青年期の自我の弾力性と情動知能の関連

青年期の自我の弾力性と情動知能の関連
-自己と友人関係のあり方に与える影響-
富田玲子
(ルーテル学院大学総合人間学研究科)
キーワード:自我の弾力性, 情動知能, 青年期
The relationship between ego-resilience and emotional intelligence in adolescents
Reiko TOMITA
(Japan Lutheran College Graduate School of Integrated Human Studies)
Key Words: ego-resilience, emotional intelligence, adolescents
目
的
自我の弾力性(Ego-Resilience: 以下 ER)とは, 状況からの要
求に合わせて, 自らの情緒, 行動をバランスよく機能させる
ために, 自我を柔軟に調整する能力であり, 人が外的・内的な
適応を行う上で非常に重要である(Block & Block, 1980)。
ER 研究において, ER が環境的ストレス, 葛藤, 不確実な状
況における個人の適応能力に密接な関係があることが示され,
日常生活, 対人関係, チャレンジ, そして人生の苦難の中で
役割を果たしていることが明らかにされている(Klohnen,
1960 ; Block, J. & Kremen, A., 1996)。
ER を支える要因として, 身体性が挙げられているが(小谷,
2008), 本研究では, 身体性を情動表出という身体感覚で捉え
ることができるのではないかと考え, 情動知能(Emotional
Intelligence: 以下 EI)に着目した。EI の構成要素には, 対他者
的な能力と対自己的な能力がある。これら 2 つの要素は相互
に影響し合い, 環境の要求に対応すると考えられている
(Mayer & Salovey, 1999)。さらに, EI は内省(岡田, 1991)や友人
関係(岡田, 1995)の適切なあり方を支える要因になると考え
られるため, 現代青年の様々な問題(e.g.,葛藤を抱えられない,
悩めない, 切れる, 引きこもりなど)を考える際に, これらの
関係を検討することは重要ではないかと考えた。
本研究では, 青年期の ER と EI が関連して, 自己や友人関
係のあり方に与える影響を検討する。また, 先行研究で ER に
は性差があることが明らかとなっているため, 性差も併せて
検討する。
方
法
2013 年 7 月に, 都内私立大学 2 校の 18 歳~20 代の学生を
対象に質問紙調査を実施した。分析には回答不備を除く, 367
名を対象とした(A 大学:男性 69 名・女性 86 名 / B 大学:
男性 160 名・女性 52 名)。調査用紙は, 基本的属性である年
齢, 性別, 学年, 大学名を記載するフェースシートのほか,
①ER 尺度 ②情動知能尺度 ③感情体験尺度 ④内省尺度 ⑤
友人関係尺度によって構成した。
結
果と考
察
性差の検討
性差を検討するために分散分析を行った。その結果, 男性
の ER は女性よりも有意に高く, 先行研究と一致する結果が
得られた。Block(2006)らによれば, 男性の ER は年齢を通じて
一貫している一方, 女性の ER はこの時期に再構築されると
いう。このことからも, 男性の ER の高さと女性の ER の低さ
や不安定さは, 先行研究を支持する結果といえる。
変数間のパス係数
男女共に, ER は全ての EI に関与していることが明らかとな
った。そして, ER は適応に関する要因に EI を媒介して, また
直接的に関与していることが明らかとなった。葛藤を抱える
能力の弱さや友人関係が難しいと言われる青年期において,
ER のあり方や情動の扱いに関する側面は, 青年期の外的・内
的な適応に重要であることがわかった。また, ER と EI の関連
性には男女間の特徴が見られ, 男女によって要因間の関連も
異なることが明らかとなった。
男性では, ER が特に「情動の利用」に重要な要因となって
おり, 状況に見合った情動を利用しながら, 外界との調整を
図るところに ER が使われていることが明らかとなった。自
己のあり方や友人関係のあり方の特徴としては, ER が EI を媒
介して「内省傾向」の促進と「楽観傾向」の抑制に寄与して
いること, また, ER が EI を介さず直接「楽しさ追及」に関与
し,「関係回避」の抑制に寄与していることがわかった。男性
では特に, 友人との同質性を通じて, 自己のあり方や友人関
係のあり方を ER で調整している可能性が示唆された。
一方, 女性では, 特に「情動の調節」と「他者の情動評価」
に ER が使われていることが明らかとなった。これは, 女性が
乳幼児期に男性よりも, より強い親の管理下に置かれ, 探索
活動に対する制限も多いことから(Block, 2006), 自分の気持
ちや相手の気持ちにより焦点が当てられる傾向が身について
いることを反映した結果といえる。その他の特徴としては,
ER が直接「楽観傾向」の促進に寄与しており,「関係回避」
については, どちらも関与していないことがわかった。青年
期の女性は, 性差に基づく社会化や身体的成熟のため, 男性
よりも変化が大きく, 適応問題が急激にもたらされる
(Block,2006)。そのため, 急激な変化に適応するために, また,
自己の揺ぎを最小限にくいとめるために, 対人関係を回避す
る傾向が推察された。
今後の課題としては, ER が何によって高められるのかを明
らかにしていくことが必要であると考える。
注) 結果詳細は, 当日の資料を参照