ポスターA-1 主体的な目標共有に向けて ~新人 OT の視点~ キーワード:意味,個人因子,老年期 吉田 鮎子 介護老人保健施設せんだんの丘 【はじめに】 作業療法が「主体的な生活の獲得」 1)を図るもので あることは養成校の学生時代,初めに習うことである. 紹介をする掲示物制作と,他利用者に伝える場面を 設けた. 【結果】 「クライエント主体」という考え方は自明なことであり, そのためにはクライエントと支援者が目標を共有して JAZZ を聞く機会,他利用者に伝える事が増えてき た頃から OTR に対し,日常生活の中で起居の難しさ おくことが求められる.しかし,卒業後実際に働き始め を打ち明けてくれるようになった.起居動作の練習を ると,その目標共有に至るまでの難しさに直面した. その人が暮らしの中に意味を見出し,主体的に生 行いつつ,介護福祉士の協力のもと日中のホール内 を杖で移動するようになった.練習への態度は大きく きるための関わりとはどのようなものだろうか.今回は 事例固有の趣味,とりわけその意味に着目することが 目標共有に向けた一つの手がかりとなったため報告 する. 変化し,一度断っても,再び OTR を呼び練習するこ とが増えた.また,時間は不定だが自ら部屋を出てホ ールで JAZZ を聴いて過ごす機会が増えた. 【考察】 【症例紹介】 80 代前半男性.介護度 3.現病歴:腰椎圧迫骨折. Parkinson 病の疑い.既往歴:心不全.生活歴:首都 事例との目標共有が難しくなっていた点について, 入退所を繰り返し,健康や援助者の喪失がある中で, 暮らしをいきいきと生きる意味を見出しにくくなってい 圏でタクシー運転手として働く.妻が他界し,地元に 戻るも周囲の介助を受けることが難しく 3 年前より施設 の入退所を繰り返している. たと考える.また,そのような中で OTR が何をする存 在であるかを示せていない段階において,「何に困っ ているか」と聞かれても語る難しさがあったと考えられ 【作業療法評価および経過】 初回評価より ADL は歩行器歩行自立,起居動作 る.ADL 中心の介入を一度見直し,興味関心を探る ところからはじまり,趣味であった JAZZ に着目し一緒 の動作開始時に介助となっており,起居できないこと に探求していったことは,事例と向き合うための重要 より失禁がみられていた.ニーズの聞き取りでは「何も 困ってない,リハビリはいらない」と前向きな発言は聞 かれず終了する.OTR は起居の困難さが生活の支 障になっていると考え,ADL や身体機能訓練を中心 とした介入方針のもと関わった.しかし,運動プログラ ムは腰痛を緩和する介入しか好まず,臥床し引きこも りがちな生活が続いていた. ここで,入所時の情報より JAZZ の趣味があったこ とから,「JAZZ を楽しめる暮らしづくり」が出来るよう視 点を変えた. 介入としては,好きな曲や奏者を教えてもらい, な時間であったといえる.また,OTR が教わる立場を 取ることで,事例が自信を持てる場となったと考えられ る.事例の趣味である JAZZ の味わいを教わりながら もう一度暮らしの中で“自らが楽しむ”場作りを行った. 目標についてあまり語らなかった事例が曲について 語り,生活の中で困っていることについても語り始め た変化は,目標を共有する前段階となったと考えられ る.新人 OT として,その人固有の意味を持った暮ら しについて知ろうとすることの大切さをこの事例より学 んだ. 【参考資料】 OTR が調べてきた本を見たり一緒に CD を聴いたり した.対応として OTR は教わる立場をとった.この介 入当初には一人の奏者しか名前を聞きだすことが出 来なかったが,CD 鑑賞の経過の中で 5 人以上の奏 者や実に多くの曲名が語られた.OTR は事例の鑑賞 の楽しみを妨げない程度に鑑賞中の曲の味わいにつ いて尋ねると,それぞれの音色の違いがあることを教 えてくれる機会が増えた.それをもとに事例による曲 1)一般社団法人日本作業療法士協会 定義 ポスターA-2 施設と自宅での ADL に差が生じていた通所リハビリ利用者への介入 ~施設外でのアプローチを通して~ キーワード:通所リハビリ,訪問指導等加算,チームアプローチ 義野 知里 介護老人保健施設 なとり 【はじめに】 今回,脳梗塞による左片麻痺を呈し,通所リハビリ に歩行するよう指導した.この訪問を機に自宅での歩 行機会が徐々に増えていき,本人からは新たな目標 を利用している症例を担当する機会を得た.本症例 は,施設において職員軽介助のもと T 字杖歩行を実 施していたが,自宅では歩行しておらず,車椅子を自 として,玄関前の階段昇降をしたいとの希望が聞かれ るようになった. <玄関前の階段昇降を目標に取り組んだ時期> 操して移動していた.作業療法士(OT)が,訪問指導 等加算や送迎場面を活用し,施設外での関わりを積 極的に行った結果,在宅生活に変化が見られたため 以下に報告する. 【症例紹介】 70 歳代前半,男性,診断名 脳梗塞,左大腿骨頸 本人から,妻は自宅内の歩行介助には慣れてきた が,階段昇降の介助には自信がないとの情報を聞き, 通所の送迎時に OT が同行し,玄関前の階段の環 境・昇降動作の確認を行った.その後も送迎場面を 活用して数回送迎に OT が同行し,階段昇降を実践. 本人の作業遂行能力が向上していった.動作が安定 部骨折,障害名 左片麻痺,現病歴 X-5 年 8 月に脳 梗塞を発症.左片麻痺が残存し,X-4 年 1 月に通所リ ハビリの利用を開始した(通所・自宅で軽介助のもと T したため,介護職員に介助方法を申し送り,送迎時は 毎回職員介助のもと階段を昇降するようになった.以 降,本人は自宅前の階段昇降に慣れ,散歩がしたい 字杖歩行をしていた).X-4 年 12 月転居したばかりの との希望が聞かれるようになった.そのため,再び訪 自宅で妻と一緒に歩いていたとき転倒し,左大腿骨 頸部骨折.人工骨頭置換術を施行し,X-3 年 2 月に 問指導を行い,妻へ階段昇降の介助方法を指導し, 送迎時職員見守りのもと妻の介助で階段昇降してもら 通所リハビリを再開した.それ以来,自宅では歩行し ておらず,車椅子上の生活となっていた.本人のニー ズは「自宅でも歩きたい,息子とカラオケに行きた うよう設定した. 【結果】 自宅 ADL は BI 70 点となり,自宅内は妻の軽介助に い.」であった. 【作業療法評価】 自宅 ADL は Bathel Index(BI) 60 点で,歩行, 階段昇降はわずかな介助や手すりを使用することで 可能であったにも関わらず,移動は車椅子を使用し, 平地は自操,階段はスロープを介助にて昇降してい た.自宅内に段差はなく,玄関前の階段は両側に手 すりが設置されていた.主介助者は妻で,不安から歩 かせたくないとの意向が強かった. 【経過】 <自宅での歩行を目標に取り組んだ時期> 本人は,自宅での歩行を目標にリハビリに取り組ん でいたが,妻・ケアーマネジャー(CM)は本人の歩行 能力についての理解が不十分であった.そのため, OT が訪問指導の提案を行い,妻・CM 同席のもと自 宅での歩行を実践.歩行能力の正しい理解を促しな がら介助方法の指導を行った.妻にやや不安はあっ たが,本人が自宅で歩行する機会を設けるため,居 間から食卓までの移動時に,1 日 1 回以上,妻と一緒 より歩行することが可能となった.また,玄関前の階段 はレンタルしていたスロープを返却し,家族の軽介助 で昇降するようになった.通所利用時以外にも,妻と 階段昇降を行い散歩する日課ができ,車椅子を使わ ずに自家用車に乗って銀行や病院に行く等生活範 囲が広がっていった. 【考察】 今回の症例では OT の施設外での関わりが,家族, CM に症例の歩行能力を正しく理解してもらうきっか けとなり,自宅での生活に変化が生まれた.また,家 族,CM,介護職員を巻き込んで症例の目標とする活 動に取り組んだことで目標を達成することができた.こ のように,通所リハビリにおいても,生活している自宅 に出向き,実際の生活場面で支援していくことが重要 で,効果的にリハビリを行う上では不可欠な要素だと 考えられる. ポスターA-3 自慢します,気仙沼! キーワード:地域活動,連携,チームワーク 村上 友香 小野寺 裕志 気仙沼市立病院 【はじめに】 気仙沼・南三陸地域は,県内でもリハビリ専門職 (PT・OT・ST)の連携がとれている地域と言える.きっ 載している.気仙沼・南三陸 OT ブロック会のスローガ ンは『細く・長く続ける事』であり,少人数ながらも,地 道に活動している. かけは気仙沼リハ・ケア勉強会である.現在会員数 50 名を超えるこの会は,PT・OT・ST が集まり,顔の 【考察】 当圏域の連携の特徴を以下に考察する. 見える関係を築く場となっている.当地域の連携の特 ① リハビリ専門職の人数が少なかったため,他職種 徴を考察し報告する. 【地域特性】 合同の勉強会(リハ・ケア勉強会)が先に創設され, 徐々に職種別勉強会(ブロック会等)が出来上が 障害保健福祉圏域でみると,気仙沼圏域は気仙沼 市,南三陸町の 1 市 1 町からなっている.宮城県の最 北東部に位置し,仙台市までは自動車で約 3 時間か かる.東日本大震災の影響で人口は減少し,約 8 万 った. ② 都市部と距離があるという環境が,個人の危機感 になり勉強会への積極的参加の要因となってい る. 人.急速な高齢化も進んでおり,高齢化率は 31.6%と なっている1). リハビリ専門職の数は 2014 年 9 月時点で,PT34 ③ 当圏域には病院,施設などが少なく,連携のため の役割が明確で,責任感が強くなる. ④ 勉強会を通したつながりが,業務連携にも繋がっ 名,OT20 名,ST4 名となっている.また,リハビリ専 門職が所属する病院は 6 病院(身障 4 精神 2)・介護 保健施設は 6 施設,訪問看護事業所 1 施設となって ている. ⑤ 飲みにケーションで顔の見えるつながりを構築し ている! いる.回復期病棟はない. 【リハ・ケア勉強会とは】 【おわりに】 当圏域は県内都市部と比べ,リハビリ専門職の人数 リハビリテーション 3 職種による合同勉強会である. も少なく,提供できるサービスに偏在があった.しかし, 初回開催から 10 年以上が経過する. 現在は,年 5 回開催している.内容は,施設紹介や 症例検討に加え外部講師を招いての座学・実技研修 などを実施している.日時はほとんどの場合金曜日の 19〜21 時である.勉強会案内は各個人への E-mail で行い,震災後からは勉強会のホームページ ( http://kesennuma-riha-care.jimdo.com ) と Facebook を開設し情報共有を図っている.勉強会終 了後は毎回懇親会を開催し親睦を深めている. 【OT の活動】 2009 年度から定期的な OT 勉強会を開催しており, そのデメリットをメリットに変え,少人数から時間をかけ て連携を深めてきた.1人1人の向上心が現状につな がっていると言える. 3 職種合同の勉強会は,多方面からの意見を聞く事 ができる重要な機会となっている.また,OT のみの勉 強会では,より専門性を深める事ができる.どちらも当 圏域を支える自慢の会である. 今後の課題は,これらを継続していくための拠点と なる施設・人材を育成する事だと思われる. 2011 年に気仙沼・南三陸ブロックが新設されることと なった.ブロック会は年間 5 回開催しており,勉強会 や症例報告会などを通して情報交換の場となってい る.ブロックメンバーの顔と名前を覚える事を目的に 『気仙沼・南三陸ブロック OT NEWS』を作成してい る.また,勉強会案内はリハ・ケア勉強会と同様に各 個人への E-mail を利用している.終了後は勉強会の 概要や写真をリハ・ケア勉強会のホームページに掲 : 高 齢 者 人 口 調 査 結 果 ( 平 成 25 年 度 ) 1)宮城県公式ウェブサイト http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/chouju/25kou reisyajinkou.html ポスターA-4 宮城県の特別支援教育における専門家活用事業の現状 ― 平成 25 年度の状況 キーワード:特別支援教育,調査,連携 本多 ふく代 東北文化学園大学 【はじめに】 平成 19 年に開始した特別支援教育は,教育関係 者以外の主に医療系を始めとする専門職との連携を 4~7 時間(平均 5.7±1.2)であった. 対象となった児童・生徒は,1 校で学級単位で入る ため人数を把握していないところがあったが,他は小 推奨している.それを受けて作業療法士(以下 OT)の 教育現場での活用を求めて,日本各地で様々な活動 学部 5~20 名(平均 11.7±6.7),中学部 1~13 名(平 均 7.2±5.8),高等部 2~15 名(平均 5.4±5.3)であっ がなされている.そのような中,宮城県では平成 23 年 た.全対象者の障害種別の割合は, 知的障害と肢 度末から,震災復興関連予算に「特別支援学校外部 専門家活用事業」を設け,県内の特別支援学校に 体不自由の重複 35.6%,知的障害 32%と全体の 7 割近くを占めていた.その他重症心身障害が 16.4% OT を始めとする外部専門家の派遣を始めた.平成 24 年度の概要については,昨年度の宮城県 OT 学 会で発表した. 今回,3 年目となった平成 25 年度の事業について, であった. 相談内容は,「運動・姿勢」に関してが小・中全て, 高等部で 1 校以外全てにあった.その他,小学部で は「上肢手指機能」,中学部では「学習課題内容」に 携わった OT を対象にその活動の概要と感想等を調 査した.その結果から現状をまとめ,今後の本県にお ける特別支援教育への OT の関わりの課題について 関するものが全校で挙がっていた. 支援対象としては,担任に向けては全校で行ってい たが,4 校で保護者に向けても行っていた.その他の 考察した. 【対象】 平成 25 年度に県教育委員会(以下県教委)より委 活動として,講演会が 4 校,ケース検討会が 3 校,保 護者懇談会が 1 校あった. 平成 23 年度から継続している 5 名からは,「OT が 嘱され,派遣実績のあった OT8 名(内 3 名が 2 校担 当,23 年度からの継続 5 名,25 年度から新規 3 名) 教育と医療,医療と地域との連携に役立つことができ る」,「個別支援だけでなく集団や授業プログラムへの を対象とした.なお,県内には,視覚障害,聴覚障害 関与が可能」という意見とともに,OT が必要性を感じ 3 校(うち分校 1),知的障害 14 校(うち分校 2),肢体 不自由 2 校,病弱 2 校がある.OT の派遣校は,県教 委が県立校に専門家派遣の希望を募り,それに応じ た学校であり,高等部のある支援校が 9 校,中等部ま でが 1 校,小学部までが 1 校であった.障害種別とし ては,肢体不自由が 1 校,他は知的障害であった. 【方法】 独自に作成した自記式(選択と自由記載)調査書を 用いた.調査項目は,昨年度と同様に訪問頻度,回 数,対象,相談内容,支援内容・方法,課題,訪問事 業に携わっての感想と今年度新たに,派遣されてい ても教員側が感じなければ関われないということが, 新たに加わった OT も含め課題として挙げられていた. さらに,本事業の継続のためには人材育成の必要性 も述べられていた. 【考察】 平成 24 年度から 25 年度にかけて OT が派遣され た学校が 4 校増えた.新しく派遣された方々も同様の 内容の相談を受けていることが分かった.特に姿勢運 動に関する相談が全校であり,OT へのニーズとして 高いことが分かった.しかし,OT が可能な支援は他 にもあり,OT のスキルについての理解が十分になさ る OT の経験年数,発達領域での経験内容および勤 務状況とした.倫理的配慮として,調査の主旨と目的 を口頭および文書にて説明し同意を得た. 【結果】 平成 25 年度に携わった OT8 名は,経験年数が全 て 5 年以上であり,常勤 4 名,非常勤 3 名,フリーラ ンス 1 名であった.訪問頻度は月に 1~2 回で,訪問 回数は年間 6~20 回(平均 12.4±4.5),訪問時間は れているとは言い難い現実も把握できた.本事業は, 震災関連予算に基づくものであり継続のためには,支 援の可能性について根拠に基づく啓蒙活動が必要 であると示唆された. ポスターB-1 当院退院患者の不安と FIM の点数との関連について キーワード:退院時指導,不安,FIM 関 良子 医療法人社団健育会 石巻港湾病院 【はじめに】 近年,早期の社会復帰を目指すため,決められた えの程度の中央値としては,階段,移乗トイレ,清拭, 移乗浴槽,移動・歩行,理解,問題解決,家事動作, 期間内に退院時の生活を調整する必要がある.退院 に向けてリハビリを行い、必要なサービス,福祉用具 を検討するが,実際の退院後の生活では対応が不十 病院への通院,家屋環境の値が高かった. 不安がある患者(以下不安あり)とない患者(以下 不安なし)の FIM の点数は「排尿管理」「移乗・浴槽」 分な場合もある.日々の臨床を通して,退院前に今後 の生活に対しての不安を感じている患者にしばしば 遭遇する.そのため,退院後のフォローや介助者・家 族への指導等,より的確な退院援助に向けて患者が 持っている不安について把握する必要性を感じた.さ らに今後,不安が多い項目に対して退院前から臨床 「移動」で有意差が認められた.さらに,FIM の項目 を日常生活項目(食事・整容・清拭・更衣(上半身)・ 更衣(下半身)・トイレ動作・排尿管理・排便管理),移 動・移乗項目(移乗ベッド・移乗トイレ・移乗浴槽),認 知項目(理解,表出,社会的交流,問題解決,記憶) の 3 つに分けて不安あり・不安なしについて FIM の での練習に取り入れることで不安の軽減につながると 考えられ,退院時の不安を把握することで,不安と FIM の関連について検討した. 点数では移動・移乗項目に有意差がみられた. 【考察】 今回のアンケート調査によって患者が感じている不 【対象】 安は移乗や移動を含む項目に多かった.また,中央 平成 26 年 6 月から 9 月の期間内に当院回復期病 棟から退院した患者のうち,HDS-R21 点以上または, 値に関してもそれらの項目が比較的高い値を示した. このことは上記の不安の解消が退院に向けての課題 認知症の診断がない 21 名を対象とした.平均年齢は 77 歳,男性 8 名,女性 13 名.疾患は脳血管疾患 7 名,運動器疾患 12 名,廃用症候群 3 名. であるものと考える.また不安ありと不安なしで FIM の 点数の有意差がみられた項目それぞれについて考 察すると,「排尿管理」に関しては女性が多く,尿取パ 【方法】 調査方法は患者本人に了承を得た上で,退院前 に質問紙を用いて面接形式でアンケート調査を行っ た.項目としては FIM の 18 項目についての不安の 有無と日常生活で不安に思われる 4 項目を加えてア ンケート内容を作成した.追加した内容は家事動作, 病院への通院,体の痛み・病気への不安,家屋環境 とした.そして不安の有無を 1~5 段階で評価する.5 段階の内容としては 1「不安なし」2「少し不安」3「まあ まあ不安」4「かなり不安」5「大いに不安」と設定した. また,不安のある・なしに群分けして FIM の点数に関 してマンホイットニー検定を行い不安と退院時の FIM との関連について検討した. 【結果】 21 名の中で不安の項目に 1 つでも不安があった人 数は 17 人いた.その内訳としては,不安を訴えた人 数で多かったのは移動・歩行 13 人,階段 8 人,社会 的交流 9 人,病院への通院 9 人,体の痛み・病気へ の不安 15 人,家屋環境 10 人等であった.不安の訴 ットの使用や尿漏れなど不安が関係しているのではな いかと考える.「移動」に関しては半数以上が不安を 感じている.さらに,日常生活項目,移動・移乗項目, 認知項目の 3 つに分けた場合,移動・移乗項目にお いて不安ありの FIM の点数に有意差がみられた.つ まり,立位や移乗などの能力に対して不安を感じてい るのではないかと考える.我々は病院での介入の際 FIM の点数の改善だけで自立を判断するのではなく, 患者自身が感じている不安を聴取し,患者の不安を 軽減できるよう臨床での練習に取り入れる必要があ る. ポスターB-2 慢性疼痛患者に対する作業療法介入からの一考察 ~情報収集シートの活用から~ キーワード:活動性,集団療法,疼痛 今井卓馬, 樫村友賀里 千葉美鈴 久家 直巳 公立黒川病院 リハビリテーション室 【はじめに】 認知症患者へのリハビリは,本人の理解が不十 分であること,本人とのコミュニケーションが困 難であることなどのために,しばしば困難な場面 に遭遇する.公立黒川病院では,回復期病棟入院 の認知症患者へのリハビリ促進のために「情報収 集シート」を活用している. 今回,疼痛体験を共有する同室者の退院を契機 に疼痛の再燃と抑うつ症状を発症した症例に生活 歴を中心とした情報を, 「情報収集シート」により 患者と家族から収集し,その結果を基に作業療法 を導入し,良好な結果を得た.尚,本報告は,患者 および家族に説明し同意を得ている. 【症例紹介・評価】 腰椎圧迫骨折,腰椎脊柱管狭窄症を呈した 80 歳 代女性.薬物療法により一時的な疼痛軽減を認め るが,その後疼痛体験を共有できる同室患者の退 院を契機にしびれ,疼痛が再発.理学療法介入に も拒否的となり,認知機能低下防止に作業療法追 加処方となる.疼痛評価として Numeric Rating Scale :Max10 点(以下 NRS)を用い臥位,座位 は共に 5 点で,起き上がり~立位は 8 点で動作に 伴う疼痛の悪化を認めた. Vitality Index は 5 点 で自発性の低下を認めており,行動範囲はベッド 上に限られていた.FIM は 94/126 点で ADL は 軽介助~見守りレベル,移動は全介助レベルであ った.認知項目では自立レベルであった. 【経過・結果】 リハビリに対し拒否的であった症例に対し,初 回は家族を交えて「生活史」 「得意な事」 「趣味・興 味」 「長年の習慣・過ごし方」 「性格」等の基本情報 を聴取した.尚,方法としては認知症ケアマネジ メントシート「センター方式シート」を改変し,当 院独自に作成した「情報収集シート」を活用して 行った.本症例は元々趣味活動を友人達と共に行 う事を楽しみとしており,それをまとめる中心的 な役割を担う存在であることが分かった.介入当 初は症例の意思を第一にし,場所はベッド臥床場 面から始め,拒否のあるプログラムは無理強いせ ず,1 対 1 での筋のリラクゼーションを交えコミ ュニケーション場面を多く取り入れて行った.そ の後,自室にて同室患者を交えての小集団(OT 含 め 3 人)での作業療法介入を行い,本人の意欲向 上に伴い食堂にて 5 人程度の小集団にて実施した. 構成形態の障害レベルとしては本人と同程度また はそれ以下となるよう配慮した.その結果,集団 の中心的存在となり,NRS すべての項目で 0~2 点と疼痛の軽減を認めた. Vitality Index は 9 点 と自ら活動を求めるようになり,余暇は食堂にて 過ごすようになり生活範囲の拡大を認めた.ADL は OT 介入前より軽介助~見守りレベルであり, 自立レベルに至らず,FIM には変化は見られなか った. 【考察】 粟田は心理的な治療として「生活史をよく聞き, 文脈の中で精神障害の背後にある心理社会的状況 の意味を理解すること」が重要と述べている. 今回,シートの活用により元々症例にとって「仲 間」は特別なものであり,また,それをまとめるこ とが本人にとって重要な「役割」であったことが 分かった.疼痛体験を共有できる「同室者」=「仲 間」が退院をしたことは大きな喪失体験となった ことが考えられ,疼痛の再燃は心因性要因が関与 していると考えられた.今回,この結果を基に OT では集団という「仲間」を導入した.また,集団の 障害レベルを本人と同程度またはそれ以下とした ことで,症例は集団の中心的存在となり,「役割」 が生れ,自身の長所を実感できる「場」となった. これに伴い「痛み」というネガティブな思考から 距離をおく機会を得られたのではないかと考えて いる. 【おわりに】 今回,情報収集シートを活用したことで,症例 の疼痛再燃の背景を知ることができた.これは, 認知症ケアに限らず,生活史を中心とした病前の 状態を収集することが,患者心理,あるいは行動 背景を知る上で大きな手がかりと成りえ,状態に 応じた作業療法の立案に役立つことが示唆された. ポスターB-3 復職を目指す ~回復期リハビリテーション病棟から社会へ~ キーワード:回復期リハビリテーション病棟,復職支援,フォローアップ 遊佐健太 医療法人松田会 松田病院 【はじめに】 左橋出血により失調症状を呈した症例に対し,復職を 目の練習時には同様箇所に注意を払い,安全に歩行可 能であった.パソコン操作練習及び,妻との屋外歩行練 目指して,回復期リハビリテーション病棟入院時から退院 習を指導し,自宅退院となった. 後のフォローアップまでを経験した.以下,作業療法展開 他職種への働きかけ:障害者職業センター利用を検討. と復職支援について考察を含め報告する. 本人・センター職員・リハスタッフを交えて面談を実施.ま 【症例】 た,訪問リハスタッフと通勤手段獲得という目標を共有. 50 歳代男性.疾患名:左橋出血.31 病日に回復期リハ <Ⅲ期 退院後のフォローアップ> ビリビリテーション病棟へ転院.職業:ロードサービス.妻, 職場側の意見:本人から「パソコンはミスが多い.修正にも 次男との 3 人暮らし.本人のニーズ:復職して家族を養う. 時間が掛かる」と説明したが,職場側は「それでも良い.出 【初期評価】 来る事を少しずつやってもらえれば」と受け入れ良好. Br.Stage(Rt):上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ.運動失調:上 外来リハ:パソコン操作において,左クリック操作時に示指 下肢・体幹失調.BBS:15 点.感覚:表在・深部覚は上下 内転筋緊張亢進し誤操作が目立った.指外転位での示 肢軽度鈍麻.視覚:複視及び眼振あり.STEF(Rt/Lt): 指・中指の分離運動の自主練習指導と誤操作時の画面 14/74 点.TMT(A):185 秒.HDS-R:29 点.BI:50 点. 状態を視覚的フィードバックから促した.緊張亢進による (車椅子介助レベル.食事は非麻痺側でスプーン使用.) 誤操作は減少し,誤操作した際も,画面状態から判断し 【作業療法経過】 自己修正を行うようになった. <Ⅰ期 BADL の獲得> 訪問リハ:実際の通勤経路を含めた屋外歩行練習及び公 職場側の意見:「先ずは体をしっかり治せ」.具体的な復 共交通機関の利用練習を中心に実施.徒歩とバス利用に 職条件を求めるが,進展はなし. て職場への自力通勤が可能となり,訪問リハを終了した. OT:手指巧緻動作課題・バランス能力向上課題を中心と 障害者職業センター:デスクワークの耐久性向上及び復 し基本動作の獲得を図った.ピンセット箸を用いた食事動 職支援に対する関わりを依頼.自主練習が中心となること 作とバランス能力向上に併せた T-cane 歩行の獲得がなさ から,本人との話し合いの結果,適宜必要に応じて相談 れ BADL が自立した.それに伴い,家屋調査・外出・外泊 することとなった. を実施し,在宅生活への汎化を図った. 【最終評価(介入約 6 か月後)】 <Ⅱ期 復職課題の整理・アプローチ> BBS:48 点.STEF(Rt/Lt):47/90 点.BI:100 点.エク 職場側の意見:「配置転換を考えている.簡単なエクセル セルでの表計算・グラフ作成がゆっくりではあるがエラー を出来るようにしておいてくれ」との意見. なく可能.公共交通機関を利用して職場への自力通勤が OT:症例はエクセルの使用経験が無く,簡単な表計算・ 可能.復職に向け面談・仮出社を繰り返し,最終調整中. グラフ作成から実施.作成方法は次第に理解されたが, 【考察】 時間経過に伴いエラーが増加した.また,エラーに自ら気 復職に向け,入院期間中から課題となる問題点を他職種 付くことは困難であった.それに対し,自己の作業耐久性 に発信し,解決に向けた支援体制を組むことで,退院後も の認識向上,作業のダブルチェックの習慣化を図った.そ 円滑な復職支援が行えたと考える.復職支援には,入院 の結果,自己管理能力が向上し,作成に時間は要するが 中のアプローチ・退院後のフォローアップ・職場の理解と エラーはなくなった.また,通勤手段獲得に向け,バス・地 協力等,本人をとりまくあらゆる環境のサポートが重要であ 下鉄を利用した外出練習を実施.段差や整理券発行機 り,早期の支援体制の整備は円滑な支援に繋がると考え への注意が不足し,歩行時の躓きがみられた.しかし 2 回 られた. ポスターB-4 運動プログラムの導入により活動への主体的な参加が可能となった症例 キーワード:精神障害,運動,活動性 菊地 詩織1) 佐々木俊二2) 千葉登³) 大友好司⁴⁾ 1)川崎こころ病院 2)山形県立保健医療大学 【はじめに】 5m 歩行 4~6 往復実施.本人からは「歩き方がよくな 今回,活動参加に消極的で臥床傾向が強い症例 に対し,本人が必要と感じている歩行練習を活動の 中に取り入れ,実施した.また,本人の行動変容に応 ったって言われる」との発言が聞かれた.継続した参 加が可能となったため,離床時間拡大・活動性向上を 目的にレク活動を導入. じ追加プログラム(身体運動を伴う)を導入し,更なる意 欲・活動性の向上を目指した. 【事例紹介】 第 3 期(1 ヵ月):時間通り継続して参加.作業活動で は普段交流の少ない他患との交流もみられる.歩行 練習では 5m 歩行 6 往復実施.自身の歩行について A さん.60 歳代女性.双極性障害.短期大学卒業 「変わってきたね」との発言がきかれた.レク活動にも 後,仕事を転々とする.30 代で結婚するが 40 代で離 婚.気分変動により X 年に当院入院.何度か入退院 拒否なく継続した参加が可能となったため,更なる離 床時間拡大・活動性向上を目的に軽運動を導入. を繰り返した後,施設で療養を継続するが易怒性亢 【最終評価】 進,万引き行為などが出現し X+7 年,当院再入院. 家族との関係は不良.本人は施設への退院を希望し TUG 9 秒,5m 歩行 3 秒.歩様 上肢の振り,体幹 の回旋運動,歩幅,すり足が改善.LASMI 0.6 点. ている.なお今回の発表にあたり,本人に書面で承諾 を得た. 【OT 初期評価】 導入した活動には殆ど休まず参加し,自発的な活動 への取り組みや他患との交流がみられるようになっ た.本人からの訴えでは,歩行に関して不安の訴え TUG 12 秒.5m 歩行 5 秒.歩様 上肢,体幹の回旋 はなくなり,自身の歩行状態の変化について前向き 運動(-),歩幅狭く,すり足(+).LASMI(対人関係の 項目) 0.9 点.OT 活動と生活行為以外の時間は自室 な発言が聞かれるようになった.今後に関しても, 「旅行に行きたい」と希望を述べる様子もみられた. にこもりがち.活動中の自発的な他者交流は殆どなく, 【考察】 レクリエーション活動(以下レク活動)は本人の意思に より不参加だった.本人からの訴えでは歩行に対して の不安の訴えや,今後について「夢も希望もない」と の発言が聞かれた. 【OT 方針・介入目標】 作業療法方針は,活動性を維持し施設での生活を 主体的に送ることとした.介入目標としては,歩行練 習の導入により OT 活動への意欲向上,活動の幅を 今回,活動参加に消極的で臥床傾向が強い症例 に対し,本人が必要と感じている運動(歩行)を活動の 中に取り入れることで参加意欲の向上を図った.これ をきっかけに活動の幅が広がり,活動への主体的参 加,臥床時間の短縮などに繋がった. 小林らは,「身体感覚に焦点を当てた作業療法が 生活の狭小化した長期入院患者に新たな関心を引き 起こす好機となる」と述べている.また,泉水らは,「自 広げることでの生活リズムの改善,離床時間の拡大を 図ることなどを挙げた. 【経過】 第 1 期(介入~1 ヵ月):週 2 回の作業活動時に歩行 己の目標や価値と統合された状態で運動を行うことで より効果的な運動となる可能性がある」と述べている. 今回,A さんが不安を感じていた歩行に焦点を当て, 活動の中に取入れたことで活動参加への動機づけが 練習の時間を設け実施.作業活動には声掛けにて参 加.作業はペン字を行っていた.活動中には同席患 者との自発的交流がみられた.歩行練習ではストレッ チ,5m 歩行を 2~4 往復実施.歩行の変化について 本人からの意見は聞かれなかった. 第 2 期(1 ヶ月):作業活動には時間通り自発的に参 加.ペン字の他に音楽鑑賞へ取り組む姿や自発的に 他患にお茶を運ぶ行為がみられた.歩行練習では 高まり,自身の課題や活動に参加することへの目的 性や重要性が明確になったと考える.更に,他者から の称賛や歩行時間の改善などが意欲の向上に繋がり, 活動への主体的参加,臥床時間の短縮,他者との自 発的交流などの変化をもたらしたことが考えられる. ポスターC-1 左片麻痺により ADL が低下した症例に対する経過に応じた関わり ~在宅復帰後の訪問・短時間通所リハビリテーションの活用~ キーワード:地域,自立度,生活不活発 三浦 美穂 医療法人啓仁会 石巻ロイヤル病院 【はじめに】 今回,右視床出血を発症し重度の左片麻痺を呈し ため,目標を行える範囲で主婦業を担って頂くといっ た内容に再設定,調理を中心とした家事動作訓練を た症例を担当する機会を得た.回復期入棟時には基 本動作及び生活動作ほぼ全介助の状態であったが 経過に応じた目標設定,治療を行った結果,ADL の 追加した.左手での把持能力は十分でなく実用性は 低いが,遂行能力の向上を図った.そして退院前訪 問指導を実施,動作確認や環境調整の提案を行い 自立度向上,さらには自宅での役割として調理を行う までに至った.また,退院後は当院で取り組んでいる 在宅リハビリへの移行によって住み慣れた環境への 適応化,そして楽しみながら自分自身の生活を送ると いう目標をもって暮らすことが出来るようになった.そ の介入における経過を以下に報告する. 外泊訓練,退院調整を進めた.退院直前の外泊時に 調理を行うなど一部家事動作遂行までに至った. 退院後は自宅環境への適応はもちろん,元の不活 発な生活を繰り返さないことが本症例には重要であっ た.そのため週 2 回の訪問リハビリ利用で退院後の生 活安定化を図った.在宅リハビリを行うにあたって担 【症例紹介】 60 代の女性,体重 72.3kg,BMI32.5 と肥満体系. 高血圧,両側変形性膝関節等の既往あり.夫と二人 当スタッフの変更が伴うが,お互い情報を共有しなが ら経過観察した. 訪問リハビリは,動線上における移動,段差昇降, 暮らしで専業主婦をしており日常生活動作は自立. 入浴動作や家事動作を中心に介入した.また転倒に 自転車での外出も行っていたが肥満により年々不活 発になった.勝気で話好きな性格であった. 対しての床上動作も重点的に行った.自宅内におけ る動作の安定化が図れたため,3 ヶ月後に短時間通 【作業療法評価(初期→最終)】 Br-St(左):上肢Ⅱ→Ⅲ、手指Ⅱ→Ⅴ、下肢Ⅲ→Ⅴ 感覚:上下肢表在・深部共に中等度鈍麻で上肢に痺 所リハビリへ移行した.リハビリ内容は,上記とほぼ同 様となるが,同年代利用者との冗談混じりの会話や同 じ目標をもって一緒に励まし合いながらリハビリを行う れあり→上肢は軽度鈍麻で痺れ訴え減少,下肢は深 部覚軽度~中等度鈍麻残存. HDS-R:実施不可→24 点 BI:5 点→85 点 【経過】 当院へ入院され,回復期病棟における作業療法を 1 日 3~4 単位,約 5 ケ月間実施.入院当初は脳出血 における症状に加え,水頭症における意識障害や認 知機能の低下,さらに廃用要素も強かったため早期 に離床を促して刺激入力を行いながら身体機能の改 善,二次的障害の防止を図った. 介入 1 ヶ月で水頭症の症状も落ち着き,麻痺側上 肢の機能促進,座位での立ち直り反応強化を中心に 介入.基本動作が見守り~一部介助レベルで可能と なりトイレ誘導も開始される. その後も機能訓練に加え,実際の動作を通した ADL 訓練を実施し,介入 4 ヶ月で入浴以外の ADL が自立,4 点支持杖と短下肢装具を使用しての歩行 が可能となるまで回復が認められた. この時点で生活における自立度向上も認められた ことでモチベーションの向上に繋がり,現在では移動 が一本杖へ変更,調理における左手使用の実用性 向上が認められている. 【考察とまとめ】 本症例は回復期において状況に合わせた治療や 目標設定をすることで大幅な回復が認められた.しか し,退院後は日中独居の時間も多いため,生活の予 想が立てにくく,セラピストはもちろん症例や家族共に 不安を抱えていたと思われる.そこで訪問リハビリの 利用に継げることで自宅環境への適応を図り,その後 短時間通所リハビリで地域と関わる機会を設けること で精神的な安定などの退院後のフォローの役割を果 たしたと考える. 現在も継続して短時間通所リハビリに笑顔で足を 運んでいる姿がみられている. ポスターC-2 具体的な目標を共有し,外来 CI 療法を行った一症例 キーワード:脳卒中,上肢機能,目標 佐藤亮太 公益財団法人 宮城厚生協会 坂総合病院 【はじめに】 当院外来リハの終了が検討されていた脳卒中後の 対象者に対して,作業選択意思決定支援ソフト(以下 本人の生きがいである釣りや調理等に関する目標を 立案した.釣り糸に素早く仕掛けを取り付ける,野菜 の皮をスムーズに剥ける,等. ADOC)を使用して具体的な目標の検討と共有を行 い,CI 療法を実施した.その結果,上肢機能が向上 ・左 Br-stage 上肢Ⅴ 手指Ⅴ ・握力:左 16.4kg ・簡易上肢機能検査(以下 STEF):74 点 し目標を達成して当院のリハを卒業できた経験につ ・Wolf motor function test(以下 WMFT):遂行時 いて報告する. 【症例紹介】 間平均 10.8 秒 Functional Ability Scale(以下 FAS)平均 2.9 点 60 代男性,右利き,妻との 2 人暮らし.X 年 2 月 10 日に右被殻ラクナ梗塞を発症.A 急性期病院にて 加療し,3 月 11 日に当院回復期病棟へ転院. 上肢の麻痺が残存し 6 月 9 日に自宅退院.当時は ・Motor Activity Log(以下 MAL):使用頻度平均 3.0 点 動作の質平均 3.6 点 【CI 療法終了時評価】 ・握力:左 21.3kg ・STEF:89 点 CI 療法の適応基準を満たさず.その後は週 1~2 回 ペースで当院外来にて作業療法を行っていた.発症 から約半年が経過したところで,主治医の指示の下 ・MAL:使用頻度 4.2 点 動作の質 4.1 点 ・WMFT:平均 1.93 秒 FAS 平均 3.8 点 自宅にて自慢のカレーを作ってきたり,療法士が提 CI 療法を実施することとなった. 【方法】 1)実施期間 示した課題以外でも積極的に麻痺手を使用するよう になった.目標にしていた項目もほぼ達成し,今後の 生活でもいろいろなことに挑戦したいと前向きな発言 実施期間は 1 日 5 時間(午前 3 時間,午後 2 時間) の練習を 10 日間行った. 2)CI 療法のプログラム ①日常生活に於ける麻痺手使用を促進する行動戦 略「Transfer Package」竹林 1) らの実践を参考 に実生活における麻痺手使用の課題を提示し, 解決法を療法士と共に相談した.また,麻痺手使 用の self-monitoring のための日記の記入も行 った. ②反復的・課題指向型練習 様々な物品を用いて,目標達成に向けて段階的 に難易度を上げる課題指向型練習を実施.1 日に 自主練習を含め 15 から 20 課題を実施した. ③非麻痺手の拘束 今回は,自然な両手動作の獲得を目的としてリハビ リ室・自宅とも非麻痺手の拘束は行わなかった. 3)目標の立案・検討 ADOC を用いて意味ある作業の中で如何にして麻 痺手を使えるようになるか目標を対象者とともに相談 した. 【CI 療法開始前評価】 ADOC を用いた面接によりセルフケア関連に加え, が聞かれ,当院でのリハビリ卒業となった. 【考察】 花田 2) らは外来 CI 療法では,麻痺手を使用した ADL 方法を自宅で即日実践するよう対象者に指導で き,その結果や感想を翌日に速やかに聴取できること か ら , 入 院 診 療 に 比 べ て self-monitoring や problem-solving が促される可能性がある,と述べて いる.今回は,生きがいにも繋がる具体的な目標に向 かい,CI 療法に加え,Transfer Package を通して実 生活の中でも麻痺手を使用した行動を促進すること が出来たことが,維持期においても機能面の向上・目 標の達成に繋がったと考える. 【文献】 1)竹林崇,他:CI 療法における麻痺側上肢の行動変 容を促進するための方略(Transfer Package)の効 果.作業療法 31:164-175,2012 2)花田恵介,他:外来診療における CI 療法の実践 報告.総合リハ 39:367-372,2011 ポスターC-3 自動車運転に対する当院の取り組み キーワード:自動車運転,連携,高次脳機能障害 菅野俊一郎 根來亜希 宮城厚生協会坂総合病院 【はじめに】 当院では,以前から近隣の自動車教習所(以下, 教習所)と協力し乗車評価を実施していたが,自動車 【結果】 各質問に対して下記のような返答があった. ① 開始当初は障害があることで抵抗はあったが,経 運転支援強化のため,2013 年に自動車運転支援チ ームを立ち上げ評価や支援方法を見直した.支援の 験すると教習生と大きくかわりないと感じた. ② 教習所主導で行えているので特に問題はない. 方法として,院内評価(身体機能評価,神経心理検 ③ OD 式安全性テストを行うときに指示が入りにくいと 査)と教習所での実車評価を実施,症例検討にて結 果を総合的に判断し,医師が診断する際の情報を提 戸惑う場合があるが大きな問題とはなっていない. ④ 電話での受付時に麻痺の有無などの情報で十分 供する形とした.情報を元に,医師が自動車運転再 開を検討できると判断された場合は,運転免許センタ ーでの運転適性相談にて最終判断を行い,運転再 開するという流れを作成した.その中で,乗車評価で 検査と運転で判断するので逆に情報がないほう が先入観を持たなくていい. ⑤ 周囲への配慮ができるかどうか.特に巻き込み確 認の有無.しかし初心者ではないので教習生とは は失語症状で教官の指示が十分に入らない例や,注 意障害で運転時に確認不足が出現するなどの例が みられたため,教習所側で対応に苦慮していると考え, 違い乗っていて不安はあまりない. ⑥ 高次脳機能障害は教習所にあるビデオで情報を 得ている. 教習所職員にインタビュー形式で聞き取りを行ったの で以下に報告する. 【方法】 ⑦ 短時間の関わりなのでわからない.特に長時間の 運転となるとよりわからない. 事前に麻痺の程度やノブなど器具類の使用有無, テーマとして教習所側が困っていることを共有し, 可能であれば解決することで教習所側の負担軽減と, AT 車か MT 車どちらを使用するかという情報は ほしい. より詳細な評価が可能になるのではと考えた.特に失 【考察】 語症状や高次脳機能障害など目に見えにくい障害へ の理解として,必要であれば申し送り書などを活用し, 情報共有することも含めて準備を行った. 対象は教習所所長の許可の下,実車評価を経験し たことのある教習所職員 1 名に行った. インタビュー方法は,事前に大まかな質問事項を決 めておき,回答者の答えによって,さらに詳細にたず ねて行く簡易な質的調査法である半構造化インタビュ ーとした. 質問の内容としては以下の 7 項目を挙げた. ① 自動車運転再開支援に協力することについて. 今回,半構造化インタビューにて医療従事者側が 必要ではないかと思っている情報と,相手が必要とし ている情報に差異があることがわかった.医療従事者 側とすると高次脳機能障害など目に見えにくい障害 は理解しにくい部分であると考え,困っていると思わ れた.情報は相手にとって過度であるとマイナスの要 因に働く場合があり,何を必要としているかを確認す るコミュニケーションが大切であると感じた. 乗車評価を行っている患者の内,重度の高次脳機 能障害を呈する患者は数名であるため,高次脳機能 障害の知識を欲していない可能性もある. ② これまでの当院の支援についてよかった点,悪か った点. ③ これまでの当院の患者を評価してきてよかった点, 悪かった点. ④ 患者情報の必要の有無. ⑤ 安全運転とはどのようなものか. ⑥ 高次脳機能障害についての知識,興味. ⑦ 麻痺と運転技能の関係について. 自動車運転再開に向けて互いの視点から評価を 行い,その中で必要十分な情報を提供することは,互 いの専門性を最大限に発揮するために重要であると 考える.また,支援を続ける中で双方に新たな課題が 見つかる可能性があるため,教習所と定期的に話し 合いの機会を持ち,課題を共有することでより強固に 連携できると思うので今後も継続したい. ポスターC-4 宮城県内の障害福祉サービス等に従事しているリハビリテーション専門職の活動について キーワード:障害福祉,リハビリテーション専門職,役割 武者 恵 宮城県リハビリテーション支援センター 【はじめに】 宮城県リハビリテーション支援センター(以下「当セ ンター」)では,県内の地域リハビリテーションの推進 ており,単独職種のみで関与しているリハ専門職は全 体の約 8 割を占めていた. リハ専門職の採用のきっかけは,4 割は制度上の に関する事業を実施しており,平成 25 年度からは事 業による支援対象を障害児者にも拡充し,支援体制 人員として配置されたものであり,4 割は利用者の高 齢化・重度化のケア対策,重症心身障害者の個別支 の構築を進めている.今回は,平成 25 年度に調査・ 援,療育ニーズに対応するため人員として専門性へ 研究事業として当センターで実施した「障害福祉領域 におけるリハビリテーション専門職(以下「リハ専門 期待してのものであった.活動内容は,利用者を個別 に評価し必要な支援を実施しているという状況は,一 職」)理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の活動 に関する調査」でわかった障害福祉分野におけるリハ 専門職の活動の特徴とその必要性について報告す る. 般的なリハ専門職の現場と違いはなかった.活動効 果は,利用者への効果だけでなく,支援の実践モデ ルとなる等のスタッフへの効果や外部機関との連携が とれやすくなる等の事業所・法人への効果も挙げられ 【目的】 当センターにおける調査・研究事業は,「宮城県内 の障害福祉サービス等(障害福祉サービス事業所, ていた.活動上の課題は,業務に係る知識やスキル に不安があるというリハ専門職に関わる課題と,事業 所内でリハ専門職の役割が不明確である等の課題が 計画相談支援事業所,障害児通所支援事業所,精 神障害者コミュニティサロン)におけるリハ専門職の活 動状況や支援の状況を把握し,地域リハビリテーショ あり,この部分で何らかの支援が欲しいという声が多 かった. 【考察】 ン体制整備の推進に向けた取り組みに資すること」を 目的に実施した. 障害福祉分野におけるリハ専門職の活動の特徴は, 殆どのリハ専門職が「事業所スタッフへの助言」を行っ 【方法】 ていること,事業所一職員として活動しながらタイミン リハ専門職の配置状況は,独立行政法人福祉機構 が提供している障害福祉サービス事業所情報の検索 及び当センター独自調査等により把握した.その後, リハ専門職を配置している 47 事業所のうち仙台市以 外に位置しヒアリング調査の了解が得られた 18 事業 所に訪問し,23 名のリハ専門職の雇用のきっかけ, 活動内容,活動効果,活動上の課題,当センターへ の要望・必要な支援等について,インタビューを行い その結果を記録した.記録した内容は,KJ 法を用い て分類しまとめた. 【結果】 グよく専門職としてのスキルを活かしていること,常勤 で働くリハ専門職は外部機関との連携の役割を担っ ていることが特徴的であり,リハ専門職の持つ医療に 関する知識が,福祉分野の活動に根拠を見出すこと に役立っており,リハビリテーション専門職は,利用者 を取り巻く環境に変化を与える役割を担っていると思 われる.また,リハ専門職は,対象者とその取り巻く環 境を構造的に捉え,介入すべき点や波及させる点に ついて戦略的に考え取り組むという介入モデルを持 っていることも強みであると思われる.障害福祉サー ビスの提供にあたっては,チームアプローチと多職種 47 事業所に 117 名のリハ専門職が配置されており, 医療型の入所施設を併設し療養介護及び短期入所 を実施している 4 事業所を除くと,44 事業所で 57 名 (理学療法士 31 名,作業療法士 17 名,言語聴覚士 9 名)が活動していた.配置されている事業所は,「生 活介護」「障害児通所支援事業」「その他」の 3 つに大 きく分類され,「生活介護」への関与が最も多い状態 であった.リハ専門職の約半数は非常勤として勤務し 連携が必要であると言われており,その一職種として 重要な役割を果たせるだろうと考える. 口述 ① 「不安」から「希望」へ ~成功体験を通じて、自宅生活の具体的なイメージへつながった症例~ キーワード:家庭内役割,成功体験,自信の獲得 大場 郁美 大崎市民病院鳴子温泉分院 【はじめに】 今回,息子と二人暮らしであり,高齢ながら家事全 た伝い歩きを練習後,調理実習として味噌汁作りを行 った.キッチン台に寄りかかれば 30 分程度の立位作 般を行っていた女性を担当する機会を得た.「家に帰 りたい」という気持ちはあるものの,歩行や家事を行う ことに不安を感じていた.実際の動作を行うことで自 業が可能であり,また,伝い歩きにてキッチン周りの移 動も行えた.開始前は消極的な発言が聴かれたが, 終了後には「もっと難しいのにすればよかった.」と自 信の獲得へつなげ,退院前訪問,訪問リハビリに至る までの経過を以下に報告する. 【症例紹介】 A 氏,80 歳代前半,女性,要介護 1 診断名:腰部脊柱管狭窄症 生活・現病歴:病前 ADL は独歩にて自立.息子と二 信がついた様子であった. 洗濯物干し動作では,支持なし.立位の作業で腰 痛が出現し,作業の継続が困難であった.そこで,可 能な部分は座位で行い,寄りかかれる環境を設定す ることで立位での作業が可能となった. 退院半月前,ケアマネージャー,福祉用具業者, 人暮らしであるが,息子は仕事で遠方へ行くことも多く A 氏が家事全般を行っていた.約 3 年前に転倒歴あ り腰痛出現,近医にて治療していたが,徐々に腰痛 PT と共に自宅訪問した.本人の動線を確認しながら 段差の解消と浴室・トイレの手すり設置,居室の移動, 歩行補助具,洗濯物干し場の検討を行った.本人は 悪化し,歩行困難となった.近医より当院紹介され入 積極的に自宅内を動き,話し合いに参加する場面が 院,理学療法(以下 PT)開始.家事動作を目的に入 院約 1 ヶ月後作業療法(以下 OT)追加処方となった. みられた. 入院 2 ヶ月半後自宅退院.週 1 回の訪問リハビリと 【OT 評価】 介入時,病棟 ADL は歩行器を使用し入浴以外自 立.洗濯も自分で行っていた(乾燥機使用).両下肢 週 1~2 回のデイサービス,ヘルパーを利用予定とな った. 【考察】 筋力低下と両足部にしびれの訴えあり,腰痛は軽減 はしているも残存.そのため長距離歩行では疲労し やすい状況であった.主治医からは退院許可が出て いたが,本人からは「もう少し歩けるようになってから 帰りたい.」という希望があり,リハビリを継続していると ころであった.その他の希望については「家のことが できるようになりたい.」と話す一方で「できるかどうか わからない.」との発言が聴かれた. 【経過】 介入当初,本人は家事動作の必要性を感じていた 様子ではあるが,「うまく歩けない」ことへの不安が強く, 家に帰りたいという思いはあるものの具体的な希望は 自発的には聴かれなかった.そのため,病前の生活・ エピソードを聴き,本人と共に退院後に必要なことを 話し合った.その結果,調理動作,洗濯物干しを行い たいとの希望が聴かれたため,役割の再獲得を目標 にアプローチを行った. 歩行補助具の検討により長距離歩行での疲労は軽 減した.また,調理場面を想定し,テーブルを使用し 今回の症例では,退院後の生活について具体的な イメージができず,「家に帰っても何もできないのでは ないか.」という漠然とした不安が,自発的な希望が聴 かれない理由の一つであったと考える.そのため,病 前の生活について詳しく知ることがアプローチを行う 上での第一歩であった.それを元に,実際の動作を 行い,経験することが成功体験となり,自信の獲得に つながったと考える.その一方で入院中は退院に対し て不安が残っていたのも事実であった.訪問リハビリ により,自宅生活での不安を軽減し,本人の望む暮ら しに近づけていくことが今後の OT の役割と考える. 口述 ② 「連携」の大切さを痛感した症例 ~軸索損傷を呈した小児との関わり~ キーワード:連携,家族,高次脳機能障害 宮内 直哉 石巻赤十字病院 【はじめに】 この度,交通事故により軸索損傷を呈した小学生と関 わる機会を得た.運動及び高次脳機能障害が生じていた 徐々に院内ADLは自立され,子供らしいやんちゃさも 見られるようになった.しかし,年齢に比し注意の散漫さ や,手の不器用さ,言動の幼さが見られ,母は「前からこ が,理学療法士(以下PT),言語聴覚士(以下ST),看護 師,医師,臨床心理士等,多職種と連携しながらリハビリ うであった」と問題視されていなかった.小児のリハ施設 への転院を予定していたが,母が必要ないと判断された テーション(以下リハ)を行った結果,自宅退院され,復学 ため,カンファレンスにて ADL の自立をもって退院とし, に至った.外来リハも継続したものの,教師との情報交換 が行なえず,自宅や学校での生活が不透明であり,方向 外来にてフォローする方針となった.WISC-Ⅲの再検や, 臨床心理士の介入も促したが,母が拒否された.上記の 性を決定する際に難渋した. 今回の関わりを通して感じた,連携の大切さ,難しさに ついて考察したので,経過と共に以下に報告する. 【症例紹介】 問題は残存したが,X+46 日目に自宅退院された. 外来リハを継続し,運動及び高次脳機能のさらなる向 上は見られたが,知能の不十分さや言動の幼さは見られ た.復学はされたものの,母及び本症例からの情報では, 小学 2 年生の男児.母及び姉との 3 人家族.車との接 触事故に遭遇し,当院へ救急搬送された(入院日=X). 気管挿管,人工呼吸器装着のもと,救急病棟にて全身管 学校での様子が分からなかった.学校教師との情報共有 が必要であったが,母より同意が得られなかったため,リ ハでは現状を把握しつつ,母及び本症例との対話を持 理され,翌日より理学療法が開始された.X+10 日に人工 呼吸器より離脱,抜管され,X+16 日より言語聴覚療法, X+20 日より作業療法(以下 OT)を開始した. つという関わりを持つこととなった. 【結果】 母や医師との協議の末,X+93 日目に外来リハ終了と 【初期評価】 意思疎通は可能であったが,発動性に乏しく,発語は なった.運動機能障害は明らかでなくなり,駆けっこ等も 可能となった.しかし学力の不十分さや言動の幼さはあり, 少なく,表情の変化も殆どなかった.坐位保持は静的に 母は問題視されていなかったものの,何らかの高次脳機 は可能,動的には不能であった.左片麻痺(Br. stage 上 肢Ⅴ/手指Ⅴ/下肢Ⅴ),注意障害,左半側空間無視が認 められた. 【経過】 注意障害や左半側空間無視を主とした高次脳機能及 び上肢運動機能,ADL へとアプローチを行った.PT や ST と同時に関わる等,それぞれの視点から情報共有を 行った.また,病棟生活とリハ場面での情報交換を,看護 師とも頻回に行なった. 運動及び高次脳機能障害は著明に改善したが,左上 下肢及び体幹の運動失調が表在化した.X+32 日目の 能障害は残存しているものと思われた. 【考察】 急激に変化する状態に対して,多職種との連携を密に 対応し,ADL の自立,復学に至った.しかし,本症例の 元来のパーソナリティや,退院後の家庭及び学校の様子 を学校教師等から知ることが出来ず,病院内だけでなく, 病院外と連携をとることの大切さ,保護者の理解や,協力 が如何に重要であるかを痛感した. 今回呈した障害の回復のみでなく,今後の成長を考え ると,学校教師との情報共有が必須であった.病院内で の連携はとられていたが,母との対話は一職種ずつとな SPECT にて,小脳に血流低下が認められ,この結果を 加味しプログラムを変更した.注意障害は残存していたも のの,この頃より左半側空間無視は改善された.X+36 日目に臨床心理士により WISC-Ⅲが実施された.全般 的な IQ の低下が認められたが,試験者より,「迷路の成 績は不良であったが,楽しんでいた」との情報があり,プ ログラムに追加した.その後も他職種での情報交換を重 ねながら介入を行なった. っていたため,病院スタッフ側からの説明や,情報収集と いう形だけであった.多職種カンファレンスに参加してい ただき,現状を受け止め,子供のために何が必要か知る 場を設けるべきであったと考える. 口述 ③ 『箸で食べたいけどね・・・』 ~日常的に箸を使用し食事をとるまで~ キーワード:箸操作,テノデーシスアクション,食事用具 中村 公宣 医療法人 松田会 松田病院 【はじめに】 (虫様筋・掌側,背側骨間筋)は萎縮し機能発揮は不 頸椎症性脊髄症患者は手指・上肢機能の低下,感 覚障害を呈し,「物を掴む」「箸を操作する」等の日常 生活動作に支障を来す事が多い. 十分.手関節を中間位~背屈位の間で保持しながら の手指伸展コントロールが困難であり,開閉操作時に は指尖部が箸から離れ手指の選択的な運動が困難 今回,感覚障害と手指機能低下を呈した症例に対 し,手指操作時の特徴を評価した上で箸操作練習時 の環境設定や補助具にて段階付けをしながら治療介 であった. 治療方針として,失敗に対して過敏である症例の 性格から箸操作練習での成功体験なしには実際の食 入を行った.練習を行う経過で徐々に手指機能は回 事場面での使用も困難と考え,箸操作練習を中心に 復しているものの実際の食事場面での活用に消極的 であった症例が,箸操作練習を行っていく過程で自 治療を行う事とした. 【治療経過と結果】 信がつき,暮らしの中で実用に至ったため治療経過 から考察を加え以下に報告する. なお,今回報告するにあたり症例に同意を得た. 練習場面では,「なぜできないか」「どうしたらできる か」を理解できるようにフィードバックしながらテノデー シスアクションでの代償動作を食器の高さで調整,修 【症例紹介】 80 歳代の女性.右利き.診断名は頸椎症性脊髄 症(黄色靱帯石灰化症).X 年 3 月下旬より手足の痺 正した.食事動作時の段階付けした環境調整は,手 指の選択的な伸展操作を可能とし巧緻性向上へと繋 がった.箸ぞうくんを用い視覚で確認しながら箸の形 れが出現.徐々に歩行時杖が必要となり,術前頃に は這って移動していた.4 月に A 病院受診し,頸髄症 状に合わせ操作練習を行う事で指尖部からの知覚入 力より DIP 関節固定位での PIP,MP 関節部での選 の診断にて手術を勧められた.5 月にセカンドオピニ 択的な運動を可能とした.最終評価時の身体機面と オンにて B 病院受診し,当院へ手術目的にて紹介と なる.5 月 19 日に C3~C6 椎弓切除術を実施し,翌 日より作業療法開始となる. しては MMT 上肢右 4,左 4 レベル,握力は右 9.5 ㎏, 左 13.5 ㎏.MFT 右 26/左 27.ADL は BI95/100 と改善した. 【作業療法評価と治療方針】 本症例は小柄で細身,失敗する事に過敏で羞恥 心が強く,繊細で穏やかな方である.術後当初の身 体機能として MMT 上肢右 3,左 4 レベル,握力は右 4 ㎏,左 5.5 ㎏.感覚は表在覚が右手指中等度鈍磨, 左手指は軽度鈍磨(両手共に深部覚は比較的保た 失敗する事に過敏な症例は箸ぞうくんと普通箸の 操作練習の成功体験を積み重ねる事で,自信がつき 食事場面でも積極的に使用される場面が増え,退院 時には普通箸の利用まで可能となった. 【考察】 結果から,本症例の性格を考慮し支持的に声をか れ 10 円玉とおはじきの違い等は判別可能).右手指 にしびれ感残存.MFT 右 22/左 23. ADL は術後当初 BI(車椅子に離床し始めた頃) 25/100.食事(刻み食):スプーンを右手で把持し,頸 部・体幹を前傾させ食べる動作方法が主. 作業療法開始当初,一般的な箸(以下,普通箸)は フォームを形成する事も困難.補助具(以下,箸ぞうく ん)はテノデーシスアクションを利用して把持していた. 箸操作も手関節背屈位でのみ対象物を掴む事が可 能であり,そのため肩関節は屈曲・外転・内旋,前腕 回外位にて末梢の操作を行う.手外在筋(浅指・深指 屈筋,指伸筋)優位にて操作を行っており,手内在筋 けて作業療法場面で積極的に箸操作練習を行い,成 功体験を積み重ねてきた事が日常生活場面での自 立に繋がったのではないかと考えている. 鈴木らは,「普通箸と他の箸では,構造と箸操作方 法が異なっている」「箸ぞうくんは,普通箸の操作を獲 得するための訓練において,段階付けの一部になら ない事が推察された」と報告している. しかし,本症例においては手指の選択的な筋活動 を促すきっかけとなり,有効であったと考える. 何よりも失敗に過敏な本症例に関して,実際に箸 操作を行う事がどれほど価値あるものだったかという 事を感じた. 口述 ④ 本人の言動に基づいて選択した役割を担うことで主体性の向上がみられた事例 キーワード:認知症,役割,主体性 佐藤 美有紀 1) 川勝 祐貴 1) 佐々木 俊二 1) 千葉 登 1,2) 石井 洋 1) 1)川崎こころ病院 2)山形県立保健医療大学 【はじめに】 介護を要する高齢者でも役割を担い,周囲から認 められたり,感謝される機会があることは,本人にとっ を求めているような発言があり,レクの進行の手伝いを A 氏の仕事として依頼することで主体性が向上すると 考え介入方針を変更した. て大きな意味を持つ 1).今回,自ら希望する作業を示 すことが困難な事例に対し,本人の言動を中心に性 第 3 期(役割導入期;1 ヶ月):レクの進行の手伝いを A 氏の仕事として口頭で依頼し,終了後は感謝の言 格や生活史,残存能力を考慮し作業の選択・支援を 葉を伝えるということを繰り返し行った.当初は促しが 行った.その作業を役割として担ったことで,時間を 考慮した行動や作業に対する積極的な取り組みに繋 必要であったが,繰り返すことで促しの頻度は減少し た.この頃,男性 OTR を上司,担当 OTR や他スタッ がり主体性が向上したため報告する. 【事例紹介】 A 氏.60 代男性.外傷性認知症.アルツハイマー 型認知症疑い.CDR 2.職業は会社員で定年まで勤 フを同僚として認識するようになった. 第 4 期(役割定着期;1 ヶ月):ラジオ体操が始まると自 ら行動するようになった.体調不良の場合は OTR に 事前に申し出る等し,責任を持ち取り組む様子がみら 務.性格は真面目.X-3 年,外傷性脳出血発症.そ の後,水頭症発症し認知機能の低下が認められた. 回復期リハビリテーションを実施したが,自宅退院が れた.その他の活動も仕事として認識し,OT 以外で も自らスタッフの手伝いを申し出るようになった.また 活動の合間の入浴の時間を考慮しながら行動するよ 困難であり X 年当院入院となった.なお今回の発表 にあたり,キーパーソンである長男に書面で承諾を得 た. うになった. 【OT 最終評価】 MMSE 12/30 点.FIM 92/126 点.認知機能の低 【OT 初期評価】 MMSE 21/30 点.FIM 91/126 点.近時記憶は概 下が認められたが,作業を繰り返すことで支援の量は 減少した.病院を職場と誤認していることに変化はな ね良好.見当識障害があり病院を職場と誤認し,仕事 く,OTR や他スタッフを職場の人物と認識するように を求める発言が多く聞かれた.身体機能は年齢相応 で生活に支障はないが,臥床時間が多く,自ら作業 を希望することがない活動性が低く受身的な生活を 送っていた. 【介入初期の方針】 日課としてラジオ体操や歌唱等を行うレクへの参加 を促し,活動性の向上を目的に介入した. 【経過】 第 1 期(入院~8 ヶ月;受身的参加期):受身的だが継 続してレクに参加していた. 第 2 期(4 ヶ月;役割選択期):介入約 8 ヶ月での なった.また時間を考慮するなどし,主体的な行動が みられた. 【考察】 A 氏は病院を職場と誤認し,仕事を求める発言が あったことから,レクの進行の手伝いを A 氏の仕事とし て依頼したことで抵抗なく受け入れることが出来たと 考える.また,取り組む中で他者からの称賛や成功体 験を繰り返すことで自信を持つことができ,真面目な 性格も奏効して継続することが出来たと考える.認知 症高齢者に提供する作業を選択するにあたり,本人 の言動の観察を中心に,性格,生活史から行動特性 MMSE は 11/30 点で全般的な認知機能の低下が認 められた.加えて受身的な生活に変化がない状態が 続いていたため,ラジオ体操をリーダーと並んで立っ て行うように促した.促されないと行おうとしなかったが, その後の歌詞カードの集配では当初から自ら手伝う 様子がみられた. 介入方針の変更:人前に出たことで自らの役割を自 覚し主体的な行動がみられた.また,介入時から仕事 を推察し,残存能力を考慮し,自信を持って取り組め るよう配慮することで主体的な生活を獲得できると考 える. 【文献】 1)浅海奈津美,守口恭子:老年期の作業療法.第 2 版,三輪書店,東京,2005,p105.
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