二元系ナノ粒子触媒のXAFS解析 - SPring

産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
二元系ナノ粒子触媒のXAFS解析
KEK-PF 仁谷浩明
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
自己紹介
仁谷 浩明 (にたに ひろあき)
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 助教
放射光科学研究施設(PhotonFactory)の
硬X線XAFS:9A, 9C, 12C, 15A1, NW2A, NW10A担当
これまでに測定したもの
ナノ粒子材料(AuPd)、燃料電池用電極(PtRu)、希土類磁性材料、
高レベル放射性廃棄物処理、リチウムイオン電池電極(LiCoNiOx)、などなど
http://pfxafs.kek.jp
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
近年のXAFS動向
“Synchrotron radiation is now just part of the everyday
tool kit of many scientists, and is no longer just the frontier
research tool for the few”(Nature 387, 539(1997))
PFでは様々な分野で放射光XAFSの実験が行われている
硬X線XAFSだけで約200の有効課題数(G型:2年間有効)
XAFSビームラインの利用率はほぼ100%
分野別トップ3は地球惑星、触媒、エネルギー
NW10Aで触媒が多いのはRh、Pd、Ru、Agが測定可能なため
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
本日の内容
テーマ:二元系ナノ粒子のXAFS解析
実習1:AuPdナノ粒子の構造解析
Au L3端EXAFS
実習2:PtRuナノ粒子の構造解析
Pt L3端EXAFS、Ru K端EXAFS
共に触媒として利用可能な材料
XAFS解析結果を新たな材料開発にどう結びつけるか
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
材料開発と構造解析
工学的な考え方・・・構造解析による効率的な材料開発
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
材料開発と構造解析
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
材料開発と構造解析
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
ナノ粒子とXAFS解析
XAFSから何が分かるのか?
×形状
△粒子径(超微細粒子のみ)
○結晶構造
○粒子構造
△表面状態(表面の情報のみ得られるとき)
×凝集状態
×担体
△組成(均一な粒子のみ)
他の手法と組み合わせて解析を行うことが必須!
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XAFS測定の注意事項
ビームラインは適切か?
測定元素と手法によってビームライン(施設)を使い分けな
いと非効率的
測定手法は適切か?
基本は透過法
蛍光法はなんでも測定できるわけではないし、検出器によっ
ては補正が必要
EXAFS解析をまじめにやるのなら冷やして測定
測定パラメータは適切か?
XANES解析しかしない場合でもEXAFS領域までとっておか
ないと規格化の時に困る
測定元素と見たい構造によって吸収端から何eV必要かは変
わってくる
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
コアシェル構造二元系ナノ粒子の開発
二元系ナノ粒子の合成
• 超音波によるナノ粒子の合成(AuPd)
• アルコール還元法によるナノ粒子の合成(PtRu)
ランダム合金構造
コアシェル構造
単独粒子構造
クラスター結合構造
合成したナノ粒子の特性と構造の評価
• 触媒活性の評価
• 原子レベルでの粒子の内部構造の解析
材料設計へのフィードバック
• ナノ粒子の内部構造と触媒活性の相関の評価
• 高活性触媒合成の方向性の決定
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
AuPd二元系ナノ粒子の開発と構造解析
超音波によるAuPd二元系ナノ粒子の合成
粒子の内部構造の解析
(XAFS, XRD, TEM, ICP, UV-vis)
100℃~400℃での熱処理
触媒活性の変化の評価
触媒活性の評価
(シクロヘキセンの水素化反応)
ナノ粒子の内部構造と
触媒活性の相関の評価
Au Pd
AuPdコアシェル構造
→ 触媒活性の促進
粒子の内部構造の変化の解析
熱処理によるナノ粒子の内部構造と
触媒活性の変化の評価
高活性
Au Pd
熱処理
AuPd 低活性
合金
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
AuPd二元系ナノ粒子の合成
超音波によるナノ粒子合成プロセス
• 超音波によって生じるキャビテーション反応場で金属イオンを還元
• 合成装置、手順が簡便
• 金属イオンの還元から担体への担持までone-podで行うことができる
AuPd複合ナノ粒子合成手順
出発溶液
HAuCl4水溶液
Na2PdCl4水溶液
Au:Pd = 1:1
(原子比)
g-Fe2O3微粒子(平均粒径29 nm)
混合溶液
Arガス
PEG-MS(分散剤)
20℃
2-プロパノール(還元補助剤)
超音波照射 200 kHz, 200W, 20℃, 1h
磁気分離により液相から回収,乾燥
Au/Pd二元系ナノ粒子
超音波振動子
恒温槽
図. 合成装置概略図
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
TEM観察結果
30
20 nm
Average
8.3 nm
貴金属
ナノ粒子
Frequency [%]
25
20
15
10
5
坦体:g-Fe2O3粒子
図. g-Fe2O3上に担持されたAuPd二元系ナノ粒子
0
2
4
6
8 10 12
Particle size [nm]
14
16
図. 貴金属ナノ粒子の粒度分布
平均粒径 8.3 nm の貴金属ナノ粒子が坦体上に分散して存在
考えられるナノ粒子の内部構造モデル
内部構造を区別
することは出来ない
ランダム合金構造 コアシェル構造 単独粒子構造
クラスター結合構造
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XAFS測定
XAFS測定条件
Au-L edge
Photon Factory BL-12C
Au LIII端(11913 eV)
透過法、室温
EXAFS領域
μt
μt
モノクロメータ : Si(111)面
III
放射光
XANES領域
11600
試料保持位置
電離箱
図. 透過法によるX線吸収スペクトルの測定
12000
12400
12800
Photon energy
[eV]
12000
12400
12800
Photon energy [eV]
図. 測定で得られた試料のX線吸収スペクトル
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XANES解析結果
Absorption coefficient [arb. unit]
標準試料とのスペクトル比較で価数を同定
g-Fe2O3担持Au/Pd
Auフォイル (0価)
Au2O3 (+3価)
11880 11900 11920 11940 11960 11980
Energy [eV]
図. 合成した試料と標準試料のXANESスペクトル
合成した試料のXANESスペクトルはAuフォイル(0価)のものと一致
試料中のAuはメタル(0価)で存在
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
12000
12500
Energy [eV]
|FT|
k3χ(k)
Absorption coefficient [arb. unit]
EXAFS解析(1)
0
X線吸収スペクトル
40
80
120
-1
k (nm )
EXAFS振動
160
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
r [nm]
動径構造関数
• 測定で得られた吸収スペクトルからバックグラウンドを除去
• 横軸をX線エネルギーEから光電子の波数kへ変換
k
2me
( E  E0 )
• 抽出したEXAFS振動をフーリエ変換して動径構造関数(RSF)を得る
FT  
k max
k min
k n  (k ) w(k ) 2ikr i ( k )
e
dk
F (k )
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
EXAFS解析(2)
Experimental
Calculated
干渉波
X線
|FT|
(k)k3
Fitting range
0 20 40 60 80 100 120 140 160
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
r [nm]
k [nm-1]
動径構造関数
逆フーリエ変換 第一配位圏のEXAFS振動
X線吸収原子
散乱原子
EXAFS
→ RDFの逆フーリエ変換で最近接のAu-Au、Au-Pd結合の情報を得る
• 抽出したEXAFS振動をEXAFS公式を用いたフィッティングにより解析
 (k )  
j
SjNj
kR 2j
F j ( k )e
2s 2j k 2 2 R j /  j ( k )
e
sin(2kR j  ij (k ))
最適化パラメータ : 結合距離rと配位数N (Au-Au, Au-Pd結合それぞれ),
エネルギー端の補正値DE0, デバイワラー因子s2
※その他のパラメータはFEFF7による計算結果を使用
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
EXAFS解析(3)
表. EXAFS解析により決定した構造パラメータ
Au-Au結合
rAu-Au [nm]
NAu-Au
Au-Pd結合
rAu-Pd [nm]
NAu-Pd
0.287±0.001 10.2±2.6 0.281±0.004
1.4±0.7
DE 0
s2
[eV]
[nm2]
2.77
R-factor
8.9×10-5 0.0396
※Auバルク = 0.288 nm
10.2個
Au
0.287 nm
Au
0.281 nm
Pd
1.4個
• Auに配位しているAuとPdの割合 Au/Pd = 10.2/1.4 = 7.3
元素分析(ICP)結果 Au/Pd = 1.1
AuとPdが均等に混ざり合っていれば両者は一致するはず
• Au-Au間距離はバルクのAuとほぼ一致
• Au-Au間距離とAu-Pd間距離に差がある
AuとPdはランダム合金化していない
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
g-Fe2O3担持Au/Pd二元系ナノ粒子
g-Fe O 担持Au/Pd二元系ナノ粒子
g-Fe O 微粒子
g-Fe O 担持Auナノ粒子
Absorbance [arb. unit]
2
3
Au(311)
Au(222)
Au(200)
Au(111)
2
Au(220)
Intensity [arb. unit]
XRD、紫外可視吸光度測定結果
2
3
3
Auの表面プラズモン吸収
AuPd二元系ナノ粒子
30
45
60
75
2[degree]
図. 試料のX線回折パターン
90
• fcc構造のAuのピークが存在
400
500
600
Wave length [nm]
図. 合成した試料の吸光度スペクトル
Auナノ粒子:表面プラズモン吸収有
• Pdのピークは観測されない
• ICP測定ではPdの存在を確認
Au : Pd : Fe = 3.3 : 2.9 : 93.8 (Atomic ratio)
PdはAuに比べて小さい・薄い
Au/Pdナノ粒子:表面プラズモン吸収無
Auの表面は露出していない
700
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
AuPdナノ粒子の構造
EXAFS解析
AuとPdは粒子内で均一に存在していない
ランダム合金構造
AuとPdはランダム合金化していない
コアシェル構造
XRD解析
PdはAuに比べて小さい・薄い
単独粒子構造
UV-vis吸光度分析
Auの表面は露出していない
Au
Pd
コアシェルモデル
作成したAuPd二元系ナノ粒子は
コアシェル型構造を持っている可能性が高い
クラスター結合構造
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
コアシェルモデルの検証
粒径8.3 nmのコアシェル構造のAu/Pd二元系ナノ粒子を考える
Au Pd
8.3 nm
Au:Pd = 1:1で構成されているとすると
• Auコアの直径 : 6.6 nm
• Pdシェルの厚さ : 0.86 nm
実験データとの比較
• Pd層が非常に薄いためXRD測定時の回折ピーク強度が弱くなる
• AuはPd層によって覆われているため
吸光度測定においてプラズモンピークが観測されない
• 粒径6.6 nmのAu粒子における平均配位数 = 11.2
EXAFS解析で得られた NAu-Au = 10.2±2.6 の範囲内
コアシェル型モデルは実験結果と矛盾がない
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
AuPd二元系コアシェル型ナノ粒子の触媒活性
触媒活性の測定方法
真空計
• シクロヘキセンの水素化反応実験
Valve
H2 gas
C6H10 + H2 + Pd → C6H12 + Pd
試料
シクロヘキセン
1-プロパノール
• 水素化によって消費されたH2分圧を測定
0.0
m: 触媒濃度
1 P  PH2 (t ) P :初期H 分圧
kt   ln
0
2
m
P0  P
P :最終H2分圧
Pd単体のナノ粒子と比べて2.4倍の活性
粒子の内部構造がコアシェル構造
となることで多くのPdが表面に露出し
Pd原子あたりの触媒活性が向上
Kt per Pd atom [mol-1]
Pd原子1個あたりの反応係数を算出
0.5
The present sample (AuPd)
Pd nanoparticle
1.0
0
10
20
30
40
50
Reaction time [min]
60
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
熱処理による触媒活性の変化
シリカ担持Au/Pd二元系ナノ粒子をそれぞれ違う温度で熱処理(H2気流中)
ポーラスシリカ
Kt per Pd atom [mol-1]
0.0
AuPdコアシェル粒子
400℃
0.1
• 超音波照射 200 kHz, 200W, 20℃, 1h
• テトラエトキシシランを添加
• pH 10, 75℃で2時間還流
0.2
熱処理なし
0.3
0.4
•400℃で熱処理すると
顕著に触媒活性が低下
400℃
熱処理なし
高活性
0
10
20
30
40
Reaction time [min]
50
60
構造解析から失活の原因を探る
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
TEM観察
熱処理なし
400℃
TEM観察では顕著な粒径変化は見られない
AuPdナノ粒子がシリカマトリクス中によく分散しているため
粒子同士の凝集が起こらなかった
熱処理による触媒活性の失活の原因は粒子の内部構造の変化にある
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XANES解析
XANES 11:20:34 2003/02/17
Au-LIII端およびPd-K端におけるXANES測定結果
III
edge
Pd K edge
μt
μt
Au L
400℃
300℃
200℃
100℃
熱処理なし
Au(metal)
Au O
2
11900
11910
11920
11930
Photon energy [eV]
3
11940
Au LIII端XANESスペクトル
400℃
300℃
200℃
100℃
熱処理なし
Pd(metal)
PdO
11950
24340
24360
24380 24400 24420
Photon energy [eV]
24440
Pd K端XANESスペクトル
Au : すべての試料において金属の状態で存在(変化なし)
Pd : 高温で熱処理したものはほぼ金属の状態で存在
熱処理前・低温で熱処理したものは酸化物のように応答するものが存在
粒子表面で酸化していたPdが還元された
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
EXAFS解析結果(1)
Au原子近傍のAuおよびPdシェルの原子間距離、配位数を決定
表 フィッティングによって得られたパラメータ
RAu-Au (nm)
RAu-Pd (nm)
NAu-Au
NAu-Pd
熱処理なし
0.285
0.280
9.38+0.58
1.17+0.17
100℃
0.285
0.281
8.68+0.93
1.44+0.23
200℃
0.284
0.280
7.69+0.40
2.41+0.16
300℃
0.283
0.280
6.18+0.51
3.54+0.28
400℃
0.283
0.280
6.01+0.48
3.91+0.31
0.286
R : Distance [nm]
0.285
原子間距離 R
RAu-Au
0.284
• Au-Au間距離が徐々に減少
0.283
Auコアの格子定数が減少
0.282
0.281
Auよりも原子半径の小さいPdが
粒子表面から内部に移動?
RAu-Pd
0.280
0.279
0
100
200
300
熱処理無し
o
Treated temperature [ C]
400
Pd層
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
EXAFS解析結果(2)
Au原子近傍のAuおよびPd原子との原子間距離、配位数を決定
表 得られた構造パラメータ
RAu-Au (nm)
RAu-Pd (nm)
NAu-Au
NAu-Pd
0.285
0.280
9.38+0.58
1.17+0.17
100℃
0.285
0.281
8.68+0.93
1.44+0.23
200℃
0.284
0.280
7.69+0.40
2.41+0.16
300℃
0.283
0.280
6.18+0.51
3.54+0.28
400℃
0.283
0.280
6.01+0.48
3.91+0.31
熱処理なし
配位数 N
• 熱処理温度の上昇とともに
Au-Auは減少、Au-Pdは増加
→ 原子の偏在が緩和
• 400℃の配位数比はAu/Pd = 1.5+0.24
→ 元素分析(Au/Pd = 1.3)と一致
コアシェル型からランダム合金構造に変化した
N : Coodination number
10.0
NAu→Au
8.0
6.0
4.0
2.0
NAu→Pd
0.0
0
100
200
300
o
Treated temperature [ C]
400
XRD測定結果
Au(111)
Pd(111)
400oC
400oC
Intensity
300oC
300oC
Intensity
11-400
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
200oC
100oC
200oC
熱処理前
35
100oC
36
37 38 39 40
2θ [degree]
41
42
Au(111)付近の拡大図
メインピークの位置が熱処理によって高
角度側へシフトしている
熱処理前
20
30
40
50 60 70
2θ [degree]
各試料のXRD測定結果
80
90
熱処理によりAuとPdは合金化している
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
AuPd二元系ナノ粒子構造解析のまとめ
AuPd二元系ナノ粒子触媒を合成し、
XAFS法を用いた構造解析結果から、
粒子の内部構造と触媒活性との関係の評価を試みた
 超音波による合成法で作成したAuPd二元系ナノ粒子は
コアシェル型の内部構造を持ち、単体のPdよりも触媒活性が向上する
Au Pd
 300℃以上での熱処理によりコアシェル型構造はランダム合金構造へと変化
し、表面のPdサイトが減少することにより触媒活性は失活する
Au Pd
高温熱処理
AuPd
合金
ナノ粒子表面により多くのPdが露出している粒子構造が有効
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PtRu二元系ナノ粒子の開発
アルコール還元法によるPtRu二元系ナノ粒子の合成
触媒活性の評価
(メタノールの酸化反応)
粒子の内部構造の解析
(XAFS, XRD, TEM, XRF)
ナノ粒子の内部構造と
触媒活性の相関の評価
Au Pd
Pt Ru
•コアシェル型ナノ粒子触媒
•組成:AuPd → PtRu
•活性サイト:Pd → Pt
•粒径:10 nm → 2 nm
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PtRu二元系ナノ粒子の合成と触媒活性
•アルコール還元法による試料作成
Pt源: Pt(acac)2
Ru源: Ru(acac)3
坦体: カーボンナノ粒子(Vulcan XC72R)
P源:ホスフィン酸ナトリウム(NaPH2O2)
試
料
投入モル比
(Pt : Ru : P )
還流時間
(hours)
A
1.0 : 1.0 : 0.0
4
B
1.0 : 1.0 : 0.2
4
C
1.0 : 1.0 : 1.0
4
D
1.2 : 0.8 : 1.0
4
E
1.2 : 0.8 : 1.0
1.5
エチレングリコール中、200℃、窒素雰囲気で還流還元
Lnear Sweep Voltanmetry
メタノール酸化活性を評価
N2 gas
Potentiostat
Range: 0-0.4 V
50
Anode current [mA]
• 触媒活性測定
Sample E
Sample D
Sample C
Sample B
Sample A
市販品
40
30
20
10
A→E
約6倍
0
0
(15 vol.%
298 K メタノール水溶液)
0.1
0.2
0.3
Potential [V vs Ag/AgCl]
活性: A < B < C < D < E
0.4
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
TEM観察結果
活性: A < B < C < D < E
平均粒径 4 nm
粒度分布 2-10 nm
(B)
(C)
(A)
10 nm
(D)
10 nm
(E)
10 nm
平均粒径 2 nm
狭い粒度分布
10 nm
各試料のTEM写真
• 直径2 nmの均一なナノ粒子の合成に成功
• B-Eの粒径に差異は見られない
10 nm
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XRD分析結果
Intensity [arb. unit]
活性: A < B < C < D < E
A
B
C
D
E
Pt metal
Ru metal
20
30 40 50 60 70 80
Diffraction angle 2 [degree]
各試料のXRDパターン
• A-Eすべての試料において
Pt metalの回折ピークのみ観測
• Ru由来の回折ピークは観測されない
90
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
活性: A < B < C < D < E
Absorption coefficient [arb. unit]
Absorption coefficient [arb. unit]
XANES測定結果
Pt-LIII edge
A
B
C
D
E
Pt metal
K2PtCl4
PtO2
11500 11520 11540 11560 11580 11600
Energy [eV]
Ru-K edge
A
B
C
D
E
Ru metal
RuCl3
RuO2
21950 22000 22050 22100 22150 22200
Energy [eV]
標準試料のスペクトルを線形結合し
試料のスペクトルを再現
各触媒中のPtとRuの
原子価を見積もる
試料
Pt0 : Pt2+ : Pt4+
Pt平均原子価 Ru0 : Ru3+ : Ru4+ Ru平均原子価
A
0.78 : 0.03 : 0.19
1.1
0.63 : 0.04 : 0.33
1.4
B
0.38 : 0.30 : 0.32
0.82
0.35 : 0.02 : 0.63
2.6
C
0.28 : 0.40 : 0.32
1.9
0.20 : 0.07 : 0.73
3.1
D
0.44 : 0.25 : 0.31
2.1
0.19 : 0.06 : 0.75
3.2
E
0.41 : 0.35 : 0.24
1.7
0.21 : 0.07 : 0.72
3.1
Ruの原子価が
Ptより大きい
Ruは表面に存在
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
F.T. magnitude [arb. unit]
Hanning
window
function
0
1
Sample A
Pt-LIII edge
2
3 o
Distance R [A]
4
フーリエ変換で得られた
動径構造関数
5
EXAFS oscillation k3(k) [arb. unit]
EXAFS解析(1)
Sample A
Pt-LIII edge
4
Experimental
Calculated
6
8
10
o -1
Wave vector k [A ]
12
逆フーリエ変換後の(k)k3
とフィッティング結果
EXAFS解析 (使用ソフトウェア : Artemis 0.7.015, FEFF 7.02)
• 動径分布関数の第1~3ピーク の範囲を逆フーリエ変換し
Pt、Ru、Oの3シェルで理論EXAFSフィッティング
• 最適化したパラメータ : 各シェルの結合距離Rと配位数N,
E0補正DE0, デバイワラー因子s2
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
EXAFS解析(2)
表 EXAFSフィッティングにより決定した貴金属間結合パラメータ
試料
Pt-Ru 配位
Pt-Pt配位
Ru-Ru 配位
Ru-Pt配位
R [nm]
N
R [nm]
N
R [nm]
N
R [nm]
N
A
0.274
+0.002
4.3+0.5
0.273
+0.003
1.7+0.2
0.273
+0.003
1.9+0.5
0.268
+0.001
6.7+0.5
B
0.272
+0.002
1.9+0.5
0.272
+0.003
1.2+0.5
0.271
+0.003
2.1+0.5
0.268
+0.002
2.9+0.5
C
0.273
+0.002
2.0+0.5
0.273
+0.004
0.9+0.5
0.273
+0.003
1.7+0.5
0.268
+0.003
1.5+0.5
D
0.273
+0.001
2.6+0.5
0.273
+0.004
0.7+0.5
0.273
+0.003
1.8+0.5
0.268
+0.003
1.0+0.5
E
0.273
+0.002
2.8+0.5
0.273
+0.003
0.9+0.5
0.273
+0.002
2.2+0.5
0.267
+0.003
1.0+0.5
各試料の原子間距離は同じ
粒子内部の結晶構造に大きな違いはない
配位数の違いに注目
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PtRuナノ粒子の内部構造
粒子がランダム合金構造である場合
PtおよびRu周囲のPtとRuの配位数比は組成比に一致するはず
試料A: 組成比 xPt/xRu = 1.5
配位数比
NPt-Pt/NPt-Ru = 2.5
NRu-Pt/NRu-Ru = 0.28
両者が一致しない → PtRuナノ粒子は偏りのある原子配置を持つ
Pt2+/Pt = 1.18 V
Ru3+/Ru = 0.69 V
PtとRuの酸化還元電位
Pt2+
Ru3+
Pt2+
Pt2+
Ru3+
Pt2+
Ru3+
Ru3+
Ru3+
Ru3+
Pt
Pt
Pt
Pt
Ru3+
Ru3+
Ptの方が還元されやすい
Ru
Ru
Pt
Pt
Pt
Pt
Ru Ru
還元反応の時間差によりコアシェル型構造のナノ粒子が生成
Pt
Ru
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PtRuコアシェル型粒子の表面構造
z
直径2 nm、fcc構造のPtナノ粒子モデル
• 球内の原子数249個
粒子内部の原子数143個
表面第1層の原子数106個
• 表面がすべてRuと仮定すると
Pt : Ru = 57 : 43
y
蛍光X線分析による元素分析結果
試料
A
B
C
D
E
Pt (%)
60
60
69
78
79
Ru (%)
40
40
31
22
21
x
1/8粒子構造モデル
活性: A < B < C < D < E
(Atmic ratio)
どの試料もRuの組成比が43%以下
表面のRu層は1層以下
= PtRuナノ粒子表面にはPtとRuがともに露出している
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
ナノ粒子の表面構造と触媒活性
粒子表面のPtとRuの混合状態が触媒活性に影響する
Ru近傍におけるPt-Ru結合の割合を示す指標PRuを導入
N Ru-Pt
PRu 
N Ru-Pt  N Ru-Ru
PRuが大きいほど
PtとRuが隣り合う確率が高い
50
Current at 0.4 V [mA/mg]
EXAFS解析で求めた
貴金属間の配位数を用いて、
E
Ru原子近傍
40
D
30
C
20
10
0
B
A
0
0.2
0.4
0.6
0.8
PRu
• PRuと触媒活性の間には非常に高い相関関係が認められた
Ptと Ruが隣り合って表面に存在する試料ほど触媒活性が大きい
1
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PtRu二元系ナノ粒子構造解析のまとめ
PtRu二元系ナノ粒子触媒を合成し、
XAFS法を用いた構造解析結果から、
粒子の内部構造と触媒活性の関係を評価を試みた
 アルコール還元法で作成したPtRu二元系ナノ粒子では
粒子表面にRuが偏在し、触媒活性はその表面組成に依存する
 粒子表面の構造情報はRu-K端EXAFS解析から選択的に得られ、
Pt-Ru結合の割合から表面組成を推測可能である
 表面組成がランダム合金構造に近いほど触媒活性が向上する
ことから、ナノ粒子においてもバイファンクショナル機構が成立することが示唆
された
ナノ粒子表面がランダム合金構造である粒子が有効
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PF 硬X線XAFSビームライン
測定可能エネルギー範囲:2.1~42 keV
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PF 硬X線XAFSビームライン
・QXAFS(NW2A以外)、DXAFS(NW2A)対応
Q:~10秒、D:~2ミリ秒 or ~100ピコ秒
・19素子Ge-SSD装備(BL9A、12C、NW10A)
デジタルシステムの導入により扱いが簡単になりました
・一次元、二次元検出器によるイメージングXAFS
PDA、CCDによる測定システム
・100試料自動試料交換装置
BL-12Cにこの春導入
・新BL15Aの建設
最小9×16μ mのビームサイズ、1011オーダーの光子束
QXAFS対応で2.1~15keVが利用可能
2014年の春 完成予定 (現在調整中)
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
解析実習手順
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
AuPd複合ナノ粒子の解析
まずはXANES
その後FEFFでEXAFSシミュレート
本番のEXAFS解析
配布データ
AuFoilSP8.dat、Au2O3.dat:標準試料
Au100.dat、 Au200.dat、 Au300.dat、 Au400.dat、 :実試料データ(数
字は熱処理温度)
*.prj:処理済みデータ
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XANES解析
データオープン
読み込みプラグイン“PFBL12C”をONに
読み込みダイアログはデフォルトのままでOK
規格化処理
AuFoil.datをみてみる
Eプロットで範囲を-300~+1500に
Background-off, pre&post edge line-on
E0を11910に
K-weightを3に
Normalization rangeを300~1000に
Pre-edge lineを-250~-70に
Normalizedプロットで問題なければ他のデータにコピー
プロット範囲を-50~+100へ
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XANES
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
XANES(微分)
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
まずは解析対象元素を“知る”
今回はAuPd複合ナノ粒子のAu側の解析
考えられるシェルは?Au-Au、Au-Pd、Au-O
まずはFEFFでシミュレートしてみる
Au(metal)の結晶構造はFm-3m(225)
最近接距離 0.288 nm、配位数 12
AuとPdは区別できるか?
Quick First Shell Theoryで簡易チェック
実データに求められるクオリティ
Kの範囲はどこまで必要か
Kの重み付けはいくつにするか
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
QFS Au-Au、Au-Pd (k-space)
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
QFS Au-Au、Au-Pd (r-space)
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
ではEXAFS解析へ
XANES解析のデータをさらに調整
どこまで有効データとするか
実は配布したデータはk=16~17付近にノイズがある
バックグラウンドがうまく引けないとき
Spline rangeを変更してみる(特にエッジ側)
Spline clampsを変更してみる
k-weightを大きくすると引けなくなるのは高k側のノイズのせい
Athenaでフーリエ変換まで
変換範囲はシリーズのデータでそろえること
今回はk:2.4~15.9, r:1.8~3.3とします
データはAthenaプロジェクト形式で保存
パラメータのコピー機能を有効に使う
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
Athenaでのデータ処理後
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
ArtemisでFEFF計算
Atoms入力パラメータ(金属Au)
S.G.=225, A=4.08, Edge=L3, Au(0, 0, 0)
FEFF入力パラメータ
NLEG=2 (1回散乱)
試しにEXAFS関数を計算
Sum機能を使用する
Amp=0.9, ss=0.008を指定する
実データ(AuFoil)を読み込んで比べてみよう
AuFoilのフィット
パス2以降はフィットから除外
何も考えずにこのままフィット実行
Fitting spaceを変えて実行
Kの重み付けを変えて実行
初期値を変えて実行
Amp=0.8, dE=+4.2, dR=-0.03, ss=0.0081
R空間でずれているように見えるがリップルの影響が大きい
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
本番の解析へ
さらにAtoms入力(金属Au)
S.G.=225, A=4.08, Edge=L3, Pd(0, 0, 0)
FEFF入力パラメータ
NLEG=2 (1回散乱)
Ipot 0のZ=79, element=Au
解析用データに差し替え
パスパラメータの設定
N=1 x S02:nau * amp (or npd * amp_1)
Amp=0.8=amp_1
nauとnpdを作成、初期値をそれぞれ6に
フィット実行
同じ条件でフィットするときはデータファイルを読み込んで差し替え
るだけでよい
データを読み直すとfit k-weightが変わってしまうので適宜修正する
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
Au400のフィット結果
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
Au400をAu-Au2パスでフィットした場合
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
PtRu複合ナノ粒子の解析
同一試料中の
Pt、RuそれぞれからのEXAFS解析
配布データ
Pt.dat:Pt L3端測定データ
Ru.dat:Ru K端測定データ
(注意)エネルギー軸は第一列を使用すること
*.prj:処理済みデータ
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
EXAFS解析のためのデータ処理
Pt
データはk=3~15.5, r=1.1~3を使用
途中にグリッチが乗っているので除去する
Ru
測定時のトラブルでエネルギー軸がおかしいので
エネルギーは第一列を使用する
データはk=1.9~16, r=1~3.1を使用
こちらも途中にグリッチが乗っているので除去する
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
ArtemisでEXAFS解析
QFSで計算
まずはPtデータを読み込む
QFSでPt-O, Pt-Pt, Pt-Ruを作成
Pt-O:0.200 nm, Pt-Pt&Pt-Ru:2.77 nm
データはk=3~15.5, r=1.1~3を使用
途中にグリッチが乗っているので除去する
Ru
測定時のトラブルでエネルギー軸がおかしいので
エネルギーは第一列を使用する
データはk=1.9~16, r=1~3.1を使用
こちらも途中にグリッチが乗っているので除去する
Artemisでは複数エッジの同時フィットができる
たとえばPt-RuとRu-Ptのパスパラメータに束縛条件を設定できる
産業利用に役立つXAFSによる先端材料の局所状態解析2014
複数エッジ同時フィット