2014 構造解析学 第 7 講 仮想仕事の原理 1. 「仮想仕事の原理」の一般的な表現 仮想仕事の原理を質点や剛体に適用した場合については、構造力学の講義で詳しく習っているの で、ここでは弾性体(弾性のはり)に適用した場合に焦点を絞って、仮想仕事の原理の意味、適用 の方法について再度考察することにする。 弾性体における仮想仕事の原理を一般的な教科書の表現で文章にしてみると・・・ 一般的な教科書に書いてある「弾性体における仮想仕事の原理」 系が釣合状態にあれば、変形適合なすべての仮想変位に対して、外力の全仮想仕事と内力 の全仮想仕事は等しい。 これでは、何のことかサッパリわからない。しかも、せっかく釣合状態にあるのに、それと全く関 係のない仮想変位とやらを強引に引っ張り出してきて仕事させる?それに何の意味がある? 2. 弾性体における仮想仕事の原理 まず、上の説明の中でわからない言葉が「変形適合」である。これを考えるために、同じ一つの はりに対してそれぞれ違う荷重 p A と p B が作用した場合について、おなじみのあの物理量関係図を 引き合いに出してみると・・ pA(x) pB(x) 系A 系B たわみ 荷重強度 積分 ×-1 微分 微分 せん断力 積分 曲げモーメント yA 微分 微分 部材力式 M(x)=EIφ(x) ×-1 ×-1 積分 積分 dy θA = A dx たわみ角 たわみ 荷重強度 微分 積分 積分 曲げモーメント 曲率 まずは、系 A、系 B のそれぞれにクラペイロンの定理を確認しよう 系A 系B 7-1 θB = たわみ角 微分 微分 部材力式 M(x)=EIφ(x) 解析の流れ 解析の流れ 積分 微分 せん断力 yB ×-1 曲率 積分 dyB dx 2014 構造解析学 おや? 系 A のたわみと系 B の荷重強度を掛けたものと系 A の曲率と系 B の曲げモーメントを掛け合わ せたものも・・・・・! すなわち、 ・ 幾何学的な条件(支点条件や寸法)が全く同じ ・ 荷重状態が異なる という関係の二つの系の間で、 ・ 片方の外力ともう片方の対応する変位の積(外力の仮想仕事)は、片方の内力(はりの 場合は曲げモーメント)ともう片方の対応する内部変形(はりの場合は曲率)の積(内力の 仮想仕事)に等しい ・ このとき変位と内部変形は物理量関係図における微分積分の関係をちゃんと満たして いないといけない(→これが変形適合の意味!)し、外力と内力は釣合関係(これも 微分積分の関係)を満たしていないといけない。 ・ 大きさや載荷点、あるいは載荷の方向が違う荷重が作用しても、物理量関係図におけ る微分積分の関係が二つの系の間で「同じ関係」であるためには、「変位が微小」で あることが必要条件である。たとえば、単純ばりが目に見えるほど大きくたわんだ時 には、ローラー支点が移動してしまい、積分のときの境界条件が変化してしまう。 というのが仮想仕事の原理の正体である。 ちなみに、仮想仕事の原理において、 (1/2)が掛からないのは、もう変形してしまった互いに別 の系同士の物理量をいきなり掛け合わせてしまうので、結果得られる「仕事のようなもの」は、そ の変形状態に至るまでの経過とは全然関係ない物理量となるためである。 3. 仮想仕事の原理の使い方 仮想仕事の原理が構造物の変位を求める場合に非常に便利な手法である。なぜならば・・・・・。 「ある構造に P A という荷重が作用したときの、x点における変位を求めなさい」という問題を考 えるとき、この問題の状態を(系 A)とすれば、「ある構造」から一旦 P A という荷重を取り除いて、 その後、この「ある構造」に対してどんな荷重を作用させてもその状態を(系 B)として採用できるから である。すなわち、都合の良いように(系 B)を定めることが可能(だから 仮想 系)ということ になる。ただし、ちゃんと「都合」を考えなければならいけど・・・。 7-2 2014 構造解析学 演習 7-1 下のような片持ちばりの自由端の変位とたわみ角を仮想仕事の原理により求めよ。 ① 与系を(系 A)とすれば、仮想系(系 B)は、荷重を取り去って別の荷重を載せれば良い。 ② 今、知りたいのは、自由端の鉛直変位 y なので、これと仕事の相手になるような、「載荷点」 と「方向」を持つ任意の大きさの荷重(大きさは何でもいい!)P V を仮想系(系 B)に作用 させる。 PA 与系(系 A) PB 仮想系(系 B) yA L(m) L(m) たわみ 荷重強度 積分 ×-1 微分 微分 せん断力 積分 曲げモーメント 積分 積分 微分 部材力式 ×-1 積分 積分 曲げモーメント 曲率 M(x)=EIφ(x) ×-1 微分 微分 せん断力 たわみ角 微分 たわみ 荷重強度 解析の流れ 積分 たわみ角 微分 微分 部材力式 M(x)=EIφ(x) ×-1 積分 曲率 解析の流れ 曲率φA の分布 曲げモーメント MB の分布 ③ 上の分布図をもとに、φ A 、M B をそれぞれ、xの関数として、表示しておけば・・ φA MB = = ④ ここで、系 A と系 B の間で、仮想仕事の原理を適用すれば、次のように書ける。 PB y A = (外力の仮想仕事) (内力の仮想仕事) ⑤ さらに、荷重 P B の大きさは何でもいいので、P B =1 と置いてしまえば・・・ 7-3 2014 構造解析学 演習 7-1(つづき) (仮想仕事の原理を使えば、与系の荷重と仕事の相手ではない変位も求まる!) ⑥ 与系(系 A)で求めたい変位は「自由端のたわみ角」でありたわみ角の仕事の相手はモーメ ント荷重。だから、仮想系(系 B)の自由端にモーメント荷重を作用させる。求めたい変位の 仕事の相手は、大きさを「1」にしてしまうと、あとがカンタンなので、最初から 1 にして しまう! PA 与系(系 A) 仮想系(系 B) 1 θA L(m) 曲率φA の分布 L(m) 曲げモーメント MB の分布 ⑦ 上の分布図をもとに、φ A 、M B をそれぞれ、xの関数として、表示しておけば・・ φA MB = = ⑧ あとは、同様に系 A と系 B の間で仮想仕事の原理を適用すれば OK! 1⋅θ A = 4. ベッティの法則 ベッティの法則(betti’s low)は,影響線を理解するのに非常に役に立つエネルギー理論であり,仮 想仕事の原理からも簡単に誘導できる. ベッティの法則 (相反定理) 全く同一の二つの構造系 A と B に全く違う荷重が作用したとき 系 A の荷重と系 B の対応する変位のなす仕事は 系 B の荷重と系 A の対応する変位のなす仕事に等しい 7-4 2014 構造解析学 以下にベッティの法則の例を二つ挙げてみる.(公務員試験,大学院試験などに頻出!) 例1 例2 PA (系 A) PA (系 A) δA θA (系 B) PB (系 B) MB δB δB L(m) L(m) PA ⋅ δ B = PB ⋅ δ A PA ⋅ δ B = M B ⋅ θ A 7-5 2014 構造解析学 ここで,もういちど,構造解析に使えるエネルギー原理についてまとめてみると・・ pB(x) pA(x) 系A d 4 yA p A = EA 4 dx 3 d yA dx 3 ×-1 M A = − EA 微分 微分 せん断力 積分 d 2 yA dx 2 曲げモーメント yA たわみ 荷重強度 積分 QA = − EA 系A 積分 微分 部材力式 M(x)=EIφ(x) ×-1 dy A dx QB = − EA 3 d yB dx 3 φA = − d 2 yA dx 2 M B = − EA 仮想仕事の原理 d 2 yB dx 2 曲げモーメント ∫ ∫ 0 ベッティの法則 L 0 * 積分 θB = 微分 部材力式 M(x)=EIφ(x) ×-1 曲率 dyB dx 積分 φB = − d 2 yB dx 2 解析の流れ 1 L 1 L p y dx M A ⋅ φ A dx, ⋅ = A A ∫ ∫ 0 0 2 2 L 微分 たわみ角 微分 解析の流れ クラペイロンの定理 微分 せん断力 積分 積分 曲率 ×-1 yB たわみ 荷重強度 積分 θA = たわみ角 微分 d 4 yB pB = EA 4 dx p A ⋅ yB dx = p A ⋅ yB dx = ∫ ∫ L 0 L 0 M A ⋅ φB dx, ∫ L 0 1 L 1 L p y dx M B ⋅ φB dx ⋅ = B B ∫ ∫ 0 0 2 2 pB ⋅ y A dx = ∫ L 0 M B ⋅ φ A dx pB ⋅ y A dx 以上のように、ベッティの法則は仮想仕事の原理から導けるし、クラペイロンの定理だって、仮想仕事の原理でたまたま A=B だったときに成 立するものだ。よって、弾性体の エネルギー原理の根本は仮想仕事の原理 であるということが出来る。 7-6
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