コンクリート工学年次論文集 Vol.33

コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.2,2011
論文
長スパンピロティ架構における耐震壁の壁縦筋が耐震壁のせん断強
度に及ぼす影響
生部
宏幸*1・勅使川原
正臣*2・市之瀬
敏勝*3・神谷
隆*4
要旨:ピロティ階の梁(以下,ピロティ梁)断面及びその上部の耐震壁の壁縦筋量は耐震壁がせん断強度を十分
に発揮するために重要な因子であると考えられる。しかし,それらが上層部の連層耐震壁のせん断強度に与
える影響について十分に解明されていない。そこで,ピロティ架構の耐震壁のせん断強度に及ぼす壁縦筋量
の影響を検証するために壁縦筋比を因子として実験を行い,壁縦筋比を大きくすることでピロティ架構の耐
震壁の鉛直方向のせん断ひび割れの拡がり,スリップが抑えられ,耐震壁のせん断強度が十分に発揮できる
ことを確認した。また,実験で確認された耐震壁のスリップ破壊強度評価式を提案,検証した。
キーワード:ピロティ,耐震壁,せん断強度,長スパン
1. はじめに
行った。
1995 年兵庫県南部地震では多くの鉄筋コンクリート
造(以下,RC 造)建物が甚大な被害を受けた。中でもピロ
2. 実験概要
ティ架構の建物の大破あるいは倒壊に至った比率は非
2.1 試験体概要
1)
ピロティ架構の建物の 2 倍程度と報告されている 。そ
試験体は中層鉄筋コンクリート構造建物の下層部の 3
の傾向は,新耐震以降(1981 年以降)に建設された建物に
層の耐震壁を対象とした 3 層 1 スパン 1/3 縮尺モデルで
もみられた。
ある。3 層目中間部より上は加力方法の都合上,上スタ
ピロティ架構の建物に関する研究は,兵庫県南部地震
ブとしてモデル化している。平行して隣り合う構面の 1
以後に活発になったこと,及びピロティ架構の実験は規
層には耐震壁がある場合を想定し,想定した耐震壁構面
模が大きくなることから数が少ない。また,ピロティ梁
に十分にせん断力を伝えるために 2 層床位置に床スラブ
を剛強にすることで壁板のせん断ひび割れの拡大は抑
がある。床スラブはせん断破壊を防ぐために厚さを
制され問題ないが,計画上合理的な断面とする要請が強
100mm とした。試験体は 2 体である。試験体の寸法およ
い。また,上層部の耐震壁の壁縦筋のせん断強度に及ぼ
び配筋を図-1,使用した鉄筋及びコンクリートの材料
す影響についても解明されていない。
特性は表-1,表-2 に示す。
本研究は最下層がピロティ階となる連層耐震壁にお
因子となる壁縦筋比 pwv は 0.45%,0.90%とした。2 層
いて,壁板のせん断ひび割れの抑制効果,せん断強度に
の耐震壁はせん断終局強度 Qwsu,曲げ終局強度 Qwmu を式
及ぼすピロティ梁及び壁縦筋量の影響を明らかにする
(1),(2)により計算し,せん断破壊先行型となるように
ことを目的とし,壁縦筋比を因子として水平加力実験を
Qwmu/Qwsu>1.5 とした(表-3)。
表-1 鉄筋材料特性
降伏強度 降伏歪
弾性係数 引張強度
2
(N/mm2)
(μ)
(×105N/mm2) (N/mm )
種別
D6(SD295A)
419
2223
1.96
508
D10(SD345)
393
2372
1.87
552
D13(SD345)
406
2172
1.87
566
表-3
耐震壁の強度
試験体
Q wsu
(kN)
Q wmu
(kN)
Q wm u/Q wsu
(-)
WV0.45
1787
2778
1.55
WV0.90
1787
3168
1.77
D16(SD345)
375
2135
1.88
558
⎫⎪
⎧⎪ 0.068 pte 0.23 ( Fc + 18)
表-2 コンクリート材料特性
(1)
Qwsu = ⎨
+ 0.85 p w h ⋅ σ wh + 0.1σ 0 ⎬te ⋅ j
⎪⎭
⎪⎩ M /(Q ⋅ D ) + 0.12
使用 圧縮強度 弾性係数 割裂強度
2
2
4
2
M
箇所 (N/mm ) (×10 N/mm ) (N/mm )
M wu = at ⋅ σ y ⋅ l w + 0 .5 a w ⋅ σ wy ⋅ l w + 0 .5 N ⋅ l w (2)
Q w mu = wu
h
29.9
2.97
2.1
1層
3)
2,3層
29.0
2.45
式(1),(2)の記号は文献 を参照のこと
2.0
*1 名古屋大学大学院
環境学研究科
大学院生(正会員)
*2 名古屋大学大学院
環境学研究科
教授・工博(正会員)
(独立行政法人建築研究所
*3 名古屋工業大学
客員研究員)
教授・工博(正会員)
*4 矢作建設工業株式会社
-445-
300
A
350
200 250
50
100
3層梁主筋
上端筋1-D10(SD345)下端筋1-D10(SD345)
主筋比1.01%
変位制
御位置
1250
壁縦筋 1-D6
(SD295)@100 壁縦筋比0.90%
壁横筋 1-D6
(SD295)@100 壁横筋比0.45%
(d)ピロティ梁断面
2400
800
壁縦筋 1-D6
(SD295)@100 壁縦筋比0.45%
壁横筋 1-D6
(SD295)@100 壁横筋比0.45%
梁主筋
12-D16(SD345)
主筋比2.27%
あばら筋
2-D6(SD295A)@50
あばら筋比0.43%
350
250
変位制
御位置
WV0.45
350
(e)直交梁断面
WV0.90
3600
A
梁主筋
4-D19(SD345)
主筋比2.30%
あばら筋
2-D6(SD295A)@50
せん断補強筋比0.64%
200
1100
800
ピロティ梁主筋
上端筋6-D16(SD345) あばら筋 2-D6(SD295)@50 下端筋6-D16(SD345) せん断補強筋比0.43%
主筋比2.27%
(c)A-A 断面図
350
4300
350
250
250
(a)立面図
600
250
3800
WV0.90
WV0.45
(b)床スラブ配筋図
図-1
ACT4, 5, 6ベース×2
柱主筋8-D10(SD345)
4-D13(SD345)10-D16(SD345)
主筋比2.20%
帯筋6-D6(SD295A)@40
せん断補強筋比1.20%
250
(f)1 層柱断面
試験体の寸法及び配筋
ACT4, 5, 6ベース×2
柱主筋4-D13(SD345)
柱主筋4-D13(SD345)
10-D16(SD345)主筋比2.50% 10-D16(SD345)主筋比2.50%
帯筋4-D6(SD295A)@50
帯筋2-D6(SD295A)@50
せん断補強筋比0.64%
せん断補強筋比0.32%
(g)2 層柱断面
負
3層水平荷重
軸力
軸力
400
直交梁主筋
上端筋2-D19
下端筋2-D19 主筋比 2.3%
2-D6@50(SD295A)
せん断補強筋比 0.51%
400
床筋
2-D6(SD295A)
鉄筋比0.64%
400
400
床スラブは中央線で上下対照である
(h)3 層柱断面
3層水平荷重
正
負
ACT4, 5, 6ベース×2
正
ACT4, 5, 6ベース×2
3750mm
試験体
1層水平荷重
1100mm
図-2
1層水平荷重
図-3
載荷装置図
ピロティ梁断面は鉄筋コンクリート構造計算規準・同
2)
解説 2010 (以下,RC 規準)で推奨されている枠フレーム
で行った。括弧内の数字は繰り返し回数である。
2.3
の断面形状の条件を満たしている。3 層枠梁は省略した。
ただし,RC 規準 2)の定める最小配筋規定(梁主筋比 0.8%)
を満たしている。各部材の鉄筋の定着長さは RC 規準
水平加力方法の概念アイソメ図
破壊形式の評価
本研究ではピロティ梁に生じる曲げモーメント,せん
断力,たわみを基準にして破壊形式の推定を行う。
2)
まず,壁板からピロティ梁に作用する応力を (1)~(3)
で推奨されている必要定着長さ以上としている。
の仮定に基づいて求める。
2.2
(1)壁板のせん断応力 τ を,水平荷重 Q を等価長方形断面
載荷方法
載荷装置図を図-2 に示す。載荷方法は軸力を左右の
te×L(te:等価長方形断面に置き換えたときの幅,L:スパン
柱にそれぞれ 588kN(1 階柱断面の軸力比 ηc=0.2)与え,片
長さ)で除して計算する。
持ち梁形式の正負交番載荷とした。3 層頂部付近に反曲
(2)壁板のせん断応力が最大となる主応力の角度を 45 度
点があると想定し,加力点高さは 3750mm とした。ただ
とする。
し,試験体は平行して隣り合う構面の 1 層に耐震壁があ
(3)壁縦筋は降伏強度 σwy を負担する。
る場合を想定し,ピロティ架構の構面の変形は連層耐震
以上の仮定に基づいてモールの応力円を描くとピロ
壁の構面の変形に追従すると考えているため,試験体の
ティ梁には図-4 のように分布荷重 τ-pwvσwy が作用する
2 層と 1 層の層間変形角 R が等しくなるように 1 層の床
ことになる。ピロティ梁を図-5 のように弾性状態と仮
スラブに水平荷重を与えた(図-3)。載荷は層間変形角制
定して単純梁にモデル化し,τ-pwvσwy によりピロティ梁
御とし,載荷履歴 1/2000(1)→1/1000(1)→1/500(2)→
に生じる曲げモーメント Mb,せん断力 Qb,壁板の拡が
1/250(2)→1/150(2)→1/100(1)→1/75(1)→1/50(1)→1/33(1)
り量 εb を式(3)~(5)より計算する。ただし,εb を計算する
-446-
際,上層部の梁のたわみは微小であるとして考慮しない。
震壁のせん断破壊と想定される。
Mb,Qb,εb を基準として次のように破壊形式を推定する。
ピロティ梁端部のせん断力が許容値を超えれば,ピロ
3.実験結果
WV0.45 と WV0.90 の荷重-層間変形角関係を図-7,
ティ梁端部がせん断破壊し,壁板が下に抜け落ちるよう
な破壊形式が予想される(図-6(a))。
鉄筋降伏位置図を図-8,最終破壊状況の全景写真を図
ピロティ梁中央部の曲げモーメントが許容値を超え
-9,スリップ破壊状況の写真を図-10,ピロティ階柱
れば,ピロティ梁中央が大きく変形し,壁板のせん断ひ
梁接合部の破壊状況の写真を図-11 に示す。
び割れが拡がるような破壊形式が予想される(図-6(b))。
3.1
WV0.45
壁板の拡がり量が許容値を超えれば,壁板の縦方向の
層間変形角 R=+1/2000 サイクル中に壁板にせん断ひび
せん断ひび割れがせん断強度を発揮する前に拡がって
割れが発生した。R=-1/1000 サイクル中にピロティ梁端
しまう破壊形式が予想される(図-6(c))。
部にせん断ひび割れが生じた。R=+1/750 サイクル中に壁
ピロティ梁中央部の曲げモーメント,ピロティ梁端部
縦筋 WV08 が引張降伏した。R=+1/500 サイクル中にピ
のせん断力,壁板の拡がり量が許容値以下であれば耐震
ロティ梁中央に曲げひび割れが生じた。R=+1/500 サイク
壁のせん断強度は十分に発揮されると予想される (図-
ル中に壁縦筋 WV02,WV04 が引張降伏した。R=+1/250
6(d))。
サイクル中に壁板,ピロティ梁端部せん断ひび割れが増
加し,ピロティ梁端部上端主筋 B03,1層柱脚主筋 C10
許容値は式(6)~(8)より計算する。耐震壁が期待するせ
ん断強度を十分に発揮するため許容できる水平方向の
が引張降伏した。壁板とピロティ梁上面が 3.5mm ずれ,
拡がり量が,枠柱の水平変位より計算した平均歪で 0.
スリップ破壊が生じ始めた。R=+1/150 サイクル中に 2 層
4)
15%程度であるという知見が実験より得られている 。
側柱に曲げひび割れ,せん断ひび割れが生じ,2 層側柱
この知見より耐震壁が期待するせん断強度を十分に発
帯筋 H01,1層柱脚主筋 C03,C04 が引張降伏した。1
揮するため許容できる鉛直方向の拡がり量が,ピロティ
層柱脚で圧壊が生じた。R=+1/150 サイクル時に最大耐力
梁のたわみから計算した鉛直方向の平均歪(式(5))で 0.
1558kN に達した。R=+1/100 サイクル中に壁縦筋 WV03
15%程度であると考え,式(8)を設定した。
壁横筋 WH04,2 層側柱主筋 C21 が引張降伏した。壁板
以上の方法で想定した破壊形式を表-6 に示す。WV
とピロティ梁上面のずれが 10~11mm と大きくなり,ス
0.45 はピロティ梁中央部の曲げ降伏破壊,WV0.90 は耐
リップ破壊が進行した(図-10)。2 層側柱のせん断ひび割
pwvσwy
τ
壁板からの分布荷重τ-pwvσwy
図-4
Mb
Qb
図-5
ピロティ梁の外力の仮定
ピロティ梁の曲げモーメント・せん断力図
Q b/Q su>1.0
M b/M u>1.0
εb/εbu>1.0
すべて許容値以下
→(a) ピロティ梁のせん断破壊
→(b) ピロティ梁の曲げ降伏
→(c) 壁板のせん断ひび割れ拡大
→(d) 耐震壁のせん断破壊
図-6 予想される破壊形式
表-6 破壊形式の評価
τ
Mb
εb
(%)
(kN
(N/mm )
・m)
WV0.45
3.96
0.151
235
試験体
WV0.90
Qb
2
3.96
(τ − p
=
wv
0.014
⋅ σ wy )⋅ tw ⋅ Lc
2
21
⎫
⎧ 0.068 pt 0.23 (Fc + 18)
Qsu = ⎨
+ 0.85 σ wy ⋅ pw ⎬bj
(
)
M
/
Q
d
0
.
12
⋅
+
⎭
⎩
Qb
(kN)
261
εbu
(%)
0.15
Mu
(kN ・m)
123
Qsu
(kN)
182
εb/εbu M b/M u
(-)
(-)
1.01
1.90
24
0.15
123
181
0.09
(3)
(6)
Mb =
(τ − p
wv
⋅ σ wy )⋅ t w ⋅ Lc
2
(4)
8
M u = 0.9at ⋅ σ y ⋅ d
0.17
εb =
Qb/Qsu
(-)
1.44
ピロティ梁の曲げ降伏
0.13
耐震壁のせん断破壊
δb
hw
(7)
×100
破壊形式
δb =
5(τ − pwv ⋅ σ wy ) ⋅ tw ⋅ Lc
ε b u = 0.15%
384E ⋅ Ie
4
(5)
(8)
σwy:壁縦筋の降伏強度(N/mm2), hw:壁板の高さ(mm), Lc:ピロティ梁のクリアスパン(mm), E:コンクリートのヤング係数(N/mm2),
Ie:ピロティ梁の等価断面 2 次モーメント(mm4)
※式 (6),(7)の記号は文献 3)を参照のこと
-447-
れが1層柱頭にまで貫通した(図-11(a))。R=-1/100 サイ
げひび割れが生じた。壁板のせん断ひび割れは増加し,
クル中にピロティ梁下端主筋 B02,壁縦筋 WV07 が引張
R=-1/500 サイクル終了時には壁板に無数のせん断ひび割
降伏し,壁板端部ではコンクリートが剥落した。
れが生じた。R=+1/250 サイクル中に R=+1/246 まで達し
3.2
た後,3 層水平荷重を与えるアクチュエータの誤作動に
WV0.90
R=+1/2000 サイクル中に壁板にせん断ひび割れが発生
より R=+1/56 まで変形が進んでしまった。試験体の水平
した。R=+1/1000 サイクル中にピロティ梁端部にせん断
力,水平変位はアクチュエータのデータから補完した。
ひび割れが生じた。R=+1/500 サイクル中に 2 層側柱に曲
R=+1/141 で最大耐力 2352kN に達した。
2500
2000
C03,C09
C01(圧),C04
Qwsu=1787kN
B03 B04
1500
水平荷重Q(kN)
1000
0
B10
B10
H04
C12(圧),C26(圧)
S01
WV04
B09
H03
WV02
B12
B02
C12
C02
C04
C11 WV07 B11
Qwsu=-1787kN Qmin=-1536kN
B01,WV06
C12
C03 B11
C16 C15
S05
C07
C23(圧)
-1/100
-1/150
-1/250-1/500
0
(a)WV0.45
1/500 1/250
層間変形角R(rad)
1/150
1/100
図-7
C26
C19
C25 C04(圧) B12
B02
B10(圧)
B09(圧)
H04
H03
B11,12
WH05
B14
WH02WV05
WV03
WH03
WV06
-1/50
C25
-1/75 -1/100-1/150 -1/250
B05 S03S02S01
B06,07
S04S05 S06 B08
B01,02
B09,10
:圧縮降伏
:引張降伏
C05,06
C15,16
※C20,22,25は計測不良
C03,04
C11,12
図-8
C19
H04
H03
C21
C17
C07
C08
C18
C13
C14
C01
C02
C09
C10
0
(b)WV0.90
1/250 1/150 1/100 1/75
C22
B11,12
WH05
鉄筋降伏位置図
(a)WV0.45
WH03
WV06
B14
WH02WV05
WV03
S04S05 S06 B08
B09,10
C15,16
C12
B13
WH04
WV04 WH01
C20
WV02
WV01 B03,04
B06,07
:引張降伏
B05 S03 S02 S01
B01,02
:圧縮降伏
C05,06
※C11,17は計測不良
C03,04
(b)WV0.90(R=+1/250)
最終破壊状況
ずれ量 10.7mm
(a) 壁板中央
ずれ量 11.8mm
(a)WV0.45
(b)WV0.90
(b) 壁板端部
図-10
スリップ破壊状況(WV0.45,R=1/100)
図-11
-448-
C23
WV07
(b)WV0.90
図-9
1/55
層間変形角R(rad)
C24
WV08
H02
H01
C10(圧)
C26
WV07
WH04
B13
WV04 WH01
WV02
WV01 B03,04
(a)WV0.45(R=+1/250)
Qwsu=-1787kN
1/751/69-1/30 -1/33
C23
C01,C02
C24
Qmin=-1392kN
荷重-層間変位角関係
C24
WV08
C09
C10
C09
C21,C23,C24(圧),C26
B03,WV03,WV08
B01
-2000
-1/69-1/75
C21
C02
C01
C18
C03(圧),C09(圧)
WV08
S05
C18
C13
C14
Qwsu=1787kN
WH04
C21
Qmax=1558kN
WV04
WV05
C10
C11
-500
-1500
H01
B09
B11(圧)
500
-1000
C02(圧)
C04(圧)
C10
WV06
WV05
WV01
WV08
壁横筋WH
柱主筋C
実験値
帯筋H
実験値(補完)
梁主筋B
壁縦筋WV
あばら筋S
計算値
※図中の数字は鉄筋降伏位置,(圧)は圧縮降伏
Qmax=1558kN
C26
ピロティ階柱梁接合部破壊状況(最終破壊時)
H02
H01
C19
C07
C08
C01
C02
4.考察
たためと考えられる。壁縦筋が少ない WV0.45 の歪が大
4.1
きいのは,あばら筋分布同様に壁縦筋による引き戻しが
壁縦筋歪分布
対角線上の壁縦筋,ピロティ梁上の歪分布を図-10,
小さかったためと考えられる。
図-11 に示す。WV0.45,WV0.90 の壁縦筋が大きな歪が
4.4
ピロティ梁のたわみ
生じ,壁板の縦方向のせん断ひび割れの拡大を抑制して
ピロティ梁のたわみを図-15 に示す。ピロティ梁のた
いることが分かる。R=+1/500 の壁板のひび割れ幅を比較
わみは変位計のデータ(計測位置は歪みゲージ B05~08 と
すると,壁縦筋が少ない WV0.45 の方が壁板のひび割れ
同じ)より求めている。WV0.45,WV0.90 の Y3 地点の拡
幅が大きく,壁縦筋がせん断ひび割れの拡大を抑制して
がり量が大きかった。WV0.45 は最大耐力に達する前に
いることが分かる(図-12)。
耐震壁が期待するせん断強度を十分に発揮するため許
4.2
容できる拡がり量 0.15%を大きく超えていた。
あばら筋歪分布
ピロティ梁のあばら筋の分布を図-13 に示す。正載荷
4.5
せん断強度
時では,S01~03 のあばら筋の歪が大きかった。壁縦筋の
実験時最大耐力 Qmax と耐震壁の計算せん断強度 Qwsu
少ない WV0.45 の方が歪は大きかった。これは壁縦筋に
の比較を行う。WV0.45 では Qmax が Qwsu を下回っており,
よる引き戻しが小さく,ピロティ梁に働くせん断力が大
耐震壁のせん断強度を十分に発揮できていなかった。
きかったためと考えられる。
WV0.90 では Qmax が Qwsu を上回り,耐震壁のせん断強度
4.3
を十分に発揮できていた。壁縦筋比を大きくすることで
ピロティ梁主筋歪
壁板のせん断ひび割れの拡大が抑制され,耐震壁のせん
ピロティ梁主筋の歪分布を図-14 に示す。WV0.45,
WV0.90 のピロティ梁端部上端主筋に大きな歪が生じ,
断強度が十分に発揮されることを確認した。
引張降伏していた。2 章 3 節でピロティ梁を単純梁とし
4.6
破壊形式
て仮定したことに反していた。これは 1 層水平荷重によ
WV0.45 はスリップ破壊,WV0.90 は壁板のせん断破壊
り生じる 1 層柱頭曲げモーメントがピロティ梁に伝達し
となり,2 章 3 節で予想した破壊形式と WV0.45 は異な
2500
3000
WV08
降伏歪
WV06
1500
2000
1000
1500
1000
500
+1/500
+1/250
+1/150
+1/100
+1/75
+1/56
2000
WV01
あばら筋歪(μ)
壁縦筋歪(μ)
2500
+1/750
+1/500
+1/250
WV06
WV01 WV08
WV06
-500
WV01
S04
S05
降伏歪
C21
C20
C22
WV03 WV02 WV01
1500
1000
500
0
-500
C21
C20,22は計測不良
WV03
WV02
WV01
C19 C21C22 WV03
WV02
ピロティ梁主筋歪(μ)
1300
+1/750
+1/500
+1/250
S03
S02
11190
11158
B11,12 B03,04
(上端筋) (上端筋)
S01
S04
S05
S06
S03
(b)WV 0.90
あばら筋歪み分布
13278
12260
12169
2052
B11,12
(上端筋)
B03,04
(上端筋)
S02
S01
7564
1558
1000
C19
500
0
-1000
WV01 C20C19 -1200
B09,10
応力が降伏強度に達し
引張降伏していた
B8
B06,07
引張降伏(-1/150)
B11,12
+1/100
+1/75
+1/56
+1/500
+1/250
+1/150
-500
(a)WV0.45
(b)WV 0.90
図-11 壁縦筋歪み分布(ピロティ梁上)
B05
B01,02 B09,10
B8
B06,07
引張降伏(-1/250)
引張降伏(+1/150)
B11,12
B03,04
B09,10 B08 B06,07 B05 B01,02
B05
-1
B03,04
B09,10 B08 B06,07 B05 B01,02
εbu=0.15%
-2
-3
-4
+1/500
+1/250
+1/150
-5
-6
Y3
(B08)
Y2
(B06,07)
Y1
(B05)
Y3
(B08)
+1/100
+1/75
+1/56
Y2
(B06,07)
(b)WV 0.90
(a)WV0.45
図-15 ピロティ梁のたわみ
※幅を計測したひび割れのみ表示
-449-
B01,02
引張降伏(+1/56)
(b)WV 0.90
(a)WV0.45
図-14 ピロティ梁主筋歪み分布
0
(b)WV 0.90
(a)WV0.45
図-12 壁板のひび割れ幅(R=+1/500)
S06
(a)WV0.45
図-13
ピロティ梁たわみ(mm)
壁縦筋歪み(μ)
2000
S03 S02 S01
500
(a)WV0.45
(b)WV 0.90
図-10 壁縦筋歪み分布(対角線上)
2500
S04 S05 S06
0
0
WV08
3000
降伏歪
Y1
(B05)
2500
Qj
p
Qslip = p Qb + p Qc1 + p Qc 2 + Q j
Qc1
p
p
Qb
(a)立面図
Qc2
Qc1
Qj
p
p
A
A
Qb
p
(b)平面図
床スラブ
上面より
50mm
Qc1
床スラブ
上面より
50mm
p
床スラブ
Qb
床スラブ
Q = K min ⋅τ 0 ⋅ be ⋅ D
2000
(10)
Q j = μ ⋅ ∑ awv ⋅ σ wy (μ = 1)
p
Qc1
,pQc2,:
(11)
Qslip=1608kN
Qslip=1605kN
Qslip=1558kN
τ 0 = 0.98 + 0.1Fc1 + 0.85σ
(10-a)
(0 ≤ σ ≤ 0.33Fc1 − 2.75)
τ 0 = 0.22 Fc1 + 0.49σ
(0.33Fc1 − 2.75 < σ ≤ 0.66Fc1 )
σ > 0.66 Fc1のときσ = 0.66 Fc1 (10-b)
σ = Pg ⋅ σ y + σ 0
σ 0 = N (be ⋅ D )
ピロティ梁
p
ピロティ梁
(9)
Qslip=1596kN
1500
Qslip(kN)
Qc2
p
Qslip=1999kN
Qslip=1929kN
Qslip=2109kN
Qslip=2019kN
Qslip/Qmax=1
スリップ破壊先行
1000
Qmax=1558kN
(LB-0.45-4.3)
500
WV0.45
WV0.90
0
0
図-17
500
(τの上限なし)
(τの上限なし)
Qwsu=1787kN
(計算値)
Qmax=2352kN
(LB-0.90-4.3)
1000
1500
3層水平荷重Q(kN)
2000
2500
スリップ破壊強度と 3 層水平荷重の関係
2 層側柱のパンチング耐力 5), pQb:直交梁のパンチング耐力 5)
直交梁
直交梁
Qj:壁縦筋のせん断抵抗 (摩擦係数μ=1.0)6), Kmin:シアスパン比増加に伴う強度低減係数
(c-1)A-A 断面図 (c-2)側面図
be:部材有効幅,D:部材せい,Pg:主筋比, Fc1:コンクリートの設計基準強度,N:軸力
(c)ピロティ階柱梁接合部
σy:主筋の降伏強度, awv:壁縦筋断面, σwy:壁筋の降伏強度,
図-16 スリップ破壊模式図
っていた。WV0.45 のスリップ破壊性状を図-16 に模式
抵抗を考慮してスリップ破壊強度を評価したが実験結
的に示す。図-9(b)より 2 層柱,周辺の床スラブ,直交
果に対して過小評価となった。
梁の損傷が激しいことが分かる。直交梁上面は床スラブ
上面より 50mm 高い位置にあり,水平変形に対して抵抗
6.今後の課題
すると考えられる(図-16(c))。そこで,スリップ破壊強
(1)1層柱頭部の曲げモーメントの伝達を考慮した破壊
度 Qslip を 2 層側柱,直交梁のパンチング耐力,壁縦筋の
形式を検討する必要がある。
せん断抵抗の合計値として式(9)~(11)より計算する。パン
(2)耐震壁のスリップ破壊強度の評価式の考案。特にスリ
チング耐力を計算する際に用いる軸力は平面保持解析
ップ破壊時の 2 層側柱のせん断強度の評価方法の検討。
より求めている。式(10)の τ0 は式(10-a)より計算する。τ0
は圧縮軸力により増加するが式(10-b)により頭打ちと
謝辞
本研究は,国土交通省建築基準整備促進補助金事
なる。本研究では式(10-b)を考慮した場合と考慮しない
業(建築研究所,矢作建設株式会社,名古屋工業大学,名
場合で Qslip を計算する。図-16(c)より直交梁がパンチ
古屋大学の共同研究)の一環として行われたものである。
ングシアに抵抗する断面は半分とした。床スラブが負担
実験に際し,多大なるご協力をいただきました。福山洋
する水平荷重は実験より 3 層水平荷重の 1/1.3 倍とした。
氏,諏訪田晴彦氏,壁谷沢寿一氏をはじめとし関係各位
以上の条件より Qslip を算出し,3 層水平荷重との関係
に深く謝意を表します。
を図-17 に示す。WV0.45 では実験時最大耐力 Qmax が計
算せん断強度 Qwsu を下回り,Qslip とほぼ一致した。
参考文献
WV0.90 では Qmax が Qwsu,Qslip を上回り, Qmax に対して
1)建築研究所:平成 7 年度兵庫県南部地震被害調査最終
Qslip が過小評価となった。これはスリップ破壊時の 2 層
報告書第 1 篇,1996.3
側柱のせん断強度を既往式(式(10))では正しく評価でき
2) 日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規準・同解
ないためと考えられる。そのため,スリップ破壊時の 2
説,2010
層側柱のせん断強度の評価方法は今後の課題として検
3) 財団法人日本建築センター:2007 年版建築物の構造
討する必要があるといえる。
関係技術解説書, 2007
4) 田内浩喜,川崎愛,中村聡宏,勅使川原正臣,諏訪田
5.まとめ
晴彦,福山洋,神谷隆,梅野達三:連層耐震壁のせん断
(1) 壁縦筋比を大きくすることで耐震壁の鉛直方向の
強度に対する枠フレームの効果(その 3),日本建築学会大
せん断ひび割れの拡がり,スリップが抑えられ,耐震壁
会学術講演梗概集,pp.375-376, 2010.9
のせん断強度を十分に発揮される。
5)日本建築防災協会:2001 年度改訂版既存鉄筋コンクリ
(2)2 章 3 節でピロティ梁を単純梁と仮定したが,1 層柱
ート造建物の耐震改修設計指針・同解説,2001
柱頭モーメントの伝達により梁主筋歪は固定端に近い
6)社団法人プレハブ建築協会,第 1 編プレキャスト建築
分布となった。
総論,2001.1
(3)2 層側柱,直交梁のパンチング耐力,壁縦筋のせん断
-450-