中央経済社 「 税務弘報」 2 014 年 3 月号 「 今、国際課税に何が起こっているのか? ( 下)AOAに基づく帰属主義の導入が日本企業に与える影響」 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 公認会計士・税理士 鬼頭 朱実 I. 概 要 平成25年12月24日に平成26年度税制改正大綱が閣議決定され、国際課税原則を従来の総合主義からOECD承認 アプローチ(Authorized OECD Approach、以下、「AOA」という)に基づく帰属主義に変更することが示された。 AOAとは、2010年に改定されたOECDモデル租税条約7条の考え方に基づき、外国法人の恒久的施設(以下、「PE」 という)に対する独立企業としての擬制をより厳格に行うことによってPEに帰属すべき所得(以下、「PE帰属所得」とい う)を捉えるアプローチである。 以下では、平成26年度税制改正大綱において示された国際課税原則に係る税制改正が行われた場合、日本企業 に与える影響について検討する。 1 外国法人課税に関する改正 今回税制改正大綱で決定されたAOAに基づく帰属主義の導入により、外国法人課税について以下のような改正が なされる予定である。 ● 外国法人の課税原則について、「総合主義」から「帰属主義」に改める。 ● PEに帰属する所得を、 国内源泉所得の1つと位置づける。 ● PE帰属所得を以下のような方法で算定する。 ▶ AOAに基づき、PEが本店等から分離独立した企業であると擬制した場合に得られる所得をPE帰属所得とする ▶ PEと本店等との間の取引について、独立企業間価格による取引があったものとして、内部取引損益を認識する ▶ PEが分離独立した企業であると擬制した場合に必要とされる資本をPEに配賦し、PEが支払った利子(内部利子 含む)のうち、PEに配賦された資本に比して過剰な部分について損金不算入とする ● 外国法人のPEについても外国税額控除制度を設ける。 2 内国法人課税に関する改正 今回のAOAの導入に係る税制改正は、上記のように外国法人の課税原則を大きく変えるものとなるが、単に外国法 人の日本支店の所得計算の改正だけでなく、内国法人の外国税額控除のあり方も変更するものとなる。外国法人課 税の改正において国内源泉所得の定義が見直しされることに伴い、内国法人の外国税額控除額計算上の国外源 泉所得についても同様の改正がなされる。 ● 内国法人の外国税額控除の対象となる国外源泉所得を積極的に定義する。 ▶ 現行法:「国内源泉所得以外の所得」 → 国外事業所得(国外PE帰属所得)、国外資産の運用保有所得、国外資産の譲渡所得、外国法人の発行する債 券の利子、外国法人から受ける配当等 Pw C 1 ● 国内事業所得の範囲の変更に合わせ、国外事業所得の範囲を変更する。 ▶ 現行法:棚卸資産の販売や製造等といった取引の種類や事業の内容ごとに判定 → 国外PEに帰せられる所得とする ● 国外PE帰属所得の算定上、内部取引等を勘案。法人全体としての所得認識の有無にかかわらず、内部取引時 に内部取引が行われたものとして計算される。 ● 内国法人の外国税額控除限度額にのみ影響を及ぼすものであることから、外国法人の国内源泉所得の計算と は若干異なる計算となる。 ▶ 計算明細を添付する等の要件を満たす場合に限って無償資本の配賦を行い、過大な利子を国外PE帰属所得に 加算する。ただし、銀行業及び証券業の規制上の自己資本のうち負債に相当するもの(劣後性負債等)がある場合 は、当該劣後性負債等に係る利子を国外PE帰属所得から減算する ▶ PE閉鎖時の時価評価損益の計上は行わない II. 実務への影響 内国法人の外国税額控除は以下のような計算方式となっているが、このうち国外所得金額を構成する「国外源泉所 得」は、外国法人の国内源泉所得の考え方の変更に合わせて変更されることになる。 現行法のもとでは、内国法人の外国税額控除限度額算定上の国外源泉所得は、「国内源泉所得以外」と定義され ており、国外源泉所得金額は内国法人の所得から国内源泉所得を除外した、差額概念でしかない。 国外所得金額(※) 外国税額控除限度額 = 全世界所得に対する法人税の額 Ⅹ 全世界所得金額 (※)国外源泉所得金額に係る所得のみについて法人税を課するものとした場合に課税標準となるべき所得の金額 しかしながら、税制改正大綱に示されたAOAに基づく帰属主義の考え方が導入されれば、国外源泉所得が上述の とおり、国外事業所得(国外PE帰属所得)、国外資産の運用保有所得、国外資産の譲渡所得、外国法人の発行す る債券の利子、外国法人から受ける配当等と改められる。 現行法では、国内源泉所得である国外事業所得は、棚卸資産の仕入販売に係る所得や保険事業に係る所得のよう に特定の取引・事業から生ずる所得を個別に政令で列挙する方式となっているが、今後はPE帰属所得はその機 能・事実分析を通じて算定するという統一的な考え方に改正される見込みである。この対応上、国外PE帰属所得の 算定においても、特定取引・事業ごとの特別な算出ではなく、PEに帰属するかどうかで国外源泉所得が算出される ことになる。 また、内部取引等を勘案して国外事業所得が計算されることになる。すなわち、海外支店の所得が国外PE帰属所 得として定義され、独立企業であるのと同様に内部取引を認識して所得計算をすることが必要となる。例えば、海外 支店が日本国内の本店に役務提供や資金提供をしている場合には、受取報酬や受取利子の認識により国外PE帰 属所得は増加することになる。一方、日本国内の本店が海外支店に対してサービス提供している場合には国外PE 帰属所得は内部取引の認識により減少することになる。 なお、計算明細を添付する等の要件を満たす場合に限って無償資本の配賦により過大支払利子を国外PE帰属所 得に加算する方向が示されている(銀行・証券会社の劣後性負債等に係る利子については国外PEへの配賦による Pw C 2 国外所得の減算が義務づけられている)。無償資本の配賦計算に伴って過大支払利子が加算となると、より国外PE 帰属所得が増額される方向で計算されることから、積極的に計算明細等を付して無償資本の配賦計算を行うことが 考えられる。 III. A OA導入に向けての準備 1 外国税額控除額へのインパクトを試算 AOAの考え方が導入されると、外国税額控除上の国外所得金額の算定において、内部取引が勘案されることから、 内国法人内でどの拠点がどのような役割を行っているか、どのようなリスクを負担しているか、といった機能分析を行 う必要がある。その上で、本支店間又は支店間での内部取引を洗い出し、それぞれの役割について独立第三者価 格を算定することになる。 これらは基本的には移転価格分析と同様の手法を用いて行うものであることから、本支店間の内部取引について移 転価格的な分析を行うことが求められることを意味する。したがって、AOAの導入前に本支店間取引が外国税額控 除上の国外所得金額算定に与えるインパクトを算出することが有用と考えられる。なお、内部取引の認識等につい ては国外PE所在地国との条約で異なる定めがなされていることもあることから、国外PE所在地国ごとに、条約内容も 踏まえての検討が必要となる。 また、国外PEから本店等に対する内部支払利子等のみなし支払について国外PEの所在地国で源泉課税された場 合は外国税額控除の対象とはならないことが税制改正大綱に明記されている。内部支払利子等のみなし支払に現 地で源泉税が課される場合には二重課税となる可能性があるため、国外PE所在地国で課税がなされるのか、課税 がある場合はどのような外国税なのか、について注意深く検討をする必要があると考えられる。 2 文書化 外国税額控除の適用を受けようとする場合には、国外PE帰属所得の算定に関して、一定の書類を作成し、税務当 局から求めがあった場合には提示又は提出することとされている。必要とされる文書には、国外PEに帰属する外部 取引に係る明細を記した書類と内部取引に関する書類(内部取引に関する領収書等の証憑類に相当する書類と国 外PEと本店等が果たす機能や事実関係を示す文書)がある。このほか、内部取引に係る独立企業間価格の算定に 関して、移転価格税制同様の書類の作成も必要とされており、AOAの導入後の外国税額控除には今まで以上に多 くの文書が必要とされている。文書作成には相当程度の時間を要すると考えられることから、AOAの導入を念頭に おいて、できるだけ早急に準備を開始することがすすめられる。 以上 Pw C 3
© Copyright 2024