課題番号 研究課題名 主任研究者名 分担研究者名 :胸腺微小環境の分子理解に基づく獲得免疫システムの制御 :新田 剛 :鈴木 春巳 :24指112 キーワード 研究成果 :免疫、T 細胞、胸腺、胸腺上皮細胞、マウス : T 細胞は獲得免疫システムの司令塔であり、外来病原体や腫瘍組織を特異的に攻撃することで、生 体防御と生体維持において重要な役割を担う。T 細胞は主として胸腺にて分化し、その分化プロセス は胸腺微小環境を形づくる胸腺上皮細胞によって制御されている。本研究では、胸腺上皮細胞の分化 を制御する分子機構の解明と、胸腺上皮細胞による獲得免疫システム制御の分子基盤を理解すること を目的とし、独自に樹立した T 細胞分化異常を示す自然変異マウス TN (T-lymphopenia of naïve population)を対象として、その表現型と原因遺伝子の解析を行った。 胸腺組織切片の解析から、TN マウスの胸腺には、胸腺皮質上皮細胞マーカーである CD205、Ly51、 keratin 8 などの発現がほとんど検出されないことがわかった。このことは、フローサイトメーターによ る定量的解析によっても裏付けられた。一方、胸腺髄質上皮細胞マーカーである UEA1 や keratin5、 keratin 14 については陽性細胞が検出された。胎仔期および新生仔期の胸腺を調べたところ、野生型マ ウスでは胎齢 16 日目から皮質上皮細胞の分化がみられるのに対し、TN マウスでは全くみられなかっ た。従って、TN マウスでは胸腺皮質上皮細胞の分化が著しく障害されていることが明らかとなった。 TN マウスの胸腺では、CD4+CD8+胸腺細胞の分化はみられるものの、CD4+CD8-および CD4-CD8+ 胸腺細胞の頻度が有意に低下していた。OT-I および OT-II TCR トランスジェニックマウスとの交配に より、TN マウスでは CD4+CD8+胸腺細胞の正の選択が著しく低下することがわかった。また、末梢 T 細胞の TCR Vα鎖および Vβ鎖の頻度が顕著に変化していることから、T 細胞のレパトア選択が影響を 受けていることがわかった。制御性 T 細胞や腸管上皮間リンパ球(IEL)の胸腺内分化はほとんど影響 を受けていなかった。一方、invariant natural killer T(iNKT)細胞の分化は TN マウスにおいて著しく 低下していた。さらに TN マウス胸腺では、成体期に分化する Vγ1+および Vγ4+ γδT 細胞が減少してい た。以上の結果より、TN マウス胸腺では皮質上皮細胞の分化障害によって、T 細胞、iNKT 細胞、γδT 細胞の分化が変容していることが明らかになった。 TN マウスの原因遺伝子を同定するため、連鎖解析によって特定された候補領域中の全塩基配列を、 次世代シークエンサーを用いて解析した。その結果、Psmb11 遺伝子のコーディング領域にアミノ酸置 換をもたらす一塩基置換を発見した。Psmb11 は皮質上皮細胞に特異的に発現されるプロテアソームの 触媒サブユニットをコードしている。Psmb11 欠損マウスの表現型との比較から、TN 変異型 Psmb11 は ドミナントネガティブ体として皮質上皮細胞を障害する可能性が示唆された。そこで Psmb11 を培養細 胞に発現させたところ、野生型 Psmb11 はプロテアソームに組み込まれるのに対し、TN 変異型 Psmb11 はプロテアソーム形成を阻害し、顕著な細胞死を誘導することが明らかになった。同様の現象は TN マ ウスの皮質上皮細胞においてもみられたことから、Psmb11 の変異が皮質上皮細胞の細胞死を引き起こ すことが強く示唆された。さらに、PSMB11 の変異がヒトの疾患と関連する可能性を検討した。現在の ところ、ヒト PSMB11 遺伝子には 40 以上の SNP がデータベースに公開されている。培養細胞を用い た実験から、ヒト PSMB11SNP のうち、G49S 変異体が TN 変異型とよく似たプロテアソーム形成異常 を示すことがわかった。このヒト PSMB11 変異が胸腺皮質上皮細胞および T 細胞の分化に影響するか どうか調べるため、変異マウスの作製を進めている。 Subject No. :24指112 Title :Molecular studies of thymic microenvironments that control T cell development Researchers :Takeshi Nitta, Harumi Suzuki Key word :Immunity, Thymus, T cells, thymic epithelial cell Abstract : The thymus is a primary lymphoid organ specialized to support development of T-lymphocytes (T cells). The thymic microenvironment, which mainly consists of cortical thymic epithelial cells (cTECs) and medullary thymic epithelial cells (mTECs), supports stepwise development and repertoire selection of T cells. To better understand the molecular mechanisms how thymic epithelial cells control T cell development, here we characterized a novel spontaneous mutant mouse strain, designated ‘T-lymphopenia of naïve population (TN)’, which exhibits impaired T cell development due to defect of thymic microenvironment. In the thymus of adult TN mice, cTECs were almost undetectable, while mTECs were less affected. Our results with fetal thymus organ culture showed that TN mice are defective in development of cTECs. TN mice exhibited reduced thymic development of CD4+ and CD8+ αβT cells due to defective positive selection. TN mice also showed defects in thymic development of invariant natural killer T (iNKT) cells and Vγ4+ γδT cells, whereas regulatory T (Treg) cells and intraepithelial lymphocytes (IELs) normally developed in TN mice. These results indicate that cTECs are required for the development of αβT cells, iNKT cells, and Vγ4+ γδT cells. Genome-wide linkage analysis and sequencing of candidate genes in the critical region identified a missense mutation in the Psmb11 gene as being responsible for TN phenotype. Psmb11 encodes β5t, a catalytic subunit of proteasome specifically expressed in cTECs. The mutant β5tTN protein failed to be assembled into proteasome. Forced expression of β5tTN in fibroblast cells inhibited proteasome assembly and induced severe cell death. These results indicate that lethal defect of proteasome assembly caused by β5tTN accounts for specific depletion of cTECs in TN mice. Furthermore, we identified a SNP in human PSMB11 gene that showed a proteasome assembly defect similar to that of β5tTN. Ongoing work is aimed at elucidating whether this SNP of human PSMB11 impairs development of cTECs and T cells and causes any diseases. Researchers には、分担研究者を記載する。 平成24年度 研究報告書 課題番号:24指112 研究課題名:胸腺微小環境の分子理解に基づく獲得免疫システムの制御 主任研究者:新田 剛 研究の背景:胸腺におけるT細胞の分化・選択 胸腺 負の選択 細胞死 CD4 T (ヘルパーT細胞) 正の選択 DN DP CD4SP CD8SP CD8 T しかし 胸腺上皮細胞の分化を制御する 分子メカニズムは不明である (キラーT細胞) 正負選択の制御 胸腺皮質上皮細胞 T細胞自身のシグナル制御機構や 分化系譜は明らかになってきている 胸腺髄質上皮細胞 そこで 研究目的: 胸腺上皮細胞の分化を司る分子メカニズムを理解し 人為的に制御するための基盤技術を確立する 研究の方法と期待される成果 独自に樹立した 自然変異マウス TN 詳細な表現型解析 原因遺伝子の同定 胸腺上皮細胞の分化を制御する 新規分子メカニズムの解明 →T細胞の研究領域を大きくリード ヒトの疾患とリンクする可能性 原因遺伝子の機能解析 (細胞レベル、個体レベル) 胸腺上皮細胞分化を制御 する技術の開発 →原発性免疫不全や自己免疫の 研究領域に新たな展開をもたらす T細胞の分化と抗原認識を人為的 に操作する基盤技術の確立 →免疫疾患に対する再生医療の 可能性 赤字は平成24年度に実施した研究内容 研究成果 詳細な表現型解析 • TNマウス胸腺では、皮質上皮細胞の分化が特異的に障害されていた。 • TNマウス胸腺では、T細胞およびiNKT細胞の分化が低下していた。また、γδT細 胞の分化が変化していた。 • 負の選択、制御性T細胞やIELの分化は正常であった。 原因遺伝子の同定 • TNマウスの原因遺伝子は、Psmb11遺伝子のミスセンス変異であった。 • Psmb11は皮質上皮細胞に特異的に発現するプロテアソームの触媒サブユニット をコードしている。 原因遺伝子の機能解析 • 培養細胞株において、TN変異型Psmb11はプロテアソーム形成を阻害し、細胞死 を引き起こした。 • TNマウス胎仔胸腺では、プロテアソーム形成阻害と細胞死の増加がみられた。 TNマウス胸腺 細胞死 IEL Treg DN DP CD4SP CD8SP Vγ4 γδT iNKT 皮質上皮細胞 髄質上皮細胞 Psmb11変異による プロテアソーム異常 と細胞死 髄質上皮前駆細胞 Psmb11変異による皮質上皮 細胞の分化障害のメカニズム が明らかになった。 皮質上皮細胞がT細胞、iNKT 細胞、γδT細胞の分化を制御 することが明らかになった。 ヒトPSMB11の変異のひとつが TN変異と類似のプロテアソー ム形成不全を示した。 今後の課題 ヒトPSMB11の変異が免疫疾患の原因と なる可能性を検証する必要がある。 課題番号 研究課題名 :24指112 キーワード 研究成果 :免疫、T 細胞、胸腺、胸腺上皮細胞、マウス : :T細胞分化障害を示す新規変異マウスのリンパ球の解析 (主任研究者名 :新田 剛) 分担研究者名 :鈴木 春巳 T 細胞は獲得免疫システムの司令塔であり、外来病原体や腫瘍組織を特異的に攻撃することで、生 体防御と生体維持において重要な役割を担う。T 細胞は主として胸腺にて分化し、その分化プロセス は胸腺微小環境を形づくる胸腺上皮細胞によって制御されている。本分担研究では、胸腺上皮細胞に よる獲得免疫システム制御の分子基盤を理解することを目的とし、独自に樹立した胸腺皮質上皮細胞 の分化異常を示す自然変異マウス TN (T-lymphopenia of naïve population)を対象として、そのリンパ球分 化における表現型解析を行った。 TN マウスの胸腺では、CD4+CD8+胸腺細胞の分化はみられるものの、CD4+CD8-および CD4-CD8+ 胸腺細胞の頻度が有意に低下していた。OT-I および OT-II TCR トランスジェニックマウスとの交配に より、TN マウスでは CD4+CD8+胸腺細胞の正の選択が著しく低下することがわかった。また、末梢 T 細胞の TCR Vα鎖および Vβ鎖の頻度が顕著に変化していることから、T 細胞のレパトア選択が影響を 受けていることがわかった。制御性 T 細胞や腸管上皮間リンパ球(IEL)の胸腺内分化はほとんど影響 を受けていなかった。一方、invariant natural killer T(iNKT)細胞の分化は TN マウスにおいて著しく 低下していた。さらに TN マウス胸腺では、成体期に分化する Vγ1+および Vγ4+ γδT 細胞が減少してい た。以上の結果より、TN マウス胸腺では皮質上皮細胞の分化障害によって、T 細胞、iNKT 細胞、γδT 細胞の分化が変容していることが明らかになった。 研究発表及び特許取得報告について 課題番号: 24指112 研究課題名: 胸腺微小環境の分子理解に基づく獲得免疫システムの制御 主任研究者名: 新田 剛 論文発表 論文タイトル The development of T lymphocytes in fetal thymus organ culture 著者 Nitta, T., Ohigashi, I., Takahama Y. Oda H, Tamehiro Differential requirement for RhoH in development N, Patrich MS, of TCRab CD8aa IELs and other types of T cells. Hayakawa K and Suzuki H. Nakagawa, Y. Ohigashi, I., Nitta, Thymic nurse cells provide microenvironment for T., Sakata, M., secondary TCRα rearrangement in cortical Tanaka, K., thymocytes Murata, S., Kanagawa, O., Eshima K, Chiba Ectopic expression of a T-box transcription factor, S, Suzuki H, eomesodermin, renders CD4(+) Th cells cytotoxic Kokubo K, by activating both perforin- and FasL-pathways. Kobayashi H, Iizuka M, 掲載誌 Methods Mol Biol 掲載号 年 946 2013 Immunol. Lett. 2013 Proc Natl Acad Sci USA 109 2012 Immunol. Lett. 144 2012 学会名 場所 年月 学会発表 タイトル 胸腺皮質微小環境の形成と機能 発表者 新田 剛 Nitta T, Okada T, Distinct protein motifs in Themis regulate positive Oda H, Takashima selection of T cells A, Patrick MS, Suzuki H The novel gene ISC22 is involved in TCR早川国宏, 鈴木 mediated IL-2 production in mature T cells 春巳 ESET(SETDB1) modulates H3K9 methylation of Takikita S, developing thymocytes and is indispensable for T Hayakawa K, cell development Suzuki H Okada T, Patrick Themis regulates cytokine production and MS, Kaji K, differentiation of Th subsets Suzuki H 小田浩代、為広 RhoH regulates TCR expression on thymocytes 紀正、鈴木春巳 TCR-dependent proteasomal degradation od Tamehiro N, Oda RhoH in CD4CD8 double positive thymocytes H, and Suzuki H 新田 剛、岡田 季之、加地健太 T細胞分化におけるThemis分子内ドメインの 郎、小田浩代、 高島明子、 役割 Michael S. Patrick、鈴木春 第10回 Osteoimmunology Forum 東京 2013年3月 第41回 日本免疫学 神戸 会学術集会 2012年12月 第41回 日本免疫学 神戸 会学術集会 2012年12月 第41回 日本免疫学 神戸 会学術集会 2012年12月 第41回 日本免疫学 神戸 会学術集会 2012年12月 第41回 日本免疫学 神戸 会学術集会 第41回 日本免疫学 神戸 会学術集会 第35回日本分子 福岡 生物学会年会 2012年12月 2012年12月 2012年12月 研究発表及び特許取得報告について Nitta T, Okada T, Kaji K, Oda H, Function of distinct domains in Themis in positive Takashima A, ThymUS selection. Patrick MS, Suzuki H 新田 剛、岡田 季之、加地健太 郎、小田浩代、 第22回KTCC Themis分子内ドメインの機能解析 高島明子、 Michael S. Patrick、鈴木春 Miami USA. 2012年11月 京都 2012年7月 その他発表(雑誌、テレビ、ラジオ等) タイトル 発表者 発表先 場所 年月日 該当なし 特許取得状況について ※出願申請中のものは( )記載のこと。 発明名称 登録番号 該当なし ※該当がない項目の欄には「該当なし」と記載のこと。 ※主任研究者が班全員分の内容を記載のこ 特許権者(申請者) 登録日(申請日) (共願は全記載) 出願国
© Copyright 2024