心理相談室ニューズレターL.A.News第51号(PDF)を

L.A.News
ove nger 2014年6月9日発行
企画/編集:
栗田七重・関戸直子
ICU心理相談室(Psychological Consul1ng Services) PCS ニューズレター 51号 オープンハウスから
心理相談室では毎月1回、地域と学内の皆様に向けて「オープ
ンハウス」を行なっています。L. A. Newsではオープンハウスに
参加した相談員が心の動いたことを毎月お伝えしています。
4月のオープンハウスより
今年は東京ももう梅雨入りし、
諸説あるものの「水の月」水無月
にふさわしい天気が続いている。
窓の外の雨音を聞いていると、自
分の身体の感覚もよみがえり、普
段は忘れているような様々なこと
が心の中でふと思い浮かぶことが
ある。
2014年度が始まってはや2ヶ月
がたちました。ICU心理相談室は、
4月に新たにニューヨークからい
らっしゃった山本雅美先生をスタ
ッフとして迎え、ICUの心理臨床
の歴史の流れを縦軸に、今の相談
室スタッフとそれぞれの持ってい
るものを横軸に展開していけたら
と願っています。
6月のPCSニューズレターは、
相談室から流れ出る息吹をお届け
します。
国際基督教大学 高等臨床心理学研究所 心理相談室 〒181-­‐8585 東京都三鷹市大沢3-­‐10-­‐2
ちょうど桜の花がまだ残るあいだ
から見える新緑が美しい4月の初めに
オープンハウスが行なわれた。西村
馨先生による、2014年度のオープン
ハウス年間テーマでもある「混沌を
楽しむ」についての講演から始まり、
「対話教室」、「フリーグループ」、
そして「こころの一文字書」のワー
クショップが行なわれた。
「混沌を楽しむ」と聞くと、皆さ
んはどのような連想をされるだろう
か。
「混沌」は「天地開闢の初め、天
地のまだ分かれなかった状態」「物
事の区別・なりゆきのはっきりしな
いさま」という意味があり、静止し
ておらず、常に動いていて変化し続
けているどろどろとしたマグマや雲
海のようなイメージがある。その混
沌の持つ流れにただ一緒にたゆたう
ことは、混沌を楽しむことになるの
だろうか?そんなことを考えながら、
自らが主催するワークショップ「こ
ころの一文字書」を改めて思い浮か
べた。 「こころの一文字書」では、多く
の方が普段は使わない墨と筆を手に、
真っ白な半紙の前で正座して心を穏
やかに広げてみてみる。さらに、そ
こにワークショップ講師から聞こえ
てくる様々な『お題』を、小石のよ
うに水面にそっと投げ入れてその波
紋や水面から跳ね上がってくるもの
をキャッチするがごとくに、心に浮
かんでくるものを自分であまり考え
たり判断したりすることなく、浮か
んで来た時の身体の感覚のままに書
いてみるということをしている。
原理は単純だが、やってみるとそ
う簡単ではない。4月に参加してくれ
たスタッフは「真剣にやると相当疲
れる」とコメントしていた。そう、
『お題』がこころに投げ込まれ、そ
こからうごめくもの、浮き出てくる
ものを紙に書く時、程度の違いはあ
れ、実は自分のこころの混沌の渦の
中から、言葉の網なり型を使って、
その一部をくみ上げたり切り取った
りするプロセスがある。多分この、
混沌にいわばメスを入れてはっきり
した部分や決まった部分と、それ以
外のなんだかよく分からない依然と
して混沌とした部分とを分ける作業
がエネルギーを要するのではないか
と思う。でも、「くみ上げた部分」
をはっきりとさせるから、それ以外
のものとの差異がはっきりとして、
筆で書いている「自分」と、「くみ
上げ文字となった部分」と「それ以
外の依然として混沌としている部
分」の関係がはっきりし動き出す。
その感覚が楽しい。
私にとっては、混沌を楽しむこと
は混沌をそのままに見つめながらも、
そこに網を入れ、刀を入れて「あ
る」と「『ある』ではない」を分け
ることらしい。 (栗田 七重)
PCS ニューズレター
51号 L. A. News
5月のオープンハウスより
元気な子どもの心、と聞いたら
みなさんは何を思い浮かべるでし
ょうか。5月のオープンハウスは元
気な子どもの心をテーマに橋本先
生が講演をして下さり、それに続
いて対話教室、フリーグループ、声
を『使う』ワークショップが開催
されました。
元気な子どもと聞いて私は黄色
い帽子が後ろにズレるくらいの勢
いで友達と猛ダッシュして走ってい
る子どもたちが思い浮かびました。
とにかく走りたい! 走ろう! そんなパワーをみなぎらせて身体
を目一杯使っている姿に、元気な
心を感じます。ICUには通常「滑走
路」と呼ばれ端から端まで走るに
はなかなか距離のある道があるの
ですが、つい先日、私もなんとな
く走りたくなって走ってみました。
すると風を切る肌の感じ、心臓の
音、地面を蹴る感じが楽しくなり、
息が切れて苦しいけれどもう少し
前へもう少し先へ、次の木まで、
その次の木まで!と爽やかな喜び
が溢れてくるのを感じました。走
りきった後の達成感と自分の中に
眠ってたパワーが体にみなぎる感
覚はここ最近得ていなかったもの
でした。後の予定などをごちゃご
ちゃ考えるのをやめて、子どもの
ように思いきって体を動かし、そ
の時の体の感覚に集中することは
大人になってからも大事なのだな
と感じました。
またお話の中には規範と健康的
な付き合いを持つことも子どもが
元気であるために重要であるとい
う話がありましたが、聞きながら、
道でお金を拾い交番に届けた時に
お巡りさんが「偉いなぁ」ととて
も褒めてくれたことを思い出しま
した。あの時感じた背筋がシャキ
ッとする感覚は、褒められて嬉し
いということだけではなく自分自
身を誇らしく思う感覚でした。親
から教わったことを、誰かに言わ
れたからではなく自分で良いこと
だと感じて実行したということが
誇りになったのだろうと思います。
今の自分を思うと、するべきだと
自分が思いつつもごまかしてしま
うことがあり恥ずかしくなります
が、自分で自分を大事にするため
に良いと思ったすべきことはやる
という自分でありたいと思いまし
た。
(貝谷 智子)
PCS ニューズレター51号 L. A. News
特別記事
今年4月より新しく心理
相談室にいらっしゃった、
山本雅美先生に自己紹介
をしていただきました。
山本 雅美先生 自己紹介
2014年4月に着任しました山本雅美です。
幸いなことに、今は技術が進んで遠く離れ
東京はおろか、私は関東地方に住むのは初め
ても容易に連絡を取り続ける手段があります。
てです。しかし三鷹は自然が豊かで、特に着任
また距離ができてもそれまでの経験が消える
当初はあちらこちらの桜が見事に満開でした。
訳ではなく、しっかりとした関係があれば
満開の桜が醸し出す温かな雰囲気に、私は新
(努力はいりますが)気持ちのつながりを続
生活を後押しされるような気持ちになり、す
けて行くことはできます。離れることで改めて
っかりこの地が気に入りました。
気づくこともあります。心理療法は自分の中
私は子どもの頃から引っ越しが多く、とも
にありながらも気づかなかった自分のこころ
すれば人との別れや新しい出会いを当たり前
の世界を見いだし、自らの生活を取り戻す可
のように思い、持続的な関係がむしろ稀なも
能性を探ります。私は今回の引っ越しで、離れ
のだと思って育ちました。しかし次第に、そ
ても大切なものを自分の一部として持ち続け
して人との関係が要と言っても過言でない心
る可能性を見いだすことができるようになっ
理療法とかかわる中で、私は人との関係、ま
た自分と出会いました。変化は時に新しい発
た持続的な関係がどういうものであるかとい
見を与えてくれるもののようです。
うことを少しずつ学んできたと思います。この
そしてこれから今後、この地でどのような
度、私は再び引っ越すことになり、三鷹に来
出会いと発見があるのか、楽しみにしていま
るためにまた多くの人と別れることになりま
す。どうぞよろしくお願いいたします。
した。
混沌を楽しむ
さいおう
年間コラム
混沌:「①天地開闢の初め、天地のまだ分かれなかっ
た状態。②物事の区別・なりゆきのはっきりしないさ
ま」 (広辞苑 第5版)
男、女、大人、子ども、父、母、遊び、仕事…
私たちの心の中の世界や外の世界の混沌を構成する
様々なテーマについて、相談員に語ってもらいます。
PCS ニューズレター51号 L. A. News
男
次回のオープンハウス
は7月8日(火)です。
7月19日(土)から8月
31日(日)まで、夏季閉
室いたします。
●ついにPCSニューズレターも
51号を数えることになりました。
実に久しぶりに記事を執筆しま
したが、心に湧いてくることを
文字にする難しさと面白さをひ
しひしと感じました。少しでも
読んで下さった方の心を刺激で
きれば幸いです。
(栗田 七重)
●今年度も編集者となりました。
書き手も自由に、読み手も自由
にL.A.News に出会っていただ
けるように編集に携われたらと
思っています。
(関戸 直子)
国際基督教大学 高等臨床心理学研究所 心理相談室 〒181-­‐8585 東京都三鷹市大沢3-­‐10-­‐2
※L. A. News掲載記事の著作権
は、国際基督教大学高等臨床心
理学研究所 心理相談室とその執
筆者に所属します。それらの許
可なく転用・複製することを禁
じます
「高校生が、やっても仕方ないとやる前から諦めるなんて、ど
ういうことなのか、信じられん!」とクラス全体に怒声が飛ん
だ。高校1年生の時のことである。それも入学してすぐのことだ
った。男山先生という名前だった。国語の先生。名字にも迫力
がある。心の底からの声を聴いた気がする。隣のクラスでの出
来事であったが、「そんなに情熱的な先生がいるのか!」と何
か電流が走ったかのように感じたことを覚えている。
クラスの反応は冷めていた。「何言っているの?」とまでは
言っていないにしても、「いきなり大声を出して困っちゃうよ
ね」という反応を寮の食堂で小耳にした。男山先生からしたら
予防線を張って傷つかないようにしている姿は、青年らしくな
いと映ったのだろう。教師として、大人として、なんと言われ
ようが、言うべきときには言わずにはいられない。それが大人
としての責任。その姿に男を感じた高校生のある一幕。ルパン
三世のテーマではないが、「男には自分の世界がある」。信念
がある。それは今でも私の心を刺激し、熱い血が流れるのを感
じる。 (高田 毅)
女
10代のころ。私は長い髪を真ん中から黒色と金色に半分ずつ
染めている(はんぶんこ、と呼んでいました)少しファンキー
な女の子でした。当時は深く考えていませんでしたが、今思え
ば、私のなかには二人の『女』がいたのではないかと思う時が
あります。一人はみんなとうまく接することができる、真面目
で適応的な女の子、もう一人は自由で度胸はあるけどもみんな
には不真面目な印象を与えてしまって、なんとなく適応できて
いない女の子。兎にも角にも、当時の私はその「はんぶんこ」
を物凄く気に入っており、真面目と不真面目が入り混じった感
じが最高にクールだと思っていました。
多くの女の子と同じようになりたい自分と、自分にしかない
ものを大事にしたいと思う気持ち。女性として成長していくう
えで、どちらも捨てきれずにいた時、「はんぶんこ」はその両
方を混ぜ込んだ特別な髪型だったのだと思います。今はもう外
見はファンキーではありませんが、私の心の中には金と黒両方
の自分がいますし、それはとても幸せなことだと思っています。
皆さんの心の中にはどんな自分がいますか。 (那須 里絵)