バーミキュライト固定態セシウムの Mg-有機酸による溶出 Dissolution of vermiculite-fixed cesium by Mg-organic acid (農学研究院・生物生産科学専攻*1)鈴木創三*1 ・光山拓実*2 ・田中治夫*1 *1 :農学研究院・生物生産科学専攻 *2:農学部・生物生産学科(現・環境省) 福島農業復興支援プロジェクト:「大学固有の生物資源を用いた放射性元素除去技術、 バイオ肥料・植物保護技術開発」 *連絡先 1.はじめに 福島原発から放出されたセシウム(Cs) は土壌の雲母鉱物(Mc)やバーミキュライ ト(Vt)の層間に固定されてセシウム固定 態バーミキュライト(Cs-Vt)となり、安定 化するといわれる。しかし、作物が根か ら分泌する有機酸(OA)は酸および陽イオ ン吸着交換作用などにより、Vt に固定さ れた Cs を土壌水中に溶かして作物に吸 収させる作用を持つことが推察される。 本研究では、作物の根から分泌される OA が肥料のマグネシウム(Mg)と協働し て、Vt に固定された Cs を溶かすあるい は遊離させて、作物に吸収しやすくする ことについて調べた。 2.試料と方法 1)土壌:福島県二本松の稲葉、北作、 および問屋地区の水田および針道地区の 畑地の表層 0~10cm 深から採取した。 2)粘土:1)の土壌から腐植などの 有機物を分解除去後、沈底法で粒径 2μm 以下の粘土を採取した。 3)バーミキュライト(Vt):市販品の 標準試料を磨砕後、沈底法で粒径 2μm 以下を採取し、脱鉄・脱層間 Al 処理して 精製した。 4)方法:①土壌の化学性:pH、EC を 各々pH-、EC-メーターで測定。②結晶性 粘土鉱物組成:粘土あるいは Vt を Mg あ るいは K 飽和後、X 線回折。③Vt 固定態 Cs および Vt 固定態 K の溶解(あるいは遊 離)反応:pH 調整した有機酸(OA)、Mg 等 と OA の混液(Mg-OA など)中で反応させた Cs-Vt、K-Vt の底面間隔(d)を X 線回折で 測定。 E-mail: [email protected] 3.結果および考察 ①福島土壌の粘土の含量と組成:水田と 畑地の土性は各 CL、SC で、粘土含量は各 10~17%、20%、粘土のうち結晶性粘土鉱 物が各 72~74%、66%で、水田、畑地と もに主成分は Vt で、残りは Mc、カオリ ン鉱物(Ka)であった。このように、Cs 固 定作用の大きい粘土の割合が大きかった。 水田ではスメクタイト(Sm)、畑地ではク ロライト(Ch)も認められた。水田の砂画 分には土改材の Vt も含まれていた。 ②福島土壌の酸性とイオン量:pH は水田 が 5.8~6.1、畑地は 5.7 で、EC は水田の 1 地区(8.8mS/m)以外は 1.6mS/m であった。 ③pH と Vt 固定態 Cs の溶解性:アルカリ 性~酸性の pH10、8、5 の Cs 溶液と反応 させた Na/K-Vt(d=1.24nm)のピークは各 1.06、1.04、1.03nm に移動して、K-Vt (d=1.01nm)に近づいた。 ④有機酸と Mg-有機酸の Vt 固定態 Cs の 溶解性の比較:Cs/K-Vt(d=1.03nm)のピー クはクエン酸などの OA のみとの反応で は変化しなかったが、Mg-OA、Na-OA ある いは K-OA 溶液中では各 1.19、1.18 ある いは 1.02nm に、それぞれ移動した。この 反応から OA と共存する Mg 等のイオンと Cs との交換作用が推察された。 ⑤牧草・麦類の根分泌物の Vt 固定態 Cs の溶解性:Cs/K-Vt(d=1.03nm)のピークは 培養液のみと反応させても変化しなかっ た。しかし、イタリアンライグラス、エ ンバクの栽培区ではいずれも 1.02nm に 移動し、K-Vt(d=1.01nm)に近づいた。こ の変化は Vt に固定されていた Cs が溶解 したためと判定された。
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