理想気体 物理化学入門 第2回 理想気体の持つパラメータ • 圧力 P (Pressure) • 体積 V (Volume) • 温度 T (Temperature) • モル数 n • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子 • 現実の気体でも希薄な状態では理想気体と 同じ性質を持つ 1 圧力 P (Pressure) 2 体積 V (Volume) 温度 ブラウン運動 L 圧力は単位面積あたりにかかる力 S V (体積)= S(断面積) × L(長さ) P = F / S 1Pa(パスカル) = 1N/m2 ブラウン運動は温度が高くなると激しくなる 温度はこの熱運動の激しさを示す物理量 -273℃で熱運動はほとんど無くなる → 絶対零度 6 モル数 n モル数 n 分子を重さではなくて分子の数で考えると便利な 場合がある(化学反応など)。 2H2 + O2 → 2H2O 質量だと 2g + 16g → ボイルの法則 しかし分子は小さいため数が大きくなってしまう。 なので、12個を1ダースと数えるように 6.02×1023個(アボガドロ数, NA)を1モルと決める。 (6.02×1023個は原子番号12の炭素12gに含ま れる原子数) • 一定量の理想気体は,一定温度で体積を変えると, 圧力が体積に反比例する. 18g N (分子の数)= n(モル数) × NA(アボガドロ数) 数だと 2個 + 1個 → 2個 (個数)= (ダース数) × (12) 「よくわかる物理化学の 基本と仕組み」より 9 アボガドロの法則 シャルルの法則 ドルトンの分圧の法則 P p1 p2 p3 .... • 一定量の理想気体は,一定圧力で温度を変えると, 体積が絶対温度(T)に比例する. • 絶対温度T(単位:K)= t + 273.15 • 全圧力Pは分圧(p1, p2, p3 …)の和になる. • 一定温度,一定圧力でモル数を変えると,体積 はモル数に比例する. • 分圧:多種類の気体が容器に入っているとき,注目 したい種類の気体だけを容器に残して,他の種類の 気体を全部追い出したと仮定したときの圧力. T = t + 273.15 「よくわかる物理化学の 基本と仕組み」より 「よくわかる物理化学の 基本と仕組み」より 10 ボルツマン定数を用いた理想気体の状態方程式 理想気体の状態方程式 混合気体の圧力(8.4atm) = H2の分圧(2.4atm) + N2の分圧(6.0atm) 11 12 理想気体と実在気体の違い • 理想気体 • ボイルの法則,シャルルの法則,アボガドロの法則, ドルトンの分圧の法則をまとめた式. • R = 8.31J mol‐1 K‐1 • n = n1 + n2 + n3 +….. – 質量は持つが大きさのない分子 – 体積,分子間力を無視 • 気体のモル数がnの時,分子数をN個とすると, • N = n x 6.02 x 1023 となる. • kB = R/(6.02 x 1023)はボルツマン定数と呼ばれる. • 実在気体 – 大きさを持つ – 分子間力も働く 「よくわか る物理化 学の基本 と仕組み」 より 13 理想気体 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 14 理想気体と実在気体の違い PV nRT PV 1 nRT PV nRT PV ? nRT 1 0 P 15 実在気体の状態方程式 • 実在気体には,V’(気体が実際に動ける体 積)とP’(分子間相互作用がないときの圧力) を用いて P'V ' nRT とすべき. • 理想気体の場合,PV/RTは一定になるはず • 実在気体では一定にならない • 原因は,分子の大きさと分子間力 17 「フレンドリー物理化学p94」より 18 実在気体の状態方程式 • いくつかの状態方程式が提案 – ファンデルワールス状態方程式 – ビリアル状態方程式 – ベン‐ロビンソン状態方程式 分子自身の体積を補正した状態方程式 分子自身の体積を補正した状態方程式 • 分子が動きまわることのできる体積V’は容器 の体積Vよりも小さい. • 分子が動きまわることのできる体積V’は容器 の体積Vよりも小さい. (b:気体1モルの体積) • ファンデルワールス状態方程式 – 最も有名 V ' V nb (b:気体1モルの体積) • これを考慮すると,状態方程式は – 理想気体の状態方程式をもとに,分子の 大きさと分子間力を考慮 19 分子間力を補正した状態方程式 となる. 20 分子間力を補正した状態方程式 • 分子間力が働くため,壁にはたらく圧力Pは分子 間相互作用がないときの圧力P’よりも小さくなる. • 壁に衝突する分子は内側へ引っ張られる(上図). • 内側へ引っ張る力は分子の濃度(n/V)に比例する. • さらに単位時間に壁に衝突する分子の数も濃度(n/V)に比例する. • 結果的に,圧力の減少分は物質量濃度n/Vの2乗に比例する. 22 ファンデルワールスの状態方程式 P ' V ' nRT n2 (P a )( V nb ) nRT V 2 (a:分子間力の大きさ,b:気体1モルの体積) • 実在気体の状態方程式のこと. 25 21 「理系なら知っておきたい化学の基本ノート」より 分子間力を補正した状態方程式 • 分子間力が働くため,壁にはたらく圧力Pは分子 間相互作用がないときの圧力P’よりも小さくなる. • その程度は 1. 分子間力の大きさa 2. 気体のモル濃度の2乗 に比例する. n2 P' P 2 a V (a:分子間力の大きさ) 23 P' P n2 a V 2 • これを考慮すると,状態方程式は • これをファンデルワールスの状態方程式という. 24 臨界点 物理化学入門 第3回 圧縮因子 その温度以上では気体‐液体 の変換が起こらないという温 度を臨界温度という。その圧 力を臨界圧力、体積を臨界体 積という。その状態のP‐V曲線 上での点を臨界点という。 PV Z nRT 圧縮因子Zを定義。 理想気体では常に1。 1 臨界点での圧縮因子 「はじめて学ぶ物理[熱力学]」より 2 臨界点での圧縮因子 非理想性の尺度としての臨界点 教科書p27 ‐ 臨界点での圧縮因子はすべての気体でほぼ0.3。 ‐ つまり臨界点ではすべての気体は近似的に等しく 非理想的。 ‐ 臨界点での圧力(臨界圧力)、体積(臨界体積)、温 度(臨界温度)を基準にすればすべての気体でほ ぼ同様の振る舞いを表せる。換算変数。 教科書p26 PR 臨界点 P PC VR V VC TR T TC 換算圧力PR、換算体積VR、換算温度TR 臨界圧力PC、臨界体積VC、臨界温度TC 非理想性の尺度としての臨界点 ファンデルワールス状態方程式と臨界点 ‐その温度以上ではどんな圧力でも液体 にならない温度を臨界温度という。臨界 温度での気体‐液体平衡の起こる圧力、 体積を臨界圧力、臨界体積といいそのグ ラフ上での点を臨界点という。 ‐臨界点を用いると非理想性の程度をす べての気体で同様に扱える。 (P n2 a )( V nb ) nRT V 2 • 変形すると以下のような3次式になる(1モル の場合). PV 3 ( bP RT )V 2 aV ab 0 9 ファンデルワールス状態方程式と臨界点 三次関数(高校の復習) f ( x ) ax f(x) 3 bx cx d 2 極値 ファンデルワールス状態方程式の温度依存性 RT a P V b V 2 実測値 f '(x) 0 変曲点 f ' ' ( x ) 0 x RT a V b V 2 P VDW曲線 実際の圧力変化 ファンデルワールス状態方程式 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 「はじめて学ぶ物理[熱力学]」より • 点A:圧力が変化しなくなる(液化が始まる) • 点B:すべて液体になる • 点A,Bの圧力:飽和蒸気圧 P RT a V b V 2 実測値 • 温度とともに形状が変化 11 10 ファンデルワールス状態方程式と臨界点 「化学のコンセプト」より ファンデルワールス状態方程式と臨界点 三次関数(高校の復習) f ( x ) ax f(x) RT a P V b V 2 VDW曲線 12 3 bx 2 cx d 極値 f '(x) 0 • 臨界点では, V c 3b , P c 「はじめて学ぶ物理[熱力学]」より 「化学のコンセプト」より 変曲点 f ' ' ( x ) 0 a 8a , Tc 2 27 b 27 bR x (a:分子間力の補正項,b:体積の補正項) • 2つの頂点が重なる点が出現:臨界点 臨界点=二つの極値と変曲点が一致した点 13 RT a V b V 2 臨界点 ( T Tc , V Vc , P Pc ) では, RT c 2a dP 0 ・・・(式 3 dV (V c b ) 2 Vc P 1) ( 1)より, 2) RT c 2a 3 (V c b ) 2 Vc Pc これを (2) に代入して 4a 6a 3 4 V c (V c b ) Vc V c 3b V c 3b , P c R 8a a a ( 3 b b ) 27 Rb (3b ) 2 27 b 2 16 a 8a , Tc 27 b 2 27 bR 「理工系学生のための化学基礎]」より • 臨界点は実験で求めることができる. • すると,a(分子間力の補正項), b(体積の補 正項)を知ることができる. a 8a V c 3b , P c , Tc 2 27 b 27 bR 2 3 Vc (V c b ) 15 臨界点がわかると これを (1 )に代入し, RT c 2a (3b b ) 2 (3b ) 3 8a Tc 27 Rb また, VDW 状態方程式に代入し, 2 2 RT c 6a d P 0 ・・・(式 4 (V c b ) 3 dV 2 Vc 14 17 18 分子運動による圧力 気体分子運動論 物理化学入門 第4回 • 気体分子は動く. • 分子の運動と圧力の関係を理解する. • 下図のように気体分子が容器の壁に衝突す ると壁に力を及ぼす. • これが圧力となる. Nmv 2 P 3V • 更に,分子の運動エネルギー(内部エネ ルギー)と温度の関係を理解する. U 3 nRT 2 1 分子の数と圧力 3 mv Fmol t 運動量の変化と力 • 一定体積中の分子数が2倍になると,衝突す る分子の数は2倍になる. • その結果,圧力が2倍になる. 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 2 • 壁にぶつかり,速度がvxから‐vxに変化した場合 • 分子が壁に衝突したときに及ぼす力を計算. • 力学の基本法則:mv = Ft 運動量の変化(mv)は力積(Ft)と等しい • 壁に働く力F = -Fmolなので • 気体分子1分子の場合 m:分子の質量,v:速度の変化, Fmol:分子に働く力,t :壁に力が働く時間, 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より x 4 分子運動による平均の力 分子運動による平均の力 • 1分子が1秒間に何回壁に衝突するかを考える. 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 5 N分子の場合 • 1分子の1秒あたりの運動量変化 • 1分子が1回衝突したときに壁に働く力積(前述) • 長さLの容器の壁にぶつかり,再びもとの壁にぶつかる までの時間 6 (1秒間の力積) 2mv x ( Ft 2mv x vx mv x ) 2L L 2 分子が2L動く時間,つまり2L/vxとなる. • 1秒間の衝突回数 • 1つの分子が1秒間に一つの壁に衝突する回数 1÷(2L/vx)= vx/2Lとなる. • 分子数がN個だとすると vx 回 2L (1秒間の総力積) • 1分子の1秒あたりの運動量変化 (1秒間の力積) 2mv x ( vx mv x ) 2L L ただし分子の平均2乗速度 2 v x2 は, Nmv x L v x2 2 2 v x21 v x22 v x23 v xN N • 壁に働く平均の力=1秒間に壁に働く力は 「よくわかる物理化学の 基本と仕組み」より 7 8 9 気体分子運動論から計算される圧力 • 圧力=(壁に働く力)÷(面積) なので 状態方程式との比較 PV 前ページより 2 Nmv x S P L Nmv x LS ここで,気体の状態方程式は 2 したがって, k B T 2 mv 2 mv 3 3 2 N分子の気体のエネルギー Nmv 2 3 (1分子の運動エネルギー) PV Nk BT N分子(nモル)の場合は 2 運動エネルギー LS は体積 Vと等しい Nmv x V (気体全体の運動エネルギー(内部エネルギー)) 2 Nmv 3V U N 2 2 2 v 2 v x2 v y2 v z2 ,かつ v x v y v z 2 なので, mv 2 3 k BT 2 2 3 mv 2 3 Nk B T nRT 2 2 2 • 温度が高い=分子の運動エネルギーが大きい v 2 3v x2 10 気体の速度 11 等分配の法則と自由度 今日の内容 各気体の各温度での 速度が算出できる 「理工系学生のための化学基礎」より 12 • 理想気体:単原子 • 1原子分子の運動エネルギー 1. 気体分子運動論 2. 多原子分子のエネルギー 2 2 2 mv y mv 2 mv x mv z 2 2 2 2 • x,y,z方向への運動が可能 • 自由度が3 13 2原子分子の場合 等分配の法則と自由度 • 等分配の法則 – すべての自由度に均等にエネルギーが配分される • x,y,zの各方向の運動エネルギー 2 15 2原子分子での等分配の法則 • 自由度は5 –x,y,z方向への運動 –2方向の回転運動 • 自由度は5 • 各自由度につきkBT/2のエネルギー – 並進も回転も同じエネルギー 2 2 2 2 2 mv y mv mv mv x mv z k T B 2 2 2 2 2 2 • 緯度方向(),経度方向() 2 2 mv y mv z 3 mv 2 mv x k BT 2 2 2 2 2 「はじめて学ぶ物理」より 14 • nモルの場合の内部エネルギーは 2 2 2 mv y mv x mv z k T B 2 2 2 2 2 2 2 2 2 mv y mv mv mv 2 mv x mv z 2 2 2 2 2 2 • 1自由度あたりの平均エネルギーはkBT/2 U N 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 16 17 5 mv 2 5 Nk BT nRT 2 2 2 18 3原子分子の場合 • 自由度は6 • 1分子の運動エネルギー • nモルの内部エネルギー U N 今日のまとめ 今日のまとめ • 等分配の法則 • 1分子の気体の運動エネルギー mv 2 6 k BT 2 2 2 (1自由度あたりのエネルギー) mv 3 k BT 2 2 mv 2 6 Nk BT 3nRT 2 2 • 自由度 – 単原子分子:自由度 – 2原子分子:自由度 – 3原子分子:自由度 • N分子の気体の内部エネルギー U 「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 19 今日のまとめ • 単原子分子の特徴 mv 2 3 k BT 2 2 U 3 nRT 2 • 2原子分子の特徴 mv 2 5 k BT 2 2 U 5 nRT 2 • 3原子分子の特徴 mv 2 3k BT 2 U 3nRT 22 1 k BT 2 3 3 nRT Nk BT 2 2 20 (x, y, z) (x, y, z, X軸Y軸 回転) ( x, y, z, X軸Y軸Z軸 回転) 21 疑問 物理化学入門 第5回 二重スリット実験 量子力学の精髄(ファインマン) 最も美しい実験に選出(2002年) 先週学習した気体の分子運動論では ニュートン力学(古典力学)を使って分 子の運動を記述した。 分子のようなミクロの世界では量子力 学が支配すると高校で学習した。 なぜ気体の分子運動論はニュートン 力学(古典力学)で表せるのだろうか? 2 1 ドブロイの粒子波 周波数と波長の関係 E h アインシュタインの式 hc E mc 量子力学の方法を用いて、分子の並進、回転、 振動運動を記述してみよう。 2 mc 2 h 一般化して mc 適合する定在波は 整数の節をもつ波。 c 並進エネルギー 並進エネルギー 箱の中の粒子の 並進運動。 X軸成分のみを着 目して考える。 量子力学 量子力学ではある特定のエネルギーしか許容 されない。エネルギーはその特殊な値に制限さ れる。これを量子化という。 電子や光子の波の波長はどうやって決まるの だろう? プランクの関係式 電子や光子は“粒子”の性質と“波”の性質を両 方持つ。 半波長の整数倍が長さ a に等しい。 n ドブロイの式 変形して 2 並進エネルギー 運動エネルギーなので 1 n2h2 E mv 2 (n 1,2,3,...) 2 8ma 2 a nh h a を代入 2mv mv 1 2 mv 2 許容されるエネルギーと定在波 例題 N2分子が10cmの長さの線分に閉じ込められた ときの持つことの出来る並進エネルギーを求 めよ。 N2分子一個の重さ=モル質量/アボガドロ数 =0.028kg/(6.02 X 1023)=4.65 x 10‐26kg 線分の長さ a = 0.1 m h= 6.63 x 10‐34Js E n2h2 (n 1,2,3,...) = n2 x 1.18 x10‐40 J 8ma 2 並進エネルギーの間隔は 平均並進エネルギーより小さい 並進エネルギーの間隔は 平均並進エネルギーより小さい 以前にもとめた平均並進エネルギー 1 kBT 2.058 x 10‐21 J 2 例題で求めた並進エネルギー間隔10‐40 J と 比べて1019 倍大きい。 並進エネルギー準位が極端に小さいために、 分子は任意の並進エネルギーをもてると仮定 できる。 つまり並進エネルギーにおける量子論的な効 果は無視できるほどに小さい。 = 1.18 x10‐40 J, 4.72 x10‐40 J, 10.62 x10‐40 J 並進エネルギー(三次元) 並進エネルギー(三次元) 3次元で許されるエネルギー値は 1次元での粒子のエネルギーをx, y, z軸に拡張 して 2 2 h E x nx 8ma 2 2 2 h E y ny 8ma 2 E z nz 2 Ex E y Ez = (2, 1, 1) (1, 2, 1) (1, 1, 2) x, y, z軸に違いが無いため上の三つの状態は 同じエネルギーを持つ。三重縮退。 量子化された回転運動 回転運動の定在波。円周は2πr。 エネルギーの縮退 n x ,n y ,n z 教科書 p78 h2 8ma 2 量子化された回転運動 並進エネルギー(三次元) 2 2 n h 1 2 mv 2 2 8 mr 2 約10‐24J オーダー 教科書 p81 量子化された振動運動 分子中の原子間結合距離は約100pm。その 10%くらいで振動しているので、原子が動ける距 離はだいたい10pm。 マイクロ波、遠赤外線の領域 E n 2r ドブロイの式より n 2h 2 1 2 mv 2 2 8 mr 2 h2 8ma 2 に代入すると、だいたい10‐20 Jのオーダー h mv 一酸化炭素の赤外吸収スペクトル 教科書 p82 まとめ 教科書 p83 熱運動によるエネルギー h2 量子化されたエネルギー間隔 8ma 2 一分子の運動エネルギーは (運動エネルギー) mv 2 3 k BT 2 2 気体が内部にもつエネルギーを内部エネルギーと呼ぶ 単原子分子では運動エネルギーの総和が内部エネル ギーとなる 並進、回転の量子エネルギーはkBTと比べてずっと 小さい。このため量子力学的な式ではなくて古典 的な式が適用できる。 振動の量子エネルギーは大きいため古典的な式 は適用できない。 a = 1x10‐1m a = 2πr = 1x10‐9m a = 1x10‐11m 閉じ込められる長さが大きいほどエネルギー間隔は狭い 古典力学的な振る舞い U 3 nRT 2 21 体積変化によるエネルギー変化 熱力学的世界の構成要素 力学的周囲 教科書 p116 系 U 熱 = 力 × 距離 =(圧力×面積) × 距離 =圧力 ×(面積 × 距離) =圧力 × 体積変化 = p × (V2 – V1) 熱と仕事でエネルギー変化を表す U 系 U 力 U 熱 0 w U 力 q U 力 U 熱的周囲 w :外から加えた仕事 q :加える熱量 U 系 U 力 U 熱 0 熱力学第一法則 U w :外から加えた仕事 q :加える熱量 25 熱量を決定したい 物理化学入門 第6回 我々を取り巻く環境 • 地表面での反応 • ΔUとwの両方を測定する必要があり,難しい. q ΔU w 1気圧,常温(25℃前後) 化学反応もこの条件下で行うことが多い 定積変化はめずらしい (熱力学第一法則) • 対策 W=0にする.つまり一定体積で考える. • 定圧条件下での移動した熱量を考える qv:定積変化における熱量 定積変化では, Uは加えられた熱量と等しい 『フレンドリー 物理化学』より 定圧条件での熱量 エンタルピー H U PV • すると,定圧条件下では「系の受け取る熱量」が「エン タルピー変化」と等しくなる. ここで新しい熱力学量エンタルピーを定義する。 ΔH q p エンタルピーの増加量 3 エンタルピー • 以下のようにエンタルピー(H)を定義する. q p ΔU w U PV 『理工系学生のための 化学基礎』より 22 1 • 定圧条件下において,「系が受け取る熱量」が 「エンタルピー変化(H)」となる. • これなら測定しやすい. ΔH q p エンタルピー の増加量 定圧条件下で系が吸収した熱 定圧条件下で系が 吸収した熱 q p ΔH 『化学の基本ノート 物理化学編』より 4 エンタルピーと内部エネルギーの関係 前頁より qpとqvの関係 ここまでのまとめ 熱力学第1法則 U q w ΔH q p U PV 定積変化ではPV=0より なので,q p U pV より ΔU qv PV qv エンタルピー変化は, 1. 定圧条件下で系が吸収する熱量 2. 定圧条件下で,「内部エネルギーの増加分」と「外界にした 仕事」の和 7 7 定温条件下での理想気体の反応 では,状態方程式より, 定積条件 定圧条件 定積条件下では, U qv q p qv PV ΔH q p U PV 6 5 • 定圧条件下での反応 ΔU q p w q p pV 『化学の基本ノート 物理化学編』より 定圧条件下では, ΔH q p U w U PV PV (n) RT 8 理想気体では, q p qv (n) RT 『理工系学生のための 化学基礎』より 99 ヘスの法則 C(グラファイト)→C(ダイヤモンド) この反応の熱量を直接測るのは難しい • 反応熱は反応前後の物質の状態だけで決ま り,途中の経路は関係しない しかし、それぞれの燃焼反応は熱量計で測定 できる。 C(グラファイト) + O2 → CO2 H=‐393.51J/mol C(ダイヤモンド) + O2 → CO2 H=‐395.40J/mol – 反応が1行程で終了しても,数行程かかっても, 反応熱は同じ – 反応熱の加成性 グラファイト(炭素)からダイヤモンド(炭素)に変換する ための生成熱を求める.(グラファイトの燃焼熱: 393.5kJ/mol, ダイヤモンドの燃焼熱:395.4kJ/mol) C(ダイヤモンド)+O2(気体) 単体 C(グラファイト)+O2(気体) 安定酸化物 CO2(気体) H° H2°= -395.40 kJ H1°= -393.51 kJ H 393.51 (395.40) 1.89kJ / mol 11 11 標準生成エンタルピー(Hf°) • 標準状態(1気圧,25℃)の単体から標準状態の 1molの化合物を生じる生成熱 すべての化学反応のエンタルピー変化を測定して 表にするのは実用的ではない。 その代わりにすべての物質のエンタルピーに関す る情報をそろえる方が現実的。 1 1 H 2 ( g ) Cl 2 ( g ) HCl(g) 92.3kJmol -1 2 2 1 1 H 2 ( g ) Cl 2 ( g ) HCl(g) 2 2 H f ( HCl ) 92.3kJmol -1 単体のHf°は0とする 13 C (グラファイト) C (ダイヤモンド ) 1.89 kJmol 1 12 状態量(状態関数) 物理化学入門 第7回 状態量(状態関数) 熱平衡状態を指定すると値が一意に決まる物理量を状 態量と言う。 U w q 内部エネルギーは状態量 熱量、仕事は状態量ではない。 状態量(示量性) n(モル数)、V(体積)、 U(内部エネルギー)、H(エンタルピー) 状態量(示強性) P(圧力)、T(温度) 1 エンタルピーと化学反応 A → B すべての化学反応のエンタルピー変化を測定して 表にするのは実用的ではない。 その代わりにすべての物質のエンタルピーに関す る情報をそろえる方が現実的。 化学反応は定圧で行うことが多い。 H U PV ΔH q p (定圧条件) 状態量の関数であるエンタルピーも * は状態量ではない。 標準生成エンタルピー(Hf°) • 標準状態(1気圧,25℃)の単体から標準状態の 1molの化合物を生じる生成熱 1 1 H 2 ( g ) Cl 2 ( g ) HCl(g) 92.3kJmol -1 2 2 1 1 H 2 ( g ) Cl 2 ( g ) HCl(g) 2 2 その場合、反応熱は反応のエンタルピー変化と 等しくなる。 H f ( HCl ) 92.3kJmol -1 単体のHf°は H とする 教科書の一番後ろ付録B物性表にも標準生成エンタルピーの 6 リストがある。 (例)エチレンの水素化 水溶液中のイオンの標準生成エンタルピー 教科書 p132 CH2CH2(g) + H2(g) → CH3CH3(g) 反応熱は? 気体の塩化水素が、大量の水に溶解する過程。 HCl( g ) H (aq) Cl (aq) Hf° +52.47 0 ‐84.68 反応に伴うエンタルピー変化は、生成物のエンタル ピーから反応物のエンタルピーを引いたもの。 aq: 水を表すラテン語「aqua」よりイオンが水中に存在することを表す。 HCl( g ) H (aq) Cl (aq) Hf° (kJ/mol) ‐74.85 となり Hf°(H+) + Hf°(Cl‐) = H+は常に水溶液反応に関与するので、他のイオンの生成エンタ ルピーを決定できる。 (kJ/mol) (kJ/mol) = Hf°(H+) + Hf°(Cl‐) – (‐92.31) ‐167.16 (kJ/mol) Hf°(H+) = 0 (kJ/mol) Hf°(Cl‐) = ‐167.16 (kJ/mol) ‐92.31 Hf°(H+) Hf°(Cl‐) 反応エンタルピーは H°= ‐74.85 ‐167.16 (kJ/mol) イオンの生成は常に陽イオンと陰イオンが共に生成するために、 それぞれの生成エンタルピーは実験的に求められない。 なので、H+の生成エンタルピーを定義してしまう。 (kJ/mol) H °= ‐84.68 – (52.47) [kJ/mol] = ‐137.15 [kJ/mol] イオン化エンタルピー Hf°(H+) + Hf°(Cl‐) = (kJ/mol) 熱容量 定圧熱容量(Cp) 定積熱容量(Cv) • 熱容量:1℃温度を上げるために必要な熱 量のこと • 1モルの物体に熱(Q)を加えて温度がT℃ 上昇した場合,熱容量Cは • 体積一定の条件下(定積変化)での熱容量を 定積熱容量Cvという. • 定積変化では,V=0なので U q w qv U C q p U PV H 熱力学第一法則 よって.Cp q よって.Cv v T 10 10 定積熱容量と定圧熱容量 H U PV Cp T T T PV U PV Cv T T T 多変数関数の微分: 偏微分 z f ( x, y ) 変数がx, y二つあるのでこの関数の微分は PV Cp Cv T PV nRT f f , x y なので ラウンドエフ‐ラウンドエックス(ワイ)とよび、偏微分とい う計算は他の変数を定数として微分するだけ。 Cp 一定圧力の元で気体が膨張するとき、nRに等しい余分 なエネルギーを熱的周囲からもらう必要がある。 反応のエンタルピーの積分形 教科書p145 (H ) T C P P から H T C P dT 定数 qp T 11 エンタルピー変化の温度依存性 qp • 圧力一定の条件下(定圧変化)での熱容量 を定圧熱容量Cpという. • 定圧では,W=PV 12 エンタルピー変化の温度依存性 教科書p145 H H prod H react 温度で微分すると H prod (H ) T T P H react P T P (C p ) prod (C p ) react エンタルピー変化を温度に対してプロッ トすると傾きが熱容量変化になる。 理想気体の定積比熱 物理化学入門 第8回 理想気体の定積比熱のまとめ • 理想気体1モルの内部エネルギー(U)は 3 (前回の講義より) U RT 2 • 温度がT上昇したとすると 3 U RT 2 • したがって,理想気体の定積比熱は Cv U T 1 • 自然と起きる化学反応 例1 水を入れたコップを室温で長時間放置する →蒸発して空になる U Cv T H Cp Cv R T プロパンの燃焼反応(発熱反応) C 3 H 8 (g) 5O 2 3CO 2 (g) 4H 2 O(l) ΔH 2220kJmol 1 鉄の酸化反応(発熱反応) 例2 水の入った洗面器に赤インクをたらす →インクは全体に広がる 3 2Fe(s) O2(g) Fe 2 O 3 (s) ΔH 824.2kJmol 1 2 水の蒸発(吸熱反応) H 2 O(l) H 2 O(g) ΔH 44.3kJmol 1 『フレンドリー 物理化学』より • 定圧変化の場合は仕事(PV)をするので,そ の分のエネルギーが必要となる. 例3 熱い物体と冷たい物体を接触させる →高温側から低温側へと熱移動が起きる エントロピーの導入 ナフタレンの昇華(吸熱反応) C10 H 8 (s) C10 H 8 (g) ΔH 72.6kJmol 1 • 逆は決して起こらない 5 4 5 dqeq T • 変化の方向は熱の出入り(エンタルピー変化) だけでは判断できない • 熱力学第一法則だけでは判断できない 6 熱力学第二法則 エントロピーの感覚 • 孤立系で起こる変化は必ず • 変化の方向を決定するための状態関数として,エン トロピー(S)が導入された.1つの系が絶対温度Tに おいて,dqの熱量を可逆的に吸収したとき下記のよ うにSを定義する. dS 3 エンタルピー変化だけでは方向は決まらない 反応の方向性 定積比熱と定圧比熱 • CpはCvよりもRだけ大きい. 2 S 0 (可逆条件下) (等号は可逆変化の場合) となる. • 断熱系で不可逆変化が起きた場合は,系のエン トロピーは増加する. • 一度増大したエントロピー(乱雑さ)は二度と減る ことはない. • Sは「乱雑さ」をあらわし,Sが大きいほど分子 の状態が乱雑であることを意味する. • エントロピーが増加するということは,熱運動 を行う範囲が広がることである. • エントロピーを考えると, 7 8 9 可逆変化 可逆変化と不可逆変化 1. 2. 3. 4. • 熱力学第二法則では不可逆性が鍵となる 不可逆変化(例1) 1. 2. 3. 4. 等温条件下 ピストン上の無数のおもりを1つずつ取り除く おもりを1つずつ戻していく 完全にもとの状態に戻る 等温条件下 ピストン上のおもりを一気に取り去る おもりを戻す もとの状態に戻るように見えるが,実は完全には戻っていない • 可逆変化 – 1つの系がある状態から別の状態に移り,その系のみな らず,外界にもなんらの変化を引き起こすことなしに再 び前の状態に戻ることができる過程を可逆変化という. • 不可逆変化 – 完全にもとの状態に戻せず,どこかに変化(影響)が 残ってしまう変化を不可逆変化という. • 気体の仕事 膨張時 (理工系学生のための科学基礎p119より) 圧縮時 合計 V2 V2 V1 V1 W膨張 PdV • 気体の仕事 V nRT dV nRT ln 2 V V1 膨張時 圧縮時 熱力学第一法則より 1. 2. 3. 4. 5. U q W W圧縮 P dV P1 (V 1 V 2) P1 V V2 合計 1 W合計 V ( P2 P1 ) 12 不可逆変化(例2) U 0 V1 11 不可逆変化(例1) 気体ははじめと同じ状態に戻ったので 2 V1 10 W合計 V ( P2 P1 ) V2 W膨張 P dV P2 V V1 V nRT W圧縮 PdV dV nRT ln 1 V2 V2 V V2 V V W合計 nRT ln 2 nRT ln 1 0 V1 V2 V1 世の中は不可逆変化 • 我々の日常生活の中で起こる変化は,全て不可逆 変化である. 断熱条件下 隔壁で分離された片方に理想気体 もう一方は真空状態 隔壁を除去すると,気体が拡散する 元の状態に戻すことは出来ない – – – – 熱が冷める 水中に滴下したインクが広がる 混ざった気体は元に戻らない 運動が摩擦熱に変化する だが,気体はW=‐V(P2‐P1)の仕事をしたので,以下の熱量を 外部から受け取ったことになる. q W V ( P2 P1 ) • 不可逆変化では,外界に何らかの変化(今回は仕事を 熱に変化させた)を残す. 13 熱力学第二法則 14 エントロピーとは • 孤立系で起こる変化 S 0 (可逆変化) • 自発的変化の方向を決定するための状態量 • 系全体としてS≥0となる方向に自発的に変化する S 0 (不可逆変化) となる. • 世の中は全て不可逆変化なので, 『宇宙(孤立系)のエントロピーは増大し続ける』 16 16 17 15 エントロピーを計算するに当たり 物理化学入門 第10回 エントロピー変化計算の基本式 • エントロピーの定義 1つの系が絶対温度Tにおいて,dqの熱量を可逆的に吸 収したとき下記のようにSを定義する. dS dqeq T dS T 熱力学第一法則より U q W dU dq PdV (可逆条件下) • 不可逆過程で測定した熱量からエントロピーは計算 できない.反応前後の系の状態からエントロピーを 計算する. 1 定温条件下でのエントロピー変化の計算 エントロピー変化計算の基本式より S (Cp nR) ln エントロピー変化計算の基本式より, T V S Cv ln 2 nR ln 2 T1 V1 定圧変化なのでCvではなくCpを用いる 定温変化なのでT1=T2より, また,dU CvdTなので, dq dU PdV CvdT PdV 2 定圧条件下でのエントロピー変化の計算 T V S Cv ln 2 nR ln 2 T1 V1 dq Cv P dT dV T T T P nR ここで, より, T V Cv nR dT dV S V T T V S Cv ln 2 nR ln 2 T1 V1 S dqeq 理想気体の場合,Cp Cv nRより, 3 定積条件下でのエントロピー変化の計算 T2 V nR ln 2 T1 V1 T T V Cp ln 2 nR ln 2 nR ln 2 T1 T1 V1 V2 T 2 なので V1 T1 エントロピー変化計算の基本式より, V T S Cv ln 2 nR ln 2 V1 T1 定積変化なのでV2 V1より, S S S 4 5 熱力学第二法則はほんとに正しいのか? エントロピー変化の計算式のまとめ 状態変化でのエントロピー変化の計算 6 • 孤立系で起こる変化 状態変化では,q Hなので, 基本式 S S Cv ln T2 V nR ln 2 T1 V1 定温変化 S nR ln S 0 (可逆変化) 定圧変化 V2 V1 S Cp ln S 0 T2 T1 となる. 3つの等温膨張の系で検証 定積変化 S Cv ln T2 T1 ②不可逆的膨張その1 状態変化 S (不可逆変化) ①可逆的膨張 H T ③不可逆的膨張その2 7 8 9 9 可逆変化の場合のエントロピー変化 不可逆変化でのエントロピー変化の算出法 • 理想気体nモルが,圧力PでV1からV2に可逆的に等温膨張 したときの系と外界の全エントロピーを求める V2 V1 定温変化なのでU 0 dS よって,熱力学第一法則よりWsystem qsystem V2 V1 qsurrounding qsystem nRT ln W PdV V1 V2 V1 S all S system S surrounding nR ln V nRT dV nRT ln 2 (図中灰色の部分) V V1 V2 V nR ln 2 0 V1 V1 10 dqeq (可逆条件下) T • 不可逆過程で測定した熱量からエントロピーは計算 できない.反応前後の系の状態からエントロピーを 計算する. • つまり,可逆的に変化したと仮定して,エントロピー の計算式を用いる. 符号に注意 全体のエントロピーS allは 気体のした仕事 Wは V2 V nRT ln 2 V1 系が吸収した熱量qsystemと外界が吸収した熱量qsurroundingは等しいので, 等温変化なので,系の エントロピー S system は S system nR ln • エントロピーの定義 – 1つの系が絶対温度Tにおいて,dQの熱量を可逆的に吸 収したとき下記のようにSを定義する. V2 V1 12 12 11 不可逆変化のエントロピー変化(2) 不可逆変化のエントロピー変化(1) • 理想気体nモルが,圧力PでV1からV2に不可逆的に等温膨 張したときの系と外界の全エントロピーを求める 可逆膨張のPV曲線 • 理想気体nモルが,断熱材で覆われた体積V2の容器内で,隔 壁を挟んで分離された左側のV1の中に閉じ込められ,右側は 真空になっている.隔壁を空けると,不可逆的にV2 まで膨張 する.このときの系と外界の全エントロピーを求める 定温変化なのでU 0 可逆膨張のPV曲線 系が吸収した熱量qsystemと外界が吸収した熱量qsurroundingは等しいので, 等温変化なので,系のエントロピーSsystemは S system よって,熱力学第一法則よりWsystem qsystem P2 V (図中斜線) qsurrounding qsystem P2 V 全体のエントロピーS allは V nR ln 2 V1 S all S system S surrounding nR ln 気体のした仕事Wは V2 P2 V 0 V1 W P2 V (図中灰色部分) 13 13 不可逆変化のエントロピー変化(2) 不可逆変化のエントロピー変化(2) S 0 (可逆変化) 真空に対しては仕事は しないので, W system 0 断熱されているので, q surroundin g 0 よって, S surroundin g • 孤立系で起こる変化 系のエントロピー変化Ssystemについて考える. まず,外界のエントロピー変化Ssurroundingについて考える. また,断熱変化なので q system 0 0 0 T 15 熱力学第二法則は確かに正しい 等温可逆膨張 等温不可逆膨張 等温不可逆膨張 15 14 S 0 熱力学第一法則より U system 0 (不可逆変化) したがって, T 0 系のエントロピー変化Ssystemについて考える. また,断熱変化なので q system 0 変化の前後を比較すると等温可逆膨張と同じなので, V S system nR ln 2 V1 熱力学第一法則より U system 0 全体のエントロピー変化sallは 真空に対しては仕事は しないので, W system 0 したがって, T 0 S all S system S surroundin g nR ln 16 V2 0 V1 となる. 17 18 18 例題1 1molの理想気体の酸素ガスを298K,10m3 から500K, 50m3まで膨張させたときのエントロピー変化を求めよ.ただし,気 体定数は8.314Jmol-1K-1定圧比熱は29.4Jmol-1K-1とする. 例題2 350K,1.5atm,76.54dm3 の理想気体がある.この気体 を温度を元のまま一定にし,6.5atmまで圧縮したときのエントロ ピー変化を求めよ.R=0.082atm dm3 K-1 mol-1とする. • 自発的変化の方向を決定するための状態量 • 系全体としてS≥となる方向に自発的に変化する 例題3 一定圧力(1atm)のもとで,-10℃の1molの氷が100℃の 水蒸気に変わるときの,エンタルピーとエントロピーの変化量を求 めよ.ただし,氷の定圧比熱は37.2JK-1mol-1 ,0℃における氷の 融 解 熱 は 6.01x103Jmol-1 , 100℃ に お け る 水 の 気 化 熱 は 4.07x104Jmol-1 である.水の定圧比熱は0℃~100℃の範囲で 75.3JK-1mol-1で一定とする. • 確率の小さい状態から確率の大きい状態に変化 する 1 2 エントロピーと確率 エントロピーと確率 • 確率の小さい状態から確率の大きい状態に変化する • 確率の小さい状態から確率の大きい状態に変化する 3 エントロピーと確率 25 状態数/状態数max 物理化学入門 第11回 エントロピーとは • 6個の分子が存在 – 各状態の『場合の数』を計算 – Aの中にn個の分子が存在する組み合わせ:6Cn 配分 6-0 5-1 4-2 3-3 2-4 1-5 0-6 状態数 1 6 15 20 15 6 1 状態数/状態数max – 各状態の『場合の数』を計算 – Aの中にn個の分子が存在する組み合わせ:6Cn 0.3 60 80 6 6-0 5-1 4-2 3-3 2-4 1-5 0-6 1 6 15 20 15 6 1 • 状態数の多い状態,つまり確率の高い状態 に変化する 10 5 1 2 3 4 5 6 Aの中の分子の割合(%) Aに存在する分子数 5 6 エントロピーと確率 終わりの状態 20 15 10 5 0 はじめの状態 0 1 2 3 4 5 6 Aの中の分子の割合(%) 0 40 5 15 k B : ボルツマン定数,W : 状態数 0.1 20 4 配分 状態数/状態数max 状態数/状態数max 0.4 0 3 状態数 S 0.6 0.5 0.2 はじめの状態 2 Aの中の分子の割合(%) Aに存在する分子数 • ボルツマンのエントロピーの式 N=6 N=10 N=100 0.7 1 25 終わりの状態 1 0 エントロピーを状態数で表す エントロピーと確率 0.8 5 20 0 0.9 10 0 0 4 15 はじめの状態 25 • 6個の分子が存在すると仮定する 終わりの状態 20 100 Aの中の分子の割合(%) • ボルツマンはエントロピーを状態数(場 合の数)で表現できることを見出した • 分子の数(図中のN)が多ければその 変化は顕著になる 7 S k B ln W 8 S k B ln 20 k B ln 1 9 ボルツマンの式はほんとに正しいのか? N! N! N N N 2 [ !][( N )!] [ !] 2 2 2 2 ここで,スターリングの公式N ! N N e Nを用いると, • ボルツマンの式からの導出 W final N C N 不可逆的等温膨張のエントロピー変化を計算してみる. 1.基本式から計算 Winitial:N分子のうちN分子が箱Aに存在する場合の数 2.ボルツマンの式から計算 Winitial N C N 1 • 基本式からの導出 定温変化なので V S nR ln 2 V1 Wfinal:N分子のうちN/2分子が箱Aに存在し,N/2が箱Bに存在 する場合の数 2 dQeq [ N N !][( N )!] 2 2 11 • 絶対零度では粒子の熱運動が完全にストッ プして完全結晶となる. • この状態の状態数(W0K)は1なので, T S k B ln W (W:状態数) S 0 K k B ln 1 0 • エントロピーは,各状態の確率の高さを示し ており,化学変化は確率の高い状態(エント ロピーの高い状態)へと進む • 1気圧,25℃のエントロピーは標準絶対エント ロピー(Sº)という. – 全体的に,Sº個体<Sº液体<Sº気体 – エントロピーが「乱雑さ」を表すため dQ Cp dT T T ( S 0 K 0) cf) エンタルピーは,絶対値は決められない.H に意味がある. 14 15 • 25℃での以下の反応のエントロピー変化を求める 化学反応におけるエントロピー変化 • 標準状態での化学反応におけるエントロピー 変化は,以下の式で求められる. S S (生成物) S (反応物質) 1 3 N 2 H 2 NH 3 2 2 S (NH3 ) 192.3 JK 1 mol 1 S (N 2 ) 192.1 JK 1 mol 1 S (H 2 ) 130.6 JK 1 mol 1 3 1 ΔS S (NH3 ) S (N 2 ) S (H 2 ) 2 2 1 3 192.3 ( 192.1 130.6) JK 1 2 2 99.7 JK 1 1気圧,298Kでの以下の反応を考える AB 16 エントロピーの絶対量と熱力学第三法則 S S0K となる. 13 12 • 熱力学第三法則でエントロピーのゼロ点を定 めることができるので,各状態での絶対エント ロピー(S)が計算できる. • 熱力学第三法則 • 絶対零度での完全結晶のエントロピー はゼロである. エントロピーの絶対量と熱力学第三法則 k B ln 2 N k B ln 1 Nk B ln 2 nR ln 2 エントロピーの絶対量と熱力学第三法則 (可逆条件下) N! N N e N N N eN 2N N N N 2 N 2 N 2 N [ !] N 2 e 2 e 2 2 S S initial S final k B ln W final k B ln Winitial N! N [ !] 2 2 10 つまりエントロピーとは dS N! W final N C N V2 2 V1 なので S nR ln 2 W final 17 18 変化の方向を決める要素 物理化学入門 第12回 以前の講義でエントロピーの性質について学んだ 1. エンタルピー(H) • • H<0の方向に進行しやすい ただし,絶対ではない S(孤立系) ≥ 0 2. エントロピー(S) • • 孤立系では必ずS≥0 (熱力学第二法則) 地球全体のエントロピーを考えないといけない エントロピー増大の法則 • 系だけの性質に基づいた基準があると便利 – 自由エネルギー(今日のテーマ) 1 閉鎖系 孤立系 (isolated system) (closed system) 物質 物質 2 孤立系の指標から閉鎖系の指標へ 等温で熱平衡にある系を考える H(閉鎖系) - TS(閉鎖系) ≤ 0 孤立系 ギブズ自由エネルギー変化 dS(孤立系) = dS(閉鎖系) + dS(外部) ≥ 0 = dS(閉鎖系) + dq(外部)/T ≥ 0 閉鎖系 外部 G = H – TS = dS(閉鎖系) - dq(閉鎖系)/T ≥ 0 系 系 = dS(閉鎖系) - dH(閉鎖系)/T ≥ 0 (等圧過程) dH(閉鎖系) - TdS(閉鎖系) ≤ 0 エネルギー エネルギー では、もう一度水素の燃焼反応を見てみる H2 + ½ O2 H2O H(閉鎖系) - TS(閉鎖系) ≤ 0 (等温等圧) 黒鉛もダイアモンドも炭素の単体 では、黒鉛をほうっておいたらダイアモンドになるだろうか? = G = H – TS -241.8 – 298 x (-44.5 x 10-3) = -228.5 (kJ mol-1 ) = ギブズの自由エネルギーと変化の方向 • 定温定圧変化において, H = H298K(H2O) - H298K(H2) - ½ H298K(O2) -241.8 – 0 – 0/2 = -241.8 (kJ mol-1) G ≤ 0 (等温等圧) 自発的過程 G = 2.9 kJmol-1 予想通りダイアモンドにはならない (15000気圧以上ではGが負になる ;人工ダイアモンド) G 0 G 0 G 0 反応が進行 平衡状態 反応は進行しない 9 GとH,S,Tの関係 標準ギブズ自由エネルギー変化 H 2 O(liquid) H 2 O(gas) ΔH 41 kJ mol -1 , ΔS 0.11 kJ mol -1 K -1 標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 • 標準ギブズ自由エネルギー変化(標準状態でのギ ブズ自由エネルギー変化)の算出法 • 標準状態(25℃,1気圧)にある,1モルの物質が, 標準状態にある単体から生成する場合のギブズ 自由エネルギーの変化量 1. 標準エンタルピー,標準エントロピーから算出 G H TS • cf)標準生成エンタルピー – 標準状態(1気圧,25℃)の単体から標準状態の1mol の化合物を生じる生成熱 2. 各成分の標準ギブズ自由エネルギーから算出 G (生成系のG f ) (反応系のG f ) • 100℃以上だとGになるので気化する • 100℃だとG=0なので平衡 • 100℃以下だとG>0になるので液体のまま 10 標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 その1 11 標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 その2 1. 標準エンタルピー,標準エントロピーから算出 2. 標準生成ギブズ自由エネルギーから算出 G (生成系のG f ) (反応系のG f ) G (生成系のG f ) (反応系のG f ) 25℃において,以下の反応の標準自由エネルギー変化G° を求める. -1 ΔH f (kJmol ) 標準生成ギブズ自由エネルギー( Gf°) 標準状態の1molの化合物が,標準状態の単体から生成する 場合のギブズ自由エネルギーの変化量. 各分子のGf°から反応の自由エネルギーを計算できる. 240.0 9.2 33.2 ΔS 2 240.0 1 304.2 175.8 JK 1 25℃において,以下の反応の標準自由エネルギー変化G° を求める. N 2 O 4 (g) 2NO 2 (g) S (JK -1mol 1 ) 304.2 12 標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 その2 2. 標準生成ギブズ自由エネルギーから算出 G H TS H 2 33.2 1 9.2 57.2 kJ C 6 H 12 O 6 (s) 6O 2 6CO 2 (g) 6H 2 O(l) 1 ΔG f (kJmol ) 909 0 - 394 - 237 G 6 (394) 6 (237) 1 (909) 6 0 2877 kJ G H TΔS 57.2 298 175.8 10 3 4.8 kJ 13 14 ギブズ自由エネルギーと正味の最大仕事 自由エネルギーと仕事 正味の最大仕事(Wmax net)とは 自由エネルギーと仕事のまとめ Wmax net • 体積変化による仕事を除いた正味の仕事 • ギブズ自由エネルギーは『体積変化による 仕事を差し引いた,正味の最大仕事』を表す. 15 G H TS • 化学変化に伴う,電気的なエネルギーなど W Wmax net PV 熱力学第一法則と,上式より, Wmax net U Q PV エンタルピー変化により放出されるエネルギーのう ち,エントロピー変化により消費されるエネルギー (束縛エネルギー)を除いた部分が自由エネルギー. エントロピーの定義より, Wmax net U TS PV H TS G 16 ギブズの自由エネルギーは『正味の最大仕事』を表す. 自由エネルギーは仕事として利用できるエネル ギーである. 17 18 可逆反応と化学平衡 • 容器にH2とI2各1molを入れて,500℃に保つ • 次の反応が起こりH2,I2は徐々に減少する • 完全に消失する前に見かけ上反応が停止した状態になり,HIは 1.6molしか出来ない. 物理化学入門 第13回 H 2 I 2 2HI 1 一般の化学反応において, KC c 1.0 0 (mol) 平衡時 0.2 0.2 1.6 (mol) d • 右向きと左向きの反応が同じ速度で起こっ ている. KP [X]:平衡時のXの濃度 c PC PD d a b PA PB • 化学平衡の状態 – 左右の反応が同じ速度で起こり,反応が見か け上停止した状態 H 2 I 2 2HI 2 3 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 • 気体の反応の場合は,モル濃度の代わりに分圧Pを 用いて,圧平衡定数KPを用いる. cC dD [C ] [ D] [ A] a [ B]b 1.0 気体分子の平衡定数 平衡定数 aA bB はじめ 可逆反応と化学平衡 • 結論を先に述べると, G RT ln K P G RT ln K C KP:圧平衡定数 これらの式を導出する 4 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 5 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 ・・・(1) 定義式H U PVより dH dU PdV VdP 熱力学第一法則より dU Q W で, Q TdS,W PdV これを(1)に代入すると, dG VdP SdT となる. 上記の偏微分の式から,温度一定のもとで,状態1(P1)から状態2 (P2)に変化したときのギブズ自由エネルギー変化(G)を考える. dT 0なので, dG VdP P2 P2 P1 P1 G VdP より, G nRT ln P2 P1 状態1を標準状態とすると, P G G G nRT ln P P 1atmなので, 理想気体を仮定すると 定温条件下では, 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 dG VdP 定義式G H TSより dG dH (TdS SdT ) 6 P nRT dP nRT ln 2 P P1 G G nRT ln P dH (TdS PdV ) PdV VdP TdS VdP 7 8 9 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 cC dD aA bB 上式のような,2種以上の物質が混じった化学反応を考える場 合は,各物質について,1molあたりのギブズ自由エネルギー (化学ポテンシャルという)を考えないといけない. 化学ポテンシャル() =1molあたりのギブズ自由エネルギー なぜ化学ポテンシャルが必要か? A A 物理的変化の場合 • 例:気体の体積が変わる,温度が変わる • 組成変化がないので,ギブズ自由エネルギー変化だけ を考えればよい. cC dD aA bB 化学変化の場合 • 各成分の組成が変化するので,一律のギブズエネル ギーを計算できない.各成分について1モル当たりのギ ブズ自由エネルギー(化学ポテンシャル)を考えて,そ れらにモル数(化学量論比)をかけて系のギブズエネ ルギー計算する必要がある. G G nRT ln P RT ln P 10 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 KP RT (c ln PC d ln PD ) (a ln PA b ln PB ) ここで,G (c C d D ) (a A b B ) なので, cC dD aA bB G G (生成系) G (反応系) cC d D a A b B (cC cRT ln PC ) (d D dRT ln PD ) (a A aRT ln PA ) (b B bRT ln PB ) (cC d D ) (a A b B ) RT (c ln PC d ln PD ) (a ln PA b ln PB ) 11 G (c C d D ) (a A b B ) 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 PC PD c d a b PA PB 12 液体の平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 実在溶液では,化学ポテンシャルは以下のように定義される RT ln[C ] [C]:モル濃度 と定義したので, G G RT ln PC PD c d a b PA PB 気体の場合は以下の式(前述) G RT ln K P RT ln P また,平衡状態では,G=0なので, G RT ln PC PD c d a b PA PB 13 液体の平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 cC dD aA bB 理想気体の場合と同様に,上記の反応のギブズ自由エネルギー 変化を考えると, G G (生成系) G (反応系) また,平衡状態では,G=0なので, KC (cC d D ) (a A b B ) RT (c ln[C ] d ln[ D]) (a ln[ A] b ln[ B]) [C ]c [ D]d [ A]a [ B ]b 16 [C ]c [ D] d [ A] a [ B]b と定義したので, 平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係のまとめ G RT ln K P (気体の場合) G RT ln K C (液体の場合) c KP PC PD d a b PA PB KC [C ]c [ D] d [ A] a [ B ]b 反応の標準ギブズ自由エネルギー変化がわ かれば,各温度での平衡定数を算出できる. G RT ln K C 平衡定数は温度の関数 15 ただし, (a A aRT ln[ A]) (b B bRT ln[ B]) G RT ln [C ]c [ D] d G G RT ln [ A] a [ B ]b [C ]c [ D] d G RT ln [ A] a [ B ]b (cC cRT ln[C ]) (d D dRT ln[ D]) 液体の平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係 cC d D a A b B 14 17 18
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