Ni 基超合金の熱間鍛錬方法の最適化

技 術 報 告
Ni 基超合金の熱間鍛錬方法の最適化
Ni 基超合金の熱間鍛錬方法の最適化
Optimum Pass Scheduling System for the Forging Operation of
Ni-based Super-Alloys
青山 明祐
奥野 寛人
清水 章裕
熊谷 保之
Akihiro Aoyama
Hiroto Okuno
Akihiro Shimizu
Yasuyuki Kumagai
要 旨
Ni 基超合金は、鍛造時の材料温度低下に伴う延性の低下及び変形抵抗の増大が著しいことにより鍛造可能温度範囲が狭
い。これにより、鍛造工程において生産性・品質にさまざまな問題が生じるため、鍛造時間の短縮化が求められている。
鍛造時間の短縮のためには、八角断面形状の鍛伸工程(以下、八角押し作業と称す)における、圧下パススケジュールの
最適化が効果的である。このためには、鍛造後の材料の 90 度方向の膨出量(以下、横膨らみ量)の高精度な予測が必要で
ある。そこで、横膨らみ量の予測式の定式化を図り、実機の鍛造に予測式を用いた圧下パススケジュールを適用した。その
結果、鍛造時間が従来と比較して約 46% 短縮可能となった。
Synopsis
The appropriate range of forging temperature for Ni-based super-alloys is narrow because of the low ductility and high flow stress.
Since various problems for productivity and quality occur in the forging process, it is necessary to shorten the duration of forging.
In order to reduce the total duration of forging process, it is effective to optimize pass scheduling in the cogging process in which
the work piece is deformed to have an octagonal cross section. For this purpose, it is necessary to predict the amount of transverse
expansion due to press forging with high precision. Based on these considerations, we formulated equations to quantitatively predict
the transverse expansion and applied them to optimize pass scheduling of the actual forging operation. As a result, the total duration
of forging was reduced by 46% in comparison with the conventional forging operation.
1. 緒 言
Ni 基超合金は材料の温度低下に伴う延性低下及び変形
2. 現状の鍛錬方法
2-1. Ni 基超合金の基本工程
抵抗の増大が著しいことよりプロセスウィンドウ(鍛造可能
Ni 基超合金の鍛錬工程は据込工程と鍛伸工程を複数回繰
温度範囲)が狭い。これにより、生産性・材料歩留・品質
り返してから、最終工程にて目的形状へ成形するのが一般的
において下記の問題が生じる。
である。図 1 に Ni 基超合金の全鍛錬工程の内訳を示す。全
(1)鍛造時間の制約による工程数(ヒート数)増加
鍛錬工程に占める鍛伸工程の割合は約 50% である。また、
(2)鍛造中の疵発生による疵取重量ロス
鍛伸工程は据込工程と比較し、圧下パス数が多く、材料から
(3)鍛造比不足に伴う結晶粒の細粒化不足
金敷への抜熱によって材料温度の低下が顕著となる。
本報では、上記の問題を解決することを目的に鍛伸工程
したがって、Ni 基超合金の生産性改善・歩留改善のた
における八角押し作業の合理化に取り組み、鍛造時間を低
めには鍛伸工程における八角押し作業の作業時間低減が
減した事例について報告する。
最も重要である。
室蘭製作所
Muroran Plant
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日本製鋼所技報 No.65(2014.10)
Ni 基超合金の熱間鍛錬方法の最適化
2-3. 改善案
八角押し作業において圧下パス数を低減するためには、
パス毎に次パスの横膨らみ量を予測し、目標寸法よりも順
次小さく圧下(以下、マイナス押しと称す)する圧下パスス
ケジュールを設定する必要がある。図 4 にマイナス押しの
模式図を示すが、横膨らみ量を過小評価した場合、最終
目標寸法を逸脱するリスクが発生するため、高い予測精度
が求められる。
図 1. Ni 基超合金の各工程の時間比率内訳
2-2. 問題点
図 2 に Ni 基超合金の八角押し作業の模式図を示す。八
角押し作業では、材料をマニプレーターによりハンドリング
し、上下 2 面を順次圧下することで材料全体を鍛造してい
図 4. マイナス押しの模式図
る。材料を八角形状に成形するためには少なくとも 4 方向
から圧下する必要があるが、圧下方向の変更には、トング
による材料の掴み直し作業が生じる。
3. 横膨らみ率の予測式検討
3-1. 予測式の定式化
図 5 に上下平らな金敷を用いた鍛伸工程の模式図を示
す。鍛伸時の横膨らみ率(=W i/W 0)を予測する式として
次式 1)がある。
図 2. 八角押し作業の模式図
一方、八角押し作業では、圧下方向と 90 度方向の横膨
らみ量の予測が困難であるため、所定の形状へ成形するた
めに圧下パス数の増加とそれに伴う掴み直し作業の発生に
より鍛造時間が増加している。図 3 に八角押し作業時間の
内訳を示すが、掴み直し作業が全鍛造時間の約 40% を占
めており、八角押し作業時間の短縮には圧下パス数の低減
が必要である。
図 5. 上下平金敷による鍛伸の模式図
W i/W 0 =(1/γ)s …(1)
s =0.14+0.36(β /W0)- 0.054(β /W 0)2 …(2)
W 0:圧下前巾(W 0 =H i-1)
W i:圧下後巾
γ:圧下前後の厚み比(H i/H 0)
H 0:圧下前厚み
H i:圧下後厚み
β:金敷掛巾(図 6)
上式は矩形断面を対象としているため、八角押し作業の
ように圧下パス毎に金敷と材料の接触面積が変化する場合
に上式を適用すると、差異が生じることが考えられる。ま
た、上式は Ni 基超合金の温度依存性を考慮した変形抵抗
図 3. 八角押し作業時間の内訳
挙動の再現可否が不明である。
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慮した変形挙動を正確に再現するために、熱間加工再現試
験装置を用いた円柱圧縮試験より求めた変形抵抗曲線を使
用している。
鍛造時の材料の温度分布は熱伝導解析により求めた。
材料の初期温度は均一、周囲の雰囲気温度を 20℃として、
八角押し作業の平均的な鍛造時間を考慮して熱伝導解析
を実施した。なお、解析結果の材料の表面温度が、実機
の表面温度と合致するよう熱伝達係数を補正している。
表 1. 解析条件
図 6. 金敷掛巾の定義
そこで、本報告では四角押し及び八角押し作業を計 5 パ
スで完了させることを目的とし、圧下パス毎に金敷接触面積
の変化を考慮した横膨らみ率の予測式を立案した。
横膨らみ率に影響を及ぼす因子は変形抵抗、温度分布、
金敷掛巾、金敷掛巾率(金敷掛巾 / 初期径)及び圧下率
である。また、これらの因子が互いに影響を及ぼすため、
これらを考慮して定式化する必要がある。横膨らみ率には
以下の傾向がある。
①金敷掛巾(β)が大きくなるにつれて横膨らみ率が大きく
なる。
②圧下前厚み(H 0)が小さくなるにつれて横膨らみ率が大
きくなる。
図 7. 解析モデルの一例
③圧下率(1-γ)が大きくなるにつれて横膨らみ率が大きく
なる。
本報では、これらの傾向を考慮した横膨らみ変数 x を以下
のように定義した。
x = β /H 0(1- γ)
…(3)
3-3. 予測式の定義
本報では FEM 解析結果を基に、四角押し作業まで 3
パス、八角押し作業までさらに 2 パス、合計 5 パスで八角
押し作業を完了するものとして、それぞれの圧下パスにおけ
る(4)式の係数 a i , 及び bi を導出した。さらに、これらの
(3)式で定義した横膨らみ変数 x を独立変数として、任
意の圧下パス i における横膨らみ率(W i/W 0)を次式に定
予測式を実機に適用するために、図 8 に示すように圧下パ
ススケジュールの最適化を図った。
義した。
W i /W 0 =a i x 2+b i x +1.0 …(4)
ここで a i 及び bi は各圧下パス毎の係数である。
3-2. FEM 解析条件
本報で提案した横膨らみ率の予測式では、圧下パス毎
の金敷接触面積や変形抵抗の影響を係数 a i , 及び bi によっ
て表している。この係数 a i , 及び bi の導出のために、上下
平らな金敷を用いた八角押し作業における FEM の弾塑性
解析を実施した。初期の矩形断面を 2 条件、初期温度を
1000℃~ 1200℃の 3 条件、及び圧下率を 1 又は 2 条件と
した。表 1 に解析条件をまとめて示す。
図 7 に解析モデルの一例を示す。対称性を考慮して 1/4
領域をモデル化している。Ni 基超合金の温度依存性を考
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図 8. 圧下パススケジュールの一例
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4. 実機鍛造への適用
4-2. 鍛造時間
最適化した圧下パススケジュールを実機鍛造に適用した
4-1. 予測式の精度
最適化した圧下パススケジュールを用いて、Ni 超合金の
実機の鍛造を実施し、予測式の精度を確認した。材料の
圧下寸法及び横膨らみ寸法はプレスストローク及び外パス
にて測定し、表層温度をサーモグラフィによって常時モニタ
リングした。
結果、下記の効果が得られた。
(1)マイナス押しが可能となり、計画通り 5 パスで鍛造を完了
することができた。
(2)圧下パス数が低減したことにより、トングによる材料の掴
み直し作業時間が減少した。
図 11 に実機鍛造の鍛造時間を従来の鍛造時間と比較し
図 9 に横膨らみ率の予測式と実績を比較して示す。実機
て示す。予測式を用いた圧下パススケジュールを適用した
の鍛造の適用範囲において、予測式は横膨らみ率を 3% 以
結果、総鍛造時間が従来と比較して約 46% 低減できるこ
内の誤差で実機を模擬できることが明らかとなった。一方、
とが明らかとなった
横膨らみ変数の増加に伴い誤差も増加する傾向があるが、
誤差はいずれもプラスサイドであっため、横膨らみ量を過小
評価することによって最終目標寸法を逸脱するリスクは無か
った。
図 11. 鍛造時間の割合の比較
4-3. 疵取重量ロスの低減
図 9. 横膨らみ率の予測式と実績値
図 10 に実績を加味して予測式を補正した結果と実績を
比較して示す。今後、補正した予測式を用いることにより
図 12 に鍛造終了時のサーモグラフィ写真を示す。予測
式によって圧下パススケジュールを最適化した結果、従来品
よりも高温で鍛造を終了していることがわかる。
おのおのの圧下パスの材料温度が高くなった結果、延性
横膨らみ変数の大きい領域でも更に良好な精度(2% 以内)
の低下に伴う割れ疵の発生も低減され、疵取り重量ロスが
で予測可能と考えられる。
改善された。図 13 に材料の初期重量に対する鍛造終了時
の重量の割合(歩留係数と定義)を従来と比較して示す。
疵取りによる重量ロスが低減した結果、歩留係数が従来と
比較して約 33% 改善した。
(a)従来品
図 10. 補正予測式と実績値
(b)適用品
図 12. Ni 基超合金(同一材)の鍛造終了時の
サーモグラフィ写真比較(同一加熱温度)
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図 13. 歩留係数の比較
4-4. 工程削減
従来 2 ヒートに分割していた工程を 1 ヒートで鍛造可能と
なった。これに伴い、仕上り工程の 1 ヒート当たりに付与可
能な鍛造比を従来の 1.5 倍に増加することに成功した。そ
の結果、結晶粒の微細化の効果が著しく改善した。
5. 結 言
本報告では Ni 基超合金の八角押し作業における横膨ら
み率予測式を定式化した。Ni 基超合金の実機の鍛造に予
測式を適用した結果、予測式は 3% 以内の精度で横膨らみ
量を再現可能であった。
また、予測式を用いた八角押し作業の圧下パススケジュ
ールを最適化した結果、鍛造時間、疵取重量ロス及び工程
数の観点から大幅に改善を図ることができた。
参 考 文 献
1) Tomlinson, A. & Stringer, J.D. : Trans.ISIJ, 193
(1959)
, 157-162.
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日本製鋼所技報 No.65(2014.10)