原子を用いた新量子技術創成のための基礎研究

領域別研究部門
研究課題
代表(所属・職位)
自然科学研究部
研究期間
2014.4.1~2016.3.31(2 年)
原子を用いた新量子技術創成のための基礎研究
前田 はるか(理工学部物理・数理学科・教授)
《2014 年度研究計画》
ごく最近、本学理工学部前田研究室では、宇宙空間に匹敵し得る超高真空中に、中性ルビ
ジウム(Rb)原子を絶対零度に近い極低温にレーザーを用いて冷却し、捕獲するための装置(磁気光学トラップ)
の開発 に成功した。本装置を用いた研究は、装置の開発も含めて極めて高度な実験技術が要求され、また、
研究対象とする現象には新規で難解な物理が伴うこと等の理由から、とりわけ私学では幾つかの大学を除いて
殆ど行われていない。しかるに世界を俯瞰すれば、この研究は、そこからいわば量子科学技術とも言うべき新
しい技術の創成と展開に繋がる斬新な研究結果が連日の様に報告されている、最も活気にあふれ競争的な状況
にある物理分野の研究の一つとなっている。実際、1989 年、1997 年、2001 年、及び 2012 年のノーベル物
理学賞はこの類の研究或いはその周辺研究の成果に対して与えられている事が状況を象徴的に物語っている。
この様な背景の下に、本研究は総研プロジェクトとして、青学理工学部(理工学研究科、以下略)発の次世
代量子科学技術創成の芽となる 新しい物理現象の観測・発見を目的として行う。ここでいう次世代量子科学
技術とは個々の原子をデバイスとして利用するための技術、即ちアトムトロニクスなどとも呼ばれる新技術を
指し、これは現代のテクノロジーの中心である半導体・エレクトロニクス技術を補完する、あるいはそれに代
替する、量子力学の法則が支配する新世代の技術である。
[研究背景と目的]
本プロジェクト研究により期待される新しい物理現象の観測結果を、論文や学会などを通
して世界へ発信することは、本学理工学部の研究水準を世界に誇ることに貢献する。世界水準の研究を行い発
表することは大学自然科学系学部・研究科が世界的に評価される上で重要な因子の一つであり、本学のグロー
バル化推進に対する貢献に直結する。
[本学への貢献度]
[共同研究計画及び方法] 本プロジェクトでは社会的必要性が見込まれ早い時期に結果が求められる 2 課題:
(1) 低温原子を用いた量子情報処理技術の創成、(2) 低温励起原子を用いた極微弱赤外線の検出及び原子超放
射を利用したコヒーレント赤外線生成技術の創出、に的を絞り、これらに関する幾つかの原理実験を遂行する。
初年度:課題 (1) は主に、本質的に外界からの擾乱に対して極めて脆弱である量子情報を長時間に渡り低温
Rb 原子波束に記録できることを実証するために行う。初年度は研究代表者が研究室に既存の予備実験装置を
用いて高温 Rb を用いる予備的実験を行う。実験はマイクロ波の適用が鍵を握る。特別な条件下でマイクロ波
を Rb に照射することで Rb に生成される波束の検出及びその分光までを行う。予算の一部はマイクロ波発生
システムの構築・拡充にあてる。共同研究者が平行して行う実験では、まず課題 (1) に関し、極低温原子を
用いた量子演算の原理実験を行うために要求されるレーザーシステムの開発を行う。ここで必要となる幾つか
の光学備品の購入を予定する。また課題 (2) の実験では極低温原子を高エネルギー状態へレーザー励起し分
光測定を試みる。様々な条件下で得られる分光スペクトルを解析することにより、低温励起原子と(赤外領域
に波長をもつ)黒体輻射との相互作用や低温励起原子同士の相互作用に関する新知見の獲得を目指す。分光ス
ペクトル解析には学外研究分担者の協力を得て行う。必要な消耗品等を本予算を用いて購入する。
次年度:課題 (1) に関して、研究代表者は引き続き予備実験装置を用い、初年度に得られた高温 Rb 波束中に
量子ビットを生成し、Rb 原子に量子情報の記録することの可能性を検証する。同時に共同実験者と協力して、
磁気光学トラップに捕獲された極低温 Rb 原子に、初年度に開発したレーザーを用いて波束を励起することを
試みる。時間が許せば、更に量子ビットの生成・量子情報の記録実験を行う。課題 (2) に関しては、低温励
起原子に超放射現象を誘起し赤外光の検出を試みる。特に社会的ニーズが予想される、低温励起原子の波長可
変テラヘルツ光源としての可能性を追求する。前年と同様、様々な局面で分光スペクトルの解析が求められ、
学外共同研究者の協力を得る。実験に必要な消耗品を購入予定である。
研究成果は日本物理学会、及び米国物理学会などで発表することを念頭におく。また、米
国物理学会誌をはじめとする査読付き欧文雑誌に成果を投稿することを予定する。また本研究室のホームペー
ジでの公表も行う。
[成果発表の展望]
本プロジェクトで研究の対象とする物質は超高真空中に孤立して存在する極低温原
子であるが、この原子は条件次第で簡単に互いに結合しあい、自然界には存在し得ない特異な分子を形成する。
これ自体が興味深い研究対象の一つであると同時に、しかし基本的には孤立原子であり続けることを要求する
[学外研究分担者の理由]
実験を行う場合は、むしろ、原子の分子形成が行われない条件を把握する必要が生じる。この分子形成現象は
分光スペクトルを測定し解析することで検出可能であり、この目的から、本プロジェクトではレーザー分光の
スペシャリストであり、特に分子分光に関する造詣が深いことで知られている学外分担者の参与を決断した。
《研究分担者》
代表
前田 はるか
研究分担者・兼担
高峰 愛子
研究分担者・客員研究員
水谷 由宏