CO NTE NTS 糖尿病の合併症 最近の話題 糖尿病に合併した脂質異常症 『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』から 昭和大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授 平野 勉 氏………… 1 DIABETES NEWS ………………………………………………………………………… 3 学会レポート 第45回 日本動脈硬化学会総会・学術集会… ……………………………………… 第28回日本糖尿病合併症学会 第61回日本心臓病学会学術集会 2014 4 ol V 文献 Pick Up フェノフィブラートは糖尿病網膜症ほか細小血管症の有用な補助療法 .6 N o. 1 ─ 基礎と臨床のアップデート─… ……………………………………………………… 6 ◆ 糖尿病の合併症 最近の話題 糖尿病に合併した 脂質異常症 『科学的根拠に基づく 糖尿病診療ガイドライン2013』 から 平野 勉氏 昭和大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分 泌内科学部門主任教授 1980年 昭和大学医学部卒業。 1995年 昭和 大学医学部講師、 1999年 同助教授。2006年 から現職。同大附属東病院糖尿病・代謝・内分 泌内科診療科長。 日本糖尿病学会、 日本動脈 硬化学会、 日本肥満学会の評議員等を務める。 是正によって心血管イベントを減らすことができる ことをグレード A(行うよう強く勧める)としてい る。また薬物療法について、高 LDL C 血症にスタ チン系薬、高 TG 血症にフィブラート系薬をそれぞ れ第一選択とすることをグレードAで推奨している。 ただ、ガイドラインの改訂を遡ると、前者は初版か らグレードAであったのに対し、後者は当初グレー ド B であり後にグレード A に格上げされたことが わかる。糖尿病合併高 TG 血症に対するフィブラー ト系薬のエビデンス蓄積を反映したものと言えよう。 このように、糖尿病に伴う高 TG 血症は近年、新 知見の報告が相次いでいる分野である。 インスリン作用不全に伴う 脂質異常症の三つの特徴 日本糖尿病学会編集の『科学的根拠に基づく糖尿 糖尿病はインスリン作用不全によって種々の代謝 病診療ガイドライン』は 2004 年に初版が発行され 異常を来す疾患であり、糖代謝異常の結果として高 て以来 3 年ごとに改訂を重ね、直近では 2013 年に 血糖を生じるほかに、脂質代謝異常の結果として、 改訂された。内容構成は、各項目ごとにまず診療指 ① TG rich リポ蛋白の増加、 ② small dense LDL の 針となるステートメントと推奨グレートを挙げ、続 増加、③ HDL C の低下という、血清脂質の量的・ いてその背景と根拠の解説、最後に根拠とした臨床 質的異常を来すことが多い。 研究のアブストラクトテーブルを付すという様式を ❶TG richリポ蛋白の増加 初版以来、踏襲している。 血清トリグリセライド(TG)は、 小腸由来(外因 脂質異常症に関するステートメントとしては、糖 性)のカイロミクロンやそのレムナント、および肝 尿病は心血管疾患の独立したリスク因子であり脂質 臓由来(内因性)の VLDL やその代謝産物である 異常症の合併によりリスクはさらに高まるが、その IDL(VLDL レムナント)などのリポ蛋白の主成分 1 ハザード比(1SDあたり) p値 logTG 1.54(1.22-1.94) p<0.01 LDL-C 1.49(1.25-1.77) p<0.01 HbA1c 1.20(1.00-1.45) p=0.05 収縮期血圧 1.19(0.97-1.45) p=0.09 *性、 年齢、 糖尿病罹病期間、BMI、喫煙、飲酒、HbA1c、LDL–C、HDL–C、 TGで調整 〔J Clin Endocrinol Metab 96; 3448-3456, 2011〕 である。糖尿病では、TG の原料である遊離脂肪酸 の供給過剰に加え、TG を加水分解するリポ蛋白リ パーゼ(LPL)活性がインスリン作用不全により低 下していること、レムナントの受容体結合を阻害す るアポ C Ⅰ・Ⅲが増加していることなどにより、こ 量・サイズとも 正常 正常 危険 サイズが小さく 量も多い サイズは小さいが 量は少ない 極めて 危険 やや 危険 150mg/dL 小型 TG(LDLサイズと逆相関) 図1 TGとnon HDL–CからみるLDL粒子数とサイズ の関係 れら TG rich リポ蛋白のいずれもが高濃度で存在す 床では TG と nonHDL C での代用が現実的である。 る。一般臨床ではこの状態が高 TG 血症として捉え 我々の検討から、TG150mg/dL 以上かつ nonHDL られる。 C170mg/dL 以上の場合は sdLDL 高値であると推 高 TG 血症は高 LDL C 血症とは独立した動脈硬 測でき、積極的な管理が必要とされる(図 1) 。 化危険因子であり、日本人糖尿病患者では高 LDL ❸HDL–Cの低下 C 血症と同等もしくはそれ以上の冠動脈疾患リスク VLDL と HDL との間ではコレステロールエステ 因子である可能性が示唆されている(表 1) 。また最 ル転送蛋白の働きを介して TG の交換が行われてい 近、過剰な TG が脂肪組織以外の肝臓、心臓、腎臓 ることや、HDL の生成に必要な LPL の活性がイン 等に異所性沈着し、それが臓器障害を誘発すること スリン作用不全のために低下することなどから、TG も注目されている。 と HDL C はしばしば逆相関する。よって高 TG 血 ❷small dense LDLの増加 LDL の中でも粒子サイズが特に小さな亜分画は 症では低 HDL C 血症を伴いやすい。 サイズが小さいが故に通常サイズの LDL より容易 インスリン作用不全に伴う 脂質異常症の薬物療法 に血管壁へ侵入でき、かつ、LDL 受容体との親和性 インスリン作用不全に伴う脂質異常症の治療には、 が低いため血中に長時間滞留することから、動脈硬 インスリン作用不全の改善、即ち糖尿病の治療その 化惹起性が極めて強い “ 超悪玉 ” のリポ蛋白だ。例 ものが有効である。しかし高血糖に介入した後にも えばケベック心血管研究では、LDL C と sdLDL 改善が不十分であったり、インスリン作用不全とは C とでそれぞれ高値群と低値群に分け虚血性心疾患 関係なく脂質異常症を併発することも少なくない。 非発症生存率を比較しているが、結果は LDL C の そのような場合には脂質低下薬による治療が求めら 高低では生存率に有意差がなく、sdLDL C の高値 れる。ここでは臨床でよく用いられるスタチンとフ 群で生存率が有意に低下していた。 ィブラートについて解説する。 small dense LDL(sdLDL)と呼ばれる。sdLDL は LDL の粒子サイズを規定する最も強力な因子は 2 170mg/dL リスク因子* 多い 量が多い nonHDL‒C(LDL粒子数と正相関) 表1 日本人2型糖尿病患者の冠動脈疾患リスク因子 (JDCSサブ解析) スタチン系薬 TG 濃度であり、LDL 小型化の 50%を TG 値で説明 脂質異常症の治療でエビデンスが最も豊富なのは できる。そして糖尿病では LDL C が高くなくても スタチンによる LDL C 低下療法である。高 LDL sdLDL が高頻度に出現している。ただし sdLDL の C 血症は必ずしも糖尿病に特徴的な脂質異常症では 定量は従来やや特殊な検査を要し、臨床ではあまり ないが、併発していればスタチンを用いるべきであ 行われていない。筆者らが開発したオートアナライ る。スタチンは “ 超悪玉 ” の sdLDL の粒子サイズを ザー対応の測定法も、 測定時間が 10 分で簡便ではあ 大きくする作用はないものの、LDL 全体の粒子数を るが保険適用となっていない。このことから一般臨 減らす作用を介した sdLDL 減少効果が期待できる。 JDCS : japan diabetes complications study ◆ 糖尿病の合併症 最近の話題 なお、 『糖尿病診療ガイドライン』ではスタチンに る脂質異常症に極めて良い適応と言える。同ガイド よる新規糖尿病発症作用について言及している。メ ラインはそのエビデンスとして、FIELD(図 2)や タアナリシスの結果がオッズ比 1.09 であったことを ACCORD(図 3)といった大規模臨床研究を採用し 紹介し、心血管病が多発する欧米と我が国の疾病構 ている。 造の違いを述べた上で、 「糖尿病の悪化をもたらす可 FIELD や ACCORD はフェノフィブラートによ 能性も否定できず、臨床的に観察を行うことが必要 る動脈硬化性疾患の抑制を主要エンドポイントとす である」としている。 る臨床研究だが、 そのサブ解析から同薬の網膜症、 腎 フィブラート系薬 症、 神経障害の有意な抑制・改善効果が示された。こ 前述したインスリン作用不全による脂質異常症の うした脂質管理による細小血管症抑制の可能性につ 特徴である、TG rich リポ蛋白、sdLDL、HDL C いても、ガイドラインの 2013 年の改訂で、 「このよ という三つのターゲットすべての改善に適した薬剤 うな問題についてはさらなる検討が必要である」と はフィブラートである。冒頭に記したように『糖尿 慎重な表現ながら触れられるようになった。 昨年、 オ 病診療ガイドライン』でもフィブラートが高 TG 血 ーストラリアでフェノフィブラートが糖尿病網膜症 症の第一選択であることをグレード A で推奨して の進展抑制の適応を取得したこともあり、糖尿病の いる。高 TG 血症の改善は、LDL 粒子サイズを大き 治療目的である「合併症の抑制」という観点からも、 くすることによる sdLDL の減少や HDL C の上昇 TG 代謝異常の研究とその改善薬のポテンシャルの につながる。つまりフィブラートは糖尿病に合併す 今後に期待したい。 12 20 10 累積リスク ︵%︶ log-rank解析 ハザード比 0.81 (95%CI 0.70∼0.94) p=0.004 6 冠動脈イベント ハザード比 0.75 (95%CI 0.59∼0.94) p=0.014 4 2 0 0 1 2 p<0.05 17.3% (79例) 15 全心血管イベント 8 心血管イベント発生率︵%︶ プラセボ群(3837例) フェノフィブラート群(3827例) 3 4 5 6 無作為化割付後の期間(年) 図2 FIELDにおける一次予防患者の大血管イベントの 抑制 〔Lancet 366; 1849-1861,2005〕 Cox 回帰分析 NNT=20 12.4% (60例) 10 5 0 シンバスタチン + プラセボ (456例) シンバスタチン + フェノフィブラート (485例) 図3 ACCORD Lipidにおける心血管イベントの抑制 (高TG・低HDL-C群のサブ解析) 〔N Engl J Med 362; 15631574, 2010〕 D IA B E T E S NE WS フェノフィブラートが海外で糖尿病 DPP-4阻害薬等の添付文書改訂 糖尿病性腎症の病期分類を改訂 網膜症の進行抑制の適応取得 低血糖による自動車運転に注意 eGFR30未満はすべて腎不全期 国内では脂質改善薬として用い 厚労省は、DPP–4 阻害薬等の 日本糖尿病学会と日本腎臓学会 られているフェノフィブラートが 添付文書の改訂を指示した。低血 の合同委員会は糖尿病性腎症の病 オーストラリアにおいて「糖尿病 eGFR が 30ml/ 糖を起こす可能性があることから、 期分類を改訂した。 自動車の運転等に従事 網膜症の進行抑制」の適応を追加 「高所作業、 分 /1.73m2 以上では尿アルブミン 承認された。FIELD や ACCORD している患者に投与するときには レベルで 1 ~ 3 期に分類。eGFR で、レーザー光凝固の必要性を減 注意すること」を「重要な基本的 30 未満の場合は尿アルブミンの らすことなどの有用性が示された 注意」 の項に追記する。GLP–1 受 多寡にかかわらず 4 期 (腎不全期) ことが評価された。同様の適応を 容体作動薬やα–グルコシダーゼ とする。3 期は従来、前・後期に もつ薬剤はほかになく、眼科臨床 阻害薬、チアゾリジン薬も対象に 二分されていたが、エビデンスが からの期待が強い。 なっている。 十分でないことから統一された。 FIELD : fenofibrate intervention & event lowering in diabetes ACCORD : action to control cardiovascular risk in diabetes 3 第45回日本動脈硬化学会総会・学術集会 【2013年7月18日~19日・東京】 会長 : 日本医科大学内分泌糖尿病代謝内科学分野教授 及川眞一氏 同研究の成果を紹介。これらの成 績について長岡氏は「あくまで摘 出血管での検討であり、やはり患 者さん対象の臨床試験を目指した 一般演題 職域男性における境界域高 LDL-C血症から高LDL-C血症 への進展リスクおよびその 進展に関連する臨床背景の検討 未 満、100 〜 119mg/dL、120 〜 い。それには内科の先生の協力が 139mg/dL の3群に分類。観察期 不可欠」と連携強化による新しい 間 (中央値 4.0 年) における高 LDL 治療法開拓への期待を語った。 『動脈硬化性疾患予防ガイドラ に 4.1%、21.6%、56.5%で、境界 イン2012年版』は、LDLC120 〜 域群は他群に比して有意に高かっ 139mg/dL を「境界域高 LDL C た(p < 0.001) 。また、 LDL C100 C 血症への進展率は、前記の順 血症」として新たに定義している。 mg/dL 未満を基準とし、年齢や ワークショップ/脂質1 2型糖尿病患者に合併する 頸動脈プラークと トリグリセライドおよび PⅢPとの関連について 自衛隊中央病院代謝内分泌科の ふじ た なお や 藤田直也氏らは、糖尿病患者への 日本医科大学衛生学公衆衛生学講 BMI、脂質、血圧、血糖、生活習 座准教授の大塚俊昭氏らは、この 慣等の臨床背景で補正後のハザー 境界域高 LDL C 血症の該当者は ド比は、100 〜 119mg/dL で 5.56、 の検査結果から、糖尿病に合併す 高 LDL C 血症への進展リスクが 120 〜 129mg/dL で 17.5 だった。 る動脈硬化には肝線維化を背景と 有意に高いこと、特に Met S や 高 LDL C 血症への進展に関連 する TG 代謝異常の関与が大きい 高 TG、血圧高値がリスク上昇に する因子の検討では、Met S が ことを報告した。検討対象は 2 型 おおつかとしあき 、 関連していることを明らかにした。 有意に関連しており(HR 1.21) 頸動脈エコーと肝線維化マーカー 糖尿病教育入院患者 38 名 (53.8 ± 2008 年度に定期健診を受診し Met S 構成因子別の解析では、 高 13.3 歳、男性 32 名、BMI 27.4 ± た男性から、高 LDL C 血症、心 TG(同 1.27)と血圧高値(同 1.14) 4.7、HbA1c 8.7 ± 2.1%)で、頸 血管疾患、悪性腫瘍の患者とデー が有意な因子として残った。運動 動脈プラークを有する 12 名と有 タ欠損例を除いた 12,485 名(平均 習慣や過剰飲酒、喫煙、睡眠時間 さない 26 名とに群分け。入退院時 38 ± 9 歳)を LDL C100mg/dL などの生活習慣は関連がなかった。 の各種検査指標との関連を検討す ると、入院時検査では年齢、BMI、 血清クレアチニン、尿中アルブミ 第28回日本糖尿病合併症学会 【2013年9月13日~14日・旭川】 会長 : 旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野教授 羽田勝計氏 シンポジウム/糖尿病網膜症:腎 症・神経障害・全身因子との関わり 糖尿病網膜症と 腎症・全身因子との関わり ながおか 退院時検査では TG 高値も有意な 因子となった。多変量解析の結果、 循環に影響を及ぼしているとし、 プラークの存在と有意に関連する 両者共通の病態である微小循環障 因子として、年齢のほかは退院時 害の改善法の検討へ話題を進めた。 TG のみが残った。 旭川医科大学眼科准教授の長岡 網膜循環改善薬の探索法として、 続いて、この退院時 TG と相関 泰司氏はまず、レーザードプラに 投与経路や全身的副作用を考慮す する因子を検討したところ、肝線 よる眼底血流量の計測法を紹介。 ると既存内服薬の網膜循環への効 維化マーカーの PⅢP および尿中 眼底血流量が頸動脈 IMT 肥厚と 果を評価することが現実的である アルブミンとの間に有意に関連が 逆相関するというデータを示し、 とし、その一例として国内で同大 認められた。なお、PⅢP は頸動脈 全身の動脈硬化を定量的に把握す 学のみで行っているブタ網膜摘出 IMT とも有意に相関することが るツールとしての可能性を述べ、 血管を用いた研究結果を取り上げ 多変量解析において確認された。 また糖尿病患者では網膜症のない た。FIELD や ACCORD Eye で 以上より藤田氏は「糖尿病では血 段階で既に眼底血流量が約 2 割低 糖尿病網膜症の進展抑制効果が示 糖コントロールを実施しても潜在 下している事実を挙げた。そして されたフェノフィブラートが、用 的に存在する TG 代謝異常が動脈 眼底血流量の低下は血清クレアチ 量依存的に最大 50%網膜血管を 硬化進行に関与していると考えら ニン値や CKD ステージとも相関 拡張すること、アディポネクチン れ、その TG 代謝異常の背景には、 することから、腎機能低下が網膜 にも同様の作用があることなど、 NAFLD・NASH 等によるレムナ たい じ 4 ンがプラークあり群で有意に高く、 Met-S:metabolic syndrome ACCORD:action to control cardiovascular risk in diabetes FIELD:fenofibrate intervention & event lowering in diabetes PⅢP:procollagen Ⅲ peptide ント取込み障害があるのではない 数を占めた。ただし専門医では 120 検討では有意な差が消失した。多 か」と考察した。 mg/dLとの回答も 4 割強を占めた。 変量解析によるイベント発生に関 高 LDL C 血症に対する第一選択 連する因子の検討では、年齢、男 糖尿病患者における脂質異常症の 管理方針に関するアンケート調査 薬、 効果不十分例への追加薬は、 専 性、蛋白尿が残り、血圧管理レベ 門医・非専門医ともそれぞれスタ ルは有意な因子ではなかった。 東京医科大学八王子医療センタ チン、エゼチミブが大多数を占めた。 ー糖尿病・内分泌・代謝内科科長 糖尿病に多い TG のみ高値の場 の大野 敦 氏らは、西東京地域の 合の第一選択薬は、両群ともにフ 糖尿病患者のハプトグロビン 遺伝型と冠動脈疾患の関連 医療連携 「糖尿病治療多摩懇話会」 ィブラートがトップであった。た 富山労災病院循環器科副部長の で行った糖尿病併発脂質異常症の だし専門医は 85.7%、非専門医は 佐藤貴雄氏らは、ハプトグロビン 治療に関するアンケート結果を報 62.8%で、専門医のフィブラート 遺伝型と冠動脈疾患の病態の関連 告。回答者のプロフィールは、糖 選択率がより高く、有意差があっ に着目。PCI 施行患者から心原性 尿病専門医 43 名、非専門医 77 名 た。なお、フィブラートのみでは ショック、CABG、腎機能障害等 で、専門医は病院勤務医、非専門 効果不十分な場合の追加薬は両群 を除外した連続 91 名(平均 67 ± 医は診療所医師が多く有意差があ ともに EPA が多かった。LDL C 11 歳、男性 74 名)を、糖尿病群 った。また非専門医のほうが年齢 と TG がともに高くスタチンの効 (59 名)と非糖尿病群(32 名)に 層の高い傾向がみられた。 果が不十分な場合の追加薬は、専 分 け 検 討 を 加 え た。HbA1c や 糖尿病併発高 LDL C 血症の一 門医はフィブラート、非専門医で HOMA IR を除き、年齢、血清 次予防における薬物療法開始の目 はエゼチミブがそれぞれ 4 割強で 脂質値、PCI 対象血管径、ステン 安は、専門医・非専門医ともに 140 最も多かったものの、有意な群間 ト長などに両群間の有意差はなく、 mg/dLとする回答が最も多く、約半 差はなかった。 ハプトグロビン濃度も同レベルだ ワークショップ/脂質2 おお の あつし 一般演題(口演) さ とうたか お ったが、対象をハプトグロビン遺 第61回日本心臓病学会学術集会 【2013年9月20日~22日・熊本】 会長 : 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学教授 小川久雄氏 一般演題(口演) 糖尿病患者でのイベント発症率 の有意な増加の基準は 140/90mmHg or 130/80mmHg? mmHg を基準として血圧不良群 伝型 Hp2-2 に限ると、その濃度は 糖尿病群で有意に高値だった。ま た糖尿病群では 70%が Hp2-2 で、 非糖尿病群の 43%より有意に高 かった。 (704 名)と良好群(1,832 名)の 糖 尿 病 群 を Hp2-2 と そ の 他 2 群に分けてみると、動脈硬化性 (Hp1-1 + Hp2-1)に二分し、冠動 イベントの発生頻度は血圧不良群 脈疾患に占める ACS の割合を比 熊本大学保健センター准教授の のほうが有意に高く(HR 1.91,p 較すると、Hp2-2 では約 4 割、そ 副島弘文氏らは、2 型糖尿病患者 = 0.001) 、アスピリン投与の有無 の他の型では約 1 割と、Hp2-2 で に対するアスピリンによるイベン 別に検討しても同様であった。多 は ACS の頻度が有意に高かった。 ト抑制効果を検討した大規模臨床 変量解析により、年齢、男性、蛋 プラーク内出血が生じた際、ハプ 研究「JPAD」終了後の継続コホ 白尿に加え、血圧管理レベルもイ トグロビンはヘモグロビンと結合 ート研究「JPAD2」のデータを解 ベント発生に独立して関係する因 しマクロファージに除去されるが、 析し、糖尿病患者の降圧目標とし 子として抽出された。 Hp2-2 はヘモグロビンとの結合能 て 140/90mmHg と 130/80mmHg 次に 130/80mmHg を基準に同 が低いことが報告されており、糖 のいずれがイベント発生とより強 様の検討を実施。全例解析では血 尿病におけるプラーク不安定化に く相関するかを検討した。対象は 圧不良群(1,721 名)のイベント頻 関与している可能性が考えられる。 JPAD 開始の 2002 年から 2011 年 度が良好群(815 名)より有意に 佐藤氏は「これまで Hp2-2 への介 まで追跡した 2,536 名で、追跡期 高 か っ た も の の(HR 1.35,p= 入はあまり行われていなかったの 間中央値は 7.08 年。 0.0318) 、140/90mmHg を基準と ではないか。今後、イベント抑制 追跡期間中に測定した平均約5回 した場合よりもハザード比は低く にどう生かしていくか検討してい の血圧平均値をもとに、140/90 なり、アスピリン投与の有無別の きたい」とまとめた。 そえじまひろふみ JPAD:japanese primary prevention of atherosclerosis with aspirin for diabetes 5 文献 Pick フェノフィブラートは糖尿病網膜症ほか 細小血管症の有用な補助療法 ─ 基礎と臨床のアップデート ─ An Update on the Molecular Actions of Fenofibrate and Its Clinical Effects on Diabetic Retinopathy and Other Microvascular End Points in Patients With Diabetes Jonathan E. Noonan, Ecosse L. Lamoureux, et al. DIABETES, 62; 3968-3975, 2013 FIELDとACCORD という大規 と推測している。その具体的な機 療の必要性が減少したことを紹介。 模臨床試験の報告以降、糖尿病細 序として、細胞実験で示されてい また網膜症以外についても、アル 小血管症の新規治療法としてフェ る NF κB や IL 6、COX 2 の ブミン尿の抑制・改善、下肢切断 ノフィブラートへの期待が高まっ 抑 制 等 を 介 し た 抗 炎 症 作 用、 抑制などの効果が示されたことに ている。近年では同薬の脂質改善 VEGF シグナルの抑制等を介し も着目している。 以外の新たな作用が次々に明らか た抗血管新生作用、 AMPK の活性 一方、FIELD Eye と ACCORD となってきた。また昨年、オース 化等を介した抗アポトーシス作用、 Eye は両試験ともにサブスタディ トラリアで同薬が糖尿病網膜症の PPAR α活性化を介した間接的な の結果であること、また視力に対 進展抑制に適応となるなど、研究 抗酸化作用などを挙げている。 しては明確な効果が示されなかっ 成果がいよいよ実臨床に生かされ る段階に入ってきた。本論文はフ ェノフィブラートの基礎と臨床を アップデートする時宜を得た総説。 たことなどを限界として挙げてい 臨床における フェノフィブラートの 有効性と安全性 る。 なお、フェノフィブラートの安 全性については、両試験において 続いてフィブラート系薬の糖尿 スタチン併用による横紋筋融解症 病網膜症に対する臨床的有効性に リスクは認められないこと、投与 ついて、クロフィブラートやフェ 開始後に血清クレアチニン値が上 ノフィブラートによる硬性白斑の 昇するものの、長期的には腎合併 もともとフィブラート系薬は 改善効果について触れたほか、主 症のリスクとならないことから TG 値を大きく低下させるととも に FIELD と ACCORD という 2 に、HDL C 値を上昇させる作用 件の大規模臨床試験で認められた これらの考察より著者らは、糖 が知られている。しかし本論文の フェノフィブラートの効果を大き 尿病網膜症の治療においてフェノ 著者らはフィブラート系薬による く取り上げている。フェノフィブ フィブラートは、リスク因子の管 細小血管症抑制効果は、脂質改善 ラートが用いられた両試験で、網 理と定期的な眼科的観察に加える、 以外の新たに見出だされた作用が 膜症の進行抑制と、レーザー治療 有用な補助療法となり得ると結論 関連し奏功しているのではないか や硝子体手術という侵襲を伴う治 している。 フェノフィブラートの 細小血管症抑制効果は、 脂質低下を介さない作用 「忍容性は高い」と述べている。 フィブラートの糖尿病網膜症関連トライアル(フェノフィブラートについての抜粋。一部改変) 報告名 対 象 Havel et al. 1型糖尿病4名、 2型糖尿病47名 FIELD 介入法 結 果 補 足 1~ 1.5年 硬性白斑の有意な改善 2型糖尿病9,795名 フェノフィブラート 200mg/日 vs プラセボ 5年 初回レーザー治療31%減少 ベースライン時に眼底検査 黄斑症へのレーザー治療36%減少 を必須とせず 増殖網膜症へのレーザー治療38%減少 プラセボ群でもスタチン 複合アウトカム(2ステップの進行、黄斑症、 併用可 レーザー治療)34%減少 FIELD Eye 2型糖尿病1,012名 フェノフィブラート substudy 200mg/日 vs プラセボ 5年 初回レーザー治療79%減少 ベースライン時に網膜症を有する患者の 2ステップの進行を79%減少 視力の改善はなし プラセボ群でもスタチン 併用可 2型糖尿病1,593名 フェノフィブラート160mg/日 +シンバスタチン vs シンバスタチン単独 4年 一次アウトカム(ETDRS 3段階の進行、 増殖網膜症の光凝固または硝子体手術) 36%減少 視力の改善はなし ベースライン時に網膜症の ない患者では有用性なし ACCORD Eye SEASONAL POST 6 追跡期間 フェノフィブラート 300mg/日 非盲検、対照群なし 視力の改善はなし シーズナルポスト Vol.6 No.1 2014年3月10日発行 監修・企画協力:糖尿病治療研究会 提供:科研製薬株式会社 企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク編集部 (創新社) 2014年3月作成 LIP64-14C-12-SO1
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