超高感度 HBs 抗原の測定ができるようになりました HBs 抗原とは、 「B型肝炎ウイルス(HBV)」の表面にある殻のようなもので、その殻を抗 原と言います。B型肝炎ウイルスは、ウイルスの核となる芯の外側を覆うようにHBs 抗原 に包まれる形で存在しています。その為、B型肝炎への感染を確認する際には、その外側 の殻に当たる HBs 抗原の存在を確認します。一般に、HBs 抗原の測定方法として検出感 度は CLIA 法>EIA 法>イムノクロマト法凝集法の順で低下します。 今回、新たに超高感度の HBs 抗原が測定できるようになったので考察してみます。 HBs 抗原は HBV に感染しているかどうか?として測定される以外に、HBV 増殖の目 安として HBV 感染者の治療中、もしくは未治療患者の経過観察の場面で測定されます1)。 平成 25 年 9 月に公表された日本肝臓学会編纂の「B 型肝炎治療ガイドライン第 1.2 版」 2) においては、HBV 持続感染者に対する抗ウイルス療法の治療目標として「肝炎の活動 性と肝線維化進展の抑制による慢性肝不全の回避ならびに肝細胞癌発生の抑止、およびそ れによる生命予後ならびに QOL の改善」を掲げており、この最終目標を達成するために最 も有用な surrogatemarker(診断・治療行為,薬効等の最終評価との関連を科学的に証明 できるマーカーのこと) は HBs 抗原であり、抗ウイルス療法の長期目標は「HBs 抗原消 失」と設定しています。この点でも経過観察中の HBs 抗原量の変動を把握することは重要 です。HBV キャリアにおける病期の進展予測については、古くは HBe 抗原のセロコンバ ージョンが重要な指標として用いられてきましたが、HBV DNA 量が高感度かつ広範囲に 測定できるようになった今日では、より正確な指標として HBV DNA 量の減少が病期進展 および肝炎鎮静化の指標として用いられるようになりました3)。しかし HBV DNA 量は急 性増悪などに連動して短期間に大きく増減するため、数か月単位の病勢の判断をするのに は不向きです。そこで、注目されているのが HBs 抗原量です。HBs 抗原量は HBV DNA 量 と同様に病期の進展および肝炎の鎮静化とともに低下しますが、その過程で HBV DNA 量 に比べれば一過性の大きな増減も少ないことから、数か月以上の治療予測に有用です。HBs 抗原の消失(セロコンバージョン)は HBV キャリアの診療においてのゴールと考えられ、 HBs 抗原の陰性化はその後の肝がん発症リスクが劇的に低下し、また、HBs 抗原量と肝線 維化や組織学的肝障害の関連についても多くの評価する報告があります 3)。また、近年、 HBs 抗原量を用いた Peg-IFN や 核酸アナログ製剤の治療効予測についても有用であるこ とが解ってきました3)。近年、ますます HBs 抗原測定の有用性が増してきたときに登場し たのが超高感度 HBs 抗原測定です。2 種類の会社が開発しました。 富士レビオ社の「ルミパルス HBsAg-HQ」)は変性剤などを用いて前処理を行うことで HBs 抗原・抗体コンプレックスを乖離させるとともに、a 抗原とは別の内側に存在する抗 原決定基もその特異的抗体により捕捉することが可能であり、高感度化を達成しています。 これにより escape 変異*注などの a 抗原領域の変異に関わらず HBs 抗原が測定可能とな り、偽陰性の発生リスクが低減しています。測定原理は CLEIA 法で、測定範囲は 0.005-150 IUmL です3)。栄研化学社の「BLEIA 栄研 HBs 抗原」は、検出系の酵素活性の測定に新 技術である生物発光(BLEIA 法)を利用することで高感度化を達成しています。測定範囲 は 0.005-100 IUmL です3)。通常使用されるなかで最も高感度とされる HBs 抗原の陽性限 界が 0.05 IUml なので約10倍の感度です。さて、この測定感度の改善を臨床にどのよう に活かすことができるでしょうか?。 残念ながら現状では 0.05 から 0.005 IUmL までの濃度域が測定できるようになったこと による臨床的な意義は今のところ不明とされています3)。HBV キャリアのスクリーニング や B 型慢性肝炎の診療において、既存の測定法の感度(約 0.05 IUmL)でも特に支障はな いからです。しかし、de novo B 型肝炎のハイリスク症例の一部は、高感度化された HBs 抗 原測定系を用いれば HBs 抗原低値陽性例として捉えうる可能性があります。 また、HBV 再 活性化のモニタリングには HBV DNA 定量検査を用いることになっていますが 2 )、 HBVDNA 定量検査は高額な検査であり、また検査報告まで数日~1 週間程度を要すると いう課題があり、高感度化された HBs 抗原測定が HBVDNA 検査と同等の感度を有して いれば、とって替わることになるでしょう3)。 高感度な測定系を採用する施設では検体の取り扱いには十分な注意が必要でしょう。免 疫寛容期にある HBV キャリアの HBs 抗原量は 105 IUmL を超えるほど高濃度であり、こ ような検体が一定の頻度で臨床検査室の血清検体の中に混在していることを考慮すると偽 陽性の確率も高くなります3)。 病院全体で測定に供される HBs 抗原検査のうち、大部分は入院時や手術前内視鏡前など のいわゆるスクリーニング検査であると推計され、偽陽性も考えると一般医が高感度測定 をする必要はないものと考えられ、超高感度の HBs 抗原測定は B 型慢性肝炎の病態把握を したり、de novo 肝炎の対応をする肝臓専門医が適正に検査をすることでその真価を発揮 することでしょう。 平成26年8月1日 *注:escape 変異:HBs 抗原のある特定部位のアミノ酸変異により、試薬キットで使用し ている抗体が HBs 抗原を認識できず偽陰性を呈すること4)。 参考文献 1 ) HBs 抗原陰性、HBs 抗体陰性で HBc 抗体のみ陽性 http://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa38.pdf 2 )朝比奈 靖浩ら : B 型肝炎治療ガイドライン. (第 1.1 版) 2013 年 5 月 日本肝臓学 会 肝炎診療ガイドラン作成委員会 3 ) 西口 修平:HBs 抗原の測定法と臨床的意義. 肝臓 2014 : 55 : 310 – 324 . 4)松田 親史ら:S 領域の変異株による HBs 抗原(EIA 法)偽陰性の 1 例と HBs 抗 原関連試薬の反応性 . 感染症誌 2011 : 85 : 21 – 25 . .
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