数学入門 II 講義ノート 内藤敏機 2014 3 目次 第 1 章 ベクトル,行列 1.1 ベクトルの定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.1.1 日常生活における1例 . . . . . . . . . . . . . . 1.1.2 行列とベクトルの表計算ソフトによる計算法I 1.1.3 形式的な定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.2 平面ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.2.1 有向線分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.2.2 位置ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.2.3 内積とベクトルのなす角 . . . . . . . . . . . . . 1.2.4 平面曲線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.3 空間図形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.3.1 有向線分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.3.2 空間曲線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 第2章 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 連立方程式の解法 係数行列, 拡大係数行列 . . . . . . . . . 拡大係数行列の基本変形 . . . . . . . . 簡約行列 (ガウス・ジョルダン 標準形) 表計算ソフトによる掃きだし法計算 . . 連立1次方程式の解と行列の階数 . . . 線形性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 解空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 第3章 3.1 3.2 3.3 3.4 逆行列 行列の積,和,スカラー倍 . . . 逆行列 . . . . . . . . . . . . . . 逆行列の可換性 . . . . . . . . . 逆行列の掃きだし法による計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 5 5 9 16 22 22 25 29 32 36 36 38 . . . . . . . 43 43 46 49 54 59 63 65 . . . . 71 71 77 79 82 4 第4章 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 4.6 4.7 行列式 2次の行列式 . . . . . . . . . . . . 3次の行列式 . . . . . . . . . . . . 余因子行列と逆行列 . . . . . . . . 3次の行列式の諸性質と正則性条件 4次以上の行列式 . . . . . . . . . . 3 次,4次以上の行列式の展開 . . . 行列式の計算 . . . . . . . . . . . . 第5章 5.1 5.2 5.3 行列式と産業連関表 127 産業連関表 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 127 均等付加価値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 134 固有値と固有ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 137 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 89 89 96 102 108 111 115 122 5 第1章 1.1 1.1.1 ベクトル,行列 ベクトルの定義 日常生活における1例 足したり、引いたり、あるいは何倍かできるいくつかの同種の量をま とめて取り扱うとき、ベクトル量として扱うという。 いくつかの店舗の売上・利益の管理を行うことを考える。この店は、3 つの店舗 A 店・B 店・C 店をもち、それぞれで4つの商品 a, b, c, d を扱っ ている。各商品の仕入れ値はそれぞれ 900 円, 750 円, 650 円, 1000 円 で あり、売値はそれぞれ 1250 円, 1150 円, 1050 円, 1350 円 である。 ある日に売れた商品の個数は以下の表のようであった。 売れた個数 (個) 店舗 \ 製品 a b c A B C 10 5 13 2 18 3 d 3 15 1 21 5 30 この日の各店舗ごとに商品の売れた個数を合計すると A 10 + 5 + 3 + 15 = 33 B 13 + 2 + 1 + 21 = 37 C 18 + 3 + 5 + 18 = 46 この計算を次のような表を用いて表す. 33 15 3 5 10 13 + 2 + 1 + 21 = 37 46 18 5 3 18 第1章 6 ベクトル,行列 また、商品 a に注目し、この売上金額を、店舗ごとに求めれば、 A 1250 × 10 = 12500 B 1250 × 13 = 16250 C 1250 × 18 = 22500 この計算を次のようにあらわす. 12500 10 1250 13 = 16250 18 22500 である。同様に残りの商品 の売上金額を b, c, d の順に求めると 5 5750 3 3150 1150 2 = 2300 , 1050 1 = 1050 , 3 3450 5 5250 15 20250 1350 21 = 28350 30 40500 売上金額の各店舗ごとの合計金額も求めて次の表ができる. 店舗 \ 製品 A B C 売り上げ金額 (円) a b c 12500 5750 16250 2300 22500 3450 d 3150 20250 1050 28350 5250 40500 合計 41650 47950 71700 この各店舗ごとの合計計算は次のように表される. 15 3 5 10 1250 13 + 1150 2 + 1050 1 + 1350 21 30 5 3 18 41650 20250 3150 5750 12500 = 16250 + 2300 + 1050 + 28350 = 47950 71700 40500 5250 3450 22500 1.1. ベクトルの定義 7 この計算を次のようにあらわすこととする. 1250 10 5 3 15 10 5 3 15 1150 = 1250 13 +1150 2 +1050 1 +1350 21 13 2 1 21 1050 18 3 5 30 18 3 5 30 1350 (1.1) 仕入れ金額についても,同様に計算して次の表ができる. 店舗 \ 製品 A B C 仕入れ値の金額 (円) a b c 9000 3750 11700 1500 16200 2250 d 合計 1950 15000 29700 650 21000 34850 3250 30000 51700 問 1.1.1 仕入れ金額の表を作る計算を実行せよ. 4商品について売り上げ金額から仕入れ金額をそれぞれ引き,利益金 の次のような表ができる. 店舗 \ 製品 a A B C 3500 4550 6300 利益 (円) b c 2000 800 1200 d 1200 5250 400 7350 2000 10500 合計 11950 13100 20000 となる。この表を作る計算を次のように表す. 12500 5750 3150 20250 41650 9000 3750 1950 15000 29700 16250 2300 1050 28350 47950 − 11700 1500 650 21000 34850 22500 3450 5250 40500 71700 16200 2250 3250 30000 51700 3500 2000 1200 5250 11950 = 4550 800 400 7350 13100 (1.2) 6300 1200 2000 10500 20000 ここに出てきたように、数字や文字を縦に1列に並べて括弧で括って できる数表を列ベクトルといい、数字や文字を横に1列に並べて括弧で 括ってできる数表を行ベクトルという。このベクトルの中に並んでいる 第1章 8 ベクトル,行列 数字や文字を各ベクトルの成分 と言う。列ベクトルや行ベクトルに何個 の成分があるかによって、それらのベクトルの次数がきまり、例えば、商 3500 品 a による利益を表す 4550 は3次の列ベクトルといい,また A 店 6300 舗の利益を表す [ ] 3500 2000 1200 5250 11950 は、5次の行ベクトルという。また、売り上げ金額の表のように縦横に 数字や文字を並べて括弧で括った数表を行列といい、縦に並んでる数字 や文字の個数と、横に並んだ数字や文字の個数によって、その行列の次 数が決まる。この例の売り上げ金額の表を行列で表したもの 12500 5750 3150 20250 41650 16250 2300 1050 28350 47950 22500 3450 5250 40500 71700 は3行5列の行列または 3 × 5 行列という。ベクトルは、行列の中で、縦 の行または横の列が1つしかない特別な場合とも考えられる。 同じ次数の行列どうしの足し算や、引き算は (1.2) のように同じ位置に ある対応する成分同士の計算で簡単に得られる。行列と列ベクトルの積 は (1.1) のように計算する.また後の章で行列と行列の積も定義される. 行列やベクトルは単なる数表ではなくて,その間の計算も考える数表で ある. 問 1.1.2 つぎの a, b, c に対して 120 50 a= b= 50 10 180 80 70 18 c= 200 90 80 25 次の計算をせよ. (1) 2a + b + c 解 (2) a + 3b + 2c 620 270 (1) 2a + b + c = 250 63 (3) − a + 2b + 3c (4) 3a − b + 4c 1060 470 (2) a + 3b + 2c = 420 114 1.1. ベクトルの定義 9 840 380 (3) − a + 2b + 3c = 330 101 980 430 (4) 3a − b + 4c = 400 112 問 1.1.3 次の積を計算せよ。 ] [ ] [ ] 3 4 −2 [ [ ] 1 −1 2 1 −2 (3) (1) 3 2 3 1 (2) 1 3 −3 3 2 −1 −2 1 2 4 3 5 1 (4) 2 1 −1 0 −3 −4 1 0 4 3 5 0 (5) 2 1 −1 1 −3 −4 1 0 解 [ (1) 1.1.2 6 9 ] −14 (2) 7 7 (3) [−3] 4 (4) 2 −3 3 (5) 1 −4 行列とベクトルの表計算ソフトによる計算法I ベクトルや行列の演算法則は表計算ソフトでの計算と対応している.た とえば Excel を使用してみよう.ベクトル,行列のある成分における計 算法を他の成分にも当て嵌めることを理解しよう. 予備知識 • まず Excel を起動する.その結果縦横に升目が並んでいる. それぞれ の升目をセルという.セルは左から,A, B, C, · · · , 上から 1, 2, 3, · · · , のように名前をつけて,位置を表す.一番左で一番上のセルは A1 セル,その右のセルは B1 セル,のように表す. また A1 セルの下 のセルは A2 セルである.セルの番地という.先に列を指定し,次 に行を指定する.行列の成分は先に行番号,次に列番号で指定する から,エクセルとは逆の指定順序である. 第1章 10 ベクトル,行列 • セルに文字や数を記入できる.また数式も記入できる.数式は = で 始める1 . たとえば A1 セルに = 4 + 2 と記入し enter key をおすと,6 が表示される. A2 セルに = 4 − 2 と記入し enter key をおすと,2 が表示される. A3 セルに = 4 ∗ 2 と記入し enter key をおすと,8 が表示される. A4 セルに = 4/2 と記入し enter key をおすと,2 が表示される. 足し算記号には + を用い, 引き算記号には − を用い, 掛け算記号には ∗ を用い, 割り算記号には / を用いる. • A5 セルに = 2/3 と記入し enter key をおすと,0.666667 が表示さ れる.この値を分数で表示したい場合は次のいずれかの操作をする. – Excel 画面(Work seet という)の上方にあるメニューバーの 「書式」をマウスで左クリックし,表れた画面の 「セル」をクリックし, 「セルの書式設定画面」の「表示形式」をクリックし, 「一覧表」の「分数」をクリックし, 最後に「OK」 をクリックすると, A5 セルの表示が 2/3 に変る.ただし仮分数は帯分数で表示さ れる.それを避けるには,次のように設定する. – 「表示形式」の「ユーザー定義」をクリックして,右枠内の 「種類」から「# ??/??」を選びこれを次のように書き換える: 「#?/???????」そして OK をクリックする.書き換えるとき, #記号の後にある余白を消すことを忘れないようにする. – ワークシートの列を表す文字,例えば A,B,C をマウスドラッ グで選択して,上のセルの書式変更の操作をすれば,A,B,C 列全体が分数表示される. ただし − で始まる式も数式となるようである.例えば −a + 2b と記入すると警告 文がでる.この式を普通の文にするには ′ − a + 2b と記入しなさいと警告文は言う 1 1.1. ベクトルの定義 11 – A6 セルに 0 を記入しつづけてキーボードの space bar を押し, さらにつづけて 2/3 と記入して enter key を押すと, A6 セル に 2/3 が表示される. • 列幅の調整 記入される数値の桁数に応じて列幅を縮小拡大する場 合は次のように設定しておくと,自動的に調整される.ワークシー トの列を表す文字,例えば A,B,C をマウスドラッグで選択して, 「書 式」を選択し「列」そして「選択範囲に合わせる」をクリックする. • コピーと貼り付け セルに記入された文字や数式は他のセルに写す ことができる.その場合「何を」「どこに」写すか指定する.まず 写す元のセル例えば A1 をクリックしてメニュウボードから「編集」 を選び「コピー」を選択すると A1 セルが破線枠で囲まれた状態に なり,この操作により A1 の内容が一旦「クリップボード」と呼ば れる計算機内のあるところに収納される.次に写したい先のセル, たとえば B2 をクリックして,メニューボードから「編集」を選び, 「貼り付け」を選択すると(クリップボードにある)A1 セルの内容 が B2 セルに写される. ベクトルの計算たとえば,次の a, b の和 a + b と 2a + 3b を計算する. 120 180 50 80 a= b= 50 70 10 18 まず excel のセルに a, b の成分等を記入する.たとえば 1 2 3 4 5 A B a b 120 180 50 80 50 70 10 18 C D a+b 2a+3b I) C2 セルにポインタを移動すると,C2 セルが太い黒枠で囲まれこ のセルが起動状態 (active sell) になる.その状態で C2 セルに = A2 + B2 (1.3) 第1章 12 ベクトル,行列 と書き込み Enter key をおす.その結果 C2 セルには計算結果の 300 が表 示される. 式 (1.3) を書くには, i) その通り key board から打ち込むか, ii) あるいはつぎのようにする.C2 セルをクリックして = を記入し, A2 セルをマウスで左クリックすると C2 セルの表示が = A2 にかわる. さらに C2 に + を追加記入する. B2 セルをマウスで左クリックすると C2 セルの表示が = A2 + B2 に 変わる. その後で Enter key を C2 セルには計算結果の 300 が表示される. iii) i),ii) の記入を C2 セルで行う代わりに,C2 セルを active セルにし てから,セル一覧表のすぐ上の行にある長い f x 欄に = A2 + B2 と記 入して Enter key を押すと C2 セルに計算結果の 300 が表示される. II) I) で C2 セルに記入した計算式を C3, C4, C5 セルにコピーする. こうして C2 セルにおける計算法を他のセルにも当て嵌めることができ る.その方法は次の二通りがある. i) C2 セルを active にしてから,excel 画面情報の編集を左クリックし てコピーをクリックする.その結果 C2 セルが破線の枠でかこまれる.C2 セルにポインタを移動させて,マウスの左ボタンをおしながら,ポイン タを C5 セルまで引っ張り(drow),Enter key をおす. その結果 C3 セルには 130,C4 セルには 120,C3 セルには 28 が表示され る.その後でたとえば C3 セルにポインタを移動すると,上の fx 欄には = A3 + B3 と表示される.つまり C3 セルに C2 セルの計算式がコピー されたことをあらわす.ただし,行番号は自動的に 2 から 3 に変わる. ii) C2 セルを active にしてから,C2 を囲む太枠右下の ■ のポインタを 合わせ,マウスの左ボタンを押しながら,ポインタを C5 セルまで drow し,再度マウスで左クリックする. IV) 上の a, b に対して 2a + 3b を計算する.そのためには D2 セルに = 2 ∗ A2 + 3 ∗ B2 という式を記入し,その式を上と同様にして,D3, D4, D5 セルにコピー する. 1.1. ベクトルの定義 13 問 1.1.4 次のベクトル a, b, c に対して下記の計算をせよ. 12 −36 61 31 29 77 a= , b = , c = , −43 0 92 54 −57 −86 (1) a + b (2) a − b (3) a + b − c (4) − a + 2b + 3c (5) 5a − 4b + 7c 解 −24 60 (1) a + b = −43 −3 48 2 (2) a − b = −43 111 99 258 (4) − a + 2b + 3c = 319 −426 −85 −17 (3) a + b − c = −135 83 631 578 (5) 5a − 4b + 7c = 429 −104 行列とベクトルの積 たとえば 2 1 0 5 A = −3 −1 4 , x = −2 −4 5 6 −4 の積 Ax を計算する.まず excel のセルに A, x の成分を記入する.たと えば A B C D E 1 A x Ax 2 2 1 0 5 3 -3 -1 4 -2 4 -4 5 6 -4 5 のように記入しておく.A1 セルの A は行列の名前 A を指し,D1 セルの x はベクトルの名前 x を指し,E1 セルの Ax は積 Ax を指す.A2 セル から C3 セルに行列 A の成分を記入し,D2 セルから D4 セルにベクトル x の成分を記入してある. 第1章 14 ベクトル,行列 I) E2 セルに式 = A2 ∗ D$2 + B2 ∗ D$3 + C2 ∗ D$4 を記入する.直 接キーボードから打ち込んでもよいが,次のようにした方が間違いがす くない.まず E2 セルをクリックする.次に数式バー (fx と書いてある長 いバー)にポインタを合わせ,= を記入しさらに A2 セルをクリックす る.この結果数式バーに = A2 と記入される.さらに続けて数式バーに = A2∗ のように掛け算記号 ∗ を 追加し,続けて D2 セルをクリックする.その結果数式バーには = A2 ∗ D2 の式が記入される.続けて足し算記号 + を記入し,B2 セルをクリック し ∗ を記入し D3 セルをクリックする.さらに + を記入し,C2 セルをク リックし ∗ を記入し D4 セルをクリックする.その結果数式バーに = A2 ∗ D2 + B2 ∗ D3 + C2 ∗ D4 が記入された.さらに $ 記号を追加記入して = A2 ∗ D$2 + B2 ∗ D$3 + C2 ∗ D$4 とし,Enter キーを押す.その結果 E2 セルに計算結果の値 8 が記入さ れる. II) E2 セルの数式を E3,E4 セルにコピーする.つまり E2 セルにお ける計算法を E3,E4 セルにも当て嵌める.そのためには (i)E2 セルをクリックし, (ii) マウスの右ボタンをおし,コピーを選択する(あるいはメニュー バーのコピーをクリックする). (iii) E3,E4 セルを選択し, (iv) マウスに右ボタンをおし,貼り付けを選択する(あるいはメニュー バーの貼り付けをクリックする). (v) Enter キーを押すと,E 列に Ax の計算結果が表示される. • 上の操作 (iv) により E3 セルには数式 = A3 ∗ D$2 + B3 ∗ D$3 + C3 ∗ D$4 が記録されてその計算結果 3 が表示される.I) で記入した数式中のセル番地 A2, B2, C2 の部分が A3, B3, C3 に自動的に書き換えられる. また E4 セルには 数式 = A4 ∗ D$2 + B4 ∗ D$3 + C4 ∗ D$4 1.1. ベクトルの定義 15 が記録されてその計算結果 −6 が表示される.I) で記入した数式中のセル番地 A2, B2, C2 の部分が A4, B4, C4 に自動的に書き換えられる. つまり,A 列,B 列,C 列の行を表す番号が自動的に変更される.それに対して,D 列の行を表す 番号 2,3,4 は変化していない.これは番号の前に$ 記号をつけたことによる. も し I) においてこの記号をつけないで,D2, D3, D4 のままと記入し II) のコピー, 貼り付けを実行すると,E3 セルの数式は = A3 ∗ D3 + B3 ∗ D4 + C3 ∗ D5 と記録され,E4 セルの数式は = A4 ∗ D4 + B4 ∗ D5 + C4 ∗ D6 と記入され,D 列の行番号が自動的に書き換えられて,積 Ax の計算式にはなら ない. • 数式中でセル番地を引用する文字 A, B, C, · · · または 1, 2, 3, · · · に$ 記号をつけ ておけば,コピー,貼り付けをしてもその番号が変わらない,あるいは番号を固 定させる.これを数式中のセル番地の絶対参照形式という. ためしに上の Excel ワークシートの C5 セルに = A$2 と記入し,C5,C6 セルに コピー貼り付けると,C5,C6 セルの数式は数式バーに = A$2 と表示され C5, C6 セルには値 2 が表示される.D5,D6,D7 セルにコピー貼り付けると,数式バーに は = B$2 と表示され,セルに値 1 が表示される. また試しに C5 セルに = $A2 と記入し,D5,D6,D7 セルにコピー貼り付けると, D5 セルの数式は数式バーに = $A2 と表示され,D6 セルの数式は数式バーには = $A3 と表示され, D7 セルの数式は数式バーに = $A4 と表示され,値 2, −3, −4 が各セルに表示される. C5 セルに = $A$2 と記入し,C6,C7,D5,D6,D7 セルにコピー貼り付けると, C6,C7,D5, D6,D7 セルいずれも = $A$2 式になり,すべて値 2 が表示される. 色々試してみよ.なお数式バーにおいてセル番地をたとえば A2 と記入して F4 キーを押すと $A$2 に変わり, さらに F4 キーを押すと A$2 にかわり,さらに F4 キーを押すと $A2 にかわり,さらに F4 キーを押すと A2 にかわる.F4 キーを 押すごとに$ 記号の場所が移動する. 後の行列と行列の積の計算式でも同様の注意を要する. • 数式のコピー あるセル,例えば A2 セルに数式を記入すると,セルには数式その ものではなく,その計算結果である数値が表示される.A2 セルを他のセル例え ば B2 セルにコピーすると,数式がコピーされるのであり,表示されている数値 がコピーされるのではない.A2 の数式による計算結果の数値をそのまま B2 セ ルにコピーするには次のようにする.A2 セルをクリックして「編集」から「コ ピー」をクリックする.次に B2 セルをクリックして「編集」から「形式を選択 して貼り付け」をクリックし,表れる枠内の貼り付けの中の「値」の項に・印を つけ OK をクリックする. 問 1.1.5 次の積を計算せよ。 54 61 23 −44 15 61 23 −44 (1) 15 −74 −33 −28 (2) 15 −74 −33 −23 11 −87 54 35 33 −87 54 35 第1章 16 61 23 −44 −45 38 0 25 49 15 −74 −33 28 (4) 13 83 59 −25 −87 54 35 72 33 63 29 17 (3) 38 0 25 49 (5) 13 83 59 −25 33 63 29 17 −22 64 48 11 38 (6) 13 33 2 1 9 3 0 8 −3 4 2 5 5 3 −2 −3 (8) −4 5 −2 6 3 2 −7 4 −3 2 (7) 解 ベクトル,行列 32 95 −52 18 0 0 25 49 55 83 59 −25 26 63 29 17 −94 2 2 2 6 −3 −3 1 2 4 3 −2 7 3 5 −1181 2281 −5269 798 (1) 1208 (2) 2149 (3) −5123 (4) 4783 −1662 −5555 7947 5839 67 −24 903 −3956 50 −22 (5) 7583 (6) 8449 (7) 19 (8) −24 4885 2621 57 53 1.1.3 形式的な定義 列ベクトルと行ベクトル n 個の数 a1 , a2 , · · · , an の組を表すのに,横に並べて (a1 , a2 , · · · , an ) あるいは [a1 , a2 , · · · , an ] と表したときは,n 次の行ベクトルまたは横ベクトルといい,縦に並べて a1 a1 a a 2 2 あるいは ··· ··· an an 1.1. ベクトルの定義 17 と表したときは,n 次の列ベクトルまたは縦ベクトルという.以下では 主に列ベクトルを用いてベクトルの性質を解説するが,行ベクトルでも その性質は同様である. 通常 n 次の列ベクトルを全部集めてできる集合は,記号 Rn を用いて 表す.R は実数 (real numbers) 全体を表す記号である.Rn は実数の n 個 の組全体を表している. C は複素数 (complex numbers) 全体を表す記号である.Cn は複素数の n 個の組全体を表し,成分が複素数であるような n 次列ベクトルの集合 である.ただし本講義では複素ベクトルは扱わない. ベクトルの演算 ベクトル a= a1 a2 ··· an , b= b1 b2 ··· bn が与えられたとき,次のように定める. 相等 a = b ⇔ a1 = b1 , a2 = b2 , · · · , an = bn (成分の個数が違うベクト ルは比較しない. ) 和 a + b は成分毎の和であり,a − b は成分毎の差である. 実数倍(スカラー倍) k を実数とするとき,ka は a の各成分を k 倍 したベクトル. 内積 ⟨a, b⟩ = a1 b1 + a2 b2 + · · · + an bn (成分毎の積の和) (内積は a · b あるいは (a, b) という記号で表すこともある. ) 零ベクトル 成分がすべて零であるベクトルを 0 で表す. 逆ベクトル (−1)a を −a と表し,a の逆ベクトルという. 例 1.1.6 5 a = −4 , 3 2 b = 4 , −3 0 c = 2 , −1 ならば, ⟨a, b⟩ = 5 · 2 + (−4) · 4 + 3 · (−3) = 10 − 16 − 9 = −15 第1章 18 ベクトル,行列 ⟨a, c⟩ = 5 · 0 + (−4) · 2 + 3 · (−1) = 0 − 8 − 3 = −11 ⟨b, c⟩ = 2 · 0 + 4 · 2 + (−3) · (−1) = 0 + 8 + 3 = 11 問 1.1.7 下記のベクトル a, b, c に対して, ⟨a, b⟩, を計算せよ. a= 2 1 −2 3 ⟨a, c⟩, , b = ⟨b, c⟩, ⟨c, b⟩, −1 3 2 −4 , c = −2 0 1 −3 解 ⟨a, b⟩ = −15, ⟨a, c⟩ = −15 ⟨b, c⟩ = 16 ⟨c, b⟩ = 16 次の計算公式が成り立つ. (1) a + b = b + a (2) (a + b) + c = a + (b + c) (3) k(a + b) = ka + kb (4) (k + ℓ)a = ka + ℓa (5) (kℓ)a = k(ℓa) (6) 1a = a 内積については次の公式がなりたつ. (7) ⟨a, b⟩ = ⟨b, a⟩ (8) ⟨ka, ℓb⟩ = kℓ⟨a, b⟩ (9) ⟨a + b, c⟩ = ⟨a, c⟩ + ⟨b, c⟩ ⟨a, b + c⟩ = ⟨a, b⟩ + ⟨a, c⟩ (10) ⟨a, a⟩ ≥ 0, ⟨a, a⟩ = 0 ⇔ a = 0 ベクトルの大きさ a1 , a2 , · · · , an を成分とする n 次元ベクトル a に対 して √ |a| = a21 + a22 + · · · + a2n とおき,a の大きさまたは a のノルムという.次の公式が成り立つ. (11) |a| ≥ 0, |a| = 0 ⇔ a = 0 √ (12) |a| = ⟨a, a⟩ (13) |ka| = |k| |a| (k は実数, |k| は k の絶対値) 1.1. ベクトルの定義 例 1.1.8 19 −1 √ √ √ 2 = (−1)2 + 22 + 32 = 1 + 4 + 9 = 14 3 エクセルによる指数計算 例えば 210 を計算するには,あるセルに数式 =2^10 を記入し, enter key を押せば,そのセルに計算結果の 1024 が表示される. √ 同様に 2 を計算するには, =2^(1/2) と記入して,enter key を押せば,計算結果の 1.414213562 が表示される.この計算結果が 途中まで表示されているときは,セルの横幅がたりない.セルの横幅を 広げるには次のようにする.例えば A 列の幅を広げる場合はワークシー トの列番地を表す A, B の文字の間の縦線にポインタを当てながら,横に 引っ張れば枠が拡張する. 問 1.1.9 次のベクトルの大きさを求めよ. 3 [ ] −3 1 2 a= , b = 1 , c = , d = [2, 1, −3, 0] 0 −3 2 −1 解 (1) |a| = √ √ √ √ 13 (2) |b| = 14 (3) |c| = 11 (4) |d| = 14 内積とノルムに関して次の定理は基本的である. 高校までの数学で習う2次式に関する次の補題を使う. 補題 1.1.10 a, b, c が実数で a > 0 とする.このとき x の2次式 f (x) = ax2 + 2bx + c がすべての実数 x に対して f (x) > 0 である必要十分条件は ac − b2 > 0 である.またすべての実数 x に対して f (x) ≥ 0 であり,しかも f (x0 ) = 0 であるよう な x0 がある条件は ac − b2 = 0 である. 証明 2次式の基本変形を用いる: ( ) f (x) = a x2 + 2(b/a)x + (c/a) ( ) = a x2 + 2(b/a)x + (b/a)2 − (b/a)2 + (c/a) ( ) = a (x + b/a)2 + (ac − b2 )/a2 = a(x + b/a)2 + (ac − b2 )/a 第1章 20 ベクトル,行列 a(x + b/a)2 は x = −b/a で最小値 0 をとる.したがって f (x) は x = −b/a で最小値 (ac − b2 )/a をとる.すべての x に対して f (x) > 0 である条件はこの最小値が正, すな わち (ac − b2 )/a > 0 である.a > 0 であるから,ac − b2 > 0. また,ac − b2 = 0 なら ば,すべての x に対して f (x) ≥ 0 であり,x = −b/a のとき f (x) = 0. 定理 1.1.11 (コーシー・シュワルツの不等式) 任意のベクトル a, b に対 して |⟨a, b⟩| ≤ |a||b|, (1.4) 成分を用いて表せば, √ √ 2 2 2 |a1 b1 + a2 b2 + · · · + an bn | ≤ a1 + a2 + · · · + an b21 + b22 + · · · + b2n . このうち, |⟨a, b⟩| < |a||b| が成り立つのは,すべての k, ℓ に対して,b ̸= ka, a ̸= ℓb の場合であり, |⟨a, b⟩| = |a||b| が成り立つのは,ある k により b = ka と表されるか,またはある ℓ により a = ℓb と 表される場合である.また ⟨a, b⟩ = |a||b| (1.5) が成り立つのは b = ka, k ≥ 0 と表されるか,a = ℓb, ℓ ≥ 0 と表される場合である. 証明 a = 0 のときは,(1.4) の両辺は零であるから,(1.4) 式は等号と して成り立つ. a ̸= 0 とする.x を実数として, f (x) = |xa + b|2 (1.6) とおく.すべての実数 x に対して f (x) ≥ 0 である.ベクトルの大きさの 定義から,f (x) = ⟨xa + b, xa + b⟩ と書き変えられるが,内積の計算公式 を用いると, ⟨xa + b, xa + b⟩ = ⟨xa, xa⟩ + ⟨xa, b⟩ + ⟨b, xa⟩ + ⟨b, b⟩ = x2 ⟨a, a⟩ + x⟨a, b⟩ + x⟨b, a⟩ + ⟨b, b⟩ = x2 |a|2 + 2x⟨a, b⟩ + |b|2 |a|2 > 0 であるから,f (x) は x の2次式である.すべての x に対して f (x) ≥ 0 である条件は, 補題 1.1.10 により |a|2 |b|2 − (⟨a, b⟩)2 ≥ 0, 1.1. ベクトルの定義 21 即ち |a|2 |b|2 ≥ (⟨a, b⟩)2 が成り立ち, 平方根をとって (1.4) が成り立つ. |a|2 |b|2 > (⟨a, b⟩)2 の場合は,|a|2 |b|2 > 0 となるから,a ̸= 0 かつ b ̸= 0 である. (1.6) の f (x) を考えると,すべての x にたいして,f (x) > 0 であるから,|xa + b| ̸= 0 すなわち xa + b ̸= 0 であり,k = −x とおくことにより,すべての k に対して b ̸= ka. 同様に g(x) = |a + xb|2 を考えることにより,すべての ℓ に対して a ̸= ℓb. |a|2 |b|2 = (⟨a, b⟩)2 の場合は次のように分かれる.a = 0 ならば,ℓ = 0 とおくと, a = ℓb が成り立つ.a ̸= 0 ならば,(1.6) の f (x) において,x0 = −2⟨a, b⟩/|a|2 とおくと, f (x0 ) = 0 である.ゆえに |x0 a + b|2 = 0 すなわち,x0 a + b = 0 であるから,k = −x0 に対して,b = ka が成り立つ.以上により |a|2 |b|2 = (⟨a, b⟩)2 の場合には b = ka であ る k があるか,a = ℓb である ℓ がある. (1.5) が成り立てば,|⟨a, b⟩| = |a||b| も成り立つから,a = kb と表されるか,b = ℓa と 表される.a = kb と表される場合,⟨a, b⟩ = |a||b| に代入してみると k⟨a, a⟩ = |a||ka| であるから,k ≥ 0 であることがわかる.同様に b = ℓa と表される場合,ℓ ≥ 0 である. □ 注意 1.1.12 a, b を Rn のベクトルとする.すべての実数 k, ℓ に対して b ̸= ka, a ̸= ℓb である場合,a, b は一次独立(または線形独立)であると いう.そうでない場合,すなわち b = ka となる k があるか,a = ℓb と なる ℓ がある場合は,a, b は一次従属(または線形従属)であるという. 定理 1.1.11 により,a, b が一次独立であるのは |⟨a, b⟩| < |a||b| の場合で あり,a, b が一次従属であるのは |⟨a, b⟩| = |a||b| の場合である.なお3個 以上のベクトルについて,1次独立性,1次従属性の一般的定義は後に でてくる. 問 1.1.13 a, b が次のようなベクトルの場合,コーシー・シュワルツの不 等式が成り立つことを確かめよ 1 0 3 −5 −1 1 (1) a = −4 b = 3 (2) a = b= −1 1 5 4 3 −1 3 1 −2 1 −3 −1 2 −1 (3) a = b= (4) a = b= −3 −1 2 −1 9 3 −6 3 解 √ √ √ √ (1)⟨a, b⟩ = −7, |a| = 5 2, |b| = 5 2, |⟨a, b⟩| = 7 < 50 = 5 2 × 5 2 = |a||b| 第1章 22 ベクトル,行列 √ √ √ √ (2)⟨a, b⟩ = −5, |a| = 2 3, |b| = 3, |⟨a, b⟩| = 5 < 6 = 2 3 × 3 = |a||b| √ √ √ √ (3)⟨a, b⟩ = −24, |a| = 2 3, |b| = 4 3, |⟨a, b⟩| = 24 = 2 3 × 4 3 = |a||b| √ √ √ √ (4)⟨a, b⟩ = 36, |a| = 2 3, |b| = 6 3, |⟨a, b⟩| = 36 = 2 3 × 6 3 = |a||b| 定理 1.1.11 により,ベクトルの大きさに関して次の不等式(三角不等 式)が成り立つ. 定理 1.1.14 |a + b| ≤ |a| + |b| (1.7) 等号が成り立つのは,b = ka, k ≥ 0 であるか,a = ℓb, ℓ ≥ 0 の場合である. 実際 |a + b|2 = ⟨a + b, a + b⟩ = ⟨a, a⟩ + ⟨a, b⟩ + ⟨b, a⟩ + ⟨b, b⟩ = |a|2 + 2⟨a, b⟩ + |b|2 ≤ |a|2 + 2|⟨a, b⟩| + |b|2 ≤ |a|2 + 2|a||b| + |b|2 = (|a| + |b|)2 すなわち |a + b|2 ≤ (|a| + |b|)2 であり,平方根をとって (13) が成り立つ. 等号が成り立つのは ⟨a, b⟩ = |a||b| の場合であるから,定理 1.1.11 により b = ka, k ≥ 0 であるか,a = ℓb, ℓ ≥ 0 の場合である. 1.2 1.2.1 平面ベクトル 有向線分 座標平面上の点 A(a1 , a2 ) にベクトル ] [ x1 x= x2 が作用 して,点 B(a1 + x1 , a2 + x2 ) ができると考え, −→ B = A + x または x = AB 1.2. 平面ベクトル 23 とあらわす.このように平面の点にベクトルが作用すると考えるとき, −→ 平面はアフイン (affine) 平面であるという.x = AB を,点 A を始点 とし,B を終点とする有向線分という.B の座標を B(b1 , b2 ) と表すと, b1 = a1 + x1 , b2 = a2 + x2 であるから, [ ] b1 − a1 −→ x = AB = . b2 − a2 明らかに −→ −−→′ AB = AB ⇒ B = B ′ . さらに次の定理 1.2.3 が成り立つ. それを証明するために補題を一つ準 備する.一般的に点 A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ) を両端とする線分の長さ AB は, ピタゴラスの定理により, √ AB = (a1 − b1 )2 + (a2 − b2 )2 と計算される. 補題 1.2.1 A, B の中点 M の座標は ) ( a1 + b1 a2 + b2 , M 2 2 である. 証明 m1 = (a1 + b1 )/2, m2 = (a2 + b2 )/2 とおき,(m1 , m2 ) を座標とす る点を M とおく. m1 − a1 = b1 − a1 b2 − a2 = b1 − m1 , m2 − a2 = = b 2 − m2 2 2 であるから,AM = M B = AB/2. ゆえに M は A, B の中点に一致する. 問 1.2.2 次の点 A, B の中点 M を求めよ. (1) A(2, 1), B(4, 3) (2) A(2, −1), B(−4, 3) (3) A(0, 5), B(−5, −3) 解 (1) M (3, 2) (2) M (−1, 1) (3) M (−5/2, 1) 第1章 24 ベクトル,行列 定理 1.2.3 → −→ −− AB = A′ B ′ ̸= 0 ならば,四辺形 ABB ′ A′ は平行四辺形であり,AB ∥ A′ B ′ , AA′ ∥ BB ′ で ある(∥ は平行の記号). ... .. B′ ′ ... . . . .... b2 .. ......................... . . . . . . . . . . ′ . . . .. . A ..................... ..... . ...... ... . ........... a′2 ... . . . . . ... . ......... .. .. ....... ............ .. . .. . . . . . .. ......M ′ . M......= . .............. ... .. .. . . . . . . ..... . . . ..... b2 .... .. ............ ............................. . . .. B .. ...... ................ .................. a2 .... .. .. A .. ....................................................................................................................................... . b1 b′1 O . a1 a′1 証明 A, B, A′ , B ′ の座標を A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ), A′ (a′1 , a′2 ), B ′ (b′1 , b′2 ) −→ −−→ とすると条件 AB = A′ B ′ ̸= 0 は [ ] [ ] [ ] b1 − a1 b′1 − a′1 0 = ̸= ′ ′ b2 − a2 b2 − a 2 0 (1.8) と表される. 次に線分 AB ′ の中点 M と線分 A′ B の中点 M ′ が一致することを示す. 補題 1.2.1 により,M, M ′ の座標は ( ) ( ′ ) a1 + b′1 a2 + b′2 a1 + b1 a′2 + b2 ′ M= , , , M = , , , 2 2 2 2 である.条件 (1.8) より, b1 − a1 = b′1 − a′1 ⇒ b1 + a′1 = b′1 + a1 , b2 − a2 = b′2 − a′2 ⇒ b2 + a′2 = b′2 + a2 1.2. 平面ベクトル 25 であるから,M = M ′ を得る. したがって AM = B ′ M , BM = A′ M , ∠AM B = ∠B ′ M A′ , ∠AM A′ = ∠B ′ M B であるから,三角形の合同定理により △AM B ≡ △B ′ M A′ , △AM A′ ≡ △B ′ M B. が成り立ち, ∠B ′ AB = ∠AB ′ A′ , ∠B ′ AA′ = ∠AB ′ B, であるから,AB ∥ A′ B ′ , AA′ ∥ BB ′ である.以上により,ABB ′ A′ は平 行四辺形である. −→ −−→ 問 1.2.4 ABB ′ A′ が平行四辺形ならば,AB = A′ B ′ ̸= 0 であることを 証明せよ. 解 定理 1.2.3 の証明を逆にたどる.詳細省略 1.2.2 位置ベクトル 次に原点 O(0, 0) と点 A(a1 , a2 ) をとると,ベクトル a = して [ ] a1 a2 に対 −→ A = O + a , OA = a ということになる.つまり座標平面の点 A(a1 , a2 ) とベクトル a は同じと 考えてよい.ベクトル [ ] a を点 A[の位置ベクトルという. ] a1 b1 ベクトル a = , b= に対して a + b = c とする: a2 b2 ] ] [ [ c1 a1 + b1 = c2 a2 + b2 A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ), C(c1 , c2 ) とすると, −→ −−→ OA = a = c − b = BC であるから,OABC は平行四辺形である.すなわち,C は OA, OB を 2辺とする平行四辺形の頂点である. 第1章 26 ベクトル,行列 −→ −→ 例 1.2.5 次の点 P (2, 1), Q(6, 2), R(4, 4) をとる.P Q, P R を2辺とする 平行四辺形の残りの頂点を S とする.このとき, [ ] 6−2 −→ −→ S = R + RS = R + P Q = (4, 4) + = (8, 5). 2−1 あるいは −→ −→ S = Q + QS = Q + P R = (6, 2) + [ 4−2 4−1 ] = (8, 5). −→ −→ 問 1.2.6 次の点 P, Q, R をとる.P Q, P R を2辺とする平行四辺形の残 りの頂点 S をもとめよ.また対角線の交点 M を求めよ. (1) P (1, 2), Q(4, 1), R(3, 5) (2) P (1, 1), Q(4, 2), R(2, 3) (3) P (−1, 2), Q(−2, 5), R(−3, 1) (4) P (−2, −1), Q(0, 0), R(2, −4) 解 (1) S(6, 4), M (7/2, 3) (2) S(5, 4), M (3, 5/2) (3) S(−4, 4), M (−5/2, 3) (4) S(4, −2), M (1, −2) 3点 A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ), C(c1 , c2 ) の位置ベクトルを [ ] [ ] [ ] a1 b1 c1 a= , b= , c= a2 b2 c2 とおく.あきらかに b − a = (c − a) + (b − c) がなりたつ.すなわち −→ −→ −−→ −→ −−→ −→ AB = AC + CB , あるいは, AB + BC + CA = 0. A C ........... ..... .............. ....... .. ....... ....... .. . ....... .. ...... .. ......... B . . . . . . . . .. . ....... . .......... . . . . . . . . . .. . . ... . ............. ............... (1.9) 1.2. 平面ベクトル 27 問 1.2.7 4点 A, B, C, D に対して,次の式が成り立つことを示せ. −→ −−→ −−→ −−→ AB + BC + CD + DA = 0 解 A, B, C.D の位置ベクトルを a, b, c, d とすると, −−→ −−→ −−→ −−→ AB + BC + CD + DA = (b − a) + (c − b) + (d − c) + (a − d) = 0 次の定理の内容は常識的であるが,証明は少々厄介である. 定理 1.2.8 A(a1 , a2 ) ̸= B(b1 , b2 ) とする.このとき A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ), C(c1 , c2 ) が直線上にあるならば,ある数 t を用いて c = a + t(b − a) −→ (C = A + tAB) (1.10) と表され,逆にこの式が成り立てば A, B, C は直線上にある.さらにこの 場合, この直線 ℓ のうちで,A と B を両端とする部分を ℓ1 ,B から A の 反対側に伸びる半直線を ℓ2 ,A から B の反対側に伸びる半直線を ℓ3 と すると, (i) C が ℓ1 上にある ⇐⇒ 0 < t < 1 (ii) C が ℓ2 上にある ⇐⇒ t > 1 (iii) C が ℓ3 上にある ⇐⇒ t < 0 (iv) C = A ⇐⇒ t = 0, C = B ⇐⇒ t = 1. 証明 (i),(ii),(iii),(iv) において =⇒ が成り立つことを示す. そうすれば,場合分け が互いに重なっていないから,⇐= も成り立つ. (iv) C = A ならば c = a = a + 0(b − a) と表され,t = 0 として (1.10) が成り立つ. C = B ならば c = b = a + (b − a) と表され t = 1 として (1.10) が成り立つ. (i),(ii),(iii) の場合に =⇒ が成り立つことを示す. そのために A, B, C が直線上にあ り,C が A と B の間(C ̸= A, C ̸= B )の ℓ1 上にあるとすると, AB = AC + CB であるから, |b − a| = |b − c| + |c − a| 一方 (1.9) はいつも成り立つ.ベクトル x, y に対して |y + x| = |y| + |x| であるのは定 理 1.1.14 により,x = 0 である場合か,あるいは x ̸= 0 で y = kx, k ≥ 0 と表される場 合である.x = c − a, y = b − c として,適用すると,C ̸= A より x ̸= 0 であるから, b − c = k(c − a), k ≥ 0 (1.11) と表される. k = 0 ならば,b − c = 0 であるから,B = C となり,仮定 C ̸= B に反す る.ゆえに k > 0 である.(1.11) 式を変形して b + ka = c + kc ⇒ (1 + k)c = b + ka ⇒ c = 1 k b+ a 1+k 1+k 第1章 28 ベクトル,行列 を得る. 1 = t, 1+k k =s 1+k とおくと,t + s = 1, 0 < t < 1, 0 < s < 1 であり,s = 1 − t と表されるから, c = tb + (1 − t)a = a + t(b − a), 0 < t < 1 (1.12) が成り立つ. すなわち (i) において =⇒ が成り立つ. C が ℓ2 上にあるとすると,B が A と C の間にあるから,(1.12) において c と b の 役割を入れ替えて b = a + t(c − a), 0 < t < 1 が成り立つ. この式を変形して t(c − a) = b − a ⇒ c − a = 1 1 (b − a) ⇒ c = a + (b − a) t t がなりたつ.r = 1/t とおくと,0 < t < 1 ⇔ 1 < r < ∞ であるから, c = a + r(b − a), 1 < r < ∞. すなわち (ii) において =⇒ が成り立つ. C が ℓ2 上にあるとすると,A が C と B の間にあるから,(1.12) において a と c の 役割を入れ替えて a = c + t(b − c), 0 < t < 1 が成り立つ. この式を変形して (1 − t)c = a − tb ⇔ sc = a − (1 − s)b ⇔ c = 1 1−s 1 a− b = (a − b) + b. s s s ところで ( ) 1 1 1 (a − b) + b = (a − b) + b − a + a = a + 1 − (b − a) s s s と変形できる.r = 1 − 1/s とおくと,0 < s < 1 のとき,1 < 1/s < ∞ であるから, −∞ < r < 0 である.ゆえに c = a + r(b − a), −∞ < r < 0 と表される. すなわち (iii) において =⇒ が成り立つ. 証明終 A = O(0, 0) として定理 1.2.8 を適用すると次の結果を得る. 定理 1.2.9 t を数とし,b をベクトルとするとき,c = tb とおくと t > 0 ならば c は b と同じ向きで |c| = t|b| であり, t < 0 ならば c は b と反対向きで |c| = |t||b| である. 1.2. 平面ベクトル 1.2.3 29 内積とベクトルのなす角 ベクトル [ a= ] a1 a2 [ , b= ] b1 b2 に対して点 A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ) を考える. 原点を O(0, 0) とし, ∠AOB = θ, (0◦ ≤ θ ≤ 180◦ ) とおき,a と b のなす角という.内積の定義より, ⟨a, b⟩ = a1 b1 + a2 b2 であるが,このとき次の定理がなりたつ. 定理 1.2.10 ⟨a, b⟩ = |a||b| cos θ. .. .. B . b2 ... ................ . . .. .. .. .... .. .. .. .... ........ . . ... .... .. ... .. ... ..... . . .... .. ... .. . . .... . .. . .... . . ... .. .. .... . . ... .... ... .. ... .. . . . . . . . . . . . a2 . .. ...... ... ............................ A .. ... ......... .. ..... θ .............. .. ... .................................. H ......................................................................................................................................... a1 b1 O ... . 証明上の三角形 OAB において,頂点 B から辺 OA に垂線 BH をひ く.△ABH は ∠H = 90◦ の直角三角形であるから,ピタゴラスの定理 により AB 2 = AH 2 + BH 2 . ところで −→ AB 2 = |AB|2 = |b − a|2 = ⟨b − a, b − a⟩ = ⟨b, b⟩ − ⟨b, a⟩ − ⟨a, b⟩ + ⟨a, a⟩ = |b|2 − 2⟨a, b⟩ + |a|2 第1章 30 ベクトル,行列 また BH = OB sin θ = |b| sin θ, AH = OA − OH = |a| − OB cos θ = |a| − |b| cos θ であるから, AH 2 + BH 2 = (|a| − |b| cos θ)2 + (|b| sin θ)2 = |a|2 − 2|a||b| cos θ + |b|2 cos2 θ + |b|2 sin2 θ = |a|2 − 2|a||b| cos θ + |b|2 したがって |b|2 − 2⟨a, b⟩ + |a|2 = |a|2 − 2|a||b| cos θ + |b|2 を得るから,⟨a, b⟩ = |a||b| cos θ. 定理 1.2.10 より,次のことが成り立つ. 定理 1.2.11 a, b ̸= 0 のとき,a, b のなす角を θ とすると cos θ = ⟨a, b⟩ . |a||b| 特に ⟨a, b⟩ = 0 ⇔ cos θ = 0 ⇔ θ = 90◦ (1.13) すなわち,a, b が直交する. 例 1.2.12 次のベクトル a, b のなす角を θ とする. [ ] [ ] 3 1 a= , b= 2 3 ] [ c1 を求める.直交条件 (1.13) より (1) a と直交するベクトル c = c2 3c1 + 2c2 = 0 したがって c2 = (−3/2)c1 より,c1 = 2k とおくと,c2 = −3k とあらわ されるから [ ] [ ] 2k 2 c= =k k は任意の定数 −3k −3 1.2. 平面ベクトル (2) 31 cos θ, sin θ をもとめる. ⟨a, b⟩ = 3 · 1 + 2 · 3 = 9, |a| = であるから, √ √ √ √ 9 + 4 = 13, |b| = 1 + 9 = 10 9 9 cos θ = √ √ = √ . 13 10 130 ゆえに sin θ = √ √ √ 7 1 − cos2 θ = 1 − (81/130) = 49/130 = √ 130 問 1.2.13 下記のベクトル a, b のなす角を θ とし,次の問いに答えよ. (1) a と直交するベクトル a′ を求めよ. (2) b と直交するベクトル b′ を求めよ. (3) cos θ, sin θ を求めよ. [ ] [ ] [ ] [ ] 4 3 3 −2 (i) a = , b= (ii) a = , b= −2 1 3 1 Exel の使用 cos θ = x の値を知って,θ を求めるには,Excel の関数を 利用できる.角の大きさ θ を弧度法ではかり cos θ = x (ただし,0 ≤ θ ≤ π とする)のとき,θ = Arccos(x) と表す Arccos はアークコサイン と 読む. θ = Arccos(x) ⇐⇒ cos θ = x (ただし 0 ≤ θ ≤ π, −1 ≤ x ≤ 1) たとえば, cos(0) = 1 ⇐⇒ 0 = Arccos(1) cos(π) = −1 ⇐⇒ π = Arccos(−1) cos(π/2) = 0 ⇐⇒ π/2 = Arccos(0) cos(π/3) = 1/2 ⇐⇒ π/3 = Arccos(1/2) √ √ cos(π/6) = 3/2 ⇐⇒ π/6 = Arccos( 3/2) Excel では = acos(x) とセルに入力すれば θ = Arccos(x) の値を計算し て表示してくれる.ただし θ の値は弧度法による角の値ラジアンである. π ラジアンが 180◦ であるから,θ ラジアンは 180 × πθ 度である.Excel の 第1章 32 ベクトル,行列 セルに数式 = P I() を記入すると,円周率 π の近似値を計算してくれる. したがって = 180 ∗ θ/P I() とセルに記入して θ ラジアンを度に変換できる. たとえば 1 2 3 4 A =0.5 =-0.5 =0.4 =-0.4 B =acos(A1) =acos(A2) =acos(A3) =acos(A4) C =180*B1/PI() =180*B2/PI() =180*B3/Pi() =180*B4/Pi() D と入力すると 1 2 3 4 A =0.5 =-0.5 =0.4 =-0.4 B C 1.047198 60 2.094395 120 1.159279 66.42182 1.982313 113.5782 D すなわち Arccos(0.5) = 1.047198rad = 60◦ , Arccos(−0.5) = 2.094395rad = 120◦ , Arccos(0.4) = 1.159279rad = 66.42182◦ , Arccos(−0.5) = 1.982313rad = 113.5782◦ . 1.2.4 平面曲線 直線 −−→ OP = p であるとき,ベクトル p を点 P の位置ベクトルという.異なる2点 A(a1 , a2 ), B(b1 , b2 ) を通る直線上に点 P (x, y) があるとすると,定理 1.2.8 により p = a + t(b − a). あるいは p = (1 − t)a + tb. P (x, y) とすると,(1.14) 式は [ ] [ ] [ ] x a1 b1 − a1 = +t y a2 b2 − a2 (1.14) 1.2. 平面ベクトル 33 すなわち x = a1 + t(b1 − a1 ), y = a2 + t(b2 − a2 ). b1 ̸= a1 のときは t = (x − a1 )/(b1 − a1 ) と表されるから, y = a2 + b2 − a2 (x − a1 ) b1 − a1 となり,よく知っている直線の方程式である.改めて思い出すと,座標平面内のある図 形の方程式とは,その図形上のすべての点の座標はその方程式の解であり,逆も成り立 つような方程式である. m= b2 − a2 , a = a1 , b = a2 b1 − a1 とおくと,この式は y = b + m(x − a) とかける.m をこの直線の傾き という. b2 ̸= a2 のときは t = (y − a2 )/(b2 − a2 ) と表されるから, x = a1 + b1 − a1 (y − a2 ) b2 − a2 となる. b − a = c とおくと,(1.14) 式は p = a + tc ( となる.c をこの直線の方向ベクトル という.c = [ すなわち x y ] [ = a1 a2 { ] [ +t c1 c2 ] [ = x = a1 + tc1 y = a2 + tc2 c1 c2 ) とおくと, a1 + tc1 a2 + tc2 ] (1.15) (1.15) を直線のパラメタ表示という.t がパラメタである.t = (x−a1 )/c1 , t = (y−a2 )/c2 であるから, x − a1 y − a2 = (1.16) c1 c2 これを点 A(a1 , a2 ) を通り ν を方向ベクトルとする直線の方程式という.ただし c1 = 0 のときは x = a1 とし y の値は任意とする.すなわち,x1 = a1 であるような y 軸に 平行な直線である.また c2 = 0 のときは y = a2 とし x の値は任意とする.すなわち, y = a2 であるような x 軸に平行な直線である. 問 1.2.14 次の点 A, B を通る直線の方向ベクトル ν, パラメタ表示,直線の方程式を 求めよ. (1) A(2, 4), B(1, −3) (2) A(−3, 5), B(3, 3) 第1章 34 ] { −1 x=2−t 解 (1) ν = , −7 y = 4 − 7t [ ] { 6 x = −3 + 6t (2)ν = , −2 y = 5 − 2t ベクトル,行列 [ x−2= x+3 6 y−4 7 = − y−5 2 (1.16) 式の両辺に ν1 ν2 をかけると ν2 (x − a1 ) = ν1 (y − a2 ) すなわち, [ ν2 (x − a1 ) + (−ν1 )(y − a2 ) = 0 ⇔ [ (1.17) ν2 −ν1 ] −→ ⊥ AP ] [ ] ν2 ν2 ベクトル はこの直線に直交する. ⊥ ν であるから,当然である. −ν1 −ν1 (1.17) 式を変形すると ν2 x − ν1 y + (ν1 a2 − ν2 a1 ) = 0 したがって p = ν2 , q = −ν1 , r = ν1 a2 − ν2 a1 とおくと px + qy + r = 0 これを直線の方程式の一般形という. P (x, y) をこの直線上の一般の点とし,Q(x1 , y1 ) をこの直線上の定点とすると, px1 + qy1 + r = 0 であるから,上式から下式をひくと p(x − x1 ) + q(y − y1 ) = 0 ] p −−→ である.したがって n = とおくと,QP ⊥ n である.n をこの直線の法線ベク q トル という.直線の方向ベクトルと法線ベクトルは直交する. [ ν ⊥ n. [ [ ] 3 方向ベクトルは である. [ ] −2 −2 この直線は −2x − 3y = −4 とも表されるから,法線ベクトルは 方向ベクトル −3 [ ] −3 は であるといってもよい. 2 例 1.2.15 直線 2x + 3y = 4 の法線ベクトルは 2 3 ] 問 1.2.16 つぎの直線の法線ベクトル n と方向ベクトル ν を求めよ. (1) − 3x + 5y + 1 = 0 [ ] (2) 4x − 3y + 3 = 0 [ ] −3 5 解 (1) n = , ν= 5 3 [ ] [ ] −2 −4 (3) n = , ν= −4 2 [ (2) n = 4 −3 (3) − 2x − 4y = 0 ] [ , ν= −3 −4 ] 1.2. 平面ベクトル 曲線 [ 平面ベクトル p = 35 x y ] が変数 t の関数になっていることを [ p(t) = ] x(t) y(t) (1.18) と表し,2 次元のベクトル値関数 と呼ぶ.p(t) を位置ベクトルとする動点を P とすれば −−→ OP = p(t) であって,変数 t の変化につれて動く点 P (x(t), y(t)) は座標平面のある曲 線 Γ を描く.(1.18) を Γ のベクトル方程式という.また t が増加するにつれて動点 P が動いていく向きを曲線 Γ の向きという. 接ベクトル ベクトル値関数 p(t) が (1.18) で表されるとき,p(t) を成分毎に微分してできるベク ′ トルを dp dt または p (t) とかき,p(t) の導関数という: [ ′ ] dp x (t) = p′ (t) = . y ′ (t) dt 例 1.2.17 (1) [ p(t) = (2) [ p(t) = t t2 cos t sin t ] ならば ] ならば p′ (t) = [ ′ p (t) = 問 1.2.18 次の p(t) に対して,p′ (t) を求めよ. [ 2 ] [ ] 3t + t t + 1/t (1) p(t) = (2) p(t) = 4t + 1 t − 1/t [ 解 (1) p′ (t) = 6t + 1 4 ] [ (2) p′ (t) = 1 − 1/t2 1 + 1/t2 [ 1 2t ] − sin t cos t ] [ (3) p(t) = ] [ (3) p′ (t) = e−t tet ] −e−t (1 + t)et ] t = a の時の値 p′ (a) は p(t) で表される曲線 Γ に点 P = p(a) において接するベクト ルである.実際曲線 Γ に点 P = p(a) の近くの点 Q = p(a + h), h > 0 をとる.このと き有向線分 [ ] x(a + h) − x(a) −−→ PQ = y(a + h) − y(a) −−→ は Γ 上の 2 点 P, Q を結ぶ線分である.点 Q を点 P に近づけると P Q は零ベクトルに −−→ −−→ 近づくだけであるが,その長さを調節して P Q を h で割ったベクトル (1/h)P Q をとる と,Q が P に近づくとき x(a + h) − x(a) [ ′ ] 1 −−→ x (a) h P Q = y(a + h) → = p′ (a). − y(a) y ′ (a) h h 第1章 36 ベクトル,行列 このような理由で p′ (a) は Γ に点 p(a) で接するベクトルと見なせる. p′ (a) を点 P にお ける Γ の接ベクトルという.ただし p′ (a) ̸= 0 とする.p(a) を通り方向ベクトルが p′ (a) である直線 r = p(a) + sp′ (a) s がパラメタ ] [ x とすると, を点 P における Γ の接線という.r = y x = x(a) + sx′ (a) s を消去すると, y = y(a) + sy ′ (a). x − x(a) y − y(a) = . x′ (a) y ′ (a) 例 1.2.19 たとえば Γ が [ p(t) = t f (t) ] で与えられると,x′ (t) = 1, y ′ (t) = f ′ (t) であるから,p(a) における接線は x = a + s, y = f (a) + sf ′ (a). これより,s = x − a と表されるから, y = f (a) + f ′ (a)(x − a) となり,よく知っている接線の方程式である. 例 1.2.20 原点を中心とする半径1の円は [ ] cos t p(t) = sin t と表される. ′ p (t) = であるから, [ − sin t cos t ] ⟨p(t), p′ (t)⟩ = − cos t sin t + sin t cos t = 0 であり,円の位置ベクトル p(t) と接ベクトル p′ (t) は直交する. 1.3 1.3.1 空間図形 有向線分 2次元座標平面の場合と同様に,3 次元座標空間の点 A(a1 , a2 , a3 ) にベクトル x1 x = x2 x3 1.3. 空間図形 37 が作用 して,点 B(a1 + x1 , a2 + x2 , a1 + x1 ) ができると考え, B =A+x とあらわす.このように平面の点にベクトルが作用していると考えたとき,空間はアファ −−→ イン (affine) 空間であるという.この場合 x = AB とあらわし,点 A を始点とし,B を 終点とする有向線分という.B の座標を B(b1 , b2 , b3 ) と表すと b1 − a1 −−→ AB = b2 − a2 . b3 − a3 この有向線分の大きさは √ −−→ |AB| = (a1 − b1 )2 + (a2 − b2 )2 + (a3 − b3 )2 であるから,この値は2点 A, B の距離をあらわし,|AB| と書くこともある. 明らかに −−→ −−→ BA = −AB. また3点 A, B, C に対して −→ −−→ −−→ AC + CB = AB. 原点 O(0, 0, 0) に対して a1 −→ OA = a2 , a3 b1 −−→ OB = b2 b3 であり,これらのベクトルをそれぞれ A, B の位置ベクトルという. A, B の中点 M は ( ) a1 + b1 a2 + b2 a3 + b3 M , , . 2 2 2 定理 1.2.3 と同様に次のことがなりたつ. 定理 1.3.1 座標空間の4点 P, Q, R, S において, −−→ −→ P Q = RS であるならば,四辺形 P QRS はある平面内にある平行四辺形で,P Q ∥ RS (平行), P R ∥ QS (平行)である. −−→ −→ 例 1.3.2 P (1, 1, 2), Q(2, 4, 1), R(−1, 3, 4) とする.P Q, P R を2辺とする平行四辺形の 第4の頂点を S とすると, −1 2−1 0 −→ −−→ S = R + RS = R + P Q = 3 + 4 − 1 = 6 . 4 1−2 3 あるいは 2 −1 − 1 0 −→ −→ S = Q + QS = Q + P R = 4 + 3 − 1 = 6 . 1 4−2 3 第1章 38 ベクトル,行列 −−→ −→ 問 1.3.3 P (−1, −2, 2), Q(2, 3, 1), S(−2, 1, 5) とする.P Q, P S を2辺とする平行四辺形 の第4の頂点 R と,対角線 P R の中点 M を求めよ. 3点 A, B, C があって, −→ −−→ AC = k AB であるとする.明らかに |AC| = |k||AB|.A, B, C は1直線上にあり,0 < k < 1 なら ば,C は A と B の間にあり,k > 1 ならば,C は線分 AB の B 方向の延長上にある. −→ −−→ k < 0 ならば,AC は AB の逆向きのベクトルである. 内積 ベクトル a1 a = a2 , a3 b1 b = b2 b3 に対して点 A(a1 , a2 , a3 ), B(b1 , b2 , b3 ) をとる.原点を O に対して ∠AOB = θ (0 ≤ θ ≤ π) とおき,a と b のなす角という.このとき平面ベクトルの場合と同様に次の式がなり たつ. ⟨a, b⟩ = |a||b| cos θ. したがって a, b ̸= 0 のとき a ⊥ b ⇔ ⟨a, b⟩ = 0. 空間曲線 1.3.2 空間直線 平面の場合と同様に,異なる2点 A(a1 , a2 , a3 ), B(b1 , b2 , b2 ) を通る平面上の点 P (x1 , x2 , x3 ) は,A, B, P の位置ベクトルを a, b, p とおくと p = a + t(b − a) あるいは p = (1 − t)a + tb であらわされる.t はパラメタである.座標成分であらわすと, x1 = a1 + t(b1 − a1 ), また x2 = a2 + t(b2 − a2 ), x3 = a3 + t(b3 − a3 ). c1 b1 − a1 = c1 , b2 − a2 = c2 , b3 − a3 = c3 , c = c2 c3 1.3. 空間図形 39 とおくと,p = a + tc, c ̸= 0 と表され, x1 = a1 + tc1 , この3式より, x2 = a2 + tc2 , x3 = a3 + tc3 . x 1 − a1 x 2 − a2 x 3 − a3 = = c1 c2 c3 これを直線の方程式という.ただし,分母が零のときは分子も零と解釈する. 平面の方程式 点 A(a1 , a2 , a3 ) を通りベクトル n = (n1 , n2 , n3 ) ̸= (0, 0, 0) に垂直な平面 π を考え る. 点 P (x1 , x2 , x3 ) が π 上にある必要十分条件は −→ AP ⊥ n −→ である.すなわち ⟨n, AP ⟩ = 0,つまり n1 (x1 − a1 ) + n2 (x2 − a2 ) + n3 (x3 − a3 ) = 0. (1.19) これを平面 π の方程式といい n を π の法線ベクトルという.k = n1 a1 + n2 a2 + n3 a3 とおくと (1.19) は次のようにかける. n1 x1 + n2 x2 + n3 x2 = k. (1.20) つまり平面の方程式は平面上の点の座標の1次方程式である. 特に n1 = 1, n2 = n3 = 0, k = 0 の場合は (1.20) 式は x1 = 0 1 となる.これは原点を通り 0 を法線ベクトルとする平面,すなわち原点で x1 軸に 0 直交する平面である x2 軸と x3 軸を含む平面を表す. これを x2 x3 平面という.同様に x1 軸と x3 軸を含む平面の方程式は x2 = 0 であり,同様に x1 軸と x2 軸を含む平面の 方程式は x3 = 0 である. 逆に [n1 , n2 , n3 ) ̸= [0, 0, 0] とし,点 P (x1 , x2 , x3 ) の座標が (1.20) をみたすとする. たとえば n1 ̸= 0 とすると,(1.20) 式は ( ) k n1 x1 − + n2 x 2 + n3 x 3 = 0 n1 と変形できる.これは点 A(−k/n1 , 0, 0) を通り,ベクトル n に直交する平面をあらわ す方程式である. (1.20) 式は,n2 ̸= 0 とすると ( ) k n1 x1 + n2 x2 − + n3 x 3 = 0 n2 に変形でき,n3 ̸= 0 とすると, ( ) k n1 x1 + n2 x2 + n3 x3 − =0 n3 第1章 40 ベクトル,行列 に変形できる. また P (x1 , x2 , x3 ) の座標が x3 = c + ax1 + bx2 (1.21) を満たすとする. この式は ax1 + bx2 − (x3 − c) = 0 a と変形できるから,P は (0, 0, c) をとおり,n = b を法線ベクトルとする平面 π −1 上にある. 空間の一般の点の座標を (x, y, z) であらわすと,方程式 (1.21) は z = c + ax + by (1.22) で表される. また xz 平面 (x 軸と z 軸を含む平面)の方程式は y=0 である.したがって平面 (1.22) と xz 平面との交線 m 上の点は z = c + ax, y = 0 を満たす.これは xz 平面内の傾き a の直線の方程式である.同様に平面 (1.22) と yz 平面との交線 m 上の点は z = c + by, x = 0 を満たす.これは yz 平面内の傾き b の直線の方程式である. 空間曲線の接ベクトル 平面の場合と同様に空間ベクトル p が変数 t の関数 x(t) p = y(t) z(t) −−→ になっているとき,OP = p である点 P (x(t), y(t), z(t)) は t が変化するにつれて空間内 のある曲線 Γ をえがく.ベクトル p を成分ごとに微分してできるベクトル関数を dp/dt または p′ (t) とかく: ′ x (t) dp = p′ (t) = y ′ (t) dt z ′ (t) ある t = a における p′ (a) は, 曲線 Γ 上の点 P (x(a), y(a), z(a)) において Γ に接するベ クトルである.また s をパラメタとする直線 p = p(a) + sp′ (a) は P (x(a), y(a), z(a)) において Γ に接する直線,すなわち接線である.接線の方程式を 成分をもちいて表せば, x = x(a) + sx′ (a), y = y(a) + sy ′ (a), z = z(a) + sz ′ (a) 1.3. 空間図形 41 であり,パラメタ s を消去した形で表せば, x − x(a) y − y(a) z − z(a) = = ′ ′ x (a) y (a) z ′ (a) である. 43 第2章 2.1 連立方程式の解法 係数行列, 拡大係数行列 いくつかの数に関する条件式をそれらの数を未知数または元とする方 程式という。条件式が未知数の1次式であるとき、1次方程式といい、条 件が複数であるとき連立方程式という。方程式をみたす未知数の値を求 めることを、方程式を解くといい、求めた値を解という。 例題 2.1.1 次の連立方程式の解を求めよ。 { 2x +y = 1 (O) 4x −3y = 7 この方程式は、元は x, y の 2 個であり、方程式の個数は 2 であるから、 2 元 2 連立1次方程式という。方程式は上から順に第1式、第2式といい, (1),(2) とあらわす。(1),(2) 式の左辺は x, y の1次式である。x, y にかけ られている数をそれぞれの係数という。x, y に値を代入したとき、この二 つの等式がともに成り立つようなとき、その代入した値が解である。た とえば、x = 2, y = −3 を代入すると、(1) はなりたつが、(2) は成り立 たないから、この連立方程式の解ではない。 代数学では方程式があたかも解けたかのように考えて、式の変形によ り方程式をより解き易い方程式に変形して解をもとめる。上の (1),(2) が ともになりたつとする。(1) 式の両辺を −2 倍して、(2) 式の両辺に辺毎 に加えると { 2x +y = 1 (I) −5y = 5 この新しい方程式 (I) の (2) 式の両辺に −1/5 をかけると { 2x +y = 1 (II) y = −1 44 第2章 連立方程式の解法 (II) の (2) 式の両辺を −1 倍して、(1) 式の両辺に辺毎に加えると { 2x = 2 (III) y = −1 (III) の (1) 式の両辺に 1/2 をかけると { x = 1 (IV) y = −1 方程式 (IV) の解は x = 1, y = −1 である。つまり、x, y が最初の方程式 (O) をみたす値とすると、x = 1, y = −1 のはずである。ためしにこの 値を最初の方程式に代入すると、確かに二つの等式がなりたつ。ゆえに、 解は x = 1, y = −1 である。 これは簡単な例であるが、代数的に方程式を解く要点がすべてあらわ れている。それは,方程式を同じ解をもつ新しい方程式に変形し、解がす ぐわかる方程式を得ることにある。同じ解をもつ方程式を同値な方程式 といい、解がすぐわかる方程式の形を簡約形あるいは標準形という。上 にある5個の方程式は互いに同値で、最後の方程式は簡約形である。 上の解法は掃き出し法といわれており、すべての場合に通用する方法 である。一見まわりくどくみえるが、こうすればかならず解けるという 解法である。この解法の方針は等式の次の基本原理 1), 2), 3) を繰り返し 使って、解がすぐわかる同値な方程式に変形することである。 次の3法則を等式の基本原理という。 1) k ̸= 0 の時 A = B ⇐⇒ kA = kB. 2) 数 k に対して { { A=B A=B ⇐⇒ C=D C + kA = D + kB 3) 複数の等式群があるとき、列挙する順序をかえても同値な等式群で ある。 また解がすぐわかる方程式とはたとえば、x = 1, y = 2, z = −3 のよう な方程式であるが、簡約形については後で解説する。方程式から等式の 基本原理をつかって未知数を消去し簡約形に変形する。この解法を掃き だし法という. 2.1. 係数行列, 拡大係数行列 45 方程式は係数と右辺の値によりきまる。つまりそれらは方程式を与え るデータである。方程式 (O) の 左辺の 係数をならべてできる行列 [ ] 2 1 A′ = 4 −3 を (O) の係数行列という.(O) の右辺の値を A の最後の列に付け加えて できる行列 [ ] 2 1 1 A= 4 −3 7 を (O) の拡大係数行列という. このように数を縦横に並べて括弧 [, ] または (, ) で括った数表を行列と いう.行列は行ベクトルを上から下に並べたものと見なせるし,列ベク トルを左から右に並べたものとも見なせる.n 次行ベクトルを m 個並べ た行列をを m × n 行列という.これは m 次列ベクトルを n 個並べたも のと見ることもできる.上の A′ は 2 × 2 行列であり,A は 2 × 3 行列で ある.行列の行は上から順に第1行,第2行, . . .とよぶ.また列は左か ら順に第1列,第2列, . . .とよぶ.行列を一つの文字 M で表すとき,M の第 i 行と第 j 列の交点にある数を mij とあらわし,M の (i, j) 成分と いう.たとえば,上の A に対して a11 = 2, a12 = 1, a13 = 1 a21 = 4, a22 = −3, a23 = 7 行列は単なる数表ではなくて,行列どうしの計算や行列とベクトルの計 算ができる表である. 問 2.1.2 次の連立1次方程式の係数行列 A′ と拡大係数行列 A を書け. { +2z = −1 3x x +2y −3z = 0 (1) (2) 4x +2y −z = 3 −3x +y +5z = 2 −4x −3y = 2 −x +3y 8x −5y (3) 5x +y −2x +2y = = = = 6 1 9 −1 (4) 2x − 6y + z + 3w = 1 第2章 46 解 ] [ ] 1 2 −3 1 2 −3 0 (1)A = A= −3 1 5 −3 1 5 2 3 0 2 3 0 2 −1 2 −1 A = 4 2 −1 3 (2)A′ = 4 −4 −3 0 −4 −3 0 2 −1 3 6 −1 3 8 −5 1 8 −5 A= (3)A′ = 5 1 5 1 9 −2 2 −1 −2 2 [ ] [ ] (4) A′ = 2 −6 1 3 A = 2 −6 1 3 1 ′ 2.2 連立方程式の解法 [ 拡大係数行列の基本変形 掃き出し法において実際に行う計算は、拡大係数行列の成分にたいす る加減乗除である。前節の例題の方程式 (O) の拡大係数行列の変形され る様子をみると、次のようになる。 { [ ] 2x +y = 1 2 1 1 (O) = A0 4x −3y = 7 4 −3 7 [ { 2x (I) { +y = 1 −5y = 5 2x +y (II) y { 2x (III) y { x (IV) y = 1 = −1 = 2 = −1 = 1 = −1 ] [ [ [ 2 1 1 0 −5 5 = A1 ] 2 1 1 0 1 −1 2 0 2 0 1 −1 1 0 1 0 1 −1 = A2 ] = A3 ] = A4 A0 の第 1 行の各成分に −2 をかけて、第 2 行に成分ごとに加えると A1 ができる。これは方程式 (O) の (1) 式に −2 をかけて方程式 (I) が できたことに対応している。次に A1 の第 2 行の各成分に −1/5 をかけ 2.2. 拡大係数行列の基本変形 47 ると A2 ができる。これは方程式 (I) の (2) 式の両辺に −1/5 をかけて法 手式 (II) ができたことに対応している。以下 A3 , A4 も同じような計算 によりできる。方程式の掃きだし法で同値な方程式をつくる操作に対応 して,拡大係数行列の次のような変形が対応する。 (1)ある行の各成分を定数倍して、他の行に成分毎に加える。 (2)ある行の各成分に 0 でない数をかける。 (3)行をいれかえる。 (3)の変形は方程式をならべる順序をいれかえることに対応している。 この 3 種類の変形を行列の(行)基本変形という。ある行列 A を基本変 形して行列 B になるとき、B を基本変形して A に戻すことができる。 くりかえしになるが、A を拡大係数行列とする方程式と B を拡大係数行 列とする方程式は同値である。掃きだし法は拡大係数行列をとりだして、 基本変形して解がすぐわかる方程式の拡大係数行列を作る計算に帰着さ れる。 例題 2.2.1 次の方程式を解け。 0 x − 2y − 2z = 3x − 2y − z = −5 2x + y + z = 5 解 拡大係数行列は 1 −2 −2 0 A0 := 3 −2 −1 −5 2 1 1 5 A0 の第2行に第1行の −3 倍をくわえる。以後このような計算を (2) + (1) × −3 であらわす。そうするとつぎの行列ができる。 1 −2 −2 0 A1 := 0 4 5 −5 2 1 1 5 逆に、A1 に対して (2) + (1) × 3 により、もとの A0 ができる。したがっ て、この A1 を拡大係数行列とする方程式はもとの方程式と同値である。 A1 に対して (3) + (1) × −2 をほどこすと 1 −2 −2 0 A2 := 0 4 5 −5 0 5 5 5 48 第2章 連立方程式の解法 A2 に対して (3) + (1) × 2 をほどこすと A1 ができることは前と同様であ る。こうして第1列の第1成分は1、他の成分は0に変形できた。 次に A2 の第3行に 1/5 をかける。これを以後 (3) × 1/5 であらわす。 その結果 1 −2 −2 0 A3 := 0 4 5 −5 0 1 1 1 明らかに A3 に対して (3) × 5 をほどこすと A2 にもどる。 A3 に対して、第2行と第3行をいれかえる。以後このような操作を (2) ↔ (3) であらわす。その結果 1 −2 −2 0 A4 := 0 1 1 1 0 4 5 −5 A4 に対して (1) + (2) × 2 をほどこして A5 をつくり、A5 に対して (3) + (2) × −4 をほどこして A6 をつくると、 1 0 0 2 A6 := 0 1 1 1 0 0 1 −9 A2 から A6 までの変形で第1列は変わらず第2列の第2成分は1、他の 成分は0になった。 A6 に対して (2) + (3) × −1 をほどこすと 1 0 0 2 A7 := 0 1 0 10 0 0 1 −9 A6 から A7 の変形で第1列第2列は変わらず、第3列の第3成分は1、他 の成分は0になった。 A 7 を拡大係数行列とする方程式は = 2 x y = 10 z = −9 この解は x = 2, y = 10, z = −9 であり、これがもとの方程式の解である。 A2 から A3 をつくり、さらに A4 に変形した理由は、第2列の第2成分 2.3. 簡約行列 (ガウス・ジョルダン 標準形) 49 を 1 にするためである。A2 の第2行に 1/4 をかけても、第2列の第2成 分を1にできる。その場合は他の成分に分数の成分が現れる。これを避 けたのである。簡約行列に変形する手順は一意的ではない。しかし、後 に述べるようにどのような手順を経ても、最後の簡約行列は同じ行列に なる。簡約行列の定義は次節で述べる。 2.3 簡約行列 (ガウス・ジョルダン 標準形) 方程式の解がすぐわかる場合の拡大係数行列とは、どのような行列で あろうか。 行列のある行の成分がすべて0ならばその行を零行という。零行でな い行の一番左にある零でない成分をその行の主成分という。 定義 2.3.1 次の3条件を満たす行列を簡約行列,階段行列またはガウス・ ジョルダン標準形等という: (1)0でない成分をもつ行の主成分はすべて1である。 (2)主成分は下の行ほど右にあり、零行はそうでない行の下にある。 (3)ある行の主成分を含む列の成分は、その主成分以外はすべて0 である。 例 2.3.2 次の 5 個の行列は簡約行列である。 [ ] [ 1 0 2 1 −4 0 2 A := B := 0 1 3 0 0 1 3 1 0 0 2 0 1 −2 0 C := 0 1 0 −1 D := 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 1 −2 0 1 0 3 −1 0 0 0 1 2 0 1 0 0 E := 0 0 0 0 1 4 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ] 1 5 3 0 0 0 0 1 0 0 次の3個の行列は簡約行列ではない。 1 −1 1 3 1 0 0 2 0 1 0 −1 C1 := 1 0 0 1 0 −1 2 C2 := 0 3 0 −3 C3 := 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 50 第2章 連立方程式の解法 方程式の拡大係数行列が簡約行列ならば、解を知ることは容易である。上 の例の場合について調べてみよう。 A を拡大係数行列とする方程式は x + 0y = 2, 0x + y = 3, すなわち x = 2, y = 3 であるから、解は唯一組である。 B を拡大係数行列とする方程式は { x −4y +2w = 1 z +3w = 5 変数の値 y, w をきめると、この方程式をみたすような x, z の値がきまる。 たとえば y = 1, w = 0 とおくと、x = 5, z = 5 である。また y = 0, w = 1 とすると、x = −1, z = 2 である。このように解は一組ではなく、y, w の 値を決めるごとに、残りの x, z の値が決まり、解は無数にある。拡大係 数行数の主成分を係数とする変数 x, z のみを左辺に残し、他の項を右辺 に移項すると { x = 1 + 4y − 2w z = 5 − 3w この関係式を満たすような x, y, z, w の値の組すべてが、解である。右辺 の変数の値を y = s, w = t とすると、x = 1 + 4s − 2t, z = 5 − 3t となる。 したがって解の組は s, t を任意の値として x = 1 + 4s − 2t, y = s, z = 5 − 3t, w = t で表される x, y, z, w の組の全体である。s, t を解に含まれる任意定数と いう。この解はベクトル記号を用いて次のように表す。 x 1 + 4s − 2t 1 4 −2 y 0 1 0 s = = + s + t z 5 − 3t 5 0 −3 w t 0 0 1 ベクトルの足し算は成分毎に足し、各成分の共通因数は括弧の外にくく り出すのである。未知数を順に並べてできる列ベクトルを未知数ベクト ルといい、上のような解のあらわし方を解のベクトル表示という。任意 定数がよくわかる形である。 D を拡大係数行列とする方程式は, 5個の未知数 x1 , x2 , x3 , x4 , x5 をも 2.3. 簡約行列 (ガウス・ジョルダン 標準形) 51 つ次のような方程式である。 0x1 +x2 −2x3 +0x4 +3x5 = 0 0x1 +0x2 +0x3 +x4 +0x5 = 0 0x +0x +0x +0x +0x = 1 1 2 3 4 5 (1)(2) だけを満たす解は存在するが、(3) 式は未知数にどのような値を代 入しても成り立たない。したがって、この連立方程式の解は存在しない と考えるのである。 問 2.3.3 例 2.3.2 の行列 E を拡大係数行列とする連立1次方程式の解を 求め,解をベクトル表示せよ. 解 E を拡大係数行列とする方程式は +x4 x1 −2x2 x3 +2x4 x5 +3x6 +x6 +4x6 −x7 +3x7 = 0 = 0 = 0 x1 , x3 , x5 を左辺に残し,残りの未知数を右辺に移項すると −x4 −3x6 +x7 x1 = 2x2 x3 = −2x4 −x6 x5 = −4x6 −3x7 したがって x2 = c1 , x4 = c2 , x6 = c3 , x7 = c4 とおくと, x1 2c1 −c2 −3c3 +c4 2 x2 c1 1 x3 −2c −c 0 2 3 x4 = c 0 = c +c 2 1 2 x5 −4c −3c 0 3 4 x6 0 c3 x7 c4 0 −1 0 −2 1 0 0 0 +c3 −3 0 −1 0 −4 1 0 +c4 1 0 0 0 −3 0 1 前節の例題1、例題2でしめした方法は一般の場合に適用できる。す なわち次のことがなりたつ。 定理 2.3.4 行列に基本変形を何度かほどこして簡約行列に変形できる。 ただし、行列の次の3種類の変形を行列の(行に関する)基本変形という。 (1)ある行の各成分を定数倍して、他の行に成分毎に加える。 (2)ある行の各成分に 0 でない数をかける。 (3)行をいれかえる。 問 2.3.5 例2の行列 C1 , C2 , C3 を簡約行列に変形せよ。 52 第2章 連立方程式の解法 解 C1 の第1行と第2行を入れ替えて,次の簡約形になる. 0 1 0 −1 1 0 0 2 2 −→ 0 1 0 −1 . C1 := 1 0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 C2 の第2行に 1/3 を掛けて次のような簡約形になる. 1 0 0 2 1 0 C2 := 0 3 0 −3 −→ 0 1 0 0 1 0 0 0 0 2 0 −1 . 1 0 C3 の第1行に第3行の (-1) 倍を加え,さらに第1行に第2行を加えると 1 −1 1 3 1 −1 0 3 1 0 0 2 1 0 −1 −→ 0 1 0 −1 −→ 0 1 0 −1 . C3 := 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 定理 2.3.4 の証明を一般的に述べると長くなり,またわかりにくい.い くつかの例をみたほうが定理を理解しやすい。 例題 2.3.6 次の行列を拡大係数行列とする連立方程式の解を調べよ。 0 11 7 −3 A := −1 3 2 0 2 −3 −1 −3 解 A の各行の主成分の位置を調べ、一番左にある行を選ぶ。第2行と第 3行である。A の第1行と第2行をいれかえる: (この変形を (1) ↔ (2) のように表す). そうすると −1 3 2 0 A1 := 0 11 7 −3 2 −3 −1 −3 ができ、これは第1行の主成分が一番左にある行列である。A1 の第1行 を −1 倍する: (この変形を (1) × (−1) のように表す).そうすると 1 −3 −2 0 A2 := 0 11 7 −3 2 −3 −1 −3 ができ、これは第1行の主成分が一番左にあり、かつその値が 1 である 行列ができた。つぎにこの主成分を含む列の、他の成分を 0 にする変形 2.3. 簡約行列 (ガウス・ジョルダン 標準形) 53 をおこなう。いまの場合,第3成分の 2 を消すために、第3行に第1行 の −2 倍をくわえる: (この変形を (3) + (1) × −2 のように表す). そう すると 1 −3 −2 0 A3 := 0 11 7 −3 0 3 3 −3 ができ、第1行の主要部1を含む第1列の主要部以外の成分が 0 になり、 簡約行列に一歩近づいた。 以後は第2行以下に同様の操作をほどこすのである。第2行と第3行 の主成分をみて一番左にある行を選ぶ。第2行でも第3行でもよいが、主 要部を 1 にしやすい行として第3行を選び、(3) × 1/3 をほどこすと 1 −3 −2 0 A4 := 0 11 7 −3 0 1 1 −1 次に (2) ↔ (3) により 1 −3 −2 0 A5 := 0 1 1 −1 0 11 7 −3 第2行以下で第2行の主要部が一番左にあり、かつその値が1である行列 ができた。A5 の主要部を含む第2列の他の成分を消すために (1)+(2)×3 を ほどこして A6 をつくり(その結果は書かず)、さらに A6 に (3)+(2)×−11 をほどこして A7 をつくると 1 0 1 −3 A7 := 0 1 1 −1 0 0 −4 8 さらに簡約行列に近づいた。A7 に (3) × −1/4 をほどこして 1 0 1 −3 A8 := 0 1 1 −1 0 0 1 −2 (1) + (3) × −1, (2) + (3) × −1 を続けてほどこすと 1 0 0 −1 A9 := 0 1 0 1 0 0 1 −2 54 第2章 連立方程式の解法 これで簡約行列になった。したがって A を拡大係数行列とする方程式の 解は唯一組 x = −1, y = 1, z = −2 である。 2.4 表計算ソフトによる掃きだし法計算 以上の計算を表計算ソフト Excel を用いて以下のような方針で計算で きる。上記の行列 A を用いて説明する。 Exel で行列の掃きだし計算をするには,次のことをおこなう.列の変 形演算と、その内容を他の列にコピーし貼り付けることである。 ステップ1)行列の成分をセルに入力する。一つの成分は一つのセル に入力する。その結果成分をならべた長方形の表ができる。その表を A とする。 たとえば Exel のワークシートの A1 セル(これを [A1] とあらわす)に まず行列名 A を入力する。次に [A2] に A の (1, 1) 成分 0 を入力し、 [A3] に A の (2, 1) 成分 −1 を入力し、 [A4] に A の (3, 1) 成分 2 を入力し、 [B2] に A の (1, 2) 成分 11 を入力し、 [B3] に A の (2, 2) 成分 3 を入力し、 ........................................ [D4] に A の (3, 4) 成分 −3 を入力 のように12個の成分を入力する。 ステップ2)A の第1行と第 2 行を入れ替える。その結果できる行列 を A1 とする。この操作は Excel では次のようにおこなう。 [A6] に行列名 A1 を入力する。 [A7] に = A3 と入力すると [A3] の値 −1 が入力される。 [A8] に = A2 と入力すると [A2] の値 0 が入力される。 [A9] に = A4 と入力すると [A4] の値 0 が入力される。 以上により、[A2],[A3],[A4] の値が [A8],[A7],[A9] に入力され、A の第 1列の成分が並べかえられた。 この第1列の成分の並べ替えの操作を他の列にコピーする。そのため に次の操作をする。 [A7],[A8],[A9] をドラッグする。 [A7],[A8],[A9] の内容をコピーするために Ctrl キーと c キーを同時に おす(以後 Ctrl +c と表す)。あるいはツールバーの「コピー」をクリッ 2.4. 表計算ソフトによる掃きだし法計算 55 クする。 [A7],[A8],[A9] の内容を [B7], から [B8],[B9],[C7],[C8],[C9],[D7],[D8],[D9] までに貼り付ける。そのために [B7], から [B8],[B9],[C7],[C8],[C9],[D7],[D8], [D9] までドラッグして、Ctrl+v をおして(または、ツールバーの「貼り 付け」をクリックして)リターンキーを押す。 ステップ 3) 行列 A1 の第1行に −1 をかける。その結果できる行列を A2 とする。Exel では次のように行う。 [A11] に行列名 A2 を入力する。 [A12] に = (−1) ∗ A7 と入力する(−A7 と入力してもよい)。その結果 [A7] の値の −1 倍が記入される。 [A13] に = A8 と入力し、[A14] に = A9 と入力する。 以上により、[A12] には [A7] の −1 倍、[A13] には [A8] の値、[A14] には [A9] の値が記入された。 この第1列の成分の操作を他の列にコピーする。そのために [A12],[A13],[A14] をドラッグする。 Ctrl+c またはツールバーの「コピー」をクリックする。 [B12], から [B13],[B14], [C12],[C13],[C14], [D12],[D13],[D14] までドラ ッグ。 Ctrl +v (またはツールバーの「貼り付け」をクリック)の後リターン キーを押す。 ステップ 4)行列 A2 の第3行に第1行の-2倍を加えて A2 の (3,1) 成分を零にする。その結果できる行列を A3 とおく。exel では次のよう におこなう。 [A16] に行列名 A3 を入力する。 [A17] に = A12 と入力し、[A18] に = A13 と入力する。 [A19] に = A14 − 2 ∗ A12 と入力する。 以上により、[A17] は [A12] セルの値、[A18] は [A13] の値、[A19] は ([A14] の値)-([A12] の2倍)の値となった。 この第1列の成分の操作を他の列にコピーする。そのために [A17],[A18],[A19] をドラッグする。 Ctrl+c またはツールバーの「コピー」をクリックする。 [B17] から,[B18],[B19], [C17],[C18],[C19], [D17],[D18],[D19] までドラ ッグ Ctrl +v (またはツールバーの「貼り付け」をクリック)の後リターン キーを押す。 56 第2章 連立方程式の解法 ステップ 5)この操作を他の列にも同様に施す. 計算結果が整数でない場合は,セルには少数点を用いて表される.例 えば A5 に表示された値 0.666667 を分数で表示したい場合は Excel 画面 (Work seet という)の上方にあるメニューバーの「書式」をマウスで左 クリックし,表れた画面の 「セル」をクリックし, 「セルの書式設定画面」の「表示形式」をクリックし, 「一覧表」の「分数」をクリックし, 最後に「OK」 をクリックすると, A5 セルの表示が 2/3 にかわる. すべてが終わったら、Alt+f を押しさらに c を押して(またはツール バーのファイルをクリックし「閉じる」をクリックして)ワークシート を閉じる。新しいワークシートを開くには Ctrl+n を押すか、またはツー ルバーの左端にある白紙記号(新規作成)をクリックする。 例題 2.4.1 次の行列を拡大係数行列とする連立方程式の解を調べよ。 1 −1 2 2 3 0 B := −2 1 −2 −3 −3 1 3 1 −2 2 1 2 解 B に対して、(2) + (1) × 2, (3) + (1) × −3 を続けてほどこすと 1 −1 2 2 3 0 B2 := 0 −1 2 1 3 1 0 4 −8 −4 −8 2 B2 に対して (3) + (2) × 4 をほどこすと 1 −1 2 2 3 0 B3 := 0 −1 2 1 3 1 0 0 0 0 4 6 B3 に対して、(3) × 1/4 をほどこすと 1 −1 2 2 3 0 B4 := 0 −1 2 1 3 1 0 0 0 0 1 3/2 2.4. 表計算ソフトによる掃きだし法計算 57 B4 に対して、(1) + (3) × −3, (2) + (3) × −3 を続けてほどこすと 1 −1 2 2 0 −9/2 B6 := 0 −1 2 1 0 −7/2 0 0 0 0 1 3/2 B6 に対して、(2) × −1 をほどこすと 1 −1 2 2 0 −9/2 B7 := 0 1 −2 −1 0 7/2 0 0 0 0 1 3/2 B7 に対して (1) + (2) をほどこすと 1 0 0 1 0 −1 B8 := 0 1 −2 −1 0 7/2 0 0 0 0 1 3/2 簡約行列になった。このように左側の列から主成分の下をまず 0 にして、 つぎに右側の列から主成分の上を 0 にしてもよい。したがって未知数を x1 , x2 , x3 , x4 , x5 とすると、 +x4 = −1 x1 x2 −2x3 −x4 = 7/2 x5 = 3/2 主要部を係数とする未知数 x1 , x2 , x5 を左辺に残し、他の項は右辺に移 項すると x1 = −1 − x4 x2 = 7/2 + 2x3 + x4 x = 3/2 5 したがって x3 = s, x4 = t とおくと x1 x2 x3 x4 x5 = −1 7/2 0 0 3/2 + s 0 2 1 0 0 + t −1 1 0 1 0 第2章 58 連立方程式の解法 例題 2.4.2 次の係数を拡大係数行列とする連立方程式の解を調べよ。 1 −1 2 2 3 0 −2 1 −2 −3 −3 1 C := 3 1 −2 2 −3 2 2 2 −4 0 −6 2 解 C に (2) + (1) × 2, (3) + (1) × −3, (4) + (1) × −2 を続けてほどこ すと 1 −1 2 2 3 0 0 −1 2 1 3 1 C3 := 0 4 −8 −4 −12 2 0 4 −8 −4 −12 2 C3 に (4) + (3) × −1 をほどこすと 1 −1 2 2 3 0 0 −1 2 1 3 1 C4 := 0 4 −8 −4 −12 2 0 0 0 0 0 0 C4 に (3) + (2) × 4 をほどこすと 1 −1 0 −1 C5 := 0 0 0 0 2 2 0 0 2 1 0 0 3 3 0 0 0 1 6 0 まだ簡約行列ではないが、この時点でこの方程式は解を持たないことが わかる。この行列の第3行に対応する方程式は 0x1 + 0x2 + 0x3 + 0x4 + 0x5 = 6 で、この式は成立し得ないからである。 練習問題 2.4.3 次の行列を拡大係数行列とする連立方程式の解を調べよ。 [ (1) A := 2 2 −4 6 3 −1 −2 2 ] [ (2) B := 2 1 −3 0 4 3 1 0 ] 2.5. 連立1次方程式の解と行列の階数 59 1 −2 −1 0 0 3 −6 (3) C := −3 2 1 1 (4) D := 2 8 −4 −2 3 3 −2 1 1 4 1 0 2 1 0 3 −2 0 2 1 1 1 2 −3 1 −3 (5) E := (6) F := −2 −2 0 −3 1 3 1 3 1 −1 −5 0 3 −1 2 4 2 1 −6 0 −2 1 1 −1 3 2 1 0 (7) G = 4 2 3 −4 −2 3 2 2 −5 −3 −1 −4 −2 3 −5 −1 2 −2 解 各行列の簡約行列のみを書く 1 0 −1 A→ 0 1 −1 5 4 7 4 −1 1 0 0 2 1 C→ 0 1 0 2 −3 0 0 1 2 1 0 0 0 −2 0 1 0 0 2 E→ 0 0 1 0 0 0 0 0 1 −1 1 0 0 0 1 0 G→ 0 0 1 0 0 0 0 0 0 2.5 [ B→ 1 0 0 1 1 0 D→ 0 1 0 0 1 0 F → 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 −5 0 7 0 0 1 −1 −3 0 −2 1 −5 1 11 −1 ] 6 0 −2 0 0 1 2 7 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 −1 0 3 0 1 0 2 1 −3 連立1次方程式の解と行列の階数 前節の例から、連立1次方程式の解は唯一つであるか、いくつかの任 意定数を含み無数にあるか、あるいは全然ないか、いずれかである。2 第2章 60 連立方程式の解法 次方程式のように二つだけあるというようなことはおこりえない。いず れの場合であるかは、拡大係数行列の簡約行列の形で判断される。簡約 行列に変形する方法は何通りもあるが、最終的に同じ形になる。 定理 2.5.1 行列の簡約行列は基本変形の仕方によらず、唯一つである。 証明行列の列の数に関する帰納法で証明する. 列の数が1のとき,その行列が0なら,簡約化も0,その行列が0でないなら,(1,0,・ ・ ・,0) の転置が簡約化というように,簡約化は一意的にきまる. 次に,列の数が n のとき成り立つとして,n+1 のとき成り立つことをしめす.[A,b] を 列の数が n+1 個の行列とし,A を列の数が n 個の行列,b を列ベクトルとする.[C,d] と [C’,d’] を [A,b] の二つの簡約化とする.このとき,C と C’ は A の簡約化.故に,帰納法 の仮定から,まず,C=C’ がわかる.ここで,連立一次方程式 Ax=b と Cx=d と C’x=d’ はすべて同値であることに注意する.従って,Ax=b が解 x=y を持てば,d=Cy=C’y=d’ となる.また,Ax=b が解を持たなければ,Cx=d も C’x=d’ も解をもたない.このとき は,k=C の 0 でない行の個数(=C’ の 0 でない行の個数)とすれば,d,d’ ともに,k+1 行が 1 で他は 0 の列ベクトル ek+1 となる.以上から,Ax=b が解をもつもたないにか かわらず,d=d’ となる.故に [C,d]=[C’,d’]. 終 解の様子を分類するために、行列に対してある重要な数を定義する。 定義 2.5.2 行列 A の簡約行列の零行でない行の個数が r であるならば、 A の階数(rank) は r であるといって rank(A) = r と表す。 A が m × n 行列ならば,明らかに rank(A) ≤ min{m, n}1 . たとえば前節の例題3、4,5の行列 A, B, C においては rank(A) = 3, rank(B) = 3, rank(C) = 3 である。 問 2.5.3 前節の練習問題 2.4.3 の行列の階数を求めよ。 min{m, n} は m, n の内の小さい数をあらわす。何個かの数 n1 , n2 , · · · , nk の最小 値は min{n1 , n2 , · · · , nk } 最大値は max{n1 , n2 , · · · , nk } で表す。 1 2.5. 連立1次方程式の解と行列の階数 61 階数は簡約行列の主成分 1 の個数であるといってもよい。したがって つぎのように言い換えることもできる。 定理 2.5.4 行列の階数はその簡約行列の主成分 1 を含む列の個数である。 m × n 行列 A の第1列から第 k 列 (1 ≤ k ≤ n) までからなる m × k 行 列を A′ とする。このとき A の基本変形は同時に A′ の基本変形でもあ る。また A の簡約行列が B ならば、B の第1列から第 k 列までからな る m × k 行列 B ′ は A′ の簡約行列である。 連立1次方程式の拡大係数行列の最後の列を除いた行列はその方程式 の係数行列である。したがって拡大係数行列の簡約行列の最後の列を除 いた行列は、係数行列の簡約行列である。このことに注目すると、連立 1次方程式の解に関する次の基本定理を得る。 定理 2.5.5 n 個の未知数に関する m 連立1次方程式の係数行列を A と し、拡大係数行列を A˜ とする。このとき ˜ ≤ rank(A) + 1. rank(A) ≤ rank(A) ˜ = rank(A) ならは、方程式は解をもつ。この値を r とお (i) rank(A) くと、r = n ならば、解は唯一組であり、r < n ならば、解の組は無数に あり n − r 個の任意定数を含む。 ˜ = rank(A) + 1 ならば方程式の解はない。 (ii) rank(A) 証明 拡大係数行列の簡約行列の零行でない最後の行に注目する。その 行の主成分が最後の列にある場合と、それ以前の列にある場合にわかれ ˜ = rank(A) + 1 となる。さらにこの最後の行 る。最初の場合は rank(A) に対応する方程式は 0 = 1 であるから、連立1次方程式の解はない。2 ˜ = rank(A) となり、解が存在する。r = n なら 番目の場合は rank(A) ば、主成分 1 が n 個あり、すべての未知数が主成分 1 を係数とする方程 式ができ、解は唯一つである。r < n ならば、r 個の未知数が主成分 1 を 係数とする方程式ができ、これらが残りの n − r 個の未知数の値をもち いて表される。すなわち解は n − r 個の任意定数をもつ。 終 この定理から次の常識的結果が導かれる. 系 2.5.6 n 個の未知数に関する m 連立1次方程式について次が成り立つ. (i) m < n,すなわち方程式の個数が未知数の個数より少ないならば, 解があるとしても惟一組ではない. 第2章 62 連立方程式の解法 (ii) m > n, すなわち方程式の個数が未知数の個数より多いならば,解 がない場合がある. 連立1次方程式の右辺の値がすべて 0 であるとき、その方程式は斉次 形(あるいは同次形)であるといい、そうでない場合は非斉次形(あるい は非同次形)であるという。上の定理の (i)r < n の場合の任意定数を含 む解をその方程式の一般解という。また個々の解を特解または特殊解と いう。 斉次方程式においては、すべての未知数の値が 0 である解が存在する。 この解を自明な解という。そうでない解を非自明な解という。斉次方程 式の拡大係数行列は最後の列の成分がすべて 0 であり、基本変形しても この列は不変である。したがって拡大係数行列の階数と係数行列の階数 r は同じである。この値が未知数の個数 n に等しければ、解は自明解のみ であり、r < n ならば非自明な解がある。したがって次のようにいえる。 定理 2.5.7 斉次方程式が自明な解のみを持つ必要十分条件は、係数行列 の階数が未知数の個数に等しいことである。方程式の個数が未知数の個 数より少ない斉次方程式は非自明解を必ずもつ。 斉次でない方程式の解はつぎのように表される。 定理 2.5.8 連立1次方程式が解をもつとする。そのとき一般解は特解と 右辺の値を 0 でおきかえた斉次方程式の一般解の和で表される。 後の説でこの問題を再びとりあげるが、拡大係数行列の簡約化を注意深 くみれば証明はおのずから明らかである。たとえば、前節例題4の場合、 [x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ] = [−1, 7/2, 0, 0, 3/2] は特解であり、 [x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ] = s[0, 2, 1, 0, 0] + t[−1, 1, 0, 1, 0] は斉次方程式の一般解である。 問 2.5.9 この定理を証明せよ。 2.6. 線形性 2.6 63 線形性 連立1次方程式の一般形を改めて述べる.n 個の未知数 x1 , x2 , · · · , xn にかんする次のような式の集まりを m 連立1次方程式という. a11 x1 + a12 x2 + · · · + a1j xj + · · · + a1n xn = b1 a21 x1 + a22 x2 + · · · + a2j xj + · · · + a2n xn = b2 .................................................. (2.1) ai1 x1 + ai2 x2 + · · · + aij xj + · · · + ain xn = bi .................................................. a x + a x + ··· + a x + ··· + a x = b m1 1 m2 2 mj j mn n m この方程式の係数行列を A とおく.すなわち a11 a12 · · · a1j · · · a1n a21 a22 · · · a2j · · · a2n ............................. A= a i1 ai2 · · · aij · · · ain ............................. am1 am2 · · · amj · · · amn とする.A の (i, j) 成分は aij である.A の第 j 列である m 次ベクトル を aj (j = 1, 2, · · · , n)、右辺の値からできる m 次列ベクトルを b,未知 数ベクトルを x とおく.2 : x1 a1j b1 x a b 2 2j 2 aj = (1 ≤ j ≤ n), b = , x = ··· ··· ··· ··· amj bm xn このとき,連立方程式 (2.1) は,次のように表される. Ax = b (2.2) 行列 A とベクトル x の積 Ax は次のように分解して考えることがで きる. 2 ベクトルを表す文字は太文字あるいは上に矢印をつけた文字であらわし、数をあら わす文字と区別する場合もあるが、面倒であるので小文字であらわす。ベクトルかスカ ラーかは前後の関係から判断できる。 第2章 64 連立方程式の解法 定義 2.6.1 (行列とベクトルの積) Ax := n ∑ xj aj = x1 a1 + x2 a2 + · · · + xn an . j=1 y = Ax は m 次列ベクトルで、その i 成分 yi は yi = n ∑ aij xj = ai1 x1 + ai2 x2 + · · · + ain xn . j=1 上の定義のように x1 a1 + x2 a2 + · · · + xn an の形式で表されるベクトル を(x1 , x2 , · · · , xn を係数とする)ベクトル a1 , a2 , · · · , an の一次結合ある いは線形結合という。行列の列ベクトルの一次結合が行列とベクトルの 積である。 行列とベクトルの積について次の計算法則を容易にたしかめることが できる。 定理 2.6.2 A を m × n 行列、x, y を n 次列ベクトル、c をスカラーと すると (i) A(x + y) = Ax + Ay (ii) A(cx) = c(Ax) 定理 2.6.2 の計算規則 (i),(ii) が成り立つことを,ベクトル x をベクト ル Ax に写す写像は線形である,あるいは線形写像であるという. 定理 2.6.2 を繰り返し用いると次の計算法則を得る。 系 2.6.3 A を m×n 行列、x1 , x2 , · · · , xk を n 次列ベクトル、c1 , c2 , · · · , ck ∑k ∑k をスカラーとすると A( j=1 cj xj ) = j=1 cj Axj すなわち A(c1 x1 + c2 x2 + · · · + ck xk ) = c1 Ax1 + c2 Ax2 + · · · + ck Axk . 成分がすべて零である行列を O で表し,成分がすべて零であるベクト ルを 0 で表し、それぞれ零行列、零ベクトルという。すべてのベクトル x に対して、Ox = 0 である。n 次正方行列で,対角成分がすべて 1 で 残りの成分がすべて 0 である行列を単位行列といい、通常文字 E (また は I ) で表す。つぎのような行列である。 1 0 0 0 [ ] 1 0 0 1 0 0 1 0 0 , 0 1 0 , 0 0 1 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 2.7. 解空間 65 次数を明示したい場合には En(または In )と書く。En の第 j 列の成分 は,j 番目は 1 で他はすべて 0 である。このようなベクトルを通常文字 ej であらわし、e1 , e2 , · · · , en を Rn の基準ベクトル3 という。 n 次列ベクトルは e1 , e2 , · · · , en の一次結合で表される。たとえば 0 0 x1 x1 x2 = 0 + x2 + 0 x3 0 0 x3 1 0 0 = x1 0 + x2 1 + x3 0 = x1 e1 + x2 e2 + x3 e3 . 0 0 1 行列とベクトルの積を用いて書くと Ex = x. またある行列 A と ej の積は A の第 j 列 aj になる。 Aej = aj このことから次の補題がなりたつ。 補題 2.6.4 A, B を m × n 行列とする。 (i) Aej = Bej , j = 1, 2, · · · , n ならば A = B. (ii) すべての n 次ベクトル x に対して Ax = Bx ならば、A = B. 問 2.6.5 この補題を証明せよ。 2.7 解空間 行列とベクトルの積の性質により,連立方程式の解全体について次の諸定理 が成り立つ. 定理 2.7.1 A を m × n 行列,x を n 次列ベクトルとするとき,斉次連立1次 方程式 Ax = 0 (2.3) の解について次が成り立つ. 3 基準ベクトルという言い方は一般的ではない 第2章 66 連立方程式の解法 (i) x = 0 は解(自明な解)である.したがって (2.3) は常に少なくとも一つ の解をもつ. (ii) x, x′ が解ならば,x + x′ も解である. (iii) x が解ならば,任意の実数 c に対して cx も解である. 証明 (i) は明らかである. (ii) x, x′ が解ならば,Ax = 0, Ax′ = 0 が成り立つ.ゆえに A(x + x′ ) = Ax + Ax′ = 0 + 0 = 0 であるから,x + x′ も解である. (iii) x が解ならば,Ax = 0 である.ゆえに A(cx) = c(Ax) = c0 = 0 □ であるから,cx も解である. (2.3) の解ベクトルを全部集めてできる n 次ベクトルの集合を S で表し,方 程式 (2.3) の解空間という.定理 2.7.1 を集合の用語で,次のように言い換える ことができる. ここで必要となる2,3の集合用語を書いておこう.集合 X とは何かのもの x(普通は数)の集まりで, この場合 x は集合 X の要素あるいは元であるとい う.また x は X に属するといって,x ∈ X と表す.集合を表す方法は一般的 に二通りある.一つは要素をすべて書き上げればよい.たとえば X = {2, 5, 12} により,三つの数 2, 5, 12 を集めた集合を表す.これは集合の要素の個数が有限 個の場合に可能な方法である.もう一つは要素が共通にもつ性質を書く方法で ある.たとえば X = {x : 1 ≤ x ≤ 2} により,不等式 1 ≤ x ≤ 2 を満たす数 x 全体の集合を表す. 二つの集合 X, Y があり,X の元はすべて Y の元である,すなわち x ∈ X =⇒ x ∈ Y であるとき,X は Y の部分集合であるといって,X ⊂ Y と表す.あるいは Y は X を含むといって Y ⊃ X と表す.この場合 X = Y でもよい. 特別な集合として,R は実数全部の集合を表し,Rn は n 次列ベクトル全部 の集合を表す.たとえば解空間 S は Rn の部分集合である: S ⊂ Rn . 2.7. 解空間 67 定理 2.7.2 方程式 (2.3) の解空間 S は次の性質を持つ: (i) 0 ∈ S (ii) x ∈ S, x′ ∈ S =⇒ x + x′ ∈ S (iii) x ∈ S, c ∈ R =⇒ cx ∈ S 定義 2.7.3 一般的に Rn の部分集合 X が性質 (i) 0 ∈ X (ii) x ∈ S, x′ ∈ X =⇒ x + x′ ∈ X (iii) x ∈ X, c ∈ R =⇒ cx ∈ X を持つとき X は Rn の部分空間であるという. 例 2.7.4 {0} と Rn は Rn の部分空間である.この二つを Rn の自明な部分空 間という.解空間 S は Rn の部分空間で {0} ⊂ S ⊂ Rn である. (2.3) の解が自明な解 x = 0 のみの場合は S は零ベクトル 0 だけを含む集合 である.この場合 S = {0} と表す.この場合は A の階数 r が n に等しい場合 であった. そうでない場合,(2.3) の解は問 2.3.3 の場合のように解ベクトルがいくつか のベクトルの1次結合で表される.つまり 1 −2 0 1 0 3 −1 0 0 0 1 2 0 1 0 0 0 0 0 1 4 3 0 A= 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 の場合, 方程式 Ax = 0, x ∈ R7 は x1 = 2x2 −x4 −3x6 +x7 x3 = −2x4 −x6 x5 = −4x6 −3x7 に変形される.A の階数 3 に対応する上から3個の行の主成分 1 を係数に もつ未知数 x1 , x3 , x5 が残りの未知数 x2 , x4 , x6 , x7 を用いて表される形であ る.したがって, 未知数の総個数 7 から A の階数 3 を引いた 4 個の未知数を x2 = c1 , x4 = c2 , x6 = c3 , x7 = c4 とおくと, −3 −1 2 2c1 −c2 −3c3 +c4 x1 0 0 1 x2 c1 x3 −1 −2 0 −2c −c 2 3 x4 = c2 = c1 0 +c2 1 +c3 0 +c4 x5 −4c3 −3c4 −4 0 0 1 0 0 x6 c3 x7 c4 0 0 0 1 0 0 0 −3 0 1 第2章 68 連立方程式の解法 この式の右辺に現れる4個の7次列ベクトルを左から順に u1 , u2 , u3 , u4 とおく と,一般の解ベクトル x が4個の任意定数 c1 , c2 , c3 , c4 を用いて x = c1 u1 + c2 u2 + c3 u3 + c4 u4 のように,u1 , u2 , u3 , u4 の1次結合として表される.さらに,この1次結合が零 解を表す場合,すなわち 0 = c1 u1 + c2 u2 + c3 u3 + c4 u4 (2.4) c1 = c2 = c3 = c1 = 0 (2.5) となる場合は. の場合に限る.この場合 u1 , u2 , u3 , u4 は1次独立であるといい,dim S = 4 と 書き S の次元は 4 であるという. 一般的に次の定理が成り立つ. 定理 2.7.5 m × n 行列 A を係数行列とする斉次連立方程式 Ax = 0 (2.6) の解空間を S とする.A の階数を r とすると, (i) r = n ならば,S = {0}. (ii) r < n ならば,S は n − r 個の1次独立なベクトルを含み,S のベクト ルはそれらの1次結合であらわされ,dim S = n − r である. 非斉次方程式 Ay = b の解については次のようになる. 定理 2.7.6 m × n 行列 A と,n 次未知数ベクトル y と m 次既知ベクトル b の非斉次連立1次方程式 Ay = b (2.7) は拡大係数行列 [A : b] の階数が A の階数に等しいとき,解をもつ.そして次 が成り立つ. (i) y, y ′ が (2.7) の解ならば,x = y ′ − y は (2.6) の解である.逆に y ′ が (2.7) の解であり,x が (2.6) の解ならば,y = y ′ + x も (2.7) の解である. (ii) (2.7) の特解を y0 とする.(2.7) の解集合を T とし,(2.6) の解空間を S とすると, T = y0 + S = {y0 + x : x ∈ S} のように表される. 2.7. 解空間 69 証明 (i) y, y ′ が (2.7) の解ならば,Ay = b, Ay ′ = b であるから,x = y ′ − y とおくと, Ax = A(y ′ − y) = Ay ′ − Ay = b − b = 0. x は (2.6) の解である. 逆に x が (2.6) の解であり,y ′ が (2.7) の解ならば,Ax = 0, Ay ′ = b. ゆえに y = y ′ + x とおくと, Ay = A(y ′ + x) = Ay ′ + Ax = b + 0 = b. y は (2.7) の解である. (ii) 定理 2.5.8 を集合記号で表せば (ii) のようになる. □ 最後に S の次元を数える場合に用いられたベクトルの1次独立性の定義を掲 げておく. 定義 2.7.7 Rm のベクトル a1 , a2 , · · · , ak のいろいろな1次結合 b = c1 a1 + c2 a2 + · · · + ck ak のうち, • b = 0 となる場合は c1 = c2 = · · · = ck = 0 の場合のみであるとき, a1 , a2 , · · · , ak は1次独立であるという. • c1 = c2 = · · · = ck = 0 以外の場合に x = 0 となる場合があるとき(つま り1次独立でないとき),a1 , a2 , · · · , ak は1次従属であるという. 定理 2.7.8 Rm のベクトル a1 , a2 , · · · , ak を並べてできる m × k 行列を A とする:A = [a1 , a2 , · · · , ak ]. このとき,k 次列ベクトルに関する連立 方程式 Ax = 0 を解いてみる.このとき • a1 , a2 , · · · , ak が1次独立であるのは,Ax = 0 の解が自明解 x = 0 のみの場合,すなわち rankA = k の場合である. • a1 , a2 , · · · , ak が1次従属であるのは,Ax = 0 の解が非自明解 x = c ̸= 0 を持つ場合,すなわち rankA < k の場合で,このような c に対して c1 a1 + c2 a2 + · · · + ck ak = 0 である. 71 第3章 3.1 逆行列 行列の積,和,スカラー倍 前節の系 2.5.6 から、連立方程式の個数 m が未知数の個数 n より少な い場合は解があっても一組に定まらず,逆に n < m ならば解がない場合 がある.この章では未知数の個数と方程式の個数が同じ場合を別の角度 から考える。 まず一番簡単な方程式 ax = b をとりあげる。a ̸= 0 ならば、逆数を両辺にかける。便宜上左辺と右辺を いれかえて書くと a−1 b = a−1 (ax) = (a−1 a)x = 1x = x. 逆に x = a−1 b を方程式の左辺に代入すると、 a(a−1 b) = (aa−1 )b = 1b = b したがって x = a−1 b が唯一つの解である。逆数の考え方を連立方程式の 場合に拡張することを考える。 上の計算では数の掛け算の次のような法則が使用されている。 (i) 逆数とは左からかけても右からかけても、掛け合わせて 1 になる数 である。 (ii) 1 をかけても値は変わらない。 (iii) 数 a, b, c に対して a(bc) = (ab)c これに対応する計算法を連立方程式に対して考え出そう。 連立方程式は係数行列 A を用いて Ax = b の形式で表される.逆数に対応する逆行列を考えるためにまず行列の積 を定義し,上の (i),(ii),(iii) に相当する性質が成り立つようにしよう. 第 3 章 逆行列 72 A を ℓ × m 行列、B を m × n 行列、x を n 次列ベクトルとする。こ のとき Bx は m 次列ベクトルであるから、ℓ × m 行列 A をかけること ができる。B の第 j 列を bj , j = 1, 2, · · · , n とおくと、これらは m 次列 ベクトルで、 Bx = x1 b1 + x2 b2 + · · · + xn bn であるから,前節の系 2.6.3 により A(Bx) = x1 Ab1 + x2 Ab2 + · · · + xn Abn 右辺の n 個のベクトルはすべて ℓ 次列ベクトルである。したがってこれ らを並べてできる行列を C とおくと、この行列は ℓ × n 行列で、第 j 列 cj は cj = Abj で与えられる: C = [c1 c2 · · · cn ] = [Ab1 Ab2 · · · Abn ] したがって x1 Ab1 + x2 Ab2 + · · · + xn Abn = x1 c1 + x2 c2 + · · · + xn cn = Cx となり結局 A(Bx) = Cx. 定義 3.1.1 上の行列 C を A, B の積といって C = AB と書く。 行列の積 C = AB は A の列の個数 = B の行の個数 の場合のみ定義し C の行の個数 = A の行の個数、C の列の個数 = B の列の個数 となる。 定義から直ちに次の計算法則をえる。 補題 3.1.2 A, B を上のようなサイズの行列とすると、任意の n 次列ベ クトルに対し A(Bx) = (AB)x 3.1. 行列の積,和,スカラー倍 73 C = AB の成分を A, B の成分をもちいて具体的にかくと b1j a11 a12 a13 · · · a1m a b2j 21 a22 a23 · · · a2m cj = Abj = b3j .. ··· aℓ1 aℓ2 aℓ3 · · · aℓm bmj であるから、その第 i 成分 cij は cij = m ∑ aik bkj = ai1 b1j + ai2 b2j + ai3 b3j + · · · + aim bmj k=1 である。つまり A の第 i 行と B の第 j 列の成分どうしをかけてたしあ わせたもの,すなわち A の第 i 行と B の第 j 列の内積である. Excel による行列の積の計算法たとえば 2 1 3 7 −5 A = −1 −3 0 B = −6 −7 −4 −2 5 4 6 の積 AB を計算する.まず Excel のワークシートの行列名と行列の成分 を次のように記入する. 1 2 3 4 5 A B C A 2 1 3 -1 -3 0 -4 -2 5 D E F B AB 7 -5 -6 -7 4 6 G H (I) F2 セルに次の数式を記入する: = $A2 ∗ D$2 + $B2 ∗ D$3 + $C2 ∗ D$4 そのためには F2 セルをクリックし,次にポインタを関数バー Fx に移動 し,まず=を関数バーに記入する. 続けて A2 セルをクリックし,掛け算記号*を記入し,次に D2 セルを クリックし足し算記号+を記入し, 第 3 章 逆行列 74 B2 セルをクリックし,掛け算記号*を記入し,次に D3 セルをクリック し足し算記号+を記入し, C2 セルをクリックし,掛け算記号*を記入し,次に D4 セルをクリック する. この結果関数バーには = A2 ∗ D2 + B2 ∗ D3 + C2 ∗ D4 と記入されたから,最後に上のように$記号を追加記入して,Enter キー をおす.その結果 F2 セルに計算結果 20 が表示される. (II) F2 セルの式を F3,F4,G2,G3,G4 セルに「コピー」 「貼り付け」を する.その結果たとえば F3 セルには次の式 = $A3 ∗ D$2 + $B3 ∗ D$3 + $C3 ∗ D$4 が記入されてその計算結果 11 が表示され,またたとえば G4 セルには次 の式 = $A4 ∗ E$2 + $B4 ∗ E$3 + $C4 ∗ E$4 が記入されてその計算結果 64 が表示される.以上により Excel のワーク シートは A B C D E F G H 1 A B AB 2 2 1 3 7 -5 20 1 3 -1 -3 0 -6 -7 11 26 4 -4 -2 5 4 6 4 64 5 となり, 20 1 AB = 11 26 4 64 である.$ 記号をつけた理由については 15 ページのセル番地の絶対参照 形式の項に説明がある. 問 3.1.3 次の積を計算せよ。 [ (1) ][ 3 2 1 4 ] 2 1 −3 5 [ (2) ][ 2 1 −3 5 ] 3 2 1 4 [ (3) −2 4 ] ] [ 3 2 1 4 3.1. 行列の積,和,スカラー倍 [ 75 ][ ] [ ][ ] −5 −4 −5 −4 2 4 (4) (5) 3 2 3 2 −3 −5 [ ] ] 2 1 2 1 [ 1 −1 3 1 −1 3 (6) −2 3 (7) −2 3 4 2 −2 4 2 −2 −4 1 −4 1 3 −1 4 −2 2 4 (8) 2 1 6 −2 2 4 −1 2 2 1 −1 −2 −2 2 4 3 −1 4 (9) −2 2 4 2 1 6 1 −1 −2 −1 2 2 10 5 15 10 5 15 (10) −26 −13 −39 −26 −13 −39 2 1 3 2 1 3 2 4 −3 −5 解 [ ] [ ] 7 8 −2 12 (2) (3) −4 14 ] [ ] [ ] 0 2 0 −8 1 (5) (6) 2 0 2 12 8 6 0 4 0 0 0 (7) 10 8 −12 (8) 0 0 0 0 6 −14 0 0 0 −6 12 12 0 0 0 (9) −6 12 12 (10) 0 0 0 3 −6 −6 0 0 0 0 (1) −10 [ 2 (4) 0 13 21 ] [ 上の問の (1)(2) や (6)(7) や (8)(9) の場合は積の順序をかえると、結果 は異なる。(4)(5) の場合は積の順序をかえても、結果は同じである。す なわち行列の積に関して AB = BA とはかぎらない。AB ̸= BA の場合 もあり、AB = BA の場合もある。また (8) (10) のように A ̸= O, B ̸= O であっても AB = O, AA = O となりうる。 問 3.1.4 ] [ A= a b c d [ , B= ] 0 1 1 0 とする.このとき AB = BA であるための a, b, c, d の条件を求めよ. 第 3 章 逆行列 76 解 [ AB = b a d c ] [ , BA = c d a b ] . したがって a = d, b = c が共に成り立つとき AB = BA であるが,a ̸= d または b ̸= c ならば,AB ̸= BA. しかし、次の積の結合法則は成り立つ。 定理 3.1.5 積 AB, BC が定義されるならば、(AB)C = A(BC). 証明補題 3.1.2 により、任意のベクトル x に対して ((AB)C)x = (AB)(Cx) = A(B(Cx)) = A((BC)x) = (A(BC))x. したがって補題 2.6.4 により、(AB)C = A(BC). 問 3.1.6 上の定理を行列の成分を用いて証明せよ。 積の結合法則から、行列 A, B, C の積はかける順序を指定する括弧を省 略して ABC とかくことができる:ABC := (AB)C = A(BC). 同様に 3個以上の行列 A, B, C, · · · , D の積もかける順序に関係なくきまるので ABC · · · D であらわすことができる。また A が正方行列のとき、A を n 回掛け合わせた積を An とかく。たとえば A2 = AA, A3 = AAA. その他の行列の計算を列挙しておく。以下の行列の積においては、行列 は積が定義できるようなサイズの行列であるとする。まず AO = O, OA = O はあきらかである。さらに AE = A, EA = A も明らかである。行列 A, B のサイズが同じであるならば、成分どうし足 して行列の和 A + B をつくる。また行列 A のすべての成分にスカラー c をかけた行列のスカラー倍を cA とかく。 12 6 4 2 2 3 −2 1 4 2 7 , 3 −1 7 = −3 21 0 = 4 −1 7 + 5 0 3 0 1 6 −1 6 −2 0 1 次の計算法則がなりたつ: A(B+C) = AB+AC, (A+B)C = AC +BC, A(cB) = (cA)B = c(AB). 3.2. 逆行列 3.2 77 逆行列 n 個の未知数 x1 , x2 , · · · , xn に関する n 連立1次方程式は係数行列 A, 未知数ベクトル x, 右辺のベクトル b をもちいて Ax = b とあらわされる。A は n 行 n 列の正方行列である. 定義 3.2.1 正方行列 A に対して AB = BA = E である正方行列 B が存在するとき A は可逆行列である、あるいは正則 行列であるという。 例 3.2.2 [ A= ] 3 2 7 5 [ , B= 5 −2 −7 3 ] とすると、AB = BA = E であるから、A は可逆行列である。もちろん B も可逆行列である。 定理 3.2.3 A が可逆行列ならば、AB = BA = E である行列 B は、一 意的である。 証明 AB = E, CA = E であるとする。このとき B = EB = (CA)B = C(AB) = CE = C. 定義 3.2.4 AB = BA = E であるとき、B を A の逆行列といって B = A−1 と書く。 B = A−1 ならば A = B −1 である、すなわち A = (A−1 )−1 . 第 3 章 逆行列 78 問 3.2.5 正方行列 A, B が可逆行列であれば、積 AB も可逆行列で (AB)−1 = B −1 A−1 である。これを証明せよ。 A の逆行列があれば,連立方程式の解は逆行列を用いて次のように表 される.連立方程式を解くためには,係数行列の逆行列を計算すること が大事になる. 定理 3.2.6 A が可逆行列ならば、任意の b に対して連立1次方程式 Ax = b は唯一つの解をもち,それは x = A−1 b のように表される. 証明 B = A−1 とおく。Ax = b が成り立つとすると、両辺に B をかけ ると(左辺と右辺をいれかえて) Bb = B(Ax) = (BA)x = Ex = x. したがって、解があるとすると, それは Bb にかぎる。 逆に x = Bb を方程式の左辺に代入すると Ax = A(Bb) = (AB)b = Eb = b. したがって、確かに x = Bb は解である。 例 3.2.7 例 3.2.2 の行列 A を係数行列とする連立方程式 { { 3x + 2y = 1 3x + 2y = 0 7x + 5y = 0 7x + 5y = 1 の解はそれぞれ ] [ x y [ = ] [ x y [ = 5 −2 −7 3 5 −2 −7 3 ][ ] 1 0 ][ [ = ] 0 1 [ = ] 5 −7 −2 3 ] 3.3. 逆行列の可換性 3.3 79 逆行列の可換性 A の逆行列 B は AB = BA = E を満たす行列として定義したのであ るが,実は AB = E ならば,BA = E が成り立つのである.その前に AB, BA を別々に計算して単位行列になることを例で示しておく. 例題 3.3.1 (1) 次のの行列 A, B に対して、B = A−1 , A = B −1 であるこ とを確かめよ。 1 3 1 −5 4 −11 A = −4 1 4 B = 4 −3 8 −2 −1 1 −6 5 −13 (2) (1) の結果を利用して次の方程式の解をもとめよ。 2 x + 3y + z = 1 −5x + 4y − 11z = (2.1) 4x − 3y + 8z = 3 −4x + y + 4z = −1 (2.2) −2x − y + z = −6x + 5y − 13z = −2 0 解 (1) Excel のワークシートに次のように A, B の成分を記入する. 1 2 3 4 5 6 A B C 1 -4 -2 3 1 -1 1 4 1 D -5 4 -6 E 4 -3 5 F -11 8 -13 G H D4 セルに次の数式を記入する. = $A4 ∗ D$1 + $B4 ∗ D$2 + $C4 ∗ D$3 この式を D5, D6, E4, E5, E6, F 4, F 5, F 6 セルに「コピー」, 「貼り付け」をすると, 1 2 3 4 5 6 A B C 1 -4 -2 3 1 -1 1 4 1 D -5 4 -6 1 0 0 E 4 -3 5 0 1 0 F -11 8 -13 0 0 1 G H のように D4 セルから F 6 セルの範囲に AB の積 E が表示される. 第 3 章 逆行列 80 同様に A1 セルに次の式を記入する. = $D1 ∗ A$4 + $E1 ∗ A$5 + $F 1 ∗ A$6 この式を A2, A3, B1, B2, B3, C1, C2, C3 セルに「コピー」, 「貼り付け」をすると, 1 2 3 4 5 6 A 1 0 0 1 -4 -2 B 0 1 0 3 1 -1 C 0 0 1 1 4 1 D -5 4 -6 1 0 0 E 4 -3 5 0 1 0 F -11 8 -13 0 0 1 G H のように A1 セルから C3 セルの範囲に BA の積 E が表示される. (2) 次に G1, G2, G3, G4, G5, G6 セルに次のように方程式 (2,1),(2,2) の右辺の値を 記入する. A B C D E F G H 1 1 0 0 -5 4 -11 1 -9 2 0 1 0 4 -3 8 -1 7 3 0 0 1 -6 5 -13 0 -11 4 1 3 1 1 0 0 2 9 5 -4 1 4 0 1 0 3 -13 6 -2 -1 1 0 0 1 -2 -9 次に H1 セルに数式 = D1 ∗ G$1 + E1 ∗ G$2 + F 1 ∗ G$3 を記入し,この式を H2, H3 セルに「コピー」, 「貼り付け」をすると,H1, H2, H3 の範囲に (2,1) の解 −9 1 1 A−1 −1 = B −1 = 7 −11 0 0 が表示される. さらに H4 セルに数式 = A4 ∗ G$4 + B4 ∗ G$5 + C4 ∗ G$6 を記入し,この式を H5, H6 セルに「コピー」, 「貼り付け」をすると,H4, H5, H6 の範囲に (2,2) の解 2 2 9 B −1 3 = A 3 = −13 −2 −2 −9 が表示される. 定理 3.2.6 の証明で、二つの性質 AB = E, BA = E が用いられている。行列 の積は交換可能とは限らないが、AB = E となる場合は BA = E であることが 次のように示される。 定理 3.3.2 n 次正方行列 A, B に対して、 AB = E ならば、BA = E である。 3.3. 逆行列の可換性 81 証明 A, B を n 次正方行列とし、AB = E とする。このとき連立方程式 Bx = 0 の解は自明解のみである。実際 Bx = 0 とすると、両辺に A をかけてみると (左辺と右辺をいれかえて) 0 = A0 = A(Bx) = (AB)x = Ex = x. したがって解は自明解のみである。定理 2.5.7 により、rank(B) = n であり、定 理 2.5.5 により、任意の n 次列ベクトル c に対して方程式 Bx = c はただ一つの 解をもつ。したがって基準ベクトル ej , j = 1, 2, · · · , n, のそれぞれに対して、連 立1次方程式 Bx = ej は解 x = cj をもつ。列ベクトル c1 , c2 , · · · , cn を並べて できる n 次正方行列を C とおくと、BC の題 j 列は Bcj であるから、BC = E である。したがって AB = BC = E である。ゆえに A = AE = A(BC) = (AB)C = EC = C. となり、 BA = BC = E. 別証明 AB = E とする。A, E を並べた行列 [A, E] を基本変形により簡約 化してできる簡約行列を [F, C] とおくと、 F = E, C = B であることを示す。 C は E を基本変形してできる行列であるから、列ベクトル x に関する方程式 Cx = 0 と Ex = 0 は同じ解をもつ。Ex = 0 の解は x = 0 のみであるから、 Cx = 0 の解も x = 0 のみである。したがって C の各行は零行ではない。次に F ̸= E とすると、F は簡約行列であるから、F は零行をもち特に F の最後の 行は零である。一方 C の最後の行は零行でないから、F X = C は解 X を持た ない。F X = C の解と AX = E の解は同じであり、AX = E は解 X = B を もつから、矛盾が生ずる。したがって F = E であり、F X = C の解は一意的 で X = C = B である。以上により、[A, E] を簡約化すると [E, B] になること がわかった。 [E, B] をならべかえて [B, E] をつくる。[A, E] を簡約化して [E, B] を作った 基本変形の逆変形を [B, E] に行えば、[E, A] が生ずる。したがって BY = E の 解は Y = A である。すなわち BA = E である。 系 3.3.3 正方行列 A は AB = E または BA = E である正方行列 B があると き、可逆行列で A−1 = B である。 定理 3.3.2 は行列計算の核心をつく内容である.その証明をよく読むと、次 のことを示していることがわかる。 定理 3.3.4 n 次正方行列 A に対して、次の条件は互いに同値である。 (i) A は可逆行列である。 (ii) rank(A) = n. (iii) Ax = 0 の解は自明解のみである。 (iv) 任意の n 次列ベクトル b に対して Ax = b は唯一つの解をもつ。 第 3 章 逆行列 82 3.4 逆行列の掃きだし法による計算 系 3.3.3 により、正方行列 A が可逆行列であるためには、行列方程式 AX = E が唯一つの解 X = B をもつことが必要十分であり、B = A−1 である。この 行列方程式は、 X の第 j 列ベクトルを xj とおくと、n 個の連立1次方程式 Axj = ej , j = 1, 2, · · · , になる。この連立方程式が唯一つの解 xj = bj をもつと き、かつそのときに限り、A が可逆行列で、A−1 は b1 , b2 , · · · , bn を並べた行列 である。 例 3.4.1 次の行列 A が可逆行列かどうかを判定し、可逆行列ならば A−1 を求 めよ。 [ ] 1 2 A := 3 5 解 二つの連立方程式 { x + 2y = 1 3x + 5y = 0 { x + 2y = 0 3x + 5y = 1 を解いてみる。それぞれの拡大係数行列を並べて書くと [ ] [ ] 1 2 1 1 2 0 3 5 0 3 5 1 係数行列は同じであるから、同じ基本変形で簡約化できる。実際 (2) + (1) × (−3) により、 [ ] [ ] 1 2 1 1 2 0 0 −1 −3 0 −1 1 次に (1) + (2) × 2 により [ ] [ ] 1 0 −5 1 0 2 0 −1 −3 0 −1 1 (2) × (−1) により [ 1 0 −5 0 1 3 ] [ 1 0 2 0 1 −1 ] 解は一意的であるから、A は可逆行列で [ ] −5 2 −1 A = 3 −1 上の変形を観察するとすぐわかるように、拡大係数行列の部分は共通に変化し、 第3列の値のみ異なる。したがって行列 A の横に単位行列 E2 をならべた行列 [ ] 1 2 1 0 3 5 0 1 3.4. 逆行列の掃きだし法による計算 83 に対して基本変形をほどこすことと同じである。実際 (2) + (1) × (−3) により [ ] 1 2 1 0 0 −1 −3 1 次に (1) + (2) × 2 により [ (2) × (−1) により [ 1 0 −5 2 0 −1 −3 1 1 0 −5 2 0 1 3 −1 ] ] このように係数行列の部分である左半分が単位行列になり、残りの右半分に A の逆行列が現れる。 上の例からわかるように、n 次正方行列 A と n 次単位行列をならべた n × 2n 行列 [A E] を基本変形して [E B] の形に変形できるとき、そのときにかぎっ て A は可逆行列で A−1 = B である。 [A E] は行列方程式 AX = E の拡大係 数行列と考えればよい。 例 3.4.2 次の行列 A が可逆行列であるかどうかを調べ、可逆行列ならば逆行 列 A−1 を求めよ。 1 0 −2 2 A := −1 1 1 2 解 まず AX = E の拡大係数行列 C0 1 C0 := −1 1 (2) + (1) により 1 をつくる: 0 −2 1 0 0 1 2 0 1 0 2 1 0 0 1 1 0 −2 1 0 0 0 1 1 0 C1 := 0 1 1 2 1 0 0 1 (3) + (1) × (−1) により 1 0 −2 1 0 0 0 1 1 0 C2 := 0 1 0 2 3 −1 0 1 第 3 章 逆行列 84 (3) + (2) × (−2) により 1 0 −2 1 0 0 0 1 1 0 C3 := 0 1 0 0 3 −3 −2 1 (3) × (1/3) により 1 0 −2 1 0 0 0 1 1 0 C4 := 0 1 0 0 1 −1 −2/3 1/3 (1) + (3) × 2 により 1 0 0 −1 −4/3 2/3 1 1 0 C5 := 0 1 0 0 0 1 −1 −2/3 1/3 以上により、左半分が単位行列に変形できたから A は可逆行列で −1 −4/3 2/3 1 0 A−1 = B := 1 −1 −2/3 1/3 C0 から出発して5回基本変形して C5 ができた。これは行列方程式 AX = E の解が X = E であること、すなわち AB = E であることを示したのである。 BA = E であることは、定理 3.3.2 により保証されるが、次のように直接確かめ ることができる。 そのためには BX = E を掃き出し法でとき、解は X = A であることをしめせばよい。ところで、C5 は BX = E の拡大係数行列の右半 分と左半分をいれかえた行列である。さて C5 から出発して5回基本変形して C0 をつくることができる。実際 C5 から (1) + (3) × (−2) により C4 になり、 C4 から (3) × 3 により C3 になり、 C3 から (3) + (2) × 2 により C2 になり、 C2 から (3) + (1) により C1 になり、 C1 から (2) + (2) × (−1) により C0 になる。 つまり基本変形してできる行列は、基本変形してもとの行列にもどせる。した がって C5 の右半分と左半分をいれかえた行列 D5 := [B E] をつくり同じ基 本変形をおこなうと、できる行列 Dn , n = 4, 3, 2, 1, 0, は Cn の右半分と左半分 をいれかえた行列になる。その結果 D0 = [E A] ができる。D5 は行列方程式 BX = E の拡大係数行列であるから、これを基本変形して D0 = [E A] がで きるということは、この方程式の解が X = A であることをしめす。すなわち BA = E がなりたつ。 3.4. 逆行列の掃きだし法による計算 85 例 3.4.3 次の行列 A が可逆行列であるかどうかを調べ、可逆行列ならば A−1 を求めよ。 2 1 0 3 A := 1 0 3 2 −3 解 2 1 0 1 0 0 3 0 1 0 C0 := 1 0 3 2 −3 0 0 1 とおく。(1), (2) をいれかえて 1 0 3 0 1 0 0 1 0 0 C1 := 2 1 3 2 −3 0 0 1 (2) + (1) × −2, (3) + (1) × −3 を続けて行うと 1 0 3 0 1 0 C3 := 0 1 −6 1 −2 0 0 2 −12 0 −3 1 (3) + (2) × −2 により 1 0 3 0 1 0 1 −2 0 C4 := 0 1 −6 0 0 0 −2 1 1 この段階で A は可逆行列でないことがわかる。実際 C4 の左半分は A を基本変 形したものであり、この形から rank(A) = 2 がわかる。したがって定理 3.3.4 に より、A は可逆行列ではない。あるい次のことから直接わかる。たとえば C0 の 第1列から第4列まででできる行列は方程式 Ax = e1 の拡大係数行列である。 それを基本変形すると C4 の第1列から第4列まででできる行列である。これ を拡大係数行列とする方程式は第3式が 0 = −2 であるから、Ax = e1 は解を もたない。 Excel による逆行列の掃きだし計算法次の行列 A の逆行列を掃きだし法で計 算する: 1 0 −2 A = −1 1 2 1 2 1 1 0 0 まず A と E = 0 1 0 をならべた行列 [AE] の成分を Excel のワーク 0 0 1 シートに記入する.A1 セルに行列名 A を記入し,A2 セルから,C4 セルの範 第 3 章 逆行列 86 囲に A の9個の成分を記入する.次に D1 セルに単位行列の名前 E を記入し D2 セルから F 4 セルの範囲に E の9個の成分を記入する. A A 1 -1 1 1 2 3 4 B C 0 1 2 -2 2 1 D E 1 0 0 E F 0 1 0 0 0 1 このようにしてできる A2 セルから F 4 セルの範囲内の 3 × 6 行列を行基本変形 により簡約化する.その結果左半分が単位行列になったとき,右半分にできた 行列が A の逆行列である. まず A6 セルに = A2 式を記入し,A7 セルに = A3 + A2 式を記入し,A8 セ ルに = A4 − A2 式を記入する.次に A6, A7, A8 セルの式を B6 セルから F 8 セ ルの範囲にコピー,貼り付けする.その結果次のようになる. 5 6 7 8 A B C D E F 1 0 0 0 1 2 -2 0 3 1 1 -1 0 1 0 0 0 1 次に B 列をうえから 0, 1, 0 にする.そのために次に B10 セルに = B6 式を記 入し,B11 セルに = B7 式を記入し,B12 セルに = B8 − 2 ∗ B7 式を記入する. 次に B10, B11, B12 セルの式を A10 セルから F 12 セルの範囲にコピー,貼り 付けする.その結果次のようになる. 9 10 11 12 A B C D E F 1 0 0 0 1 0 -2 0 3 1 1 -3 0 1 -2 0 0 1 次に C 列を上から 0, 0, 1 にする.そのために C14 セルに = C10 式を記入し, C15 セルに = C11 式を記入し,C16 セルに = C12/3 式を記入する.その後 C14, C15, C16 セルの式を A14 セルから F 16 セルの範囲にコピー,貼り付けす る.その結果次のようになる. 13 14 15 16 A B C D E F 1 0 0 0 1 0 -2 0 1 1 1 -1 0 1 -0.66667 0 0 0.333333 3.4. 逆行列の掃きだし法による計算 87 最後に C18 セルに = C14 + 2 ∗ C16 式を記入し,C19 セルに = C15 式を記入 し,C20 セルに = C16 式を記入する.その後 C18, C19, C20 セルの式を A18 セルから F 20 セルの範囲にコピー,貼り付けする.その結果次のようになる. 17 18 19 20 A B C D E F 1 0 0 0 1 0 0 0 1 -1 1 -1 -1.33333 1 -0.66667 0.666667 0 0.333333 これで最初の行列 [AE] が簡約化された.A−1 はこの右半分の行列 −1 −1.33333 0.666667 −1 −4/3 2/3 = 1 1 0 1 0 = 1 −1 −0.66667 0.333333 −1 −2/3 1/3 A−1 である.セルに表示された少数は書式の変更で分数に変換できる. 問 3.4.4 次の各行列 A が可逆行列であるかどうかを調べ、可逆行列ならばその 逆行列を求めよ。 [ (1) −1 1 3 −4 ] [ (2) 1 1 1 (5) 0 1 1 (6) 0 0 1 1 0 (9) 0 0 −1 3/2 2 −3 ] [ (3) 2 a −1 1 1 1 0 1 0 1 1 (7) −1 1 0 1 2 1 0 0 0 1 1 0 0 (10) 0 0 1 1 0 0 1 1 ] [ (4) a 3 −1 1 ] 0 2 1 0 2 1 1 (8) −1 1 1 1 6 −1 2 4 0 0 1 0 1 2 1 2 3 2 3 4 解 [A : E] の簡約行列を書く. [ (1) 1 0 0 1 −4 −1 −3 −1 (4) 1 0 0 1 ] (2) 1 a+3 1 a+3 1 −3 2 0 0 0 1 1 a+3 a a+3 −3 1 1 0 2 (3) 1 0 1 2 1 0 0 1 (5) 0 1 0 0 0 0 1 0 1 2+a 1 2+a a 2+a 1 2 2+a − −1 0 1 −1 0 1 第 3 章 逆行列 88 1 0 (6) 0 0 0 1 0 0 1 1 2 1 2 −1 2 −1 2 1 2 1 2 1 2 −1 2 1 2 1 0 (8) 0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 (9) 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 (10) 0 0 1 0 0 0 1 (7) 0 0 2 0 3 0 0 1 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 −2 1 −2 −1 2 0 1 0 1 1 −1 0 0 1 −5 −8 3 −1 1 −1 1 −1 1 0 1 −1 0 0 1 1 −2 1 −2 1 0 1 0 0 0 0 0 −2 2 −2 3 1 −1 89 第4章 4.1 行列式 2次の行列式 逆行列があるかないかは、基本変形により調べることができるが、たとえば 行列の成分に文字がある場合は、基本変形は容易でない。この章で定義する行 列式を用いると,逆行列があるための判定条件が得られる。 はじめに逆行列はいつもあるわけではない.逆行列の存在条件は既に定理 3.3.4 により,与えてある.この節ではその内の条件 (iii) が役立つ. n 次ベクトル x に関する方程式 Ax = b において,b = 0 の場合を同次方程式 といい,b ̸= 0 の場合を非同次方程式とい う.x = 0 は同次方程式 Ax = 0 の解である.これを同次方程式の自明な解という. 同次方程式が x ̸= 0 である 解をもつとき,その解を非自明な解という. 定理 4.1.1 n 次正方行列 A が逆行列をもつ必要十分条件は,同次方程式 Ax = 0 の解が自明な解 x = 0 のみであることである. 証明 既に証明はすんでいるが(定理 3.3.4 参照),必要性は簡単に証明でき る.A−1 が存在するとする.x が Ax = 0 を満たすとすると,A−1 を両辺にか けて A−1 (Ax) = A−1 0. A−1 (Ax) = (A−1 A)x = Ex = x, A−1 0 = 0 であるから,x = 0 を得る. 十分性の証明が長くなるのである(第3章定理 3.3.4 を参照). 終. 系 4.1.2 Ax = 0 をみたす x ̸= 0 があれば,A−1 は存在しない. [ ] 2 −1 例 4.1.3 A = の場合,方程式 Ax = 0 は −6 3 { 2x1 −x2 = 0 −6x1 +3x2 = 0 x1 = 1, x2 = 2 は確かに解である.ゆえに Ax = 0 が非自明な解 (x1 , x2 ) = (1, 2) をもつから,A−1 は存在しない. 第 4 章 行列式 90 数 a が逆数をもつ必要十分条件は a ̸= 0 である。それでは2次正方行列の場 合、これに対応する条件はなんであろうか。逆行列を求めるためには行列方程 式 AX = E をといてみればよいのであるから、そのために [ ] a b A := c d を係数行列とする一般的な方程式 { ax + by = p cx + dy = q (4.1) をまず解いてみよう。y を消去するために (1) × d − (2) × b を計算する。また x を消去するために (1) × c − (2) × a を計算する。その結果 { (da − bc)x = dp − bq (cb − ad)y = cp − aq. (2) × (−1) (と掛け算の交換法則)により { (ad − bc)x = pd − bq (ad − bc)y = aq − pc. (4.2) このように書き換えると、左辺の係数は同じになる。 定義 4.1.4 上の2次正方行列 A に対して det(A) := ad − bc と定義し、A の行 列式という。det(A) の代わりに |A| とも書く。また次のような書き方もする: a b c d = ad − bc このように定義すると、(4.2) の左辺の係数ばかりでなく、右辺の係数も行列 式であらわされる: a b p b x = q d c d (4.3) a p a b y = c q c d 例 4.1.5 2 3 5 4 = 8 − 15 = −7, 問 4.1.6 次の行列式の値を求めよ. 4 3 (2) (1) 1 2 −3 2 3 −2 1 2 4 3 =6−6=0 3 4 (3) 2 1 4.1. 2次の行列式 解 4 3 (1) 1 2 91 = 5 (2) 1 4 2 = −5 3 3 (3) 2 定理 4.1.7 A を上のような2次正方行列とする。 (i) det(A) ̸= 0 ならば、A は可逆行列で [ ] 1 d −b −1 A = a det(A) −c であり、連立方程式 { の解は次の唯一組である。 x= 4 = −5 1 (4.4) ax + by = p cx + dy = q p b q d a b c d y= a p c q a b c d (4.5) (ii) det(A) = 0 ならば、 { ax + by = 0 cx + dy = 0 (4.6) は非自明解をもち,A は可逆ではない。 (iii) det A ̸= 0 は A の逆行列 A−1 が存在する為の必要十分条件である. 定理 4.1.7 で与えられた解の公式 (4.5) は(2次の)クラーメル(またはクラ メール)1 の公式という。この公式は一般の次数の場合に後で拡張する。 定理13の証明 (i) det(A) ̸= 0 とする.定理 4.1.1 を利用して A の可逆性を調べてみよう。 x, y が方程式 { ax + by = 0 (4.7) cx + dy = 0 の解であるとする. p = 0, q = 0 として,(4.1) において p = 0, q = 0 として,上 の変形をすると,(4.3) より, 0 b a b x = 0 d =0 c d (4.8) a 0 a b y = c 0 =0 c d 1 Cramer 第 4 章 行列式 92 |A|x = 0, |A|y = 0 を満たすから,x = y = 0 である.従って定理 4.1.1 により, A は正則である.同じ定理 4.1.1 により,方程式 (4.1) は唯一組の解をもつ.解 の候補は (4.5) だけであり,これが解になる. 次に A−1 を計算する.そのために ] [ x1 x2 X := y1 y2 とおき、行列方程式 AX = E を解いてみる。 両辺の第1列、第2列をそれぞれ とりだすと { { ax1 + by1 = 1 ax2 + by2 = 0 cx1 + dy1 = 0 cx2 + dy2 = 1 この二つの方程式は前のように次の方程式に変形される a b 1 b a b 0 b x1 = x2 = 0 d 1 d c d c d a b c d a 1 y1 = c 0 a b c d a 0 y2 = c 1 右辺の行列式を計算してつぎの等式を得る。 |A|x1 = d |A|x2 = −b |A|y1 = −c |A|y2 = a したがって det(A) ̸= 0 ならば、解 x1 , x2 , y1 , y2 が一意的にきまり、(4.4) のよ うに A−1 = X が決まる。 (ii) det(A) = ad − bc = 0 とする.このとき (4.7) すなわち { ax + by = 0 (4.9) cx + dy = 0 は,次のような非自明解をもつ. • a = c = 0 ならば,x = 1, y = 0 は非自明解である. • a ̸= 0 とする.このとき x = −b, y = a は非自明解である.実際方程式に 代入して { ax + by = a(−b) + ba = 0 cx + dy = −bc + da = ad − bc = 0. • c ̸= 0 の場合は,同様に方程式に x = d, y = −c を方程式に代入してみる と,これは非自明解である. 従って定理 4.1.1 により,det(A) = 0 ならば,A は正則ではない. (iii) (i) と (ii) により (iii) が成り立つ. □ 4.1. 2次の行列式 93 問 4.1.8 次の積を計算して,ad − bc ̸= 0 のとき,A−1 が (4.4) のようになることを確 かめよ. [ ]( )[ ] ( )[ ][ ] 1 1 a b d −b d −b a b , c d −c a −c a c d ad − bc ad − bc 解実際検算してみると, [ ]( )[ 1 a b d c d −c ad − bc ( 1 ad − bc )[ d −c −b a ][ −b a a b c d ] [ ] 1 ad − bc −ab + ba ad − bc cd − dc −cb + da [ ] 1 0 = , 0 1 = ] [ ] 1 da − bc db − bd ad − bc −ca + ac −cb + ad ] [ 1 0 = 0 1 = であるから,A−1 が確かに (4.4) のようになる. [ 例 4.1.9 A = 3 4 5 6 ] とする.det(A) = 3 × 6 − 4 × 5 = −2 ̸= 0 であるから, A−1 が存在し, −1 A 1 = −2 [ 6 −4 −5 3 ] [ = −3 2 5/2 −3/2 ] 問 4.1.10 次の行列 A が逆行列をもつか否かを判定し,逆行列をもてば A−1 を 求めよ. [ ] [ ] 4 3 5 6 (1) A = (2) A = 6 5 3 4 [ ] [ ] [ ] 1/4 3 1/4 3 a −b (3) A = (4) A = (5) A = 1/6 5 1/2 6 b a 解 (1) det(A) = 2 ̸= 0 であるから,A−1 が存在し, [ ] [ ] 1 5 −3 5/2 −3/2 −1 A = = 2 −3 2 −6 4 (2) det(A) = 2 ̸= 0 であるから,A−1 が存在し, [ ] [ ] 1 4 −6 2 −3 −1 = A = −3/2 5/2 2 −3 5 (3) det(A) = 5/4 − 3/6 = 3/4 ̸= 0 であるから,A−1 が存在し, [ ] [ ] [ 4 1 5 −3 5 −3 20/3 = = A−1 = 3 −1/6 1/4 −1/6 1/4 −2/9 3 4 −4 1/3 ] 第 4 章 行列式 94 (4) det(A) = 6/4 − 3/2 = 0 であるから,A−1 は存在しない. (5) det(A) = a2 + b2 であるから,a = b = 0 ならば,det(A) = 0 であり,A−1 は存 在しない.あるいは A = O (零行列)であるから,逆行列はありえない.(a, b) ̸= (0, 0) ならば,det(A) ̸= 0 であるから,A−1 が存在し, [ ] [ ] 1 a b a/(a2 + b2 ) b/(a2 + b2 ) A−1 = 2 = −b/(a2 + b2 ) a/(a2 + b2 ) a + b2 −b a 問 4.1.11 次の連立方程式の解をクラーメルの公式を用いて求めよ。 { (1) 5x − 7y = 9 11x − 6y = 1 { (3) x/4 − y/5 = a x/6 − y/7 = b { (2) 0.3x + 0.05y = 0.1 −0.9x + 0.04y = 1 { (4) 99x + 101y = 1 98x + 102y = 1 解 (1) 5 a := 11 9 −7 = 47, a1 := −6 1 5 9 −7 = −94 = −47, a2 := −6 11 1 と計算して,x = a1 /a = −1, y = a2 /a = −2. (2) 0.3 0.05 0.1 0.05 a := = 0.057, a1 := −0.9 0.04 1 0.04 = −0.046, a2 := 0.3 0.1 = 0.39 −0.9 1 と計算して,x = a1 /a = −46/57, y = a2 /a = 390/57. (3) 1/4 −1/5 a −1/5 c := = −1/420, c1 := 1/6 −1/7 b −1/7 = −a/7 + b/5, 1/4 a = b/4 − a/6 c2 := 1/6 b と計算して,x = c1 /c = 60a − 84b, y = c2 /c = 70a − 105b. (4) 99 101 1 101 99 a := = 200, a1 := = 1, a2 := 98 102 1 102 98 と計算して,x = a1 /a = 1/200, y = a2 /a = 1/200. 行列式は次の性質をもつ。 1 =1 1 4.1. 2次の行列式 95 定理 4.1.12 (i) ある列を定数倍(k 倍)すると、行列式も定数倍(k 倍)される: ka b = k a b , a kb = k a b kc d c d c kd c d (ii) ある列が和に分解すると、行列式も和に分解する(列に関する分配法則) : a + a′ b a b a′ b = + c + c′ d c d c′ d a b + b′ c d + d′ a b = c d a b′ + c d′ (iii) 列が同じならば,行列式は零である. a a c c =0 列を入れ替えると行列式の符号がかわる: b a = − a b d c c d (iv) 行についても同じ性質が成り立つ。 問 4.1.13 上の定理を証明せよ。 2次の行列式には図形的意味がある. 定理 4.1.14 O(0, 0), P (a, b), Q(c, d) とするとき [ ] [ ] a c −−→ −−→ x = OP = , y = OQ = b d を2辺とする平行四辺形の面積 S は次のように計算される. a c の絶対値 = |ad − bc| S= b d 証明 x, y の間の角を θ, (0 ≤ θ ≤ π) とすると,S = ∥x∥∥y∥ sin θ である.し たがって S 2 = ∥x∥2 ∥y∥2 sin2 θ = ∥x∥2 ∥y∥2 (1 − cos2 θ). 内積を用いて ∥x∥2 ∥y∥2 cos2 θ = (⟨x, y⟩)2 第 4 章 行列式 96 と表されるから, S 2 = ∥x∥2 ∥y∥2 − (⟨x, y⟩)2 = (a2 + b2 )(c2 + d2 ) − (ac + bd)2 = a2 c2 + a2 d2 + b2 c2 + b2 d2 − (a2 c2 + 2acbd + b2 d2 ) = a2 d2 − 2adbc + b2 c2 = (ad − bc)2 ゆえに S = |ad − bc| である. □ −−→ −→ 例 4.1.15 A(2, 1), B(4, 4), C(8, 3)[とする, b =[AB,] AC = c を2辺とする平行 ] 2 6 四辺形の面積 S を計算する.b = , c= であるから, 3 2 2 6 S = 3 2 の絶対値 = |2 × 2 − 6 × 3| = | − 14| = 14 −−→ −→ 問 4.1.16 A, B, C の座標が次のとき,b = AB, AC = c を2辺とする平行四辺 形の面積 S を求めよ. (1) A(−1, −1), B(3, 1), C(−3, 2) (2) A(2, 1), B(−2, −2), C(−1, 3) 解 4 −2 −4 −3 の絶対値 = | − 17| = 17 (1) S = の絶対値 = 16 (2) S = 2 3 −3 2 4.2 3次の行列式 3次の正方行列 a1 a2 a3 A := b1 b2 b3 c1 c2 c3 を係数行列とする連立方程式 a1 x + a2 y + a3 z = p b1 x + b2 y + b3 z = q c1 x + c2 y + c3 z = r を解いてみる。y, z を消去して x だけの方程式を導こう。 (4.10) 4.2. 3次の行列式 97 (2),(3) 式から x, y, z のうちどれか一つを消去できる.z を消去するには (2) × c3 − (3) × b3 により (b1 c3 − b3 c1 )x + (b2 c3 − b3 c2 )y = qc3 − b3 r y を消去するには (2) × c2 − (3) × b2 により (b1 c2 − b2 c1 )x + (b3 c2 − b2 c3 )z = qc2 − rb2 これらの結果を行列式を用いてかくと,次のようになる. b1 b3 x + b2 b3 y = q b3 r c3 c2 c3 c1 c3 q b2 b1 b2 b3 b2 c1 c2 x + c3 c2 z = r c2 (4.11) (4.12) これらの計算は最初から2次行列式を用いて次のように実行できる.x, y, z が (2),(3) 式を満たすとする.すなわち { b1 x + b2 y + b3 z = q (4.13) c1 x + c2 y + c3 z = r が成り立つとき,z を消去して導き出された (4.11) を見ると,(4.11) の右辺を計算して 左辺になるはずであると気づく.実際,定理 4.1.12 による2次行列式の性質を用いて次 のように計算できる.x, y, z が (4.13) をみたすならば q b3 = b1 x + b2 y + b3 z b3 r c3 c 1 x + c 2 y + c 3 z c3 b1 x b3 b2 y b3 b3 z b3 = + + c1 x c3 c2 y c3 c3 z c3 b1 b3 b2 b3 b3 b3 z = x+ y+ c1 c3 c2 c3 c3 c3 b1 b3 b2 b3 y = x+ c1 c3 c2 c3 各段階の変形は次の通り:第1の変形は q, r を (4.13) の左辺で置き換えた,第2の変 形は行列式の列に関する分配法則をもちいた,第3の変形は列の x, y, z 倍から x, y, z をくくりだした,第4の変形は z の係数行列式の列が同じだから,その値を 0 とした. 行列式の第2,第3の性質を行列式の列に関する多重線形性といい,第4の性質を行列 式は列に関して交代的であるという.まとめて行列式は列に関して交代的多重線形写像 であるという. 同様にして,次のようにして y を消去できる. q b2 = b1 x + b2 y + b3 z b2 r c2 c 1 x + c 2 y + c 3 z c2 b1 x b2 b2 y b2 b3 z b2 = + + c1 x c2 c2 y c2 c3 z c2 b1 b2 b2 b2 b3 b2 z = x+ y+ c1 c2 c2 c2 c3 c2 b1 b2 b3 b2 z = x+ c1 c2 c3 c2 第 4 章 行列式 98 (4.12) の第2項の行列式の列の順序を入れ替えると b2 b3 q b2 b1 b2 c1 c2 x − c2 c3 z = r c2 以上により,(4.10) の第1式とあわせて,x, y, z が (4.10) を満たすとき,次 の連立の式が成り立つ. a1 x +a2 y +a3 z = p q b3 b2 b3 b1 b3 = c1 c3 x + c2 c3 y r c3 b1 b2 b2 b3 q b2 x − z = c1 c2 c2 c3 r c2 第2、第3式の y, z の係数が同じ行列式を含むことに着目すると、次のように して y, z を消去できる。すなわち b2 b3 − (2) × a2 + (3) × a3 (1) × c2 c3 により { b a1 2 c2 = p b1 b3 − a 2 c1 c3 b2 b3 − a 2 c2 c3 b1 b3 + a 3 c1 c3 q q b3 + a 3 r r c3 } b2 x c2 b2 c2 (4.14) 定義 4.2.1 3次の正方行列 A の行列式 det(A) を (4.14) 式の x の係数により 定義する。すなわち a1 a2 a3 b2 b3 b1 b3 b1 b2 det(A) = b1 b2 b3 := a1 − a2 c1 c3 + a3 c1 c2 c c 2 3 c1 c2 c3 行列 A の i 行と j 列を除いてできる 2 次正方行列を Aij とおくと, det(A) = a1 |A11 | − a2 |A12 | + a3 |A13 | である. 例 4.2.2 次の行列式を計算する: 2 3 0 1 −2 4 = 2 × −2 4 − 3 × 1 4 5 0 −3 0 5 −3 0 + 0 × 1 −2 5 −3 = 2 × (0 − (−12)) − 3 × (0 − 20) = 24 + 60 = 84 4.2. 3次の行列式 99 問 4.2.3 次の行列式を計算せよ. 2 3 2 0 1 5 (1) −2 1 4 (2) 3 −2 −3 0 −3 5 0 4 0 5 −3 0 (3) 1 −2 4 2 3 0 2 6 0 (4) 1 −4 4 5 −6 0 解 (1) −84 (2) 84 (3) −84 (4) 168 このように3次の行列式を定義すると、(4.14) 式の右辺は A の第1列の成分 a1 , b1 , c1 をそれぞれ p, q, r でおきかえた行列の行列式である。したがって p a2 a3 a1 a2 a3 b1 b2 b3 x = q b2 b3 (4.15) c1 c2 c3 r c2 c3 3次の行列式についても,定理 4.1.12 の性質が成り立つ. まず列に関して次 の計算法則が成り立つ. 定理 4.2.4 (i) 行列の一つの列を k 倍すると,行列式も k 倍になる. (ii) 行列式は列に関して分配法則がなりたつ. (iii) 二つの列が同じならば,行列式は零である. (iii)’ 二つの列を入れ替えると,行列式は −1 倍される(行列式の符号が変わる). 証明 (i),(ii) は2次行列式の対応する性質をもちいて,3次行列式の定義式から直 接導き出すことができる. (iii) 第1列と第2列が同じならば a1 a1 a3 b1 b3 b1 b3 b1 b1 b1 b1 b3 = a1 c1 c3 − a1 c1 c3 + a3 c1 c1 c1 c1 c3 = a3 × 0 = 0. 第1列と第3列が同じならば a1 a2 a1 b1 b2 b1 = a1 b2 b1 − a2 b1 b1 + a1 c1 c1 c2 c1 c1 c2 c1 b1 b2 − a2 × 0 + a1 b 1 = −a1 c1 c1 c2 = 0 b1 b2 c1 c2 b2 c2 第 4 章 行列式 100 第2列と第3列が同じならば a1 a2 a2 b1 b2 b2 = a1 b2 b2 − a2 b1 b2 + a2 b1 b2 c2 c2 c1 c2 c1 c2 c1 c2 c2 = a1 × 0 = 0. (iii) より (iii)’ が導かれる.それを示すために A の第 j 列(j = 1, 2, 3)を 仮に αj とおき,det(A) = |α1 , α2 , α3 | と表す. (iii) より行列の第1列と第2列 が同じならば,行列式は零である.ゆえに |α1 + α2 , α1 + α2 , α3 | = 0 である.この式の左辺の行列式は (ii) を用いて次のように変形できる. |α1 + α2 , α1 + α2 , α3 | = |α1 , α1 + α2 , α3 | + |α2 , α1 + α2 , α3 | = |α1 , α1 , α3 | + |α1 , α2 , α3 | + |α2 , α1 , α3 | + |α2 , α2 , α3 | = |α1 , α2 , α3 | + |α2 , α1 , α3 | ゆえに |α1 , α2 , α3 | + |α2 , α1 , α3 | = 0 であるから, |α2 , α1 , α3 | = −|α1 , α2 , α3 |. 同様に他の列を入れ替えても符号がかわる. □ 補題 4.2.5 x, y, z が方程式 (4.10) の解ならば,(4.15) 式と,次の式が成り立つ. a1 a2 a3 a1 p a 3 b1 b2 b3 y = b1 q b3 , (4.16) c1 c2 c3 c1 r c3 a1 a2 a3 a1 a2 p b1 b2 b3 z = a2 b2 q (4.17) c1 c2 c3 a3 c 2 r 証明 (4.16) 式を示す. 方程式 (4.10) は次のように書き換えても同じである. a2 y + a1 x + a3 z = p b2 y + b1 x + b3 z = q c2 y + c1 x + c3 z = r (4.15) 式を導き出した方法により, a2 a1 a3 b2 b1 b3 c2 c1 c3 p a1 a3 y = q b1 b3 r c1 c3 4.2. 3次の行列式 101 が成り立つ. 左辺の行列式において第1列と第2列を入れ替え,右辺の行列式に おいて第1列と第2列を入れ替えると, a1 a2 a3 a1 p a 3 − b1 b2 b3 y = − b1 q b3 c1 c2 c3 c1 r c3 であるから,(4.16) が成り立つ. 同様に (4.17) も成り立つ. 特に方程式 (4.10) の右辺において,p = q = r = 0 の場,次が成り立つ. 系 4.2.6 x, y, z が同次方程式 a1 x + a2 y + a3 z = 0 b1 x + b2 y + b3 z = 0 c1 x + c2 y + c3 z = 0 (4.18) の解ならば, |A|x = 0, |A|y = 0, |A|z = 0 (4.19) が成り立つ. 定理 4.2.7 det(A) ̸= 0 ならば,方程式 (4.18) の解は x = y = z = 0 のみであ る.したがって係数行列 A は正則行列である.方程式 (4.10) の解は次のように 書ける(クラーメルの公式). p a 2 a3 a1 p a 3 a1 a2 p q b2 b3 b1 q b3 b1 b2 q r c2 c3 c1 r c3 c1 c2 r y= z= x= a1 a2 a3 a1 a2 a3 a1 a2 a3 b1 b2 b3 b1 b2 b3 b1 b2 b3 c1 c2 c3 c1 c2 c3 c1 c2 c3 証明方程式 (4.18) の解は,(4.19) を満たす. det(A) ̸= 0 ならば,この解は x = y = z = 0 のみであるから,定理 4.1.1 により,A は正則である.逆行列 A−1 が存在するから,任意の p, q, r に対して方程式 (4.10) の解 x, y, z が存在す る.方程式 (4.10) の解は,(4.15), (4.16),(4.17) を満たすから, 定理の解の公式 を得る. □ 定理 4.2.7 により det(A) ̸= 0 ならば,方程式 (4.19) の解は自明解のみである から,その対偶命題として次の系が成り立つ. 系 4.2.8 方程式 (4.19) が非自明な解をもてば,det(A) = 0. 3次行列式の列に関する性質(定理 4.2.4) は行に関しても成り立つ. 第 4 章 行列式 102 定理 4.2.9 (i) 行列の一つの行を k 倍すると,行列式も k 倍になる. (ii) 行列式は行に関して分配法則がなりたつ. (iii) 二つの行が同じならば,行列式は零である.二つの行を入れ替えると,行 列式は −1 倍される(行列式の符号が変わる). 証明 (i),(ii) は列の場合と同様,2次行列式の対応する性質をもちいて,3次 行列式の定義式から直接導き出すことができる. (iii) 例えば A の1行と2行が同じならば,方程式 (4.19) は実は { a1 x + a2 y + a3 z = 0 c1 x + c2 y + c3 z = 0 であるから,非自明な解 x0 , y0 , z0 があり,|A|x0 = 0, |A|y0 = 0, |A|z0 = 0 が成 り立つ. x0 , y0 , z0 の内に零でないものがあるから,det(A) = |A| = 0 を得る. A の他の行が同じであるときも,同様に det(A) = 0 を得る. このことと,(ii) を 用いて,A の二つの行を入れ替えると符号が変わる事を証明できる. 4.3 余因子行列と逆行列 定義 4.3.1 行列 A の行を列に並べ替えた行列を t A で表し,A の転置行列と いう. たとえば [ ] [ ] 2 −3 2 4 t A= =⇒ A = 4 1 −3 1 3 −2 1 3 0 5 4 −3 =⇒ t B = −2 4 −4 B= 0 5 −4 1 1 −3 1 定義 4.3.2 行列 A の i 行 j 列を除いてできる 2 × 2 行列を Aij とする. eで (−1)i+j |Aij | を A の (i, j) 余因子といい,これを成分とする 3 × 3 行列を A t e の転置行列 (A) e を A の余因子行列という. 表す. A [ ] a b 例 4.3.3 A = の場合には c d A11 = [d], A12 = [c], A21 = [b], A22 = [a] である.右辺は1行1列の行列である.したがって [ ] d −c e A= −b a [ ] d −b t e (A) = −c a 4.3. 余因子行列と逆行列 103 A の逆行列の公式 (4.4) は余因子行列を用いて次のように表される. [ ] a b 定理 4.3.4 2次正方行列 A = が逆行列をもつ必要十分条件は |A| ̸= 0 c d であり,このとき逆行列は次のように表される. [ ] 1 1 t e d −b −1 (A) = A = |A| |A| −c a a1 a2 a3 次に3次正方行列の場合に移ろう.定義により A = b1 b2 b3 ならば c1 c2 c3 +|A11 | −|A12 | +|A13 | e = −|A21 | +|A22 | −|A23 | A +|A31 | −|A32 | +|A33 | b1 b3 b1 b2 b b 2 3 + c2 c3 − c1 c3 + c1 c2 a2 a3 a1 a3 a1 a2 = − c2 c3 + c1 c3 − c1 c2 a2 a3 a1 a3 a1 a2 + − + b2 b3 b1 b3 b1 b2 A の余因子行列は,この行列の転置行列である. |A11 | −|A21 | |A31 | te |A22 | −|A32 | . A = −|A12 | |A13 | −|A23 | |A33 | 定理 4.3.5 3 × 3 行列 A の行列式が零でないならば,逆行列 A−1 が存在し,次 のように与えられる. |A11 | −|A21 | |A31 | 1 te 1 −|A12 | |A22 | −|A32 | A−1 = A= (4.20) |A| |A| |A13 | −|A23 | |A33 | 証明 |A| ̸= 0 ならば,定理 4.2.7 により A は逆行列をもつ.それは AX = E の解である.すなわち a 1 x 1 + a 2 y1 + a 3 z 1 = 1 b1 x1 + b2 y1 + b3 z1 = 0 (4.21) c1 x1 + c2 y1 + c3 z1 = 0 a 1 x 2 + a 2 y2 + a 3 z 2 = 0 b1 x2 + b2 y2 + b3 z2 = 1 c1 x2 + c2 y2 + c3 z2 = 0 (4.22) 第 4 章 行列式 104 a1 x3 + a2 y3 + a3 z3 = 0 b1 x3 + b2 y3 + b3 z3 = 0 c1 x3 + c2 y3 + c3 z3 = 1 の解を用いて,次のようになる. A−1 (4.23) x1 x2 x3 = y1 y2 y3 z1 z2 z3 上の三つの連立方程式の解をクラーメルの公式を用いて表すことにより,(4.20) を得る.たとえば x1 , y1 , z1 を計算する. クラーメルの公式により ) 1 a2 a3 ( 0 b3 0 b2 b2 b3 1 1 0 b b + a x1 = − a = 1 × 2 3 3 2 c2 c3 0 c3 0 c2 |A| |A| 0 c2 c3 ( ) 1 b2 b3 |A11 | = − a2 × 0 + a3 × 0 = c2 c3 |A| |A| y1 = = z1 = = a 1 a3 1 1 b1 0 b3 |A| c1 0 c3 ( 1 a1 × 0 − |A| ) ( = 1 a1 × 0 b3 − 1 × b1 b3 + a3 b1 0 0 c3 |A| c1 c3 c1 0 ) −|A12 | b1 b3 + a3 × 0 = c1 c3 |A| a1 a2 1 ( 1 1 b b 0 a × = 1 2 1 |A| |A| c1 c2 0 ( b b 1 a1 × 0 − a2 × 0 + 1 2 c1 c2 |A| ) b1 0 b1 b2 b2 0 − a2 × +1× c2 0 c1 0 c1 c2 ) = |A13 | |A| このようにして (4.20) の右辺の行列の第1列を得る.ゆえに b2 b3 c2 c3 x1 |A11 | b1 b3 1 y1 = 1 −|A12 | = − a1 a2 a3 c1 c3 |A| z1 |A13 | b1 b2 b3 b1 b2 c1 c2 c1 c2 c3 x2 , y2 , z2 に関する方程式 (4.22) は並べる順序をかえると b1 x2 + b2 y2 + b3 z2 = 1 a1 x2 + a2 y2 + a3 z2 = 0 c1 x2 + c2 y2 + c3 z2 = 0 (4.24) (4.25) 4.3. 余因子行列と逆行列 105 となる.方程式 (4.21) において a と b を入れ替え,x1 , y1 , z1 をそれぞれ x2 , y2 , z2 と書き換えると方程式 (4.25) になる.ゆえに (4.26) において x1 , y1 , z1 を x2 , y2 , z2 と書き換え,文字 a と b を入れ替えて,x2 , y2 , z2 が得られる. a2 a3 c2 c3 x2 a1 a3 1 y2 = − (4.26) b1 b2 b3 c1 c3 z2 a1 a2 a3 a1 a2 c1 c2 c1 c2 c3 ここで a1 a2 a3 b1 b2 b3 a1 a2 a3 = − b1 b2 b3 c1 c2 c3 c1 c2 c3 であるから, a2 a3 − c2 c3 −|A21 | a1 a3 = 1 |A22 | + |A| c c a3 1 3 −|A23 | b3 c3 − a1 a2 c1 c2 x2 1 y2 = a1 a2 z2 b1 b2 c1 c2 これは (4.20) 式の右辺の行列の第2列である. 同様に (4.20) 式の右辺の行列の第3列も得られる. □ 例 4.3.6 次の行列 A の逆行列を求めよ. 2 0 −1 2 3 A = −1 −4 −2 −1 A の (i, j) 余因子 (−1)i+j |Aij | を計算する. −1 2 3 3 −2 −1 = 4, − −4 −1 = −13, 0 −1 = 2, − −2 −1 0 −1 = 2, 2 3 −1 2 −4 −2 = 10, 2 −1 0 = −6, − 2 −4 −2 = 4, −4 −1 2 0 2 −1 = 4, = −5, − −1 2 −1 3 第 4 章 行列式 106 ゆえに 4 −13 10 e = 2 −6 4 A 2 −5 4 4 2 2 te A = −13 −6 −5 10 4 4 また A の行列式は |A| = 2 × |A11 | − 0 × |A12 | + (−1) × |A13 | = 2 × 4 − 10 = −2 ゆえに A−1 = ( 1 −2 ) −2 −1 −1 te 5 3 A = 13 2 2 −5 −2 −2 問 4.3.7 次の行列の逆行列を求めよ. 1 −1 −2 3 1 , (1) A = −1 −1 −2 3 5 −2 1 (2) B = 2 −1 1 2 −2 3 解 (1) A の (i, j) 余因子 (−1)i+j |Aij | を計算する. 3 1 3 = 11, − −1 1 = 2, −1 −2 3 −1 3 −1 −2 = 5, −1 −2 = 7, 1 −2 = 1, − 1 −1 = 3, − −2 3 −1 3 −1 −2 −1 −2 = 5, − 1 −2 = 1, 1 −1 = 2, 3 1 −1 1 −1 3 ゆえに 11 2 5 e= 7 1 3 A 5 1 2 11 7 5 te A= 2 1 1 5 3 2 また A の行列式は |A| = 1 × |A11 | − (−1) × |A12 | + (−2) × |A13 | = 11 − 2 − 2 × 5 = −1 ゆえに A−1 = ( 1 −1 ) −11 −7 −5 te A = −2 −1 −1 −5 −3 −2 (2) B の (i, j) 余因子 (−1)i+j |Bij | を計算する. 2 −1 2 1 −1 1 −2 3 = −1, − 2 3 = −4, 2 −2 = −2, 4.3. 余因子行列と逆行列 107 −2 1 5 − = 4, −2 3 2 −2 1 = −1, − 5 −1 1 2 ゆえに 5 1 = 13, − 3 2 5 1 = −3, 2 1 −1 −4 −2 e = 4 13 6 B −1 −3 −1 −2 = 6, −2 −2 = −1, −1 −1 4 −1 te B = −4 13 −3 −2 6 −1 また B の行列式は |B| = 5 × |B11 | − (−2) × |B12 | + 1 × |B13 | = 5 × (−1) + (−2) × (−4) − 2 = 1 ゆえに B −1 −1 4 −1 e = −4 13 −3 = tB −2 6 −1 問 4.3.8 次の行列の逆行列を求めよ. −1 2 1 (1) A = 1 2 1 −1 0 1 略解 (1) |A| = −4 3 2 1 (2) B = 2 0 3 1 1 0 2 −2 2 e = −2 0 −2 A 0 2 −4 であるから, A−1 1 2 −2 0 −2 1 −2 0 2 = 21 = −4 2 −2 −4 − 12 (2) |B| = −1 1 2 0 0 − 12 1 1 2 −3 3 2 e = 1 −1 −1 B 6 −7 −4 であるから, 3 −1 −6 −3 1 6 1 1 7 3 −1 −7 = −3 = −1 −2 1 4 2 −1 −4 B −1 第 4 章 行列式 108 4.4 3次の行列式の諸性質と正則性条件 前節では 3 次の正方行列に対して,行列式が零でなければ行列は正則である ことを示した. この節ではその逆も成り立つことを示す. 定理 4.4.1 行列式はある列の定数倍を他の列に加えても,値が変わらない.行 についても同じである. 証明 A の第 j 列を αj とおく.たとえば,行列式 |α1 , α2 , α3 | において第2列 に第1列の k 倍を加えると, |α1 , α2 + kα1 , α3 | = |α1 , α2 , α3 | + |α1 , kα1 , α3 | = |α1 , α2 , α3 | + k|α1 , α1 , α3 | = |α1 , α2 , α3 | + k0 = |α1 , α2 , α3 | 定理 4.4.1 を用いて,系 4.2.8 の逆が成り立つこと示す. 定理 4.4.2 det(A) = 0 ならば,方程式 (4.18) は非自明な解をもつ. 証明 A の第1列の成分がすべて零であるならば,x = 1, y = z = 0 は方程式 (4.18) の非自明な解である. A の第1列に零でない成分があるとする.このとき a1 ̸= 0 としてよい.そうでなく a1 = 0 で,たとえば b1 ̸= 0 の場合は方程式を書く順序をかえて第1式と第2式を入れ 替える. このようにしても方程式の解は変わらないし,係数行列は行が入れ替わるか ら,det(A) = 0 ならば,新しい方程式の係数行列の行列式も零である. 改めて a1 ̸= 0 とする.方程式 (4.18) を掃きだし法で解くことを考える.そのために 係数行列を基本変形する.A の第2行に第1行の −(b1 /a1 ) を加えた行列を B とする. その結果 B の (2, 1) 成分は零である.さらに B の第3行に第1行の −(c1 /a1 ) を加え た行列を C とする.その結果 C の (3, 1) 成分は零である. C は次のような形の行列に なる. a1 a2 a3 C = 0 b′2 b′3 0 c′2 c′3 C を係数行列とする方程式は a1 x +a2 y b′2 y c′2 y +a3 z +b′2 z +c′3 z = 0 = 0 = 0 (4.27) であり,方程式 (4.18) と同じ解をもつ. 定理 4.4.1 により,|C| = |B| = |A| である.仮 定 |A| = 0 により,|C| = 0 を得る. 行列式の定義より |C| = a1 |C11 | − a2 |C12 | + a3 |C13 |. C12 , C13 は共に第1列が零であるから,|C12 | = |C13 | = 0. したがって ′ b2 b′3 = a1 |C11 | = |C| = 0 a1 ′ c2 c′3 4.4. 3次の行列式の諸性質と正則性条件 109 を得る.a1 ̸= 0 であるから,|C11 | = 0 である.ゆえに定理 4.1.7 により, { ′ b2 y +b′2 z = 0 c′2 y +c′3 z = 0 は非自明な解をもつ.その解を y = y0 , z = z0 とし, x0 = −(a2 y0 + a3 z0 )/a1 とおくと,a1 x0 + a2 y0 + a3 z0 = 0 である.ゆえに x = x0 , y = y0 , z = z0 は (4.27) の非 自明な解である.したがって方程式 (4.18) は非自明解 x = x0 , y = y0 , z = z0 をもつ. 定理 4.4.3 (i) det(A) = 0 は同次方程式 (4.18) が非自明な解をもつための必要 十分条件である. (ii) det(A) ̸= 0 は A が正則であるための必要十分条件である. 証明 (i): 系 4.2.8 と,定理 4.4.2 より,(i) が成り立つ. (ii): (i) により,det(A) ̸= 0 は同次方程式 (4.18) の解が自明な解 x = 0 であ るための必要十分条件である.このことと,定理 4.1.1 により (ii) が成り立つ. □ 定理 4.4.2 の証明は次のように転置行列の行列式がもとの行列の行列式と等し いことの証明にも使える.その前に次のことを注意しよう.A のある列が零列 ならば,|A| = 0 である.たとえば第1列 α1 = 0 ならば,α1 = 0α1 であるから |A| = |0α1 , α2 , α3 | = 0|α1 , α2 , α3 | = 0|A| = 0. 同様に A のある行が零行ならば,|A| = 0 である. 定理 4.4.4 |t A| = |A| 証明 A の第1列が零列ならば,t A の第1行は零行であるから, |A| = 0, |t A| = 0. 以下 A の第1列が零列でない場合を考える.A の (1, 1) 成分が 0 でないなら ば定理 4.4.2 の証明のように A は行基本変形により C に変形できて, ′ a1 a2 a3 b2 b′3 ′ ′ ′ ′ ′ ′ |A| = |C| = 0 b2 b3 = a1 ′ ′ = a1 (b2 c3 − b3 c2 ) c c 2 3 0 c′ c′ 2 3 である.t A は A の行を列にかえたものであるから,t A を列基本変形により, に変形できて ′ a1 0 0 b2 c′2 t t ′ ′ = a1 (b′2 c′3 − c′2 b′3 ) | A| = | C| = a2 b2 c2 = a1 ′ b3 c′3 a3 b′ c′ 3 3 tC 第 4 章 行列式 110 ゆえに |A| = |t A| である. A の (1, 1) 成分が 0 のときは,A の行を入れ替えて (1, 1) 成分が 0 でないよ うにできる.たとえば a1 = 0, b1 ̸= 0 のときは,A の第1行と第2行を入れ替 えた行列を A1 とすると,|A1 | = −|A| である.A1 の (1, 1) 成分は 0 ではない から,すでに証明したように |A1 | = |t A1 | である.t A1 は t A の第1列と第2列 を入れ替えた行列になっているから,|t A1 | = −|t A| である.ゆえに |A| = −|A1 | = −|t A1 | = |t A|. □ 定理 4.4.3 は,行基本変形を用いて導き出すこともできる. 補題 4.4.5 正方行列 A を行(列)基本変形して B ができるとする.このとき det A ̸= 0 ⇐⇒ det B ̸= 0 (4.28) det A = 0 ⇐⇒ det B = 0 (4.29) 証明 A のある行の定数倍を他の行に加えて B ができる場合には,定理 4.4.1 により,det B = det A である.A の二つの行を入れ替えて B ができる場合に は, 定理 4.2.9 により,det B = − det A である.A の1つの行を k 倍(ただし k ̸= 0)して B ができる場合には, 定理 4.2.9 により,det B = k det A である. 以上いずれの変形の場合にも det A ̸= 0 ならば det B ̸= 0 である. また A を基本変形して B になるならば,B を基本変形して A に戻すことも できる.ゆえに det B ̸= 0 ならば det A ̸= 0 である. したがって行基本変形の場合 (4.28) が成り立つ.列基本変形の場合も同様で ある. (4.28) と (4.28) とは同値である. □ 定理 4.4.6 正方行列 A に対して det A ̸= 0 は A が正則行列である必要十分条 件である. 証明 3次正方行列の場合に証明する.定理 3.3.4 により,rankA = 3 であるこ とが A が正方行列であることの必要十分条件である.A の簡約行列を B とする. det A ̸= 0 ならば,補題 4.4.5 により,det B ̸= 0 であり,逆もなりたつ.B は 単位行列であるか,零行を含む階段行列であるか何れかであるから,det B ̸= 0 は B が単位行列であることと同値である.B が単位行列であることとが3次正 方行列 A の階数が 3 であることである.したがって det A ̸= 0 ⇐⇒ rankA = 3 であり,定理が成り立つ. □ 問 4.4.7 次の行列 A の行列式を求めよ.また A が可逆行列であるための a の 条件を求め,そのときの A−1 を求めよ. a 2 1 A = −1 a 1 −1 0 1 4.5. 4次以上の行列式 111 e を計算すると次のようになる. 解最初に (−1)i+j |Aij | を成分とする行列 A a 0 a e = −2 a+1 −2 A 2 2 − a −a − 1 a + 2 これより,この右辺の行列の第1行を参照して |A| = a|A11 | + 2(−|A12 |) + 1 × |A13 | = a × a + 2 × 0 + a = a2 + a A が可逆行列である条件は |A| ̸= 0 であるから,a2 + a ̸= 0 のとき,すなわち a ̸= 0, −1 のとき A−1 がある.そのとき a −2 2−a 1 1 te 0 a + 1 −a − 1 A= 2 A−1 = |A| a +a a −2 a2 + 2 4次以上の行列式 4.5 3次の行列式を導入した上の方法は、4次の場合にも適用でき、4次の行列 式は3次の行列式を用いて定義される。さらに5次の行列式は4次の行列式を もちいて定義される。一般に n − 1 次までの行列式が定義されると、n 次の行 列式が次のようにして定義される。 A を n 次正方行列とする。その第 i 行と第 j 列と取り去って(ぎゅっと縮め て)残った成分でできる n − 1 次正方行列を Aij で表す。こうしてできる n2 個 の行列を A の n − 1 次小行列という。 定義 4.5.1 n 次正方行列 A の行列式 det(A) = |A| は n − 1 次の行列式を用い て次のように定義する: |A| := n ∑ (−1)j−1 a1j |A1j | j=1 = a11 |A11 | − a12 |A12 | + a13 |A13 | − a14 |A14 | + · · · + (−1)n−1 a1n |A1n | このような定義を帰納的定義という。 例 4.5.2 (i, j) 成分が aij である n × n 行列 A の行列式 |A| にたいして, n = 1, 2, 3, 4 の順序で上の定義を適用する. n = 1 のときは |a11 | = a11 n = 2 のときは a11 a12 a21 a22 = a11 a22 − a12 a21 第 4 章 行列式 112 n=3 a11 a21 a31 のときは n=4 a11 a21 a31 a41 のときは a12 a13 a22 a23 a32 a33 a12 a22 a32 a42 a13 a23 a33 a43 = a11 a22 a23 a32 a33 a14 a24 a34 a44 − a12 a21 a23 a31 a33 + a13 a21 a22 a31 a32 a21 a23 a24 a22 a23 a24 = a11 a32 a33 a34 − a12 a31 a33 a34 a41 a43 a44 a42 a43 a44 a21 a22 a23 a21 a22 a24 +a13 a31 a32 a34 − a14 a31 a32 a33 a41 a42 a43 a41 a42 a44 3次までの行列式と同様に次の定理が成り立つ. 定理 4.5.3 n 次正方行列 A に対して次が成り立つ. (i) |A| ̸= 0 は A が正則行列である必要十分条件である. (ii) |A| ̸= 0 のとき,連立方程式 Ax = p (x, p ∈ Rn ) の解 x の第 i 成分 xi は 行列式を用いて次のように表される(クラーメルの公式) :A の第 i 列を ai とお くと |a1 , a2 , · · · , ai−1 , p, ai+1 , · · · , an | (1 ≤ i ≤ n) xi = |a1 , a2 , · · · , ai−1 , ai , ai+1 , · · · , an | (右辺の分母は A の行列式,分子は A の第 i 列を p で置き換えた行列の行列式) 例 4.5.4 2 3 0 1 −2 4 5 −3 0 1 3 −1 4 0 2 0 −2 1 4 0 4 0 = 2 × −3 0 2 − 3 × 5 0 2 3 −1 0 1 −1 0 1 −2 1 −2 0 4 0 +0 × 5 −3 2 − 4 × 5 −3 1 1 3 −1 3 0 = 2 × 20 − 3 × 10 + 0 × (−10) − 4 × 65 = −250 Excel による行列式計算 Excel は行列式を計算する関数 MDETEM を内臓し ている (MDETER=matrix determinant). 例えば上の4次の行列式を計算する. Excel のワークシートの A1 セルから,D4 セルの範囲に成分を記入する. 4.5. 4次以上の行列式 1 2 3 4 5 113 A 2 1 5 1 B 3 -2 -3 3 C 0 4 0 -1 D 4 0 2 0 E F A5 セルにおいて行列式の値を求める.そのために A5 セルに次の数式を記入 して enter key を押すと,計算結果の −250 が A5 セルに表示される. = MDETERM(A1 : D4) MDETERM の代わりに小文字 mdeterm でもよい.キーボードからこの数式を 直接記入してもよいが,次のようにもできる. • まず A5 セルに=MDETERM( と記入 • 次に行列式の計算範囲をマウスで指定する.A1 セルを左クリックして D4 セルまでドラッグすると,A5 セルの表示が=MDETERM(A1:D4 に変わ る.最後にカッコをキーボードから入力して=MDETERM(A1:D4) にか え,enter key を押す. なお MDETERM をキーボードから入力する代わりに次のようにしてもよい. • まず A5 セルに= と記入 • ワークシートメニューバーの「挿入」をクリック • 表れた一覧表の「関数」をクリック • 表れた枠内の右上すみの「検索開始」をクリック • 関数の分類の枠横の▼をクリックして出てくる表から「数学/三角」をク リック • 関数名の一覧表から MDETERM をクリック なおホームページ講義録欄の Excel による行列式計算2 も参照せよ. 問 4.5.5 次の行列式を計算せよ。 0 0 4 0 −1 3 2 4 4 −2 1 0 3 (2) 3 −2 −3 (1) 1 5 1 2 0 −3 5 2 −1 4 0 2 0 3 1 0 2 成城大学名誉教授 関本年彦先生提供 (3) 1 −2 4 2 3 0 5 −3 0 1 3 −1 0 4 2 0 第 4 章 行列式 114 解 (1) 250 (2) 250 (3) 250 2次,3次の行列式の性質は一般の場合にも成り立つ. 定理 4.5.6 (i) ある列を k 倍すると,行列式も k 倍になる. (ii) 行列式は各列に関して分配法則がなりたつ. (iii) 行列式は二つの列が同じならば,零である.二つの列を入れ替えると行 列式は −1 倍される(符号がかわる). (iv) ある列に他の列の定数倍を加えても行列式は変わらない. (v) 行に関しても (i,ii,iii,iv) がなりたつ. (vi) 転置行列の行列式はもとの行列の行列式に等しい:|t A| = |A|. n × n 行列 A の逆行列は AX = E の解であるから,クラーメルの公式を用 いてとける.その結果は次のように表される.A から i 行 j 列を除いた行列を e とおき,その転置 Aij とし,(−1)i+j |Aij | を (i, j) 成分とする n × n 行列を A 行列 |A11 | −|A21 | |A31 | . . . (−1)n+1 |An1 | −|A12 | +|A22 | −|A32 | . . . (−1)n+2 |An2 | te A= ............................................................... (−1)1+n |A1n | (−1)2+n |A2n | (−1)3+n |A3n | . . . (−1)n+n |Ann | を A の余因子行列という. 定理 4.5.7 |A| = ̸ 0 のとき,A の逆行列は次のように与えられる. A−1 = 1 te A |A| 証明 AX = E の解 X の (i, j) 成分を xij とおくと, X の第 j 列 xj は Axj = ej を満たす.クラーメルの公式により,xj の第 i 成分 xij は A の第 i 列を ej で置き換えた行列の行列式を A の行列式で割った値である: xij = |a1 , a2 , . . . , ai−1 , ej , ai+1 , . . . , an | |A| 分子の行列式の行列を Aj とおき,その第 k 行を αk とおく.k ̸= j ならば, αk = [ak1 , ak2 , . . . , ak,i−1 , 0, ak,i+1 , . . . , akn ] k = j ならば αj = [aj1 , aj2 , . . . , aj,i−1 , 1, aj,i+1 , . . . , ajn ] 4.6. 3 次,4次以上の行列式の展開 115 Aj の第 j 行 αj を上の行 αj−1 と入れ替え,さらに上の行 αj−2 と入れ替え, この操作を j − 1 回繰り返して αj を第1行まで移動させると |Aj | = j−1 = (−1) = − 2 = (−1) j−1 = (−1) αj α1 α2 ... αj−1 αj+1 ... αn aj1 aj2 . . . aj,i−1 1 aj,i+1 . . . aj.n a11 a12 . . . a1,i−1 0 a1,i+1 . . . a1.n a21 a22 . . . a2,i−1 0 a2,i+1 . . . a2.n ..................................................... aj−1,1 aj−1,2 . . . aj−1,i−1 0 aj−1,i+1 . . . aj−1,n aj+1,1 aj+1,2 . . . aj+1,i−1 0 aj+1,i+1 . . . aj+1,n ..................................................... an,1 an,2 . . . an,i−1 0 an,i+1 . . . an,n α1 α2 ... αj−1 αj αj+1 ... αn α1 α2 ... αj αj−1 αj+1 ... αn α1 α2 ... αj αj−2 αj−1 αj+1 ... αn = (−1)j−1 (−1)i−1 |Aji | 以上により,xij = (−1)j+1 |Aji |. 4.6 □ 3 次,4次以上の行列式の展開 前節で帰納的に定義された行列式が,行列の成分を用いてどのように表され るかを調べよう。 n 次正方行列 A の (i, j) 成分を aij で表し、|A| = det(A) を計算する。まず n = 2 の場合は a11 a12 a21 a22 = a11 a22 − a12 a21 = a11 a22 − a21 a12 これを用いて n = 3 の場合は次のようになる: a11 a12 a13 a21 a22 a23 = a11 a22 a23 − a12 a21 a23 a31 a33 a32 a33 a31 a32 a33 + a13 a21 a22 a31 a32 = a11 (a22 a33 − a23 a32 ) − a12 (a21 a33 − a23 a31 ) +a13 (a21 a32 − a22 a31 ) = a11 a22 a33 + a12 a23 a31 + a13 a21 a32 第 4 章 行列式 116 −a11 a23 a32 − a12 a21 a33 − a13 a22 a31 = a11 a22 a33 + a31 a12 a23 + a21 a32 a13 −a11 a32 a23 − a21 a12 a33 − a31 a22 a13 n = 3 の場合のこの展開式をサラス(Sarrus)の公式という。 例 4.6.1 2 1 3 0 4 5 = 56 + 40 + 0 − (96 + 0 + 60) = 96 − 156 = −60 8 6 7 問 4.6.2 サラスの公式を用いて次の行列式を計算せよ. 3 −2 1 −2 1 4 1 −2 4 2 4 (2) −3 2 0 (3) 2 −3 0 (1) 5 −3 −1 7 1 5 3 5 1 3 解 (1) 149 (2) − 71 (3) 71 n = 4 の場合の展開式はサラスの公式のように単純ではない.定義式にした がって計算すると, a11 a12 a13 a14 a21 a22 a23 a24 a31 a32 a33 a34 a41 a42 a43 a44 a22 a23 a24 a21 a23 a24 = a11 a32 a33 a34 − a12 a31 a33 a34 a42 a43 a44 a41 a43 a44 a21 a22 a24 a21 a22 a23 +a13 a31 a32 a34 − a14 a31 a32 a33 a41 a42 a44 a41 a42 a43 = a11 a22 a33 a44 − a11 a22 a34 a43 − a11 a23 a34 a42 +a11 a23 a32 a44 + a11 a24 a32 a43 − a11 a24 a33 a42 −a12 a21 a33 a44 + a12 a21 a34 a43 + a12 a23 a34 a41 −a12 a23 a31 a44 − a12 a24 a31 a43 + a12 a24 a33 a41 +a13 a21 a32 a44 − a13 a21 a34 a42 − a13 a22 a34 a41 +a13 a22 a31 a42 + a13 a24 a32 a43 − a13 a24 a31 a42 −a14 a21 a32 a43 + a14 a21 a33 a42 + a14 a22 a33 a41 −a14 a22 a31 a43 − a14 a23 a31 a42 + a14 a23 a32 a41 4.6. 3 次,4次以上の行列式の展開 117 このように n = 4 の場合は4個の3次行列式をもちいて展開されるから、足し たり引いたりする項の個数は 6 × 4 = 24 項となる。 4 次の行列式の展開式を用いて,さらに 5 次の行列式 は 24 × 5 = 120 項の足 し算引き算で表される。一般に n 次の行列式は n! = 1 × 2 × 3 × · · · × n 個の項 ±a1j1 a2j2 a3j3 · · · anjn の和で表され,膨大な展開式である.それを以下で求めてみよう. n 次単位行列 E の第 j 行を ej とおく. たとえば n = 4 のときは e1 = [1, 0, 0, 0], e2 = [0, 1, 0, 0], e3 = [0, 0, 1, 0], e4 = [0, 0, 0, 1] であり,4次単位行列 E は行に分解して e1 e2 E= e3 e4 と表される.同様に 4 次正方行列 A はその第 i 行 ai = [ai1 , ai2 , ai3 , ain ] を用いて, A は行に分解して a1 a2 A= a3 a4 と表される. 数列 {1, 2, · · · , n} を並べ替えてできる数列 J = {j1 , j2 , · · · , jn } を n 順列と いい,n 順列の全体を Pn である.これは n! 個の順列の集合である.たとえば P4 は次のように6個の3順列の集合である. {1, 2, 3}, {1, 3, 2}, {2, 1, 3}, {2, 3, 1}, {3, 1, 2}, {3, 2, 1} n 順列 J = {j1 , j2 , · · · , jn } に対し,第1行が ej1 , 第2行が ej2 ,..., 第 n 行が ejn である n 次正方行列を EJ とおく.これは単位行列 E の行を並べ替えた行列で ある.たとえば,J = {3, 1, 4, 2} ならば, 0 0 1 0 e3 e1 1 0 0 0 (4.30) EJ = e4 = 0 0 0 1 0 1 0 0 e2 第 4 章 行列式 118 このとき det(EJ ) = ±1 である.たとえば (4.30) の場合,行列式の定義にした がって計算すると 1 0 0 0 1 = −1. |EJ | = 1 × 0 0 1 = 1 × 1 0 0 1 0 |EJ | を J の符号といい,|EJ | = 1 のとき J は遇順列であるといい,|EJ | = −1 のとき J は奇順列であるという.この値を用いて一般の行列式は成分により次 のように表される. 定理 4.6.3 n 次正方行列 A の (i, j) 成分を aij とすると,A の行列式 |A| は 次のように表される. ∑ |A| = |EJ |a1j1 a2j2 · · · anjn (4.31) J∈Pn 右辺の和は,n 順列 J 全体について |EJ |a1j1 a2j2 · · · anjn を作りそれを足し合わ せることを表す. 証明 たとえば n = 4 として証明する.A の第 i 行 ai は e1 , e2 , e3 , e4 を用い て次のように表される. ai = [ai1 , ai2 , ai3 , ai4 ] = [ai1 , 0, 0, 0] + [0, ai2 , 0, 0, 0] = [0, 0, ai3 , 0] + [0, 0, 0, ai4 ] = ai1 e1 + ai2 e2 + ai3 e3 + ai4 e4 4 ∑ = aij ej j=1 したがって |A| は次のように展開される.たとえば n = 4 の場合 a1 a11 e1 + a12 e2 + a13 e3 + a14 e4 a2 a21 e1 + a22 e2 + a23 e3 + a24 e4 |A| = = a31 e1 + a32 e2 + a33 e3 + a34 e4 a 3 a4 a41 e1 + a42 e2 + a43 e3 + a44 e4 の右辺を行列式の行に関する分配法則を用いて展開すると a1j1 ej1 ∑ a2j2 ej2 |A| = a3j ej 3 3 j1 ,j2 ,j3 ,j4 =1,2,3,4 a4J4 ej4 ej 1 ∑ ej 2 = a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 e j 3 j1 ,j2 ,j3 ,j4 =1,2,3,4 ej 4 ∑ = a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 |Ej1 j2 j3 j4 | j1 ,j2 ,j3 ,j4 =1,2,3,4 (4.32) (4.33) 4.6. 3 次,4次以上の行列式の展開 119 右辺の和は j1 , j2 , j3 , j4 の各々が 1, 2, 3, 4 のどれかの値をとるときの総和であ る.ここで j1 , j2 , j3 , j4 の中に同じ値をとるものがあれは Ej1 j2 j3 j4 の二つの行が 同じになるから,|Ej1 j2 j3 j4 | = 0 である.たとえば 0 1 0 0 0 0 1 0 =0 |E2,3,1,2 | = 1 0 0 0 0 1 0 0 右辺の第1行と第4行が同じであるから,行列式は零である.したがって (4.33) の和は,j1 , j2 , j3 , j4 が互いに異なる場合の和に等しい.ゆえに ∑ |A| = a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 |EJ |. (4.34) J∈P4 これは定理の展開式の n = 4 の場合である. □ n 次正方行列 B の第 i 行を bi = [bi1 , bi2 , · · · , bin ] とおき,B を行に分解して b1 b2 B= . .. bn のように表す.n 順列 J = {j1 , j2 , · · · , jn } に対して BJ を bj1 bj 2 BJ = . .. (4.35) bjn とおく.BJ は B の行をいれかえてできる行列である.B の二つの行だけ入れ 替えることを B の行の互換という.B からはじめて互換を何回かくりかえして, BJ ができる.あるいは BJ からはじめて行の互換を何回か繰り返して B がで きる. 行列の行の互換により行列式は符号が変わる.したがって BJ からはじめて行 の互換を r 回行って B ができるとすると,|B| = (−1)r |BJ | である.あるいは |BJ | = (−1)r |B| (4.36) が成り立つ. 例 4.6.4 B が6次正方行列とし,J = {3, 5, 1, 2, 6, 4} によりできる BJ は,次 のような行の互換により B になる. b1 b1 b1 b1 b3 b3 b2 b2 b3 b3 b1 b4 b1 → b4 → b4 → b2 → b3 → b3 BJ = (1) b2 (2) b2 (3) b4 (4) b4 (5) b4 = B b2 b5 b6 b6 b6 b6 b6 b5 b5 b5 b5 b5 b6 第 4 章 行列式 120 BJ の第3行にある b1 を順次上の行と入れ替える互換 (1),(2),(3) により,b1 が 第1行に来るようにする.次に互換 (4) により b2 を上の行と入れ替え b2 が第 2行に来るようにする.互換 (5) により b5 が第5行に来るようにする.以上5 回の互換により BJ が B になるから, |BJ | = (−1)5 |B| = −|B|. 他の行列 C の行を入れ替えて (4.35) と同様に CJ を作るとする.BJ からは じめて行の互換を r 回行って B ができるとすると,CJ からはじめて行の互換 を r 回行って C ができるから, det CJ = (−1)r det C が成り立つ.特に |EJ | = (−1)r |E| = (−1)r である.(4.36) が成り立つとき, ϵ(J) = (−1)r = |EJ | とおき,この値を順列 J の符号数という. このとき (4.36) 式は |BJ | = ϵ(J)|B| = |EJ ||B| (4.37) と表される. また定理 4.6.3 は次のように書き換えられる. 例 4.6.5 例 4.6.4 の BJ を次のように3回の互換を繰り返して B にすることも できる. b3 b1 b1 b1 b4 b4 b2 b2 → → → b1 b3 b3 b3 BJ = (1) b2 (2) b4 (3) b4 b 2 b6 b6 b6 b5 b5 b5 b5 b6 この場合にも |BJ | = (−1)3 |B| = −|B| である.ϵ(J) は例 4.6.4 によると ϵ(J) = (−1)5 = −1, 例によると ϵ(J) = (−1)3 = −1. BJ に互換を繰り返して B に変 形する方法は一通りではないが,繰り返す互換の回数が偶数であるか奇数であ るかは変形方法が異なっても同じになる.ϵ(J) = |EJ | と計算され,J が決まれ ば |EJ | = ±1 の値は決まる. 順列の符号数の記号を用いて,定理 4.6.3 は次のように書き換えられる. 定理 4.6.6 n 次正方行列 A の (i, j) 成分を aij とすると,A の行列式 |A| は 次のように表される. ∑ |A| = ϵ(J)a1j1 a2j2 · · · anjn (4.38) J∈Pn = ∑ J∈Pn ϵ(J)aj1 1 aj2 2 · · · ajn n (4.39) 4.6. 3 次,4次以上の行列式の展開 121 右辺の和は,各 n 順列 J = {j1 , j2 , · · · , jn } について ϵ(J)a1j1 a2j2 · · · anjn , ϵ(J)aj1 1 aj2 2 · · · ajn n を作り,全ての J ∈ Pn について足し合わせることを表す. 証明 ϵ(J) = |EJ | であるから,(4.38) は (4.31) を書き換えた式である.つぎ に A の転置行列を B とする:B = t A. 定理 4.5.6 の (vi) により,|t A| = |A| で あるから,|A| = |B| である.|B| は (4.38) により ∑ |B| = ϵ(J)b1j1 b2j2 · · · bnjn J∈Pn となる.A, B の (i, j) 成分を aij , bij とおくと,bij = aji であるから, b1j1 = aj1 1 , b2j2 = aj2 2 , · · · , bnjn = ajn n □. である.以上により (4.39) も成り立つ. 定義 4.6.7 J ∈ Pn のとき,a1j1 a2j2 · · · anjn を A の成分の基本積といい, ϵ(J)a1j1 a2j2 · · · anjn を A の成分の符号付き基本積という.符号付き基本積は n 順列の個数と同じく n! 通りある. 定理 4.6.8 n 次正方行列 A, B に対して |AB| = |A||B| が成り立つ. 証明 n = 4 として証明する.A の第 i 行を ai , B の第 i 行を bi とおく: ai = [ai1 ai2 ai3 ai4 ] bi = [bi1 bi2 bi3 bi4 ] b1 b2 AB の第 i 行は ai と B の積である.B を行に分解して B = b3 とす b4 ると, ai B = ai1 b1 + ai2 b2 + ai3 b3 + ai4 b4 である.したがって |AB| = a1 B a2 B a3 B a4 B = a11 b1 + a12 b2 + a13 b3 + a14 b4 a21 b1 + a22 b2 + a23 b3 + a24 b4 a31 b1 + a32 b2 + a33 b3 + a34 b4 a41 b1 + a42 b2 + a43 b3 + a44 b4 (4.40) 第 4 章 行列式 122 これは (4.32) における ej を bj に置き換えた式である.(4.32) から (4.34) を導 いた方法を用いて,(4.40) から, ∑ |AB| = a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 |BJ |. J∈P4 を得る.(4.37) を用いて ∑ a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 |BJ | = J∈P4 ∑ a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 |EJ ||B| J∈P4 = ∑ a1j1 a2j2 a3j3 a4j4 |EJ | |B| J∈P4 = |A||B| ゆえに |AB| = |A||B| である. □ 系 4.6.9 A の逆行列 A−1 があれば, |A−1 | = (|A|)−1 = 1 . |A| 証明 AA−1 = E であるから, |A||A−1 | = |AA−1 | = |E| = 1. □ ゆえに系が成り立つ. 4.7 行列式の計算 行列式は定義にしたがって計算すると膨大な計算になる。計算機の発達した 現在では、行列式の計算ソフトがいろいろあり、面倒な計算は計算機にまかせれ ばよいのではあるが、それでも行列式の性質をもちいて計算量を少なくするこ とが実際問題では重要である。 まず行列の成分中 0 が多い方が計算量は少なくなる。たとえばある列(また は行)の成分がすべて零ならば,行列式は零である. 例 4.7.1 いて 例えば第 1 列の成分がすべて零ならば,定理 4.5.6 の (i) の性質を用 0 1 −2 0 1 −2 0 × 0 1 −2 1 = 0 1 = 0 × 0 3 0 3 1 = 0 × 0 3 0 −2 4 0 −2 4 0 × 0 −2 4 第2行の成分がすべて零ならば, −3 1 −2 −3 1 −2 = 0×0 0×0 0×0 0 0 0 1 −2 4 1 −2 4 −3 1 −2 =0× 0 0 0 = 0 1 −2 4 4.7. 行列式の計算 123 対角成分の下の成分はすべて 0 である正方行列を上三角行列といい、対角成 分の上の成分はすべて 0 である正方行列を下三角行列という。両方あわせて三 角行列という。 3 −2 1 4 2 0 0 0 0 4 1 2 0 0 B = −1 3 A= 0 0 5 7 4 2 −5 0 0 0 0 4 3 0 2 4 とおくと、A は上三角行列、B は下三角行列である。 定理 4.7.2 三角行列の行列式は対角成分の積に等しい 証明 下三角行列の場合は、行列式の定義をくりかえし使って直ちに計算でき る。たとえば上の B の場合 −5 0 = 2 × 3 × (−5) × 4 = −60 |B| = 2|B11 | = 2 × 3 × 2 4 |A| の場合は行列のある列が零列ならば,行列式は零であることを用いて 4 1 2 0 1 2 |A| = 3 × 0 5 7 + (−2) × 0 5 7 0 0 4 0 0 4 0 4 2 0 4 1 +1 × 0 0 7 − 4 × 0 0 5 0 0 4 0 0 0 4 1 2 = 3 × 0 5 7 + (−2) × 0 + 1 × 0 − 4 × 0 0 0 4 4 1 2 = 3 × 0 5 7 0 0 4 以下同じ手法により 4 1 2 3 × 0 5 7 0 0 4 = 3 × 4 × 5 × 4 = 240 行列をいくつかのブロックに分割することを、行列の細胞分解といいその結 果できる小行列を細胞という。たとえば m × n 次の正方行列 M を、上から m 行目まで、左から m 列目までで横縦に区切ると4ブロックに分割できる: [ ] A B M= C D 第 4 章 行列式 124 ここで A は m 次正方行列、B は m × n 行列、C は n × m 行列、D は n 次 正方行列(正確にいえば、行列の括弧をはずしたもの)である。 定理 4.7.3 上のように M を細胞分割したとき、B = O(零行列) または C = O ならば |M | = |A||D|, すなわち A O A B C D = |A||D| O D = |A||D| 証明 B = O の場合、m に関する数学的帰納法で証明できる。m = 1 のとき は、行列式の定義から、直ちに |M | = a11 |D|. m = 2 のときは |M | = a11 a12 0 · · · 0 a21 a22 0 · · · 0 c11 c12 d11 · · · d1n . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . cn1 cn2 dn1 · · · dnn a22 0 · · · 0 a21 0 · · · 0 c12 d11 · · · d1n c11 d11 · · · d1n = a11 − a12 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . cn2 dn1 · · · dnn cn1 dn1 · · · dnn = a11 a22 |D| − a12 a21 |D| = (a11 a22 − a12 a21 )|D| = |A||D| m = 3 のときは、M の第1行について展開し m = 2 のときの結果を使って同 様に証明できる。一般の m に対して、m − 1 の場合成り立つとして同様に m の場合成り立つことを証明できる。 C = O の場合は M の第1列に関する展開を使えばよい。 定理 4.5.6 により,行列の行の基本変形を行うと,行列式は次のようになる. 定理 4.7.4 (i) ある行を k 倍すると,行列式も k 倍になる. (iii) 二つの行を入れ替えると行列式は −1 倍される(符号がかわる). (iv) ある行に他の行の定数倍を加えても行列式は変わらない. これを利用して正方行列を基本変形により上三角行列または定理 4.7.3 にある形 の行列に変形し、行列式を計算することができる。 例 4.7.5 次の行列式を上の方法で計算してみる。 1 −2 0 3 0 3 1 −2 2 5 3 −6 1 3 0 0 = 0 −3 −3 −2 6 1 −3 0 0 4 1 −1 4 1 −1 0 = − 1 −2 0 3 0 −3 −3 6 0 5 3 −6 0 4 1 −1 4.7. 行列式の計算 125 1 −2 0 1 = −1 × (−3) × 0 5 0 4 1 −2 −2 4 = 3 × 0 1 −3 7 1 −2 0 3 0 3 0 1 −2 1 1 −2 = 3 × 3 −6 0 −2 4 0 0 1 −1 0 −3 7 = 3 × 1 × (−2) = −6 始めの行列に基本変形 (2) + (1) × (−2), (3) + (1) × 2 をほどこして2番目の行列 に変形(このとき行列式の値は変わらない)、2番目の行列に基本変形 (2) ↔ (3) をほどこして3番目の行列に変形(このとき行列式の符号がかわる)、3番目の 行列の第2行の共通因数 −3 をくくりだし4番目の行列に変形、4番目の行列 に基本変形 (3) + (2) × −5, (4) + (2) × −4 をほどこして5番目の行列に変形、 5番目の行列は細胞分解しているので、その行列式は6番目の二つの行列式の 積になる。 問 4.7.6 次の行列式を計算せよ。 −1 1 1 1 2 21 −12 2 1 (1) 3 3 3 (2) −3 1 1 −1 0 4 4 4 3 4 1 3 3 −1 −2 0 −1 4 2 −1 −3 2 0 0 (3) 2 1 3 1 −1 −3 2 −2 4 2 1 −2 最後に定理 4.7.3 を使い簡約行列の一意性を証明する。 定理 4.7.7 行列の簡約行列は基本変形のとり方によらず、一意的である。 行列 A に基本変形することと、A に左から基本行列をかけることは同じである(ペー ジ??参照)。A から出発して k 回の基本変形で簡約行列 B になったとする。各回の基 本変形に対応する基本行列を F1 , F2 , · · · , Fk とすると B = Fk · · · F2 F1 A. 基本行列はすべて可逆行列であるから、F := Fk · · · F2 F1 は可逆行列で B = F A. A か ら出発して別の基本変形で簡約行列 C ができるとする。このとき上と同様にある可逆行 列 G を A に左からかけて C ができる:C = GA. 従って C = G(F −1 B) = (GF −1 )B. H = GF −1 とおくと、これは可逆行列で C = HB. このとき C = B を示せばよい。 一般形で考えると記号が複雑になるので、次の例で考えよう。B, C が 4 × 7 行列と する。このとき H は 4 × 4 行列である。さて h11 h12 h13 h14 1 2 5 0 3 0 8 h21 h22 h23 h24 0 0 0 1 4 0 5 C= h31 h32 h33 h34 0 0 0 0 0 1 0 h41 h42 h43 h44 0 0 0 0 0 0 0 とする。C は簡約行列、H は可逆行列である。まず B, C の第 j 列を、それぞれ bj , cj , j = 1, 2, · · · , 7, とおくと cj = Hbj である。H の第 i 列を hi , i = 1, 2, 3, 4 とおき、第 i 成 分が 1 他の成分は 0 である4次基準列ベクトルを ei , i = 1, 2, 3, 4, とおく。このとき h1 = e1 , h2 = e2 , h3 = e3 第 4 章 行列式 126 であることを証明する。まず C が簡約行列であるから、c1 = e1 . 一方右辺の掛け算で できる行列の第1列は h1 e1 = h1 であるから、e1 = h1 . そうすると HB の第2列は B の第2列の形から、2h1 = 2e1 になり、従って c2 = 2e1 = b2 . 同様に c3 = 5h1 = 5e1 = b3 . C が簡約行列であり、 c1 , c2 , c3 の第2成分以 下の成分がすべて 0 であるから、c4 の第3,4成分は 0 で、第2成分は 0 または 1 で ある。0 とすると c14 0 0 1 0 = c4 = Hb4 = He2 = H 0 = h2 0 0 より、h2 は第2,3,4成分がすべて 0 である。したがって 1 h12 h13 h14 0 0 h23 h24 H= 0 0 h33 h34 0 0 h43 h44 このとき |H| = 0 である。実際 1 h12 h33 |H| = 0 0 h43 h h34 = 0 × 33 h44 h43 h34 = 0. h44 これは H が可逆行列であることに反する。従って c4 の第2成分は 1 であり、e2 = c4 = Hb4 = He2 = h2 となり、 1 0 h13 h14 0 1 h23 h24 H= 0 0 h33 h34 0 0 h43 h44 H のこの形から c5 = 3h1 + 4h2 = 3e1 + 4e2 = b5 . C は簡約行列であるから、 c1 , c2 , c3 , c4 , c5 の第3, 4成分がすべて 0 ならば、c6 の第4成分は 0, 第3成分は 0 ま たは 1 である。0 とすると上と同様にして |H| = 0 となり、矛盾が生じる。したがっ て 1 であり、e3 = c6 = Hb6 = He3 = h3 . H = [e1 , e2 , e3 , h4 ] の形になり、これより c7 = 8h1 + 5h2 = b7 . 以上により、cj = bj , j = 1, 2, · · · , 7, となり、 C = B. 問 4.7.8 上の証明を一般のサイズの行列で行うと H はどのような行列になるか。 問 4.7.9 可逆行列はいくつかの基本行列の積として表される。なぜか。 127 第5章 行列式と産業連関表 産業連関表 5.1 インターネットの web 検索で産業連関表を検索してみると,総務省の生活統 括官のページに次のような説明がある.産業連関表は「経済活動は,産業相互 間,あるいは産業と家計などの間で密接に結びつき,互いに影響を及ぼし合って おり,このような各産業の投入と産出に関する経済取引を特定の1年間につい て一覧表にしたもの(5年ごと)」である.そして産業連関表を閲覧することが できる.実際の表は大きいので,単純化した次のようなモデルで考えてみよう. 数値は金額(円)を表す. 供給部門 計 1 農林水産 2 鉱業 3 製造業 付加価値 需要部門 1 農林水産 x11 x21 x31 u1 x1 2 鉱業 x12 x22 x32 u2 x2 3 製造業 x13 x23 x33 u3 x3 最終需要 c1 c2 c3 計 x1 x2 x3 この表を縦の列方向にみると標題の各産業がその産物を生産するのに要した 費用(投入:Input)がわかる. たとえば農林水産業は,農林水産業自信から x11 円,鉱業から x21 円,製造業から x31 円を購入し,付加価値 u1 円を捻出し,総 額 x1 かかった. またこの表を横の行方向にみると標題の各産業が生産した産物の販売額(産 出:Output)がわかる.たとえば農林水産業は,農林水産業に x11 円,鉱業に x12 円,製造業に x13 円を販売し,また家庭や政府などに(消費されるのみの) 最終需要 c1 円を販売し,その総計が x1 円である. 各産業部門ごとに,必要経費,販売額の収支が合うはずであるから,列方向 の総計と行方向の総計は同じである. 最初に横方向の総計をとると,各産業について次の式がなりたつ. x11 + x12 + x13 + c1 = x1 x21 + x22 + x23 + c2 = x2 x31 + x32 + x33 + c3 = x3 ここで aij = xij xj 第 5 章 行列式と産業連関表 128 とおく. この値は第 j 部門の産業の製品1単位を産出するのに第 i 部門から購入 した額を現し, (金額で表した)投入産出係数という.明らかに xij = aij xj であるから,上の第二の方程式は次のように書き直される. a11 x1 + a12 x2 + a13 x3 + c1 = x1 a21 x1 + a22 x2 + a23 x3 + c2 = x2 a31 x1 + a32 x2 + a33 x3 + c3 = x3 すなわち x1 x1 c1 a11 a12 a13 a21 a22 a23 x2 + c2 = x2 . c3 x3 a31 a32 a33 x3 aij を (i, j) 成分とする行列 A を(金額で表した)投入産出行列あるいはレオ ンチェフ(Leontief)行列という.また,x1 , x2 , x3 を成分とする列ベクトル x は産出額をあらわし,c1 , c2 , c3 を成分とするベクトル c は消費額をあらわす. Ax + c = x がなりたつから,x − Ax = c すなわち (E − A)x = c が成り立つ(E は単位行列).この連立1次方程式をレオンチェフの基本方程式 という. A をある年の産業連関表をもとにして計算して得ると, 実は E − A は正則行 列であることを証明できる(定理 5.1.3) 1 . 投入産出係数は年度によりそれほど 変化しないとする.そうすれば翌年度の消費ベクトル c を予測するとき,産出 ベクトル x は x = (E − A)−1 c に近いと予測でき,生産計画を立てるのに役立つ. 例 5.1.1 ある年の産業連関表が次のようになったとする. 需要部門 1 農林水産 2 鉱業 3 製造業 最終需要 供給部門 計 1 農林水産 1500 50 2000 1400 x1 2 鉱業 20 300 1000 100 x2 3 製造業 2500 900 4000 3000 x3 投入産出行列 A をもとめ,レオンチェフの基本方程式が成り立つことを確かめ よ. また det(E − A) を求めよ. 解 x1 = 1500 + 50 + 2000 + 1400 = 4950 x2 = 20 + 300 + 1000 + 100 = 1420 x3 = 2500 + 900 + 4000 + 3000 = 10400 1 津野義道, 「経済数学 II」,倍風館,p.176参照.この節及び次節の内容はこの 本を参照して作成した. 5.1. 産業連関表 129 0.30303 0.035211 0.192308 A = 0.00404 0.211268 0.096154 0.505051 0.633803 0.384615 0.69697 −0.03521 −0.19231 E − A = −0.00404 0.788732 −0.09615 −0.50505 −0.6338 0.615385 0.69697 −0.03521 −0.19231 4950 1400 (E − A)x = −0.00404 0.788732 −0.09615 1420 = 100 −0.50505 −0.6338 0.615385 10400 3000 det(E − A) = 0.338291 + (−0.001709949) + (−0.00049) −(0.076606 + 0.0000875494 + 0.042475) = 0.336088 − 0.119168 = 0.21692 det(E − A) ̸= 0 であるから,E − A は正則行列である. 問 5.1.2 ある年の産業連関表が次のようになったとする. 需要部門 1 農林水産 2 鉱業 3 製造業 最終需要 計 供給部門 1 農林水産 1600 60 2100 1500 x1 2 鉱業 30 400 1100 200 x2 3 製造業 2600 1000 4500 3500 x3 投入産出行列 A をもとめ,レオンチェフの基本方程式が成り立つことを確かめ よ. また det(E − A) を求めよ. レオンチェフの基本方程式 (E − A)x = c においては,単に解があるだけでは 十分ではなく,ベクトル c, x の成分が負では意味がない.c の成分が正または 零のとき,解 x の成分も正または零であるだろうか.この問題には次の答えが 用意されている. ベクトル x = [x1 , x2 , · · · , xn ] において,xi > 0, i = 1, 2, · · · , n のとき,x > 0 と書く.また xi ≥ 0, i = 1, 2, · · · , n のとき,x ≥ 0 と書く.E − A の対角成分 以外の成分は負または零である.このような行列に対して次の定理がなりたつ. 定理 5.1.3 n × n 行列 B の対角成分以外の成分が正でないとする.すなわち i ̸= j ならば bij ≤ 0 とする.このとき次の条件は互いに同値である. (i) ある c > 0 に対して, 方程式 Bx = c が x ≥ 0 を満たす解をもつ.いい かえると Bx > 0 であるような x ≥ 0 がある. 第 5 章 行列式と産業連関表 130 (ii) B が 次の Hawkins-Simon (ホーキンス・サイモン)の条件 を満た す.k = 1, 2, · · · , n に対して b11 b12 · · · b1k b21 b22 · · · b2k B(k) = . .. .. .. . . bk1 bk2 · · · bkk とおくと, |B(k) | > 0 (k = 1, 2, · · · , n) (iii) B の逆行列 B −1 が存在し,全ての c ≥ 0 に対して Bx = c の解 x は x ≥ 0 を満たす. 証明 (i) =⇒ (ii) =⇒ (iii) =⇒ (i) の順序で証明する. (iii) が成り立てば (i) が成り立つことは明らかである. (i) が成り立つとして,(ii) が成り立つことを n に関する数学的帰納法でしめ す. n = 1 のとき,(i) は b11 x = c1 となるような c1 > 0 と x ≥ 0 が存在す ることである.このとき b11 ≤ 0 ならば b11 x ≤ 0 となり,c1 > 0 と矛盾する. B(1) = [b11 ] であるから,|B(1) | = b11 > 0. これは条件 (iii) である. n = 1, 2 のとき (i) =⇒ (iii) とする.n = 3 のとき,(i) =⇒ (iii) を示す.(i) が成り立つから, ある c1 > 0, c2 > 0, c3 > 0 にたいして, b11 x0 + b12 y0 + b13 z0 = c1 b21 x0 + b22 y0 + b23 z0 = c2 (5.1) b31 x0 + b32 y0 + b33 z0 = c3 であるような x0 ≥ 0, y0 ≥ 0, z0 ≥ 0 がある. このとき第1式,第2式より, { b11 x0 + b12 y0 = c1 − b13 z0 b21 x0 + b22 y0 = c2 − b23 z0 (5.2) が成り立つ.b13 ≤ 0, z0 ≥ 0 であるから,−b13 z0 ≥ 0 である.ゆえに c1 −b13 z0 ≥ c1 > 0. 同様に c2 − b23 z0 ≥ c2 > 0. (5.2) に対して n = 2 の場合 (i) =⇒ (iii) が 成り立つことにより, b11 b12 >0 b11 > 0, b21 b22 を得る. |B| > 0 を示そう.方程式 (5.1) の拡大係数行列 b11 b12 b13 c1 [B : c] = b21 b22 b23 c2 b31 b32 b33 c3 5.1. 産業連関表 131 の第2行に第1行の (−b21 /b11 ) 倍を加え,第3行に第1行の (−b31 /b11 ) 倍を加 える行基本変形を続けて行うと b11 b12 b13 c1 [B ′ : c′ ] = 0 b′22 b′23 c′2 (5.3) 0 b′32 b′33 c′3 の形になる.このとき ′ b22 b′23 |B| = |B | = b11 ′ b32 b′33 ′ b22 b′23 > 0 を示せばよい.[B : c] から [B ′ : c′ ] である. b11 > 0 であるから ′ b32 b′33 への変形操作により ′ b′23 = b23 − c1 b21 b13 b21 , c′2 = c2 − , b11 b11 b′32 = b32 − b12 b31 c1 b31 , c′3 = c3 − b11 b11 i ̸= j のとき bij ≤ 0, また ci > 0 であるから, b13 b21 ≥ 0, c1 b21 ≤ 0, b12 b31 ≥ 0, c1 b31 ≤ 0 b11 > 0 であるから, b′23 ≤ b23 ≤ 0, c′2 ≥ c2 > 0, b′32 ≤ b32 ≤ 0, c′3 ≥ c3 > 0 である.方程式 (5.1) の拡大係数行列の基本変形により解は変わらないから b11 x0 + b12 y0 + b13 z0 = c1 b′22 y0 + b′23 z0 = c′2 (5.4) ′ ′ ′ b32 y0 + b33 z0 = c3 第2式と第3式を取り出すと { b′22 y0 + b′23 z0 = c′2 b′32 y0 + b′33 z0 = c′3 (5.5) b′23 ≤ 0, b′32 ≤ 0, c′2 > 0, c′3 > 0 であるから,n = 2 のときの帰納法の仮定に より, ′ b22 b′23 ′ >0 b22 > 0, ′ (5.6) b32 b′33 が成り立つ. (ii) が成り立つとして,(iii) が成り立つことを n に関する数学的帰納法でし めす.n = 1 の場合を考える.この場合 (ii) が成り立つとは b11 > 0 を指す.こ 第 5 章 行列式と産業連関表 132 1 のとき方程式 b11 x = c1 の解は x = bc11 である.c1 ≥ 0 ならば,x ≥ 0 であり, (iii) が成り立つ.たとえば n = 1, 2 のとき (ii) =⇒ (iii) であるとして,n = 3 のとき (ii) =⇒ (iii) であることを示そう.n = 3 のときの仮定 (ii) は, b11 b12 b13 b11 b12 > 0, b21 b22 b23 > 0 b11 > 0, (5.7) b21 b22 b31 b32 b33 が成り立つことである.|B| = |B(3) | > 0 であるから,B −1 が存在する.このと き c1 ≥ 0, c2 ≥ 0, c3 ≥ 0 ならば,方程式 b11 x + b12 y + b13 z = c1 b21 x + b22 y + b23 z = c2 (5.8) b31 x + b32 y + b33 z = c3 の解は,x ≥ 0, y ≥ 0, z ≥ 0 であることを示そう.(5.7) より b11 > 0 であるか ら,方程式 (5.8) の拡大係数行列 [B : c] が (5.3) と同じように [B ′ : c′ ] に変形 される.このとき ′ (5.9) |B(k) | = |B(k) | > 0, (k = 1, 2, 3) が成り立ち,また c′2 ≥ c2 ≥ 0, c′3 ≥ c3 ≥ 0 も成り立つ.(5.9) より b11 b12 ′ ′ = b11 b′22 > 0 |B(1) | = b11 > 0, |B(2) | = 0 b′22 ′ |B(3) | が成り立つ. (5.10) ′ b b′23 = |B | = b11 22 ′ b32 b′33 ′ より b′22 >0 ′ b b′23 > 0 であり,(5.10), (5.11) より, 22 b′32 b′33 (5.10) (5.11) >0 である.したがって方程式 { b′22 y + b′23 z = c′2 b′32 y + b′33 x = c′3 (5.12) の係数行列はホーキンス・サイモンの条件をみたし,c′2 ≥ 0, c′3 ≥ 0 である.い ま (ii) =⇒ (iii) が n = 2 のとき成り立つと仮定しているから,方程式 (5.12 ) の解は y ≥ 0, z = z ≥ 0 である.この解を用いて x= 1 (c1 − b12 y − b13 z) b11 とおくと,(5.4) の第1式が成り立つ. b11 > 0, c1 ≥ 0, b12 ≤ 0, b13 ≤ 0, y ≥ 0, z ≥ 0 5.1. 産業連関表 133 であるから, x ≥ 0 である.ゆえに方程式 b11 x + b12 y + b13 z = c1 b′22 y + b′23 z = c′2 b′32 y + b′33 z = c′3 (5.13) は x ≥ 0, y ≥ 0, z ≥ 0 を満たす.(5.13) の解は (5.8) の解であるから,(5.8) の 解は x ≥ 0, y ≥ 0, z ≥ 0 を満たす.以上により,n = 3 のとき,(ii) =⇒ (iii) で ある. □ 具体的な産業連関表のレオンチェフ行列 A においては Ax + c = x が成り立 つ.x ≥ 0 であり,最終需要 c の成分はすべて正であるから,B = E − A は定 理 5.1.3 の条件 (i) を満たす.したがって |B(k) | > 0, k = 1, 2, · · · , n である.と くに k = n の場合として |B| > 0 であるから,B −1 が存在する.また定理 5.1.3 の条件 (ii) も成り立つから,任意の c ≥ 0 に対して Bx = c は解 ≥ 0 を持ち, x 1 0 x = B −1 c で与えられ,c に対して一意的に決まる.c = e1 = . とすると, .. 0 B −1 e1 は B −1 の第1列である.したがって B −1 の第1列の成分は正または零 である. B −1 の他の列についても同様であるから,B −1 の成分は正または零で ある. 例 5.1.4 例 5.1.1 のレオンチェフ行列 A に対して B = E − A とおく.このとき |B(1) | = 1 − a11 = 0.69697 > 0, |B(3) | = |E − A| = 0.21692 > 0 である.また 0.69697 −0.03521 = 0.5495803 > 0. |B(2) | = −0.00404 0.788732 また (E − A)−1 = B −1 1.95662... 0.66178... 0.71484... = 0.23533... 1.52950... 0.31252... 1.84819... 2.11840... 2.53356... 例 5.1.5 [ B= 1 −1 −2 3 ] とおく.このとき B の非対角成分は b12 = −1 < 0, b21 = −2 < 0 である. また |B(1) | = 1 > 0, |B(2) | = |B| = 3 − 2 = 1 > 0 である.したがって定 第 5 章 行列式と産業連関表 134 [ c1 c2 ] 理 5.1.3 により,任意の c = , c1 ≥ 0, c2 ≥ 0, に対して Bx = c である [ ] x1 x= , x1 ≥ 0, x2 ≥ 0, が存在し, x2 [ x1 x2 ] =B −1 [ c= 3 1 2 1 ][ c1 c2 ] [ = c1 ] 3 2 [ + c2 1 1 ] , c1 ≥ 0, c2 ≥ 0 すなわち Bx = y により,x1 x2 平面において原点 O(0, 0) からでて P (3, 2) を 通る半直線 ℓ1 と,原点 O(0, 0) からでて Q(1, 1) を通る半直線 ℓ2 の間にある 領域 ∠P OQ が y1 y2 平面の第1象限に写る. x ≥ 0 ならば Bx ≥ 0 ではない. ] [ [ [ ] ] x1 1 −1 B = x1 + x2 , x1 ≥ 0, x2 ≥ 0 x2 −2 3 である.Bx = y により,x1 x2 平面の第1象限は,y1 y2 平面において原点 O′ (0, 0) からでて P ′ (1, −2) を通る半直線 ℓ′1 と,原点 O′ (0, 0) からでて Q′ (−1, 3) を通 る半直線 ℓ′2 の間にある領域 ∠P ′ OQ′ に写る.この場合 ∠P ′ OQ′ が y1 y2 平面 の第1象限を含み,∠P OQ ⊂ ∠P ′ OQ′ となっている. 例 5.1.6 [ C= 1 −2 −2 3 ] とおく.このとき C の非対角成分は c12 = −2 < 0, c21 = −2 < 0 である.また |C(1) | = 1 > 0, |C(2) | = |B| = 3 − 4 = −1 < 0 であるから, ホーキンス・サイモ 1 t˜ C である. ンの条件は成り立たない.|C| = |C(2) | = −1 であるから,C −1 = −1 ゆえに Cx = c, c1 ≥ 0, c2 ≥ 0, の解は [ ] [ ][ ] [ ] [ ] 1 x1 3 2 c1 −3 −2 = C −1 c = = c1 +c2 , c1 ≥ 0, c2 ≥ 0 x2 c2 −2 −1 −1 2 1 となり,x1 ≤ 0, x2 ≤ 0 である.この場合 例 5.1.5 に対応する ∠P ′ OQ′ は y1 y2 平面の第1象限は含まない.Cx = y により x1 x2 平面が y1 y2 平面に裏返しに 写される. 5.2 均等付加価値 次に産業連関表を縦方向(列方向)にみる. 5.2. 均等付加価値 135 需要部門 1 農林水産 2 鉱業 3 製造業 供給部門 1 農林水産 x11 x12 x13 2 鉱業 x21 x22 x23 3 製造業 x31 x32 x33 付加価値 u1 u2 u3 計 x1 x2 x3 この表を縦の列方向にみると標題の各産業がその製品を生産するのに要した 費用(投入:Input)がわかる. たとえば農林水産業は,農林水産業自身から x11 円,鉱業から x21 円,製造業から x31 円を購入した.さらにその産業が生産活動 により生み出した価値が u1 円である.それらの総計が生産に要した額 x1 円で ある.産業連関表は各産業の収支が差し引き零になるようにしてあり,つまり生 産額=販売額である.したがって次の式が成り立つ. x11 + x21 + x31 + u1 = x1 x12 + x22 + x32 + u2 = x2 x13 + x23 + x33 + u3 = x3 さて各産業の製品価格と販売あるいは購入量を考える. 農林水産部門の製品 単価を p1 円, 鉱業部門の製品単価を p2 円, 製造業部門の製品単価を p3 円 とす る.第 i 部門から第 j 部門への販売量を yij , 第 j 部門の総販売量を yj とおくと, xij = pi yij , xj = pj yj . したがって p1 y11 + p2 y21 + p3 y31 + u1 = p1 y1 p1 y12 + p2 y22 + p3 y32 + u2 = p2 y2 p1 y13 + p2 y23 + p3 y33 + u3 = p3 y3 それぞれの式を y1 , y2 , y3 で割ると,次のような量が現れる. bij = uj yij , vj = yj yj bij は第 j 産業の製品1単位あたり生産するために必要な第 i 産業の製品の量を 表し, (財の量であらわした)投入産出係数という.vj は第 j 産業の製品1単位 あたりの付加価値である.割った結果は p1 b11 + p2 b21 + p3 b31 + v1 = p1 p1 b12 + p2 b22 + p3 b32 + v2 = p2 p1 b13 + p2 b23 + p3 b33 + v3 = p3 行列,ベクトルを用いて表すと p1 v1 p1 b11 b21 b31 b12 b22 b32 p2 + v2 = p2 p3 v3 p3 b13 b23 b33 (5.14) 第 5 章 行列式と産業連関表 136 bij を (i, j) 成分とする行列 B, すなわち b11 b12 b13 B = b21 b22 b23 b31 b32 b33 は(財の量であらわした)投入産出行列あるいはレオンチェフ行列という.B の 列方向と行方向を入れ替えた行列を B の転置行列をといい,t B と書く.すな わち (5.14) の左辺にある行列で b11 b21 b31 t B = b12 b22 b32 . b13 b23 b33 p1 , p2 , p3 を成分とする列ベクトルを p,v1 , v2 , v3 を成分とする列ベクトルを v とすると,関係式 (5.14) は t Bp + v = p (5.15) と表され,(E − t B)p = v. が成り立つ. さて第 j 産業における,製品1単位あたりの付加価値 vj とそれを生産する為 ∑ の費用 3i=1 pi bij との比 γj を考える: vj vj = . γj = ∑ 3 pj − v j i=1 pi bij γj を第 j 産業の付加価値率という.この値が大きいほど利潤を効率よく得てい ることになる. 産業間でこの値の差があると,産業構造が変化して利潤の大きい 産業に企業が集中していく.逆にこの値に差がなければ産業構造は変化しない であろう. γ = γ1 = γ2 = γ3 が成り立つとき, γ を均等付加価値率という.このとき vj = γ(pj − vj ) であるから,vj = γ 1+γ pj すなわち v= γ p 1+γ がなりたつ.この式を (5.15) に代入して γ t Bp + p = p. 1+γ すなわち t Bp = (1 − γ 1+γ )p となり, t Bp = 1 p 1+γ を得る. つまり,製品価格ベクトル p がこの式を満たすとき,産業間の付加価値 率が均等になる.只で売るわけではないから,当然 p ̸= 0 である.λ = 1/(1 + γ) とおくと,t Bp = λp であるような数 λ とベクトル p ̸= 0 があるかという問題に なる. 5.3. 固有値と固有ベクトル 5.3 137 固有値と固有ベクトル 定義 5.3.1 正方行列 G において, Gx = λx となる数 λ とベクトル x ̸= 0 があるとき,λ は G の固有値 であるといい,x を λ に対する固有ベクトルという. この定義を使うと次のようになる. 定理 5.3.2 γ が均等付加価値率ならば,λ = 1/(1 + γ) は t B の固有値であり, 均等付加価値を実現する価格ベクトル p はその固有ベクトルである. [ ] −1 0 例 5.3.3 G = とする.このとき 0 2 [ ][ ] [ ] [ ] −1 0 c −c c = = (−1) 0 2 0 0 0 [ ] c であるから,−1 は G の固有値で, , (c ̸= 0), は −1 に対する固有ベクト 0 ルである.また [ ][ ] [ ] [ ] −1 0 0 0 0 = =2 0 2 c 2c c [ ] 0 であるから,2 は G の固有値で, , (c ̸= 0), は 2 に対する固有ベクトルで c ある. Gx = λx は書き換えると λx − Gx = 0 すなわち,同次方程式 (λE − G)x = 0 (5.16) を得る.この同次方程式が零でない解(非自明解)x をもつとき,λ が G の固 有値で,x がその固有ベクトルである.同次方程式 (5.16) が非自明解をもつ条 件は定理 4.4.3 により det(λE − G) = 0 (5.17) である.この式の左辺を ∆(λ) = det(λE − G) とおく.G が n 次正方行列ならば,∆(λ) は λ の n 次多項式であり,G の固有 多項式という.また方程式 (5.17) を G の固有方程式という.n 次の代数方程式 であるから,その解である固有値は高々n 個ある. 以上により,固有値,固有ベクトルとは次の条件を満たすものと言い換える ことができる. 第 5 章 行列式と産業連関表 138 定理 5.3.4 det(λE − G) = 0 の解 λ が G の固有値で,(λE − G)x = 0 の零で ない解 x が λ に対する固有ベクトルである, 例 5.3.5 次の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ. [ ] 2 3 G := 1 4 解 λ − 2 −3 ∆(λ) = −1 λ − 4 = (λ − 2)(λ − 4) − (−3)(−1) = λ2 − 6λ + 5 = (λ − 1)(λ − 5). 固有値は λ = 5 と λ = 1 である. λ = 5 のときの固有ベクトル x は方程式 [ ][ ] [ ] 3 −3 x1 0 = −1 1 x2 0 の非自明な解 x である.この方程式は 3x1 − 3x2 = 0 のみと同じであるから, x2 = c とおくと,x1 = c である.ゆえに固有ベクトルは [ ] [ ] [ ] x1 c 1 = =c , (c ̸= 0). x2 c 1 このように固有ベクトルは一つではなく,任意定数 c ̸= 0 を含み無数にある.固 有ベクトルであることを実際確かめてみると次のようになる. [ ][ ] [ ] [ ] 2 3 c 5c c = =5 1 4 c 5c c 問 5.3.6 上の例で固有値 λ = 1 に対する固有ベクトルを求めよ. [ 解x= −3c c ] , c ̸= 0. 問 5.3.7 次の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ. [ ] 5 2 −4 1 0 −2 3 1 4 4 (3) −3 0 (1) (2) 2 2 6 −2 6 6 −1 0 0 −1 レオンチェフ行列 A, B の関係を確認しておく.xij = pi yij , xj = pj yj であるから, aij = xij pi yij = = pi bij p−1 j . xj pj yj 5.3. 固有値と固有ベクトル 139 この関係式は行列を用いて次のように表される. a11 a12 a13 p1 0 0 b11 b12 a21 a22 a23 = 0 p2 0 b21 b22 a31 a32 a33 0 0 p3 b31 b32 −1 p1 b13 b23 0 b33 0 0 p−1 2 0 0 0 p−1 3 ここで p1 P = 0 0 0 p2 0 0 0 p3 であるから, とおくと P −1 p−1 1 = 0 0 0 p−1 2 0 A = P BP −1 . 0 0 p−1 3 (5.18) 定理 5.3.8 A の固有値と B の固有値は等しい.B の固有値と t B の固有値は等しい. 証明 λ が A の固有値で,x をその固有ベクトルとする.Ax = λx であるが,(5.18) を用いると,P BP −1 x = λx である.P −1 を両辺にかけると, BP −1 x = λP −1 x をえる.したがって y = P −1 x とおくと,x ̸= 0 であるから y ̸= 0 であり,By = λy が 成り立つ. ゆえに λ は B の固有値で,y はその固有ベクトルである. 同様に By = λy, y ̸= 0 ならば,x = P y に対して Ax = λx が成り立つ.以上により A と B の固有値は一致する. B と t B の固有値が同じであることは,B の固有多項式と t B の固有多項式は等しい ことによる.実際 λE − t B = t (λE − B) であり,転置行列の行列式は元の行列の行列式に等しいから, det(λE − t B) = det(t (λE − B)) = det(λE − B). 1 均等付加価値の問題では t Bp = 1+γ p を解く必要がある.行列 t B の成分と,価格 1 ベクトル p の成分は正または零である.また γ > 0 であるから,λ := 1+γ とおくと, 0 < λ < 1 である. はたして成分が正または零の行列(非負行列という)が正の固有値 を持つだろうか.これに関して有名な次の定理2 がある. 定理 5.3.9 (Frobenius の定理) 非負行列 G は非負の固有値をもち,非負の固有値の うちで最大のものを λ(G) とすると,λ(G) に対する非負の固有ベクトルが存在する. [ ] [ ] 2 3 1 の場合は λ(G) = 5 であり,x = c ,c > 1 4 1 0, は非負の固有ベクトルである. λ = 1 も G の非負の固有値であるが,固有ベクトル [ ] −3 はx=c , c ̸= 0, であるから,非負ではない. 1 (2) 1 2 0 G= 0 1 2 2 0 1 例 5.3.10 (1)5.3.5 の行列 G = 2 例えば津野義道, 「経済数学 II」,倍風館,199 ページ参照 第 5 章 行列式と産業連関表 140 の場合,固有多項式は λ−1 ∆(λ) = 0 −2 −2 0 λ−1 −2 0 λ−1 = λ3 − 3λ2 + 3λ − 9 = (λ − 3)(λ2 + 3) √ ∆(λ) = 0 の解は,正の実数解 λ = 3 と複素数解 λ = ± 3i, (i2 = −1) である.λ = 3 に対する固有ベクトルは 2 −2 0 x1 0 0 2 −2 x2 = 0 −2 0 2 x3 0 を解き, x1 1 x2 = c 1 x3 1 したがって c > 0 とおけば,成分が正の固有ベクトル x を得る. 141 関連図書 [1] 小山昭雄, 「経済数学教室 1 線形代数の基礎 上」,岩波書店,2010 [2] 小山昭雄, 「経済数学教室 2 線形代数の基礎 下」,岩波書店,2010 [3] 竹之内脩, 「経済・経営系 数学概説」,新世社,1998 [4] 津野義道, 「経済数学 II 線形代数と産業連関論」,培風館,1990 [5] E. ドウリング著(大住栄治・川島康男 訳) 「入門 例題で学ぶ経済数学 上」,シーエーピ―出版,1995 [6] E. ドウリング著(大住栄治・川島康男 訳) 「入門 例題で学ぶ経済数学 下」,シーエーピ―出版,1996 経済数学で使用される線形代数について詳しく知りたい場合に [1],[2] は頼りに なる本である.[3] は易しく書かれた教科書,[4] は詳しく書かれた教科書であ る.[5] [6] には経済数学の例題が多数収録されている.
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