有限要素法を用いた RC 耐震壁の解析に関する研究

工学院大学建築系学科卒業論文梗概集
小野里研究室 2013 年度
有限要素法を用いた RC 耐震壁の解析に関する研究
D1-10229 松井
秀憲
図 4 より、要素を直 方体とし たもの より三角 柱に分割
1.はじめに
現在解析 において 、引張鉄 筋の降 伏によっ て決まる 構
した方が精 度が良く 、最大荷 重につ いては解 析値の 80
造物に関し ては精度 よく捉え られる ものの、 せん断力 に
∼90%ほどを捉 えていた 。
よって急な コンクリ ートの破 壊が起 こるせん 断破壊に 関
しかし、す べての解 析結果に おいて 最大荷重 時の変形 角
しては解析 が難しく 、特に最 大強度 後の挙動 をとらえ る
は 50%ほどになっ ており、変 形角の 精度向上 が課題と し
のが難しい とされて いる。
て挙げられ ていた。
また近年、 解析手法 として有 限要素 法が広く 普及し、 手
軽に構造物 の解析を 行えるよ うにな ったが、 有限要素 法
の解析精度 は構造物 をどのよ うにモ デル化す るかとい う
事に大きく 関係して おり、多 くの場 合におい てモデル 化
における各 条件の設 定は解析 者の判 断による 。
そこで本研 究では、 昨年度か らの引 き継ぎと して、様 々
な解析手法 を用いて せん断破 壊する 耐震壁の 挙動を精 度
よくとらえ るべく解 析を行っ た。
2.解析対象の 実験概要
本研究を 行うにあ たり、解 析対象 は昨年度 の「応用 要
素法を用いた RC
a)CF200 壁筋比 0.47%
b)CF400 壁筋比 0.24%
図 1 柱付き耐 震壁の 形状
耐震壁 の解析精 度に関す る研究 」 2) か
らの引き続 きで、2006 年度の「鉄筋 コンクリ ート造耐 震
壁の壁筋の 定着に関 する実験 的研究 」 3) で行わ れた試験
体を用いた 。
この実験 では、柱あり、柱 なしの 耐震壁 2 種類につ い
てそれぞれ 壁筋比を 変えて 計 4 体の 試験体を 作成して い
る。
図 1、図 2 に耐震壁の形状 を示す。
加力方法は図 3 に示 すように 対角加 力で、壁 の中央高
さに反曲点 が位置す る逆対象 モーメ ントとな るように 計
画されてお り、この ときのア スペク ト比は 0.778 となっ
a)BF150 壁筋比 0.59%
b)BF300 壁筋比 0.3%
図 2 柱なし耐 震壁の 形状
ている。
加力サイク ルは片押 しの変位 増分繰 り返し加 力で、試
験機の変位を 1mm から 0.5mm ずつ荷重-変形関係 が平
アムスラー型万能試験機
滑域に達す るまで上 げている 。平滑 域に達し た所から は
1mm ずつ上げてい る。
3.昨年度行わ れた解析
ここで 2012 年に梅田 により行 われた「 応用要 素法を
用いた RC 耐震壁の解析 精度に関 する研究 」 2 ) から、解
析に際して 行われた 要素分割 を図 4 に示す。
加力
試験体
50
0
mm
また、要素 分割を直 方体とし たもの と三角柱 としたも の
の
荷重-変形関係 について 解析と実 験値の比 較を 図 5,6 に示
す。
図 3 実験の加 力方法
c) 材料構成則
コンクリ ートの応 力-ひずみ関 係を図 10 に示す。圧 縮
域は Tohrenfeldt のモデ ルを、引 張軟化は 自由に定 義の
できるマル チライナ ーダイア グラム を用いて 初期剛性 の
まま引張強 度に達し た後終局 ひずみ 0.0014 に直線で下
降するよう 設定した 。ひび割 れには 回転ひび 割れモデ ル
を用いた。 また、圧 縮強度、 ヤング 率は材料 試験結果 に
従い、引張 強度は圧 縮強度の 1/10 とした。
鉄筋の応 力-ひずみ関 係を図 11 に示す。鉄 筋の降伏 基
準には von-Mises モデルを用 い、ヤ ング係数 は
a)柱付き耐 震壁 直方体 分割 b)柱付き耐震壁 三角形分 割
図 4 要素分割 の詳細
a)CF200 壁筋比 0.47%
200kN/mm 2 とし降伏点 は材料試 験結果 に従った 。鉄筋
とコンクリ ート間は 完全付着 と仮定 した。
b)CF400 壁筋比 0.24%
図 5 柱あり耐 震壁の 解析値と 実験値の 比較
a)BF150 壁筋比 0.59%
b)BF300 壁筋比 0.3%
図 6 柱なし耐 震壁の 解析値と 実験値の 比較
図 7 要素分割
4.本研究で行 った解析
a) 解析概要
2 章で示した試験 体(CF200,CF400,BF150,BF300)の 4
体について 三次元非 線形有限 要素法 解析を行 い、水平 荷
重-層間変形角 の関係お よび、ひび割 れ線につ いて検討 を
行った。な お、解析 には汎用 有限要 素法プロ グラム
DIANA9.4.3 を用いた 。
b) 解析モデル
図 7 に要素分割の様 子を、図 8 に鉄 筋要素を 示す。コ
ンクリートは 8 接点 ソリッド 要素を 用い、表 面を一辺
100mm で分割した 。鉄筋は 全て埋 め込み鉄 筋要素で モ
デル化した 。厚さ方 向は壁厚 に依存 している 。
図 9 に境界条件を 示す。加 力は実 験に習い 対角加力 と
し、梁端部 の斜面に 対して垂 直方向 に変移制 御で行い 、
単調増加で 載荷した 。載荷面 の両側 2 点をピ ンローラ ー
支持、載荷 面と対角 の梁端部 の斜面 は両側 2 点をピン 支
持とした。
図 8 鉄筋要素
図 12 柱あり壁筋比 0.47%(BF150)
図 9 境界条件
図 13 柱あり壁筋比 0.24%(BF300)
図 10 コンクリー トの応力-ひ ずみ関係
図 11 鉄筋の応力-ひずみ 関係
図 14 柱なし壁筋比 0.59%(CF200)
d) 解析結果
解析結果 から得ら れた水平 荷重-層間変 形角の 関係、昨
年度の解析 結果、実 験値の比 較を図 12 から 15、表 1 に
示す。
弾性域の 剛性は一 致したも のの、 塑性化す る強度、 最
大荷重時の 層間変形 角は追え ていな かった。 また、平 滑
域に至った 後の強度 は近い値 を取っ ていた。 柱あり、 柱
なしのそれ ぞれにお いて壁筋 比が変 わっても 実験で観 測
されたよう な最大強 度の変化 が見ら れなかっ た。
図 15 柱なし壁筋比 0.3%(CF400)
表 1 実験値の 解析値 の比較
柱ありタイプ
CF200 CF400
昨年度の解析
結果(kN)
本年度の解析
結果(kN)
実験値(kN)
柱なしタイプ
BF150 BF300
1473
1329
1262
996
1585
1561
908
885
1334
1060
1019
891
図 18 BF150 壁筋比 0.59% ひび割れ線比 較
続いて解析 により求 まったひ び割れ 線と、実 験で観測 さ
れたひび割 れ線の比 較を図 16 から 19 に示す。
実験のひび 割れは加 力終了後 のもの を、解析 のひび割
れ線は最大 荷重後数 ステップ 後のひ び割れ線 を表示し て
いる。
この比較 より、実 験で観測 された ひび割れ 線の範囲 と
解析により 求まった ひび割れ 線の範 囲がおお むね一致 し
ていること が分かる 。
図 19 BF300 壁筋比 0.3% ひび割れ 線比較
5.考察
昨年度の解析 結果を改 善するた め、解析手法 を変えて 解
析を行った が、荷重-変形関係 につい ては結果 を改善す る
にいたらな かった。 ひび割れ 線が実 験値を追 えている 所
を見るに、 応力伝達 機構は正 しく解 析できて いると考 え
られるので 、解析精 度を高め るため には材料 構成則の 詳
細な設定が 必要だと 思われる 。
本研究に おいて考 慮されて いない 項目とし ては破壊 エ
図 16 CF200 壁筋比 0.47% ひび割れ線 比較
ネルギーに 基づいた 応力-ひずみ 関係 、せん断 ひび割れ 発
生による圧 縮強度の 低減、鉄 筋とコ ンクリー ト間の付 着
すべりなど が挙げら れる。
また、本解 析では鉄 筋はすべ て埋め 込み鉄筋 要素でモ デ
ル化されて いるので 、主筋を バー要 素でモデ ル化しせ ん
断補強筋は 埋め込み 鉄筋要素 とする 方法も考 えられる 。
参考文献
1) 兼平 雄吉,小野里憲 一.「極限解 析マクロ モデル によ
る単独耐震 壁の最大 強度の解 析精度」 日 本建築学 会
構造系論文 集 第 78 巻 第 689 号 P.1289-1205
2013.7
2)
梅田 崇弘.「応用要 素法(AEM)を用いた RC 耐震壁
の解析精度 に関する 研究」2012 年度工学 院大学建 築
系学科卒業 論文梗概 集 P.385-389,2013.3
3)
浅見 祐一,吉田 岳大.「鉄 筋コン クリート 造耐震壁 の
壁筋の定着 に関する 実験的研 究」2006 年度工学院 大
学建築系学 科卒業論 文梗概集
図 17 CF400 壁筋比 0.24% ひび割れ線比 較