITLE
経口避妊薬 (oral contraceptives: OC) と動脈血栓症
BACKGROUND
1. 血栓症には動脈血栓症と静脈血栓症とがあり、それぞれ発症機序が異なり、リスク因子も異な
る。心筋梗塞や虚血性脳卒中の原因となる動脈血栓は、血小板の活性化が主であるのに対
し、深部静脈血栓症や肺塞栓症の原因となる静脈血栓は凝固系の活性化が主となる。①
2. 経口避妊薬 (OC) は、凝固系因子を増加させ、線溶系因子を減少させることで、凝固能を亢
進させる。OC は静脈血栓塞栓症 (venous thromboembolism: VTE) を非服用者の 3 から 5 倍
増加させる。この増加は服用開始から 4 ヶ月以内に多い。②
3. OC は、炎症マーカーである CRP や血清アミロイド A 蛋白を有意に増加させるという報告や、ラ
ットにおいて血小板活性化因子(PAF)を不活化する PAF-AH (acetylhydrolase) の活性を低下さ
せるという報告などがあるが、動脈血栓に対する影響の機序は明らかではない。③
4. OC と動脈血栓についてのこれまでの報告:虚血性脳卒中は有意に増加させるが、出血性脳卒
中は増加させない。④心筋梗塞は増加させないが、喫煙者では有意に増加する。⑤
5. OC による血栓症は、発症の絶対数は多くないが重篤な転帰をとることが多いため、慎重投与ま
たは禁忌には、動脈及び静脈血栓症のリスク因子が多く含まれている。⑥
SUMMARY ⑦-⑩
1. 1995 年~2009 年にかけて、デンマークに居住する 15 歳~49 歳の女性、1,626,158 人を対象
に、ホルモン剤による避妊薬の使用と血栓性脳卒中及び心筋梗塞の発症について解析した。
2. ほとんどの種類の OC で、脳梗塞および心筋梗塞の発症の、非服用者に対する相対危険度は
有意に上昇した。特に EE 55 µg 含有の経口避妊薬で、心筋梗塞の相対危険度は上昇した。
3. プロゲスチン単剤の避妊薬は、血栓性脳卒中も心筋梗塞も相対危険度を上昇させなかった。
4. OC の内服期間によって、血栓性脳卒中及び心筋梗塞の相対危険度は変化しなかった。
CONCLUSION
1. OC を服用する年齢の女性では、動脈性血栓症発症の絶対数は多くないが、年齢が上がるに
つれて相対危険度は高くなる。
2. OC は心血管系疾患のリスク因子がなくても、心筋梗塞の発症を増加させる可能性が高い。
3. OC による心筋梗塞のリスクは、プロゲスチンの種類や、内服期間でほとんど変化しない。
4. OC が普及し、日本でも長期間内服している人が増えてきた。年齢の上昇に伴い、心血管系のリ
スクが増加するため、OC の服用開始時のみならず、リスク評価を定期的に行い、継続の是非を
検討する必要がある。
REFERENCE
1) 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2011 ②⑥
2) WHO Technical Report Series 47th Report 1996 ②③
3) J Thromb Haemost 2006; 4: 77 ③
4) Biol Reprod 1995;53:244 ③
5) Lancet 1996; 348:498 ④
6) Lancet 1996; 348:505 ④
7) Lancet 2003;362:185 ④⑤
8) Arch Intern Med 2001;161:1065 ⑤
9) N Engl J Med 2012;366:2257 ⑦-⑩
①
動脈血栓症と静脈血栓症
動脈血栓: 心筋梗塞、脳梗塞
静脈血栓: 深部静脈血栓症、肺塞栓症
機序:
血管壁が破綻し、内皮下組織と血液が
接触
→血小板が粘着
→血小板活性化・凝集
→血小板凝集塊 + フィブリン形成
機序:
血流のうっ滞・停滞 + 凝固因子
→凝固系活性化
→トロンビン産生亢進
→フィブリン形成 + 血小板凝集
リスク因子:
リスク因子:
・ 動脈硬化 (加齢、喫煙、高血圧、糖尿病、 ・ 血流の停滞 (妊娠、長期安静)
・ 凝固能亢進 (エストロゲン服用、手術、
脂質異常症)
悪性腫瘍、妊娠、凝固異常)
・ 血液粘稠度の亢進 (脱水)
・ 静脈内皮障害 (手術、外傷、静脈カ
・ 血管炎
テーテル処置)
・ 生体内異物 (人工弁、血管置換)
・ 血行異常 (心房細動、大動脈弁狭窄)
血管内皮下組織への
血小板粘着
(プラークの破綻)
血小板
活性化
凝集
血小板凝集塊
の成長
フィブリン形成
血小板の血栓
血液凝固カスケード
の活性化
(血流のうっ滞)
トロンビン
生成亢進
フィブリン形成
血小板凝集塊
の形成
フィブリンと赤血球の血栓
②
経口避妊薬 (OC) による血液凝固・線溶系の変化
増加する凝固系因子
減少する線溶系因子
TFPI:tissue factor pathway inhibitor
主に血管内皮細胞で産生される凝固
阻止因子
経口OCでは静脈血栓塞栓症 (venous thromboembolism: VTE) が増加する
OC非服用
5人/10万/年
OC服用
Ethinyl estradiol (EE) + levonorgestrel 15人/10万/年
EE
+ desogestrel 25人/10万/年
妊娠出産
60人/10万/年
プロゲスチン単剤ではVTEの増加は明らかではない
OCによるVTE発症は、服用開始後4ヶ月以内が特に多い
③
OCが動脈血栓の発症に対して促進的に働く報告
・ OCは、ヒトにおいて炎症マーカーである血中CRPや血清アミロイドA蛋白を有意に
上昇させる。
・ 雌ラットにおいて、エチニルエストラジオールを投与すると、血漿中のplateletactivating factor(PAF)を不活化するPAF-AH(acetylhydrolase)の活性が低下し、
タバコの煙への暴露を加えることで更に低下する。
④
OCによる脳卒中の発症リスクについてのこれまでの報告
OCは虚血性脳卒中の発症リスクを増加させる
OC非服用
OC服用
喫煙
なし
あり
高血圧
なし
あり
OCは出血性脳卒中のリスクを増加させない
OC非服用
OC服用
内服期間で出血性脳卒中のリスクは変化しない
OC内服期間(月)
出血性脳卒中
⑤ OCによる虚血性心疾患の発症リスクについてのこれまでの報告
OCは虚血性心疾患を増加させない
OC内服期間(月)
45歳未満では、どの年代でも、OCにより心筋梗塞のリスクは上昇しない
現在服用 以前服用
服用なし
喫煙による心筋梗塞のリスクは、OC内服で著明に上昇する
⑥
⑦
1995~2009年 デンマークに居住する15~49歳の女性
1,730,326人
除外 登録以前に脳血管疾患・冠血管疾患・血栓症の既往
凝固異常、がんに罹患、子宮全摘・両側付属器摘出・不妊手術施行
1,626,158人
避妊薬による、虚血性脳卒中および心筋梗塞
の発症リスクを解析
一時的に解析から除外
妊娠中~産後3ヶ月、または流産後1ヶ月
排卵誘発中、避妊薬の変更後1ヶ月
⑧ 年齢、暦年、教育程度、危険因子ごとの、血栓性脳卒中と心筋梗塞
の相対危険度
血栓性脳卒中
心筋梗塞
年齢があがるほど、
血栓性脳卒中および
心筋梗塞の相対危険
度は有意に増える。
虚血性脳卒中の発症は、
近年上昇傾向にある
心筋梗塞は不変
義務教育(9-10年)のみ
の人は、一番長い期間
(16-20年)教育を受け
た人に比べて相対危険
度が高い
糖尿病
高血圧
脂質異常症
不整脈
喫煙
⑨避妊薬の種類ごとの血栓性脳卒中と心筋梗塞の相対危険度
中用量経口避妊薬
低用量経口避妊薬
オーソ・ルナベル
トリキュラー
アンジュ
マーベロン
超低用量経口避妊薬
ヤーズ
プロゲスチン単剤
ミレーナ
エストロゲン含有の経口避妊薬では、ほとんどの経口避妊薬で虚血性
脳卒中及び心筋梗塞の発症の相対危険度が上昇した。EE 50 µg含有
のOCは、心筋梗塞の相対危険度がより高かった。
プロゲスチンのみの避妊薬ではいずれも相対危険度は上昇しなかった。
⑩
EE 30-40 µg含有の低用量経口避妊薬における、プロゲスチンの
種類別の、内服期間と相対危険度
プロゲスチンの種類
内服期間
どのプロゲスチンにおいても、虚血性脳卒中及び心筋梗塞の発症
の相対危険度は、内服継続期間によって変化しなかった