リーフレット [Leaflet]

電力中央研究所報告
情 報 通 信
集合住宅におけるスマートメータ通信のための
電波伝搬損失推定手法の基礎検討
キーワード:集合住宅,パイプシャフト,レイトレーシング法,
電波伝搬損失モデル
背
報告書番号:R13006
景
スマートメータ(以下,メータ)用の無線回線では,メータ間を中継するマルチホップ
無線技術 1) の適用が期待されており,当所では,メータ間で通信する際の伝搬損失を推定
するための,戸建住宅向けの伝搬損失モデルを開発している 2)。集合住宅では,メータが
パイプシャフト 3)(以下,PS)内に設置される場合が多いため,このモデルでは伝搬損失
の推定はできない。このため,PS の構成や集合住宅の構造に対応した伝搬損失の推定手法
を確立する必要がある。
目
的
PS 内部と外部の間を伝搬する時に増加する損失(以下,PS の付加伝搬損失)をモデル
化する。また,集合住宅の PS の構造および配置などの情報から,メータ間の伝搬損失を推
定する手法を提案する。
主な成果
1.PS の付加伝搬損失のモデル化
・ 集合住宅の PS 部分を模擬した実験設備(以下,模擬 PS とする)(図 1)を構築し,
周辺の構造物の影響を受けない環境で,PS の付加伝搬損失を測定した。その結果,
金属扉方向の付加伝搬損失は,コンクリート壁方向に比べ平均で 7dB 程度高いこと
が分かった(図 2)。また,金属扉の検針窓や内部の遮蔽物が PS の付加伝搬損失に
与える影響を把握した。
・ 模擬 PS を用いた測定データとレイトレーシング法 4) による計算結果を用いて,コ
ンクリート壁の透過損失が PS の付加伝搬損失に与える影響を把握した(図 3)。
これらの結果に基づき,コンクリート壁,金属扉,内部の遮蔽物を考慮した PS の付加伝
搬損失モデルを構築した(表 1)。
2.メータ間の伝搬損失推定手法の提案
上記の PS の付加伝搬損失モデルと,既存の屋内伝搬損失モデルとを PS の配置を考慮し
て組み合わせて,メータ間の伝搬損失を計算する方法を提案した。提案手法と実測値を比
較した結果,両者の差は,階段室を伝搬する経路で 10dB 程度,居室を伝搬する経路で 3dB
程度であり,伝搬損失推定への活用の見通しを得た(図 4,表 2)
注 1)無線機同士が直接通信できない場合,他の無線機を経由することで,より広い範囲の通信を可能とし,また,複数
の経路を確保して安定な通信を可能にする技術。
2)土屋,三上,黒野「スマートメータ用無線通信回線における電波伝搬モデルの検討-住宅・市街・郊外地域におけ
る電波伝搬特性の測定・評価-」
,電中研報告 R11031
3)建物の各階を通じ,上下水道・電気・ガスなどの設備用の配管を収納するスペース。
4)電波伝搬特性を解析する計算機シミュレーション方法の一つで,送信源~受信点間の電波経路を周囲の障害物によ
る反射,透過,回折を考慮して求め,電波伝搬特性を計算する方法。
測定値
60
(180°~ 270°)
コンクリート壁
左面方向
右面方向
(270°~ 360°)
(90°~ 180°)
θ
金属扉
PSの付加伝搬損失[dB]
後面方向
(左面)
金属扉方向
コンクリート壁方向
40
平均23dB
平均16dB
30
20
10
0
(0°~ 90°)
0
90
180
270
基準方向からの角度θ[deg]
360
(b)測定結果※
(a)基準方向
図 1 模擬 PS
(後面)
(右面)
50
前面方向
基準方向
(0°)
(前面)
平均値
図 2 模擬 PS の付加伝搬損失特性
※コンクリート壁の透過損失 L=13dB,金属扉の検針窓無,
金属パイプ無の場合
計算値
測定値
表 1 PS の付加伝搬損失モデル
近似直線
40
PSの付加伝搬損失L1[dB]
35
PSの付加伝搬損失[dB]
影響項目
30
コンクリート壁方向
25
20
コンクリート壁
(透過損失L)
15
・付加伝搬損失
L1=L+2.5
金属扉
検針窓と窓の
金属格子有無
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
コンクリート壁の透過損失L[dB]
金属扉方向
・付加伝搬損失
L2=L×0.47+18.7
・検針窓有で
金属格子無の場合
L2より10dB減算する
-
・金属パイプ有の場合 ・金属パイプ有の場合
内部の遮蔽物
L1へ6dB加算する
L2へ7dB加算する
(金属パイプ有無) (パイプのある面のみ)
図 3 コンクリート壁の透過損失と PS の付加伝搬損失
の関係(コンクリート壁方向)
PS(太線部分は扉)
居室
メータ
階段室
表 2 提案手法による推定値と実測値の比較
居室
メータ
メータ
メータ間の伝搬損失[dB]
階段室
提案
手法
階段室を伝搬
居室を伝搬
41.9
35.4
38.9
(自由空間)
66.0
(ITU-R P.1238-7※)
80.8
101.4
69.2
98.4
PSの付加
伝搬損失
PS間の
伝搬損失
(使用モデル)
合計
階段室を伝搬
居室を伝搬
図 4 推定値と実測値の比較に用いた PS 配置
実測値
※汎用的に使われている屋内伝搬損失モデル
研究担当者
三上 満(システム技術研究所
通信システム領域)
問い合わせ先
電力中央研究所 システム技術研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 03-3480-2111(代) E-mail:[email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] Ⓒ 2014 CRIEPI 平成26年4月発行
13-003