2014-1 病態生理:血液疾患レポート用 【本日の目標疾患】 ●赤血球系の疾患:貧血 Anemia、鉄欠乏性貧血(IDA)、造血 ビタミン(葉酸、VitB12)欠乏による貧血、 (自己免疫性)溶血 性貧血 ●白血球・リンパ球系の疾患:白血球減少症、白血病 ●血小板系の疾患:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性 血小板減少性紫斑病(TTP) ●凝固系の疾患:血友病、フォン・ウィルブランド病 【貧血 Anemia】 赤血球数とヘモグロビン(Hb)濃度の低下 ●Hb 正常値:男 14 g/dL 、女 12 要治療は 10 以下 ●ヘマトクリット(Hct or Ht)男 50 %、女 45% ●赤血球容積(MCV)(正球性 80-100 fl)、小球性(MCV < 80): 鉄欠乏性貧血、大球性(MCV > 100 fl):赤芽球分裂障害(葉酸、 VitB12 欠乏) ●網状赤血球数:正常では赤血球数の 1%: 増加:失血、溶血、 低下:造血障害 症状:易疲労性、労作時の動悸や息切れ、体がだるく、朝起き られない。階段の昇り降りで動悸、萎縮性舌炎 、爪変形(匙) 、眼瞼結膜の蒼白化 【鉄欠乏性貧血】 血清フェリチン濃度(組織の鉄結合蛋白)<15 ng/ml なら組 織鉄欠乏状態.100 以上は鉄欠乏で無い トランスフェリン濃度(鉄結合蛋白)鉄欠乏性貧血では(総鉄 結合能:TIBC)が増加する 血清鉄濃度は鉄欠乏状態反映しない 原因:失血(消化管潰瘍・癌:1ml 血液は 0.5mg の鉄 1 日に 3mL 以上の出血で吸収量を超え鉄欠乏になる) • 食事(胃切除やダイエット) 治療:鉄剤の経口投与では鉄過剰となることはない(ヘプシジ ンがブロック)。2・3価の陽イオンと錯体を形成するセフジ ニル、テトラサイクリン、ニューキノロンは同時投与不可。胃 粘膜刺激症状や未吸収の鉄による便の黒色化。3 日後から網赤 血球数の増加(2 ヶ月で Hb 回復)Hb 値回復後も体内貯蔵鉄を 充足するために更に 3 ヶ月投与を継続(フェリチンが正常化す るまで) 【ヘモクロマトーシス】 組織鉄過剰蓄積による。遺伝性はまれで、多くは医源性(輸血 や静注鉄過剰投与:輸血 20 単位以上) 症状:肝腫大・線維化・肝硬変、膵β細胞への鉄沈着 による糖尿病、心筋障害(心不全や不整脈)皮膚着色 治療:遺伝性は瀉血。医原性は鉄キレート療法(デフェラシロ クス:便中排泄) 【巨赤芽球性貧血】 核の成熟障害により巨赤芽球、巨大後骨髄球,過分葉好中球な どの形態異常 ●ビタミン B12 欠乏:食事性(菜食主義者)、胃粘膜から分泌 される内因子欠乏:悪性貧血、胃切除後、吸収不良症候群:ス プルー、小腸切除:肝に4年分 ●葉酸欠乏:アルコール中毒者、吸収不良症候群、薬物性(核 酸代謝阻害剤 MTX、抗てんかん薬)4 か月分 症状:貧血、白血球・血小板減少、神経症状(VitB12 欠乏の み:髄鞘の合成阻害(脊髄後索と側索)から四肢の知覚異常, 振動覚・位置覚などの深部知覚異常 治療:Vit.B12 欠乏に葉酸は禁忌(神経症状を悪化!) 。Vit.B12 経口投与でも大量ですれば筋注でなくてもOK 【溶血性貧血】 赤血球膜の障害のために溶血する: 自己免疫性溶血性貧血:直接クームス試験は赤血球に付着して いる抗体、間接クームス試験は血液中の抗体 発作性夜間ヘモグロビン尿症(後天性に血球表面の補体制御因 子欠損:補体感受性亢進で血管内溶血)補体 C5 に対するモノ クローナル抗体エクリズマブ 赤血球膜の先天性異常(管外溶血で脾臓摘出が有効) 薬物誘発性:Rh 抗原に対する 自己抗体や安定なハプテン 検査:LDH,間接ビリルビン増加、ハプトグロビン低下 【腎性貧血】 腎萎縮で腎尿細管周囲細胞で産生されるエリスロポエチン (EPO)合成が低下するためおきる 【顆粒球減少症 agranulocytosis】 • 末梢血中の顆粒球数が 1,500/μL 以下で易感染性:顆粒球< 1,000/μL 以下での発熱= 発熱性好中球減少症:<500/μL 以 下は入院して顆粒球コロニー刺激因子(レノグラスチム、フィ ルグラスチム、ナルトグラスチム)で治療 原因:●薬物誘発性:直接的骨髄毒性(抗がん剤) ●アレルギー性:抗甲状腺薬(プロピルチオウラシル)、鎮痛・ 解熱薬、抗精神病薬(クロザピン) 、チクロピジン ●感染症に合併●先天性●自己免疫疾患に合併 症状:発熱、悪寒、全身倦怠感:咽頭痛、口内炎、口腔内壊死 性潰瘍: 頸部リンパ節腫脹:肛門周囲炎 【白血病 leukemia】 骨髄性前駆細胞に遺伝子異常が生じたクローンが分化能を失 い、幼若な芽球 blast(白血病細胞)として無制限に増殖する。 – 急性リンパ性 acute lymphocytic L (ALL) – 急性骨髄性 acute myeloblastic L (AML) – 慢性骨髄性 chronic myelocytic L (CML) – 慢性リンパ性 chronic lymphocytic L (CLL) 症状:●正常骨髄の減少:貧血症状:動悸,息切れ,倦怠感,顔 面蒼白:発熱(顆粒球減少による感染症):出血症状:血小板 減少による点状出血、紫斑、DIC ●末梢白血病細胞による循環障害:Leukostasis: 白血病細胞 >50,000/mm3 で血栓症(呼吸困難、脳梗塞) :緊急事態など ●腫瘍細胞の髄外浸潤:脾腫、肝腫大、リンパ節腫大、中枢神 経症状(髄膜浸潤9、歯肉増殖、骨痛、睾丸浸潤 検査:骨髄穿刺と細胞検査:骨髄有核細胞数の> 20%が白血病 細胞、形態的分類(FAB 分類) 、表面抗原による分類、染色体異 常、遺伝子診断 【急性骨髄性白血病(AML)】 成人の急性白血病の 80%,10 万人に3人:5年無病生存率 28- 44% 骨髄芽球が末梢血、骨髄に増殖:ペルオキシダーゼ染色(>3%) 陽性、染色体の転座,染色体の欠失,点突然変異があり予後に 関係する 治療:●導入療法で完全寛解(CR:complete remission:形態 学的に白血病細胞が消失し、正常の造血機能が回復しているが 体内には 100 億個の白血病細胞残存:シタラビン(AraC キロ サイド)とイダルビシン(イダマイシン)またはダウノルビシ ン(ダウノマイシン)の 2 剤併用療法:完全寛解率 80% ●地固め・維持療法で,残存白血病を根絶する:total cell kill 理論:Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG) 【急性前骨髄球性白血病(APL)】 骨髄性白血病の 10%、アウエル顆粒中の凝固刺激物質が治療に より腫瘍細胞が破壊されると DIC がおきて出血: ●15 番と 17 番染色体間の相互転座により PML/RARα融合遺 伝子が形成:レチノイン酸に対する親和性が低い蛋白なので分 化抑制因子が翻訳調節領域にとどまり白血球の分化を抑制(癌 化) ●高用量の全トランスレチノイン酸は親和性低下に打ち勝っ て白血球分化を正常に回復させる:トレチノイン(all-trans retinoic acid: ATRA)の分化誘導療法により 70-90%の完全寛 解 ●レチノイン酸症候群:40%におき、発熱,呼吸困難,胸水貯 留,肺浸潤,間質性肺炎,肺うっ血,心嚢液貯留,低酸素血症, 低血圧,肝不全,腎不全,多臓器不全:治療は ATRA1時中止 とステロイドパルス療法 ●三酸化ヒ素(亜ヒ酸、As2O3):レチノイン酸治療後再発に 90%の寛解率:高濃度でフリーラジカルで癌細胞を傷害、低濃 度 で PML-RAR α 融 合 蛋 白 を ユ ビ キ チ ン 様 タ ン パ ク 質 (SUMO)と結合させ分解する:心電図の QT 時間が延長 【急性リンパ性白血病(ALL) 】 小児白血病の 80%:10 才以下に多い、小児癌の 1/3、5 年後の EFS(event-free survival) 88% 標準的治療:• ●寛解導入療法(強力な化学療法で 100%の患 者を寛解に導入:プレドニゾロン(PDL)、ビンクリスチン (VCR),L-アスパラギナーゼ、アントラサイクリン系抗癌剤 の4剤 ●中枢神経系白血病予防:髄膜に残存する腫瘍細胞攻撃(頭蓋 への放射線照射、腰椎穿刺による MTX、 Ara-C 投与、副腎皮質ステロイドの髄腔内投与(髄注),MTX (メトトレキサート)大量療法 •●強化療法(寛解療法で残存した白血病細胞を減少させる: シクロホスファミド(CPA),シトシンアラビノシド(Ara-C) , 6-メルカプトプリン(6-MP) ●維持療法(少数の残存する白血病細胞を死滅:MTX と6-MP の経口投与、総治療期間は2年間 【慢性骨髄性白血病(CML) 】 10 万人に1人、成人の白血病の 20%:第9番と第 22 番染色体 の相互転座の結果生じるフィラデルフィア(Ph)染色体上に形 成される BCR-ABL 融合遺伝子が BCR-ABL 蛋白(チロシンキ ナーゼ)が産生して増殖分化。 症状:– 全身倦怠感,食思不振,体重減少,腹部膨満感,脾腫: 無症状で健康診断時に白血球増加や血小板増加で発見される ことも多い 検査:未分化な芽球、各成熟段階の顆粒球で白血球増加、好酸 球・好塩基球・血小板増加:好中球アルカリホスファターゼ (NAP)陽性率低値:軽度の貧血、ビタミン B12 高値 病期:慢性期3年、移行期3ヶ月、急性(芽球転化)2ヶ月 慢性期の治療:●チロシンキナーゼ阻害薬(キナーゼポケット に ATP が結合するのを阻害:イマチニブ)で血液学的な完全 寛解 95%,細胞遺伝学的完全寛解(Ph 染色体の消失)79% 10 年生存率 90%:第 2 世代薬:ダサチニブ、ニロチニブ:副作用 は白血球減少、血小板減少、貧血、血清リン低下、血糖値上昇、 血清カリウム減少●造血幹細胞移植(HLA 抗原適合の 55 歳以 下)●以前はインターフェロンαやヒドロキシウレア●免疫に よる根治 PEG-IFN 併用や BCR-ABL ペプチドワクチン 【骨髄異形成症候群 myelodysplastic syndromes(MDS)】 造血幹細胞の遺伝子異常で、血球形態異常(異形成),無効造 血,血球減少になる:芽球比率は急性白血病より低いが経過中 に芽球比率が増加し急性白血病に移行しやすい。 【再生不良性貧血(aplastic anemia)】 造血幹細胞に対する免疫学的な障害から骨髄の 低形成と汎血球減少になる。 治療:軽症ではシクロスポリン、重症例では抗胸腺細胞グロブ リン(ATG:anti-thymocyte globulin) 【真性多血症 polycythemia vera】 血液中の赤血球数および循環血液量の絶対的増加(JAK2 キナ ーゼに関わる遺伝子の変異(97%に JAK2V617F)によるエリ スロポエチン受容体の異常が原因)して血液の粘度が高まる (Ht が 55%から急激に増す)ことで頭痛、めまい、ほてり、 かゆみ、高血圧、血栓症、肝脾腫。血小板数が 150 万/μl を超 えた場合はヴォン・ヴィレブランド因子が消費されて減少し易 出血傾向。治療は Ht を 45%以下にコントロールする瀉血。 JAK2 阻害薬 ruxolitinib は不十分。 【本態性血小板増多症】 血小 板数が 45 万/μl 以上 で巨核 球の増 殖(半数 の患者 で JAK2V617F 変異遺伝子)で巨大血小板や異常な凝集も。白血 病に進展しない。アナグレリド(cAMP ホスホジエステラーゼ III 阻害剤)で血小板治療(心毒性) 【多発性骨髄腫 multiple myeloma MM】 免疫グロブリンの単クローン増殖(M 蛋白)で高齢者に多く、 CRAB(Ca, Renal Failure, Anemia, Bone)の症状がどれか あるもの。症状がないのは単クローン性ガンマグロブリン血症 MGUS(前癌病変で年 1%が MM になる) 。尿にベンスジョーン ズ蛋白(BJP)、アルブミン低い・β2ミクログロブリン高い 場合は悪性。 治療:プロテアソーム阻害薬ボルテゾミブで導入して骨髄移植。 サリドマイドやその誘導体のレナリドミド(静脈血栓の副作 用) 、メルファラン。 【悪性リンパ腫】 Hodgkin(ホジキン)リンパ腫(5%)(予後良い:B細胞由来) :早 期(I,Ⅱ期) 放射線療法+化学療法:Ⅲ,Ⅳ期 ABVD 療法 (アド リアマイシン(ドキソルビシン)、ブレオマイシン、ビンブラ スチン、ダカルバジン)。キメラ型抗 CD30 抗体 brentuximab vedotin 非 Hodgkin リンパ腫(95%):成熟 B 細胞腫瘍 70%と成熟 T/NK 細胞腫瘍 25%(予後悪 い):抗 CD20 抗体リツ キシマブに 「CHOP 療法」 シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビン クリスチン、プレドニゾロンで 40-80%治癒。B細胞にはBT K阻害薬 iburutinib。抗 CD20 抗体オファツムマブ 【特発性血小板減少性紫斑病(ITP)】 血小板に対する自己抗体により脾臓で血小板が破壊されるた めに、血小板の数が減る。HIV,HCV,ピロリ菌、セフェム、サ ルファ剤、バンコマイシン、キニジンが原因のこともある。血 小板 3 万以上あれば治療が必要になるのは 15%以下なので観察 可。 症状:点状や斑状の皮膚にみられる出血、口腔粘膜出血、鼻血 治療:ステロイドで 1/4 は改善。緊急時にはガンマグロブリン 大量。トロンボポエチンアナログ(ロミプロスチム、エルトロ ンボパグ)やリツキシマブ、モフェチル酸、脾摘も有効。 【血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)】 ADAMTS13 への自己抗体で von Willebrand 因子(vWF)が切ら れないので内皮細胞で vWF が長くなり、血小板による血栓が 多発する。血小板減少、溶血性貧血(赤血球がヘルメット形)、 微小血管内血小板血栓(痙攣、不眠、腹痛、嘔吐など)の症状 で治療しなければ死亡率 90%。血漿交換で治療しても 10%死亡 する。血漿注入で ADAMTS13 補充するのも有効。 【溶血性尿毒症症候群(HUS)】 TTP と似ているが、血管内皮障害から血栓ができ、溶血性貧血、 血小板減少、腎障害の症状が小児に多く見られる。90%は下痢 を伴う O157 等の病原性大腸菌の志賀毒素による。10%は下痢 を伴わない、補体活性化制御因子の遺伝子異常である非定型 aHUS で致死率が 25%。成人の HUS は血漿交換で治療。 sHUS は補体 C5 に対するモノクローナル抗体エクリズマブが有効。 【ヘパリン起因性血小板減少症HIT】 ヘパリン治療の 1%に 5 日後におきる血栓症による血小板減少 で、血小板第4因子に対する自己抗体が原因。ヘパリン中止す るが抗凝固にワーファリンを使うとプロテンC低下するので 悪化する。アルガトロバン使う。 【深部静脈血栓症 Deep vein thrombosis】 先天性凝固異常、手術、出産、外傷、癌、長期臥床が誘因とな って下肢・骨盤内の深部静脈に血栓が生じ(深部静脈血栓症)、 血栓が遊離して静脈血流によって肺に運ばれ、肺血栓塞栓症を おこす危険がある。下肢の腫脹、圧痛、発赤がおき、肺血栓塞 栓症になると突然の呼吸困難、胸痛、失神がおきる。治療は抗 凝固療法(ヘパリン、ワーファリン)で、重症例には血栓溶解 療法や下大静脈フィルターをカテーテルで設置する。 【血友病 Hemophilia】 伴性劣性遺伝で、男子出生 1 万人に約 1 人。血友病 A は第 VIII 因子の、血友病 B は 第 IX 因子の欠損あるいは活性低下による (5対1)。深部出血(関節内や筋肉内で内出血)は進行する と変形や拘縮になる。頭蓋内出血では死亡。補充療法は欠損因 子の活性が 20%以上になる程度にする。軽症の血友病 A には デスモプレシンで血管内皮からの第8因子の放出で治療。アス ピリンなどの NSAIDs は禁忌。 【フォン・ウィルブランド病(Von Willebrand) 】 von Willebrand 因子の常染色体優性遺伝で 1%の頻度(重症に は劣性遺伝も) 。vWF 濃度はエストロゲン、ストレス、運動、 炎症、出血で変動するので診断には繰り返し測定する。症状は 紫斑、鼻出血、歯肉出血、粘膜出血などの表在性の出血で、血 小板の粘着障害が主で、第8因子の不安定化による低下からの 血友病の症状は稀。軽症にはデスモプレシンで血管内皮からの 第8因子の放出で治療。 【 播 種 性 血 管 内 凝 固 症 候 群 disseminated intravascular coagulation DIC】 癌・白血病・敗血症が原因の 3/4 で、全身血管内での持続性の 凝固活性化により微小血栓・微小塞栓が多発し(虚血性臓器障 害) 、凝固因子・血小板が使い果たされ(消費性凝固障害)、線 溶系活性化による出血がおきる。フィブリノゲン↓・FDP fibrinogen degradation products↑・ D-ダイマー↑・血小板数低 下。治療は抗凝固薬(ヘパリン)で著しい凝固活性化を阻止す る。トロンボモジュリン製剤や活性化プロティンC
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