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器質化肺炎を合併したサルコイドーシスの1例
〔症例報告〕
両側下葉優位の器質化肺炎を合併したサルコイドーシスの1例
粟野暢康 1),園田
唯 1),近藤圭介 1),小野
竜 1),守屋敦子 2),安藤常浩 2),生島壮一郎 1),熊坂利夫 3),武村民子 3)
【要旨】
症例は71歳,男性.入院10日前より咳嗽,呼吸困難,発熱を認めた.近医にて抗生物質治療を受けるも症状改善せず,
画像では両側下葉優位に広範な浸潤影を認めた.当院入院後,抗生物質を変更するも改善せず,BAL所見はリンパ球17%,
CD4/CD8比5.7であった.TBLBでは肺胞腔内器質化を伴う肉芽腫を認め,抗酸菌感染の鑑別を要した.各種検査で病原菌
は検出されず,VATSでは壊死を伴う肉芽腫と肉芽腫性血管炎,腔内器質化を認めた.P. acnesの免疫染色で陽性所見を認
め,器質化病変を伴うサルコイドーシスと診断し,プレドニゾロン25 mg/dayを投与し,奏功した.器質化肺炎で発症し
たサルコイドーシスは稀であり,貴重な症例として報告する.
[日サ会誌
2013; 33: 105-110]
キーワード:サルコイドーシス,器質化肺炎,ステロイド,P. acnes
A Case of Sarcoidosis with Organizing Pneumonia in Bilateral Lower Lobes
Nobuyasu Awano1), Yui Sonoda1), Keisuke Kondo1), Ryu Ono1), Atsuko Moriya2), Tsunehiro Ando2), Soichiro Ikushima1),
Toshio Kumasaka3), Tamiko Takemura3)
Keywords: sarcoidosis, organizing pneumonia, corticosteroid, P. acnes
はじめに
●内服薬: イルべサルタン, フロセミド, ジギタリス,
サルコイドーシスにおける肺野病変は,粒状影,結節
ダビガトラン
影, 気管支血管束の肥厚など多彩な画像所見を呈する.
●現病歴:X年7月12日より咳嗽, 呼吸困難,37℃台の
しかし,器質化肺炎の合併は非常に稀で,検索した限り
発熱を認め近医を受診.感冒と診断され内服治療を開始
数例のみであった
された.一時,症状改善するも内服終了後から咳嗽が増
.
1–6)
今回われわれは,亜急性に進行する呼吸困難と両側下
悪してきたため7月19日に当院救急外来を受診,セフジ
葉優位の肺炎で来院し,病理学的に器質化肺炎を合併し
トレンピボキシルを処方された.翌日,近医を再受診し
たサルコイドーシスと診断した1例を経験したので報告す
たところ酸素化の悪化(SpO2 91 % /room air)と胸部CT
る.
検査で両側下葉に浸潤影を認めたため,セフトリアキソ
ン2g/日による通院点滴加療が開始された.しかし,そ
症例提示
の後も症状と検査所見の改善を認めなかったため,7月
●症例:70歳,男性
22日当院を受診,精査加療のため同日入院となった.
●主訴:咳嗽,呼吸困難
●入院時現症:意識清明,身長 170 cm,体重 52 kg,体
●既往歴:高血圧(64歳から内服治療)
,心房細動(70歳
温 37.7 ℃,血圧 167/95 mmHg,脈拍数 85 回/分,不整,
から内服治療)
SpO2 92%(2L鼻カヌラ), 頭頸部には特記する異常な
●家族歴:特記する事項なし
く,リンパ節腫脹を認めなかった.胸部では心雑音なく,
●生活歴:喫煙20本×41年間,以後禁煙,飲酒なし,渡
呼吸音は両側背部,中〜下肺野にfine crackles と coarse
航歴,ペット,住居に特記する事項なし.粉塵吸入歴:
cracklesを聴取した.四肢では浮腫,ばち指,皮疹,チア
鉄板,銅板の処理中に吸入あり.
ノーゼなどの異常を認めなかった.眼科所見,神経学的
●職業:車の修理業
所見に特記する異常を認めなかった.
1)日本赤十字社医療センター
2)同 感染症科
3)同 病理部
呼吸器内科
著者連絡先:粟野暢康(あわの のぶやす)
〒150-8935 東京都渋谷区広尾4-1-22
日本赤十字社医療センター 呼吸器内科
E-mail:[email protected]
1)Department of Respiratory Medicine, Japanese Red Cross
Medical Center
2)Department of infectious diseases, Japanese Red Cross
Medical Center
3)Department of Pathology, Japanese Red Cross Medical
Center
日サ会誌 2013, 33(1) 105
〔症例報告〕
器質化肺炎を合併したサルコイドーシスの1例
●入院時検査所見
胸水を認めた.推定収縮期肺動脈圧は50-55 mmHgと上昇
血液検査(Table 1)
:白血球,CRPの増加を認め,凝
固系異常もみられた.また,BNP 288 pg/mLと上昇を認
していたが,心室中隔基部菲薄化や壁運動異常は認めな
かった.
めた.ACEは正常範囲内であったが,ツベルクリン反応
気管支肺胞洗浄液(BALF)
(Table 1):総細胞数は9.6
は陰性で,可溶性IL-2受容体,リゾチームの増加を認め
×104 /mL,リンパ球数は17.9%(喫煙者では正常範囲内)
,
た.膠原病を示唆する自己抗体はいずれも有意な上昇を
CD4/CD8比は5.7と増加を認めた.
認めず,細菌学的検査はいずれも陰性で,クオンティフェ
●入院後経過(Figure 3)
:炎症反応高値と画像所見よ
ロン検査はPHA刺激に対する反応が低下しており,判定
り,細菌性肺炎が疑われた.入院後は抗生物質を変更し,
不能であった.2L鼻カヌラ下での血液ガス分析では軽度
タゾバクタム・ピペラシリン4.5 g×4回/dayとアジスロ
の呼吸性アルカローシスを認め,PaO2 は67 mmHgと低酸
マイシン(ジスロマックSR® )を開始した.白血球,CRP
素血症を認めた.
は低下傾向を認めるも陰性化せず,画像上も陰影の改善
胸 部 単 純X線 写 真(Figure 1)
:2009年 4 月 に 撮 影 さ
を認めるも消失には至らなかった.各種培養検査では病
れたX線写真では特記する異常を認めなかった(Figure
原菌を検出できず,抗生物質は第11病日に終了し,精査
1a).入院時の写真では両側下肺の容量減少,両側中・下
のため第14病日に気管支鏡検査を施行した.BALF中の
肺野の網状影,浸潤影を認めた.両側肋骨横隔膜角は鈍
細胞数増加とCD4/CD8比の増加を認め(Table 1),経気
で,心胸郭比は70%と拡大を認めた(Figure 1b)
.
管支肺生検(TBLB)では多核巨細胞を伴った類上皮細
胸部CT検査(Figure 2)
:肺野では両側中・下葉を中
胞肉芽腫(Figure 4a)とポリープ状腔内器質化(Figure
心としたすりガラス影と浸潤影を認め,末梢胸膜下に斑
4b)を認めた.結核や非結核性抗酸菌症が疑われたが,
状の浸潤影や粒状影も散在した. 小葉間隔壁が目立ち,
培養検査ではいずれも陰性であった.診断目的で第25病
両側胸水と心嚢水を認めた(Figure 2a, b)
.縦隔条件で
日,ビデオ補助下胸腔鏡手術(VATS)を施行した.病
は気管前リンパ節,両側肺門リンパ節腫脹を認めた(Fig-
理組織学的検査で孤立性から融合性の肉芽腫を多数認め
ure 2c).
(Figure 5a)
,強拡大では乾酪壊死とは異なる好酸性壊死
Gaシンチグラフィー(Figure 2d)
:肺内と肺門,縦隔
リンパ節に高度の集積を認めた.
を認めた(Figure 5b).TBLB同様,器質化肺炎を認めた.
また,肺動脈,肺静脈への肉芽腫侵襲もみられた(Figure
心臓超音波検査:EF 67%,全周性に少量心嚢水と両側
5c)
. 鑑別診断としてはサルコイドーシス,necrotizing
Table 1. 入院時検査所見
Hematology
WBC
Serology
8,900 /µL
RBC
393×104 /µL
Hb
10.1 g/dL
Plt
32.1×104 /µL
CRP
sIL-2R
13.6 mg/dL
2,400 U/mL
インフルエンザA型
陰性
インフルエンザB型
陰性
マイコプラズマ抗体(CF)
4 倍未満
IgG
808 mg/dL
ツベルクリン反応
陰性
KL-6
348 U/mL
QFT
判定不能
ANA
80 倍
homogeneous
80 倍
Arterial blood gas(2L nasal)
TP
5.7 g/dL
speckled
80 倍
pH
Alb
3.5 g/dL
PR3-ANCA
10 EU未満
PaCO2
AST
26 IU/L
MPO-ANCA
10 EU未満
PaO2
ALT
19 IU/L
ACE
LDH
246 IU/L
IL-6
T-cho
113 mg/dL
lysozyme
BUN
13 mg/dL
Biochemistory
18.3 IU/L
71 pg/mL
7.451
32 mmHg
67 mmHg
HCO3 −
21.7 mmol/L
BE
1.3 mmol/L
11.3 μg/mL
尿中抗原
Cre
0.72 mg/dL
Coagulation
Na
143 mEq/L
PT
14.2 sec
K
4.5 mEq/L
PT-INR
1.22
Cl
109 mEq/L
APTT
62.4 sec
Bronchoalveolar lavage fluid
Ca
8.9 mg/dL
FDP
12.7 µg/mL
total cell
BNP
288 pg/mL
D-dimer
4.5 µg/mL
肺炎球菌
陰性
レジオネラ
陰性
macrophages
65.0 %
lymphocytes
17.9 %
CD4/CD8
culture for bacteria
and mycobacterium
106
日サ会誌 2013, 33(1)
9.6×104 /mL
5.7
negative
器質化肺炎を合併したサルコイドーシスの1例
a)
Figure 1.
a)
〔症例報告〕
b)
胸部単純写真
a)X年4月 特記する異常を認めない.
b)2年後の7月(入院時).両側下肺の容量減少,両側中,下肺野の網状影,浸潤影を認める.両側肋
骨横隔膜角鈍,心胸郭比70%.
d)
b)
c)
Figure 2.
画像所見
a),b)入院時CT所見(肺野条件).両側中,下葉を中心としたすりガラス影と浸潤影を認め,末梢胸膜
下優位に斑状の浸潤影や粒状影が散在する.小葉間隔壁が目立ち,両側胸水と心嚢水を認める.
c)入院時CT所見(縦隔条件)気管前リンパ節,両側肺門リンパ節腫脹を認める.
d)Gaシンチグラフィー.肺野と肺門,縦隔に異常集積を認める.
日サ会誌 2013, 33(1) 107
〔症例報告〕
器質化肺炎を合併したサルコイドーシスの1例
本例は器質化とともに血管炎を伴う巨細胞性類上皮細胞
京医科歯科大学人体病理学講座 江石義信先生に深謝いた
肉芽腫やPAC3染色の陽性所見を認めており, サルコイ
します.
ドーシスによる器質化と診断した.
検索した範囲内ではサルコイドーシスとOPの合併は数
例のみ
1–6)
であり,関節リウマチ経過中の例
1)
やreversed
halo signを呈した例 4–6)などが報告されている.その機序
については,サルコイドーシスが自然軽快していく過程
引用文献
1)中屋孝清,中山雅之,草野
彩,他.器質化肺炎で発症し,ス
テロイド療法後に再燃したサルコイドーシスの1例.日サ会誌
2012; 32: 153-9.
でOPを合併する病態や非乾酪性肉芽腫の炎症反応に関連
2)Rodríguez E, López D, Bugés J, et al. Sarcoidosis-associated
して発生する可能性 2) などが考えられているが,いまだ
bronchiolitis obliterans organizing pneumonia. Arch Intern
解明されていない.本例はサルコイドーシスの初発症状
としてOPを呈し,呼吸状態が急速に悪化するほどのOP
を認めた点も特徴的であった.
治療に関して,本例ではプレドニゾロン 25 mg/dayか
ら開始し,その後漸減するも画像所見や呼吸状態の再燃
Med 2001; 161: 2148-9.
3)Carbonelli C, Roggeri A, Cavazza A, et al. Relapsing bronchiolitis obliterans organizing pneumonia and chronic sarcoidosis in
an atopic asthmatic patient. Monaldi Arch Chest Dis 2008; 69:
39-42.
を認めなかった.他の報告例では無治療経過観察やプレ
4)Kumazoe H, Matsunaga K, Nagata N, et al.“Reversed halo
ドニゾロンの内服(30–60 mg/day)により,速やかに陰
sign”of high-resolution computed tomography in pulmonary
影や全身状態の改善を認めており,治療反応や予後は良
sarcoidosis. J Thorac Imaging 2009; 24: 66-8.
好と考えられた.
5)Marlow TJ, Krapiva PI, Schabel SI, et al. The“fairy ring”: a
new radiographic finding in sarcoidosis. Chest 1999; 115: 275-6.
結論
6)藤井雅人,井田雅章,榎本紀之,他.多発結節影が亜急性に進
両側下葉優位の器質化肺炎を合併したサルコイドーシ
スの1例を経験した.サルコイドーシスの肺病変は多彩
であり,稀ではあるが器質化肺炎をきたす例もある.そ
の際はときに鑑別に苦慮する場合があり,免疫染色や培
養検査を駆使し, 正確な診断をすることが重要である.
器質化肺炎はサルコイドーシスの肺病変として生じうる
ことを念頭に置く必要がある.今後,その発生機序や病
態についてのさらなる検討が期待される.
行しリング状陰影に変化したサルコイドーシスの1例.日呼吸
会誌 2002; 40: 970-4.
7)Davison AG, Heard BE, McAllister WA, et al. Cryptogenic organizing pneumonitis. Q J Med 1983; 52: 382-94.
8)武村民子,江石義信.サルコイドーシス肺における結節性病変
に関する病理学的検討.呼吸 1996; 15: 1027-32.
9)Negi M, Takemura T, Guzman J, et al. Localization of Propionibacterium acnes in granulomas supports a possible etiologic
link between sarcoidosis and the bacterium. Mod Pathol 2012;
謝辞:PAC3抗体による免疫染色を施行していただいた東
110
日サ会誌 2013, 33(1)
25(9): 1284-97.